交通事故の過失割合は誰が決める?いつ決まる?算定方法と注意点
交通事故の過失割合を誰が決めるかというと、基本的に事故の当事者または当事者の代理人(保険会社の担当者、弁護士など)です。過失割合は、示談交渉時に決まります。
自身に過失割合がつくとその割合分、受け取れる慰謝料・賠償金が減るため、過失割合の交渉は非常に重要です。
この記事では、過失割合は誰が決めるのか、具体的にはいつ決まるのか、自力で交渉しても良いのか、代理人を立てるなら誰が良いのかを中心に解説していきます。
目次
交通事故の過失割合は誰が決める?
過失割合は事故の当事者同士で話し合って決める
交通事故の過失割合を決めるのは、事故の当事者である被害者と加害者です。
事故状況や過去の判例などを踏まえながら、当事者同士で話し合って、話し合いで合意すれば過失割合が決まります。
過失割合は、当事者同士が合意すれば示談交渉で決まるものですが、当事者同士の合意が得られず訴訟に発展すれば、最終的に裁判所が判決によって過失割合を決めることになるでしょう。
実際は保険会社から過失割合を通知されるのが一般的
当事者同士の合意で過失割合が決まるとはいえ、実際には任意保険の担当者や弁護士が、双方の代理人として過失割合を決めることが多いです。
具体的には、示談交渉時に加害者側の任意保険会社から過失割合を通知されることからはじまるのが一般的といえます。
話し合いで過失割合が決まる流れは次のとおりです。
過失割合を決める流れ
- 加害者側の任意保険会社から、過失割合や示談金額を記載した「示談案」が届く
- 内容を確認し、納得いかない点があればその旨を伝えて交渉する
- 交渉を重ね、双方が過失割合や示談金額に合意すれば、示談成立となる
警察は事故状況の捜査まではおこないますが、過失割合の決定には直接的に関与しません。
加害者側の提案を鵜呑みにせず、話し合うことが重要
加害者側の任意保険会社から提示された過失割合を鵜呑みにするのは、以下の理由から非常に危険です。
- 任意保険会社は法律の専門家ではないため、適切かつ十分な資料を用いた過失割合の算定ができていない可能性がある。
- 任意保険会社は、加害者側の証言のみを参考にして過失割合を算定している可能性がある。
- 任意保険会社は、示談金を少なくするために、被害者側の過失割合を多めに見積もっている可能性がある。
任意保険会社が過失割合を提示してきた場合、「過失割合に詳しい保険会社の人が言うのだから、これが正しいのだろう」と思うかもしれません。
しかし、保険会社の提示だからと信頼するのではなく、被害者側でも改めて適切な過失割合を確認し、しっかり交渉することが重要です。
提示された過失割合や示談金の金額に疑問を感じたら、弁護士に一度ご相談ください。
コラム|過失割合は警察が決めるのではないの?
過失割合は警察が決めると思っている方は少なくありませんが、警察が過失割合を決めることはありません。
過失割合など事故当事者間の話し合いで解決される問題は、「民事問題」とされます。警察は民事不介入の原則により、こうした民事問題には介入できないためです。
ただし、過失割合を決めるカギとなる事故現場の状況については、警察が実況見分調書して書類にまとめます。
適切な過失割合を算定するためには、警察による捜査の際に事故状況を正確に伝え、正確な事故状況の記載がなされた実況見分調書を作成してもらいましょう。
実況見分のポイントは『実況見分の流れや注意点!聞かれる内容や過失割合への影響、現場検証との違い』の記事が参考になります。
過失割合はいつ決まる?
過失割合は示談時に決まる|具体的なタイミングは?
交通事故の過失割合は、示談交渉時に決まります。
示談交渉の具体的なタイミングは、物損事故なら車の修理費などが確定したあと、ケガが完治した人身事故なら治療終了後、後遺障害が残った人身事故なら後遺障害認定後です。
タイミング | |
---|---|
物損事故 | 修理費などが確定した後 |
人身事故(完治) | 治療終了後 |
人身事故(後遺障害) | 後遺障害認定後 |
なお、物損被害も人身被害も両方生じている場合、物損部分の示談交渉と人身部分の示談交渉はそれぞれ別のタイミングでおこなわれることがあります。
過失割合もその都度話し合われます。それぞれで加害者側の保険担当者が異なることもあるため、物損部分の示談交渉で決まった過失割合と、人身部分の示談交渉で決まった過失割合とが違うこともあるでしょう。
示談交渉のタイミングや流れについて詳しくは、『交通事故の示談交渉はいつ開始する?示談金がもらえるタイミングや示談の流れは?』の記事で解説しています。
示談で過失割合が決まらなければ裁判などで決まる
示談交渉はあくまでも被害者側・加害者側双方の同意によって成立するものです。合意形成ができなかった場合は、以下の方法で過失割合が決まります。
- ADRを利用した話し合いを行う
- 裁判所において調停手続を行う
- 裁判所において裁判を行う
示談で納得いく過失割合にならない時の対処法は、『交通事故の過失割合に納得いかない・おかしい!ゴネ得を許さず割合を変更』の記事で解説しています。
過失割合の算定方法
過失割合を算定する大まかな流れ
過失割合は、以下の流れで算定します。
- 事故の当事者同士で事故状況の認識を擦り合わせる
- 事故類型に合った基本の過失割合を確認する
- 修正要素を加える
交通事故では、たとえば「追突事故(被追突車は停車中)なら、追突車:被追突車=100:0」というように、大まかな事故類型ごとに基本の過失割合があらかじめ決められています。
そのため、まずは当事者同士で事故状況の認識についてすり合わせを行い、該当する事故類型を確定したうえで基本の過失割合を確認するところからはじめます。
基本の過失割合は、次の書籍で確認が可能です。
- 「別冊判例タイムズ38」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)
- 「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」 (通称:赤い本)
また、過失割合を決めるより具体的な手順や、事故パターン別の基本の過失割合がわかる『交通事故の過失割合とは?決め方の具体的な手順とパターン別の過失割合』の記事も合わせてご確認ください。
一つとして同じ交通事故はない
基本の過失割合はおおまかなものに過ぎず、実際の事故状況を詳細に表した過失割合とはいえません。交通事故は、発生した場所や時間、当事者の運転技術や車両の種類など、完全に一致する事例はないからです。
そのため、過失割合の決定には修正要素の検討が非常に重要な要素となります。
事故固有の細かな要素を過失割合に反映させるため、基礎となる基本の過失割合に、修正要素を加味することで、最終的な過失割合が決まっていくことになるのです。
修正要素にはさまざまなものがあるため、『過失割合の修正要素はどのようなものがある?事故類型別に紹介』の記事で紹介します。
正しい過失割合にするなら弁護士を立てることがおすすめ
理由(1)弁護士なら厳密な過失割合算定ができる
弁護士に相談・依頼すると、厳密な過失割合算定が可能になります。
過失割合は、基本の過失割合と修正要素を組み合わせて算定します。
ただし、どのような修正要素によりどれくらい過失割合を調整すべきかは過去の事例なども踏まえて柔軟に判断すべきです。
被害者自身では適切な判断が難しいだけでなく、加害者側の任意保険担当者であっても判断しかねるケースがあるため、依頼するか否かに関わらず過失割合算定の弁護士相談だけは最低限しておいた方が良いでしょう。
理由(2)弁護士に依頼すれば示談金の大幅増額も期待できる
弁護士相談後、弁護士に示談交渉を依頼すれば、被害者側の過失割合を小さくし、なおかつ加害者側が提示する示談金額を増額させることで最終的な受取額が大幅に増額することも期待できます。
示談交渉で弁護士を立てると、次の理由から被害者側の主張が通りやすくなるのです。
- 豊富な専門知識と示談交渉経験を踏まえ、効果的な交渉ができる
- 被害者側が弁護士を立てると、加害者側の任意保険担当者は裁判への発展を恐れ、態度を軟化させる傾向にある
- 「弁護士が出てきたら示談金の大幅な増額にも応じる」という方針を取っている保険会社もある
なお、示談交渉よりも早い段階から弁護士に依頼すると、他にも治療中に生じた加害者側とのトラブル対処、後遺障害認定といったサポートを受けられます。
弁護士に依頼できることや弁護士に依頼すべきタイミングについては、以下の記事もご覧ください。
弁護士費用による負担は減らすことが可能
弁護士への相談・依頼には、通常費用がかかります。
しかし、自身の保険に弁護士費用特約が付いていれば、弁護士費用は自身の保険会社に負担してもらえます。
多くのケースで、自己負担なく弁護士に相談や依頼を行うことが可能です。
負担してもらえる範囲には上限がありますが、費用額が上限の範囲内に収まることは珍しくないので、金銭面の負担なく弁護士に相談依頼を行うことが可能となるのです。
また、弁護士費用特約がなかったとしても、相談料無料の法律事務所を活用することもポイントです。さらに着手金無料の法律事務所だと、初期費用をかけずに弁護士に依頼可能です。
弁護士費用特約について詳しくは、『交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介』の記事をご覧ください。
過失割合を決めるときによくある疑問にお答え
Q.加害者側から過失割合の連絡がこないときはどうする?
加害者側の任意保険会社から、以下のタイミングを過ぎてしばらく経っても過失割合や示談金に関する連絡がこない場合は、直接問い合わせてみましょう。
- ケガが完治した場合:治療終了後
- 後遺症が残った場合:後遺障害認定の結果がでたあと
- 物損事故の場合:車の修理費の見積りなどがそろったあと
※人身事故の場合、物損に関する過失割合・示談金のみ先に提示されることもあります。
連絡を入れても状況が変わらない場合や、示談交渉相手が加害者側の任意保険担当者ではなく加害者本人である場合の対処法は、『交通事故の示談で保険会社や加害者から連絡なし|被害者がとるべき対応方法』の記事で詳しく解説しています。
Q.加害者側との過失割合の話し合いは自力でも可能?
過失割合を決める示談交渉において、加害者側は任意保険の担当者を立ててくることが多いです。これに対して被害者側が自力で交渉し、適切な過失割合にするのは難しいと言わざるを得ません。
その理由は以下のとおりです。
- 被害者が自力で正しい過失割合を知るのは難しい
- 加害者側の任意保険会社のほうが交渉力がある
過失割合は過去の判例や事故の細かい状況まで踏まえて柔軟に算定しなければなりません。
被害者自身では正しい過失割合の判断がつきにくく、交渉したくても具体的にどれくらいの過失割合を主張すれば良いのかわからなくなりがちです。
また、加害者側の任意保険会社は日々示談交渉をしているプロです。
知識も交渉スキルもあるため、被害者自身で交渉しても主張を通すのは難しいでしょう。
過失割合の主張で根拠となる証拠
過失割合について交渉する際には、以下のような証拠も必要になります。
- 当事者や同乗者の証言
- 目撃者の証言
- 実況見分調書や供述調書といった刑事記録
- ドライブレコーダーや防犯カメラの映像などの客観的証拠
- 書籍「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版](別冊判例タイムズ38)」やその他の専門書、過去の判例など
代理人となる弁護士を立てれば、こうした証拠集めもサポートしてもらえるでしょう。
Q.過失割合の話し合いは誰に任せるべき?
示談交渉では、被害者側も自身の「示談代行サービス」を使って保険担当者に示談交渉を依頼できます。一方で、弁護士を立てるという選択肢もあります。
「弁護士を立てると費用がかかるし、保険会社に全て任せれば良いのでは」と思うかもしれませんが、誰に示談交渉を任せるかは以下の点から判断しましょう。
- 示談代行サービス無料には落とし穴がある
- 過失0の事故ではそもそも示談代行サービスが使えない
それぞれについてもう少し詳しく解説します。
示談代行サービス無料には落とし穴がある
弁護士を代理人とするなら相談料・着手金・成功報酬といった弁護士費用がかかるデメリットがある一方、示談代行サービスは基本的に費用がかからないというメリットがあります。
しかし、保険会社と弁護士とでは主張できる慰謝料額に差があるという落とし穴に注意すべきです。
落とし穴
示談交渉では過失割合とともに、慰謝料・損害賠償金額についても話し合います。
この際、保険担当者を代理人とした場合と弁護士を代理人とした場合とでは主張できる慰謝料額に差が出てきます。
保険担当者は自社基準(任意保険基準)に沿った慰謝料額を主張するのに対し、弁護士は過去の判例に基づく基準(弁護士基準)に沿った、より高額な慰謝料額を主張するからです。
任意保険基準は保険会社ごとに異なり非公開ですが、弁護士基準のほうが倍以上高額であることも珍しくありません。
※自賠責基準は、国が定めた最低限の基準
弁護士基準の金額については、『交通事故の慰謝料は弁護士基準で請求!慰謝料相場と増額成功のカギ』の記事で解説しています。
弁護士費用がかかったとしても、最終的に得られる慰謝料・損害賠償金と差引きすれば、弁護士に依頼した方がよいケースもあります。
過失割合だけでなく、慰謝料・損害賠償金額のことも考えて代理人を選びましょう。
弁護士費用に不安がある場合は、「弁護士費用特約」が使えるか確認してください。自身の保険に特約がついていれば、上限の範囲内で弁護士費用を保険会社に負担してもらます。
また、弁護士が主張できる慰謝料額や弁護士費用などは、事前の法律相談でも確認可能です。
アトム法律事務所では無料相談を実施しているので、お気軽にお問い合わせください。
過失0の事故ではそもそも示談代行サービスが使えない
過失割合0の事故では、そもそも保険会社による示談代行サービスが使えません。過失割合0の事故での示談代行サービスは法律で禁止されている「非弁行為」にあたるため、自力で示談交渉するか弁護士を立てる必要があるでしょう。
以下のようなもらい事故では被害者側の過失が0になることが多く、示談代行サービスが使えない可能性があります。
- 停車中の自動車に対する追突事故
- センターラインをオーバーした自動車との衝突事故
被害者側の過失が0になる場合、「こちらには非がないということだからスムーズに交渉できるだろう」と思うかもしれません。
しかし、被害者側の過失が0の場合は過失相殺ができない分、示談金額の交渉が一層シビアになる可能性があります。
被害者側に過失がなくても油断せず、示談交渉を弁護士に依頼することを検討してみるとよいでしょう。
もらい事故に関しての注意点については、『もらい事故にあったらどうする?得する方法を知って泣き寝入りしない被害者に!』の記事で詳細に解説しています。ぜひ確認してみてください。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了