交通事故で脳挫傷を負ったら?症状や後遺障害等級、慰謝料の相場

交通事故により頭部を受傷すると、その衝撃(外力)により脳挫傷(のうざしょう)が生じる恐れがあります。
交通事故で脳挫傷を負うと、後遺症が残ったり、最悪の場合は死亡することもあります。
この記事では、脳挫傷とは何か、どのような後遺症が残るのか、認定されうる後遺障害等級と請求できる慰謝料など今後の対応を含めて網羅的に解説します。
交通事故で脳挫傷を負った場合に知っておくべきことが一通りわかるので、ぜひ確認してみてください。
目次

交通事故による脳挫傷の症状と検査の重要性
脳挫傷とは、頭部を強く打撲し、脳を損傷した状態のことです。
脳挫傷では衝撃により脳出血や脳のむくみ・腫れ(脳浮腫・脳腫脹)を併発することが多いです。
脳出血は、以下の図にあるとおり、出血部位によって「くも膜下出血」「硬膜下出血」「硬膜外出血」と呼ばれます。

脳挫傷は、頭部外傷のうち部分的な(局所性の)脳損傷(頭蓋内損傷)の一つで、同じ脳損傷でも全般的な(びまん性の)脳損傷(代表的なものとしては脳の神経細胞の繊維である軸索が広範囲で断裂するびまん性軸索損傷)とは区別されます。
なお、脳挫傷は、受傷部位の直下だけではなく、受傷部位とは反対側に生じることもあります。
意識消失など症状が似ている部分のある脳震盪とは、脳自体(脳組織そのもの)を損傷したかどうかによって区別されます。
ここでは、交通事故で脳挫傷が生じるケースと、脳挫傷の症状と注意点を説明します。
交通事故で脳挫傷が起こるケース
交通事故では、以下のようなケースで脳挫傷が生じることがあります。
- 歩行中に自動車にはねられ、地面に頭部をぶつけた
- 自転車走行中に、自動車に後ろから衝突された
- 自動車で走行中に急停車し、ハンドルに頭部をぶつけた
- バイクで走行中に自動車に衝突され、衝撃で頭部が強く揺さぶられた など
とくに、バイクや自転車は身体がむき出しの状態であるため、バイク事故や車と自転車の事故でバイクや自転車から転倒・転落した際に脳挫傷・脳損傷が生じることが多いです。
脳挫傷の症状|脳内出血で意識障害も
脳挫傷により脳出血が起こると、出血の場所や出血量などにより、頭痛、吐き気、意識障害、運動麻痺(四肢麻痺や片麻痺)などの身体性機能障害や言語障害といった症状が出る可能性があります。
脳挫傷の主な症状
- 頭痛・めまい
- 吐き気・嘔吐
- 意識障害
- 身体性機能障害(麻痺)
- 半身(片側の上肢・下肢)の感覚障害
- 言語障害
- けいれん発作
- 視力障害・複視
- 脳ヘルニアによる呼吸障害や心臓機能障害など
※脳ヘルニア:血腫などの影響で脳の圧力が高くなり、頭蓋から脳組織がはみ出してしまうこと。 脳ヘルニアによって脳幹が圧迫されると、最悪の場合は死亡することもある
脳挫傷で意識障害を生じた(意識不明となった)場合の生存率は、事故直後(急性期)の対応(緊急開頭血腫除去術など)、挫傷の範囲や血腫の有無、大きさなどにより変わります。
一命は取りとめたものの、植物状態(遷延性意識障害)となってしまうケースもあります。
また、脳内出血が数時間から数日かけて拡大し、不調があらわれることもあります。頭部に目立った外傷がない場合でも必ず病院で診察を受けてください。
脳挫傷の恐れがある場合は速やかに精密検査を
脳挫傷は交通事故直後でなく、頭部外傷後しばらく経ってから自覚症状があらわれるケースもあります。
そのため、交通事故により脳挫傷の恐れがある場合は、速やかに脳神経外科を受診して、頭部のCTやMRI撮影などの精密検査を実施してもらい、脳挫傷が生じていないか検査結果を確認しましょう。
基本的に、検査の迅速性からまずはCT検査により事故直後の出血量などを確認し、より細かい異常を確認するためにMRI検査を行うこととなるでしょう。
特に、受傷直後にMRI検査をしておけば、数か月後(慢性期)に経過観察として行ったMRI検査と併せ、脳萎縮や脳室拡大をしていないか(悪化していないか)という比較画像所見を得ることができます。
損害賠償請求のためにも早期の対応が必要
交通事故から期間がたってから検査を受けて脳挫傷と判断された場合には、交通事故と脳挫傷の発生について因果関係が疑われ、損害賠償請求時に問題となるおそれがあります。
このような事態を防ぐためにも、交通事故後は速やかに以下のような対応を行べきでしょう。
- CT検査、MRI検査を受ける
- 意識障害が生じていた場合、カルテなどに残してもらう
- 家族は被害者の言動をよく観察し、事故前と違うところがあれば記録しておく
脳挫傷の後遺症と後遺障害等級の認定基準
交通事故で脳挫傷を負うと、以下のような後遺症が残ることがあります。
- 高次脳機能障害
- 外傷性てんかん
- 遷延性意識障害(植物状態)
- そのほか手足の麻痺、開瞼障害、聴覚障害、嗅覚障害、味覚障害、醜状障害など
このような後遺症が残った場合は、後遺障害等級の認定を受けることで後遺症に関する損害賠償金を請求することが可能となるのです。
後遺症ごとに認定されうる具体的な後遺障害等級と、後遺障害等級認定の申請を行う時期について解説します。
(1)高次脳機能障害
高次脳機能障害とは、脳挫傷などで脳が損傷したことで、認知障害・行動障害・人格変化などさまざまな症状が現れ、日常動作や生活、対人関係に支障をきたす障害のことです。
交通事故による脳挫傷の損傷部位は、前頭葉や側頭葉の底部が多いと指摘されています。
前頭葉や側頭部の底部がデコボコで不揃いな頭がい骨の内部(頭蓋底)に接しているため、頭部に衝撃を受けると、前頭葉や側頭部が頭蓋底にぶつかり、損傷しやすいのです。
前頭葉は「人格・社会性・言語」を、側頭葉は「記憶・聴覚・言語」を主に司っているため、前頭葉や側頭葉を損傷すると、高次脳機能障害を発症する可能性があります。
以下のような症状が現れた場合、高次脳機能障害と診断される可能性が高いでしょう。
| 障害の種類 | 具体的な症状 |
|---|---|
| 失語症 | なめらかにしゃべれない(言葉が出てこない) 相手の話を理解できない 字の読み書きができない |
| 注意障害 | 集中力が続かず作業のミスが多い 周囲の音や他人の動きに気を取られて動作を継続できない |
| 記憶障害 | 物の置き場所を忘れる 何度も同じ物事を話したり、質問したりする |
| 社会的行動障害 | 気持ちが動揺したり沈みがち 突然興奮したり、怒りだしたりする 感情がコントロールできない |
| 半側空間無視 | 片側を見落としやすい 片側にあるものにぶつかりやすい |
| 遂行機能障害 | 行きあたりばったりの行動をする(計画立てて物事を進められない) 優先順位をつけられない 一つひとつ指示されないと自分からは行動できない |
| 失行症 | 道具が使えない 動作がぎこちなく、うまくできない |
| 半側身体失認 | 麻痺した手足がないようにふるまう 麻痺がないようにふるまう 麻痺がなくても片側の身体を使わない |
| 地誌的障害 | 自宅でトイレに迷う 近所で道に迷う |
| 失認症 | 物の形(色)がわからない 人の顔がわからない、見わけられない |
(「高次脳機能障害について」公益社団法人東京都医師会 366頁 を参考に作成)
高次脳機能障害の症状は、家族でも外見上はわかりづらいほど軽度なときがあります。
脳挫傷を負ったあと、会話がうまく成立しない、物忘れが多くなった、事故以前には出来ていたことが出来なくなったなど、交通事故の前後で何か異変を感じた場合は、すぐに医師に相談してください。
高次脳機能障害の後遺障害等級
高次脳機能障害で認定されうる後遺障害等級と認定基準は、以下のとおりです。
| 等級 | 認定基準 |
|---|---|
| 1級1号※ | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの (例:食事・排泄・入浴など、自宅内での生活動作が介護なしでは難しい状態) |
| 2級1号※ | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
| 3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
| 5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの (例:就労の際に職場の人の理解や援助が欠かせない状態) |
| 7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの (例:約束忘れやミスが極端に多く健常者と同じ労働をするのは難しい状態) |
| 9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの (例:効率的に働けずに持続力も悪くなり通常労働に問題が生じる状態) |
| 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
※要介護
高次脳機能障害は、さまざまな症状があるうえに、症状の客観的評価が困難であることから、適切な後遺障害認定を受けられないことも多いです。
適切な後遺障害等級の認定を受けるには、主治医の「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」という書類を記載してもらうなど重要なポイントがいくつかあります。
高次脳機能障害の認定要件や審査の詳しい対策は『高次脳機能障害で後遺障害等級認定される後遺症とは?記憶障害や性格の変化は?』で解説しているので、あわせてご確認ください。
(2)外傷性てんかん
外傷性てんかんとは、脳挫傷などで脳の中枢神経が損傷したことにより引き起こされるてんかんのことです。診断にあたっては、脳波測定でてんかん特有の脳波が生じていないか確認することになるでしょう。
外傷性てんかんが生じた場合、脳細胞のネットワークで異常な神経活動が起こり、以下のような症状が現れることがあります。
外傷性てんかんの主な症状
- けいれん発作
- 突然の意識喪失
- 記憶が飛ぶ
外傷性てんかんの後遺障害等級
外傷性てんかんで認定されうる後遺障害等級と認定基準は、以下のとおりです。
| 等級 | 症状 |
|---|---|
| 5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの (1か月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が転倒する発作等※であるもの) |
| 7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの (転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1か月に1回以上あるもの) |
| 9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの (数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの) |
| 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの (発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの) |
※転倒する発作等とは、「意識障害の有無を問わず転倒する発作」又は「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作」のことを言う。
なお、高次脳機能障害に加えて、てんかん発作を伴っている場合は、要介護1級、要介護2級、3級に認められることもあります。
外傷性てんかんについては、何級に認められるが争点になることはあまりなく、てんかんが事故のため発症したものか否かが争点になることが多いです。
とくに、事故から時間が経って発症した場合は、入念に認定審査の準備をした方がよいでしょう。
(3)遷延性意識障害(植物状態)
遷延性意識障害(植物状態)とは、呼吸・循環などの生命維持に必要な機能は働いているものの、重度の意識障害が続く寝たきりの状態(昏睡状態)のことを指します。
日本脳神経外科学会植物状態患者研究協議会による定義では、治療を受けたにもかかわらず以下の6つの項目すべてが6ヶ月以上続いた場合、遷延性意識障害とみなされます。
遷延性意識障害の定義
- 自力移動ができない
- 自力摂食ができない
- 糞・尿失禁がある
- 声を出しても意味のある発語が全くできない
- 簡単な命令には辛うじて応じることもできるが、ほとんど意思疎通はできない
- 眼球は動いていても認識することはできない
遷延性意識障害(植物状態)の後遺障害等級
遷延性意識障害で認定されうる後遺障害等級と認定基準は、以下のとおりです。
| 等級 | 症状 |
|---|---|
| 1級1号(要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
| 2級1号(要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
被害者が遷延性意識障害になった場合、家族などが代わってさまざまな手続きを行うことになります。必要な手続きや将来への不安をやわらげるためにできることは、『交通事故で植物状態(遷延性意識障害)になった場合の後遺症と賠償金』の記事で解説しています。
(4)そのほか手足の麻痺など
脳挫傷によって、手足の麻痺、脱力症状、開瞼障害、聴覚障害、嗅覚障害、味覚障害、醜状障害などの後遺障害が残ることもあります。
具体的には、以下の記事をご参照ください。
脳挫傷の症状固定と後遺障害の申請
症状固定とは、これ以上は治療を続けても改善が見込めず、後遺症が残ったと判断されることをいいます。

脳挫傷の症状固定のタイミングは、年齢や損傷の程度にもよりますが、1年から1年半程度の治療期間が目安になります。
これは、リハビリテーションによる症状の回復が見込めることや、高次脳機能障害・てんかん発作などの症状は長期間の観察が必要となるためです。
そのため、相手方が加入する保険会社から催促されても、医師の見解を聴いた上で、症状固定の時期は慎重に判断しましょう。
そして、症状固定後は後遺障害認定の申請を行って下さい。
後遺障害認定の申請については、関連記事『後遺障害等級が認定されるには?|認定の仕組みと認定率の上げ方を解説』で具体的な手続きの方法や流れ、認定確率を上げるポイントなどを詳細に解説しています。気になる方はあわせてご覧ください。
脳挫傷で請求できる慰謝料などの損害賠償金
脳挫傷の治療や後遺障害等級の認定が終わったら、事故相手に損害賠償請求を行っていくことになります。
後遺障害等級が認定された場合の後遺障害慰謝料を中心に、どのような費目を請求可能なのか見ていきましょう。
【等級別】脳挫傷の後遺障害慰謝料の相場
交通事故で負った脳挫傷の後遺症で後遺障害等級の認定を受けた場合、後遺障害慰謝料を請求することが可能です。
後遺障害慰謝料は、交通事故で後遺障害を負った精神的苦痛に対する補償です。
後遺障害慰謝料の相場は、認定された等級ごとに異なります。弁護士基準で計算すると110万円から2,800万円です。
後遺障害慰謝料の相場
| 後遺障害等級 | 慰謝料相場額 |
|---|---|
| 1級 | 2800万円 |
| 2級 | 2370万円 |
| 3級 | 1990万円 |
| 4級 | 1670万円 |
| 5級 | 1400万円 |
| 6級 | 1180万円 |
| 7級 | 1000万円 |
| 8級 | 830万円 |
| 9級 | 690万円 |
| 10級 | 550万円 |
| 11級 | 420万円 |
| 12級 | 290万円 |
| 13級 | 180万円 |
| 14級 | 110万円 |
また、脳挫傷により被害者に重度の後遺障害が残った場合には、その家族が近親者慰謝料を請求可能なケースもあります。
後遺障害慰謝料と後遺障害等級の関係や慰謝料の増額・減額についてさらに詳しく知りたい方は、『後遺障害慰謝料の相場はいくら?いつ支払い?後遺障害等級認定と賠償金額のすべて』をあわせてご覧ください。
脳挫傷で請求できる損害賠償金の費目一覧
交通事故で脳挫傷を負った場合、後遺障害慰謝料以外にも受け取れる損害賠償金があります。
事故の相手方に請求できる損害賠償金の費目は以下の通りです。
脳挫傷の損害賠償金
- 後遺障害が無い場合も請求可能
- 治療関係費
治療費、通院交通費、入通院付添費など、被害者の治療に要した費用。 - 入通院慰謝料
入通院した精神的な苦痛に対する補償 - 休業損害
交通事故が原因で仕事ができずに減少した収入の補償 - 装具・器具購入費
被害者の治療にあたって購入したサポーターなどの装具・器具の費用 - 雑費
- 治療関係費
- 後遺障害が認定された場合に請求可能
- 後遺障害慰謝料
- 後遺障害逸失利益
交通事故が原因で労働能力が喪失・低下したことによる将来的な減収の補償 - 将来介護費
将来にわたって(被害者の平均余命まで)被害者を介護する費用
原則的に、被害者が後遺障害等級の要介護1級または要介護2級に認定された場合に請求できる。 - 家屋・自動車等改造費
被害者の介護にあたって自宅の玄関や浴室などを改造するための費用
被害者に後遺障害が残った場合に請求できる。
- 被害者が亡くなった場合に請求可能
- 死亡慰謝料
被害者が死亡した精神的な苦痛に対する本人、遺族への補償 - 葬儀関係費
通夜や葬儀、四十九日までの法要などの費用
被害者が亡くなった場合に請求できる。
- 死亡慰謝料
それぞれの費目についてより詳しくお知りになりたい方は、関連記事をご参照ください。
逸失利益は争いになりやすい
脳挫傷の後遺症として高次脳機能障害が残った場合は、外見からは分からずとも様々な生きづらさを抱えていくことになります。
たとえば、記憶力や言語能力、注意力や判断力などの認知機能に障害が残っていると、労働能力への影響は甚大となります。
一方でそういった症状が数字として表れるわけではないので、「事故前と比べて収入は減ってないから、逸失利益も存在しない」や「一人で生活出来るから、介護は必要ではない」などといって、相手方は損害賠償金を少なく見積ることがあり、問題となりやすいのです。
逸失利益の金額について問題となった場合には、専門家である弁護士に適切な金額を算定してもらうべきでしょう。
当面の生活費に困っている方へ|示談前に補償を受けとる方法
脳損傷の治療やリハビリは長期にわたり、被害者やその家族の生活を圧迫します。
相手方保険会社が治療費対応をしてくれているなら、被害者の休業損害や治療費の一部を先払いしてもらえることもあります。
また、相手方保険会社が治療費の対応をしてくれないような場合は、相手方の自賠責保険に被害者請求を行う方法もあります。
生活が苦しいという理由だけで、急いで示談を成立させたり、症状固定を決めることにはリスクも多いです。以下の記事も参照してすぐに弁護士に相談してください。
示談金の一部を先に受けとる方法

交通事故での脳挫傷に関するよくある質問
脳挫傷を負った被害者が、後遺障害認定の申請や交通事故の示談交渉をする際のよくある疑問にお答えしていきます。
Q.治療中・リハビリ中の治療費打ち切りにどう対応する?
交通事故で脳挫傷を負った場合、身体機能や脳機能の回復のためリハビリテーションが行われることも多いです。
通常は、リハビリも症状固定までは治療と同様に取り扱われるため、慰謝料・治療費・休業損害などを支払ってもらえます。
ただし、加害者側の保険会社による支払いの打ち切りに注意する必要があります。
加害者側の保険会社は、被害者の実際の状態によらず「事故から一定期間が経過した」「通院頻度が下がった」といった理由で治療終了(完治ないし症状固定)と判断し、治療費・休業損害の支払いを打ち切ってくることがあります。
治療費の支払い打ち切りへの対処方法
加害者側の保険会社から治療費の打ち切りを告げられた場合には、まず医師に治療を続けるべきか確認してください。
実際に治療やリハビリを終えるタイミングを判断するのは医師です。
まだ治療・リハビリを続ける必要があるということであれば、医師に意見書を書いてもらって保険会社と交渉するとよいでしょう。
交渉したにもかかわらず、治療費の支払いを打ち切られたら、健康保険などを利用して一時的に治療費を立て替え、示談交渉で請求しましょう。
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Q.要介護1級・2級以外で介護費用を請求できる?
原則として、将来介護費は後遺障害等級の要介護1級(常時介護)・要介護2級(随時介護)の認定を受けた場合に支払われます。
一方で1,2級に認定されなくとも、実際には家族の介護や見守り・付き添い・声掛けが必要になるケースもあります。
その場合の将来介護費の請求の可否については、以下の点を考慮して総合的に判断されることになるでしょう。
- 被害者本人の状態
- ひとりで日常生活の基本的な動作をどの程度できるか
- 周りの人が危険の防止を図る必要があるか
- 金銭の管理ができるか
- ひとりで通勤や通学ができるか
- 介護者の状態
- 介護の内容
- 介護に要する時間
- 介護の肉体的・精神的な負担 など
上記のような事情を説明し、将来介護費を認めてもらうには、医師の意見書、家族による日常生活報告書、通勤先・通学先による状況報告書などが有効になるでしょう。
ただし、要介護1級・要介護2級以外では、将来介護費はやや低額になる傾向があります。
また、加害者側の保険会社が将来介護費を認めない可能性も十分にあります。そのような場合は、交通事故に精通した弁護士に相談し、立証のために必要な資料などを検討するとよいでしょう。
介護費用については、『交通事故で介護費用が請求できる2ケース|計算方法と裁判例から金額もわかる』の記事もご確認ください。
Q.治療や後遺障害認定が長期化すると慰謝料を請求できなくなる?
脳挫傷でてんかん・高次脳機能障害を負った場合、治療や後遺障害認定に長い時間がかかることが予想されます。その場合は、損害賠償請求権の消滅時効についても考慮する必要があるでしょう。
損害賠償請求権の時効が過ぎると、慰謝料などの損害賠償金を請求できなくなります。
2020年(令和2年)4月1日以降に発生した交通事故の場合、損害賠償請求権の消滅時効は以下のとおりになります。
| 損害の種類 | 時効期間 |
|---|---|
| 物損部分 | 事故発生の翌日から3年 |
| 傷害部分 | 事故発生の翌日から5年 |
| 後遺障害部分 | 症状固定の翌日から5年 |
なお、保険会社に保険金を請求する時効は、起算日(事故発生または症状固定の翌日)から3年になります。
注意すべきなのは、物損部分・傷害部分の時効のカウントは症状固定の前からはじまっている点です。もし症状固定までに時間がかかれば、物損部分・傷害部分については時効が成立してしまう可能性があります。
また、高次脳機能障害を負った場合も、後遺障害認定に時間がかかったり、示談交渉でもめたりする可能性が比較的高いため、時効に注意する必要があるでしょう。
もし時効が迫っている場合は、早めに弁護士にご相談ください。時効のカウントを中断するといった手続きについてもご案内が可能です。
Q.脳挫傷痕は後遺障害の認定につながる?
脳のCT検査やMRI検査において脳挫傷痕の画像所見が確認できた場合には、後遺障害12級13号の認定を受けられる可能性があります。画像検査の結果と共に、後遺障害申請をおこないましょう。
このことからも、脳挫傷においては定期的な検査が重要といえます。
もっとも、脳挫傷痕は関連する症状があるケースとないケースとがあり、その点が後遺障害逸失利益の労働能力喪失率認定の際に重要な要素になります。
具体的には、後遺障害12級が認定された場合は、労働能力喪失率を14%として逸失利益を算出するのが原則ですが、脳挫傷痕は関連する症状がないケースでは、労働能力喪失率を制限(14%未満に)される可能性が高くなるので注意が必要です。
Q.被害者自身で各種手続きができないときは?
被害者が脳挫傷で遷延性意識障害や重い高次脳機能障害になった場合、被害者本人では後遺障害の認定や示談交渉といった手続きができないことが多いです。
そのようなときは、家族が成年後見人となり、被害者本人の代わりにさまざまな手続きを行うことになるでしょう。
成年後見人を立てるときは、成年後見人になる人を決め、家庭裁判所に後見等の開始の申立てを行います。制度の詳しい内容については「厚生労働省のホームページ」で確認可能です。
なお、成年後見人の申立てにかかる費用は、交通事故の加害者側に請求できます。
交通事故による脳挫傷は弁護士に相談しよう
交通事故で脳挫傷を負った場合、適正な補償を得るために弁護士に依頼することもご検討ください。
ここからは、脳挫傷で弁護士に依頼するメリットをご紹介します。
脳挫傷の後遺障害認定は弁護士に任せるべき
脳挫傷の後遺障害認定を受ける際には、弁護士に依頼することで適切な等級の認定を受けられる可能性が高まります。
脳挫傷のうち、とくに高次脳機能障害の後遺障害認定は高度な専門知識が要求されるため、入念な準備を行わないと望ましい結果を得られない可能性が高いです。
後遺障害認定に詳しいのは、法律の専門家である弁護士です。交通事故事案を多く取り扱っている弁護士なら、後遺障害認定についても熟知しているでしょう。
弁護士に依頼し、事前認定ではなく、被害者請求という方法での後遺障害申請手続きによって、以下のような後遺障害認定のサポートを受けることができます。
- 効果的な検査のアドバイス
- 医学的に必要な検査と後遺障害認定に必要な検査は異なる
- 過去の事例などをもとに、より症状を証明しやすい検査を検討してくれる
- 必要書類の収集・改善
- 医師の診断書に不利な記述がないかチェックしてくれる
- 認定に有利・有益な提出書類(画像鑑定報告書など)を検討し、集めてくれる
- 弁護士から関係者への書類作成の依頼、書き方のアドバイスも可能
- 納得のいく結果を得られなかった場合の対応
- 認定結果を精査し、異議申し立てなどを行ってもらえる
その結果、適切な後遺障害等級に認定される可能性が高くなるのです。
とくに、脳損傷による後遺症については、後遺障害の認定がおりるまで時間がかかることは多いです。異議申し立てをすると、さらに長い戦いになるでしょう。
後遺障害の申請を弁護士に任せることで、被害者の負担が大きく軽減し、リハビリや社会生活への復帰に集中できることも大きなメリットです。
また、頭部を強く打ちつけた場合には、視力低下や失明といった目の後遺症や顔に傷痕がのこるなどの後遺症も考えられます。複数の後遺障害認定を目指すとなると、準備資料も増えて負担は増大するので、弁護士の必要性はさらに高くなるでしょう。
脳挫傷は過失割合の交渉が難航しがち
弁護士に依頼すると、過失割合の交渉についても適切に行うことが可能です。
過失割合とは、交通事故の発生への責任の度合いの事です。被害者にも過失がついた場合、その割合分だけ、受け取れる損害賠償額が目減りします。
過失割合は、以下のように決定します。
過失割合はどう決まるか
- 事故態様ごとの基本の過失割合を「判例タイムズ」から導く
- 基本の過失割合に修正要素を加える
- 最終的には当事者間の話し合いで決定する
過失割合は、事故状況で決定します。
しかし脳挫傷を起こしていると、事故時の記憶がなかったり、曖昧で断言できなかったりするものです。相手方の言い分をそのまま信じ込んでしまうと、不当な過失割合を押し付けられかねません。
この点、弁護士に依頼すれば、信号サイクル表や防犯カメラの映像、目撃者の証言などの客観的な資料を元に、弁護士が適切な過失割合を主張して相手方と交渉してくれます。
過失割合が金額に与える影響
保険会社の提示額は不十分なことが多い
弁護士に依頼すれば、相場に近い金額で示談できる可能性が高まります。
示談交渉では、加害者側の任意保険会社は相場より低額な金額が算出される、任意保険基準により算出された金額を提示してくることが多いでしょう。
そのため、被害者側は相場の金額である弁護士基準により算出された金額になるよう、増額を求める必要があります。
慰謝料等の損害賠償金の算出基準
| 概要 | |
|---|---|
| 自賠責基準 | 自賠責保険会社が用いる基準で上限額あり。 被害者に補償される最低限の金額になる。 |
| 任意保険基準 | 任意保険会社が用いる基準。 事故相手が提示してくる金額の基準(自賠責基準と同程度)。 |
| 弁護士基準 (裁判基準) | 弁護士や裁判所が用いる基準。 過去の判例に基づいており、3つの基準の中でもっとも高額。 |

しかし、加害者側の任意保険会社が、被害者本人からの増額交渉を聞き入れることはほぼありません。
それに対し、被害者本人にかわって弁護士が示談交渉を行うと、加害者側の任意保険会社は裁判に発展することをおそれて態度を軟化させることがあります。
そのため、示談交渉で弁護士を立てたら示談金(賠償額)が増額される可能性が高くなるのです。

弁護士による損害賠償金の増額事例
アトム法律事務所にご依頼いただいた結果、交通事故で負った脳挫傷について後遺障害等級の認定や慰謝料などの増額交渉に成功した事例を紹介します。
バイク事故で脳挫傷等を負った事例
弁護士相談の段階で認定されていなかった後遺障害等級について認定を受けることで、慰謝料等の増額に成功したケース。
弁護活動の成果
高次脳機能障害で後遺障害等級9級10号が認定され、2,620万円の回収に成功した。
年齢、職業
40~50代
傷病名
脳挫傷、左大腿骨開放骨折、左膝蓋骨骨折
後遺障害等級
9級
バイク事故の脳挫傷で過失割合が争点となった事例
脳挫傷による死亡事故で過失割合などの妥当性について相談・依頼を受け、弁護士による示談交渉で保険会社の提示額から増額したケース。
弁護活動の成果
提示額の1,167万円から、最終的な受取金額が1,800万円まで増額された。(633万円の増額)
年齢、職業
80代以上
傷病名
脳挫傷
後遺障害等級
死亡
追突事故で脳挫傷痕の後遺障害を負った事例
弁護士相談の段階で後遺障害等級が既に認定済だったものの、示談交渉により、保険会社の提示額から増額したケース。
弁護活動の成果
提示額の331万円から、最終的な受取金額が600万円まで増額された。(269万円の増額)
年齢、職業
20~30代、主婦・主夫
傷病名
脳挫傷、嗅覚障害、膝の痛み、顔の傷
後遺障害等級
併合12級
アトム法律事務所の弁護士が実際に解決した事例を他にも知りたい場合は、『交通事故の解決事例』をご確認ください。
弁護士費用を軽減する方法
弁護士に依頼することでかかる弁護士費用は、弁護士費用特約を利用することで負担を抑えることができます。
被害者や被害者の家族の保険に付帯されている「弁護士費用特約」を使えば、弁護士費用を保険会社に負担してもらえます。
多くの場合、弁護士費用の合計300万円まで、相談料の合計10万円までを負担してもらえるでしょう。

弁護士費用特約を使うことで、被害者自身の弁護士費用の負担を大幅に減らせます。損害賠償金の合計額が数千万円にのぼらない限り、依頼者の自己負担なしで弁護士に依頼できることもあるのです。
弁護士費用特約について詳しく知りたい方は、『交通事故の弁護士特約とは?使い方・使ってみた感想やデメリットはあるかを解説』をご覧ください。
弁護士費用特約が使えないなら無料の法律相談を利用
弁護士費用特約が使えない場合は、法律相談料が無料の弁護士に相談を行いましょう。
無料相談の際に、弁護士費用や獲得できる損害賠償金の見積もりをしてもらえば、「弁護士に依頼して、むしろ損をするかもしれない」といった心配をせず弁護士に依頼できるためです。
なお、いつ弁護士に依頼しても基本的に弁護士費用に変動はありません。弁護士に相談するタイミングが早ければ早いほど、弁護士が被害者のお力になれる場面が増えます。
関連記事『交通事故で弁護士に相談・依頼するタイミングは?』では、弁護士に相談するタイミング別に得られるメリットを解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
無料法律相談の予約を年中無休で受付中
交通事故で脳挫傷を負い、後遺障害等級認定や示談交渉でよりよい結果を得たい方は、弁護士にご相談ください。
アトム法律事務所では、相談予約を24時間365日受け付けています。無料相談のみの利用も可能なので、お気軽にお問い合わせください。

アトム法律事務所の特徴
- 後遺障害申請の実務経験が豊富な弁護士が在籍
後遺障害が残るような重大な事故の対応実績が多数 - 電話・LINE・メールで弁護士に無料で法律相談できる
事故でケガをした人からの相談予約は年中無休で受付 - 弁護士費用は基本的に後払い制(着手金が原則無料)
法律相談時に弁護士費用も気軽にご質問ください




【まとめ】交通事故による脳挫傷のポイント
最後に、交通事故による脳挫傷の症状から、診断・後遺症・損害賠償までの重要ポイントを振り返りましょう。
まとめ
- 脳挫傷とは?
頭部を強く打撲し、脳を損傷した状態のこと。
症状としては、頭痛、意識障害などが生じることがある。 - 脳挫傷と診断されたらするべき対応
MRI、CT、などの画像検査を受ける。
治療だけではなく、後遺症が残ったときにも重要な証拠となる。 - 脳挫傷で残る可能性がある後遺症
高次脳機能障害、外傷性てんかん、遷延性意識障害など。
後遺症が残ったら、後遺障害等級認定の申請をするとよい。 - 脳挫傷で請求できる損害賠償金
各種慰謝料、休業損害、逸失利益、治療関係費などが請求できる。
適切な損害賠償金を受け取りたい場合は、弁護士を立てることが大切。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
