居眠り運転の事故の罰則は?被害者の慰謝料、過失割合も解説
居眠り運転による事故の加害者には、刑事上の責任として懲役や禁錮、罰金といった刑罰が下されることがあり、行政上の責任では違反点数の加算によって免許停止になることもあります。
また、民事上の責任では居眠り運転を理由に加害者側の過失割合が加算される可能性が高いです。
この記事では、居眠り運転による事故の加害者に生じる3つの責任について解説したのち、被害者が請求できる損害賠償金の内訳や相場、過失割合を解説していきます。
居眠り運転の事故で生じる3つの責任
居眠り運転事故が生じた場合には、加害者に刑事上・行政上・民事上における責任が生じる可能性があります。
それぞれの責任の内容を確認していきましょう。
(1)刑事上の責任では罪名と刑罰がつく
居眠り運転が原因で事故を起こした加害者に生じる責任の一つ目は、「刑事責任」です。
刑事責任は、事故が犯罪として立件され、有罪となった場合に科されます。
居眠り運転による事故の加害者が何罪とされ、どんな刑事罰が下されるかは次の通りです。
- 過失運転致死傷罪
- 車やバイクなどを運転している際に、必要な注意を怠ったため人を死傷させた罪
- 7年以下*の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金
- *無免許の場合は10年以下
- 危険運転致死傷罪
- 飲酒や薬物使用などの危険な状態で運転し、人を死傷させた罪
- 被害者が負傷した場合は15年以下の懲役、死亡した場合は1年以上の有期懲役
なお、刑事罰を受けるというと逮捕されると思われがちですが、逮捕されて取り調べを受けることもあれば、帰宅し日常生活を送りつつ取り調べを受けることもあります。
交通事故を起こして逮捕されるかどうかに関しては、『交通事故で逮捕されてしまうケースとは?逮捕された後の流れや対策も解説』でご確認ください。
(2)行政上の責任では違反点数や反則金が生じる
行政上の責任とは、免許の違反点数や反則金が生じることを言います。
居眠り運転の事故であれば基本的には「安全運転義務違反」として罰則を受けることになりますが、「過労運転」と判断された場合は罰則がより重くなるのです。
それぞれについて確認していきましょう。
安全運転義務違反
居眠り運転は一般に、道路交通法70条が規定する安全運転義務に違反する行為として処理されます。
道路交通法70条の内容
- 車両のハンドル、ブレーキ、その他の装置を確実に操作しなければならない
- 道路、交通、車両などの状況に応じて、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない
- 参考:道路交通法第七十条
居眠り運転により安全運転義務に違反した場合の罰則は、次の通りです。
- 運転免許証の違反点数:2点加算
- 反則金
- 大型車:1万2000円
- 普通自動車:9000円
- 二輪車:7000円
- 原付:6000円
反則金を納めなかった場合は、3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金の対象になるので注意しましょう。
厳密にいえば、本来は懲役または罰金が科されるところ、反則金を納めることで罰則の適用が免除されるという仕組みです。
過労運転
極度の疲労や薬物の使用などで居眠り運転の危険性が予測できたにもかかわらず運転し、居眠りをして事故を起こした場合は、過労運転として罰則が下される可能性があります。
過労運転については道路交通法66条で以下のように規定されています。
第六十六条 何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。
道路交通法第六十六条
過労運転の禁止に違反した場合に下される罰則は次の通りです。
- 運転免許証の違反点数:25点の加算
- 3年以下の懲役または50万円以下の罰金
違反点数25点は、一発で免許停止になる点数です。
また、安全運転義務違反の場合は反則金を納めれば懲役・罰金を科されずに済みますが、過労運転の禁止に違反した場合は、反則金がなく、そのまま懲役または罰金となります。
道路交通法違反による行政上の責任に関して詳しく知りたい方は『道路交通法違反の一覧まとめ。事故時の点数や罰金・反則金の違い』の記事をご覧ください。
(3)民事上の責任では損害賠償責任が生じる
民事責任とは、事故によって死傷した被害者に対して治療費や慰謝料、壊れた物の修理費・弁償代といった損害賠償金を支払う責任のことです。
損害賠償金の金額には相場・目安がありますが、実際にいくらになるかは多くの場合、示談交渉によって決められます。
損害賠償金の具体的な費目・相場はこの後解説していくので、続けてご覧ください。
居眠り運転事故を起こさないための対策を
居眠り運転事故を起こすと、刑事上・行政上・民事上でそれぞれ責任が生じてしまいます。
これらの責任を負わないためにも、以下のような対策を行い、居眠り運転事故を防止しましょう。
- 運転の前日に睡眠時間を確保し、睡眠不足を防ぐ
- コーヒーなどでカフェインを摂取し、眠気を覚ます
- 長時間の走行の際には、少なくとも2時間ごとに休憩をとる
居眠り運転事故の被害者の慰謝料・賠償金
被害者が請求できる損害賠償金の内訳・相場
居眠り運転による事故にあった被害者は、被害の内容に応じて以下のような損害賠償金を加害者側に請求できます。
- 傷害に関する費目
- 治療関係費
治療費、通院交通費、入院雑費、付添看護費など - 入通院慰謝料
交通事故による入通院で生じる精神的苦痛に対する補償 - 休業損害
交通事故による治療のために仕事を休んだことで生じる減収に対する補償
- 治療関係費
- 後遺障害に関する費目
- 後遺障害慰謝料
交通事故で後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する補償 - 後遺障害逸失利益
交通事故による後遺障害の影響で減ってしまう、生涯収入に対する補償
- 後遺障害慰謝料
- 死亡に関する費目
- 死亡慰謝料
交通事故によって死亡した被害者とその遺族の精神的苦痛に対する補償 - 死亡逸失利益
交通事故により死亡したことで得られなくなった、将来の収入に対する補償 - 葬祭費
葬儀や通夜、位牌などの費用
- 死亡慰謝料
- 物損に関する費目
- 車両の修理費・買い替え費用
交通事故で壊れた車両の修理費
物理的に修理できない場合や修理費が買い替え費用を上回る場合は、買い替えができる - 代車費用
車を修理している間の代車費用 - 評価損
車に事故歴や修理歴、修理しきれない傷などが残ることで落ちてしまう、車の価値に対する補償
- 車両の修理費・買い替え費用
慰謝料・逸失利益については、以下の計算機から相場を確認できます。
なお、次の2点には留意しつつ計算機を利用してみてください。
- 計算機でわかるのはあくまでも機械的な計算結果なので、厳密な相場は弁護士に尋ねることをおすすめします。
- 計算機でわかるのは、過去の判例に基づく、法的正当性の高い基準にのっとった相場額です。加害者側はより低い金額を提示してくる可能性が高いでしょう。
具体的な計算方法やその他の費目の相場については、『交通事故の示談金の計算方法・相場は?』から確認してみてください。
居眠り運転の事故では慰謝料が増額されることも
交通事故の慰謝料相場はおおむね上の計算機でわかる通りですが、居眠り運転による事故の場合は、事情を考慮して慰謝料が増額される可能性があります。
ただし、本当に増額されるのか、どれくらい増額されるのかは相手方との示談交渉次第です。
示談交渉で弁護士を立てるか立てないかによって増額幅が大きく変わってくることも多いので、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
参考になる記事
交通事故慰謝料って増額できる?弁護士への依頼で増額した実例5選
居眠り運転の事故における過失割合
過失割合は損害賠償金額に影響する
交通事故の示談交渉では、損害賠償金の金額だけではなく、過失割合についても決められます。
過失割合
交通事故が起きた責任が、加害者側と被害者側それぞれにどれくらいあるかを割合で示したもの。事故発生時の状況をもとに算定される。
自身についた過失割合分、受け取れる損害賠償金が減額されてしまう。これを過失相殺という。
被害者側の過失割合が0ならば全額もらえたはずの損害賠償金が、過失割合2割になると2割減額、つまり8割分しかもらえなくなってしまいます。
居眠り運転の事故における過失割合
交通事故では、追突事故や交差点の出会いがしらでの衝突事故といった事故類型別に「基本の過失割合」が決められています。
この基本の過失割合に、たとえば前方不注意や速度違反といった事故発生時の細かい状況(修正要素)を反映させて最終的な過失割合を算定されるのです。
加害者側が居眠り運転をしていた場合は、加害者の過失割合が1割~2割加算されます。
たとえば
仮に基本の過失割合が「加害者:被害者=8:2」だったとすると、居眠り運転を考慮した結果、過失割合は「加害者:被害者=9:1または10:0」になる
ただし、被害者側にも過失割合を加算すべき要素がある場合は、被害者側の過失割合が増えてしまうこともあります。
同じような事故でも、事故発生時の細かい状況まで反映すると全く違う過失割合になることもあるでしょう。
そのため、正しい過失割合を知りたい場合は、専門知識や過去の事例に精通した弁護士に問い合わせることがおすすめです。
過失割合をもっと詳しく
交通事故の過失割合とは?決め方の具体的な手順とパターン別の過失割合
居眠り運転の事故が発生した場合の流れ
(1)事故直後の現場・警察対応
居眠り運転による事故が発生した場合は、まずケガ人の救護や現場の安全確保をして、警察に連絡を入れましょう。
この際にすべきことをまとめると、次の通りです。
- ケガ人の救護
必要に応じてケガ人を安全な場所に移動させ、救急車を呼ぶ - 現場の安全確保
事故車が危険な位置で停車している場合は、写真を撮ったうえで車を移動させ、発煙筒などを使って後続車に注意を促す - 警察への連絡
警察への連絡は道路交通法上の義務であり、怠ると罰則がある
通報後に警察が到着したら、実況見分捜査や聞き取り捜査に協力する - 事故相手との情報交換
連絡先や加入している自動車保険などを確認する
事故発生後に行われる実況見分捜査の内容や所要時間については、『実況見分の流れや注意点!聞かれる内容や過失割合への影響、現場検証との違い』の記事が参考になります。事前に読んでおくと安心です。
(2)治療や後遺障害認定の手続き
事故現場での対応・警察対応が一通り終わったら、治療やリハビリに専念します。
この際に注意すべきことは以下の通りです。
- 治療費は被害者側が一旦立て替えることもあるが、健康保険を使えば負担を減らせる
- 整骨院・接骨院への通院は慰謝料減額につながることがあるので、適切な流れに沿って通院することが重要
- 治療頻度が低かったり漫然治療が続いていたりすると慰謝料減額につながることがある
- 加害者側から治療費負担の打ち切り、治療終了を打診されても、まだ治療が必要なら継続する
- 後遺症が残った場合は、十分な対策のうえ後遺障害認定を受ける
上記の内容については、以下の関連記事で詳しく解説しています。
治療期間中は知らない間に慰謝料減額の要因を作ってしまうリスクがあるので、少しでも気になる点がある場合は、記事を読んだり弁護士に注意点を確認したりしてください。
役に立つ記事
- 治療費について:交通事故被害者の治療費は誰が支払う?立て替えは健康保険を使う
- 整骨院・接骨院通院について:交通事故の治療を整骨院で受けても慰謝料はもらえる
- 通院頻度について:交通事故の被害者は毎日通院した方がいい?
- 後遺障害認定について:交通事故の後遺障害とは?認定されたらどうなる?認定の仕組みと認定率の上げ方
(3)被害者・加害者間での示談交渉
ケガが完治したり、後遺症が残り後遺障害認定の結果が出たりすると、事故の相手方との示談交渉が始められます。
話し合う内容は主に損害賠償金の金額と過失割合についてです。
示談が成立すれば示談書作成後、2週間程度で損害賠償金の支払いがおこなわれますが、示談が成立しない場合は調停や裁判などに発展することもあります。
詳しくはこちら
居眠り運転の事故被害者は弁護士に相談を
居眠り運転の事故被害者が弁護士に相談するメリット
居眠り運転の事故被害者が弁護士に相談・依頼を行うことで以下のようなメリットを得られます。
- 適切な損害賠償金額や過失割合を知ることができる
- 依頼することで、示談交渉を弁護士に行ってもらえる
- 弁護士が示談交渉することで相場の損害賠償金が得られやすくなる
加害者との示談交渉は、多くの場合、交渉経験・知識が豊富な加害者側の任意保険会社の担当者が相手となります。
そのため、交通事故に関する知識に乏しい被害者自身で示談交渉に対応すると、被害者側の主張を通せず納得いかない内容で示談が成立してしまったり、相手の言動にストレスを受けたりする可能性が高いでしょう。
しかし、示談交渉で弁護士を立てると、被害者自身の交渉では難しい相場に近い損害賠償金額への大幅増額が実現することも珍しくありません。
また、弁護士が示談交渉の窓口となることから、被害者は加害者側からの連絡を取る必要がなくなるので、治療や仕事の復帰に専念することが可能です。
弁護士に依頼するメリットについては『交通事故を弁護士に依頼するメリットと必要な理由|弁護士は何をしてくれる?』の記事でより詳しく知ることができます。
加害者側から十分な損害賠償金を得るためにも、ぜひ一度弁護士にご相談し、依頼するかどうかを検討してみましょう。
弁護士費用の自己負担をおさえる方法あり!無料相談から始めよう
弁護士に相談や依頼をするためには費用がかかりますが、無料相談ができる事務所を利用したり、弁護士費用特約を活用したりすれば、費用の負担を抑えられます。
アトム法律事務所について
アトム法律事務所では、交通事故の被害者を対象とした無料の法律相談を実施しています。
また、相談後に正式依頼いただく場合には、次のいずれかの方法により、金銭的な負担が軽減可能です。
- 弁護士費用特約を使ってのご利用
- ご自身の保険会社が弁護士費用を負担するので、依頼者の自己負担は多くのケースで0円
- 詳細:交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介
- 着手金が原則0円でのご利用
- 弁護士費用特約が使えない場合は、着手金は原則0円となります。
- 相談のみなら費用は発生せず、依頼の場合も初期費用である着手金が原則0円です。
- 成功報酬は発生しますが、成功報酬を差引いてもなお、弁護士を立てなかった場合より多くの損害賠償金が手元に残ることが多いです。
法律相談は、ご依頼を見据えた内容はもちろん、妥当な損害賠償金額・過失割合を知りたいといった相談のみで完結する内容でも構いません。
是非お気軽にご連絡ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了