自賠責保険なら過失割合の減額が軽減。限度額や慰謝料計算には注意を

交通事故の発生について被害者にも過失がある場合は、被害者の損害賠償金について減額がなされます。
しかし、自賠責保険に対する損害賠償請求では、過失割合による減額がなされなかったり、減額の程度を抑えることができるのです。
もっとも、自賠責保険の制度からすると、被害者に過失がある場合には常に自賠責保険に損害賠償請求をした方が良いとは限りません。
本記事では、自賠責保険を利用した場合の過失割合の減額のルールや、自賠責保険利用による損害賠償請求を行う際に知っておくべきことを解説しています。
交通事故の被害に遭ったものの、自身にも過失があるかもしれないと考えている方は、ぜひご覧ください。
目次

自賠責保険における過失割合
自賠責保険とは?
自賠責保険とは、自動車損害賠償保障法という法律上、すべての自動車に加入が義務付けられている自動車保険です。
交通死亡事故の遺族や交通事故で怪我をした被害者救済を最低限図るため、強制保険となっています。
多くの請求を迅速かつ公平に処理する必要性から、法律で定められた支払基準によって、多くの部分が定型・定額化されています。
過失割合とは?損害賠償金の減額
交通事故の責任割合を数値で表したものが過失割合です。
交通事故が発生した場合、責任がすべて加害者にあるとは限りません。
被害者側にも何らかの過失が認められるケースもあり、その場合、相手方に請求できる損害賠償金額は過失割合に応じて減額されます。
このような減額を「過失相殺」というのです。
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
民法722条2項
過失割合は、事故状況や各当事者の行為などを総合的に判断して決定されます。
過失相殺による減額の流れについて詳しく知りたい方は『過失相殺とは?計算方法の具体例や判例でわかりやすく解説』の記事をご覧ください。
自賠責保険では過失割合による減額方法が異なる
自賠責保険の支払基準では、被害者に重大な過失がない限り過失割合による減額は限定的です。
自賠責保険は、被害者保護を目的とした保険であるため、民法の過失相殺とは適用されるルールに違いがあるのです。
具体的には、被害者に7割以上の過失が認められる場合にのみ、損害賠償額が減額(重過失減額)されることになります。
また、重過失減額される場合でも、減額割合は実際の過失割合よりも低く抑えられます(具体的な減額割合は下記の表参照)。
つまり、自賠責保険に損害賠償請求を行う場合は、一般的な損害賠償請求に比べて過失割合による影響を受けづらいという点で被害者に有利な特徴があるのです。
被害者の過失割合に応じた減額
被害者の過失割合 | 傷害の場合 | 後遺障害・死亡の場合 |
---|---|---|
7割~8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
8割~9割未満 | 2割減額 | 3割減額 |
9割~10割未満 | 2割減額 | 5割減額 |
このような仕組みとなっていることから、被害者の過失割合が大きい場合には、自賠責保険の請求を行うことを検討してみると良いでしょう。
自賠責保険への請求方法や必要書類に関しては『自賠責保険とは?請求の流れと必要書類の書き方|被害者請求・加害者請求を解説』の記事で確認可能です。
過失割合がある場合の自賠責保険利用の注意点
自賠責保険の補償額には限度額がある
自賠責保険の保険金額は、費目に応じて支払限度額が定められています。
支払限度額 | |
---|---|
傷害分 | 120万円 |
後遺障害分 | 75万円~4,000万円 |
死亡分 | 3,000万円 |
※後遺障害分の限度額は、認定された後遺障害等級に応じて異なる
限度額の対象となる損害は以下のようなものです。
- 傷害分の費目
治療関係費(治療費、手術費、入院費など)、入院に要した雑費、通院交通費、看護料、義肢等の費用、文書料、休業損害、入通院慰謝料等(傷害慰謝料) - 後遺障害分の費目
後遺障害慰謝料後、遺障害逸失利益 - 死亡分の費目
死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀費用
過失割合による減額がなされない場合であっても、損害額が高額な場合は限度額を超えてしまい、自賠責保険の利用だけでは十分な補償が得られなくなる(カバーできない)可能性があります。
限度額を超える部分について、加害者の加入する任意保険会社や加害者本人への請求が必要となるでしょう。
自賠責保険の限度額の対象や限度額を超えた場合の対処法については『交通事故慰謝料が120万を超えたらどうなる?自賠責保険の限度額や請求方法を解説』の記事でより詳しく知ることができます。
自賠責保険で支払われる慰謝料は相場よりも低額である
慰謝料の金額を計算する基準には大きく下記の3つがあり、自賠責保険で利用される計算基準にもとづくと、慰謝料の金額は相場よりも低額となります。
これは、自賠責保険が交通事故の被害者に対して最低限の補償を行うための保険であるためです。
慰謝料の計算基準
- 自賠責基準
自賠責保険が支払う慰謝料の金額を算出する計算基準
最低限度の金額に過ぎない - 任意保険基準
加害者の任意保険会社が支払う慰謝料の金額を算出する計算基準
自賠責保険と同程度か多少増額された金額であることが多い - 弁護士基準(裁判基準)
弁護士が加害者に慰謝料の支払いを求める際の金額を算出する計算基準
裁判で認められる金額であり、相場の金額といえる

そのため、自賠責保険利用のため過失割合による減額がないケースであっても、相場の慰謝料額が高額であるなら、自賠責保険の利用だけでは相場の慰謝料を得られない恐れがあります。
自賠責保険の利用により得られる慰謝料額が相場よりも低額である場合は、加害者本人や加害者の加入している任意保険会社に不足分を請求する必要があるでしょう。
自賠責基準で算出される慰謝料の金額については『自賠責保険の慰謝料計算や限度額を解説|任意保険からも両方もらえる?』の記事で知ることができます。
また、弁護士基準により算出される相場の慰謝料の金額については、以下の計算機を利用すると簡単に知ることが可能です。
自賠責保険ではそもそも補償されていない損害がある
自賠責保険だけでは、全ての損害が補償されない場合があります。
自賠責保険は、人身損害に対する補償を目的としており、以下のような物的損害(物損)は補償範囲外となっています。
- 車両(自動車やバイク、自転車など)の修理費用
- 代車費用
- 休車損害
- 評価損
- 事故に壊れた積荷の代金
物的損害については、加害者本人や加害者の加入している任意保険会社への請求が必要となります。
被害者の過失割合が100%の事案では自賠責保険を利用できない
運転中に停止中の車両に追突した場合や自損事故など被害者本人(ここでは交通事故で死亡・怪我した人という意味です。)の過失割合が100%の事案では、自賠責保険からの支払いを受けられません。
上記の場合でも、自分の自動車保険の人身傷害保険や労災保険からなら治療費などを支払ってもらえます。
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過失割合について弁護士に相談してみよう
過失割合がある場合の自賠責保険利用は弁護士に相談を
弁護士に相談することで、事故の過失割合が適正かや、相場の損害賠償金を得るために自賠責保険への請求を行うべきかどうかなどを知ることができます。
自賠責保険に請求できる金額には上限があり、慰謝料の金額は相場より低額です。
そのため、被害者自身に過失割合が認められるケースであっても、減額の程度が小さいため自賠責保険だけに請求を行えばよいかどうかという点は、簡単には判断できません。
専門的な知識と経験を有する弁護士への相談は、自身の過失や損害の程度からすると、自賠責保険への直接請求(被害者請求)を行うべきなのか、加害者に対する請求で十分なのかを知ることができるのでおすすめです。
弁護士に相談すれば過失割合以外の問題も解決
弁護士は、過失割合に関する問題以外についても適切に対応してくれます。
弁護士に相談・依頼することで主に以下のようなメリットを得られるでしょう。
- 加害者側の保険会社との示談交渉を行ってもらえる
- 適切な損害額の算定を行ってもらえる
- 自賠責保険や加害者への損害賠償請求に必要な書類の収集を手伝ってもらえる
- 裁判による請求が必要となった場合には裁判手続きを適切に行ってもらえる
- 後遺症が残った際に必要な後遺障害認定申請の手続きを手伝ってもらえる
実際に自賠責保険や加害者への損害賠償請求を行う場合には、証拠や書類の収集や示談交渉といった手続きが必要となってきます。
弁護士なら、専門知識を活かして迅速かつ適切に必要な手続きを行ってくれるため、被害者自身の負担を軽減することが可能です。
また、弁護士費用特約を使えるケースであれば、原則自己負担なく弁護士に依頼することができます。
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電話やLINE、メールでの相談の予約は24時間365日いつでも受付中ですので、お気軽にご連絡ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了