交通事故で障害年金はもらえる?損害賠償との支給調整や申請時の注意点
更新日:
交通事故に遭って後遺症が残った場合、障害年金の対象になることがあります。
しかし、実際に障害年金を申請しようとすると、「交通事故が原因でも対象になるの?」「後遺障害等級が低くてももらえる?」「損害賠償との関係はどうなる?」といった疑問や不安がたくさん出てくるものです。
交通事故による後遺障害が認定されたからといって、自動的に障害年金の対象になるわけではありません。障害年金には厳密な要件と申請手続きがあり、たとえ障害年金が受給できたとしても損害賠償との調整(支給停止や損益相殺)が行われるケースもあります。
この記事では、交通事故で障害年金を受け取れるケース、損害賠償との関係、申請時の注意点について解説します。
目次

そもそも障害年金とは?
障害年金とは、病気やケガによって生活や仕事に支障が出たときに支給される公的年金です。
老齢年金や遺族年金と並ぶ国の「公的年金制度」のひとつである障害年金は、一定以上の障害状態にある人に対して支給される給付金となります。
なお、交通事故の被害者が受け取れる損害賠償とは異なり、障害年金は社会保障として位置づけられているものです。
障害年金の特徴
障害年金には、以下のような特徴があります。
- 一定以上の障害状態であれば、原因が事故・病気にかかわらず支給対象となる
- 国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」が請求可能
- 厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」が請求可能
- 受給のためには、初診日要件・障害認定日要件・保険料納付要件の条件を満たす必要がある
- 障害の程度に応じて等級が決まる
- 障害基礎年金:1級、2級
- 障害厚生年金:1級~3級
障害年金は「誰でも申請すればもらえる」わけではなく、制度上の要件をクリアして初めて受給できるものになります。
ポイント
交通事故による後遺障害であっても、症状が社会生活に影響していれば障害年金の対象になり得ます。
障害年金の対象となる条件
障害基礎年金または障害厚生年金を受給するには、それぞれ以下の3つの条件を満たしている必要があります。
障害基礎年金の条件
条件 | 内容 |
---|---|
初診日要件 | 病気やけがで初めて医療機関を受診した時点で、国民年金に加入していた※ |
障害認定日要件 | 障害等級表1級または2級に該当していること |
保険料納付要件 | 原則、初診日の前々月までに保険料納付済期間と保険料免除期間があわせて2/3以上あること |
※20歳前または日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間も対象
参照:日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」
障害厚生年金の条件
条件 | 内容 |
---|---|
初診日要件 | 病気やけがで初めて医療機関を受診した時点で、厚生年金に加入していた |
障害認定日要件 | 障害等級表1級~3級に該当していること※ |
保険料納付要件 | 原則、初診日の前々月までに保険料納付済期間と保険料免除期間があわせて2/3以上あること |
※障害認定日より後に障害が重くなったときは、障害厚生年金を受け取れる可能性あり
参照:日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」
交通事故で負傷した場合も、これらの要件を満たしていれば障害年金の受給が可能です。
等級認定に必要な後遺症とその判断基準
障害年金の支給には、「障害等級」の認定が必要です。交通事故で障害年金を受け取るには、原則として以下のいずれかの状態に該当していなければなりません。
障害等級 | 生活・労働への影響の目安 |
---|---|
1級 | 他人の介助がなければ日常生活が困難。 (例)寝たきりや重度の知的障害など。 |
2級 | 自力での生活が困難で、労働による収入を得ることができない。 (例)重度のまひ・精神疾患など。 |
3級※ | 労働に著しい制限がある、または労働に著しい制限を加えることを必要とする。 (例)義足などで軽作業ができるレベル。 |
※厚生年金加入者のみ
等級は、身体の部位や機能障害の程度をもとに、障害基礎年金なら1級あるいは2級、障害厚生年金なら1級~3級にわけられます。
等級ごとの障害年金の受給金額の目安
実際に受け取れる障害年金の金額は、加入していた年金制度や収入、扶養家族の有無によって変わります。
国民年金加入者が受け取れる障害基礎年金は、おおよそ以下の金額となります(2024年度時点)。
障害基礎年金
等級 | 年額 |
---|---|
1級 | 約104万円 |
2級 | 約83万円 |
子の加算額※ | + |
2人まで | 1人約24万円 |
3人目以降 | 1人約8万円 |
※18歳になった後の最初の3月31日までの子、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある子
参照:日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」
たとえば、障害等級1級で子が3人いた場合、障害基礎年金は約160万円(=約104万円+約24万円×2人+約8万円)となります。
また、厚生年金加入者が受け取れる障害厚生年金は、以下の計算式で算出されます。
障害厚生年金
等級 | 年額 |
---|---|
1級 | 報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金額※1 |
2級 | 報酬比例の年金額+配偶者の加給年金額※1 |
3級 | 報酬比例の年金額※2 |
※1 65歳未満の配偶者がいるとき加算
※2 最低保証額約62万円
参照:日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」
報酬比例とは、厚生年金に加入する人が受け取る年金額の一部のことで、加入期間や収入に応じて決まります。したがって、障害基礎年金と違って、障害厚生年金は過去の収入により個人差があるので注意してください。
交通事故による後遺障害でも障害年金の対象になる?
交通事故の被害者が陥りやすい誤解のひとつに、「後遺障害等級が認定されているなら、自動的に障害年金ももらえるはず」というものがあります。
もちろん、交通事故で負ったケガや後遺障害も、条件を満たせば障害年金の対象です。
しかし、自賠責保険や労災保険で認定される「後遺障害等級」と障害年金の「障害等級」は、まったく別の基準で決まっていることに注意せねばなりません。
後遺障害と障害年金の関係
後遺障害と障害年金は別ものの基準と捉えておくべきでしょう。両者は認定機関や認定基準、認定の目的が異なるからです。
まず、後遺障害は、交通事故で残存した後遺症に対して損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)が「後遺障害等級」として認定します。後遺障害に対する賠償である後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求する際に後遺障害等級は必要になります。
一方、障害年金は、「障害等級」に認定されることで受け取れるようになる年金制度に基づく公的給付です。
比較項目 | 後遺障害等級 | 障害等級 |
---|---|---|
認定機関 | 損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所) | 日本年金機構 |
評価基準 | 部位別・程度別の障害 | 日常生活や就労能力の支障 |
主な目的 | 損害賠償(慰謝料や逸失利益)の算定 | 国の生活保障制度としての年金支給 |
等級範囲 | 1級〜14級 | 1級〜3級※ |
対応 | 軽傷(むちうち等)も14級で認定される可能性あり | 原則、軽症では認定されない |
※国民年金は1級~2級まで
たとえば、後遺障害3級が認定されたとしても、それだけで障害等級の3級に該当するとは限りません。障害年金の審査では、日常生活や労働能力への具体的な支障がどれほどかを中心に判断されるからです。
まとめ
- 後遺障害等級は損害賠償の評価基準であり、障害年金の支給とは直接関係しない
- 認定基準が異なるため、後遺障害等級が認定されても障害年金が支給されないことは多い
どんなケースで受給できる?対象となる主な後遺症
障害年金の対象となる病気やケガは主に、外部障害・精神障害・内部障害に分けられます。
このうち、交通事故で障害年金の対象になる典型的なケースは、以下のような後遺障害です。
- 脳損傷による高次脳機能障害(記憶障害、注意障害、人格変化など)
- 脊髄損傷による四肢麻痺や排泄機能障害
- 視力・聴力の著しい低下や喪失
- 義足・義手等の装着が必要な切断障害
- 重度の外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ状態
交通事故でよく見られる「むちうち」や「軽度の痛み・しびれ」といった後遺障害は、障害年金の対象外になるのが実情です。
関連記事
症状ごとの後遺障害等級の認定基準や適切な等級を獲得する方法を解説
後遺障害14級やむちうちで障害年金はもらえる?
交通事故の被害者で最も多いのが「むちうち(頸椎捻挫など)」による後遺障害14級、まれに後遺障害12級の認定です。しかし、むちうち程度の障害では、通常、障害年金の対象にはなりません。
障害年金の支給対象となるためには、日常生活において介助が必要だったり、労働が著しく制限される程度の障害があることが前提です。
むちうちは多くの場合、一定期間の治療で回復するか、回復しなくても軽度の痛みやしびれといった症状にとどまるため、障害年金の障害等級に該当しないと判断されるのが通常でしょう。
関連記事
交通事故の損害賠償でもらったお金と障害年金は両方もらえる?
交通事故で後遺障害が残った場合、加害者に損害賠償を請求できる一方、障害年金といった公的年金も受け取れる場合もあります。
ただし、損害賠償と障害年金は一定の関係性があり、二重取りにならないように障害年金が「支給調整」されたり、損害賠償が「損益相殺」されたりする場合があるでしょう。
損害賠償と障害年金の支給調整(支給停止)
交通事故の損害賠償金(特に逸失利益や将来の介護費など)は、加害者側が支払う損害の回復を目的とした金銭です。一方、障害年金は「公的な生活補償」としての側面があります。
交通事故が起きた場合、被害者はこれら2つの請求権を持つことになりますが、同じ理由で両方から補償を受ける(いわゆる「二重取り」)ことはできません。国の制度としては「二重に補償するのは不適当」と判断されるためです。
損害賠償を受け取った場合、障害年金が一定期間、支給停止されることにより、補償の重複を避けるための調整が行われます。
具体的に解説|どの部分が支給調整の対象?
損害賠償として支払われる金額のうち、年金と重なる「生活補償」にあたる金額だけが支給停止の対象になります。
支給調整の対象になる可能性のある損害賠償の内訳は、主に以下の通りです。
損害賠償の内訳 | 支給調整の対象 |
---|---|
逸失利益 | 対象 |
休業損害 | 対象 |
医療費 | 対象外 |
慰謝料 | 対象外 |
つまり、生活費を補う目的である逸失利益・休業損害などの損害賠償金を受け取ると、障害年金の一部または全部が支給停止されることがあります。
一方、治療費や慰謝料など、年金とは性質の異なる項目については、基本的に支給調整の対象にはなりません。
障害年金と損害賠償の損益相殺
障害年金をすでに受給していた場合、損害賠償請求において損害賠償額を減額するための損益相殺(そんえきそうさい)が行われます。
これは公平の見地から行われるもので、民法に明記されていませんが、「被害者がすでに公的な補償を受けている以上、同じ損害を二重に賠償する必要はない」とする裁判所の考え方に基づいています。
裁判例
労働者災害補償保険法及び厚生年金保険法に基づく各種給付又は年金は、それぞれの制度の趣旨目的に従い、特定の損害について必要額をてん補するために支給されるものであるから、てん補の対象となる特定の損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当であり、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、これらが支給され、又は支給されることが確定することにより、そのてん補の対象となる損害は不法行為時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当である。
大阪地裁 平成19年(ワ)第12968号 平成23年10月5日判決
この判決では、被害者が交通事故によって重度の後遺障害を負い、労災保険や年金を受け取った場合に、それらが損害賠償額から差し引かれるべきか(損益相殺)について裁判所が判断しました。
裁判所は、労災や年金の給付は損害と同じ性質を持ち、同じ目的で支払われるものであれば損害賠償と重複してはいけないとして「損益相殺」を認めました。特別な事情がなければ、被害者が事故後に受け取った給付がある場合、それを事故時に補償されたものとして扱い、損害額から引かれるとしました。これは被害者が二重に利益を得ないようにするための考え方です。
保険会社から損益相殺を主張されたら注意
障害年金をすでに受け取っているケースでは、加害者側の任意保険会社が「障害年金を受け取っているから損失は少ない。損益相殺にあたる。」と賠償額を下げる交渉をしてくることがあるでしょう。
法的に妥当な損益相殺である場合もありますが、単に便乗して被害者が本来受け取るべき金額よりも不当に低く見積もっている可能性も考えられます。
下げられた金額が妥当な損益相殺であるかどうかは、法律の専門家である弁護士に相談してみましょう。

交通事故による障害年金の申請方法
交通事故によって後遺障害が残った場合、障害年金を受給するには所定の手続きを踏んで申請する必要があります。
特に、交通事故は「第三者行為(加害者が存在する事故)」であるため、通常の障害年金とは異なり、特有の手続きや追加書類が求められる点に注意が必要です。
ここでは、申請時に必要な書類や注意点、手続きの進め方について詳しく解説していきます。
障害年金の申請に必要な書類一覧
障害年金の申請には、複数の書類が必要です。漏れのないようにひとつひとつ確認しましょう。
書類名 | 内容と注意点 |
---|---|
年金請求書 | 年金事務所で入手。基本情報を記入。 |
本人の生年月日を明らかにできる書類 | 戸籍謄本、戸籍抄本、戸籍の記載事項証明、住民票、住民票の記載事項証明書のいずれか。 |
医師の診断書 | 障害の程度を示す最重要書類。主治医に依頼し、所定の様式に沿って作成してもらう。 |
受診状況等証明書 | 初診と診断書作成の医療機関が異なる場合に必要。 |
病歴・就労状況等申立書 | 日常生活や仕事への影響を説明する補足資料。 |
受取先金融機関の通帳等(本人名義) | 預金通帳またはキャッシュカード(コピーも可)等。 |
参照:日本年金機構「障害基礎年金を受けられるとき」、「障害厚生年金を受けられるとき」
障害基礎年金と障害厚生年金で必要な書類は大まかには共通しています。
また、交通事故が原因で障害が残った場合には、これらに加えて「第三者行為事故状況届」が必要です。
交通事故の場合さらに「第三者行為事故状況届」が必要!
第三者行為災害により障害年金を請求するには、通常の年金請求書に加えて、以下の書類の提出が必要です。
主な提出書類一覧
書類名 | 内容・役割 |
---|---|
第三者行為事故状況届 | 事故の状況や損害の概要を記載 |
交通事故証明書、示談書など | 事故が確認できる書類 |
損害賠償金の算定書 | 生活補償部分の金額がわかる資料 |
同意書 | 保険会社などから情報を得るために必要 |
損害賠償の支払い元となる保険会社は、原則として本人の同意がないと年金機構に情報提供できません。必ず「同意書」を添えて情報の照会を行います。
診断書の注意点|医師に伝えるべきこと
診断書は、障害年金の認定において最も重要な書類です。医師が実態を把握できていないと、必要な情報が記載されず、意図しない等級や不支給の判断が下されることもあります。
医師に正確に伝えるべき内容
- 障害によってできなくなった日常生活の具体例(着替え、買い物、階段の上り下りなど)
- 就労における制限(職場復帰の困難、業務内容の制限など)
- 交通事故以前との生活の変化や不調を感じる場面
- 継続的な治療やリハビリの有無・頻度
診断書の内容が「軽度」と判断されると、実際の障害が重くても低い等級や不支給となる可能性があります。主治医とのコミュニケーションが非常に重要です。
申請の流れとスケジュール目安
障害年金の申請には、準備から支給決定まで数ヶ月かかるのが一般的です。以下は、おおまかな流れと期間の目安です。
- 必要書類の収集
医療機関・年金事務所・自分で用意。 - 書類作成・完成
記入・内容の確認・提出準備。 - 書類を提出
障害基礎年金の提出先:住所地の市区町村役場の窓口など
障害厚生年金の提出先:お近くの年金事務所または街角の年金相談センター - 審査・決定
日本年金機構による審査。期間の目安は通常3〜4ヶ月(※混雑時はそれ以上)。 - 支給開始
認定された場合、原則として認定日の翌月分から支給開始。
申請から結果が出るまで、合計で4〜6ヶ月以上かかるケースも多いため、事故からの時間や初診日からの経過に注意して、早めに準備を始めることが重要です。
交通事故で障害年金を申請する際に注意すべきポイント
障害年金の申請には、正確な知識と書類の準備が必要です。障害年金の申請では、「初診日」と「障害認定日」が非常に重要な基準となります。
申請時にチェックすべきポイント
- 初診日の証明
申請前に「どこの病院をいつ受診したか」を明確にすることが重要。 - 診断書の内容
障害の程度が日常生活にどれほど影響しているかが重要なので、医師に正確な症状を伝え、必要な情報が記載されるようにする。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
初診日とは?
初診日とは、交通事故により障害の原因となった傷病について、初めて医療機関を受診した日のことを指します。
たとえば、事故後すぐに整形外科を受診した場合はその日が初診日になります。また、事故直後は病院に行かず、数日経ってから初めて医師に診てもらった場合は、その受診日が初診日になります。
初診日を証明できるカルテや診療明細、領収書などは大切に保管しておきましょう。初診日が証明できないと、申請自体ができない場合もあるからです。
障害認定日とは?
障害認定日とは、文字通り障害に認定された日を指し、初診日から1年6ヶ月以上経過している必要があります。この時点の障害の程度で、障害年金を受給できるかどうかが判断されるのです。
ただし、「1年6ヶ月より前に症状固定となった場合」や「人工関節装着」、「切断」など一部のケースでは、1年6ヶ月を待たずに認定を受けられる例外もあります。
【コラム】障害年金の申請でよくある失敗と対処法
障害年金の申請は要件が複雑なうえ、書類不備や情報不足によって「不支給」や「低い等級」に認定されてしまうケースが少なくありません。ここでは、代表的な失敗パターンとその対処法をご紹介します。
よくある失敗例とその原因
失敗パターン | 主な原因 |
---|---|
不支給になる | 初診日があいまい 初診日を証明する資料がない |
想定より等級が低い | 医師が障害の実態を正確に把握していない 申立書の内容が抽象的 |
書類の内容に不備 | 必要な書類が欠けている 日付や内容に食い違いがある |
障害年金の申請は、入念な事前の準備が欠かせません。
不支給や等級に不満があるときの対応
障害年金の申請結果に不服がある場合、「審査請求」といった不服申し立てが可能です。審査請求は、決定を知った日の翌日から3ヶ月以内という期限があるため、速やかな対応が求められます。
また、審査請求の決定にも不服がある場合、「再審査請求」も可能です。再審査請求は、決定書の謄本が送付された日の翌日から2ヶ月以内に行う必要があります。
- 審査請求:申請結果に不服がある場合、3ヶ月以内に異議申し立てが可能
- 再審査請求:審査請求の決定に不服がある場合、2ヶ月以内にもう一度申請できる
一度の不支給であきらめる必要はありません。状況に応じた適切な対応で受給に至るケースも多くあります。
交通事故の障害年金に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、交通事故後に障害年金の申請を検討している方からよく寄せられる疑問について、わかりやすくお答えします。
Q.交通事故で障害年金が却下されやすいケースはある?
交通事故絡みの案件では以下のようなケースで障害年金の申請が却下されることがあるので、正確な対応が不可欠です。
却下リスクが高い | 説明 |
---|---|
初診日が特定できない | 整骨院のみ通っていたなど、医師による記録がない場合は不利 |
症状固定前の申請 | 障害認定日が訪れていない・固定していないと却下される |
書類不備・診断書内容の不一致 | 医師の記載ミスや日常動作への支障が明記されていないなど |
症状が軽度で、等級に該当しない | 交通事故で多いむちうちは対象外と判断されやすい |
Q.事故後しばらく経っているが、障害年金の申請はできますか?
障害認定日から時間が経過していても、障害の程度が障害等級に該当し、必要な条件を満たしていれば、申請することはできます。
障害の状態がわかる診断書を用意しましょう。
ただし、5年以上経過している場合は、時効によって請求できません。
Q.過去に年金を払っていない時期があるけど、受給できますか?
未納期間があっても、一定の保険料納付要件を満たしていれば受給可能です。
保険料納付要件は、「原則、初診日の前々月までに保険料納付済期間と保険料免除期間があわせて2/3以上あること」です。
要件を満たしているか確認するには、年金事務所で「納付記録」を取り寄せましょう。
Q.自分で申請するか、弁護士に頼むか迷っています。
障害年金の対象になることが明らかな場合は、自分で申請も可能です。
ただし、以下に当てはまる方は弁護士への相談がおすすめです。
- 申請に必要な書類の収集、申請書の作成に不安がある
- すでに不支給や却下の通知を受けた
- 加害者側との損害賠償交渉も同時に進めたい
弁護士なら、障害年金と損害賠償の「支給調整」や「損益相殺」まで含めたアドバイスが可能です。
Q.交通事故の障害年金は結局いくらもらえるの?
障害年金の金額は、認定された障害等級や加入していた年金の種類等によって異なります。
たとえば、国民年金加入者で障害等級2級に認定されれば、障害基礎年金は年間約83万円程度が目安です。厚生年金加入者の場合は、加入期間や過去の収入に応じて算定されるので個人差があります。
Q.後遺障害14級で障害年金は申請できますか?
申請すること自体は可能ですが、14級のむちうちレベルでは支給に至る可能性は低いと考えられます。
障害年金では、日常生活や労働能力への支障の度合いが重視され、14級のような軽度の後遺症は該当しにくいためです。ただし、軽度の障害だと思っていても、例外的に認定される可能性もあるため、検討の余地はあるでしょう。
Q.交通事故の障害年金と損害賠償はどう調整されますか?
障害年金と損害賠償は、「生活補償」にあたる金額が重複しない範囲で調整したうえ、両方から受け取れます。
たとえば、損害賠償の逸失利益の算出時に、障害年金の受給実績を考慮して減額(損益相殺)される可能性があります。これが損害賠償との「調整」です。判断には法的な知識が必要なため、弁護士の関与が重要です。
Q.損害賠償請求で、障害年金は損益相殺の対象になりますか?
生活補償にあたる逸失利益や休業損害について、障害年金の損益相殺の対象になります。
実際の判断は裁判例にもとづきますので、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
Q.交通事故が原因で受け取っていた障害年金が支給停止になることは?
以下のような場合、障害年金を支給停止される可能性があります。
- 障害の状態が改善した
- 交通事故の損害賠償や労災による補償との調整が行われるとき
- 一定期間、更新手続き(診断書の提出)がされなかったとき
- 定期的な再審査(更新)で支給打ち切りと判断された
定期的な診察・診断書作成をしっかり行うことが大切です。
まとめ|交通事故で障害年金がもらえるかどうかは個別判断が必要
交通事故によって後遺障害が残った場合、その症状が重く生活や仕事に支障をきたしていれば、障害年金の受給対象となる可能性があります。ただし、障害年金の受給には「初診日要件」、「障害認定日要件」、「保険料納付要件」といったクリアしなければならない複数の条件があります。
また、交通事故との因果関係の証明や、診断書の記載内容など、実務的なハードルも高く、専門的な知識が必要な場面が多いのが現実です。
交通事故と障害年金の疑問は専門家に相談を
交通事故による後遺障害と障害年金、さらには損害賠償との関係は非常に複雑です。特に、「障害年金をもらうと損害賠償が減るのでは?」という誤解も多く、医師や弁護士などの専門家との連携が重要です。
まずは弁護士による無料相談などを活用し、自身のケースに合った正しい情報を得ることから始めましょう。
アトム法律事務所では、交通事故でお怪我をされた方を対象に無料の法律相談を実施中です。相談の受け付けは24時間365日いつでも対応中なので、気軽にお問い合わせください。

こんな方はまずご相談ください(チェックリスト)
アトム法律事務所では交通事故に強い弁護士による相談サポートを行っています。
以下のようなお悩みに1つでも当てはまる方は、弁護士への相談を強くおすすめします。
- 交通事故によって後遺障害が残ったが、障害年金の申請をどうすればいいかわからない
- すでに年金を申請したが不支給や低い等級に納得できない
- 自賠責保険の後遺障害認定で障害年金の申請が通るか不安
- 障害年金をもらったことで、損害賠償の金額が減ると聞いて動揺している
- 加害者側の任意保険会社との交渉で不利な条件を提示されて困っている
- 労災・任意保険・障害年金など、どの保険や制度を使うのが最善かわからない
ご自身やご家族が交通事故によって後遺障害を負い、今後の生活に不安を感じているなら、まずは一度ご相談ください。あなたの状況に合った最適な制度活用と、適切な補償を受け取る方法を一緒に考えます。




高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了