交通事故の逸失利益とは?職業別の計算方法!早見表・計算機で相場も確認

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逸失利益計算方法

交通事故で後遺障害や死亡事故の被害に遭われた方向けに、将来の収入補償である逸失利益について解説します。

交通事故の逸失利益とは、事故がなければ得られていた「失われた将来の収入」のことです。

交通事故の損害賠償請求においては、後遺障害逸失利益または死亡逸失利益として請求することとなります。

逸失利益は、後遺障害の程度や被害者の年齢・性別、事故前に得ていた収入などの要素から個々に計算されるため、計算方法の理解が重要です。

逸失利益の計算方法

後遺障害逸失利益は「1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」で計算します。

死亡逸失利益は「1年あたりの基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対するライプニッツ係数」で計算します。

逸失利益の計算方法は複雑なうえに聞き慣れない用語も多いので、本記事で丁寧に計算方法を解説していきます。

また、「年齢・平均年収・等級別の早見表」や便利な「自動計算ツール」も用意していますので、逸失利益の大体の目安金額を知る参考にしてみてください。

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交通事故の逸失利益とは?

逸失利益とは失われた将来の収入補償

逸失利益は、交通事故による後遺障害や死亡がなければ得られていたはずの、失われた将来の収入をさします。

後遺障害逸失利益や死亡逸失利益という費目で、「得べかりし利益」や「消極損害」ともいわれ、交通事故の損害賠償金のひとつです。

逸失利益は民法709条(不法行為による損害賠償)を根拠とし、被害者の権利を守るために適正な金額を請求すべきといえます。

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法709条(不法行為による損害賠償)

逸失利益の請求条件

すべてのケースで逸失利益を自動的に請求できるものではありません

しかし、相手方の保険会社から一方的に「逸失利益は支払えない」と言われても、その言い分を直ちに受け入れる必要はありません

交通事故にくわしい弁護士に相談して、相手方の主張の妥当性を検討してもらいましょう。

後遺障害逸失利益の請求条件

後遺障害逸失利益は、前提として後遺障害等級認定を受けていることが必要です。後遺障害の程度に応じて労働能力が下がり、収入も減ると考えられています。

後遺障害逸失利益の請求時には、以前のように働けなくなったり、職種を変えざるを得なくなったりといった具体的な仕事への影響や減収の程度を示していくことが必要です。

もし事故相手の保険会社と逸失利益の支払いについてトラブルになっているときは、以下の関連記事で解説している対処法も検討し、弁護士に早めに相談してください。

死亡逸失利益の請求条件

死亡逸失利益は、交通事故にあわなければ得ていた将来の収入がなくなることへの補償です。

よって、死亡時に金銭収入のない方は死亡逸失利益の請求に入念な準備が必要となるでしょう。

具体的には高齢者、就労前の学生や未就学児、主婦などがあげられます。こうした方々についても、逸失利益の請求は原則可能です。

なお、年金を受給している高齢者においても、死亡によって受け取れるはずの年金が受け取れなくなったという逸失利益が生じます。

逸失利益は損害賠償金の一部|慰謝料や休業損害との違い

逸失利益は、交通事故の損害賠償金のひとつといえます。

交通事故損害賠償の内訳

交通事故の損害賠償は大まかに、治療中に負った損害、治療終了後の損害、物的損害にわけられます。

逸失利益とは、治療終了後に生じる将来的な減収という損害に対する補償です。

逸失利益と慰謝料の違い

慰謝料とは、交通事故により生じた精神的苦痛に対して支払われる金銭的な補償です。

一方で、逸失利益とは交通事故により将来生じる減収という損害に対する補償をいいます。

そのため、逸失利益も慰謝料も別々の損害として、それぞれ請求することが可能です。

逸失利益と休業損害の違い

逸失利益と休業損害は減収という損害に対する補償である点は同じですが、休業損害は実際に生じている損害を対象とする一方、逸失利益は将来生じる損害を対象としています。

休業損害と逸失利益のどちらの請求の対象となるのかは、症状固定の時期により異なるのです。

症状固定とは、これ以上は治療の効果が望めず、症状の改善が見込めないと医師による判断があったことを言います。

症状固定までに生じた減収が休業損害となり、症状固定後に生じる減収は逸失利益となるのです。

症状固定の判断基準や症状固定となるまでの期間の目安などについては『症状固定とは?時期や症状固定と言われたらすべき後遺障害認定と示談』の記事で詳しく知ることができます。

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逸失利益の計算方法|計算式をわかりやすく解説

(1)後遺障害逸失利益の計算方法

後遺障害逸失利益の計算式は、以下の通りです。

後遺障害逸失利益の計算式

後遺障害逸失利益=1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

後遺障害逸失利益の計算方法

計算式で用いるそれぞれの要素を解説します。

基礎収入とは?

基礎収入は1年あたりの収入のことです。被害者の職業や属性によって算出方法が違います。

  • 給与所得者:原則として事故前年度の年収額(源泉徴収票や給与明細から判断)
  • 会社役員:役員報酬のうち、労務対価部分のみ
  • 自営業者:事故前年度の確定申告の内容から決定
  • 専業主婦:賃金センサスの女性全年齢平均賃金を用いて算出
  • 子ども:賃金センサスの男女別全年齢平均賃金を用いて計算

職業別の基礎収入の算定方法は、本記事内「補足|計算に用いる基礎収入は職業ごとに変わる」で詳しく解説します。

労働能力喪失率とは?

労働能力喪失率とは、後遺障害によって失われた労働能力を割合で示したものです。後遺障害等級ごとに目安が定められています。

後遺障害等級と労働能力喪失率の早見表

等級 労働能力喪失率
1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

ただし、必ずしも上記の通りになるとは限りません。職業や後遺障害の部位・程度、実際の仕事に対する支障の程度などにより増減することもあります。

労働能力喪失期間とは?

労働能力喪失期間とは、今後何年にわたって労働能力の喪失が続くのかを表した年数で、原則67歳までの期間です。

具体的には、以下のようにして求められます。

労働能力喪失期間の求め方

被害者の年齢 労働能力喪失期間の求め方
幼児~高校生・67歳-18歳=49年間
・大学進学が確実な場合は大学生の例に準じる
大学生・67歳-22歳=45年間
・卒業予定の年齢によって短くなる場合がある
社会人・67歳-症状固定時の年齢
高齢者・平均余命*の2分の1
・67歳-症状固定時の年齢 のいずれか長い方

※平均余命については、厚生労働省発表の簡易生命表を用いて計算することが多い。

ただし、医師や税理士など、67歳以降も働く可能性の高い職業については、労働能力喪失期間が長くなることがあります

また、むちうちで後遺障害12級か14級に認定されている場合、労働能力喪失期間は12級で10年程度、14級で5年程度とされることが多いです。

ライプニッツ係数とは?

ライプニッツ係数とは、逸失利益から中間利息を差引くための数値です。

中間利息とは

お金を預金したり資産運用に回したりすることで生じる利益。
逸失利益は高額なので預金・運用して保管することが多く、中間利息が生じやすい。

逸失利益の請求が認められると、本来は段階的に得るはずだった将来の収入を一括で受け取ることになるので、中間利息の金額も通常より増加することになります。

逸失利益を満額で受け取ると、中間利息の発生により、結果的に被害者側は本来得られる以上の金額を得ることになってしまうのです。

こうしたことを防ぐために計算式に用いられるのが、ライプニッツ係数です。

ライプニッツ係数は、2020年4月の民法改正により、事故発生日が2020年3月31日以前か、2020年4月1日以降かで異なります。

被害者が18歳以上のときのライプニッツ係数の早見表

労働能力喪失期間 2020/3/31以前2020/4/1以降
1年0.95240.9709
2年1.85941.9135
3年2.72322.8286
4年3.5463.7171
5年4.32954.5797
6年5.07575.4172
7年5.78646.2303
8年6.46327.0197
9年7.10787.7861
10年7.72178.5302
11年8.30649.2526
12年8.86339.954
13年9.393610.635
14年9.898611.2961
15年10.379711.9379
16年10.837812.5611
17年11.274113.1661
18年11.689613.7535
19年12.085314.3238
20年12.462214.8775

被害者が18歳未満のときのライプニッツ係数*の早見表

事故当時の年齢 2020/3/31以前2020/4/1以降
0歳7.549514.9795
1歳7.926915.4289
2歳8.323315.8918
3歳8.739416.3686
4歳9.176516.8596
5歳9.635217.3653
6歳10.11717.8864
7歳10.622918.423
8歳11.154118.9756
9歳11.711719.5449
10歳12.297320.1312
11歳12.912120.7352
12歳13.557821.3572
13歳14.235621.998
14歳14.947422.6579
15歳15.694923.3376
16歳16.479624.0377
17歳17.303524.7589

*大学進学の蓋然性が認められる場合は数値が異なることもある

ライプニッツ係数については、『ライプニッツ係数とは?【一覧表あり】逸失利益や将来介護費の計算も解説』で詳しく解説しています。

ライプニッツ係数を用いて計算するその他の賠償金についてもわかるので、合わせてご確認ください。

(2)死亡逸失利益の計算方法

死亡逸失利益の計算式は、以下の通りです。

死亡逸失利益の計算式

死亡逸失利益=1年あたりの基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対するライプニッツ係数

死亡逸失利益の計算方法

計算式で用いられるそれぞれの要素について解説します。

死亡事故ではこれまで得ていた収入が全くなくなる点が後遺障害逸失利益とは違い、計算式も異なります。

ライプニッツ係数については、後遺障害逸失利益の解説の中で紹介しているのでご覧ください。

基礎収入とは?

基礎収入は、被害者の事故前における1年間の収入を指します。基礎収入の算定方法は職業や属性により異なるため、詳しくは本記事内「補足|計算に用いる基礎収入は職業ごとに変わる」をご覧ください。

なお、死亡逸失利益の基礎収入としては、以下の年金も認められます。

  • 老齢年金
  • 障害年金(子や妻の加算分を除く)
  • 退職共済年金

被害者が死亡時点において年金の支給を受けていた場合には、仕事による収入がなくても上記の年金額に応じた基礎収入が認められます。

ただし、年金の給付目的が受給者自身の生計を維持するためである場合には、存続性がないとして基礎収入に該当しないと判断される場合もあることに注意してください。
遺族年金は、基礎収入として認められない可能性があります。

生活費控除率とは?

生活費控除率とは、被害者が生きて入れば使用したはずの生活費を考慮するために使用されます。

生活費控除率を使用することで、被害者本人が生きていくうえで消費していたであろう生活費を収入から差し引いた計算を行うのです。

生活費控除率は、以下の数値が目安となっています。

生活費控除率
男性
(独身、幼児等を含む)
50%
女性
(主婦、独身、幼児等を含む)
30%
被害者が一家の支柱
(被扶養者が1人の場合)
40%
被害者が一家の支柱
(被扶養者が2人以上の場合)
30%

女性の方が生活費控除率が低くなっているのは、計算に用いる基礎収入が女性の方が低い傾向にあることを考慮するためです。

なお、女子年少者で基礎収入を「男女計全労働者の全年齢平均賃金額」とする場合は、生活率控除率が40%~50%とされることが多くなります。

生活費控除率が30%のままだと、同じく「男女計全労働者の全年齢平均賃金額」を基礎収入として計算する男子年少者の逸失利益よりも大幅に高額になってしまうためです。

もっとも、生活費控除率は被害者の生前の状況によって増減します。

たとえば、独身であっても高齢の親を経済的に支援していたり、離婚して養育費を支払っていたなどの状況があれば、控除率は低くなる可能性があります。

逆に被害者の収入が平均より高額だった場合、相続人が兄弟姉妹である場合などは、控除率が高くなる可能性もあるでしょう。

就労可能年数とは?

就労可能年数とは、事故にあわなければ今後何年にわたって働けたのかを表した年数です。就労可能年数は原則として、67歳までとされています。

就労可能年数の求め方

被害者の年齢就労可能年数の求め方
幼児~高校生・67歳-18歳=49年間
・大学進学が確実な場合は大学生の例に準じる
大学生・67歳-22歳=45年間
・卒業予定の年齢によって短くなる場合がある
社会人・67歳-死亡時の年齢
高齢者・平均余命*の2分の1
・67歳-死亡時の年齢 のいずれか長い方

※平均余命については、厚生労働省発表の簡易生命表を用いて計算することが多い。

ただし、仕事の内容によって67歳以降も働く可能性の高い職業については、就労可能年数が長くなることがあります

補足|計算に用いる基礎収入の決まり方

基礎収入は、交通事故にあう前の被害者の収入(年収)です。職業別に基礎収入の算出方法を見ていきましょう。

給与所得者の基礎収入

原則として事故前年度の年収額(源泉徴収票や給与明細から判断)とします。

ただし、被害者が30歳未満の若年労働者であり、現実の給与額が賃金センサスの平均額を下回っている場合は、将来平均賃金を得られる蓋然性があるのなら、全年齢の平均賃金を用いての計算も可能です。

会社役員の基礎収入

役員報酬のうち、労務対価部分のみが基礎収入とされます。利益配当部分は加算しません。
また、昇給や給与の変動は一般的には考慮されません。

会社役員の労務対価部分については『会社役員の交通事故慰謝料・休業損害は?請求可否の判断基準や計算方法を解説』の記事で説明しているので、参考にしてみてください。

自営業(個人事業主)の基礎収入

自営業者の基礎収入は事故前年度の確定申告の内容から決定します。毎月固定で生じる経費は差引きません。

確定申告をしていない場合は帳簿などから前年の所得を証明するか、平均賃金から基礎収入を算出する必要があります。

申告所得が実際の所得より低い場合には、帳簿などから実際の所得を証明できればそれに近い金額を基礎収入にできる可能性がありますが、相手方との交渉次第となるでしょう。

関連記事『交通事故の慰謝料・個人事業主編』では、赤字経営だった場合や自営業1年目だった場合などの基礎収入も解説しています。

主婦の基礎収入

専業主婦の基礎収入は、賃金センサスの女性全年齢平均賃金を用いて算出します。令和元年以降の女性全年齢平均賃金(年収)は、以下の通りです。

女性の全年齢平均賃金(令和元年以降)

令和女性・全年齢平均賃金
元年約388万円
2年約382万円
3年約386万円
4年約394万円
5年約400万円

なお、兼業主婦は就労で得た収入と、賃金センサスの女性平均賃金を比べて高い方を基礎収入として採用します。

子ども・学生の基礎収入

子ども・学生の基礎収入は、賃金センサスの男女別全年齢平均賃金を用いて計算します。

大学進学の可能性が高い場合には、男女別・大卒の平均賃金で算定される可能性もあります。

令和全年齢平均
(男/女)
大卒
(男/女)
元年約561万円/約388万円約671万円/約472万円
2年約546万円/約382万円約638万円/約451万円
3年約546万円/約386万円約631万円/約454万円
4年約555万円/約394万円約640万円/約462万円
5年約570万円/約400万円約655万円/約470万円

なお、女子年少者の基礎収入は、男女を含む全労働者の全年齢平均賃金で算定されるケースもある点に留意しておきましょう。

男女を含む全労働者の全年齢平均賃金は、以下の通りです。

令和男女・全労働者・全年齢平均賃金
元年約500万円
2年約487万円
3年約489万円
4年約496万円
5年約507万円

また、就職・内定が決まっている場合には内定先の平均賃金で算定される可能性もあります。

逸失利益の早見表と計算機|相場をすぐに知りたい方におすすめ

【早見表】年齢・平均年収・等級別

逸失利益はどのくらいになるのか知りたい方に向けて、後遺障害逸失利益についての年齢・平均年収・等級別に早見表を作成しました。

25歳・45歳・65歳の平均年収をもとに、等級別の後遺障害逸失利益を確認していきましょう。

前提

基礎収入は、例年の平均年収を想定して仮で計算していきます。

  • 男性
    25歳:501~600万円
    45歳:601~700万円
    65歳:401~500万円
  • 女性
    25歳:401~500万円
    45歳:401~500万円
    65歳:301~400万円

あくまで目安程度の概算にはなりますが、参考にご覧ください。

男性版の早見表(万円)

等級25歳45歳65歳
1~3級9,7158,9693,738
4級8,9378,2523,439
5級7,6747,0862,953
6級6,5096,0092,504
7級5,4405,0232,093
8級4,3724,0361,682
9級3,4003,1391,308
10級2,6232,4221,009
11級1,9431,794748
12級1,3601,256523
むちうち12級595703486
13級874807336
14級11914197
むちうち14級11914197

女性版の早見表(万円)

等級25歳45歳65歳
1~3級7,9486,2092,907
4級7,3125,7132,675
5級6,2794,9052,297
6級5,3254,1601,948
7級4,4513,4771,628
8級3,5772,7941,308
9級2,7822,1731,018
10級2,1461,677785
11級1,5901,242581
12級1,113869407
むちうち12級486486378
13級715559262
14級979776
むちうち14級979776

※ 平均年収を想定した概算の早見表です。
※ 逸失利益は本来、個別の事情を加味して計算するものなので、上記の金額になるとは限りません。

【計算機】自分の逸失利益が自動でわかる

ここまで逸失利益の計算方法を詳しく解説してきましたが、ご自身の逸失利益の目安は以下の計算機を利用すると簡単に確認可能です。

交通事故被害者が請求できる損害賠償金額を知るには、逸失利益のほかにも慰謝料なども含めて考える必要があります。

被害者の年齢や年収などを入力するだけで利用可能です。利用に際して、名前や電話番号など具体的な個人情報を入力する必要はありません。簡単に金額がわかるので、ぜひお使いください。

ただし、この計算機でわかるのはあくまでも機械的な計算結果です。
実際には事案ごとのさまざまな要素を反映して金額が増減することもあるので、厳密な相場は弁護士に確認することをおすすめします。

【職業別】逸失利益の計算例とポイント

給与所得者の逸失利益|後遺障害12級の計算例

給与所得者(サラリーマン)の逸失利益について、実際の事例における計算例を紹介します。

職業・性別会計事務所勤務・女性
年齢33歳
後遺障害12級13号(頸椎椎間板ヘルニア)
基礎収入額年収469万3070円
労働能力喪失率14%
労働能力喪失期間10年
後遺障害逸失利益507万3387円

参考元:平成29年2月24日/名古屋地方裁判所/民事第3部/判決/平成27年(ワ)4630号

この場合、後遺障害逸失利益は507万3387円です。

逸失利益の計算式は、469万3070円(基礎収入)×0.14(労働能力喪失率)×7.7217(ライプニッツ係数)=507万3387円となります。

この事例のポイント

被害者は33歳なので通常なら労働能力喪失期間は「67-33=34年」となります。しかし、今回は頸椎椎間板ヘルニアで後遺障害12級となっているため、労働能力喪失期間は10年とされました。

神経症状は時間とともにしだいに症状が改善されると考えられており、後遺障害逸失利益も5~10年程度の認定となることが多いです。

給与所得者の逸失利益|死亡逸失利益の計算例

続いて、以下のケースにおける死亡逸失利益を確認してみましょう。

職業・性別給与所得者・男性
年齢37歳
死因左肺挫傷など
基礎収入額年収591万2000円
労働能力喪失期間30年(67-37=30年)
生活費控除率*50%
死亡逸失利益4543万9632円

参考元:平成29年6月13日/大阪地方裁判所/第15民事部/判決/平成28年(ワ)139号

死亡逸失利益の計算式は、591万2000円(基礎収入)×15.372(ライプニッツ係数)×(1-0.5(生活費控除率)=4543万9632円となります。

この事例のポイント

この方は独身の男性であったため、生活費控除率が50%として計算されています。

被害者側は月5万円を両親に交付していたことから、両親を扶養していたものとして生活費控除率を下げるように主張しましたが、裁判においてはその主張は認められませんでした。

主婦の逸失利益|後遺障害13級の計算例

専業主婦の場合における後遺障害逸失利益の計算例をご紹介します。

職業主婦
年齢47歳
後遺障害等級13級
基礎収入額年収394万円(女性の全年齢平均※2022年)
労働能力喪失率9%
労働能力喪失期間20年(67-47=20年)
後遺障害逸失利益527万5562円

後遺障害逸失利益の計算式は、394万円(基礎収入)×0.09(労働能力喪失率)×14.8775(ライプニッツ係数)=527万5562円です。

この事例のポイント

主婦であることは逸失利益を却下される理由にはなりません。

主婦の家事業には金銭収入は発生していませんが、金銭収入があるものとみなして逸失利益の請求ができます。

主婦の逸失利益を請求するときの基礎収入には国の統計データ(賃金センサス)を用いることになっています。

自営業者の逸失利益|後遺障害6級の計算例

自営業者の後遺障害逸失利益の計算例を見てみましょう。

職業自営業者
年齢51歳
後遺障害等級6級
基礎収入額年収620万円
労働能力喪失率67%
労働能力喪失期間16年(67-51=16年)
後遺障害失利益521万1788円

後遺障害逸失利益の計算式は、620万円(基礎収入)×0.67(労働能力喪失率)×12.5611(ライプニッツ係数)=521万1788円です。

この事例のポイント

自営業者が被害者のときも、基本的には67歳まで働けるものとして逸失利益を算定します。

しかし、自営業者の職業が医師や弁護士・税理士といった職業であるとき、67歳よりも長く働くことができたとして逸失利益が認められたこともありますので、算定は弁護士に任せるようにしましょう。

労働能力喪失期間が長いほど、逸失利益は高額になります。

子どもの逸失利益|後遺障害10級の計算例

子どもの逸失利益の計算例を見てみましょう。

職業なし
年齢8歳
後遺障害等級10級
基礎収入額年収555万(男性全年齢平均※2022年)
労働能力喪失率27%
労働能力喪失期間49年(67‐18=49年)
後遺障害逸失利益2,843万4,937円

後遺障害逸失利益の計算式は、555万円(基礎収入)×0.27(労働能力喪失率)×18.9756(ライプニッツ係数)=2,843万4,937円です。

この事例のポイント

8歳であった子どもは症状固定時には金銭収入はありません。しかし、もし事故がなければ、働ける年齢になったときには働き、収入を得ていたものと推察されます。

よって、国の統計データ(賃金センサス)をもとにして逸失利益を請求することになるのです。

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逸失利益の損害賠償請求に関するよくある質問

(1)基礎収入の証明が難しいときはどうする?

給与所得者の源泉徴収票のように、基礎収入の根拠を示す確実な証拠がないときには、専門知識を駆使して過去の判例や専門書の記載などを提示しながら交渉する必要があります。

たとえば、以下のような場合は基礎収入における交渉が必要になってくる可能性があるでしょう。

基礎収入で交渉が必要になるケース

  • 自営業者で確定申告をしていない
  • 自営業者で過少申告をしている
  • 専業主婦(主夫)、学生、子ども、無職など現実の収入額を証明できない
  • 給与所得者で収入が平均より低いが、将来的に平均額を得られる見込みがあった

逸失利益は金額が高額になるほど、相手方の保険会社の対応がシビアになります。被害者側も専門家である弁護士を立てることが重要です。

(2)労働能力喪失率・期間でもめたときはどうする?

加害者側の任意保険会社は、労働能力喪失率・期間を低く見積もることで、逸失利益の金額を下げようとすることがあります。

適切な労働能力喪失率・期間にするためには、過去の判例や専門知識を踏まえつつ個別的な事情も考慮し、医師の意見書や日常生活報告書なども用意したうえで交渉しなければなりません。

とくに以下の場合は労働能力喪失率・労働能力喪失期間に関して相手方ともめやすいです。

  • むちうちによる神経症状や、顔の傷、骨の変形、内臓の異常
    「仕事にさほど影響はない」とされ、労働能力喪失率が低く見積もられやすい
  • 医師や税理士など、67歳を超えても仕事ができる
    労働能力喪失期間が通常より長くできる可能性がある
  • むちうちで後遺障害12級、14級に認定された
    労働能力喪失期間が10年(12級)・5年(14級)とされることが多いが、実際の症状などによってはもっと長くなることもある

納得いかないまま示談してしまっても、あとからの追加請求は原則できません。おかしいと思う点がある場合は、できるだけ早く弁護士にご相談ください。

(3)減収がないと逸失利益はもらえない?(判例紹介)

加害者側の任意保険会社が「労働能力に影響がない」「減収が生じていない」といった理由から逸失利益が生じていないために支払わないと言ってきた場合は、速やかに弁護士にご相談ください。

確かに、たとえ後遺障害が残っていても、労働能力に影響がなかったり減収が生じていなかったりすると逸失利益がもらえないことがあります。

しかし、本当に労働能力に影響が出ていないのか、今現在のみならず将来にも減収が生じないと言い切れるのかは慎重に検討すべきです。

加害者側の任意保険会社が逸失利益を支払おうとしない場合の反論方法について、解説を行います。

後遺障害による労働能力の低下がないという主張への対処

後遺障害認定を受けていても、労働能力の低下がないと主張されやすい事例としては、以下のような傷跡や変形障害が代表的です。

  • 体に残った傷跡の大きさから後遺障害認定を受けたケース
  • 脊柱や鎖骨などの変形が生じたために後遺障害認定を受けたケース

傷跡や変形は身体活動に影響せず、労働能力は低下していないとして、逸失利益は賠償の対象外と言われやすいのです。

このような場合、被害者の仕事内容から、後遺障害の症状が原因で労働能力の低下が認められると反論することになります。

特に、接客業やモデルなどの見た目が重視される仕事では、傷跡や体の変形がわかることから以前のように仕事ができなくなったと主張しやすいといえるでしょう。

実際に逸失利益が認められた判例として、以下のようなものがあります。

判例(1)

大阪地方裁判所平成19年(ワ)第8174号

  • 被害者に残った後遺障害の一つに顔の傷跡があった。
  • 加害者側の主張
    被害者の職業である飲食店経営に顔の傷跡は影響しない。
  • 裁判所の判断
    傷跡の程度は著しいものであり、接客業である飲食店経営への影響も大きいことから、労働能力に対する影響は無視できない。

判例(2)

大阪地方裁判所平成25年(ワ)第7853号

  • 被害者(喫茶店アルバイト)に残った後遺障害の一つに顔の傷跡があった。
  • 加害者の主張
    顔に傷跡があっても接客業ができないわけではないため、労働能力への影響はない。
  • 裁判所の判断
    外貌醜状の程度からすると、原則的には労働能力への影響はない。しかし、被害者が19歳とまだ若く、今後幅広い職業に就く可能性がある中で、傷跡によって職業選択の幅が制限される可能性はある。したがって、労働能力への影響を完全には否定できない。

減収が生じていないという主張への対処

被害者に後遺障害が認定されたとしても、その後の被害者の収入が事故前より低下していない場合は、逸失利益がそもそも生じていないと主張されることが考えられます。

このような主張に対しては、減収が生じていないのは本人の努力や勤務先の配慮によるという事情があるためと反論することすることになります。

逸失利益が否定されてしまった場合の対処

減収が生じていないために逸失利益が認められなかったとしても、交渉次第では、代わりに後遺障害慰謝料を増額させられる可能性があります。

逸失利益は認められなかったものの、事情を考慮して後遺障害慰謝料が増額された判例は、以下の通りです。

判例

京都地方裁判所平成28年(ワ)第1303号

  • 被害者(小学1年生の女児)の額に線状痕が残った。
  • 加害者側の主張
    傷跡は被害者が就労するころには目立たない程度に回復している可能性があること、髪の毛で容易に隠せることから、将来の労働能力に影響するとは言えない。
  • 裁判所の判断
    傷跡は化粧や髪の毛で隠すことができ、労働能力への影響は考えられないため、逸失利益は認められない。
    ただし、髪型の制限が今後女児にとって精神的負担になりえること、傷跡を気にして対人関係などに消極的になる可能性があること、それにより性格形成に影響が出かねないことを考慮し、後遺障害慰謝料を870万円とする。
    ※後遺障害等級は9級16号であり、本来の相場は690万円。

反論する場合には弁護士に相談しよう

上記のような反論を行うことで逸失利益が認められたり、慰謝料増額を実現することは簡単ではありません。

基本的には、逸失利益や慰謝料増額の可否をめぐって加害者側と争いになる可能性が高いです。
そのため、あらかじめ弁護士を立てて示談交渉することをおすすめします。

逸失利益の請求可否については過去の判例や専門書の記載などをもとに交渉する必要があるので、専門家である弁護士にご相談ください。

逸失利益の計算と請求は弁護士に任せよう

弁護士に相談・依頼することで得られるメリット

弁護士に相談・依頼すれば、適正な逸失利益の金額がわかるほか、相手方の保険会社との交渉を任せられるので、被害者にとって不当な結果を避けることにつながります。

逸失利益は、計算方法が複雑であること、計算に様々な要素がかかわることから適正な金額が算定しづらいです。

しかし、被害者や遺族のこれからの生活を支える補償なので、簡単に妥協すべきではありません。
専門家である弁護士の力を借りりて、適切な請求を行うべきでしょう。

また、弁護士に依頼して示談交渉を行ってもらうと、逸失利益以外の慰謝料、休業損害などについても適正な金額獲得に近づくというメリットもあります。

弁護士費用の負担は減らす方法がある

弁護士への相談や依頼には弁護士費用がかかると思われがちですが、弁護士費用特約を利用することで負担を減らすことが可能です。

弁護士費用特約があれば上限の範囲内で弁護士費用の負担がなくなる

弁護士費用特約を利用すれば、相談料や弁護士費用を契約で定められた上限額まで保険会社に負担してもらうことができます。

多くのケースで相談料や弁護士費用は上限額内に収まるので、金銭的な負担を気にすることなく相談や依頼を行うことが可能となるでしょう。

弁護士費用特約を付けていたはずだがどういった特約かよくわかっていない、具体的な使い方を知りたいという場合は『交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介』の記事をご確認ください。

注目

たとえ、弁護士費用特約が使えなくても弁護士への相談や依頼をおすすめします。

相談料や成功報酬を差し引いても、弁護士を立てた方が多くの金額を得られることが多いためです。

弁護士を立てた方が最終的に得なのかどうかは、相談の際に確認できるため、一度は弁護士への相談を行ってみるべきでしょう。

弁護士への無料相談窓口

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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