事故後の記憶障害・性格が変わる・言語障害…高次脳機能障害の症状とは?
- 周りから性格の変化を指摘されるようになった
- 物忘れが多くなり仕事がうまくいかない
- 事故後に集中力の低下や疲れを感じるようになった
事故後の認知機能の低下により日常生活にさまざまな困難が生じている場合、脳に障害がのこって高次脳機能障害を発症している可能性があります。
外見上の外傷がないことや、事故前との性格の変化や物忘れといった症状からも、本人に自覚がなく家族や友人に指摘されて気づくことも多いです。
この記事を読めば、交通事故後に発症する高次脳機能障害とはどんなものか、主な症状を解説します。治療方法や後遺症が残ったときの対応、適正な慰謝料の概要まで掴めるので、最後までお読みください。
高次脳機能障害の症状と日常生活への影響
高次脳機能障害の症状としてみられる認知障害について、主な症状は以下の8つです。
高次脳機能障害の症状
- 記憶障害
- 失認症
- 注意障害
- 遂行機能障害
- 言語障害
- 失行症
- 半側空間無視
- 社会行動障害
各症状の具体的な内容や、日常生活に生じる支障を解説していきます。
なお、症状の程度はさまざまで、場合によっては本人やごく近しい方が違和感を持つ程度のこともあり、高次脳機能障害は見過ごされやすい障害です。
事故後の被害者の様子に少しでも気になる点がある場合は、主治医にも相談してください。
(1)記憶障害
記憶障害は、記憶を思い出せない、新しく何かを覚えられないといった、記憶に差し障りが生じてしまう障害です。
記憶障害の具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 交通事故前の自分や社会に関する記憶がない(逆行性健忘症)
- 物忘れが、何度も同じことを聞く、新しい仕事を覚えられない(前向性健忘症)
- 日時や場所がわからなくなる(見当識の障害)
- 情報の入手元がわからなくなる(出典健忘)
- 妄想や嘘が多くなる(作話)
交通事故後に物忘れが多くなったり、事故前について記憶喪失になってしまったりと、記憶障害といってもその内容はさまざまです。
東京都福祉局による「高次脳機能障害者実態調査結果」によると、退院時、日常生活における高次脳機能障害の症状として最も多いものは記憶障害でした。(参考:東京都福祉局『高次脳機能障害者実態調査結果』)
(2)失認症
失認症は、ものごとを認識したり、理解したりすることができなくなる障害です。
失認症の具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 知人の顔を見ても誰かわからない、鉛筆など見慣れたものが認識できない(視覚失認)
- 歩きなれた道で迷う(地誌的障害)
- 特定の音を聞いてもそれが何かわからない(聴覚失認)
- よく見知っているはずの物体を触ってもそれが何かわからない(触覚失認)
(3)注意障害
注意障害は、集中力が低下し、注意が散漫になってしまう障害です。
注意障害の具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 落ち着きがなくなる
- 集中力がなくなる
- ミスが多くなる
- マルチタスクをこなせない
- 他人にちょっかいを出す
- 疲れやすくなる
(4)遂行機能障害
遂行機能障害は、目標の設定から達成までのプロセスを計画したり、プロセスにそって効果的に行動したりすることが困難になる障害です。
遂行機能障害の具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 物事の段取りを組もうとしても考えがまとまらない
- 他人からの指示がないと作業できない
- 物事の優先順位をつけられない
(5)言語障害
言語障害とは、言語によって考える力や、発声・発音に差し障りが生じる障害です。
言語障害は、会話のキャッチボールが成立しない「失語症」と、舌や口唇の運動麻痺によりろれつが回らない「構音障害」に分類されます。
言語障害の具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 言葉が出てこない
- 意図した言葉と違う言葉を発してしまう
- 他人の言ったことを復唱できない
- 新しい言葉を作り出す
- 言っていることが支離滅裂になる
- 聞き取った言葉を理解できない
- 文字を読んでも意味がわからない
- 読んだ文字を声に出せない
- 書きたい単語、文字とは違う単語や文字を書いてしまう
(6)失行症
失行症は、日常の何気ない動作や、以前は当たり前のようにできていた動作ができなくなる障害です。
失行症の具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 服の脱ぎ着が難しくなる
- 歯磨きができない
- 指示どおりに動けない
(7)半側空間無視
半側空間無視は、空間の半分が認識できなくなる障害です。
自身から見て左側が認識できなくなることが多いとされています。
半側空間無視の具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 左側にある人を無視してしまう
- 左側にある食事を残してしまう
- 左側の物にぶつかりやすい
- 行先に関わらず右折しやすい
(8)社会行動障害
社会行動障害は、感情のコントロールが難しい、状況に応じた行動がとれないなどの理由で、対人関係に支障が生じる障害のことです。
社会行動障害の具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 怒りっぽくなった
- 暴力的になった
- 図々しくなった
- 金遣いが荒くなった
- 依存的になった
- 空気が読めないなど、対人関係がうまくいかなくなった
- 意欲が低下した
- 抑うつっぽくなった
【補足】高次脳機能障害と認知症の違い
高齢者の記憶障害は、ときに認知症と診断される場合があります。
高次脳機能障害と認知症の違いとしては、認知症の方のリハビリは脳機能の維持がメインですが、高次脳機能障害の場合は脳機能の改善が見込めるということです。
交通事故の被害者が高齢者で、事故後に認知機能の低下がみられると、まず認知症が疑われることもありますが、高次脳機能障害の可能性があることも知っておきましょう。
高次脳機能障害の診断から後遺障害認定までの流れ
交通事故では、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、脳挫傷、低酸素症などが原因となって高次脳機能障害を発症する可能性があると考えられています。
高次脳機能障害と診断される基準から治療・リハビリ、後遺障害認定までの大まかな流れをみていきましょう。
高次脳機能障害の診断基準
厚生労働省による高次脳機能障害の診断基準をすべて満たすとき、高次脳機能障害と診断されます。
高次脳機能障害の診断基準
- 原因となる受傷や疾病の発症の事実がある
脳挫傷や脳梗塞など、高次脳機能障害の原因といえるものがある - 認知障害が残存している
記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害を原因とする、日常生活や社会生活への支障がある - 検査所見がある
脳の器質的病変(脳へのダメージ)の存在がわかる頭部のCT、MRIによる画像検査結果や脳波の検査結果、または、脳の器質的病変が存在したと確認できる過去の診断書がある
ただし、以下の条件に当てはまる場合は高次脳機能障害と診断しないとされています。
高次脳機能障害と診断されない条件
- 脳へのダメージにより身体の麻痺などの身体障害は残ったが、認知障害は残っていない
- 事故の前から高次脳機能障害のような障害や検査所見がある
- 先天的な疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因としている
参考:高次脳機能障害診断基準ガイドライン(厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部国立障害者リハビリテーションセンター)
治療とリハビリは年単位になることもある
高次脳機能障害では、手術や薬剤投与のような治療ではなく、今後の日常生活に適応するためのリハビリ治療が行われることがほとんどです。
なお、骨折など高次脳機能障害以外のケガを負っている場合は、先にそちらの治療を行い、あとから高次脳機能障害の治療を行うことになるでしょう。
具体的なリハビリ内容は症状によって異なります。ここでは記憶障害・注意障害のリハビリ例を紹介します。
リハビリの例(1)記憶障害
記憶障害の評価は、日常生活にどのような支障が生じているかの聞き取り調査や、以下のような検査を基に行われます。
- 全般的記憶検査:WMS-R(ウェクスラー記憶検査)
- 言語性記憶検査:三宅式記銘力検査
- 視覚性記憶検査:ベントン視覚記銘力検査、REY図形テスト
- 日常記憶検査:RBMT(リバーミード行動記憶検査)
記憶障害の程度について評価が終われば、評価にあわせて訓練が開始されます。
たとえば、以下のような訓練を行うことになるでしょう。
- 記憶力テストを反復する
- 学修によって記憶力を改善させ、症状を緩和する
- 日記やメモ、ICレコーダーでの録音を習慣づける
リハビリの例(2)注意障害
注意障害の評価は、以下のような検査を基に行われます。
- 覚醒度のチェック(傾眠傾向や易疲労性、雑音への耐性等をチェックする)
- 日常生活や職業場面での行動観察(面接を行う、生活の場面を観察する)
- CAT・CAS(標準注意検査法・標準意欲評価法を用いたテスト)
注意障害の程度について評価が終われば、評価にあわせて訓練が行われます。
例としては、以下のような訓練が挙げられます。
- パズルや教育関連テキスト、注意力テキストを解く
- 徐々に刺激の多い環境に身を置くようにする
高次脳機能障害は治療しても完治することは難しいとされています。
ただし、早期にリハビリ治療を開始することである程度の回復は見込めるため、医師に症状を詳しく伝え、適切な治療を行ってもらうようにしましょう。
ポイント|治療費・休業損害は並行して請求できる
交通事故の治療費は、加害者側の任意保険会社が治療と並行して直接病院に支払ってくれるケースが多いです。高次脳機能障害でリハビリ治療を行っている場合も、基本的には同様の扱いを受けられるでしょう。
ただし、被害者側で治療費を一旦立て替えるケースもあります。その場合は、健康保険や自身の保険を活用し、経済的な負担を軽減しましょう。
また、休業損害(交通事故の影響で仕事を休んだため減った収入の補償)も、治療と並行して支払ってもらえるケースがあります。
休業損害の支払いを受けられるのであれば、月ごとに加害者側の保険会社に請求手続きを行いましょう。
高次脳機能障害のリハビリ治療は長期化することも多いので、請求をする際には関連記事を参考にしてください。
関連記事
- 治療費について:交通事故被害者の治療費は誰が支払う?
- 休業損害について:交通事故の休業損害|計算方法を職業別に網羅
後遺障害認定の申請に向けた準備を始める
治療を続けているうちに、ある一定のところまで回復したものの、これ以上治療しても症状が改善しない状態を迎えることになります。この状態を「症状固定」といいます。
医師から「症状固定」の診断を受けたら、後遺障害認定の手続きに向けて準備しましょう。
高次脳機能障害の症状固定まではどれくらい?
脳外傷による高次脳機能障害は、事故直後の急性期に重篤な症状が出現し、時間の経過と共に軽減傾向がみられることがほとんどとされています。
高次脳機能障害の場合は慎重な判断が必要とされ、症状固定まで1年程度の時間を要するケースも多いです。症主治医の見解を聞きながら治療を続けていくことになるでしょう。
後遺障害等級認定の手続きが必要な理由
後遺障害認定とは、交通事故によって残った後遺症が、自賠責法で定められた「後遺障害等級」に該当すると認められることです。
後遺障害等級は1級から14級まであり、どの等級に認定されるかによって、請求できる「後遺障害慰謝料」や「逸失利益」の金額が大きく変わります。
いいかえれば後遺障害等級認定を受けることが出来ないと、後遺障害慰謝料や逸失利益は原則認められません。
後遺障害等級認定の申請手続きは専門知識が必要となってくるため、交通事故の賠償問題に精通した弁護士への相談・依頼がおすすめです。
どういった資料を準備するべきか、目指すべき等級は何級なのかなど見解を聞いておきましょう。
高次脳機能障害による後遺障害等級認定手続きの注意点
後遺障害等級認定は原則書面のみで進むため、申請書類を充実させることがポイントです。
高次脳機能障害の場合、医師から見た障害の程度の所見のほか、周囲から見た症状と日常生活への影響に関する情報提供が申請時に必要という特徴があります。
高次脳機能障害は目に見えない障害であり、客観的な評価方法が確立していない場合もあるので、周囲の報告書が障害の内容を把握・検討するうえで重要になるのです。
特に高次脳機能障害における後遺障害等級の審査では家族による報告書が重要といえます。
家族による報告書は後遺障害認定の申請をする段階で記入することになりますが、そのときに具体的な記述ができるよう、交通事故後から被害者の変化をメモして記録しておくとよいでしょう。
事故前後の人格変化や、生じている問題などを、具体的なエピソードも含めて記録しておいてください。
高次脳機能障害では1級から14級まで幅広い等級認定の可能性があります。高次脳機能障害の等級認定基準は以下の通りです。
等級 | 認定基準 |
---|---|
1級1号 (要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2級1号 (要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
どういった症状が何級に認定されうるのかは、関連記事『高次脳機能障害で後遺障害等級認定される後遺症とは?』で詳しく解説しています。
また、高次脳機能障害での後遺障害認定を目指している方は弁護士の法律相談利用もおすすめです。
高次脳機能障害を負った被害者や家族が知っておきたいこと
交通事故で被害者が高次脳機能障害を負った場合、被害者の家族は以下の対応をするとよいでしょう。
- 被害者にどのような対応をするとよいか、医師からアドバイスを受ける
- 加害者との示談交渉における注意点を知ったうえで請求を行う
- 被害者では示談交渉や各種手続きが困難な場合、成年後見人を立てることを検討する
- 公的支援の活用も検討する
それぞれの対応について、詳しく確認していきます。
被害者への対応について
高次脳機能障害によって被害者に記憶障害、注意障害、言語障害、社会行動障害といった症状が起こると、被害者の家族はどのように対応すればよいのかわからず、不安になってしまうと思われます。
たとえば記憶障害では、被害者にメモを取る習慣をつけてもらうことで、被害者自身も日常生活が送りやすくなり、被害者の家族もサポートしやすくなるでしょう。
被害者の症状の種類や程度によって、どのような対応をすればよいのかは異なりますので、医療のプロである医師からアドバイスを受けておくことをおすすめします。
加害者との示談交渉における注意点
加害者との示談交渉において注意すべき点は以下の通りです。
- 相場の金額が計算できる算定基準により算出された金額の請求を行う
- 子供の場合は成長とともに症状が発生する可能性がある
- 示談成立前に賠償金の一部を請求できる手段がある
- 時効の成立に気を付ける
相場の金額が計算できる算定基準による金額を請求する
交通事故の示談交渉は、基本的に加害者側の任意保険会社から賠償金額が提示されることで示談交渉がスタートすることが多いでしょう。
しかし、加害者側の任意保険会社は賠償額を低く見積もって提示してくることが多い点には注意しなければなりません。
損害賠償金の費目の一つである慰謝料の金額については算定基準が3つあり、相手の任意保険会社は自賠責基準や任意保険基準に基づいて金額を提案してきます。
しかし、同じ交通事故であっても相場の金額を算出する弁護士基準により計算を行うと、慰謝料額は相手が提示する金額の2倍~3倍になることはよくあることです。
交通事故の慰謝料の算定基準
- 算定基準には、自賠責保険が使う「自賠責基準」、任意保険が使う「任意保険基準」、弁護士や裁判所が使う「弁護士基準(裁判基準)」の3種類がある。
- どの算定基準を使うかによって慰謝料の金額は変わる。
基本的には「弁護士基準>任意保険基準≧自賠責基準」となる。
相手から提示された金額をうのみせず、被害者側は、十分な賠償金を受け取るためにも、増額交渉を行っていくべきでしょう。
高次脳機能障害の慰謝料相場については、関連記事『高次脳機能障害の慰謝料と逸失利益|後遺障害等級別の賠償額と請求時の注意点』にて詳しく解説しています。
あるいは以下の慰謝料計算機なら慰謝料相場を自動計算できるので、示談前に使うと役に立ちます。
また、高次脳機能障害の場合は労働能力の喪失程度や将来の介護費などで慰謝料以外の賠償額も高額になりやすいぶん、加害者側との交渉も難航する可能性があります。
示談交渉がまとまらない場合には裁判を起こすことも検討する必要もあるでしょう。
関連記事『交通事故で高次脳機能障害を負ったら弁護士に相談!裁判例もあわせて紹介』では、高次脳機能障害の賠償問題に弁護士相談が欠かせない理由や、高次脳機能障害の裁判例を紹介しています。
【注意】子どもは成長と共に症状が症状が出ることもある
被害者が小児の場合、成長や発達に伴う環境の変化によって、社会的適応障害などが判明する場合があります。
そのため、社会的適応障害の判断ができる時期まで審査を行わない方法や、一度審査をするけれども社会的適応障害などが判明したら再請求するという考え方もあります。
加害者との示談が成立すると、こうした追加請求などは原則不可となってしまうでしょう。
下記の関連記事も参考にして、示談書の作成にあたっては障害が悪化したり、再請求できる旨の条項を盛り込んだりと、弁護士に相談の上で進めることをおすすめします。
関連記事
示談後、撤回や追加請求は可能?後遺障害があとから発覚したら?
示談成立前に一定の賠償を受ける方法がある
高次脳機能障害の場合、症状固定となるまで長い時間がかかったり、後遺障害認定の審査が長引いたり、示談交渉でもめたりして、賠償金の受け取りまで時間がかかることが多いです。
賠償金の受け取りまで時間がかかり、経済的に苦しくなりそうな場合は、以下のような方法を使ってしのぐことをおすすめします。
- 加害者側の自賠責保険に「被害者請求」を行う
- 被害者自身の保険を使う
被害者請求とは、通常は加害者側の任意保険からまとめて支払われる自賠責保険分の補償を、被害者が自賠責保険に直接請求することです。
自賠責保険から支払われる金額は法令で決まっているため、示談交渉が終わる前でも請求できます。
被害者請求の方法については、『交通事故の被害者請求とは?自賠責へ請求すべき?やり方やメリットもわかる』の記事をご確認ください。
示談成立前の時効完成にも注意
高次脳機能障害では、治療や後遺障害認定の審査、示談交渉に時間がかかるため、損害賠償請求権の消滅時効にも気を付けなければなりません。時効が完成すれば、加害者側に損害賠償を請求できなくなります。
入通院慰謝料や休業損害といった傷害部分は事故発生の翌日を時効の起算日とし、後遺障害慰謝料や逸失利益といった後遺障害部分は症状固定の翌日を起算日とします。
注意したいのは、加害者の任意保険会社や加害者本人への請求は時効起算日から5年間ありますが、加害者の自賠責保険へ直接請求できる期間は3年間となる点です。
損害賠償請求権の消滅時効(抜粋)
請求内容 | 請求先 | 時効 |
---|---|---|
傷害部分 | 任意保険または本人 | 事故発生の翌日から5年 |
後遺障害部分 | 任意保険または本人 | 事故発生の翌日から5年 |
傷害部分 | 自賠責保険 | 症状固定の翌日から3年 |
後遺障害部分 | 自賠責保険 | 症状固定の翌日から3年 |
時効の完成が近づいている場合は、弁護士に相談し、時効の完成を阻止する措置を検討するとよいでしょう。
成年後見人の選任について
高次脳機能障害で被害者の判断能力や記憶力が下がったり、情緒が安定しない状態になったりしている場合、成年後見人や保佐人、補助人を立てることも検討しましょう。
成年後見人とは、判断能力が不十分になった人の代わりに法的な判断を行う人のことです。保佐人や補助人は、成年後見人と比べると代理の範囲が狭くなります。
法的な判断には、交通事故の示談、行政への各種手続き、介護施設・福祉施設との利用契約などが含まれます。
なお、成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類がありますが、被害者の判断力がすでに不十分になっているときは法定後見制度を利用します。
成年後見人を立てる場合は、必要書類を揃えたうえで家庭裁判所で手続きを行いましょう。手続きについて詳しくは、裁判所のホームページで確認できます。
公的な支援の活用について
後遺症として高次脳機能障害が残った場合、公的支援の活用も検討しましょう。
高次脳機能障害で受けられる可能性がある代表的な公的支援は以下のとおりです。
- 障害年金の受給
- 障害者手帳の取得
- 障害者総合支援法にもとづく障害福祉サービス
なお、高次脳機能障害の公的な相談窓口・支援窓口が設けられている自治体もあるので、そちらにどのような支援が受けられるか相談してもよいでしょう。
ここからは、上記で紹介した公的支援について、詳しく確認していきます。
障害年金について
障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があります。初診日に国民年金の被保険者だった場合は障害基礎年金を受給でき、厚生年金の被保険者だった場合は加えて障害厚生年金を受給できます。
初診から1年6か月経過した時点の症状が認定基準に該当すれば、障害年金の受給が可能です。なお、障害年金の認定基準と後遺障害等級の認定基準は異なります。
詳しい申請方法や受給条件については、障害基礎年金の場合は各市町村の窓口、障害厚生年金の場合は年金事務所または年金相談センターに相談するとよいでしょう。
なお、交通事故の損害賠償金を受け取った場合、一定期間は障害年金の支給が停止されるといった形で調整がされる点には注意が必要です。
障害者手帳について
障害者手帳には「精神障害者保健福祉手帳」「身体障害者手帳」「療育手帳」の3種類があり、高次脳機能障害の場合は障害の状況や受傷時期に応じて取得できる手帳の種類が変わります。
たとえば、精神障害者保健福祉手帳の場合、精神障害によって日常生活・社会生活に長期の制限がある方が対象となっており、その制限の度合いによって等級が1級~3級にわけられています。なお、手帳の取得には初診日から6か月以上経過していることが必要です。
精神障害者保健福祉手帳を取得したい場合は、居住する市区町村の窓口にご相談ください。
障害者手帳を取得したことで受けられる支援には、主に以下のようなものがあります。
受けられる主な支援
- 所得税・住民税・相続税の控除
- 生活福祉資金の賃付
- 障害者職場適応訓練
- 福祉手当の受給※
- 公共料金(公共交通機関の運賃、上下水道料金など)の割引※ など
なお、地域や等級によって受けられる場合と受けられない場合があります。
高次脳機能障害で障害者手帳の取得を検討される場合は、関連記事『高次脳機能障害の場合、障害者手帳は取得できる? 取得条件と申請方法は?』もあわせてご確認ください。
障害者総合支援法にもとづく障害福祉サービスについて
障害者手帳の有無に関係なく、以下のような障害者総合支援法にもとづく各種の障害福祉サービスを受けられる可能性もあります。
受けられる主な支援
- 介護給付(居宅介護、重度訪問介護など)
- 訓練等給付(自立訓練、就労移行支援など)
- 地域生活支援事業
- 相談支援事業
- 補装用具の給付 など
受けられる支援内容について、詳細は各自治体にご確認ください。
交通事故で高次脳機能障害となった場合は弁護士に相談を
弁護士に相談するメリット
交通事故により高次脳機能障害となった場合には、弁護士に相談・依頼を行うことをおすすめします。
弁護士に相談・依頼を行うことで以下のようなメリット受けることが可能です。
- 適切な後遺障害等級認定を受けられるようサポートしてもらえる
- 加害者側からの連絡を弁護士が受けてくれる
- 示談交渉に必要な証拠の収集を手伝ってもらえる
- 適切な賠償金額となるように示談交渉を行ってもらえる
交通事故による高次脳機能障害となった場合には、被害者の生活を回りがサポートする必要があります。
さらに、損害賠償金額が高額になりやすいことから、加害者側がシビアに交渉してくる可能性が高いため、適切な証拠に基づいた主張が欠かせません。
生活に関してサポートが必要な状態で証拠の収集や示談交渉を自力で行うことは容易ではないので、専門家である弁護士に依頼してサポートを受けるべきでしょう。
弁護士に依頼することで、自力で行う必要がある手続きを弁護士が主体的に行ってくれるため、肉体的・精神的な負担を大きく減らしつつ、適切な賠償金を得ることが可能となるのです。
【無料】法律相談の予約を24時間受付中
アトム法律事務所では、交通事故被害者の方を対象とした無料法律相談を行っています。
金銭的な負担なく、交通事故案件の経験が豊富な弁護士に相談することが可能です。
また、依頼の際も原則として着手金が無料となっているので、お手元のお金が不安な方も安心して依頼することができます。
法律相談の利用にあたっては、まず相談予約をお取りいただいております。相談のご予約は24時間受け付けているのでいつでもご連絡ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了