駐車場事故における過失割合の考え方や事例ごとの過失割合を解説

駐車場内において交通事故が生じた場合、過失割合が問題になることがあります。
駐車場内は、信号や優先道路などの明確な規則がないため、どちらの過失が大きいのかが分かりずらいことがあるのです。
本記事では、駐車場内の事故における過失割合を決める流れや、よくある事故類型の基本的な過失割合などを解説しています。
駐車場内事故における自身の具体的な過失割合を知りたい方は、是非ご覧ください。
駐車場事故における過失割合の基礎知識
駐車場事故に道交法は適用される?駐車場が「道路」とみなされる基準
公道上の事故とは異なり、駐車場は私有地であることが多く「道路交通法」がそのまま適用されるとは限りません。
駐車場での事故に道交法が適用されるかどうかは、駐車場が「道路」とみなされるかどうかによります。
道路交通法でいう「道路」には、公道だけでなく、不特定多数の人が自由に通れる場所も含まれます。たとえば、スーパーやコンビニの駐車場のように、誰でも出入りできる場所は「道路」とみなされることが多く、道路交通法が適用されます。
反対に、月極駐車場や個人の敷地内にある駐車場のように、限られた人しか使えない場所は「道路」にはあたらず、道路交通法が適用されないケースもあります。
駐車場事故の特徴
多くの駐車場は信号や優先道路といった明確な規則がないため、統一の基準を設けにくく過失割合の調整が難航しがちです。
事例ごとの具体的判断が重要になるため、同じような事故でも公道の場合とは違った過失が認定されることがあります。
駐車場事故では、以下のような要素が過失割合の判断に影響します。
判断基準 | 内容の例 |
---|---|
双方の動き | 一方が停止していた場合、動いていた側の過失が大きくなる |
通行の優先関係 | 一般的に、通路側の車が優先 |
注意義務違反の有無 | 急なバック 徐行せずに進入した 確認不足 など |
駐車場の構造や死角の有無 | ミラーのない交差点 車止めがない 傾斜や視界不良 など |
過失割合は「基本形+修正要素」で決まる
交通事故における過失割合は、事故の類型ごとに設定された「基本の過失割合」をもとに、実際の事故の状況に応じた「修正要素」を加えて判断されます。
駐車場事故の基本の過失割合
事故の類型 | 基本の過失割合 |
---|---|
(1)駐車場の交差部分で出会い頭事故 | 5:5 |
(2)通路進行車と出庫車の事故 | 3:7 |
(3)通路進行車と入庫車の事故 | 8:2 |
(4)入庫車と歩行者の事故 | 9:1 |
(5)通路進行車と歩行者の事故 | 9:1 |
(6)駐車場から道路へ出る時の事故 | 2:8 |
過失割合を左右する修正要素
同じような事故でも、事故の当事者が子どもや高齢者であった、一方が一時停止の表示を守らなかったなどの修正要素によって、過失割合は違ったものになります。
修正要素の中には「著しい過失」「重大な過失」というものも出てくるので、最初に具体的な定義を確認しておきましょう。
著しい過失
わき見運転などの前方不注視、著しいハンドル・ブレーキ操作不適切、スマホのながら運転、酒気帯び運転など
重大な過失
酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転、過労や病気および薬物の影響などで正常な運転ができないのに運転をしたなど
修正要素はこれだけに限らず、過去の判例なども踏まえて柔軟に判断されるものなので、厳密な過失割合については弁護士に確認するようにしてください。
過失割合の決め方や事例
交通事故の過失割合とは?パターン別に何%か調べる方法と決め方の手順
駐車場事故の過失割合が10対0になるのはどんなケース?
駐車場での事故は、必ずしもお互いに責任(過失)があるとは限りません。状況によっては「10対0」、つまり自分にまったく過失がないと判断されることもあります。
「10対0」と認定されれば、修理費などの費用を全額、相手(または相手の保険会社)に請求できます。
ここでは、駐車場事故で「10対0」と認定されやすい代表的なケースを紹介します。
ケース1:完全に停車中にぶつけられた
「車を駐車スペースに止めていたら、相手がバックしてぶつかってきた」というような状況では、自分車が完全に停車していたため、基本的に過失はないとされ、過失割合は「10対0」になる可能性が高いです。
ケース2:相手が一方的にバックして接触
駐車スペースから出るために、相手がバックしている途中で自車に衝突してきたケースも、10対0と判断されることがあります。特に、こちらが動いておらず、相手が後方確認を怠っていた場合は、明らかに注意義務違反とされるためです。
ケース3:明らかに危険な運転・違法な場所への駐車
たとえば、進入禁止エリアや通行の妨げになるような位置に相手が無断で駐車していた場合、その違法性が原因で事故が発生すれば、相手の過失が非常に重く扱われます。状況によっては「10対0」と見なされ、自分には過失がないとされる可能性もあります。
このようなケースでは、警察への通報や現場写真の記録、監視カメラ映像の確保が大切になります。
駐車場事故の類型ごとの過失割合の具体例
過失割合(1)駐車場の交差部分で出会い頭事故【5:5】

駐車場内の通路の交差部分で「直進または右左折のために進入する車(A)」と「直進または右左折のために交差通路から進入する車(B)」の出会い頭の事故では、基本の過失割合はA:B=50:50です。
駐車場の交差部分における出会い頭事故の過失割合
A | B | |
---|---|---|
基本の過失割合 | 50 | 50 |
Aが狭路、Bが明らかに広い通路 Bが丁字路直進 | +10 | -10 |
一時停止・通行方向標示等の違反 | ±15~20 | ±15~20 |
その他の著しい過失 | ±10 | ±10 |
重過失 | ±20 | ±20 |
Bが狭路、Aが明らかに広い通路 | -10 | +10 |
過失割合(2)通路進行車と出庫車の事故【3:7】

駐車場内での「通路を進行する車(A)」と「駐車区画から出庫する車(B)」の事故では、基本の過失割合はA:B=30:70です。
この場合、基本的には駐車区画から出庫する車のほうが、より安全に気を配るべきとされるのです。
通路進行車と出庫者の事故の過失割合
A | B | |
---|---|---|
基本の過失割合 | 30 | 70 |
著しい過失 | ±10 | ±10 |
重過失 | ±20 | ±20 |
過失割合(3)通路進行車と入庫車の事故【8:2】

駐車場内での「通路を進行する車(A)」と「駐車区画へ入庫する車(B)」の事故では、基本の過失割合はA:B=80:20です。
車が駐車区画へ入庫しようとしている場合、その近くを走行中の車は入庫を妨げてはならないと考えられているためです。
通路進行車と入庫車の事故の過失割合
A | B | |
---|---|---|
基本の過失割合 | 80 | 20 |
Bの著しい過失 | -10 | +10 |
重過失 | ±20 | ±20 |
Aの徐行なし | +10 | -10 |
Aのその他の著しい過失 | +10 | -10 |
過失割合(4)入庫車と歩行者の事故【9:1】

駐車場の駐車区画内での「入庫車(A)」と「歩行者(B)」の事故では、基本の過失割合は入庫車:歩行者=90:10です。
交通事故では基本的に車より歩行者のほうが立場が弱いとされます。
よって、立場の強い車側が交通安全により一層気を払うべきだとして、車側の過失割合が大きくなるのです。
入庫車と歩行者の事故の過失割合
A | B | |
---|---|---|
基本の過失割合 | 90 | 10 |
隣接区画での乗降あり | +10 | -10 |
Bが児童・高齢者 | +5 | -5 |
Bが幼児・身体障害者等 | +10 | -10 |
Aの著しい過失・重過失 | +10 | -10 |
車へ乗り降りしようとしている人と、その隣へ入庫しようとしている車両の事故では、入庫者に100%の過失があると判断される可能性があります。
過失割合(5)通路進行車と歩行者の事故【9:1】

駐車場内の通路での「進行車(A)」と「歩行者(B)」の事故では、基本の過失割合は進行車:歩行者=90:10です。
通路進行車と歩行者の事故の過失割合
A | B | |
---|---|---|
基本の過失割合 | 90 | 10 |
急な飛び出し | -10 | +10 |
歩行者用通路標示上 | +20 | -20 |
Bが児童・高齢者 | +5 | -5 |
Bが幼児・身体障害者等 | +10 | -10 |
Aの著しい過失 | +10 | -10 |
Aの重過失 | +20 | -20 |
買い物を終えて自分の車へ向かう歩行者や、コインパーキングで料金の支払いをしている歩行者との接触事故などでは、こうした過失割合が適用されるでしょう。
過失割合(6)駐車場から道路へ出る時の事故【2:8】

道路を走行する「自動車(A)」と駐車場から道路へと出るために右折する「自動車(B)」の事故では、基本の過失割合は道路を走行する自動車:駐車場から出る車=20:80です。
道路外から道路に進入するために右折する場合の過失割合
A | B | |
---|---|---|
基本の過失割合 | 20 | 80 |
Aが頭を出して待機 | +10 | -10 |
Aの既右折 | +10 | -10 |
Bのゼブラゾーン進行 | +10~20 | -10~20 |
Bの15km以上の速度違反 | +10 | -10 |
Bの30km以上の速度違反 | +20 | -20 |
Bの著しい過失 | +10 | -10 |
Bの重過失 | +20 | -20 |
幹線道路での事故 | -5 | +5 |
Aの徐行なし | -10 | +10 |
Aの著しい過失 | -10 | +10 |
Aの重過失 | -20 | +20 |
なお、駐車場から出て左折した場合の接触事故も、基本の過失割合は道路を走行する自動車:駐車場から出る車=20:80となるでしょう。また、右折のケースとほとんど同じ修正要素が用いられる見込みです。
駐車場から道路へ出る際の「頭出し待機」と過失割合
頭出し待機をしていて道路を走行する車両とぶつかった場合、過失割合は道路を走行する自動車:頭出し待機をしていた車=30:70となる見込みです。
「頭出し待機」とは、駐車場から道路から出る際、一気に道路へ進入せず、車の頭を少し出して一旦停止し、安全確認を十分に行う運転方法のことをいいます。
頭出し待機は修正要素として扱われるため、過失割合が10%小さくなる可能性があるでしょう。
自転車との事故なら自動車側の過失は重くなる
駐車場から道路へと出る「自動車」と「自転車」の事故では、基本の過失割合は駐車場から出る車:道路を走行する自転車=90:10です。
道路から出る自動車がそろそろと進行して頭を出して待機していた場合、自動車側の過失割合は10%小さくなり80:20となる可能性があります。一方で、自転車に乗っていた人が高齢者や児童ならば、自動車側の過失は10%大きくなるので、100:0の事故態様ともなりえます。
駐車場事故の過失割合におけるよくある疑問
Q.駐車場事故ではバック優先と判断される?
駐車場内の事故において、「バックする車が優先される」という交通ルールは存在しません。
実際にはバック中の車両には厳格な注意義務が課せられています。
したがって、例えば駐車場内の通路を直進している車と、駐車区画からバックで出てきた車が衝突した場合、基本的な過失割合はバックで出てきた車の方が大きくなるのが一般的です。
Q.駐車場で停車中にぶつけられた場合は常に10対0になる?
駐車場の定められた駐車スペースに正しく停車している状態で、相手の車に一方的にぶつけられた場合、原則として被害者側に過失はないと判断され、過失割合は「10対0」となるでしょう。
しかし、被害者側に修正要素が認められる場合には、10対0になるとは限りません。
例えば、駐車禁止場所に停車していた、駐車スペースからはみ出すように停車していたといったケースでは被害者側にも一定の過失が認められることがあります。
Q.駐車場事故で過失割合が10対0なら示談金請求は簡単?
駐車場事故の過失割合が10対0の場合の示談金請求は、決して簡単ではありません。
被害者側に全く過失がない「もらい事故」では、自身が加入している自動車保険の「示談代行サービス」を利用することができないからです。
保険会社の示談代行は、保険会社が相手方に保険金を支払う義務がある場合に限られるため、被害者に過失がなく支払い義務のない10対0の事故では、保険会社が法律上、示談交渉に介入できません。
その結果、被害者は交通事故交渉のプロである保険会社の担当者と、直接交渉することとなります。
相手方保険会社は、自社の基準で算出した相場よりも低額な示談金を提示してきますが、専門知識のない個人がその金額が適正か判断し、増額交渉を行うことは極めて困難です。
増額交渉を行い、相場の賠償金を得るためには、専門家である弁護士に相談・依頼を行うべきでしょう。
過失割合が10対0である、いわゆるもらい事故で示談交渉を行う際の注意点について知りたい方は『もらい事故では保険会社に示談交渉を頼めない!交渉の注意点や使える自分の保険は?』の記事をご覧ください。
駐車場事故にあったのなら弁護士に相談を
駐車場事故について弁護士に相談するメリット
駐車場事故について弁護士に相談・依頼すると、以下のようなメリットを得られる可能性があります。
- 駐車場事故の適切な過失割合がわかる
- 適切な過失割合になるよう示談交渉してもらえる
- 相場に近い金額で示談できる可能性が高まる
示談交渉では、相手側は少しでも支払う金額を下げるために、自身の過失割合を低く主張したり、示談金額を相場より低額になるよう計算したうえで提案してくることが多いでしょう。
このような場合に、適切な過失割合を示しつつ、相場に近い金額で示談するよう交渉するには、専門家である弁護士に示談交渉を行ってもらう必要があります。
専門家である弁護士から説得的に主張してもらうことで、相手側が被害者側の主張を認める可能性が高まるのです。
その結果、相場に近い金額まで増額したうえで、示談をすることが可能となります。

もっとも、弁護士に依頼するメリットはこれだけではありません。
その他のメリットについては『交通事故を弁護士に依頼するメリット9選と必要な理由|弁護士は何をしてくれる?』の記事で詳しく知ることができます。
駐車場事故を弁護士に相談する費用負担は軽くできる
弁護士に相談・依頼を行う際の費用負担が気になっている方は、弁護士費用特約が利用できないか確認してください。
弁護士費用特約が利用できれば、基本的に相談料は10万円まで、依頼に関する費用は300万円まで保険会社に負担してもらえます。
そのため、多くのケースで金銭的なく弁護士への相談や依頼が可能となるのです。

弁護士費用特約について知りたい方は『交通事故の弁護士特約とは?使い方・使ってみた感想やデメリットはあるかを解説』の記事をご覧ください。
駐車場事故についてアトムなら無料の法律相談が可能
アトム法律事務所では、交通事故被害者の方を対象とした無料の法律相談を行っています。
駐車場事故における自身の過失割合の程度や、請求できる示談金の相場額などについて、弁護士に無料で相談することが可能です。
無料の法律相談の予約受付は24時間体制で行っているので、いつでもご連絡ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了