【歩行者向け】自転車に轢かれたらどうする?事故後の対応と損害賠償

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令和6年、自転車の関わっている交通事故は67,531件も発生しています(警察庁「自転車乗用者(第1・第2当事者)の事故類型別交通事故件数の推移」)。

自転車事故は軽く見られがちで、警察に通報しなかったり、保険会社にも言わずにすませてしまう方もいらっしゃいます。

しかし、きちんと対応すれば数十万円の慰謝料を受け取れることもあります。

この記事では、自転車に轢かれる事故について、軽傷で済んだ場合はもちろん、重傷になってしまった場合についても、轢かれた場合に取るべき行動から、損害賠償の請求方法、高齢者が被害に遭ったときの注意点まで、やさしく解説します。

目次

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自転車に轢かれたら|最初の24時間でやるべき4つのこと

自転車事故に遭った直後の行動は、その後の治療費や慰謝料などの損害賠償に大きく影響します。

(1) 怪我の確認と救急車の手配!まずは命を守る行動を

事故直後は、何よりも安全確保が最優先です。

自分自身や周囲に怪我人がいれば、ためらわずに119番通報し、救急車を呼びましょう。

特に頭や首を打った場合は注意が必要です。

(2) 警察への通報は絶対!後の保険請求に必須のステップ

救急車とあわせて、警察に通報することも重要です。

「軽い事故だから」「自転車事故で大げさ」と通報をためらう方もいますが、警察に通報しないと、加害者に損害賠償の請求ができなくなったり、示談交渉のための資料が手に入らなくなったりします。

ほかに、後日相手方から「そんな事故はなかった」と言われたような場合にも、警察に通報していれば事故発生の事実確認ができます。

当日その場で警察に通報するのが最も良いですが、後日の申し出でも受け付けてもらえる場合はあるようです。

(3) 証拠の確保と相手情報の収集|泣き寝入りを防ぐために

自転車事故の場合、加害者となった自転車運転者が名乗らず立ち去ってしまうことも多いです。

しかし、加害者と連絡が取れなくなってしまうと損害賠償の請求もできません。

できるだけ、現場で以下の情報を記録しておきましょう。

  • 事故相手の氏名、連絡先、住所
  • 自転車保険の有無
  • 学生であれば学校名や保護者の連絡先
  • 自転車の車体番号やカラー
  • 目撃者がいれば証言や連絡先

また、自転車の損傷部位、服の破れた部位、怪我の写真なども早めに撮っておくと役にたちます。

(4) 轢かれたら痛くなくてもまず整形外科を受診

可能であれば、事故当日に整形外科を受診し、レントゲンやCTを撮ってもらいましょう。

痛くない、怪我はしていないと思っても、後日痛みが出てきたり、服で見えない部分に怪我があったりすることもあります。

事故直後は興奮状態で、怪我をしているのに痛みを感じなかったという方もいらっしゃいます。

事故から一週間以上空くと、損害賠償請求が非常に難しくなるので早めに受診しましょう。

自転車に轢かれたらどの保険に損害賠償請求できる?

自転車事故では、自動車のような強制保険制度がありません。

そのため、加害者が保険に入っているかどうかで誰と事故に関するやりとりをするか、損害賠償請求をするかが変わってきます。

加害者が加入する保険|まず確認したい3つの保険

自転車加害者は、以下の保険に加入している可能性があります。

加害者の保険

  • 個人賠償責任保険
    自動車保険、火災保険、クレジットカードに付帯している。
  • 自転車保険
    都道府県によっては加入が義務。加害者本人のケガも含めた補償がセットのことが多い。
  • TSマーク付帯保険
    自転車店で点検を受けた際に貼られるマークに付帯している。補償額は比較的低い。

もし加害者がこれらの保険に加入している場合、加害者の保険担当者とやりとりをすることになります。

加害者自身が無保険だと思っていても、家族の保険を利用できたり、付帯している保険に気づいてないだけの場合もありますので、必ず確認してもらいましょう。

なお、保険の補償額は契約内容によってさまざまであるため、十分な補償が得られない場合もあります。

その場合は、被害者ご自身の保険を確認してみましょう。

被害者が使える保険|あなた自身の保険で守る方法

加害者が無保険だったり、補償が不十分だった場合、ご自身の保険が頼りになります。

被害者の保険

  • 人身傷害保険
    特約の内容次第で、歩行中の事故にも適用される。
  • 傷害保険・医療保険
    入院や手術に対して給付金を受け取れる。
  • 労災保険
    通勤中や勤務中の事故なら治療費や休業補償を受け取れる。
  • 健康保険
    交通事故でも原則使用可能。自己負担を軽減できる。

自転車事故の加害者の責任とあなたの権利

自転車事故に巻き込まれた後、正しい補償を受けるためには「加害者がどんな責任を負うのか」「被害者であるあなたがどんな権利を持っているのか」を知ることがとても大切です。

自転車事故の「3つの責任」とは?損害賠償の仕組み

歩行者と自転車の事故が起こると、加害者には状況に応じて「民事責任」「刑事責任」「行政処分」が生じることがあります。

民事責任(損害賠償)

特に重要なのが、治療費や慰謝料などを請求するための「民事責任」です。これは警察や検察が自動的に進めてくれるものではなく、被害者自身が行動する必要があります。

加害者は被害者に対し、治療費や休業損害、慰謝料などの損害賠償責任を負います。

  • ケガの治療費、通院交通費
  • 仕事を休んだ日の収入(休業損害)
  • 精神的苦痛への慰謝料
  • 後遺障害が残った場合の賠償金

刑事責任

加害者の自転車の運転が著しく危険で、それにより被害者がケガを負った場合、過失傷害罪・重過失傷害罪に問われる可能性があります。

これは被害者ではなく、検察や警察が判断します。

なお、加害者が14歳未満の場合、刑事責任は問われません。

行政処分

自転車には、自動車のような行政処分制度はありません。

ただし、複数回の違反・事故があると、自転車利用者講習の受講命令の行政処分を受ける場合があります。

また、悪質な自転車事故の場合、加害者が自動車運転免許停止処分となった事例もあります。

加害者が未成年だった場合はどうなる?

加害者がおよそ12~13歳以上の場合は未成年本人、12歳未満の場合で親権者(通常は父母)に監督義務違反がある場合は、親権者が民事責任を負います。

実際は、いずれの場合であっても親権者または親権者の加入する保険に対して損害賠償請求をすることが多いです。

高額な賠償も現実に!実際の裁判例から学ぶ事故の重大性

自転車事故で重大な損害が発生した事故を、実際の裁判例を通じて具体的に見てみましょう。

被害者が植物状態になった事故

神戸地判平成25年7月4日判決

11歳の小学生が運転する自転車が、下り坂を時速20~30kmで走行中に歩行者に衝突し、歩行者が植物状態となった。


損害賠償額

9520万7082円

被害者が死亡した事故

東京地判平成15年9月30日判決

ペットボトルを片手に自転車で走行中の男性が下り坂を速度を落とさず走行中に歩行者に衝突し、歩行者は2日後に死亡した。


損害賠償額

6778万6613円

被害者が後遺障害14級となった事故

横浜地判平成22年4月14日判決

16歳の高校生が夜間に無灯火で、携帯電話を操作しながら自転車で坂道を時速約20kmで下っていたところ歩行者に衝突し、後遺障害14級相当のケガを負わせた。


損害賠償額

566万6060円

被害者に後遺障害が残ったり、死亡した場合には、賠償額が高額になる傾向があります。

損害賠償の請求方法と請求できる費用、必要な証拠

損害賠償はどうやって請求する?

自転車事故で、被害者は加害者側に対して損害賠償を請求する際のおおまかな流れは以下の通りです。

  1. 事故後、加害者や各保険会社に連絡
  2. 病院に通院する
  3. 治療が終了する
  4. 加害者側に損害賠償請求し、示談交渉する
  5. 示談が成立する

なお、加害者の保険の加入状況などによって、連絡や交渉すべき相手は異なってきます。

「人身事故」として届け出ると示談交渉が有利になる可能性

自転車に轢かれて怪我をしているなら、人身事故として届け出するのがよいでしょう。

診断書の提出や警察署に行く手間はかかりますが、実況見分調書を作成してもらえます。

事故現場の見取り図、当事者の位置関係、ブレーキ痕の有無などが参照できるようになり、後の示談交渉や裁判において、事故状況や過失割合を判断するための最も信頼性の高い証拠となります。

自転車に轢かれたら請求できる費用の内訳

自転車事故で請求できる損害賠償額は、以下の費目から構成されます。

損害賠償請求の内訳

  • 治療費
  • 交通費
  • 休業損害
  • 入通院慰謝料
  • 物損(眼鏡、スマホ、衣服など)
  • (後遺障害が残ったとき)後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益、将来介護費
  • (被害者が死亡したとき)死亡慰謝料、死亡逸失利益

慰謝料などは弁護士基準での交渉が重要

治療終了後、損害賠償請求をする前に、加害者側が「損害賠償金(示談金)として〇円支払う」と提示してくる場合があります。

しかし、加害者側が提示してくる金額は、多くの場合「任意保険基準」という低めの水準です。

もっとも高額で正当な金額になるのは、「弁護士基準(裁判基準)」という水準ですが、弁護士に交渉させないとこの水準で交渉するのは相当困難です。

慰謝料金額相場の3基準比較

もしも自転車事故で加害者側から示談金の提示があったら、その金額が適正か確認するためにも、まずは一度弁護士にご相談ください。

過失割合で賠償額が変わる?歩行者に有利なルールとは

損害賠償額が確定したとしても、事故の責任割合(過失割合)に応じて、受け取れる金額が減ることがあります。

たとえば賠償額が100万円でも、被害者に10%の過失があると判断されると、実際に受け取れるのは90万円になります。

自転車事故における過失割合の目安一覧

歩行者は「交通弱者」として法律上もっとも保護される立場にありますので、自転車との事故では、歩行者に有利な過失割合が認められるのが原則です。

特に以下のような状況では、自転車側の過失が100%、歩行者側の過失が0%とされるケースが多く見られます。

歩行者側の過失0%になりやすい事故

  • 歩道を歩行中に自転車と接触
  • 横断歩道を青信号で渡っていたときに自転車と衝突
  • 信号のない横断歩道を横断中に自転車と衝突

一方で、以下のような状況では、歩行者側に過失があるとされるおそれがあります。

歩行者側に過失が認められやすい事故

  • 歩道のない道路の右側以外を歩行していた
  • 横断歩道を青信号以外で横断開始した
  • 横断歩道外を横断していた

後遺障害と示談交渉|慰謝料額を左右する重要ステップ

完治しない傷があるなら後遺障害の申請と慰謝料請求

6ヶ月以上治療しても改善しない症状が残った場合、その症状が「後遺障害」として認定されれば、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求できます。

後遺障害が認定された場合、最終的な損害賠償額が100万円以上違ってくるため、後遺障害に認定されることは非常に重要です。

自転車事故で後遺障害の認定が難しい理由

自動車事故の場合、後遺障害の等級(1級~14級)は、自賠責保険に設けられた公的な審査機関が中立の立場で判断します。

しかし、自転車事故にはそのような制度がありません。

そのため、自転車事故では保険会社が独自に判断を下すことになり、支払う側である保険会社が等級を決めるという、非常に不利な構造になっています。

保険会社には賠償額を抑えたいという経済的な理由があるため、認定が厳しくなる傾向があります。

自転車事故で後遺障害を正当に認定してもらうには、しっかりとした医療証拠と、強い交渉力が必要なのです。

後遺障害の手続きの流れ

実際に自転車に轢かれた事故で後遺障害申請をする際は、以下の手続きが必要です。

  1. 入通院治療をして、症状固定の判断
  2. 後遺障害診断書の作成
  3. 後遺障害診断書等を相手方保険会社に提出
  4. 相手方保険会社による後遺障害の認定
  5. 認定を受け入れる、または新たな証拠を提出
後遺障害等級認定の手続きの流れ

後遺障害が認定されたら

新たに「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」が請求可能になります。

具体的に受け取れる金額については、『後遺障害慰謝料の相場はいくら?いつ支払い?後遺障害等級認定と賠償金額のすべて』をご参照ください。

示談交渉は慎重に。後悔しないための5つのポイント

示談とは「この金額以上は請求しない」という最終合意です。
一度成立すると、後から新たな後遺症が発覚したり費用の支払いが生じても、原則として再請求はできません。

示談で絶対に守るべきこと

  1. 治療が完全に終わってから交渉を始める
    後遺障害がある場合は認定手続きの後で交渉を始める
  2. 示談書の内容に間違いがないかよく確認する
  3. 保険会社の最初の提示額ですぐに合意しない
  4. 交渉の経緯は可能な限り書面、メール、メッセージアプリなど見えるかたちで残す

特に示談の金額については、弁護士が介入していない案件だと判例に比べて不当に低い金額になりがちです。

自転車に轢かれた事故で、事故相手から示談金の提示があったら、まずは一度弁護士にご相談ください。

高齢者とご家族の方へ|特に気をつけたい損害の評価と対応策

自転車対歩行者の事故で、死亡又は重傷を負った歩行者は、65歳以上が60.4%を占めているというデータがあります(令和5年交通安全白書「特集 自転車の安全利用の促進について」)。

つまり、高齢者が自転車に轢かれると重傷化しやすいということです。

骨折や頭部外傷などを負うと、入通院だけでなく退院後のリハビリや介護費用が発生することもあります。

高齢者が陥りやすい、重傷になってしまった場合の自転車事故のポイントを解説していきます。

高齢者の損害評価と補償のポイント

通常の損害賠償請求の注意点に加えて、以下のポイントに注意が必要です。

逸失利益・休業損害の考え方

ご高齢でも就労しているか主婦として家事をしていれば、逸失利益や休業損害を請求可能です。

年金生活をされている場合は、基本的に逸失利益・休業損害は請求できません。

なお、被害者の死亡時は将来の年金収入を逸失利益として請求可能です。

将来介護費の請求

被害者が重い後遺障害を負って常時介護が必要になった場合、ヘルパー費用や家族介護(1日あたり 8,000円が目安)も請求できます。

被害時の年齢によって変動しますが、数千万円~1億円以上の請求ができることもありますので、示談時にこの費目が抜けていないか注意しましょう。

素因減額への注意

高齢者に多い骨粗しょう症や脊椎疾患を理由に、加害者側から「損害が重くなったのは持病のせいだから、示談金を減額する」という素因減額を主張されることがあります。

これに対しては、医師の意見書を作成依頼し、平均的な加齢の範囲内であり疾患ではない、などと反論する必要があります。

介護保険の利用と示談前の注意

介護保険でサービスを受けるには「第三者行為による届け出」が必要です。

示談前に手続きをしないと、後から介護保険の利用を制限されたり、市区町村から費用返還を求められることがあるため、示談の前に必ず自治体に相談しましょう。

ご家族が対応する際の法的ポイントと支援制度

高齢者や被害者となった場合、家族が代理で手続きを進めることが多くなります。その際の注意点は以下のとおりです。

家族が署名・契約する際の注意点

例えば被害者の方が署名できないような状態のとき、多くの場合はご家族の署名や代筆で問題ありません。

相手によって余白に一筆求められたり、家族用の専門書式がある場合もありますので、「家族が署名することになりますが問題ないですか」と確認をするようにしましょう。

意思能力がない場合の「成年後見制度」

被害者が事故で寝たきりになったような場合、その後の手続きのために成年後見の申し立てを行った方がよいです。

基本的にはご家族で話し合って後見人候補者を選出し、所定の書式を揃え、ご住所を管轄する家庭裁判所に提出し、面談を受けることが必要です。

弁護士費用の不安は「弁護士費用特約」で解決

自転車の事故は専門的対応が必要になるため、弁護士への相談・依頼が有効です。

もしご本人またはご家族の保険に「弁護士費用特約」が付いていれば、最大300万円まで保険で弁護士費用をまかなえます。

ご相談に関する費用も10万円まで弁護士費用特約でまかなわれますので、まずは一度ご相談ください。

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交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介

まとめ|自転車に轢かれたら弁護士にご相談を

自転車による歩行者への接触事故は、重大な被害につながりやすく、その後の損害賠償請求でも苦労する場面は多いかもしれません。

しかし、事故直後にやるべきことを知っておけば、冷静に対応できます。

証拠を集め、必要な治療を受け、保険や制度を理解し、必要があれば弁護士に相談する。これらはあなたやご家族の人生を立て直すための大切なステップです。

被害にあった方やご家族が納得のいく補償を受けるためにも、周囲の協力や専門知識が欠かせません。

損害賠償や示談でお困りの場合は、ぜひ交通事故の損害賠償請求について経験豊富なアトム法律事務所にご相談ください。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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