社用車で事故。営業中の事故の責任は従業員?会社?慰謝料請求も解説
社用車に乗っていて事故を起こした場合、誰が責任を負うのか気になる方も多いのではないでしょうか。
一般的には、営業中の事故であれば社用車を運転していた従業員と会社が責任を負うことになります。しかし、会社が事故を起こさないように適切な管理を行っていた場合は、会社が免責される可能性もあるでしょう。
この記事では、社用車の事故で生じる責任や慰謝料請求について解説します。
目次
社用車の事故で生じる責任
社用車で事故を起こした場合、事故の責任は「事故を起こした従業員」と「従業員を雇う会社」にそれぞれ発生します。それぞれどのような責任が生じるのか詳しくみていきましょう。
事故を起こした従業員の責任
社用車であろうとなかろうと、事故を起こした場合、運転者には「刑事上」「行政上」「民事上」の3つの責任が発生します。
刑事上の責任 | 刑事罰(罰金、懲役など) |
行政上の責任 | 免許の点数加算、免許の停止・取消など |
民事上の責任 | 相手に対する損害賠償責任 |
民事上の責任である損害賠償責任に関しては、事故を起こした車が社用車であった場合、会社も責任を負うケースがあります。
事故を起こした運転者が負う3つの責任については『交通事故の責任は法律上3つある?道義上の社会的責任も重要』の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
従業員を雇う会社の責任
従業員が社用車で事故を起こした場合、社用車を所有する会社には民法715条の「使用者責任」と自動車損害賠償保障法3条の「運行供用者責任」の2つの責任が発生する可能性があります。
使用者責任 | 業務上の過程で従業員の不法行為によって第三者に損害を与えた場合は、会社も賠償責任を負う |
運行供用者責任 | 自動車を使用することで会社が利益を得ている場合、自動車の使用による事故について会社も賠償責任を負う |
社用車を使って従業員に業務をさせていた場合、従業員が社用車で事故を起こしたのなら会社も事故の責任を負うことになるのです。
ただし、場合によっては会社の損害賠償責任が免責され、従業員一人が責任を負わねばならないケースもあるでしょう。
- 使用者責任で免責されるケース
使用者である会社側が従業員の故意や重過失による事故防止のために適切な管理を行っていたといえるのであれば免責となります。たとえば、従業員が飲酒運転を防ぐための管理体制をかいくぐり、飲酒運転を強行して事故を起こした場合などです。 - 運行供用者責任で免責されるケース
従業員が私的に社用車を利用していた場合も、会社側が私的利用できない管理体制を整えていたのであれば免責となります。
こんな場合の社用車による事故の責任はどうなる?
業務外の事故で会社が責任を負う場合
従業員が業務時間外で社用車を私的に使用していた場合、事故の責任は従業員にのみ発生します。
もっとも、従業員が私的に社用車を利用した場合でも、外形から客観的に見て、職務の範囲内といえる場合には、原則として使用者責任の対象となります。
ただし、私的利用できないように適切な管理がなされていた場合なら、会社は責任を負わない可能性があるでしょう。
さらに、従業員が業務と私用を兼ねて社用車を使用していた場合、会社は従業員の監督義務を怠ったとして、損害賠償責任を負う可能性があるでしょう。
社用車ではなくマイカーでの事故で会社が責任を負う場合
従業員がマイカーを使用中に事故を起こした場合でも、業務中に発生した事故であるなら、使用者責任や運行供用者責任に問われます。
業務行為であることから使用者責任が認められ、業務行為により会社が利益を得ているといえるため、運行供用者責任が認められるのです。
通勤や退勤中の事故である場合、裁判所は、マイカー通勤に対する会社の承認、ガソリン手当等経費の支給、マイカー使用についての上司の指示・監督の有無、マイカーの使用状況などを考慮して、使用者責任や運行供用者責任の有無を判断しています。
会社がマイカー通勤を承認・黙認していたような場合や、会社の承認又は指示のもとで会社業務のためにマイカーを利用していたような場合、会社の運行供用者責任が認められる可能性が高いといえます。
一方、業務外の私的な利用であった場合には、マイカーであるため外形的にも業務行為といえず、会社に利益も生じないことから、使用者責任や運行供用者責任は生じません。
社用車が無断使用された事故で会社が責任を負う場合
裁判所は、他人による自動車の運転を容認していたとみられてもやむを得ない客観的状況の有無、自動車の管理についての過失の有無、当該過失と事故との間の因果関係の有無などを考慮して、運行供用者責任を判断しています。
たとえば、施錠せずに第三者が自由に出入りできる駐車場に駐車していた社用車を誰かが無断使用した際に交通事故が発生した場合には、会社の運行供用者責任が認められる可能性が高いといえます。
会社が事故の責任を負わないための対応とは?
従業員の安全運転教育を徹底する
そもそも、社用車での交通事故が発生しなければ、会社が責任を負うことはありません。
そのため、会社が事故の責任を負わないようにするにはまず従業員への交通安全研修を定期的に行い、安全運転の意識を植え付けることが必要です。
また、事故を起こした従業員や運転の適性がない従業員は、運転の必要が少ない部署に配置転換する、無事故無違反だった従業員を表彰する制度を導入するといった対応も有効です。
車両管理を徹底する
社用車がいつどのように使用されているかを把握できるようにしておけば、従業員の業務外の私的使用による事故や社用車の無断使用による事故の責任を負わない可能性を高めることができます。
具体的には、ドライバーに社用車を運転する事前・事後の会社側への報告を日頃から徹底させる、位置情報が特定できるシステムを導入するといった対応が考えられます。
就業規則や社用車利用規程を設ける
就業規則や社用車利用規程で、社用車を業務時間外で利用した場合の罰則や社用車・マイカー利用時の禁止事項、責任範囲などを規定し、従業員に認識させることで、従業員による社用車やマイカー運転の事故発生を減らせる可能性が高まります。
ただし、労働基準法16条は賠償予定の禁止を定めているので、具体的な損害賠償金額や違約金といった内容を規定することはできない点には注意が必要です。
社用車で事故を起こした後の対応
社用車で事故を起こした場合、まずは事故の状況を把握し、適切な対応をすることが重要です。
(1)怪我人の救護と周囲の安全確保
事故を起こしたら、まず停車をして、怪我人の救護と周囲の安全確保をする必要があります。怪我人の救護と周囲の安全確保(危険防止措置)は道路交通法上の運転者の義務だからです。
事故発生直後は気が動転しているかもしれませんが、上記の義務を怠ると、人身事故の場合ひき逃げ、物損事故の場合当て逃げとなり、重い罰則が科される可能性があるので注意が必要です。
怪我人がいる場合は、意識の確認や心肺蘇生、止血などの応急処置を行い、救急車を呼びましょう。
そして、二次災害に注意して、発煙筒で後続車に事故の発生を知らせる、怪我人や事故車を安全な場所(道路わきなど)に移動させるといった、周囲の安全確保を行って下さい。
特に、二次災害の危険性が高い高速道路においては、より慎重な対応が必要となります。
詳しく知りたい方は『高速道路で事故にあった時の対処法|料金所付近の事故の過失割合は?』の記事をご覧ください。
(2)警察に報告
事故を起こしたら必ず警察に報告しましょう。警察への事故の報告が、道路交通法上の運転者の義務というだけでなく、後日、交通事故証明書を取得するためにも必要な対応です。
軽微な物損事故であっても、上記報告義務違反には罰則を科される可能性があるので注意が必要です。
警察への連絡は事故現場で110番通報を行うのが一般的ですが、警察署や交番に出向いて事故を届け出ても問題ありません。
交通事故を警察に報告することの重要性については、関連記事『交通事故後は警察への報告義務がある|伝える内容や連絡後の流れも解説』が参考になります。あわせてご確認ください。
警察の実況見分に協力する
警察が事故現場に到着した場合には、実況見分という手続きが行われることがあるので、その場合にはできるだけ協力しましょう。
実況見分の流れや、協力する際の注意点などについて知りたい方は『実況見分の流れや注意点!聞かれる内容や過失割合への影響、現場検証との違い』の記事をご覧ください。
(3)会社に連絡・保険について確認
状況が落ち着いたら、すみやかに会社にも連絡しましょう。社用車で事故を起こした場合、運転者だけでなく会社にも責任が問われる可能性があるからです。
とくに社用車の場合、自賠責保険だけでなく、基本的に社用車の修理代や怪我人の治療費などの事故による損害を補償する任意保険(対人賠償責任保険)や社用車の修理代を補償する任意保険(車両保険)にも加入しているケースが多いです。
そのため、会社が加入する任意保険を通常は利用できるでしょう。
また、会社が搭乗者傷害特約や人身傷害保険に加入していた場合、事故を起こした従業員やその同乗者にも保険会社から保険金が支払われる可能性があります。
会社の任意保険を使うためにも、会社へ連絡して、保険について確認するようにしてください。
わかる範囲で大丈夫なので、会社には事故の事実や現在の状況を冷静に伝えるようにしましょう。
なお、反対に会社の車で事故を起こした場合は、従業員自身が加入している自動車保険は使用できないケースがほとんどです。
社用車運転中に追突された場合の注意点
社用車運転中、後続車に追突された場合には、会社が加入する任意保険を通常利用できますが、事故の加害者との対応を保険会社は通常してくれない点には注意が必要です。
追突事故の場合、追突された被害者側の過失割合は通常0であり、加害者側への損害賠償責任が生じない場合、保険会社は示談交渉を代行できないからです。
ただし、会社が加入する任意保険に弁護士費用特約が付いている場合、その特約を使用することにより会社が弁護士費用を負担することなく、弁護士に事故の加害者との対応を任せることができます。
保険会社が示談代行できない詳細な理由を知りたいという方は『もらい事故では保険会社に示談交渉を頼めない!注意点や使える自分の保険は?』の記事をご覧ください。
(4)事故現場の状況を記録
事故発生時の現場の状況を記録しておくことは、示談交渉や訴訟の際に役立ちます。
事故現場の状況を記録する際には、以下のような点に注意しましょう。
- 事故の状況を写真や動画で撮影する
- ドライブレコーダーの映像を確認する
- 事故現場の状況をメモする
- 目撃者の氏名や連絡先を控える
事故現場は変化していくものなので、時間が経つほど事故の状況を示す証拠を集めるのがむずかしくなります。事故直後の新鮮な証拠を集めることが後の損害賠償請求に役立つでしょう。
(5)怪我を負っていたら病院へ
事故で怪我を負った場合は、速やかに病院で診察を受けましょう。
事故から期間が経過してから病院に行くと、たとえ事故で怪我をしていたとしても因果関係が疑われてしまい、これから請求していくことになる損害賠償金が適切にもらえなくなるリスクが発生します。
事故直後は興奮で痛みを感じないこともよくあるので、痛みや目立った怪我がなかったとしても病院に行って検査を受け、診断書を作成してもらいましょう。
また、事故状況や過失割合などにもよりますが、通常、治療費は相手方が加入する任意保険会社から支払われることになるでしょう。
労災保険が利用できないか確認を
業務中や通勤中の事故であった場合、労災保険を利用して治療を受けることも可能です。
労災保険は過失割合の影響を受けないので、相手方と争いになって十分な補償が得られそうにない場合でも安心して治療が受けられます。
ちなみに、労災事故の場合は健康保険を使うことはできませんので注意してください。
交通事故で労災保険を利用する方法については、関連記事『交通事故で労災保険は使える?慰謝料は?任意・自賠責併用のメリット・デメリット』をご確認ください。
社用車で事故を起こした時のNG行動
社用車で事故を起こした場合、適切な対応が求められます。焦りや不安からNG行動をしてしまうことがないよう、事前に対策をしておきましょう。
誰にも事故を報告しない
事故を起こしたら、警察と会社に報告するようにしましょう。
警察への事故の報告は、法律で義務として定められているので理解している方も多いと思います。
一方、社用車で事故を起こした場合にありがちなのが、「会社にバレたくない」という気持ちから会社に黙って解決しようとすることです。
通常、会社は任意保険に加入していると思いますので、会社に報告しないと任意保険が利用できません。会社にもきちんと報告するようにしましょう。
事故を報告せずに放置すると、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。自分一人で何とかしようとするのではなく、会社にも相談するようにしてください。
自己判断で相手とお金のやり取りを勝手にする
事故で発生した相手の損害賠償については、任意保険会社が対応するのが一般的です。
事故発生後に任意保険会社に連絡を取り、対応してもらいましょう。
一見、怪我がないように見えたり、車両も大した傷がついていなかったりすると、事故の当事者同士がその場で勝手に処理してしまうことがあります。
とくに、当事者同士だけで勝手に示談金や見舞金といったお金のやり取りをしてしまうと、保険会社から支払いを受けられなくなる可能性があります。後々のトラブルを回避するためには、その場で適当なやり取りはしないようにしてください。
念書などの書面にもサインしたりしないようにしましょう。
過剰な謝罪・思い込みだけで過失を認める
事故現場で過剰に謝りすぎると、実際は自分の過失がそこまで大きくなかったにもかかわらず、自分の過失が大きかったように相手に誤認させてしまう可能性があります。
交通事故の過失割合は、事故状況やドライブレコーダーの映像といった客観的な証拠、警察の捜査資料などをもとに、事故の当事者同士による話し合いで決められていくことが多いです。
相手に謝罪する姿勢はとても大切ですが、謝罪があまりにも過剰すぎると、相手から「事故の責任はすべて自分にあると言っていたからこっちは悪くない」などといって後々、過失に関して争いになり兼ねません。
過剰な謝罪や思い込みだけで過失を認めてしまうと、後々不利な状況に追い込まれる可能性があるので注意するようにしましょう。
社用車の事故でよくある質問
社用車で事故を起こした場合、会社から自己負担を求められたり、事故によるクビや減給があるのか不安になったりする方も多いのではないでしょうか。
ここでは、社用車の事故でよくある質問について回答します。
Q.会社から自己負担しろと言われた?
会社から自己負担しろと言わるパターンとしては、以下の2通りです。
- 会社に損害を負わせたとき
社用車の修理費用、買い替え費用、代車費用など - 事故相手に会社が賠償したとき
会社が支払った賠償金の一部を求償される可能性がある
会社側から具体的な根拠を示すことができない場合は、会社に抗議する余地があります。
また、会社と従業員の双方に連帯責任が発生する場合、どちらにどれだけ責任があるのか(責任割合)が問題となり、会社が過大な責任負担を主張してきた場合にも、争う余地があります。
Q.実は飲酒運転で事故を起こしたら?
飲酒運転で事故を起こした場合、社用車であろうとなかろうと、運転者本人が刑事罰の対象になる可能性があります。
また、通常の交通事故では、相手に対する損害賠償責任を会社も負うことになりますが、飲酒運転など悪質な行為で交通事故を起こした場合、会社は損害賠償責任を負わない可能性もあります。
飲酒運転については関連記事『飲酒運転の法律知識|飲酒運転の範囲、違反時の罰則は?』が参考になりますので、あわせてご確認ください。
Q.事故によるクビや減給はあり得る?
社用車で事故を起こしたからといって、すべてのケースでクビや減給になるわけではありません。
たとえば、事故の原因が従業員の故意や重大な過失によるものであった場合、会社は従業員を解雇する可能性があります。
バスやタクシー、トラックなどの運転手が事故を起こし、免許取消となった場合には、運転できなくなるので、結果的に辞めざるを得なくなるでしょう。
また、事故を起こした場合の減給に関する規定が設けられている場合、減給される可能性があります。
もっとも、減給には労働基準法で限度が定められています。
社用車での事故で慰謝料に納得できない!
相手方は妥当な慰謝料を提示してこない
社用車に乗っていて事故にあい、怪我を負ったら労災保険を利用して治療を受けることができます。
もっとも、労災保険からは慰謝料がでないので、事故の相手方に請求しなければ慰謝料を手にすることはできません(加えて、労災保険からの休業補償給付は休業損害の一部しか補填されないので、残額については自己の相手方に請求する必要があります)。
通常、事故の相手方は任意保険に加入しているので、保険会社の担当者が示談交渉の相手となります。保険会社は、支払う慰謝料できるだけ少なくしようと低い金額しか提示してきません。
相場の慰謝料額を得たい場合には、弁護士に依頼して示談交渉を行ってもらいましょう。
専門家である弁護士が示談交渉に介入することで、被害者が本来受け取るべき妥当な金額まで引き上げることができます。
事故の被害者がもらえる妥当な慰謝料の額を知りたい方は、以下の慰謝料計算機をお使いください。
計算機の結果と保険会社の提示額を比べた時、提示額の方が少ないなら弁護士が示談交渉に介入することで増額の見込みがあります。
慰謝料請求は弁護士の力を借りる
妥当な金額の慰謝料を請求していくには、弁護士の力を借りましょう。
もっとも、弁護士が介入する必要があるケースとないケースが当然あります。
ますは、法律相談を通して弁護士の必要性を確認してください。
アトム法律事務所では、弁護士による無料の法律相談を行っています。無料の法律相談をご希望の方は、下記バナーより相談予約をお取りください。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了