自賠責保険とは?請求方法と必要書類の書き方!被害者請求や加害者請求も解説
更新日:

新たに改正民法が施行されました。交通事故の損害賠償請求権に関するルールに変更があります。
自賠責保険とは、交通事故の被害者を救済するための保険です。事故を起こした際、被害者が最低限の補償を受けられるように、強制加入とされています。
自賠責保険のほかに運転手自身で任意保険に加入していることも多く、ほとんどのケースでは任意保険から支払われる賠償金に自賠責保険分も含んで受け取ります。
ただし、必要に応じて事故の当事者自らが自賠責保険に請求していくこともあります。その際は、自賠責保険に事故発生を報告して請求手続きを進めねばなりません。
加害者の自賠責保険に損害賠償請求する方法として「被害者請求」や「仮渡金請求」、自身の自賠責保険に損害賠償請求する方法として「加害者請求」があります。
自賠責保険へ請求する3つの方法について理解し、自賠責保険への請求手続きの進め方や必要書類の詳しい書き方・集め方を知りましょう。
目次
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自賠責保険への請求方法と必要書類の書き方
自賠責保険への請求方法は3つ
自賠責保険への請求方法には、被害者請求、仮渡金請求、加害者請求の3つがあります。
- 被害者請求
示談金のうち、相手の自賠責保険会社の支払い分のみ示談成立前に請求 - 仮渡金請求
ケガの程度に応じた金額を示談金から前払いする形で相手の自賠責保険会社に請求 - 加害者請求
事故の相手に自分で支払った賠償金を、自分の自賠責保険会社に立て替え請求
それぞれでもらえる費目や金額が異なるほか、請求の目的も異なってくるので、ご自身が何を請求するのかを明らかにしておきましょう。
自賠責保険への請求における必要書類の書き方と集め方
請求書類は自賠責保険会社ごとに書式があるので、ご自身が請求する自賠責保険会社に連絡をして、書式を手配してもらいましょう。
被害者請求や仮渡金請求をする方は相手の自賠責保険会社に連絡をして書類をもらってください。
加害者請求をする方は、ご自身の自賠責保険会社に連絡をして書類をもらいましょう。
なお、被害者請求・仮渡金請求・加害者請求など請求方法によって必要な書類もあれば、不要な書類もあります。自賠責保険会社から送付された必要書類一覧をよく読んでおきましょう。
また、弁護士に委任している場合は書類の収集や作成を一任できるケースもあります。委任している弁護士に確認してみてください。
ここからは自賠責保険への請求にかかわる主な書類と書類の書き方を解説します。
支払請求書
支払請求書は、被害者請求・仮渡金請求・加害者請求のいずれも必要です。
支払請求書の書式にもよりますが、順番に書き方をみておきましょう。
なお、請求者や加害運転者欄などは交通事故証明書の内容と一致することを確かめるようにしてください。
- 【請求内容】欄(書式上部にあることが多い)
- 保険金(加害者請求)、損害賠償金(被害者請求)、仮渡金の3つから選択してください。
- 【請求者】欄
- 請求者の情報を書き入れてください。
- 弁護士に依頼している被害者は、弁護士の名前・事務所などの所在地を書き、被害者との関係は「その他」または「受任者」を選んでください。
- 【加害者情報】欄
- 被害者請求や仮渡金請求においては、わかる範囲で記載してください。
- 保険契約者とは請求する自賠責保険の加入者をいいます。
被害者請求や仮渡金請求なら加害者の情報、加害者請求の場合は自身の情報を記載します。
- 自賠責保険の証明書番号は、被害者請求や仮渡金請求ならば加害者の情報、加害者請求の場合はご自身の情報を記載してください。
- 加害者が他人から車を借りていた場合や業務中だった場合は、その車の持ち主や雇用主を「保有者」欄に書きます。
- 【被害者情報】欄
- 住所や氏名が、請求者と同じであれば、「請求者に同じ」と記載しても構いません。
弁護士に依頼している場合は被害者ご本人の情報を記載する流れです。 - 職業欄はかならず記載してください。
- 住所や氏名が、請求者と同じであれば、「請求者に同じ」と記載しても構いません。
- 【支払い先】欄
- 請求者の希望する保険金の振込先を記載します。
- 弁護士に委任している場合は、一旦弁護士事務所などが受領するかたちになることが多いので、基本的には弁護士や弁護士法人の振込先を記載してください。
交通事故証明書
交通事故証明書は、被害者請求・仮渡金請求・加害者請求のいずれの請求でも必要となります。
交通事故証明書は自動車安全運転センターで取り寄せが可能です。警察署や交番に置いてある交付申請用紙をもらい、必要事項を記入のうえ、交付にかかる料金を振り込みます。
郵送には10日ほどかかりますので、急ぎの場合は、直接自動車安全運転センターに交付の申請をおこないましょう。
なお、交通事故証明書は任意保険会社がすでに取得している場合もあります。任意保険会社に問い合わせれば送ってもらえることもありますが、送付時期がはっきりせず、到着が遅くなることも考えられます。急ぎであればご自身で申請しておくことが無難でしょう。
交通事故証明書の入手方法について詳しく知りたい方は『交通事故証明書のもらい方は?後日取得やコピーの可否も解説』の記事をご覧ください。
印鑑証明書
請求者本人の印鑑証明書が必要になりますので、用意しておきましょう。写しではなく、原本が必要です。
事故発生状況報告書
事故発生状況報告書は、被害者請求・仮渡金請求・加害者請求のいずれも必要で、書式は自賠責保険会社から送られてくるセットに入っています。
信号の色などは細かく指定しておき、わかる範囲で事故状況図を描いてください。
後日自賠責保険から連絡を受けて、補足説明をする必要が出てくることがあります。弁護士に委任している場合は、きちんと事故状況を弁護士に伝えてください。
休業損害証明書
休業損害証明書は、休業損害を請求するためのもので、被害者請求もしくは加害者請求の際に必要になる書類です。
仮渡金請求はケガの程度によって一定の金銭を補償されるものなので、休業損害の請求には適しません。
休業損害証明書は、勤め先の総務部などの担当部署に記載してもらうことになります。
休業損害証明書の記載内容に関する詳しい解説は、関連記事『休業損害証明書の書き方を解説!誰が書くのか、いつ提出するかもわかる』をお読みください。

なお、自営業者は納税証明書、課税証明書(取得額の記載されたもの)または確定申告書などの所得がわかる資料が必要です。
診断書・診療報酬明細書
診断書や診療報酬明細書は、被害者請求・仮渡金請求(ケガ)・加害者請求の際に必要になります。
治療を受けた病院に作成を依頼してください。
被害者請求の場合
治療と並行して加害者の任意保険会社が直接病院に治療費を支払っている場合は、こうした書類は加害者の任意保険会社がすでに取得しています。
加害者の任意保険会社に申請すると「写し」と判を押したものが送られてくるので、それを自賠責保険に提出しても構いません。
通院交通費明細書
通院交通費明細書は被害者請求または加害者請求で必要になる書類です。自賠責保険会社から書式が送られてくるので、書式に沿って記入しましょう。
タクシーや有料駐車場を利用した場合は領収書も添付する必要があります。
その他の公共交通機関を使った場合は、基本的に領収書は不要ですが、念のため保管しておくと安心です。
なお、タクシーや新幹線、飛行機、高速道路などの費用については、必要性・相当性が認められなければ請求が認められない可能性があります。
詳しくは『交通事故にあったら【交通費】と慰謝料を請求できる?』で解説しているので、徒歩・自転車・自家用車・電車やバス以外の交通手段を用いた場合は確認してみてください。
付添看護自認書または付き添い看護領収証
付添看護自認書は被害者請求または加害者請求で必要になる書類です。
誰がどこの病院に行くときに付き添ったのか、いつからいつまでの期間の間に何日付き添ったのか、入院に付き添ったのか通院に付き添ったのかなどを書きます。付添人が作成してください。
後遺障害診断書
後遺障害診断書は被害者請求または加害者請求で必要になる書類です。
懸命に治療を続けたにもかかわらず後遺症が残った場合には、後遺障害認定を受けることになります。
自賠責保険会社から取り寄せた書式または「自賠責保険の後遺障害診断書」からダウンロードしたものを医師に渡し、作成してもらいましょう。
後遺障害診断書の作成は基本的には医師に任せればよいですが、完成したものを受け取ったら、以下の点を確認してみてください。
- 自覚症状欄
- 事故後から一貫して同じ症状が継続的に続いている旨が書かれているか
- 自覚症状だけではなく、それによる影響(重いものが持てなくなったなど)が書かれているか
- 今後の見通し欄
- 症状固定、後遺症残存などと書かれているか
- 緩解、完治などと書かれている場合は訂正が必要
もし後遺障害診断書の内容に不足点・訂正点があったら、医師にその旨を伝えてください。
記載内容が不十分・不適切な後遺障害診断書では、後遺障害等級の審査で不利になる可能性があります。
後遺障害診断書のポイントについては『後遺障害診断書のもらい方と書式は?費用負担や書き方などの基本情報』で解説しているので、こちらも参考にしてみてください。
MRI・CT・レントゲンなどの検査結果
被害者請求で後遺障害等級の審査を受ける場合は、後遺症の存在や程度を医学的に証明しなければなりません。基本的にはMRI・CT・レントゲンなどの検査結果や神経学的検査の結果、医師の意見書を同封しましょう。
その他、後遺症の種類によっては家族や学校、職場に作成してもらう「日常生活報告書」も添付することがおすすめです。
被害者請求で後遺障害等級の認定を受ける場合については、『後遺障害申請は被害者請求と弁護士依頼が正解』で詳しく解説しているので、合わせて確認してみてください。
後遺障害等級認定に詳しい弁護士のサポートを受ければ、より適切な後遺障害等級を目指せる可能性があります。
加害者の支払いを証明する領収証
加害者請求の場合は、加害者が賠償したことを証明する資料が必須です。
被害者や病院などへの支払いを証明する資料には、加害者の名前・金額・名目・支払年月日が明示されている必要があります。また、受取人の署名や捺印も必要になってくるでしょう。
また、被害者の損害を調査する目的で、被害者の治療内容や相続人確認のための戸籍関連情報などを取得・利用することがあります。加害者請求にあたっては被害者の同意書も必要になってくる可能性があります。
死亡診断書または死体検案書
死亡診断書などは、被害者の死亡が確認された病院に保管されています。
病院に直接問い合わせると、遺族のもとに送付してくれるので、急ぐ場合は速達などの返信用封筒を同封しておきましょう。
被害者請求・仮渡金請求・加害者請求いずれにせよ、死亡事故に関する自賠責保険への請求には必要となる書類です。
戸籍(除籍)謄本
被害者請求・仮渡金請求・加害者請求いずれにせよ死亡事故の場合、その被害者が亡くなったことを確認する戸籍が必要になります。
死亡事故の場合では、被害者が請求できたはずの慰謝料を相続する問題が出てくるからです。
そのため、被害者が死亡したことを確認できる除籍謄本と、相続人の戸籍謄本も必要になります。
相続人にあたる遺族が複数いる場合は、その全員の遺族の戸籍が必要です。
なお、相続人の方が結婚や離婚をしている場合は、その履歴をたどるため除籍謄本も必要になります。
死亡事故ならこちらもチェック
『死亡事故の慰謝料相場はいくら?遺族が請求すべき損害賠償金の解説』
誰が相続人としてどのような分配で被害者の慰謝料・損害賠償金を受け取るのか、どのような流れで慰謝料請求や分配をするのか解説しています。
被害者請求|相手の自賠責保険に賠償金の一部を先行請求
被害者請求のメリットは、加害者側の自賠責保険に損害賠償請求すると、示談成立後に受け取る示談金の一部を示談成立前にもらえる点にあります。
交通事故にあっても、すぐに加害者側から損害賠償金を支払ってもらえるわけではありません。
人身事故の場合、示談交渉にかかる期間は半年~1年程度であることが多いです。事故直後からカウントすればもっと長い期間がかかります。
自賠責保険へ請求することで、事故後の金銭的負担を軽減させられるのです。
自賠責保険への被害者請求の進め方
自賠責保険への請求手続きを自分でおこなう場合には、まず事故相手の任意保険会社と自賠責保険会社の両方に連絡を入れます。
その後、相手の自賠責保険会社から支払請求の書類一式が届くので必要書類を揃えていき、自賠責保険会社に書類を提出するという流れです。
自賠責保険への請求手続きの流れを詳しく説明していきます。
(1)自賠責保険と任意保険会社に連絡を入れる
まずは加害者本人に、加入している自賠責保険会社名を確認します。
加害者が任意保険会社に加入している場合には任意保険会社が自賠責保険について把握していることも多いですが、担当者によっては、個人情報保護の観点から加害者へ直接確認するようお願いされることもあります。
加害者や加害者の任意保険会社への確認が難しい場合、手元に交通事故証明書があれば、自賠責保険の会社名や加害者情報の確認が可能です。
その後、加害者の自賠責保険会社と、加入しているのであれば加害者の任意保険会社に対して被害者請求をする旨を事前連絡しておきます。
とくに、加害者の任意保険会社による一括対応がなされている場合にはその解除を申し出る必要があります。
(2)必要書類を揃える|書類の種類と要点
加害者の自賠責保険会社への被害者請求で必要な書類とその取得方法、作成者は次の通りです。
「*」がついている書類は自賠責保険会社から送られてくる「請求書類セット」に含まれています。
基本的な必要書類
- 保険金(共済金)・損害賠償額・仮渡金支払請求書*:被害者側で記入
- 事故発生状況報告書*:被害者側で記入
- 交通事故証明書:自動車安全運転センターで取得
- 診療報酬明細書*:病院に作成を依頼
- 医師の診断書*または死体検案書(死亡診断書):病院に作成を依頼
- 休業損害の証明
- 給与所得者なら休業損害証明書*:勤務先に作成を依頼
- 自営業者なら確定申告の控えなど
- 印鑑証明書:役所で取得
- 被害者が未成年の場合は住民票又は戸籍謄本も必要:役所で取得
- 弁護士に委任している場合は、委任状と委任されている弁護士の印鑑証明書が必要
手続きを近親者や弁護士など他の人が代わりにおこなう場合は、委任状*(委任者が記入)と委任者の印鑑証明書(役所で取得)も必要です。
傷害関係の費目の必要書類
- 通院交通費明細書*:被害者側で記入
- 付添看護自認書*または看護料領収書:付添人が記入
後遺障害関係の費目の必要書類
- 後遺障害診断書*:医師に記入を依頼
- レントゲン写真やMRI画像など後遺症の残存・程度を証明する医学的所見:医師に作成を依頼
死亡事故の必要書類
- 戸籍謄本:役所で取得
※死亡までの間に入通院期間があった場合は、傷害関係の費目も請求できるので、傷害関係の費目の請求で必要な書類も提出しましょう。
(3)自賠責保険会社に必要書類を送付する
書類への記入を終えたら加害者の自賠責保険に書類を送付します。
宛先は請求書類セットに同封のパンフレット裏などに記載されています。あやふやな場合は、事前に加害者の自賠責保険会社に確認しておきましょう。
万一の郵便事故が起こった場合を想定して、できれば追跡可能なレターパックなどを利用するのがおすすめです。もしも入れ忘れた書類があれば、追送しましょう。
不足書類があった場合は、加害者の自賠責保険の担当者から連絡を受けることがありますが、不足書類のすべてを指摘してもらえるとは限りません。
必要書類が不足したままの費目は請求がなかったのもとして、支払いの対象にならないこともあります。加害者の自賠責保険会社からの指摘を当てにするのではなく、書類送付前に自身でしっかり確認してください。
書類が受理された後の流れ
加害者の自賠責保険会社への書類送付がなされると、自賠責保険会社は損害保険料率算出機構に書類を送付します。
損害保険料算出機構内にある自賠責損害調査事務所において自賠責保険の支払いの対象となる事故であるのかどうかや、具体的な損害額が調査され、調査結果に基づいた金額が支払われるのです。
調査の期間については、多くが30日以内となっています。
ただし、死亡事故や後遺症が残る事故など、請求金額が大きくなる事故については、30日以上の期間がかかる可能性が高くなるので注意してください。
被害者請求で請求できる内容
交通事故の示談金は、基本的に加害者側の自賠責保険と任意保険から支払われます。
通常はどちらもまとめて示談成立後に加害者側の任意保険会社から支払われるのですが、被害者請求をすれば自賠責保険分だけ先に支払ってもらえるのです。
このとき自賠責保険会社は「自賠責基準」という基準で計算します。

※自賠責保険は強制加入、任意保険は任意加入。加害者が任意保険未加入の場合、任意保険会社分の金額は加害者本人から支払われる。
自賠責保険は「交通事故被害者に最低限の補償をする」保険であるため、自賠責基準の金額は最低限のものとなっています。
被害者請求でもらえる費目と自賠責基準における金額は次の通りです。
- 傷害分の費目
- 治療関係費:基本的に実費
- 文書料:基本的に実費
- 休業損害:6,100円/日
- 傷害慰謝料:「治療期間」もしくは「実治療日数の2倍」のうち少ない方×4,300円
- 後遺障害分の費目
- 後遺障害慰謝料:後遺障害等級に応じて32万円~1,650万円
- 逸失利益:基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
- 死亡分の費目
- 死亡慰謝料:400万円~1,350万円
- 死亡逸失利益:基礎収入×(1-生活費控除率)×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
なお、自賠責保険に請求できる金額は、傷害部分120万円まで、後遺障害部分は75万円~4,000万円まで、死亡部分は3,000万円が上限となっています。
自賠責保険からの支払上限額
損害 | 上限 | 内容 |
---|---|---|
傷害 | 120万円 | 治療費・休業損害・慰謝料など |
後遺障害 | 75万円~4,000万円* | 慰謝料・逸失利益 |
死亡 | 3,000万円 | 葬儀費用100万円・慰謝料400万円など |
(*)後遺障害の等級・介護の有無により金額は異なります。
被害者請求によって自賠責保険から一定額を受け取ってもなお、損害賠償金としては不十分です。自賠責保険の支払上限を超える部分については、示談交渉後に加害者側の任意保険会社に請求しなければなりません。
自賠責保険から支払われる慰謝料の金額などは、関連記事『自賠責保険から慰謝料はいくらもらえる?計算方法や支払い限度額』でより詳しく解説しています。
自賠責保険に被害者請求すべき4つのケース
加害者の自賠責保険に対する被害者請求は、主に次のような場合に必要です。
- 加害者が任意保険未加入の場合
- 加害者側の任意保険が任意一括対応をしてくれない場合
- ケガが完治せず後遺症が残った場合
- 被害者側の過失割合が大きい場合
ぞれぞれについて詳しく解説していきます。
加害者が任意保険未加入のケース
加害者が任意保険未加入の場合、損害賠償金は、次のような流れで支払われます。
- 加害者本人から、損害賠償金が全額支払われる
- 加害者が、自身の自賠責保険に対して、自賠責保険の支払い分を求償する
上記の流れは、加害者が被害者に損害賠償金を全額支払い、そのうち自賠責保険分に該当する分を自賠責保険に求償するので「加害者請求」と呼ばれます。
しかし、加害者請求の場合、被害者は加害者が損害賠償金を全額用意するまで待たなければなりません。損害賠償金が高額であったり、加害者の資力が乏しかったりすると、損害賠償金の支払いまでには長い時間がかかるでしょう。
そのため、加害者が任意保険に入っていない場合は、加害者が損害賠償金を全額用意するまで待つよりも、先に自賠責保険の支払い分だけでも被害者自身で加害者側の自賠責保険会社に請求する方が良いのです。
加害者側の任意保険が任意一括対応をしてくれないケース
任意一括対応とは、加害者側の任意保険会社が「自賠責保険分の損害賠償金」も「任意保険分の損害賠償金」もすべてまとめて支払ってくれることです。ケガの治療費も、加害者側の任意保険会社が直接病院に支払ってくれます。

しかし、加害者側の任意保険会社が任意一括対応をしてくれない場合、治療費すら一旦被害者側で立て替える必要があります。
そこで、加害者側の自賠責保険会社に被害者請求することで、示談成立前に一定の賠償金を受け取ることができ治療費の負担も軽くなるでしょう。
任意保険会社による一括対応の仕組みや任意一括対応してもらえないケースについては、『交通事故の任意一括対応とは?注意点や拒否・打ち切りへの対処法も解説』の記事で説明しているので確認してみてください。
治療費立替えの負担を減らす方法として、健康保険を使うこともできます。健康保険の使い方は通常の受診時とは違うため、『交通事故で健康保険は使える!使えないケースやデメリットも解説』の記事をご覧ください。
ケガが完治せず後遺症が残ったケース
ケガを治療したものの完治せず後遺症が残ってしまった場合には、後遺症の症状が後遺障害に該当する旨の認定を受ける必要があります。
このとき、被害者請求で認定審査の手続きと自賠責保険への賠償請求を合わせておこなうと次のようなメリットが得られます。
- 審査対策がしやすいため適切な等級に認定される可能性を上げられる
- 後遺障害認定の結果が出た後、すぐに自賠責保険分の後遺障害慰謝料・逸失利益がもらえる
後遺障害認定の申請方法には、他にも「事前認定」というものがあります。
しかし、事前認定は審査対策がしにくいので適切な等級に認定されるための工夫が難しいです。
また、等級認定の結果が出ても、別途被害者請求の手続きをしない限り後遺障害慰謝料・逸失利益は示談成立後までもらえません。
後遺障害認定の手続きについては『交通事故で後遺障害を申請する|認定までの手続きの流れ、必要書類』にて詳しく解説しています。
被害者側の過失割合が大きいケース
過失割合とは、交通事故が起きた責任が加害者側と被害者側それぞれにどれくらいあるかを割合で示したものです。
被害者側にも過失割合が付くと、過失相殺によりその割合分、損害賠償金が減額されます。
自賠責保険からの支払い分は、被害者側の過失割合が7割以上になって初めて減額される仕組みとなっています。つまり、被害者側の過失割合が比較的大きい場合でも、損害賠償金の減額幅は小さくなるのです。
よって、被害者側の過失割合が大きい場合、加害者側の任意保険に対して請求するよりも、被害者請求を行い自賠責保険から支払いを得た方が損害賠償額が大きくなる可能性があります。
もっと詳しく
被害者請求のデメリットは損害賠償請求が二度手間になること
加害者側の自賠責保険に請求すれば示談成立前にまとまったお金が手に入りますが、加害者側の自賠責保険会社・任意保険会社それぞれに損害賠償請求する手間が生じる点はデメリットと言えます。
通常なら加害者側の任意保険会社との示談交渉で損害賠償請求するだけで良いところ、加害者側の自賠責保険と任意保険それぞれに損害賠償請求しなければならないからです。
必要になる手続き
- 自賠責保険に被害者請求や仮渡金請求をする場合
加害者側の自賠責保険に請求した後、残りの示談金は任意保険に請求しなければならない - 自賠責保険に被害者請求や仮渡金請求をしない場合
加害者側の任意保険会社と示談交渉するだけで示談金をすべて支払ってもらえる
ただし、加害者側の自賠責保険への請求手続きも、加害者側の任意保険との示談交渉も、弁護士に任せることができます。
弁護士費用を心配しているなら
ご自身の加入する保険に弁護士費用特約が付帯されているならば、保険会社が弁護士費用を支払ってくれます。多くの弁護士費用特約は法律相談料10万円、弁護士費用300万円という補償上限が設定されています。
交通事故の弁護士費用でこれらの上限を超えることはあまりないので、弁護士費用特約の利用によって自己負担0円で弁護士を立てることができるのです。
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弁護士に任せると請求手続きや示談交渉の手間が省けるだけでなく、示談交渉で得られる金額が大幅にアップする可能性もあるので、まずは電話やLINEの無料相談にて現在のご状況などをご相談ください。
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加害者請求|自身の自賠責保険に立て替えた賠償金を請求
加害者請求とは、交通事故の被害者に対して加害者本人が治療費や慰謝料といった損害賠償金を支払い、その立て替えを自賠責保険に請求する手続きのことです。
加害者請求に必要な書類一式は、自賠責保険から送付してもらえます。
加害者請求の流れと請求時の注意点
加害者請求は、自身の加入する自賠責保険会社に対する事故発生の報告からスタートです。自賠責保険から加害者請求に必要な書類一式を送ってもらい、書類を揃えて提出しましょう。提出後、審査を経て保険金を受け取ることができます。
加害者請求の注意点
加害者請求の主な必要書類は、自賠責保険支払請求書、請求者本人の印鑑証明書、交通事故証明書、事故発生状況報告書、病院の診断書、診療報酬明細書、通院交通費明細書、加害者が支払ったことを証明する領収書(あて先が加害者のもの)などです。
さらに死亡事故であれば死亡診断書や被害者の収入を証明する書類など、後遺障害が残った事故であれば後遺障害診断書なども必要となります。
つまり、被害者側にどんな損害が発生していて、加害者がいくら支払ったのかを証明する資料がセットになっている必要があります。事故態様によって必要書類が変わるので、自賠責保険会社に確認しておくとスムーズです。
自賠責保険には補償上限額が定められています。加害者が被害者に支払った賠償金が自賠責保険の補償額を超えていた場合、超過分は加害者の自己負担ということになります。
加害者請求のデメリット
加害者請求のデメリットは、加害者側に手続きを任せることになり、被害者自身からはその内容が見えづらい点にあります。
また、加害者本人に多くの書類を渡すことに抵抗を感じる被害者も多くいるでしょう。さらに、加害者にまとまった資力がない限り、十分な補償をしてもらえないリスクがあります。
そのため、加害者自身の自賠責保険会社に「被害者請求」もしくは「仮渡金請求」をしていくほうが、スムーズに補償を受けられる可能性があるのです。
被害者請求よりも被害者の手続き負担が軽減されるメリットがある一方で、加害者請求のデメリットには注意が必要です。
仮渡金請求|相手の自賠責保険に定額の補償を請求
仮渡金の金額はケガの程度による定額制
仮渡金制度とは、ケガの状態に応じて5万~290万円を加害者側の自賠責保険会社に請求することです。
請求手続きをしてから実際に支払われるまでの期間は被害者請求よりも短いので、より早くまとまったお金が必要な場合におすすめです。
被害者請求と仮渡金制度の違い
- 被害者請求
損害賠償金のうち加害者の自賠責保険から支払われる分を、被害者が直接加害者の自賠責保険会社に請求すること - 仮渡金制度
被害者のケガの状態に応じた金額を、加害者の自賠責保険会社に請求すること- 死亡事故の仮渡金:290万円
- 傷害を負った場合の仮渡金:40万円、20万円、5万円のいずれか
なお、仮渡金として受け取った金額は、示談成立後に受け取る示談金から差し引かれます。もし仮渡金の方が示談金より高額になったら、超過分は返さなければなりません。
仮渡金の請求方法については、『内払い金・仮渡金を解説』の記事で詳しく解説しているので、あわせて確認してみてください。
自賠責保険への請求に関してよくある質問3つ
Q1.自賠責保険を使われたら不利益がある?
自賠責保険を使われる、つまり相手に自賠責保険で損害賠償をしても、保険料が上がったり、何らかの罰則が加算されたりといったデメリットはありません。
交通事故の態様によっては、双方に一定の過失が付くことがあります。そうなると、お互いが加害者であり、被害者でもあるという側面を持つのです。自分に過失が1割でも付いているなら、相手方から自賠責保険の請求を受けることは十分あり得ます。
自賠責保険料率算出機構から手紙がきた場合には、相手があなたの自賠責保険へ請求したことや、自賠責保険金が支払われたことを意味しますが、自賠責保険を使われることにデメリットはなく、自賠責保険の利用を拒否することはできません。
Q2.自賠責保険への請求は被害者自身でできる?
自賠責保険への請求は書類の提出がメインなので、被害者自身でも可能です。各自賠責保険会社指定の様式があるので、申請セット一式を手配してもらいましょう。
申請セットには記入見本が添付されているので、その通りに記載すればよいのですが、見慣れない書類を作成することは一苦労です。
たとえば、添付する書類の一例に病院の診断書・診療報酬明細書があります。これらは治療期間中のすべての分を出さないと、本来もらえるはずの適正な補償がおりなかったり、再提出を求められたりといったやり取りが発生するのです。
慣れていないことで時間が掛かったり、書類提出の不備や漏れが発生することは考えられるでしょう。
Q3.少しでも早くお金が欲しいときにはどうすればいい?
被害者請求は加害者の自賠責保険会社に書類を提出後、損害保険料率算出機構という第三者機関で内容が精査されます。一連の流れについて、特別に急いでほしいなど要望を出すことは難しいでしょう。
また、自賠責保険から支払われる金銭は限られているので、最終的には事故相手から適切な賠償を受ける必要があるのです。
そのため自賠責保険への請求と併せて、相手方との交渉準備を並行して進めておくと良いでしょう。もっとも書類を集めたり、相手の保険会社からかかってくる電話の対応をしたりと、様々な面で負担が増えます。
自賠責保険への請求と相手方との交渉を被害者の代わりにおこなえる弁護士への依頼を検討してみてください。
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自賠責保険に請求する場合の注意点
自賠責保険への請求には時効がある
自賠責保険の請求には期限(損害賠償請求権の消滅時効)があります。
傷害・後遺障害・死亡のいずれであっても、時効は3年ですが、それぞれ起算点が違い以下の通りです。
損害 | 消滅時効 |
---|---|
傷害 | 事故発生の翌日から3年以内 |
後遺障害 | 症状固定の翌日から3年以内* |
死亡 | 死亡の翌日から3年以内 |
※医学上一般に承認された治療方法を続けても、良くも悪くもならない状態。医師の判断が尊重されます。
事故の相手方に対する損害賠償請求権の消滅時効は5年ですが、自賠責保険への請求は上記のとおり3年となっています。ずれがあるので注意しましょう。
損害賠償請求権の消滅時効については『交通事故の示談は時効期限に注意!』をご覧ください。
自賠責保険には物損への賠償金を請求できない
自賠責保険の補償範囲は人損部分なので、物損に関する賠償金は請求できません。
車の修理費や代車費用など物損に関する費目を早く回収したい場合は、自身の車両保険を利用しましょう。
自賠責保険だけでなく相手の任意保険会社にも請求
自賠責保険に請求できる金額は示談金の一部もしくはケガの程度に応じた金額なので、残りの示談金は加害者側の任意保険会社に別途請求しなければなりません。
ただし、被害者請求や仮渡金請求でもらえる金額は自賠責保険会社側で計算・決定されるのに対し、加害者側の任意保険会社からもらえる金額は示談交渉によって決まります。
加害者側の任意保険会社は低い金額を提示してくるので、適切な交渉をしなければ十分な金額を得られないのです。
実際に、加害者側の任意保険会社が主張する慰謝料の相場(任意保険基準)と過去の判例に基づいた慰謝料の相場(弁護士基準)の差は2倍~3倍になることも珍しくありません。

示談交渉で加害者側の任意保険会社から示談金の提示を受けた場合は、鵜呑みにせずまず弁護士基準の金額を確認してみましょう。
弁護士基準の慰謝料額は、以下の計算機から計算できます。より厳密な金額を知りたい場合は弁護士にご相談ください。
示談交渉の詳しい流れは『交通事故慰謝料の請求方法』で解説しているので、こちらも参考にしてみてください。
自賠責保険への被害者請求は弁護士に任せることもできる!
自賠責保険への請求後の示談交渉まで見据える
弁護士に依頼をすると、加害者の自賠責保険への被害者請求や仮渡金請求の手続きを代わりにおこなってもらえます。
本記事で解説してきた通り、加害者の自賠責保険への請求ではさまざまな書類を集めなければなりません。
被害者自身で作成しなければならない書類もありますし、後遺障害関係の書類は特に入念に準備する必要があります。
治療やリハビリ、日常生活や仕事への復帰と並行して準備を進めるのは大変ですが、請求手続きを弁護士に任せれば、負担は大幅に減らせます。
加害者への請求分もしっかり回収できる
加害者の自賠責保険への被害者請求をしたら、足りない分は加害者自身や加害者の任意保険会社との示談交渉で請求していきます。
しかし、加害者自身や加害者の任意保険会社との示談交渉は決して簡単ではありません。
もし被害者自身で交渉をした場合、加害者の任意保険の提示する低い金額しか得られないことも多くあります。

特に、後遺障害が残るような大きな怪我である場合や、死亡事故の場合には、本来請求できるはずの金額と、加害者の任意保険会社が提示する金額に大きな開きが生じることは珍しくありません。
しかし、弁護士は示談交渉経験も損害賠償金に関する法的知識が豊富な専門家です。
示談交渉の段階から弁護士を立てることで十分な金額回収が見込めるようになるので、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
弁護士依頼のメリットは他にも
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アトム法律事務所では、弁護士費用特約の有無にかかわりなく、交通事故でケガをした方であれば無料で法律相談をご利用いただけます。
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弁護士費用の負担を減らす方法を活用しよう
弁護士費用の負担は、弁護士費用特約を使うか相談料・着手金無料の事務所を選ぶことで減らすことができます。
まずは自身の加入する保険に弁護士費用特約が付いていないか確認してみて、ついていなければ相談料・着手金無料の事務所を探してみましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了