過失割合の修正要素はどのようなものがある?事故類型別に紹介
この記事でわかること
修正要素は、交通事故の過失割合を正確に表すために欠かせません。
たとえば、事故相手が信号無視をしていた場合には、相手により重い過失が加算されることになります。言い換えると、修正要素には被害者であっても不利な加算要素と有利な減算要素があるということです。
過失割合に影響を与える修正要素について知っておかないと、知らず知らずのうちにもらえる示談金が少なくなってしまう可能性があります。
修正要素にはどのようなものがあるのか、事故類型別に具体例を見ていきましょう。
目次
修正要素とは?
修正要素とはどのようなものなのか、修正要素の証明に必要な証拠などについて解説します。
基本の過失割合を加算・減算する要素
修正要素とは、実際の事故状況に応じて過失割合を加算・減算するものです。
基本の過失割合に修正要素を踏まえて、「加害者側に+10%」「被害者側に−5%」といった修正を加えることで、より実際の事故状況に沿った過失割合になります。
基本の過失割合については『交通事故の過失割合とは?決め方の具体的な手順とパターン別の過失割合』の記事にて事故パターン別に紹介しているので、こちらも合わせてご確認ください。
修正要素の種類は「わき見運転」や「速度違反」、「前方不注意」など多様です。
修正要素の種類についてはのちほど具体例を用いて紹介していきますが、各修正要素によってどれくらい過失割合を左右するかは具体的な事故類型や事故状況により異なります。厳密な内容は弁護士に問い合わせることをおすすめします。
修正要素の証明には証拠が重要
修正要素については加害者側ともめることも多いです。被害者自身でも見落としている修正要素があることもあるので、ドライブレコーダーを見返すなどしてみましょう。
ドライブレコーダーの証拠能力については『ドラレコは警察に提出すべき?過失割合への影響や証拠能力も解説』の記事で紹介しています。
ドライブレコーダーの他にも、当事者や目撃者の証言、実況見分調書などの証拠も主張の根拠となるでしょう。
事故類型別に修正要素の具体例を紹介
「自動車同士の事故」「自動車と自転車の事故」「自動車と歩行者の事故」に分けて、修正要素の具体例を紹介します。
(1)自動車同士の事故の修正要素
自動車同士の事故の場合、修正要素にはたとえば次のようなものがあります。
- 著しい過失があった
- わき見運転
- 携帯電話で通話しながらの運転
- 酒気帯び運転
- 15㎞以上30㎞未満の速度違反
- 重過失があった
- 酒酔い運転
- 居眠り運転
- 無免許運転
- スピード違反(時速30km以上)
- 合図なし
- 右折禁止違反
- 徐行なし
- 大回り右折
- 明らかな先入 など
いずれも、上記の修正要素に当たる側の過失割合が加算されます。
(2)自動車と自転車の事故の修正要素
自動車と自転車の事故では、以下のような修正要素があります。
自動車側の過失割合が加算される
- 自転車側が横断歩道を進行していた
- 自転車側が児童・老人だった
- 著しい過失があった
- 前方不注視
- 酒気帯び運転
- 15㎞以上30㎞未満の速度違反
- 著しいハンドル・ブレーキ操作のミス
- 重過失があった
- 飲酒運転
- 無免許運転
- 居眠り運転
- 30㎞以上の速度違反
- 故意に準ずる加害行為
自転車が横断歩道を進行していた場合や児童・老人だった場合に自動車側の過失割合が増えるのは、こうした場合は自動車側がより注意を払って安全運転に努めるべきだとされるからです。
自転車側の過失割合が加算される
- だいたい時速20㎞を超える速度で走行していた
- 夜間の事故
- 著しい過失があった
- 酒酔い運転
- わき見運転
- 二人乗り
- 制動装置不良
- 無灯火
- 重過失があった
- 手放し運転
夜間の事故で自転車側の過失割合が加算されるのは、「自転車側は自動車を認識しやすいのに対し、自動車側は自転車を認識しにくい状況だった」ことが考慮されるためです。
自動車と自転車の事故の過失割合は、『車と自転車の事故|過失割合と慰謝料相場は?』の記事で詳しく解説しています。
(3)自動車と歩行者の事故の修正要素
自動車と歩行者の事故における過失割合には、以下のものがあります。
自動車側の過失割合が加算される
- 歩行者が、幼児・児童・老人だった
- 歩行者が、道路交通法71条2号に該当する人だった
- 身体障害者用の車いすに乗る人
- 目が見えないなどの障害で一定の杖や盲導犬を利用している人
- 歩行者が集団で横断歩道を渡っていた
- 著しい過失があった
- 前方不注視
- 酒気帯び運転
- 15㎞以上30㎞未満の速度違反
- 著しいハンドル・ブレーキ操作のミス
- 重過失があった
- 飲酒運転
- 無免許運転
- 居眠り運転
- 30㎞以上の速度違反
- 故意に準ずる加害行為
- 車歩道の区別がなかった
歩行者の属性によって自動車の過失割合が増えるのは、歩行者側が十分な注意を払うのは難しく、自動車側がその分安全に気を遣うべきだったとされるからです。
また、歩行者の集団横断で自動車側の過失割合が増えるのは、集団横断であれば歩行者を認識しやすかったはずであり、それにもかかわらず事故を起こした責任は重いとされるからです。
歩行者側の過失割合が加算される
- 夜間の事故
- 横断禁止場所を横断していた
- 幹線道路での事故
- 直前直後横断(飛び出し)
- 佇立、後退、ふらふら歩き
夜間の事故で歩行者側の過失割合が加算されるのは、「自動車側は歩行者を認識しにくいのに対し、歩行者側は自動車を認識しやすかったのだから、その点に気を付けて歩くべきだった」とされるためです。
歩行者の過失が加算される事故の過失割合については、『歩行者が悪い交通事故の過失割合は?飛び出し事故や横断歩道でないところの乱横断』の記事もご覧ください。
事故の当事者が子どもなら、親の過失が認められる場合がある
交通事故の当事者が幼い子どもの場合、事理弁識能力がないと判断されると、子供自身に過失割合は認められません。
事理弁識能力
物事の良し悪しを判断する能力。
一般的には5歳程度の子どもであれば事理弁識能力が備わっていると判断される。
ただし、被害者である子供本人に事理弁識能力が認められなかったとしても、監督責任がある親が監督を怠っていた場合は親に過失があったとされ、親と身分上または生活関係上一体とみなされる子供側に過失が認められるのです。
子供が交通事故にあった場合の過失割合については『こどもの飛び出し事故対策と過失割合は?示談で不利にならない方法』の記事で詳しく解説しているので、確認してみてください。
モデルケースをもとに過失割合を算定
それでは、過失割合の決め方がよりイメージしやすくなるよう、モデルケースをもとに実際に過失割合を算定してみましょう。
上の図は、交差点の出会い頭での直進車同士の事故です。
信号がある交差点内での事故で、当事者双方が赤信号のケースとなっています。
基本の過失割合 | A50:B50 |
修正要素(1) | Bの明らかな先入(Aに+10) |
修正要素(2) | Aに著しい過失(Aに+5)もしくはAに重過失(Aに+10) |
修正要素(3) | Aの明らかな先入(Bに+10) |
修正要素(4) | Bに著しい過失(Bに+5)もしくはBに重過失(Bに+10) |
たとえば、修正要素(1)が該当する場合、過失割合は「A60:B40」に修正されます。
それに加えてBに著しい過失があった場合は、基本の過失割合に修正要素(1)と(4)が適用され、過失割合は「A55:B45」になるのです。
示談交渉で実際どのように過失割合が決まることになるのかは『交通事故の過失割合は誰が決める?いつ決まる?算定方法と注意点』の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
示談交渉で納得いく過失割合にならなかったらどうする?
示談交渉で納得のいく過失割合にならない場合は、ADRの利用、調停、裁判などに移行します。
ADRを利用した話合い
ADRとは、専門家による仲介を行いつつ、話し合いで解決する機会を提供する機関のことです。
交通事故に関するトラブルの解決に関しては、以下の機関が対応してくれています。
- 日弁連事故相談センター
- 交通事故紛争処理センター
無料で利用することが可能ですが、解決のためには当事者間の合意が必要であるため、互いの過失割合に関する主張が大きく食い違っているようなケースでは利用による解決は困難といえるでしょう。
裁判所における調停手続
調停手続とは、裁判所において調停委員に仲介してもらいつつ、話し合いによって解決を目指す手続きをいいます。
裁判よりも安い手数料で、裁判に比べると短期で解決することが可能ですが、ADRと同様に当事者間の合意が必要となるため、必ずしも解決できるとは限らない点に問題があります。
裁判所における裁判
裁判において勝訴の判決がなされれば、たとえ加害者側の合意がなくても、被害者側の主張が通ります。
しかし、裁判には以下のようなリスクがあるため、注意が必要です。
- 敗訴し、加害者側の主張が通る可能性もある
- 敗訴した場合、裁判費用は被害者側の負担となる
- 裁判による解決には時間がかかりやすい
- 訴訟の手続きや主張の立証・尋問の準備など手間がかかる
上記のリスクを踏まえ、裁判による解決を行うべきかどうかについて、1度弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、本当に裁判を行うべきかアドバイスがもらえるでしょう。
また、弁護士が示談交渉に介入することで、裁判などの他の手段を行わずに問題が解決する可能性もあります。
交通事故の過失割合で争いになったら弁護士に相談
交通事故の過失割合は、示談金額を大きく左右するので、示談交渉では争いが生じやすいです。特に修正要素は過失割合の数値に影響するものなので、注目すべき重要な要素といえるでしょう。
保険会社から提示を受けた過失割合に事故態様を反映した修正要素が加えられているか、提示された示談金に増額の可能性はあるかなど、交通事故で気になることは弁護士に相談しましょう。
アトム法律事務所の弁護士は、交通事故でお怪我をされた方向けの無料相談を実施しています。無料相談を希望される場合、まずは下記バナーより受付窓口までお問い合わせください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了