交通事故で痛くないのに通院しても良い理由と不正請求を疑われないポイント
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新たに改正民法が施行されました。交通事故の損害賠償請求権に関するルールに変更があります。
交通事故に遭ったとき「痛くないのに通院してよいのか?」と悩む方は多くいらっしゃいます。
結論から言えば、交通事故の直後は痛くない場合でも通院することが重要です。
なぜなら、事故直後に自覚症状が出ないケースがあるからです。時間が経ってから通院を開始した場合、治療費や慰謝料などを受け取れないおそれがあります。
中には、「痛くないのに通院したら保険金の不正請求を疑われるのでは?」と不安に思われる方もいらっしゃると思います。
この記事では、交通事故で痛くないのに通院すべき理由や、痛くないのに通院する際のポイントを解説します。保険金の不正請求を疑われないためにも、ぜひ参考にしてみてください。
目次
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交通事故の直後、痛くないのに通院すべき5つの理由
交通事故にあっても、痛くない・痛みを感じにくいケースは存在します。
そんなときは、「痛くないのに通院しても良いのだろうか」「痛くないのに通院した場合、かかった費用は支払ってくれるのだろうか」と不安になるものです。
事故直後は痛くなくても、基本的には病院に行って医師の診察や検査を受けましょう。
この章ではその理由を説明していきます。
事故直後は痛みを感じにくいから
追突事故をはじめとする交通事故では、実際はケガをしているのに、現場で痛みやしびれなどの症状の自覚がなく、「痛くない」と感じる方が多くいらっしゃいます。
痛くないと感じる1つめの理由は、被害者が事故に遭って興奮状態になっているからです。
神経が昂ぶっているので痛くないと認識している状態になっています。この場合、後で落ち着くと痛みを自覚しはじめるでしょう。
痛くないと感じる2つめの理由は、交通事故の直後には痛くないケースやしびれなどの症状が出ないケースがあるためです。
交通事故翌日や2日後などに痛みや体調の異変に気づく方も多いので注意が必要です。
後から症状が表れる典型例にむちうちがあります。むちうちとは外部からの強い力を受けて首がムチを打ったようにしなり、周辺組織が傷つくことで様々な症状が表れるものです。事故直後には痛くなくても、むちうちの可能性もあるので、病院で検査を受けてください。
なお、病院では診断書に「むちうち」ではなく、「頚椎捻挫」「外傷性頚部症候群」などと記載されます。そのような記載があれば、むちうち状態にあると診断されたということです。
交通事故によるむちうちの症状は多岐にわたります。むちうちで治療を受けた場合の慰謝料や、後遺症が残った場合の賠償金について詳しく知りたい方は、関連記事を参考にしてください。
交通事故によるむちうちの関連記事
通院しないと治療費や慰謝料をもらえないから
事故の被害に遭うと、加害者から損害賠償金を払ってもらえます。
ただし、その金額は「物損事故」と「人身事故」で大きく異なります。
人身事故の場合には治療費や慰謝料、休業損害、場合によっては高額な後遺障害への補償金を支払ってもらえるので賠償金は非常に高額になります。
一方、物損事故の場合、車の修理代程度しか出ないので、賠償金は少額です。
実際にはケガをしているのに通院していないと、物損事故とみなされ、治療費や慰謝料などを支払ってもらえない可能性が生じます。
そのような目に遭わないため、まずは事故直後に痛くないケースでも通院して異常がないかの検査を受けるべきといえます。
また、通院した際は、必ず警察に人身事故として届け出るようにしましょう。
すでに物損事故として届け出ていた場合は、人身事故に切り替えることが可能です。
軽傷の慰謝料相場がわかる記事
通院開始が遅いと保険金をもらえない可能性があるから
交通事故直後に通院せず、半月後や1か月後などに「やっぱり痛いから病院に行こう」と考え直して通院を開始する方もいるでしょう。
しかし、交通事故発生から時間が空きすぎると、相手方の保険会社は「本当に事故による痛みなのか」と事故と症状の因果関係を疑います。
その場合、保険金の不正請求を疑われたり、保険金の支払いを拒絶されるといったトラブルになるリスクが高くなります。結局は治療費も慰謝料も払ってもらえず泣き寝入りとなってしまう可能性もあるでしょう。
事故後、すぐに通院することが重要です。
通院開始が遅いと後遺障害認定を受けにくくなるから
交通事故後、しばらく経ってから通院を開始すると「後遺障害等級認定」の場面でも不利益を受ける可能性があります。
後遺障害等級認定は、交通事故による後遺症が一定の等級に認定されることを言います。
後遺障害等級認定を受けると、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益といった新たな損害賠償金の費目を請求できるようになります。
交通事故で後遺障害認定を受けるには、MRIやレントゲンなどの検査結果や、医師の作成する「後遺障害診断書」など資料の提出が必要です。
後遺障害認定を受けるにあたっては、事故直後の状態が問題になるケースも多々あります。事故直後には痛くないからと通院を怠ると、いざ後遺障害認定を申請する際に必要資料を揃えられません。
その結果、後遺障害認定の申請すらできなかったり、申請しても「非該当」とされたりするリスクが高くなるのです。
将来の後遺障害認定を考えるなら、事故後速やかに通院を開始しましょう。
後遺障害認定の詳しい申請方法や流れを知りたい方は、関連記事『交通事故で後遺障害を申請する|認定を受ける流れとは?申請手続きと必要書類』を併せてお読みください。
また、実際に後遺障害認定の申請をする際には、弁護士への相談・依頼を検討しましょう。弁護士のサポートはより納得度の高い後遺障害認定結果につながります。
重大な症状が隠れている可能性があるから
交通事故に遭うと、脳内出血などの重大なケガをする可能性もあります。
しかし、脳内出血が起こっても、自覚症状がないケースがほとんどです。
たとえば脳内出血を原因として発生することがある高次脳機能障害では、被害者本人やごく近しい人が少し違和感を持つ程度の症状しか出ないこともあるのです。
被害者が気づかずに通院しないで帰宅すると、自宅でどんどん状態が悪化してきて命に関わるリスクもあります。
事故現場では痛くない場合でも重大な症状が隠れている可能性があるので、必ずすぐに通院して診察や検査を受けておくことが大切です。
痛くないのに通院して保険金の不正請求を疑われるケース
交通事故で「痛くないのに通院したら保険金の不正請求にならないのか?」と疑問を抱く方も多いでしょう。
確かに、痛くないのに通院したならば、不正請求を疑われるリスクもあります。
ここからは「保険金の不正請求」とはどういったものなのか、具体的に確認していきましょう。
実際にはケガをしていないのに治療費を請求する
保険金の不正請求の典型例は、実際にはケガをしていないのに治療費や慰謝料を請求するパターンです。
被害者が痛くないのに「痛い」などと嘘をついて診察や検査を受け、通院期間中の治療費と慰謝料を加害者側へと不正に請求する事例もあります。
こうした問題があるため、軽傷の場合、保険会社は慎重に対応する傾向があるのです。
不必要な治療を行って治療費等を請求する
実際にケガをしていても、治療費は必要かつ相当な範囲でしか払ってもらえません。
しかし、本来不要な治療や施術を行って保険会社へ賠償金を請求する被害者も存在します。
また、被害者に告げず、整骨院の先生が勝手に施術費を水増しして保険会社へ請求する事例もみられます。
こういった事件が起こるので、保険会社はどうしても慎重に対応せざるを得ないのです。
痛くないのに通院する3つのリスク
交通事故後、痛くないのに通院すると被害者には以下のようなリスクが発生する可能性があります。
- 治療費を支払ってもらえない
- 保険金の支払いを拒絶される
- 保険金の不正請求を疑われる
順番にみていきましょう。
治療費を支払ってもらえない
交通事故の治療費は、相手方の任意保険会社が病院へ直接支払ってくれるケースが多いです。
これを「任意一括対応」と言います。
任意一括対応を受けられる場合は、被害者は病院の窓口で治療費を支払う必要がありません。

しかし、痛くないのに通院している場合は、任意一括対応を受けられない可能性があります。
保険会社から「交通事故とは無関係なケガではないか?」などと因果関係を疑われ、支払いを拒否されてしまうのです。
なお、痛くないのに通院しているが、必要な通院である場合は、治療費を一旦被害者自身が立て替えて、のちほど保険会社に請求することも可能です。
慰謝料などの支払いを拒絶される
痛くないのに通院し、「ケガは交通事故と関係ない」と判断されると、相手方の保険会社に慰謝料など賠償金を支払ってもらえない可能性があります。
慰謝料や休業損害などを支払ってもらえないうえ、治療費や通院交通費なども被害者の自腹になってしまうのです。
保険金の不正請求を疑われる
痛くないのに通院した結果、最悪のケースでは、保険金の不正請求を疑われる可能性もあります。
保険金の不正請求は「詐欺罪」になります。
また、被害者自身が詐欺をしているつもりはなくても、事件に巻き込まれてしまうケースも存在します。たとえば、病院や整骨院が痛くないのに通院することを受け入れ、不正に保険金を請求した場合、被害者も疑われる可能性があるのです。
事故後、痛くないのに通院するときには、リスクを抑えるための対策が必須といえます。
痛くないのに通院する際の5つのポイント
交通事故後、痛くないのに通院する場合には、以下の点に注意して不要な疑いをかけられるリスクを低減しましょう。
交通事故にあったらすぐに通院する
事故に遭ったらすぐに病院へ行くことが重要です。
時間が空くと「事故とは関係のないケガ」とみなされたり、不正請求を疑われたりするリスクが高くなるからです。また、事故直後に検査をしておかないと、将来後遺障害認定を受けにくくなるリスクも発生します。
事故に遭ったら、たとえ痛みがなくてもその日か翌日には病院に行きましょう。
一定の頻度で通院を続ける
治療にあたっては通院頻度も重要です。痛くないからといって「1か月に1回」しか通院しなければ、保険会社は「通院の必要がない」と考えるでしょう。
できるだけ週2、3度、月にすると7、8回くらいは通院することをおすすめします。
通院の必要がなくなったら速やかに治療を終了して示談交渉に入りましょう。
適切な検査を受ける
痛くないのに通院する場合は、適切な検査を受けておくことも重要です。
たとえば、むちうちの場合は、CTやMRI、レントゲンなどの画像検査のほか、ジャクソンテストなどの神経学的検査を受けるとよいでしょう。
検査で症状が証明できれば、保険金の不正請求を疑われることはなくなるでしょう。
もし、症状が証明できなくても、検査を受けていることで「症状がないのに通院しているのではないか?」と疑われる可能性を低くすることができます。
整骨院ではなく病院に通院する
交通事故後に通院するときには「どこで治療を受けるか」も重要です。
事故直後であれば、まずは「病院」へ行きましょう。特にむちうちの場合では「整骨院」を選択する方も多いのですが、整骨院への通院には注意が必要です。
整骨院は病院ではないので、医師による診察は受けられず、投薬や検査もしてもらえません。整骨院にしか通院していないと、後遺障害認定を受けるのも困難となります。
むちうちやねんざ、骨折などが疑われるなら必ず「整形外科」を受診してください。頭に衝撃を受けた場合には「脳神経外科」が対応してくれます。
必要以上に長期、濃厚、高額な治療を受けない
交通事故で痛くないのに不必要な治療を受けると、保険会社は保険金の支払いを拒絶します。
このとき重要なのは「通院期間」と「治療内容」です。
必要以上に長期にわたる通院をすると、後の通院期間については治療費や慰謝料を払ってもらえなくなる可能性が高くなります。
本来不要な濃厚診療や高額な治療を受けた場合にも、保険金の支払いを拒絶されるケースが多数あります。濃厚診療とは過剰診療ともいい、症状やケガの程度と釣り合わない治療を受けることで、相手方の保険会社から保険金の不正請求の疑いをかけられてしまうのです。
交通事故後の治療は「必要かつ相当な範囲」にしましょう。
保険会社とトラブルになったら弁護士に相談しよう
交通事故後、軽傷やむちうちになった場合に被害者が保険会社へ治療費や慰謝料を請求すると、支払いを拒絶されたり、事故とケガの因果関係に疑いの目を向けられたりしてトラブルになるケースが多々あります。
そんなとき、被害者自身で対応すると、問題が大きくなってしまう可能性もありますし、ストレスも溜まってしまうでしょう。
困ったときには、弁護士に相談してみてください。弁護士であれば、以下のような点について的確なアドバイスが可能です。
- 交通事故とケガの因果関係を立証するにはどうしたら良いのか
- 適切な通院方法
- 受けるべき検査の内容
また、弁護士に示談交渉を任せれば、被害者が自分で対応する必要はなくなります。
交通事故の被害者を守るのが弁護士の仕事です。迷いや不安を感じたら、1人で悩まずに弁護士を頼りましょう。
まとめ
交通事故後、痛くないとしてもまずは一度、通院して医師による診察や検査を受けましょう。
自覚がなくてもケガをしているケースが多々あります。
軽傷やむちうちのケースで保険会社とトラブルになったら、早めに弁護士に相談しましょう。当事務所でも交通事故被害者へのサポートに積極的に取り組んでいますので、困ったときにはお気軽にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了