運行供用者責任とは?わかりやすく具体例つきで解説

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運行供用者の責任

運行供用者責任とは、「自動車が人身事故を起こし他人の身体や生命に被害を与えた場合、運転者だけでなくその自動車の運行を管理し、利益を得ていた人も責任を負う」という制度です。

交通事故において運行供用者がいる場合、被害者は加害者(運転手)だけではなく運行供用者にも損害賠償請求ができます。

この記事では、運行供用者責任とは何か、運行供用者とはどのような人かを具体例を交えながらわかりやすく解説していきます。

加害者が他人の車を借りていた、加害者が営業車を運転していたなどの場合は、ぜひ確認してみてください。

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運行供用者責任をわかりやすく解説

運行供用者責任(うんこうきょうようしゃせきにん)は、自動車損害賠償保障法(自賠法)3条で以下のように規定されています。

(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。(略)

自動車損害賠償保障法3条

しかし、この条文ではわかりにくいかと思いますので、わかりやすく解説していきます。

運行供用者責任とは?

運行供用者責任とは、「自動車を自分の管理下で運行し利益を得ている人(運行供用者)」が、その運行によって他人の生命身体を侵害した場合に負う責任のことです。

「運行供用者」とは自動車の運転者とは別人で、たとえば、運転者に車を貸した所有者や、運転者を雇用し自動車を運転させた雇用主などが該当します。

「運行によって」(運行起因性)とは、最高裁昭和43年10月8日判決において「運行と事故発生との間に相当因果関係があること」と判示されています。

「他人の生命身体を侵害した場合に負う責任」とは、被害者に対する損害賠償責任の意味になります。ただし、同乗者は「他人」性が肯定されるケースと否定されるケースに別れるのが注意点です。

交通事故において運行共用者がいる場合、被害者への損害賠償金は自動車の運転者と運行供用者とで負担するのです。

運行供用者がいる場合の損害賠償

損害賠償金が100万円だとすると、被害者は以下の2通りの請求方法を選べる。

  1. 運転者と運行供用者どちらかに100万円を全額請求する
  2. 運転者と運行供用者に任意の割合ずつの金額を請求する
    ※100万円を何割ずつに分けて請求するかは、被害者が自由に決められる。

被害者がどちらの方法で賠償請求したとしても、あとから運転者と運行供用者の間で負担額の精算がおこなわれる。

ただし、運行供用者責任が生じるのは治療費や慰謝料といった人身損害に関する費目のみです。自動車の修理代や休車代といった物的損害に関する賠償請求では、運行供用者責任は発生しません。

運行供用者に該当する2つの要件|運行支配と運行利益

運行供用者とは、「自己のために自動車を運行の用に供する者」です。

この点、最高裁判例は、危険責任・報償責任という考え方から「自動車の使用について支配権を有し、かつその使用により享受する利益が自己に帰属するもの」を運行供用者とする判断基準を示しています(最高裁昭和43年9月24日判決参照)。

わかりやすく言い換えると、「自動車の運行を支配する立場にある(人に自動車を運転させる、貸すなど)」「自動車の運行により利益を得ている」の2つが、運行供用者の要件となります。

もっとわかりやすく

  • 自動車の運行を支配・管理(=運行支配)
    • 車を使用することについて実質的な支配権を持っていること
    • 人に車を運転させる、貸すなど車の運行をコントロールできる地位・権限を有していること。
    • 直接的な支配、具体的な支配だけでなく、事実上の支配、間接的な支配、支配可能性なども広く運行支配として認められる。
  • 利益を得ている(=運行利益)
    • その車の運行によって利益を得ていること
    • 現実的利益(対価)の有無を問わず、社会通念上利益を得ていると判断される場合も含む。
    • 自動車を自分の意思で他人(友人など)に貸した場合も、運行利益があると判断される。
      ※エンジンをかけっぱなしで車を放置する、誰でも取れる場所にキーを保管するなど、他人が車を運転できる状態にしておいた場合も該当する可能性あり。

上記のような、自動車の運行を支配し、運行から利益を得ている人は、自動車という危険性のある乗り物を運行することで利益を得ています。

そのため、その危険により生じた他人の損害について賠償責任を負うべきだとして、運行供用者責任が認められるのです。

運行供用者責任の有無は、自動車の所有者と運転者の人的関係や使用状況、保管場所、経費負担の実態など具体的な事実関係を考慮して判断されます。

たとえば、最高裁昭和50年11月28日判決では、同居する子に名義を貸し、車の保管場所も提供していた父について、名義を貸した経緯、真の所有者との身分関係・保管場所などを考慮すると、事実上の運行の支配・管理ができ、社会通念上その車の運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあったとして、運行供用者責任を肯定しています。

過去の裁判例では、交通事故被害者保護という目的を果たすために、運行供用者責任が広く認められる傾向にあります。 

運行供用者責任が認められないケース

以下のケースは一見運行供用者に該当しそうに思えますが、実際には運行供用者には当たりません。

  • 自動車ローン(所有権留保)で自動車を購入した際のクレジット会社
  • 自動車をリースしている際のリース会社

クレジット会社やリース会社は、顧客に自動車の購入資金を分割払いさせることで生じる利益を得ています。名義上車両所有者であるものの、自動車を使用させることで利益を得ているわけではないため、運行供用者には該当しないのです。

運行供用者責任を負う人の具体例

運行供用者責任を負う人の具体例を挙げると、以下のとおりです。

  • 他人に自動車を貸与した人
  • 運転代行業者に自車を運転してもらった顧客
  • バスやタクシー、社用車を所有する人
  • レンタカーや代車の所有会社
  • 事故を起こした盗難車の所有者

それぞれについて詳しく解説します。

ただし、上記のケースでも運行供用者責任が生じるかは事案により違うことがあります。上記以外にも運行供用者責任が生じる場合もあるので、詳しくは弁護士までお問い合わせください。

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他人に自動車を貸与した人

自動車の借主が事故を起こした場合、貸主であるその自動車の所有者に運行供用者責任が生じます。

友人に無償で貸与(使用貸借)した場合でも、原則として運行供用者責任が生じます。もっとも、予定された貸与期間を著しく経過し、所有者が返還を求めて具体的な行動を起こしていたような場合には、貸主の運行支配は失われ、運行供用者ではなくなると考えられます(最高裁平成9年11月27日判決)。

運転者が所有者に無断で自動車を借りていた場合でも、無断で自動車を借りられる状態にしていた場合は所有者に運行供用者責任があるとされる可能性が高いです。

たとえば、妻が無断で夫の車を運転し事故を起こした場合、妻がいつでもキーを持ち出せる管理状況だった場合は、夫に運行供用者責任が生じます。

運行代行業者に車を運転してもらった顧客

運転代行業者が顧客の自動車を代行運転していて事故を起こした場合に、顧客は運行供用者に該当する可能性があります。

ただし、運転代行の顧客が運行供用者に該当するかについては意見が割れる場合もあります。事案ごとに法的観点からの検討が必要になるでしょう。

運転代行を利用して事故にあった場合の損害賠償については『運転代行による事故の賠償はどうなる?利用者に責任が生じる場合もある』で詳しく解説しています。

バスやタクシー、社用車を所有する法人

バスやタクシー、社用車が事故を起こした場合は、その車両を所有する法人(バス会社やタクシー会社など)に運行供用者責任が生じます。

法人はバスやタクシー、社用車の運転者を雇用し、自社の利益のために運転させているからです。

従業員が私用で社用車を運転中の事故においても、会社は、車を所有している以上、所有する車の運行を支配することができる立場にあり、運行を支配制御する責任があると考えられるため、運行供用者として責任追及される可能性があります。

実際、最高裁昭和39年2月11日判決では、農業協同組合の運転手が組合所有の自動車を無断で私用運転して、事故を起こしたというケースで、客観的・外形的にみて、組合が「運行供用者」にあたると判示して、組合の運行供用者責任を肯定しています。

バスやタクシーの事故で誰が乗客に対する賠償責任を負うのかは、詳しい事故状況により異なります。詳しくは『タクシー・バス乗車中の交通事故|慰謝料請求相手は?バスと事故した場合も解説』をご覧ください。

【コラム】マイカー通勤中の交通事故でも会社が運行供用者責任を問われることがある?

会社は、従業員が社用車を運転している場合だけでなく、従業員のマイカーで通勤中に起こした事故についても運行供用者責任を問われることがあります。

マイカー通勤中の事故における使用者の運行供用者責任は原則的に否定されますが、マイカーの運行が使用者の業務と密接に結びついており、また、使用者がマイカーの使用を指示し、少なくとも承諾していたなど一定の場合には、運行供用者責任が肯定されることもあるので、注意が必要です。

レンタカー会社や代車の所有会社

レンタカーや自動車修理中の代車が事故を起こした場合は、その車両の所有会社であるレンタカー業者や修理業者に原則として運行供用者責任が生じます。

東京地裁平成19年7月5日判決でも、レンタカー会社が免許証により借主が運転免許を持っていることを確認し、使用時間、走行距離・時間に応じた料金を定め、違約や燃料費・修繕費の負担等の合意をして契約をし、使用を許していることから、レンタカー会社の運行供用者責任を肯定しています。

ただし、借り主が返還期限を大幅に超過していた場合や、車両を無断で第三者に貸し出していた場合、運行供用者責任が否定されるケースもあります。

事故を起こした盗難車の所有者

盗難車で泥棒が事故を起こした場合、本来の所有者に運行供用者責任が生じる可能性があります。

たとえば、盗まれても仕方がないような状態で自動車を管理していた場合などです。

本来の所有者がきちんと自動車を保管していれば盗難されることはなく、その結果事故が起こることもなかったという考えから、本来の所有者にも責任があるとされるのです。

たとえば、最高裁昭和57年4月2日判決では、自動車のエンジンキーを付けたまま、ドアを半開きの状態で公道に駐車して現場を離れたことで窃盗に遭ったような事情のもとでは、第3者に対して客観的に運転を容認したと評価されると判示して、所有者の運行供用者責任を肯定しています。

運行供用者に該当しても責任を負わないケースもある

運行供用者に該当しても、以下の免責事由を証明すれば、運行供用者は責任を負わなくなります。

  1. 自己および運転者が自動車の運転に関する注意を怠らなかった
  2. 被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があった
  3. 自動車の構造上の欠陥または機能の障害がなかった

1は、民法では損害賠償請求する側にある過失の立証責任が、損害賠償請求される側に転換されているという意味で、過失責任と無過失責任の中間にある「中間責任」と言われることがあります。

上記の免責事由をすべて証明することは困難であるため、基本的に運行供用者が運行供用者責任を負うことは避けられません。

混同されやすい「使用者責任」との違い

交通事故では、運行供用者責任の他に「使用者責任」が生じることもあります。

両者は混同されやすいですが、使用者責任は、加害者が業務中に交通事故を起こした場合に雇用主(使用者)に生じる責任です。

たとえば、従業員が営業に行くために運転していて交通事故を起こしたら、雇用主にも損害賠償責任が生じます。
このとき、加害者である従業員が社用車を利用していたなど、当時業務中であったことを客観的に判断できる事情が必要です。

一方、運行供用者には雇用主が該当することもありますが、加害者に車を貸した所有者など、加害者と雇用関係にない人が該当することもあります。

他にも使用者と運行供用者では損害賠償責任を負う範囲や被害者側の立証責任に違いがあり、まとめると次の通りです。

違いのまとめ

  • 加害者本人との関係性
    • 使用者:雇用主
    • 運行供用者:雇用主、自動車の所有者、保管者など
  • 損害賠償責任の範囲
    • 使用者:物損・人身損害
    • 運行供用者:人身損害
  • 被害者側に生じる立証責任
    • 使用者:被害者側が加害者の過失・不法行為を立証しなければ、使用者に対しても損害賠償請求できない
    • 運行供用者:被害者側が加害者の過失・不法行為を立証しなくても、運行供用者に損害賠償請求できる

運行供用者にも賠償請求すべきケース

すでに解説した通り、交通事故において運行供用者に該当する人がいる場合、加害者と運行供用者は連帯責任を負います。
そのため、被害者は以下のいずれかの方法で損害賠償請求することが可能です。

  • 損害賠償金の全額を加害者に請求する
  • 損害賠償金の全額を運行供用者に請求する
  • 損害賠償金のうち何割ずつかを加害者と運行供用者それぞれに請求する
    ※物損については運行供用者に請求することができません

運行供用者に損害賠償請求した方が良いケースを2つ、確認していきましょう。

(1)加害者が任意保険未加入の場合

交通事故の損害賠償金は、基本的に最低限の金額が加害者側の自賠責保険から、それ以上の金額が加害者側の任意保険から支払われます。

加害者個人ではなく保険会社が支払いをおこなうため、損害賠償金が高額になっても速やかに一括で支払ってもらえるのです。

しかし、任意保険の方は任意加入です。
加害者が任意保険未加入だった場合は、任意保険分の金額は加害者本人に支払ってもらわなければなりません。

高額だったり加害者に資力が無かったりすれば、支払いが分割になったり踏み倒されたりするリスクがあるのです。

任意の自動車保険と自賠責保険の関係

加害者が任意保険未加入の場合、任意保険分の金額は加害者本人の負担となる。自賠責保険は強制加入。

こうした場合は、運行供用者に対しても請求を行い、支払いの可能性を高めておくべきでしょう。

▼自賠責保険分を超える部分の金額は、示談交渉で決まります。弁護士を立てれば慰謝料が2倍~3倍になることもあるので、一度相場を確認してみてください。

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(2)加害者の過失の証明が難しい場合

交通事故の加害者に損害賠償請求する場合は、被害者側が加害者の過失を証明し、民法709条の不法行為責任が成立することを示さなければなりません。

一方、運行供用者に対しては、加害者の過失を証明しなくても損害賠償請求できます。

よって、加害者の過失の証明が難しい場合には、運行供用者に損害賠償請求した方がスムーズに賠償金を受け取れるでしょう。

運行供用者が責任を問われなくなるために必要な事実の証明は困難であることからも、運行供用者への請求を行うべきといえます。

運行供用者責任を追及すべきか弁護士に相談しよう

運行供用者への賠償請求は難航することがある

加害車両を所有する法人や運転者の雇用主など、企業に対して運行供用者責任を追及する場合、企業に雇われた顧問弁護士が出てくる可能性があります。

手ごわい相手なので、被害者自身で交渉を行うべきではないでしょう。

自身が任意保険に加入していれば、「示談代行サービス」を利用して保険担当者に交渉を任せることも可能です。しかし、それでも専門家である弁護士が相手となると交渉は厳しいと考えられます。

また、停車中に追突されたなど被害者側に過失がない事故では、示談代行サービスは利用できません。

そのため、被害者側も弁護士を立てて交渉することを検討してみましょう。

弁護士に相談することでさまざまなメリットが得られる

運行供用者にも責任を追及できれば、加害車両の運転者に賠償請求するよりも確実に賠償金を獲得できるでしょう。

しかし、そもそも運行供用者に該当する人がいる事故なのか、手間を増やしてまで運転共用者に直接賠償請求するメリットがあるのか、判断が難しいケースは多いです。

弁護士に相談すれば、こうした難しい点について法的観点から解説を受けられます。お一人で悩むより弁護士に相談したほうが早く専門的な答えがわかるので、ぜひお気軽にご連絡ください。

相談によるその他のメリット

弁護士に相談することで、以下のようなメリットを受けることもできます。

  • 加害者側に請求できる損害賠償額の相場がわかる
  • 相場額の請求をするために必要な証拠やその取得方法を知れる
  • 交通事故における自身の過失割合の程度を把握できる

加害者側は少しでも支払う金額を抑えるために相場より低い金額を提示してきたり、被害者側の過失割合を大きく見積もったりすることが珍しくありません。
専門家である弁護士に相談することで、相場の金額や相場の金額を得るための方法を知ることができます。

まずは無料の法律相談を

弁護士に相談するとなると相談料が気になる方が多いでしょう。弁護士費用特約を使えば相談料を保険会社が負担してくれます。

弁護士費用特約が使えない場合でも、アトム法律事務所では無料相談が可能です。相談予約は24時間365日受け付けているので、お気軽にご連絡ください。

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弁護士を立てることで期待できるメリットや依頼による費用については、無料相談でご確認いただけます。

まとめ

  • 自動車の運行についての支配権があり、運行による利益を得ているものに対して、運行供用者責任にもとづく損害賠償請求を行うことが可能
  • 加害者が任意保険未加入であったり、加害者の過失を証明することが困難な場合は、運行供用者対しての請求を行うべき
  • 加害者が業務中に事故を起こしたのであれば雇用主に使用者責任を問うことが可能
  • 加害者以外対する請求を行うべきかについては弁護士に相談しよう
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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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