交通事故で労災保険は使える?慰謝料は?任意・自賠責併用のメリット・デメリット
通勤中や仕事中に起こった交通事故は労災事故として扱われるため、労災保険を使えます。交通事故で労災保険を使うメリットは多く、被害者にデメリットはほぼありません。
もっとも両方から同じ治療期間について治療費を受け取る、両方に休業損害を満額請求するというような同じ損害に対する補償の二重取りは認められていません。
しかし、労災保険の特別支給金や、事故相手の保険会社から支払われる慰謝料のように、両方に請求して初めて受け取ることができる金銭もあります。
よって、加害者側の自賠責保険や任意保険にも賠償請求すると、どちらか一方のみを利用するよりも多くの金額が手に入るので、労災保険との併用がおすすめです。
当記事では、労災保険の補償内容や請求手続きの方法、自賠責保険・任意保険との違い、併用方法などを解説していきます。
目次
交通事故で労災保険は使える|自賠責・任意保険と併用
労災保険は「雇用されている労働者」なら利用可能です。そして、交通事故が通勤中や仕事中に起こったならば、労災保険の補償範囲となります。
労災保険の対象となる交通事故のケースをみていきましょう。
労災保険が使える交通事故は通勤災害と業務災害
たとえ労災保険の補償対象となる労働者であっても、交通事故が「通勤災害」または「業務災害」にあたる場合しか労災保険は利用できません。
通勤災害は通勤中の事故
労災保険を適用できるケースの1つ目は「通勤災害」です。
通勤災害は「合理的な経路で通勤しているときに起きた事故」を指すので、通勤の途中で通勤とは無関係の場所に寄り道などをした場合は、通勤災害には当たりません。
しかし、以下の行為などは日常生活上必要なことなので、用事を済ませて再度通勤経路に戻っていれば、通勤災害として認められます。
- 通勤中の日用品の購入
- 通勤中の選挙権の行使
- 通勤中に病院などで診察を受ける
ご自身のケースが通勤災害にあたるのかわからない場合は、一度弁護士にお問い合わせください。
アトム法律事務所なら、電話やLINEにて無料相談が可能です。
業務災害は仕事中の事故
業務災害とは、仕事中に発生した事故のことです。
ただし、仕事時間内であっても、仕事とは関係ないことをしていて発生した事故や天変地異などが原因で生じた事故は業務災害として認められないことがあります。
なお、出張中に交通事故にあった場合は、出張過程全般が業務行為とされるため、業務災害として認められるでしょう。
注意点1.労災保険から慰謝料はもらえない
労災保険の補償内容に慰謝料は含まれません。
労災保険から慰謝料の支払いは受けられないので、たとえ労災保険を利用していても、慰謝料については別途、加害者側の自賠責保険や任意保険に請求する必要があるのです。
交通事故でケガをしてつらい思いをしたり、一生治らない後遺症が残ったりしたことのつらさは労災保険からは補償されていません。
交通事故による損害として、相手方に請求していくべき賠償金です。
アトム法律事務所では便利な慰謝料計算機を用意しています。交通事故の慰謝料の見通しを立てたい方はぜひ使ってみてください。
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注意点2.労災事故で健康保険は使えない
交通事故によるケガの治療でも、通常は健康保険を使えます。しかし、労災保険を使うような交通事故の場合には健康保険を使えません。
労災保険が適用になる事故であるのにもかかわらず、健康保険を使ってしまった際は、労災保険に切り替える必要が出てきます。
労災保険と自賠責保険・任意保険はどちらを優先する?
どちらの保険を優先すべきかは状況しだいといえます。
ただし、労災保険と自賠責保険・任意保険のどちらを優先するかは、自分で決めることができます。
自賠責保険・任意保険を優先するのが推奨
厚生労働省は、先に自賠責保険に請求することを勧めています。その方が、重複する費目の相殺がスムーズにできるからです。
また、休業の補償に関しては自賠責保険・任意保険の方が高額になります。自賠責保険・任意保険に請求したあとでも、労災保険の休業特別支給金は請求できるので、より充実した補償を手にできます。
労災保険を優先した方がいいケースもある
労災保険を優先した方がいいケースは次の通りです。
- 自分の過失割合が大きいとき
自賠責保険・任意保険で支払われる賠償金は過失相殺の影響を受けるため、過失相殺の影響を受けない労災保険を優先した方がいい - 事故車両の所有者が運行供用責任を認めないとき
事故車両が盗難車だったり、所有者の許可なく運転されていたりした場合は、自賠責保険の請求が認められないこともある - 加害者が自賠責保険未加入(法令違反)
加害者から直接補償を受け取るまでは時間がかかる
以上のような事情がない限り、基本的には自賠責保険・任意保険を優先しましょう。ただし、自賠責保険・任意保険を優先したら労災保険への請求も忘れないでください。
交通事故の過失割合については、関連記事の解説をお読みください。過失割合とは警察が決めるものではなく、当事者同士の話し合いによって決めていくことになります。
【結論】労災保険と自賠責保険・任意保険の両方を使うべき
労災保険と自賠責保険・任意保険で補償内容が重複している費目は二重取りできません。
言い換えると、補償内容が重複しない費目に関しては、労災保険と自賠責保険・任意保険それぞれに請求していかない限り手に入らないことを意味します。
たとえば、労災保険からは慰謝料の支払いを受けられませんし、休業補償給付なら減収の60%にあたる金額しか給付されないなど、労災保険だけでは補償が不十分な部分もあります。
そうした労災保険だけで不十分な部分は、加害者側の自賠責保険・任意保険に請求しましょう。特に、労災保険の補償外である「慰謝料」の請求は必須です。
そうすることで、労災保険だけでは不十分な部分を補いつつ、労災保険からしか受け取れない特別給付金も受け取れます。
アトム法律事務所では交通事故でケガをされたり、重い障害や、死亡事故の被害にあわれた方からの相談を無料で行っております。慰謝料の見積もりも受け付けていますのでお気軽にお問い合わせください。
労災保険と自賠責保険・任意保険の補償内容
交通事故の被害にあった時、労災保険から補償される内容と、加害者が加入する自賠責保険・任意保険から補償される内容について解説していきます。
労災保険の補償内容
労災保険の補償や給付の内容には、以下のものがあります。
- 療養補償給付(療養給付)
- 休業補償給付(休業給付)
- 傷病補償年金(傷病年金)
- 障害補償給付(障害給付)
- 介護補償給付(介護給付)
- 遺族補償給付(遺族給付)
- 葬祭料(葬祭給付)
※()内は通勤災害の給付の名称です。
それぞれがどのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。
療養補償給付(療養給付)
療養補償給付とは、ケガの治療のため必要になる費用のことで、具体的には以下のような費目に対して支給されます。
- 診察
- 薬剤または治療材料の支給
- 処置、手術その他の治療
- 居宅における療養上の管理や世話、その他看護
- 病院や診療所への入院や看護
- 移送
療養補償給付の金額は実費です。
休業補償給付(休業給付)
休業補償給付は、通勤中や仕事中の交通事故でケガをして働くことができず、療養している期間に支給されます。
休業補償の支給額は、事故前における被害者自身の平均賃金の60%です。休業を開始してから最初の3日間は待期期間と呼ばれ、労災からの補償はされません。
つまり、待期期間中の減収や不十分な補償部分については、加害者に対して休業損害として請求することが可能です。
休業補償については、相手方の保険会社から支払われる休業損害と混同しやすいので、詳しく知りたい方は『交通事故の休業補償とは?いつまでの期間もらえる?条件・計算方法を解説』をお役立てください。
傷病補償年金(傷病年金)
傷病補償年金は、療養を開始してから1年6ヶ月が経過してもケガが治らない場合に、休業補償から切り替わる形で支給が始まります。
ただし、ケガが傷病等級に該当しなければ傷病補償年金は支給されず、引き続き休業補償を受けることになります。
ポイント
療養開始から1年6ヶ月経ってもケガが治らない場合
- 傷病等級に認定されると休業補償から傷病補償年金に切り替わる
- 傷病等級に認定されないと休業補償が引き続き支給される
傷病等級と支給額については、以下の表を参照ください。
傷病等級 | 障害状態 | 支給額 |
---|---|---|
1級 | 常時介護が必要 | 平均賃金の313日分 |
2級 | 随時介護が必要 | 平均賃金の277日分 |
3級 | 常態として労働不能 | 平均賃金の245日分 |
障害補償給付(障害給付)
障害補償給付は、ケガや疾病の治療後、障害が残ってしまった場合に支給される給付金です。
支給の種類や金額は障害の程度に応じて定められる等級によって異なります。
また、支給の形式も、等級によって「年金形式」と「一時金形式」に分かれます。
年金形式 | 毎年偶数月に、その前2ヶ月分の金額が支給される 等級が1級から7級の場合は年金形式 |
一時金形式 | 一度だけ支給される 等級が8級から14級の場合は一時金形式 |
同一の事故により2つ以上の障害が残ってしまった場合は、重い方の等級を基準に支給が決定されます。
介護補償給付(介護給付)
介護補償給付は、障害補償年金または傷病補償年金を受ける権利がある被害者で、常時または随時介護が必要であれば支給されます。
最高限度額は、常時介護が必要な方であれば月額16万5150円、随時介護が必要な方であれば月額8万2580円となっています。
遺族補償給付(遺族給付)
遺族補償給付は、労災事故によって死亡した被害者の遺族に対する給付です。
被害者の収入によって生計を維持していた、以下の方に支給されます。
- 配偶者
- 子
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
生計維持関係の基準としては、被害者と同居していたかどうかなどで判断されます。
共稼ぎの配偶者であっても対象になりますし、内縁関係でも対象になるケースがあることに注意してください。
基本的には年金支給になり、年金額は遺族の数により異なります。被害者の死亡当時、遺族補償年金を受け取る遺族がいない場合は、遺族補償一時金が支給されます。
葬祭料(葬祭給付)
葬祭料は、葬祭をおこなう者に対して支給されます。金額は、以下のうち高い方が支給されます。
- 31万5000円+被害者の事故前における平均賃金の30日分
- 被害者の事故前における平均賃金の60日分
自賠責保険・任意保険の補償内容|慰謝料の相場も解説
加害者側の自賠責保険や任意保険の補償内容は、主に以下の通りです。
- 治療関係費
- 休業損害
- 逸失利益(後遺障害逸失利益・死亡逸失利益)
- 介護費用(介護用品・将来介護費など)
- 葬儀費用
- 慰謝料(入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料)
治療関係費
交通事故における治療関係費は、原則として実費が認められます。ただし、必要と認められる範囲に限られるため、不必要に高価な治療などは費用が認められないでしょう。
また、相手の任意保険会社が直接病院に治療費を支払ってくれることもあれば、そうした対応を受けられずに被害者が窓口で負担する場合もあります。
仮に相手の任意保険会社が直接病院に治療費を支払ってくれることもなく、なおかつ労災指定病院以外で治療を受けているときには、治療費の窓口負担が発生します。
そうすると、労災事故であれば健康保険を使うことはできないため、一時的に被害者が負担を強いられてしまうのです。
休業損害
交通事故における休業損害は、原則事故前3ヶ月後給与をベースにして日額を定め、休業日数分請求します。最低日額は6,100円です。(2020年3月31日以前の事故は最低日額5,700円)
労災保険からは休業補償給付として支給されますが、事故前における被害者自身の平均賃金の60%にとどまるため、不十分です。
よって、労災保険から受け取るだけでなく、相手方に請求して不足をカバーしていきましょう。
逸失利益
交通事故における逸失利益の計算方法は、被害者の症状固定前の収入や年齢、後遺障害認定された等級など様々な要素から決めていきます。
逸失利益の計算方法
- 有職者または就労可能者の場合
1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 - 症状固定時に18歳未満の未就労者の場合
1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×(67歳までのライプニッツ係数-18歳に達するまでのライプニッツ係数 )
労災保険からは障害補償給付を受けられますが、そもそも計算式が違うので、場合によっては金額に大きな差が出ることもあるでしょう。
一度両方の計算式で算定して、労災保険からもらう障害補償給付だけでは足りない分については、相手方に請求していくことがポイントです。
逸失利益の計算方法や金額の相場がすぐわかる早見表付きで、関連記事『【逸失利益の計算】職業別の計算方法を解説!早見表・計算機つき』にて解説しています。
介護費用
交通事故で重い障害を負った場合、将来の介護費用の請求も認められています。
労災保険からは介護保障給付として受け取れるものですが、被害者の容態次第で必要な介護費は異なるため、一度見積もってみましょう。
労災保険からの給付額が不足している場合には、相手方に請求する必要があります。たとえば介護費に含まれるものは次のような費目です。
介護費に認められうる費目
- 職業介護人や家族の介護に対する日額補償
- 車椅子の購入や買い替え費用
- オムツやパッドシーツなどの消耗品
- 介護仕様へのリフォーム費用(居宅、車両など)
慰謝料
労災保険から慰謝料は支払われませんが、加害者が加入している自賠責保険・任意保険からは慰謝料が支払われます。
交通事故の慰謝料には、次の3種類があります。
交通事故3つの慰謝料
- 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
交通事故によって入通院した場合に請求できる - 後遺障害慰謝料
交通事故による後遺症に対して後遺障害等級が認定されると請求できる - 死亡慰謝料
交通事故によって死亡した被害者とその遺族が請求できる
慰謝料の金額は、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準のいずれかで計算されます。
基準 | 概要 |
---|---|
自賠責基準 | 自賠責保険から支払われる金額を示した基準 |
任意保険基準 | 加害者側の任意保険会社が提示してくる基準 |
弁護士基準(裁判基準) | 弁護士や裁判所が用いる判例にもとづく基準 |
交通事故の慰謝料請求における原則は、自賠責保険から支払われる金額は一律かつ不十分なので、不足分を相手の任意保険会社に請求するということです。
とくに入通院慰謝料に関して1日額4,300円といった金額提示を受けている場合には、自賠責保険の基準でしか提示を受けていないので、そのまま示談すべきではありません。
たとえば、交通事故で骨折を負った場合の慰謝料について、弁護士基準であれば以下のような表を用いて「治療期間」をベースに算定します。
よって、1日あたり4,300円といった金額ではなく、入院期間や通院期間に応じて計算することで、適正な慰謝料相場がみえてくるのです。
交通事故の慰謝料は弁護士基準で請求
被害者が本来手にできるはずの妥当な金額を計算できるのは「弁護士基準」です。
加害者側の任意保険会社は、示談交渉で「任意保険基準」の金額を提示してきますが、弁護士が交渉することで弁護士基準に近い金額を得られる可能性が高まります。
交通事故の慰謝料を弁護士基準で算定するためには、慰謝料計算機が便利です。情報を入力するだけで慰謝料が自動計算されるツールで、無料で使えます。
慰謝料計算機で確認した結果が、加害者や加害者側の任意保険会社からの提示額とかけ離れている場合には、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。
自賠責保険の基準で示談しないためにも、自賠責保険の基準を知っておきたいという方は関連記事『自賠責保険から慰謝料はいくらもらえる?計算方法や支払い限度額を解説』をお読みください。
労災保険と自賠責保険の補償内容はここが違う【一覧表あり】
交通事故の被害者は、労災保険からの補償以外にも、加害者側の自賠責保険・任意保険に損害賠償請求することで補償が得られます。
ただし、補償範囲は一部重複しており、重複している部分について「実際の損害より多くもらうこと」は認められていません。
補償 | 労災保険 | 自賠責保険 |
---|---|---|
療養補償 | 全額支給 | 上限120万円 |
休業補償(休業損害) | 給付基礎日額の60% | 日額6,100円 ※立証できれば最大1万9,000円 |
傷病補償 | 傷病等級しだい | × (休業損害は請求可) |
逸失利益 | 障害補償給付 遺族補償給付 (年金・一時金) | 後遺障害逸失利益 死亡逸失利益 |
介護補償 | 介護補償給付 | 介護費用 |
葬儀費用 | いずれか多い方 31万5000円+給付基礎日額×30日 給付基礎日額×60日分 | 100万円 |
遺族(補償)給付 | 遺族人数による | 遺族人数による |
慰謝料 | × | 入通院慰謝料 後遺障害慰謝料 死亡慰謝料 |
各特別支給金・一時金 | 等級による | × |
※ 補償されないものは×と表記しています。
※ 労災保険は業務災害の給付名称で説明しています。
上記の通り、補償内容が重複している費目は二重取りできません。
たとえば、交通事故によるケガの治療で休業し、100万円の減収が生じたとします。
労災保険の休業補償は60万円、自賠責保険・任意保険の休業損害は計算上100万円となるでしょう。
しかし、休業補償と休業損害の金額は相殺されるので、合計して160万円となるのではなく、受け取れる合計額は100万円となるのです。
一方、補償内容が重複していない特別支給金と慰謝料は、二重取りにはなりません。慰謝料と特別支給金は、労災保険と自賠責保険・任意保険を併用することで手にすることが可能です。
交通事故で労災保険を使うメリットとデメリット
交通事故では、労災保険と自動車の保険(自賠責保険・任意保険)を併用することでさらに充実した補償を得ることができます。
交通事故で労災保険を使うメリットは、以下の通りです。
労災保険を使うメリット
- 前払い一時金の制度がある
- 労災保険は特別支給金がある
- 病院での窓口負担がない
- 限度額がない
- 過失相殺の影響を受けない
それぞれについて詳しく解説します。
メリット(1)前払い一時金の制度がある
障害補償年金や遺族補償年金は、前払い一時金を受け取ることができます。
前払い一時金は、本来なら将来給付されるはずの金額を先に受け取るものです。
よって、前払い一時金を受け取ると、その金額分の期間は年金の支給が停止しますが、一度に多くのお金が必要な場合には非常に助かる制度といえるでしょう。
なお、前払い一時金として受け取れる最大金額は、障害補償年金なら1200日分、遺族補償年金なら1000日分となります。
メリット(2)労災保険は特別支給金がある
労災保険には、先ほど紹介した各種補償給付に付加する形で「特別支給金」も給付されます。
労災福祉の観点から支給される労災独自の特別支給金は、労災保険を利用しなければ受け取れません。
特別支給金の一覧は以下の通りです。
保険給付の種類 | 特別支給金 |
---|---|
休業補償給付 (休業給付) | 休業特別支給金 |
傷病補償年金 (傷病年金) | 傷病特別支給金 傷病特別年金 |
障害補償給付 (障害給付) | 障害特別支給金 障害特別年金 障害特別一時金 |
遺族補償給付 (遺族給付) | 遺族特別支給金 遺族特別年金 遺族特別一時金 |
「〇〇特別支給金」は、労災の保険給付に付加して支給される見舞金のようなものをいいます。
「〇〇特別年金」や「〇〇特別一時金」は、いわゆる賞与などの給与額を基礎にして支給されるものです。
特別支給金によるメリットの事例
労災保険を利用することで受け取れる特別支給金にはメリットがあります。
休業補償給付を例にみていきましょう。
休業で生じた減収の60%は、労災保険から「休業補償」として支払われます。
しかし、これだけでは足りないので、残りの40%は加害者側の保険会社に「休業損害」として請求します。
さらに、減収の20%分が労災独自の「休業特別支給金」として支払われるので、結果的に減収額の120%にあたる金額が受け取れるのです。
補償 | |
---|---|
労災保険の休業補償 | 減収額の60% |
加害者側の保険会社の休業損害 | 減収額の40% |
労災保険の休業特別支給金 | 減収額の20% |
合計 | 減収額の120% |
傷病特別支給金においては、1級だと114万円、2級だと107万円、3級で100万円を一時金として受け取ることができます。
メリット(3)病院での窓口負担なし
労災指定の病院で診察や治療などを受けた場合、被害者が窓口で治療にかかる費用を負担する必要はありません。
ただし、労災指定の病院でない場合は、被害者が診察や治療の費用を一時的に負担しなければなりません。
この際、健康保険を利用できないため、一時的ではあるものの全額負担になるので気を付けてください。
メリット(4)限度額や過失相殺がない
通常の交通事故では、加害者側の自賠責保険・任意保険に対してさまざまな損害賠償請求を行いますが、十分な補償を受けられない可能性もあります。
以下のような事情から、十分な補償を受けられない可能性が生じるでしょう。
- 自賠責保険には請求内容に応じて限度額が設定されていて、超過分は加害者側の任意保険に請求する。
しかし、任意保険への請求額は示談交渉次第なので、交渉がうまくいかなければ少ない金額しか受け取れない。 - 加害者側の保険会社に請求できる金額は、被害者側につく「過失割合」の分だけ減額となる(過失相殺)。
労災保険には支払限度額も過失割合もないので、療養補償給付は実費分、その他の費目は労災で定められた金額分がきちんと支払われます。
交通事故で労災保険を使うデメリットはほぼなし
交通事故で労災保険を使うデメリットには、労災保険料が上がって出費がかさむ可能性があげられるでしょう。
また労災事故が頻発していたり、重大な労災事故が起こった場合には、行政処分が下される可能性もあります。
つまり交通事故で労災保険を使うデメリットは主に雇用側にあり、被害者側はメリットの方が大きいです。
労災保険を利用することで雇用先との関係が悪化する可能性も否定できませんが、適切な補償を受けるためには労災保険を利用するメリットが大きいです。
交通事故で自分の労災保険を使う手続き
交通事故で労災認定を受ける手続き・流れ
労災保険を利用する場合は、希望する給付に応じた請求書を準備しましょう。
併せて雇用先に業務災害もしくは通勤災害の発生を報告し、労災申請の希望を伝えてください。労災申請手続きには雇用先の協力も必要です。
具体的な進め方は次の通りです。
申請の準備
労災給付の種類に応じた請求書を準備(第三者行為災害届も用意)
申請書類の提出
給付の種類に応じた提出先に書類を提出
労働基準監督署にて調査
労働基準監督署が労災に該当するかを調査
労災認定をうける
労災認定されたら保険金が振り込まれる
くわしい労災保険の申請手続きの仕方は、ご自身の雇用先の担当部署もしくは労働基準監督署におたずねください。
労災保険を利用して療養(補償)給付を受ける手続き
交通事故で労災保険を利用する手続きについて、療養(補償)給付いわゆる「治療費」の給付を受ける流れを例示します。
労災認定されると、療養(補償)給付いわゆる「治療費」を補償してもらえます。
給付申請の手続きは治療先が労災保険指定医療機関かどうかで異なるので注意してください。
治療を受けた場所 | 窓口負担 | 請求方法 |
---|---|---|
指定医療機関 | なし | 「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を医療機関に提出 |
指定医療機関でない | あり(一時立て替え) | 療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を労働基準監督署長に提出 |
繰り返しますが、労災で負ったケガの治療に健康保険は使えません。
交通事故後の通院で健康保険を利用していた場合、労災保険への切り替えが必要です。受診した医療機関に対して、労災保険への切り替えを連絡して指示を仰ぎましょう。
一度自身の加入する健康保険組合に連絡を取り、一時的な全額負担を求められるケースもあります。
後遺症が残った場合は後遺障害認定も受ける
交通事故によって後遺症が残った場合は、後遺障害等級の認定審査を受ける必要があります。
後遺障害の認定を受けることで、後遺障害に対する補償がなされるためです。
通常の交通事故なら自賠責損害保険料率算定機構における審査を受けるのですが、労災の場合は労働基準監督署による審査を受けることができます。
労災の場合の後遺障害認定申請
- 必要書類を労働基準監督署に提出
- 提出書類や面接を通して審査が行われる
- 結果が通知される
どちらの審査でも、各等級に認定される症状の条件はほとんど同じです。ただし労災事故では面談がおこなわれる点から、書面では十分に伝えきれなかった症状を補足できる可能性があります。
そういった点から労災保険による後遺障害認定の方が、被害者にとって有利な等級認定がなされやすいという話もあります。
ただし、労災事故として後遺障害認定を受けていたとしても、自賠責損害保険料率算定機構における後遺障害等級認定の手順にもとづく申請が必要です。
認定されると後遺障害慰謝料の支払いが認められるため、面倒くさいと思わずに認定申請をおこないましょう。
事故相手の自賠責・任意保険への請求手続きと示談
交通事故における自賠責保険・任意保険への手続き方法について説明します。
加害者が任意保険に加入しているかどうかや、被害者が早期にお金を手にしたいかどうかで、請求の流れが変わってきます。
加害者が任意保険に加入している場合
加害者が任意保険に加入している場合、加害者側の任意保険会社と「示談交渉」を行います。
示談交渉とは
事故の当事者双方が話し合いによって問題の解決を図ろうとすること
通常、加害者が任意保険に加入していると、担当者から示談案を提示されることで、示談交渉がはじまることになるでしょう。
任意保険会社の示談案に納得すれば示談成立ですが、不満がある場合は納得いくまでさらに交渉を続けます。
任意保険会社が提示する示談案は、被害者が本来手にできるはずの金額よりも低い可能性が高いので、安易に合意すべきではありません。
交通事故の示談の基本的な意味や、具体的な示談交渉の進め方については、関連記事『交通事故の示談とは?交渉の進め方と注意点、避けるべき行動』で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
補足
自身が加入する労災保険や相手方が加入する自賠責保険については、金額は一定の支払い基準でおこなわれ、担当者がつくわけでもないので、示談交渉という概念はありません。
加害者が任意保険未加入、早く慰謝料が欲しい場合
加害者が任意保険に未加入の場合は、加害者側の自賠責保険に「被害者請求」を行います。被害者請求とは、加害者側の自賠責保険に対して、被害者が自ら請求をおこなうことです。
加害者側の自賠責保険会社に必要書類を提出すると、示談成立前であっても自賠責保険の支払限度額内で賠償金が支払われます。
被害者請求の方法についてより詳しく知りたい方は、関連記事の解説をお読みください。。
なお、自賠責保険から慰謝料を受け取っても、とうてい慰謝料額として不十分な恐れがあります。そうすると、不足する分を相手の任意保険会社に請求していくことになるのです。
事故相手が任意保険に未加入である場合には、相手に内容証明を送って請求するといった非常に手間のかかる手続きが必要になってしまいます。
少しでもリスクを小さくして請求したい方は、関連記事『交通事故相手が無保険でお金がない!賠償請求の方法とリスク対策』の解説をお読みください。
十分な損害賠償を得るには弁護士が必要
繰り返しになりますが、自賠責保険から支払われる慰謝料額は少ないので、足りない部分は加害者側の任意保険会社に請求します。
被害者が本来受け取るべき慰謝料額は「弁護士基準」に基づいたものですが、これは本来裁判を起こした場合に得られる金額なので、被害者自身による示談交渉では獲得がむずかしいです。
高額で適正な慰謝料を手に入れたい、泣き寝入りしたくない、ということであれば、専門知識と資格を持つ弁護士を立てましょう。
専門家からの根拠のある主張であれば、加害者側も支払いに応じる可能性が高まります。
なお、相手方の任意保険会社に請求すべき金銭は慰謝料だけにとどまらない恐れがあります。労災保険から支払われないものの、交通事故による損害であるならば請求すべきです。
交通事故による損害賠償の費目や相場については、関連記事を参考にしてください。
弁護士費用の負担は抑えられる
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弁護士費用の負担を大幅に抑える手段として、「弁護士費用特約」を紹介します。
弁護士費用特約は、ご自身の運転する車や、家族の運転する車に付帯できる保険商品です。
契約内容にもよりますが、多くの場合、弁護士に依頼する際の費用について300万円までを保険でまかなえるのです。
弁護士費用特約を使用しても保険の等級が下がることはないため、利用することによるデメリットは基本的にありません。
また、弁護士費用特約を利用できない場合であっても、費用倒れが発生しないのであれば弁護士に交渉を依頼するメリットがあります。
弁護士費用や弁護士費用特約については、以下の記事が参考になります。
アトム法律事務所が選ばれる3つの理由
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窓口はLINE・電話・メールの3つからお選びいただけるので、ご自宅や職場から空いた時間を使って気軽にご連絡いただけるでしょう。
予約窓口にご連絡いただくタイミングは、いつでもかまいません。困ったと思ったら、気軽にお問合せください。
(2)交通事故案件の経験豊富な弁護士在籍
交通事故の示談交渉は容易ではありません。
交通事故の示談交渉で被害者が満足を得るということは、加害者側の任意保険の損失を増やすことに繋がります。
任意保険を納得させるには、経験豊富な専門性の高い弁護士に依頼することが非常に重要です。
アトム法律事務所の弁護士は、任意保険会社の提示額より大幅な増額に成功した実績を多数積み重ねております。
経験豊富な弁護士が交通事故のお悩みをサポートします。
(3)弁護士と直接LINE相談ができる
LINEをお友達登録していただくと、無料相談の予約窓口のスタッフがまず対応し、弁護士にお繋ぎいたします。
その後は、LINEで直接弁護士と話すことが可能です。
身近な人物に話しかけるつもりで、遠慮なくご利用ください。
アトム法律事務所はお客様満足度90%超えを達成しました。
弁護士事務所によっては、弁護士だけでなく、弁護士業務を補助する事務員が不慣れなケースも存在するかと思います。
その点アトム法律事務所は、弁護士・事務員ともに交通事故案件に慣れているため、手続きがスムーズです。
交通事故示談が成立するまでには、保険会社とのやり取りが何度もなんどもおこなわれます。
複雑な手続きや保険会社とのやり取りは、プロにお願いすることが得策といえるでしょう。
まとめ
- 通勤中や仕事中の交通事故には労災保険を使う
- 労災保険は事業所が加入していれば誰でも使える
- 労災保険にはメリットがたくさんある
- 労災保険と自賠責保険・任意保険は重複しない範囲で併用が可能
- 労災保険と自賠責保険・任意保険を併用しても慰謝料の金額には影響がない
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了