交通事故で労災保険を使う手続き|労災保険のメリット・デメリットとは?
通勤中や仕事中に起こった交通事故は労災事故として扱われるため、労災保険を使えます。交通事故で労災保険を使うメリットは多く、被害者にデメリットはほぼありません。
交通事故で労災保険を使うには、勤め先を管轄する労働基準監督署に対して労災給付の申請書を提出し、同時に第三者行為災害届を提出してください。
また、労災事故の手続きには申請が必要で、申請においては勤め先の協力を受けられる可能性が高いので、すみやかに労災事故発生を連絡しましょう。
この記事では交通事故で労災保険を使う方法や、労災保険を使うメリット・デメリットについて解説していきます。
目次
労災保険を使える交通事故とは?
通勤中の事故なら通勤災害
通勤中に交通事故にあったときには、通勤災害として労災認定を受けられます。
ただし、通勤災害の認定要件の一つには「合理的な経路で通勤しているときに起きた事故」があり、寄り道をした場合や認められていない通勤手段での事故の場合は通勤災害とならない可能性が高いです。
もっとも、日常生活に必要な用事であれば、その用事を済ませて再度通勤経路に戻っていれば、通勤災害として認められます。
- 日用品の買い物をする
- 病院を受診する
- 選挙にいく
通勤経路を正当な理由なく外れているときは、労災事故と認定されないこともあるでしょう。
そのときは、労災保険の適用は断念するしかなく、事故相手に損害賠償請求したり、自身の保険を利用したりといった対応が必要です。
仕事中の事故なら業務災害
業務に起因して起こった交通事故は、業務災害です。具体的には、外回り営業の途中や、長距離トラックの運転手をしていて配達中に高速道路で事故にあったなどは業務災害となるでしょう。
ただし、業務中でも仕事とは関係ないことをしていて巻き込まれた事故や、自然災害が原因で生じた事故、休憩中に自分の車で外出して起こった事故などは業務災害として認められないことがあります。
交通事故で労災保険を使う手続きと流れ
労災保険の使い方
事故が労災に当たるかどうかを判断するのは労働基準監督署です。よって、労災保険を使うには、労働基準監督署の審査を受ける流れになります。
ここでは労災事故で治療を受けるときの流れを例に説明していきます。通院先が労災指定医療機関の場合と、そうでない場合とで書類の提出先がわかれるのでご注意ください。
労災指定医療機関 | 労災指定医療機関ではない | |
---|---|---|
窓口負担 | なし | あり |
書類提出先 | 労災指定医療機関 | 労働基準監督署 |
給付の方法 | 医療行為 | 医療費 |
労災指定医療機関の場合
労災指定医療機関を受診した場合、その場で事故の経緯を説明し、労災保険の利用を伝えましょう。
そして、労災指定医療機関等に対して、療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第7号)または療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の5)を提出すれば、労災保険から給付を受けることができます。
この場合、治療という行為や処方薬などの現物を支給されることになり、窓口での医療費負担は原則ありません。病院側から労災保険に書類が提出される流れです。
労災指定医療機関ではない場合
労災保険指定医療機関ではない場合、窓口ではいったん全額負担をせねばなりません。
このとき健康保険は使えませんのでご注意ください。労災事故に健康保険は使えないのです。
医療機関には、療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第7号)または療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の5)を提出して診療内容を記載してもらいましょう。
その後、記載してもらった書類とご自身で支払った医療費の領収書を添付し、労働基準監督署へ提出すれば診療費が振り込まれるという流れです。
第三者行為災害届の準備
交通事故は第三者行為災害にあたります。
交通事故で労災保険を利用するなら、労災保険給付の請求書を提出と同時またはすみやかに、労働基準監督署に「第三者行為災害届」を提出する必要があります。
また第三者行為災害届には、「交通事故証明書」または「交通事故発生届(様式第3号)」、念書(兼同意書)などの添付が必要です。
なお、示談済なら示談書の謄本、自賠責保険等の損害賠償金等支払い証明書または保険金支払通知書(仮渡金または賠償金を受けている場合)、死体検案書(死亡診断書でも可能)や戸籍謄本の写しも、必要に応じて添付が求められます。
添付書類名 | 備考 |
---|---|
交通事故証明書 | ※ |
念書(兼同意書) | ー |
示談書の謄本 | 示談が行われた場合(写し可) |
自賠責保険等の損害賠償金等支払証明書又は保険金支払通知書 | 仮渡金又は賠償金を受けている場合(写し可) |
死体検案書又は死亡診断書 | 死亡の場合(写し可) |
戸籍謄本 | 死亡の場合(写し可) |
※自動車安全運転センターの証明がもらえない場合は「交通事故発生届」
労働者災害補償保険法(第十二条の四)では、次のように記載されています。
政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。
労働者災害補償保険法第十二条の四
②前項の場合において、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる。
交通事故の被害者が労災保険から給付を受けた分については、あとから事故相手の保険会社に対して請求が行われるのです。
後遺障害認定や死亡の補償も受けられる
労災保険では、交通事故で後遺障害が残った場合や、死亡事故の場合の補償も設けられています。
事故の結果 | 給付内容 |
---|---|
後遺障害 | 障害補償年金または一時金、特別支給金など |
死亡 | 遺族補償年金または一時金、葬祭料、労災就学等援護費など |
こうした保険給付は、決められた書式を労働基準監督署に提出し、審査を経て支給されます。
死亡については死亡事故が発生した時点で、請求が可能です。被害者の生前の収入、遺族人数によって金額が変わるほか、受給資格も明確に定められています。
後遺障害については主治医から完治(治ゆ)という診断を受けた時点で申請が可能です。労働基準監督署にて書類審査や面談が実施され、14段階の等級認定がなされます。
各補償の支給を求める際の書式は、本記事内「労災保険の補償内容と必要書類」で説明していますので参考にしてください。
交通事故で労災保険を使うメリットとデメリット
交通事故で労災保険を使うメリットは、以下の通りです。
労災保険を使うメリット
- 前払い一時金の制度がある
- 労災保険は特別支給金がある
- 治療費を支払ってもらえる
- 限度額がない
- 過失相殺の影響を受けない
それぞれのメリットと、デメリットはほとんどないことについて詳しく解説します。
メリット(1)前払い一時金の制度がある
障害補償年金や遺族補償年金は、前払い一時金を受け取ることができます。重大な障害が残った方や、死亡事故の遺族の方にとっては、当座の生活の助けになるため有効な制度といえるでしょう。
なお、前払い一時金は本来なら将来給付されるはずの金額を先に受け取るものなので、受け取り後の一定期間は年金の支給が停止する点には注意し、計画的に保障を活用してください。
なお、前払い一時金として受け取れる最大金額は、障害補償年金で1200日分、遺族補償年金で1000日分となります。
メリット(2)労災保険は特別支給金がある
労災保険には、先ほど紹介した各種補償給付に付加する形で「特別支給金」も給付されます。
労災福祉の観点から支給される労災独自の特別支給金は、労災保険を利用しなければ受け取れません。
特別支給金の一覧は以下の通りです。
保険給付の種類 | 特別支給金 |
---|---|
休業補償給付 (休業給付) | 休業特別支給金 |
傷病補償年金 (傷病年金) | 傷病特別支給金 傷病特別年金 |
障害補償給付 (障害給付) | 障害特別支給金 障害特別年金 障害特別一時金 |
遺族補償給付 (遺族給付) | 遺族特別支給金 遺族特別年金 遺族特別一時金 |
「〇〇特別支給金」は、労災の保険給付に付加して支給される見舞金のようなものをいいます。
「〇〇特別年金」や「〇〇特別一時金」は、いわゆる賞与などの給与額を基礎にして支給されるものです。
特別支給金によるメリットの事例
労災保険を利用することで受け取れる特別支給金にはメリットがあります。
休業補償給付を例にみていきましょう。
休業で生じた減収の60%は、労災保険から「休業補償」として支払われます。
しかし、これだけでは足りないので、残りの40%は加害者側の保険会社に「休業損害」として請求します。
さらに、減収の20%分が労災独自の「休業特別支給金」として支払われるので、結果的に減収額の120%にあたる金額が受け取れるのです。
補償 | |
---|---|
労災保険の休業補償 | 減収額の60% |
加害者側の保険会社の休業損害 | 減収額の40% |
労災保険の休業特別支給金 | 減収額の20% |
合計 | 減収額の120% |
傷病特別支給金においては、1級だと114万円、2級だと107万円、3級で100万円を一時金として受け取ることができます。
メリット(3)治療費を支払ってもらえる
労災保険からは「療養補償給付(療養給付)」として、治療費を支払ってもらえます。労災指定の病院で診察や治療などを受けた場合、被害者が窓口で費用を支払うことは原則ありません。
ただし、労災指定の病院でない場合は、治療費の一時負担が発生します。健康保険を利用できないため、一時的ではあるものの全額負担になるので気を付けてください。
メリット(4)限度額がない
通常の交通事故では、加害者側の自賠責保険・任意保険に対してさまざまな損害賠償請求を行います。
しかし、自賠責保険には請求内容に応じて限度額が設定されていて、超過分は加害者側の任意保険に請求するため、その限度額から大きく外れる場合には厳しい交渉が予想されるのです。
たとえば、自賠責保険から支払われるケガの部分の補償は120万円という上限があります。120万円のなかには、治療費、休業損害、慰謝料などが含まれているため、治療が長引いた場合には限度額を超えてしまいかねません。
一方の労災保険には支払限度額はないので、療養補償給付は実費分、その他の費目は労災で定められた金額分がきちんと支払われます。
メリット(5)過失相殺の影響を受けない
労災保険からの給付内容は、請求者に事故の過失があっても減額されません。
事故の過失は過失割合ともいい、その事故の起こった状況や原因によって、事故の当事者が負う責任を割合で表したものです。
たとえば、過失割合が8対2という事故で、自分にも2割の過失が付いた場合には、相手の損害の2割を負担せねばなりません。
労災保険からの給付ではなく、事故相手の保険会社に請求する際には、過失割合の影響を受ける点には留意しておきましょう。
交通事故の過失割合とは何か、どのように決まるのかを知りたい方が関連記事を参考にしてください。
交通事故で労災保険を使うデメリットはほぼなし
交通事故で労災保険を使うデメリットには、労災保険料が上がって出費がかさむ可能性があげられるでしょう。
また労災事故が頻発していたり、重大な労災事故が起こった場合には、行政処分が下される可能性もあります。
つまり交通事故で労災保険を使うデメリットは主に雇用側にあり、被害者側はメリットの方が大きいです。
労災保険を利用することで雇用先との関係が悪化する可能性も否定できませんが、適切な補償を受けるためには労災保険を利用するメリットが大きいです。
労災保険の補償内容と必要書類
労災保険の補償内容には、以下のものがあります。
労災保険の補償内容
- 療養補償給付(療養給付)
- 休業補償給付(休業給付)
- 傷病補償年金(傷病年金)
- 障害補償給付(障害給付)
- 介護補償給付(介護給付)
- 遺族補償給付(遺族給付)
- 葬祭料(葬祭給付)
※()内は通勤災害の給付の名称
それぞれがどのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。
療養補償給付(療養給付)
療養補償給付とは、ケガの治療のため必要になる費用のことで、具体的には以下の費目に対して支給されます。
療養補償給付(療養給付)とは
- 診察の費用
- 薬剤または治療材料
- 治療、処置、手術
- 入院や看護
- 移送
療養補償給付の金額は実費です。病院に直接支払ってもらえたり、病院で立て替えて支払った分を振り込んでもらえたりします。
療養補償給付を受けるためには、次の書式で申請しましょう。業務災害・通勤災害によって書式が違うので注意してください。
業務災害 | 通勤災害 | |
---|---|---|
療養補償給付の申請 | 様式第7号 | 様式第16号の5 |
柔整用 | 様式第7号(3) | 様式第16号の5(3) |
はり・きゅう用 | 様式第7号(4) | 様式第16号の5(4) |
休業補償給付(休業給付)
休業補償給付は、通勤中や仕事中の交通事故でケガをして働けず、療養している期間に支給されます。
具体的な支給要件は下記のとおりです。
休業補償の3要件
- 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のため
- 労働することができないため
- 賃金を受けていない
休業補償の請求書式は業務災害と通勤災害で異なりますので、ご注意ください。
休業補償の支給額は、事故前における被害者自身の平均賃金の60%で、特別支給金が20%上乗せされるので、最終的には80%の補償をなります。なお、休業を開始してから最初の3日間は待期期間と呼ばれ、労災からの補償はされません。
このように休業補償は労災保険では十分とはいえないため、交通事故の相手方に不足分を請求することも必要です。
休業補償の支給期間やくわしい計算方法に関しては、関連記事『交通事故の休業補償とは?いつまでの期間もらえる?条件・計算方法を解説』を読むと理解が深まります。
傷病補償年金(傷病年金)
傷病補償年金は、療養を開始してから1年6ヶ月が経過してもケガが治らない場合に、休業補償から切り替わる形で支給が始まります。
傷病等級は第1級から第3級まであり、下表のように障害の状態で分かれています。
傷病等級 | 障害の状態 |
---|---|
第1級 | (1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に介護を要するもの (2) 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に介護を要するもの (3) 両眼が失明しているもの (4) そしゃく及び言語の機能を廃しているもの (5) 両上肢をひじ関節以上で失ったもの (6) 両上肢の用を全廃しているもの (7) 両下肢をひざ関節以上で失ったもの (8) 両下肢の用を全廃しているもの (9) 前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの |
第2級 | (1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、随時介護を要するもの (2) 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、随時介護を要するもの (3) 両眼の視力が0.02以下になっているもの (4) 両上肢を腕関節以上で失ったもの (5) 両下肢を足関節以上で失ったもの (6) 前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの |
第3級 | (1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に労務に服することができないもの (2) 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に労務に服することができないもの (3) 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になっているもの (4) そしゃく又は言語の機能を廃しているもの (5) 両手の手指の全部を失ったもの (6) 第1号及び第2号に定めるもののほか、常に労務に服することができないものその他前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの |
1年6ヶ月経ってもケガが傷病等級に該当しなければ傷病補償年金は支給されず、引き続き休業補償を受けることになります。その際には「傷病の状態等に関する報告書」の提出が必要です。
ポイント
療養開始から1年6ヶ月経ってもケガが治らない場合
- 傷病等級に認定されると休業補償から傷病補償年金に切り替わる
- 傷病等級に認定されないと休業補償が引き続き支給される
傷病補償年金の申請に必要な書類は、業務災害・通勤災害共通で「様式第16号の2」を用います。
傷病等級と支給額については、以下の表を参照ください。
傷病等級 | 障害状態 | 支給額 |
---|---|---|
1級 | 常時介護が必要 | 平均賃金の313日分 |
2級 | 随時介護が必要 | 平均賃金の277日分 |
3級 | 常態として労働不能 | 平均賃金の245日分 |
このほか等級に応じた一時的な支給金、傷病特別年金が支給されることがあります。
障害補償給付(障害給付)
障害補償給付は、ケガや疾病の治療後、障害が残ってしまった場合に支給される給付金です。
支給の種類や金額は障害の程度に応じて定められる等級によって異なり、支給形式も「年金形式」と「一時金形式」に分かれます。
支払形式 | 概要 |
---|---|
年金形式 | 等級が1級から7級の場合は年金形式 毎年偶数月に、その前2ヶ月分の金額が支給される |
一時金形式 | 等級が8級から14級の場合は一時金形式 一度だけ支給される |
同一の事故により2つ以上の障害が残ってしまった場合は、重い方の等級を基準に支給が決定されます。
介護補償給付(介護給付)
介護補償給付は、障害補償年金または傷病補償年金を受ける権利がある被害者で、常時または随時介護が必要であれば支給されます。
介護補償給付(介護給付)の申請をする場合は、様式第16号2の2にて申請しましょう。業務災害・通勤災害共通です。
介護補償給付の支給内容は、常時介護か随時介護なのかで異なります。
常時介護の場合
常時介護にあたる具体的な障害の状態は、下記のとおり定められています。
常時介護の障害の状態
① 精神神経・胸腹部臓器に障害を残し、常時介護を要する状態に該当する
(障害等級第1級3・4号、傷病等級第1級1・2号)
②・両眼が失明するとともに、障害または傷病等級第1級・第2級の障害を有する
・両上肢および両下肢が亡失又は用廃の状態にある
など①と同等度の介護を要する状態である
常時介護の方への介護補償給付は、さらに親族または友人・知人の介護の有無によります。
親族・知人・友人の介護を受けていないときは、177,950円を上限とした介護費用の実費請求が可能です。
親族・知人・友人の介護を受けていて、介護費用の支出をしていないときには一律81,290円が認められます。
一方で介護費用の支出をしているときには最低81,290円が一律で支払われ、81,290円以上になったときには177,950円が上限としてかかった実費が支払われます。
介護 | 介護費の支出 | 支給 |
---|---|---|
なし | ー | 原則実費、上限177,950円 |
あり | なし | 一律81,290円 |
あり | あり | 最低81,290円、上限177,950円 |
随時介護の場合
随時介護にあたる具体的な障害の状態は、下記のとおり定められています。
随時介護の障害の状態
① 精神神経・胸腹部臓器に障害を残し、随時介護を要する状態に該当する
(障害等級第2級2号の2・2号の3、傷病等級第2級1・2号)
② 障害等級第1級または傷病等級第1級に該当し、常時介護を要する状態ではない
随時介護の方への介護補償給付は、さらに親族または友人・知人の介護の有無によります。
親族・知人・友人の介護を受けていないときは、88,980円を上限とした介護費用の実費請求が可能です。
親族・知人・友人の介護を受けていて、介護費用の支出をしていないときには一律40,600円が認められます。
一方で介護費用の支出をしているときには最低40,600円が一律で支払われ、40,600円以上になったときには88,980円が上限としてかかった実費が支払われます。
介護 | 介護費の支出 | 支給 |
---|---|---|
なし | ー | 原則実費、上限88,980円 |
あり | なし | 一律40,600円 |
あり | あり | 最低40,600円、上限88,980円 |
遺族補償給付(遺族給付)
遺族補償給付(遺族給付)は、労災事故によって死亡した被害者の遺族に対する給付です。受給資格は以下のとおりで、対象者には年金形式で支払われます。
受給資格
- 被害者が死亡した当時「その収入によって生計を維持していた」こと
- 被害者の配偶者・子・父母・孫・祖父母または兄妹姉妹であること
- (妻以外は)年齢要件を満たしていること
妻以外の要件については下表のとおりになります。
対象 | 要件(いずれか) |
---|---|
夫、父母 祖父母 | ・55歳以上 ・一定の障害の状態 |
子、孫 | ・18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間 ・一定の障害の状態 |
兄弟姉妹 | ・55歳以上 ・18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間 ・一定の障害の状態 |
※一定の障害:障害等級5級以上に該当する身体障害がある状態、心身障害で労働に一定の制限がある状態
生計維持関係の基準としては、被害者と同居していたかどうかなどで判断されます。共稼ぎの配偶者であっても対象になりますし、内縁関係でも対象になるケースがあることに注意してください。
基本的には年金支給になり、年金額は遺族の数により異なります。被害者の死亡当時、遺族補償年金を受け取る遺族がいない場合は、遺族補償一時金が支給されます。
遺族補償年金の金額
遺族(補償)年金は、受給資格をもつ遺族数で金額が決まります。
遺族 | 金額 |
---|---|
1人 | 給付基礎日額の153日分※ |
2人 | 給付基礎日額の201日分 |
3人 | 給付基礎日額の223日分 |
4人以上 | 給付基礎日額の245日分 |
※遺族が55歳以上の妻または一定の障害のある妻の場合は、給付基礎日額の175日分
なお、遺族補償年金を受ける遺族がいないときや受給資格のある者がすべて失権したときに金額が一定額に満たないときには、一時金が支払われます。
葬祭料(葬祭給付)
葬祭料は、葬祭をおこなう者に対して支給されます。金額は、以下のうち高い方が支給されます。
葬祭料(葬祭給付)いずれか高い方
- 31万5000円+被害者の事故前における平均賃金の30日分
- 被害者の事故前における平均賃金の60日分
車やバイクとの交通事故なら相手の保険にも請求可能
労災認定された交通事故の被害者は、労災保険からの補償に加えて、加害者側の自賠責保険・任意保険からの賠償金受け取りも可能です。
ただし、労災保険と事故相手の保険における補償内容は重複している部分もあるため、二重取りはできません。
労災保険と相手の自賠責保険・任意保険との違いや、どちらに請求するのかを知りたい方は関連記事をお読みください。
労災認定を受けた交通事故に関するよくある疑問
Q.労災の休業補償と相手保険からの休業損害は違うのですか?
労災の休業補償と、相手保険からの休業損害は別物です。
項目 | 休業補償 | 休業損害 |
---|---|---|
根拠 | 労働基準法・労災保険法 | 民法・自賠責保険法 |
支給主体 | 労働基準監督署・労災保険 | 加害者、またはその保険会社 |
金額 | 平均賃金60%+特別支給金20% | 事故前の収入による実損害額 |
過失 | 影響なし | 影響あり |
労災の休業補償と、交通事故の休業損害を比べると、事故相手から支払われる休業損害のほうが、実損害額を請求できるため、金額が高くなる可能性があります。
よって、労災の休業補償を受け取ってから、足りない分を相手方に「休業損害」として請求する流れになるでしょう。
ただし休業損害は過失の影響を受けるため、被害者側にも事故の責任が多くあるときには、労災の休業補償以上のものは請求できない可能性も十分あります。
Q.労災保険を使うと相手に請求できる慰謝料は減る?
労災保険の使用が、相手からの慰謝料に影響することはありません。労災を使ったことを理由に慰謝料を減らされるということはないと考えてください。
Q.自賠責を残して労災を使ったほうがいいとはどういうこと?
「自賠責を残す」とは、自賠責保険の支払限度額を超えないよう、労災保険から補償を受けられる分は、労災保険を使用するという意味です。
事故相手の加入する自賠責保険からは、国が定めた水準に基づいて、治療費や慰謝料、休業損害といった賠償を受けられます。
ただし自賠責保険の補償額は有限で、ケガの部分は120万円までです。120万円を超えた分は、相手の加入する任意保険会社から支払われる構造になっています。
相手の保険会社の担当者からはこれまでのようにいかず支払いを渋られたり、治療終了を促されたりとシビアな交渉になるでしょう。
よって、この120万円に含まれる治療費や休業損害などは労災保険からまず受け取り、不足分を相手に請求していくことで、120万円の使い道を残しておくことをおすすめします。
労災認定された交通事故で弁護士に依頼すべき理由
事故相手への金額交渉に強みがある
交通事故が労災事故であるとき、労災保険からは一定の補償を受けられますが、その補償額は決まっています。
また、いわゆる「交通事故の慰謝料」については労災保険からは支払われません。
よって、相手方のいる交通事故のときには事故相手の自賠責保険や任意保険会社に請求しましょう。
交通事故の慰謝料はケガの程度と治療期間によっておおよその金額相場が決まってきます。たとえば、弁護士が請求するときの軽傷時の慰謝料相場は、下表のとおりです。
この表は入院月数と通院月数の交わる部分を慰謝料とします。たとえば、入院なし・通院3ヶ月なら53万円、入院1ヶ月・通院5ヶ月なら105万円が相場です。
骨折や内臓損傷を伴うような場合は重傷とされ、軽傷時よりも慰謝料は高額になります。
もっとも、相手の保険会社から提案された時点の金額が低いことがほとんどです。相手方との交渉を通して適正な相場まで引き上げねばなりません。
そうした交渉時に法律の専門家である弁護士が交渉することで、相手の保険会社の態度も軟化し、慰謝料増額につながる可能性を高めることができます。
労災保険から慰謝料はもらえませんので、自分の労災保険と、事故相手の保険の両方から補償を受けましょう。
交通事故の被害にあってお困りの方に向けた法律相談を無料でおこなっています。お気軽にお問い合わせください。
下記より慰謝料計算機もお試しください。交通事故の慰謝料について、おおよその相場を簡単に知ることができます。
保険会社とのやり取りも任せられる
労災保険からの給付内容は決まっており、その金額から増減されることはありません。よって、交渉するまでもなく決まったものが支給されます。
しかし、交通事故の加害者の加入する任意保険会社には担当者が存在し、ケガの状況、過失割合の相談など様々な連絡が入り、交渉によって内容が決まっていく仕組みです。
ケガの痛みに苦しむなかで何度も電話が入ったり、家事に追われている中で返信を催促されたりすると、被害者にとって事故の苦痛は何倍にも膨れ上がります。
弁護士に依頼すれば、相手の保険会社からの連絡窓口は弁護士に一本化が可能です。弁護士が相手の保険会社から話を聞き、わかりやすい言葉で依頼者に伝えるので安心できます。
なにより被害者が日常生活を取り戻しやすい環境となるよう、弁護士なら交渉窓口の最前線に立てるのです。
アトム法律事務所の無料相談窓口はこちら
アトム法律事務所では、交通事故でケガをされた方からの相談を無料で受け付けています。
相談のご予約は年中無休ですので、お気軽にお問い合わせください。
アトム法律事務所は、弁護士・事務員ともに交通事故案件に慣れています。
労災事故でもあり、交通事故でもあるという場合、被害者の方は「どっちに請求すべきか」「この書類は返却しても問題ないのか?」と戸惑いや不安がより多いものです。
複雑な手続きや保険会社とのやり取りは、弁護士にお任せください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了