交通事故の慰謝料は増やせる?上乗せの方法をまとめて公開!
交通事故の被害者となると、加害者側が慰謝料を含めた示談金額の提示を行ってきます。
この提示された金額に対して「もっともらえるのではないのか?」との考えが浮かぶ方は多いと思います。
実際、加害者から提示された金額には上乗せの余地があります。
なぜなら、加害者側は少しでも支払う額を抑えたいと考えているので、相場よりも低い金額から提示を行うはずだからです。
では、どのような場合にどのような方法で上乗せが可能なのでしょうか。
本記事では、慰謝料を上乗せするために知っておくべき情報と、実際に上乗せする場合に取るべき方法について解説します。
目次
慰謝料を上乗せできる方法
上乗せできる方法は5つ
交通事故によって発生する慰謝料を上乗せする方法は5つあります。
慰謝料を上乗せする方法
- 適切な計算方法(裁判基準)で慰謝料を計算する
- 後遺障害等級認定の申請を行う
- 慰謝料の増額につながる事故の個別的な事情を主張する
- 裁判所などの公的機関を利用する
- 増額交渉を弁護士に依頼する
それぞれの具体的な方法については、次の章から順番に解説していきます。是非確認してください。
上乗せできる慰謝料は3種類
交通事故で請求できる慰謝料には、死亡慰謝料・入通院慰謝料・後遺障害慰謝料の3種類があります。
事故の内容によりどの慰謝料を請求できるかは異なります。
慰謝料を上乗せする方法を見ていく前に、そもそもどのような場合にどのような慰謝料が請求できるのか、確認してみてください。
死亡慰謝料
事故により死者が出ている場合に請求できます。
死亡した被害者本人の分だけではなく、被害者の近親者自身も請求可能です。
金額は、扶養家族の有無や人数によって異なります。
入通院慰謝料
事故で生じた傷害の治療のために、被害者が入院または通院した場合に請求できます。
入通院の期間や、傷害の程度により金額が異なります。
そのため、入通院をしっかりと行っていないと正確な金額を計算することができなくなります。
医師の指示に従い、自己判断で入通院を中断することがないようにしなければなりません。
後遺障害慰謝料
事故により生じた傷害が完治せず後遺症が残ってしまい、その後遺症に対して「後遺障害等級」が認定された場合に請求できます。
後遺障害慰謝料を請求するには後遺障害等級の認定を受ける必要があり、認定された等級に応じて慰謝料の金額が異なります。
慰謝料の種類 | 請求できる場合 |
---|---|
死亡慰謝料 | 事故により死者が出た |
入通院慰謝料 | 傷害が生じ、入通院が必要 |
後遺障害慰謝料 | 後遺症に対して後遺障害等級が認定された |
慰謝料の基本的な情報についてはこちらの記事『交通事故の慰謝料|相場や計算方法など疑問の総まとめ』で簡単に解説しています。
上乗せ方法(1)裁判基準で慰謝料を計算
慰謝料には計算基準が3つある
交通事故の慰謝料には、次の3つの計算基準があります。
- 自賠責保険の基準
- 任意保険会社の基準
- 裁判基準
自賠責保険の基準とは、加害者側の自賠責保険から支払われる慰謝料額の計算基準です。
これは、交通事故被害者に補償される最低限の金額であり、計算方法は国によって定められています。
任意保険会社の基準とは、加害者側の任意保険会社が独自に設定した計算基準です。
加害者が任意保険に加入している場合、この基準に基づいて計算した慰謝料額が示談交渉で提示されます。
裁判基準とは、裁判となった場合に得られる慰謝料の計算基準のことです。
任意保険会社の計算基準は低額で不十分
加害者が任意保険に加入しているのであれば、任意保険会社独自の計算基準によって計算された慰謝料の支払いを提案してきます。
しかし、この金額は自賠責保険の基準よりは高額ですが、裁判となった場合に支払われる金額に比べると、低いです。
このような金額されても、当然納得するべきではなく、裁判基準の金額に近くなるよう、増額交渉すべきです。
しかし、保険会社はなるべく慰謝料を安くしたいと考えているので、ただ納得できないと主張するだけでは話が平行線となってしまう恐れがあります。
そのため、裁判基準による慰謝料額の計算結果を根拠に、慰謝料の上乗せが可能であることを主張する必要があります。
被害者が受け取るべきは裁判基準の金額
裁判基準は裁判となった場合に得られる慰謝料の計算方法を示しています。
この基準により得られる慰謝料の金額こそ、本来得られる慰謝料といえます。
そのため、加害者が裁判基準よりも低い金額の慰謝料の支払いを提示してきたのであれば、裁判基準に基づいた支払いを行うよう交渉しましょう。
裁判所で使用される基準であるため、加害者も無視することはできず、慰謝料の上乗せが期待できます。
裁判基準と任意保険の基準はどれくらい違う?
入通院慰謝料を例に、任意保険会社の基準と裁判基準の金額差を見てみましょう。
任意保険会社の基準は現在、各保険会社ごと異なり非公開です。そのためここでは、かつて保険会社共通で用いられていた「旧統一任意保険基準」を紹介します。
旧統一任意保険基準における入通院慰謝料は以下の通りです。
続いて、裁判基準です。
裁判基準における入通院慰謝料は、軽症と重症の場合で金額が異なります。
ここでは、重症よりも低額である軽症金額を紹介します。
軽症であり通院期間が1か月(入院なし)だった場合の入通院慰謝料は、旧統一任意保険基準では12.6万円、裁判基準では19万円であり、7万円近い差が生じています。
重症であり、入通院期間が長期となれば、差額はさらに大きくなります。
裁判基準については、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発行の「民事交通事故訴訟損害賠償算定基準」(赤い本)という書籍にて知ることができます。
ただし、赤い本を見なくても、裁判基準に基づいた慰謝料の具体的な計算方法については、以下の記事で解説しています。
具体的に慰謝料がわかる関連記事
きちんと計算まではしなくていいけれど大まかな裁判基準の金額は知りたい、という場合は、以下の計算機をご利用ください。
慰謝料計算機は必要最低限の情報を入力するだけで、裁判基準の相場が自動計算されます。ご利用はもちろん無料です。
なお、関連記事『交通事故の判例一覧!慰謝料の高額事例は?判例タイムズは過失割合の参考本』では慰謝料が相場よりも増額された判例を複数紹介していますので参考にしてみてください。
過失割合で慰謝料が減ってしまうことも
交通事故において被害者側にも過失割合が付くと、その割合分、慰謝料を含めた示談金額が減額されてしまいます。
これを利用して少しでも示談金額を減らすために、加害者側は被害者の過失の割合を大きく見積もる可能性が高いです。
加害者の主張する過失割合が不当であるなら、適切な過失割合を主張しましょう。
こちらの主張が通り、被害者側の過失割合が減れば、結果として慰謝料を含めた示談金が上乗せされることとなります。
過失割合の計算には、事故類型ごとに設定された「基本の過失割合」を示した基準表を用います。
この基準表は、過去の裁判例から事故の状況をパターン化し、過失割合の判断基準を明らかにしたものです。
保険会社もこの基準表に基づいて過失割合の判断を行っていますが、実際には細かい事故状況をに応じて基本の過失割合を調整していきます。
この過程で、被害者側の過失割合が大きくなるよう調整されてしまう可能性があります。
基準表は、判例タイムズ社が発行している、別冊判例タイムズ38号にて確認することができます。たとえば、直進者と右折車の衝突事故における過失割合は、以下のようになっています。
基本 | A20:B80 |
A 15㎞以上の速度違反 | A+10 |
A 30㎞以上の速度違反 | A+20 |
B 徐行なし | B+10 |
B 合図なし | B+10 |
B その他の著しい過失・重過失 | B+10 |
自身で基準表をみて過失割合の判断を行い、保険会社と交渉することもできます。
しかし、基準表に載っているのは典型的な事故類型のみであり、特殊なケースについては載っていません。
また、過失割合は算定者の裁量次第な部分もあるので、過失割合の判断が適切かどうかについては弁護士に相談し、確認すべきでしょう。
過失割合を誰がどのように決めるかについては、『交通事故の過失割合は誰が決める?いつ決まる?算定方法と注意点』の記事において確認できます。
上乗せ方法(2)適切な後遺障害等級認定を受ける
後遺障害等級が上がるほど慰謝料が上乗せされる
交通事故では、傷害が治ったときに後遺症が身体に存することがあります。
例えば、足首を骨折して骨がくっついた後にも、足首に痛みや曲がりにくさが残るといったようなケースです。
このような後遺症のうち、将来においても回復が困難と見込まれ、労働能力の喪失を伴うものについては、その程度に応じて「後遺障害等級」が認定される可能性があります。
後遺障害等級が認定されると、等級に応じて慰謝料が支払われます。
等級 | 慰謝料 |
---|---|
1級・要介護 | 2,800 |
2級・要介護 | 2,370 |
1級 | 2,800 |
2級 | 2,370 |
3級 | 1,990 |
4級 | 1,670 |
5級 | 1,400 |
6級 | 1,180 |
7級 | 1,000 |
8級 | 830 |
9級 | 690 |
10級 | 550 |
11級 | 420 |
12級 | 290 |
13級 | 180 |
14級 | 110 |
等級が上がれば上がるほど金額の違いも大きくなり、一番低い等級から一段階上の等級が認められるだけでも70万円もの違いがあります。
つまり、少しでも上の等級に認定されれば、それだけ後遺障害慰謝料の金額が上乗せされるということです。
後遺障害認定の方法は2つある
後遺障害認定は、損害保険料率算出機構という組織が専門的に行っています。
後遺障害認定の方法には、必要書類のほとんどを加害者の任意保険会社が用意してくれる事前認定と、必要書類の用意をすべて被害者が行う被害者請求があります。
どちらの手続きでも損害保険料率算出機構での審査の過程に変わりはありませんが、納得のいく等級の認定を受けたいのであれば被害者請求を選ぶべきです。
事前認定では、必要な書類の作成や準備の大半を加害者の任意保険会社が行ってくれるため負担が少ないですが、必要以上に被害者に有利な書類を用意してくれるということは期待できません。
一方、被害者請求では被害者自身で書類を用意できるので、手間はかかるものの少しでも有利となる書類を損害保険料率算出機構に提出できるのです。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
事前認定 | 資料収集の手間がかからない | 有利な証拠を提出できない |
被害者請求 | 有利な証拠を提出できる | 資料収集の手間がかかる |
後遺障害認定の関連記事
後遺障害認定で用意すべき資料
後遺障害認定の申請で用意すべき資料は、以下の通りです。
事前認定であれば後遺障害診断書以外は加害者側の任意保険会社が用意してくれます。しかし、被害者請求であればすべて、被害者で用意しなければなりません。
必要書類 | 発行・作成者 | 傷害 |
---|---|---|
支払請求書 | 請求者 | 〇 |
印鑑証明 | 市区町村役場 | 〇 |
交通事故証明書 | 自動車安全運転センター | 〇 |
事故発生状況報告書 | 運転者・被害者など | 〇 |
診断書 | 医師 | 〇 |
診療報酬明細書 | 医療機関 | 〇 |
休業損害証明書 | 勤務先 | △ |
通院交通費用明細書 | 被害者 | △ |
委任状と委任者の印鑑証明 | 委任者 | △ |
その他の損害を立証する書類 | 書類作成者 | △ |
後遺障害診断書 | 医師 | △ |
※〇印は必要提出書類。△印は必要に応じて提出
交通事故証明書、診断書、診療報酬明細書の写しは、加害者側の任意保険会社が持っています。被害者請求をする場合は、加害者の任意保険会社からこれらの書類を送付してもらいましょう。
続いて、送られてきた交通事故証明書には加害者が加入している自賠責保険会社が記載されているので、その保険会社に必要提出書類一式を送ってもらいます。
必要提出書類一式に記載されている書類を確認し、収集を行いましょう。
これらの書類以外にも、カルテや専門医の意見などで自己に有利な証拠がある場合には、収集してください。
書類がそろえば、被害者請求で後遺障害認定を申請する旨の送付状を添付し、加害者の自賠責保険会社宛に郵送しましょう。
適切な等級認定には後遺障害診断書が重要
後遺障害認定のために最も重要な書類は医師の作成する後遺障害診断書です。
これ以上治療を行っても効果が得られなくなる症状固定の状態となった後に、医師に作成を依頼してください。
この際に、診断書の内容をどのように記載するのかが重要となります。
なぜなら、後遺障害認定は原則書面審査であるため、どのような後遺症が発生しているのかを書面で過不足なく伝える必要があるためです。
医師は医学的な治療のプロではありますが、後遺障害診断書の作成のプロではありません。
そのため、作成を医師任せにするのではなく、適切な等級認定を受けるためにどのような内容とするのかを検討し、医師に伝える必要があります。
具体的にどのような内容とすべきであるのかについては、後遺障害認定申請の経験のある弁護士に確認するのが、最も安全です。
後遺診断書の作成方法については『後遺障害診断書のもらい方と書き方は?自覚症状の伝え方と記載内容は要確認』の記事にて確認できます。
上乗せ方法(3)増額につながる事情を主張
慰謝料の計算は、基本的に入通院の期間や、後遺障害の等級などから判断されます。
しかし、それ以外にも事故ごとに生じた個別・具体的な事情(増額事由)により上乗せされる場合があります。
慰謝料の上乗せが認められた事例をいくつか紹介します。
加害者の対応が悪い
事故の内容や、加害者の事故後の態様が悪質と判断されたために、慰謝料が上乗せされた事例があります。
- 正常な運転ができない程度に飲酒を行っていた
- 赤信号であったにもかかわらず、減速しなかった
- ひき逃げをし、証拠の隠滅を図った
- 被害者に対して一切の謝罪がない
たとえば、以下のような判例があります。
主婦兼アルバイト(女・57歳)につき、酒気帯びで、夜間にもかかわらず前照灯を灯火させず、制限速度(時40キロ)を大幅に超過(時速約81キロ)し、たばこの火を消すために灰皿に目を落とした前方不注視の事故につき、本人分2200万円、夫300万円、子3人各200万円、合計3100万円を認めた
事故日平25.4.21 大阪地判28.1.14 交民49・1・1
傷害による精神的苦痛が特に大きい
傷害の部位や程度、治療により、通常よりも精神的苦痛が大きいと判断された場合には、慰謝料が上乗せされる可能性があります。
- 傷害の部位・程度による精神的苦痛が大きい場合
- 脳や脊髄への損傷
- 多数の個所にわたる骨折
- 内臓破裂
- 治療による精神的苦痛が大きい場合
- 何度も手術を繰り返した
- 長時間の手術をした
- 感染症や合併症のリスクがあった
- 生死をさまよった
たとえば、実際には以下のような判例があります。
脛骨開放骨折による下肢機能障害(7級)及び下肢短縮(13級8号、併合6級)の会社員(男・固定時36歳)につき、(略)手術を受けたものの、左下肢の軟部組織の著しい欠損により感染の危険が高く、長期間にわたる入院を要したほか、骨癒合にも長期間を要する中で骨髄炎を発症し、再度入院加療を要したことなどから、傷害分360万円を認めた。
事故日平21.6.24 名古屋地裁平25.8.5 自保ジ1910・131
被害者の家族が精神的・経済的被害を被った
被害者が死亡、または、傷害を負ったことが原因で、家族などの周りの人の経済・精神状態が悪化した場合に慰謝料の上乗せが認められることがあります。
- 子供が事故にあったことで両親が精神疾患を患い、がカウンセリングを受ける必要が生じた
- 大黒柱であった人が亡くなったため、家族の経済状況が悪化した
- 小さな子供が身内が事故に遭うところを見てしまった
実際の判例としては、以下のものがあります。
小学生(女・7歳)につき、加害者が疲労と飲酒の影響による仮睡状態であったことを考慮して、本人分2300万円、父母各250万円、事故時集団登校しており妹の死を目の当たりにした兄2人各150万円、合計3100万円を認めた
事故日平12.11.28 盛岡地二戸支判平17.3.22 判タ1216・236
慰謝料の増額事由まとめ
- 悪質な運転により事故が起きている
- 事故後の加害者の対応が非常識なものである
- 通常よりも精神的苦痛が大きくなる箇所の傷害である
- 事故が原因で家族の経済や精神の状態が悪化した
減額につながる事情もあるので要注意
被害者が必要以上に加害者の責任を追及したことを理由に、慰謝料を減額されてしまった事例があります。
交通事故では、事故の原因がすべて加害者にあるわけではないという事例が珍しくありません。
被害者であるからといって、加害者にどのような態度をとってもいいわけではないということを忘れないでください。
上乗せ方法(4)公的機関を利用して増額交渉
紛争処理センターを利用して上乗せを交渉
紛争処理センターとは、裁判所以外で第三者である弁護士が仲裁してくれる場所です。
- 交通事故紛争処理センター
- 日弁連交通事故相談センター
慰謝料上乗せをめぐって示談交渉が行き詰まってしまった場合は、こうした機関に和解や示談のあっせんを依頼できます。
この場合、弁護士は裁判となった場合に認められている裁判基準に基づいた慰謝料に近い金額を提示することが多くなります。
そのため、加害者が提示する金額よりも高額になる可能性があります。
ただし、和解には加害者の合意が必要です。
合意が得られないのであれば、裁判による解決を図る必要があります。
裁判所を利用して上乗せを求める
裁判所で裁判を提起することとなれば、裁判所の計算基準に基づいた慰謝料の支払いを裁判所が命じることが多いでしょう。
この金額は、加害者が提示する金額よりも高額となる可能性があります。
裁判所による判決のため、加害者の合意は不要です。
裁判所利用には問題点も
裁判となると手続きが複雑化し、結論が出るまでに時間がかかります。
また、裁判官は証拠に基づいて中立的な立場から判断を行うため、適切な証拠を提出することができないと、納得のいかない結果となってしまいます。
このような事態を避けるには、裁判に慣れている弁護士のサポートが必要となります。
弁護士に支払うこととなる報酬と裁判により期待できる上乗せの程度から、弁護士へ依頼すべきかどうかを判断しましょう。
交通事故裁判の詳しい流れや、弁護士に依頼すべきかどうかの判断基準を知りたい方は『交通事故の裁判の起こし方や流れ|費用・期間や裁判になるケースを解説』の記事で確認してください。
上乗せ方法(5)弁護士に示談交渉を依頼
弁護士に依頼することによるメリット
加害者から提示される慰謝料の金額は、裁判となった場合に認められる金額よりも低くなります。
弁護士に依頼すれば、裁判を起こさずとも、示談交渉にて裁判基準に基づいた慰謝料の支払いを請求できます。
実は、裁判基準での慰謝料請求自体は弁護士でなくても可能です。
しかし、示談交渉相手は加害者の加入する任意保険会社であることが大半です。
任意保険会社の担当者は日々仕事として示談交渉の経験を積んでいるため、経験のない素人ではうまく言いくるめられてしまい、思ったより上乗せができない恐れがあります。
また、事故ごとの増額事由を主張して上乗せを請求する場合は、専門家である弁護士でなければ説得的な説明が困難です。
弁護士であれば、説得力のある慰謝料増額の交渉が可能です。
また、相手が弁護士となれば加害者も無理な主張をせず、譲歩してくることが多くなります。
そのため、弁護士に依頼するほうがスムーズに交渉を進められます。
示談交渉で弁護士を立てれば、被害者自身が加害者側とやりとりする必要がなくなるので、精神的に楽になるというメリットもあります。
弁護士を立てるメリット
- 裁判基準の慰謝料獲得が見込める
- 弁護士が加害者側とやり取りしてくれるので、被害者の精神的負担が減る
- さらに詳しく:交通事故を弁護士に依頼するメリット8選|弁護士は何をしてくれる?
弁護士への依頼|無料で相談・依頼できる場合も
弁護士に依頼する場合に最も気になるのは、弁護士に支払うこととなる報酬の額です。
慰謝料の上乗せに成功しても、上乗せとなった金額以上の報酬を支払うこととなれば、依頼をした意味がなくなってしまいます。
事前に弁護士にどの程度の慰謝料の上乗せが期待できるのかを相談し、依頼する場合の報酬の金額を確認してください。
そのうえで、報酬以上の上乗せが期待できるのであれば、依頼を行うべきでしょう。
『交通事故で弁護士に頼むと費用倒れになる金額はいくら?』の記事において、具体的な判断方法が確認できます。
なお、弁護士費用特約を使えば、弁護士費用は被害者自身の任意保険会社が負担してくれます。一般的な弁護士費用特約の補償上限は、相談料10万円、弁護士費用300万円までです。そして、ほとんどの交通事故の弁護士費用は、この補償範囲におさまります。
つまり、弁護士費用の全額が特約の補償内におさまることから、被害者の自己負担はゼロといえるのです
あるいは弁護士費用特約が無くても、相談料や着手金が無料となっている法律事務所であれば弁護士費用の負担を大幅に軽減できるので、おすすめです。
弁護士費用特約の関連記事
弁護士に依頼するなら
弁護士に依頼するにしても、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。
弁護士にも、それぞれ得意分野があるので、交通事故の経験が豊富な弁護士に依頼を行うべきです。
アトム法律事務所は、交通事故の経験豊富な弁護士が在籍しております。
無料相談を実施しておりますので、ぜひ一度ご連絡ください。
示談の際に知っておくべきこと
示談金には慰謝料以外も含まれる
示談の際には、慰謝料だけでなく、そのほかの賠償金も含めた金額について交渉することとなります。
示談金として慰謝料以外に支払われる賠償金は、以下の通りです。
- 治療費
- 入通院雑費
- 入通院付添費(医師が付き添いが必要と認めた場合)
- 通院交通費
- 休業損害(治療のために仕事ができず収入が下がった場合)
- 逸失利益(後遺障害により労働能力が低下した場合)
- 将来の介護費(後遺障害により介護が必要となった場合)
- 将来の治療費(今後も後遺障害の治療が必要な場合)
- 葬儀費用(死亡事故の場合)
- 修理費用(物損が生じた場合)
示談の際には、賠償内容の内訳に漏れがないのかについて確認してください。
一度示談が成立してしまうと、再度の交渉は原則として行うことができません。
死亡事故の遺族・物損事故の慰謝料請求は可能?
死亡事故の被害者家族は慰謝料請求できる
死亡事故の場合、被害者の近親者である父母・配偶者・子供については民法の条文上、固有の慰謝料請求が認められています。
第七百十一条 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
民法711条
この範囲については、拡大すべきであると裁判所が判断することがあります。
以下のような人に対して固有の慰謝料の請求を認めた事例があります。
- 祖父母
- 兄弟
- 婚約者
- 内縁の妻
- 配偶者の連れ後
認められた事例があるだけであり、どのような場合であっても認められるわけではないことに気を付けてください。
個別の事例で請求が可能かどうかについては、弁護士に確認すべきでしょう。
物損事故での慰謝料請求は原則できない
物損事故では、基本的に慰謝料の請求は認められていません。
しかし、財産部分の損害の賠償だけでは賄いきれない精神的損害がある場合には、慰謝料が認められることがあります。
- 事故によりペットが死亡、傷害を負った
- 事故により家屋が破壊された
示談交渉の開始時期と進め方
実際に示談交渉を始める時期は、事故の内容により異なります。
死亡事故か傷害事故か、傷害事故である場合は後遺障害があるのかどうかで分かれます。
示談交渉の開始時点
- 死亡事故の場合は、葬儀費用が判明してから
- 後遺障害のない傷害事故の場合は、治療が終了してから
- 後遺障害のある傷害事故の場合は、後遺障害認定の結果が出てから
いざ、示談が開始となっても結論を急いではいけません。
加害者は、少しでも示談金を低くしようと考えているはずです。
そのため、本記事において記載されている慰謝料の上乗せの方法を参考に、示談金を増額させることができないかについてしっかりと検討してください。
どうしても金額に納得がいかない、妥当な金額かどうかが分からないというのであれば、弁護士に相談してみるのもよいでしょう。
示談の流れや問題点について詳しく知りたい方は、『交通事故の示談のメリットは?示談金の増額方法、短期間で示談を成立させる方法も』の記事にて確認してください。
損害賠償請求の権利には時効がある
加害者側の任意保険会社に対する損害賠償請求権は、物損事故は3年、人損事故は5年で時効となります。
民法の改正に伴い、2017年4月1日以降に発生した事故が対象です。
2017年3月31日以前の事故については一律3年なので、注意しましょう。
ただし、加害者側の自賠責保険会社に対する損害賠償請求の時効は3年です。
自動車損害賠償保障法や保険法は民法改正の影響を受けないためです。
2020年4月1日以降 | 2020年3月31日以前 | |
---|---|---|
損害賠償請求 (人損事故) | 5年 | 3年 |
損害賠償請求 (物損事故) | 3年 | 3年 |
自賠責保険への損害賠償請求 | 3年 | 3年 |
時効のカウントは、「被害者が損害および加害者を知ったとき」から開始されます。
「損害を知ったとき」とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時点をいいます。
基本的には、事故の発生時点となります。
事故後しばらくしてから生じる傷害であり、事故当時にその傷害が生じることが通常分からない場合には、その傷害に関する請求のみずれ込みます。
「加害者を知ったとき」とは、損害賠償請求が事実上可能な程度に加害者を知った時点をいいます。
事故発生の時点で加害者から名前や住所などを聞き出していれば、その時点となります。
ひき逃げなどで加害者が不明の場合は、実際に加害者の氏名や住所が判明した時点となります。
通常は治療が終了し、損害額が判明した時点から示談交渉が始まります。
しかし、治療が長引いたために事故の発生から5年が経過しそうな場合は、時効の完成を阻止する手続きをとりましょう。
時効のカウント開始の時点
加害者の名前や住所が分かり、かつ、事故による傷害を認識した時点
- 後遺障害のない人身事故:事故日
- 後遺障害のある人身事故
- 後遺障害に関する賠償金については症状固定日
- その他の賠償金については事故日
- 死亡事故:死亡日
まとめ
慰謝料を上乗せする方法は、以下のようにまとめられます。
慰謝料を上乗せするには
- 裁判基準で計算を行う
- 自身に有利な過失割合の主張を行う
- 後遺障害認定を行い、適切な等級の認定を受ける
- 事故の具体的事情から増額できる事実を主張する
- 紛争処理センターや裁判所などの公的機関を利用する
- 報酬以上の上乗せが期待できるのであれば、弁護士に依頼する
慰謝料の上乗せを実現するには、裁判となった場合に得られる慰謝料がいくらであるかということを加害者に説得的に説明することが必要です。
加害者の提示する金額に納得がいかないのであれば、自身で計算を行い、加害者の金額より高額となる根拠を示してください。
それでも思うような上乗せができないのであれば弁護士に相談しましょう。
上乗せが期待できるのであれば、交渉を弁護士に依頼することもよいでしょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了