運転代行による事故の賠償はどうなる?利用者に責任が生じる場合もある
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運転代行業者が事故を起こした場合、損害賠償金は、基本的に運転代行業者が加入する保険から支払われます。
しかし、場合によっては利用者にも責任が生じることがあり、受け取れる損害賠償額が少なくなったり、事故の相手方に賠償金を支払ったりしなければならないケースもあります。
運転代行を利用して事故になったらどうなるのか、運転代行を利用する際のポイントも合わせて確認していきましょう。
目次
運転代行の事故数と安全性は?
運転代行を利用する際、安全性が気にかかる人は多いでしょう。
そこでまずは、運転代行による事故数や、運転代行の運営体制について解説していきます。
運転代行による事故数の実態は?
運転代行による事故は全国でどれくらい起こっているのか、運転代行業者数の推移とともに見てみると以下の通りです。
H15 | H16 | H17 | H18 | |
---|---|---|---|---|
事故数全体* | 276 | 334 | 402 | 418 |
死亡事故数* | 9 | 14 | 12 | 15 |
運転代行業者数** | 5257 | 5635 | 6010 | 6447 |
運転代行者数に対する事故数*** | 5.2% | 5.9% | 6.7% | 6.5% |
*参考:自動車運転代行業法の施行状況(国土交通省自動車交通局)
**参考:平成30年警察白書(警察庁)
***小数点第三位以下は四捨五入
運転代行業者の増加に伴い事故数が増えていますが、上記の表における推移を見る限りでは、運転代行業者数に対する事故数の割合は、5~6%台であることがわかります。
運転代行ではプロが運転をしてくれる
運転代行を依頼する際に気にかかりやすいのが、安全性です。
運転代行の事業者に対しては、安全性を高めるために以下のような規定が課されています。
- 開業にあたっては公安委員会の認定が必要
- 代行運転自動車(利用者の車)の運転手には、二種免許が必要
二種免許とは、「報酬を得る目的で人を乗せて運転する」ために必要な免許で、タクシーや介護タクシーの運転手にも取得が求められます。
「運転は免許を持っていれば誰でもできる」と思われがちですが、運転代行はお客さんを乗せて運転するプロなのです。
運転代行を利用して事故になったら賠償はどうする?
運転代行を利用していて万が一事故になった場合、「運転していたのは代行業者だが車の所有者は利用者」といった構造から、誰が損害賠償責任を負うのか疑問に思われがちです。
そこで、損害賠償責任について、以下の3ケースに分けて解説していきます。
- 代行業者に利用者の車をぶつけられた場合
- 代行業者の事故で利用者がケガをした場合
- 代行業者の事故で第三者を傷つけた場合
(1)代行業者に利用者自身の車をぶつけられた場合
運転代行業者による運転で利用者自身の車をぶつけられた場合、修理費は運転代行会社が加入する保険・共済から支払われます。
運転代行業者には、事故時に損害賠償措置をとれるよう、保険または共済に加入することが義務付けられているのです。
国土交通省により定められている、保険・共済の最低保証額は次の通りです。
損害 | 補償額 |
---|---|
対人 | 8000万円 |
対物・車両 | 各200万円 |
参考:自動車運転代行業者が締結すべき損害賠償責任保険契約等の補償限度額及び随伴用自動車の表示事項等の表示方法等を定める告示(国土交通省)
損害額が保険・共済の補償額を超えても、超過分は運転代行会社から支払ってもらえます。
しかし、保険・共済のようにスムーズに一括で支払ってもらえるとは限らずトラブルに発展するリスクもあるので、加入している保険・共済の内容が充実している業者を選んでおく方が安心です。
なお、利用者による安全運転の妨げなどが事故につながった場合は、支払われる賠償金が減額される可能性があります。
(2)代行業者による事故で利用者がケガした場合
運転代行業者が事故を起こし、利用者自身がケガをした場合、損害賠償請求の相手は次のようになります。
- 自損事故の場合
- 運転代行会社に損害賠償請求できる
- 相手方がいる事故の場合
- 運転代行の運転手に100%の過失:運転代行会社に損害賠償請求
- 事故の相手方に100%の過失:事故の相手方に損害賠償請求
- どちらにも過失割合がつく:両方に損害賠償請求が可能
運転代行会社に損害賠償請求する場合は、基本的に代行会社が加入している保険・共済から損害賠償金が支払われます。
事故の相手方に損害賠償請求する場合は、相手方の自賠責保険や任意保険、あるいは相手方本人から損害賠償金が支払われます。
運転代行会社と相手方双方に損害賠償請求する場合は、それぞれに何割ずつを請求するか自由に決められます。
賠償金の全額を代行会社または相手方に請求、あるいは賠償金のうち6割は代行会社に、4割は相手方に、というように請求しても良いのです。
なお、利用者が安全運転を妨げた結果事故が起きた場合などは、支払われる賠償金が減額される可能性があります。
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運転代行業者が運転している車に乗っていて事故に遭った場合、基本的な扱いは「事故車の同乗者として事故に遭った場合」と同じになります。
同乗者として事故に遭った場合のことは『事故で同乗者が怪我|慰謝料請求相手と相場は?』の記事にて詳しく解説しています。
(3)代行業者による事故で第三者を傷つけた場合
運転代行業者が事故を起こし、第三者に被害が生じた場合でも、基本的には第三者への損害賠償は運転代行会社がおこないます。
ただし、以下の場合には同乗していた利用者にも損害賠償責任が生じる場合があります。
- 運転代行ドライバーの安全運転を妨げた場合
- 運行供用者責任が認められた場合
どのような場合に上記のケースに当てはまるのか、見ていきましょう。
運転代行ドライバーの安全運転を妨げた場合
たとえば、泥酔して運転中の運転代行ドライバーをゆすったり、突然大声を出して驚かせたり、車内で暴れたりして安全運転の妨げとなった場合は、利用者側にも事故発生の責任があるとされます。
ただし、利用者による安全運転の妨げがどの程度事故発生に影響したとされるのかは、運転代行業者側との交渉次第です。
利用者側にも事故発生の責任があると責められてお困りの場合は、弁護士までご相談ください。
運行供用者責任が認められた場合
通常、自分の車を他の人に運転してもらっていて事故になった場合、その車の所有者も一定の責任を負わなければなりません。車の所有者として、事故防止のため中心的な責任を負うべきだとされるからです。
これが、自動車損害賠償保障法第三条で定められた「運行供用者責任」です。
ただし、運転代行の利用者にどの程度「運行供用者責任」が生じるかは、解釈の余地があり、運転代行業者との間でもめる可能性があります。
運行供用者責任については法的観点からの検討が必要なので、もめそうな場合は法律の専門家である弁護士を立ててることをすすめします。
もっと詳しく
注意|対人賠償保険は使えない
交通事故の相手方に損害賠償金を支払う際は、基本的に任意保険に含まれる「対人賠償保険」を使うことができます。
しかし、運転代行業者による事故の場合、利用者が加入する対人賠償保険は使えません。
そのため、運転代行業者による事故で、相手方が運転代行の利用者に損害賠償請求してきた場合、利用者は保険を使わず自分自身でお金を工面して支払いをしなければなりません。
ただし、事故の相手方から見ても、保険を使えない利用者に賠償請求するよりも運転代行業者に賠償請求した方が早く確実にお金を受け取れます。
よって、事故の相手方が運転代行の利用者に賠償請求してくることはあまりないでしょう。
運転代行の事故で使える利用者自身の保険
事故の相手方に対する損害賠償金は利用者自身の保険ではまかなえませんが、以下の損害は被害者自身の保険でまかなえます。
- 被害者自身が受けた損害
- 事故車に同乗していた人が受けた損害
運転代行による事故で使える利用者自身の保険を具体的に解説していくので、以下のような場合には利用を検討してみてください。
- 利用者自身や同乗者が受けた損害に対して速やかに補償がなされない場合
- 利用者側にも非があるとして受け取れる賠償金が減額された場合
スムーズかつ十分な損害賠償金の獲得は、弁護士にお任せください。弁護士費用特約を使えば、保険会社が弁護士費用を支払ってくれるので、自己負担なく弁護士を立てられます。
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なお、アトム法律事務所では交通事故でケガをした方を対象をした無料の法律相談を実施中です。
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(1)人身傷害補償保険|自分や同乗者に対する保険金
人身傷害補償保険とは、契約者や同乗者が事故により死傷した場合に、治療費や慰謝料などを、保険金として受け取れるものです。
補償対象者は運転代行の利用者本人や同乗していた友人・知人・家族であり、運転代行の運転手は対象外です。
運転代行による事故で利用者自身や同乗者が死傷したものの、なかなか賠償金を支払ってもらえないという場合に役立ちます。
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(2)搭乗者傷害保険|自分や同乗者に対する保険金
搭乗者傷害保険は、人身傷害補償保険と同様、自分や同乗者に対する保険です。
ただし、以下の点で異なります。
保険金額 | 【人身傷害補償保険】 保険加入時に設定した上限額内で、実際の損害賠償金と同じ金額。 【搭乗者傷害保険】 実際の損害賠償額に関わらず、所定の金額。 |
支払い時期 | 搭乗者傷害保険の方が早い。 |
人身傷害補償保険は、治療費や慰謝料などを計算できる段階にならなければ請求できません。そのため、治療前あるいは治療中に保険金を受け取るといったことができません。
しかし、搭乗者傷害保険は手続きをすれば速やかに所定の金額が支払われるので、治療でお金がかかるときにすぐ保険金が手に入り、便利です。
(3)車両保険|自損事故でも使える
車両保険は、車の修理費や代車費用などを補償してもらえるのものです。
何らかのトラブルにより、運転代行業者や事故の相手方からなかなか修理費を支払ってもらえない時に役立ちます。
運転代行で多いトラブル|自損事故に後日気づいたら
運転代行におけるトラブルとして多いのが、翌日などあとになってから車の損傷に気が付いたというものです。
運転代行の利用は夜が多いので、利用直後は暗い、酔っていたなどの理由で車の損傷に気づかないことが多いのです。
この場合、どうすれば良いのか解説していきます。
証拠を集めて運転代行業者に連絡を
運転代行を利用した後、車に傷がついているのを発見したら、運転代行業者に連絡を入れて補償を求めましょう。
ただし、運転代行中に車が損傷したことを示す証拠がなければ、基本的に補償を受けることは難しいです。
ドライブレコーダーで運転代行中の様子を確認し、どこかの場所で何かにぶつかっていないか調べてみましょう。
明らかに運転代行中に車が損傷したとわかる証拠があるにもかかわらず、運転代行業者が補償を拒否する場合は、弁護士に相談することが重要です。
トラブルを防ぐための事前対策
運転代行利用後に車の傷に気付いた場合、確固たる証拠がなければ補償を受けるのは難しいです。
後から傷に気が付いたものの補償が受けられず泣き寝入り、となることを防ぐために、運転代行の利用前後に以下の対策をしておきましょう。
- 運転代行を依頼する直前に、車の写真を撮っておく
- 運転代行の際、ドライブレコーダーを回しておく
- 運転代行で目的地まで付いたら、運転手と別れる前に車をチェックする
運転代行を依頼するときのポイント
最後に、運転代行を利用するときのポイントを解説していきます。
料金の相場や利用人数の上限、依頼前に確認することがわかるので、利用前にチェックしておきましょう。
運転代行の料金相場
料金は地域や業者によって違いますし、深夜料金がかかる場合もありますが、相場としては10㎞で3500円程度です。
自宅に帰る際にだけ利用すればいいため、行き返りでタクシーを利用する場合よりも安く済むことが多いでしょう。
運転代行の利用をキャンセルするとキャンセル料金がかかるので注意しましょう。
代行業者を含めた乗車人数に要注意
運転代行を依頼した場合、利用者本人および同乗者は全員、利用者の車に乗ります。
よって、利用前に運転代行ドライバー・利用者本人・同乗者の合計人数が車の定員をオーバーしないか確認しましょう。
なお、運転代行を依頼すると、利用者の車の後ろから随伴車と呼ばれる車が付いてきますが、利用者や同乗者が随伴車に乗ることは白タク行為として禁止されています。
白タク行為とは
国土交通省の許可を得ずに、運賃が生じる送迎サービスをおこなうこと。
道路運送法第四条で禁止されている。
随伴車は運転代行を終えた代行ドライバーが事務所に帰るための車です。
随伴車は、「運賃をもらって人を乗せる」ために必要な二種免許を持っていない人でも運転できます。
このことからも、随伴車は顧客を乗せるためのものではないとわかるでしょう。
代行ドライバーを含めた乗車人数が利用者の車の定員をオーバーする場合、定員から漏れる人には電車やバス、タクシーで帰ってもらうなどする必要があります。
運転代行の利用前に確認すべきこと
運転代行を依頼し、実際に業者が到着したら、利用者に対する説明義務と自動車表示の義務が守られているか確認してください。
定められた義務をきちんと守っているかどうかは、運転代行業者の安全性を確認する意味でも重要です。
(1)利用者への説明義務
運転代行業者は、事前に利用者に以下の点を説明しなければならないとされています。(自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律第十五条)
- 事業所名と運転手名
- 運転代行の料金
- 約款の内容
- 運転代行業者の加入する保険、補償内容、契約期間
- 利用者は随伴車に乗れない旨の説明
(2)自動車表示の義務
運転代行の際には、利用者の車(代行運転自動車)と随伴車それぞれにそれとわかる表示をつけることが義務付けられています。
- 行運転自動車には「代行運転自動車標識」を表示しなければならない(自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律第十六条)
- 随伴車には、随伴車であること、都道府県公安委員会名、認定番号などを示すステッカーやシールなどを貼ることが義務化されている(自動車運転代行業者が締結すべき損害賠償責任保険契約等の補償限度額及び随伴用自動車の表示事項等の表示方法等を定める告示)
まとめ
運転代行を利用して事故が発生したら、損害賠償金は基本的に代行業者側に支払ってもらえます。
ただし、酔った勢いで代行ドライバーの安全運転を妨げた場合などは、利用者側にも責任が生じてしまう点には気を付けましょう。
なお、もしも飲酒した状態で運転をして事故を起こしてしまったら、相手に支払う慰謝料は通常よりも高額になる可能性があります。
自分の車で飲食店に行き飲酒した場合は、運転代行を利用したり公共交通機関を使ったりして、飲酒運転をすることのないようにしてください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了