怪我なし10対0の物損事故の示談金相場は?保険交渉と補償のポイント

「信号待ちをしていたら追突された」「完全に相手の過失だった」「怪我はしていないが、車が傷ついてしまった」
このように、過失割合が10対0とされる物損事故に遭ってしまった場合、示談金は数万円から30万円程度となることが多いでしょう。
ただし、高級車の修理が必要となったといったケースでは、示談金が100万円を超える可能性もあります。
もっとも、過失割合が10対0、つまり相手方が100%悪い事故であっても、事故後の手続きがスムーズに進むとは限りません。
ここでは、「怪我なし」の10対0物損事故を前提に、示談金の内訳や相場、保険会社とのやりとりで注意すべきポイント、請求可能な費用(修理費・代車代・評価損)など、知っておきたい情報をわかりやすく解説します。


「10対0の物損事故」とは?過失割合の基本を押さえよう
10対0の物損事故となるケース
交通事故では一般的に、被害者・加害者双方に過失があるとされ、過失割合に基づいて損害賠償が行われます。
しかし中には、明らかに相手が全面的に悪いケースも存在します。
その場合は「過失割合10対0の事故」という風に呼ばれます。
実際に、過失割合10対0となるのは以下のような事故です。
【10対0となりやすい事故例】
- 自動車で停車中に、後ろから追突された
- 交差点で事故相手が一時停止無視、赤信号無視で衝突してきた
- 対向車線を走る車が、センターラインをオーバーして衝突してきた
こうした事故では「過失割合10:0」となり、加害者側が一方的に損害賠償責任を負うことになります。
10対0の物損事故かどうかは基本的に話し合いで決まる
過失割合が10対0となるかは、基本的に事故の状況をもとに、保険会社との交渉により決めることとなります。
保険会社との交渉がまとまらない場合は、訴訟を提起したうえで裁判所が決定してもらう必要があるでしょう。
「自分は完全に悪くない」と感じていても、実際は過失割合10対0とならない場合もあるので、ご注意ください。
過失割合は誰がどのようにして決まるのかという点については『交通事故の過失割合は誰が決める?いつ決まる?算定方法や交渉のコツ』の記事で詳しく知ることが可能です。
怪我なし物損事故の示談金相場とその内訳
「怪我はなかったが、車に傷がついてしまった」というような事故を物損事故と呼びます。
物損事故
事故当時者が怪我をしておらず、車両などの損害のみが発生している事故

物損事故での示談金は、基本的に実際に損害を被った費用の支払いとなります。
そのため、「示談金で儲かった」ということには基本的になりません。
また、慰謝料(精神的苦痛に対する補償)は支払われないのが一般的です。
10対0の物損事故で示談金として請求できる損害の内容
物損事故の示談金には、以下のようなものが含まれます。
物損事故の損害の内訳
- 修理費
(実際にかかった修理費用・修理見積書に記載された費用) - 代車費用
(修理期間中の代車使用料) - レッカー代
(現場から修理工場までの移動費用) - 評価損
(車の市場価値が減少した分の補償) - 買い替え諸費用
(車を買い替えするのにかかった費用) - 携行品
(車に載せていたもの、身に着けていたものが破損したときの時価額) - 休車損
(営業用車両について、車を使えなかったことで生じた損害) - その他実費
(警察まで行ったタクシー代など)
車の修理は必ずしなくてはいけない?
損傷の程度によっては、修理をせずそのまま乗り続けたり、または修理せず廃車にすることも可能です。
その場合は、修理見積書を作成してもらったうえで、相手方保険会社に「修理しない」旨を伝えておくようにしましょう。
車の修理費>市場価格の場合はどうなる?
修理見積書を作成してもらったところ、修理費用>車の市場価格であった場合には、修理費の代わりに車の市場価格相当額が支払われます。
つまり、「修理するよりも同じ車を新しく買った方が安い」というような場合です。
もっとも、相手方保険会社が提示してくる車の市場価格は実際より低額になっていることが多くあります。
車の修理費について不安がある場合は、弁護士に相談してみましょう。
10対0の物損事故の評価損|認められる条件と交渉ポイント
10対0の物損事故でも、評価損については争いになりやすい傾向があります。
評価損はいくら請求できる?
判例では、評価損として修理費用の10%~30%程度が認められることが多いです。
例えば、新車の修理費用として100万円かかった場合であれば、評価損としては30万円程度を請求することになるでしょう。
例えば新車の修理費用として100万円かかった場合、評価損としては最大30万円請求することになります。
事故減価額証明書や査定書があっても、その金額の通り認められるわけではありません。
評価損が認められやすい例
以下のような条件を満たす車両については、評価損を請求できる可能性があります。
- 骨格部分やエンジン部分など、重要部分の修理をした
- 外国車で、初年度登録から5年未満・走行距離6万キロメートル未満
または - 国産人気車種で、初年度登録から3年未満・走行距離4万キロメートル未満
全ての物損事故で評価損の請求が可能なわけではないため、ご注意ください。
10対0の物損事故で迷惑料(慰謝料)が請求できるケース
物損事故の場合、迷惑料や慰謝料などの損害は基本的に認められません。
なぜなら、物損事故については金銭を受け取ることで「車が壊れてしまって悲しい」という精神的苦痛も解消される、と考えられるためです。
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慰謝料が例外的に認められることがあるケース
物損事故での慰謝料は非常に限定的で認められづらくはありますが、以下のようなケースでは慰謝料相当の金額が支払われることもあります。
- 事故によりペットが死傷したとき
- 車や物品が被害者にとって特別の価値を有するものであるとき
(手に入らないクラシックカー、コレクターアイテムなど) - 自動車事故で建物が損壊し、生活の平穏が害されたとき
(トラックが民家に激突してきた場合など) - 加害者側に極めて悪質な事情があるとき
また、実際の示談交渉では「ご迷惑をかけたお詫び」として、慰謝料ではないものの、若干の迷惑料が示談金に上乗せされるケースもあります。
しかし迷惑料は加害者側が任意で支払うもので、被害者が当然の権利として請求できるわけではありません。
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10対0の物損事故で実は怪我をしていた場合は?
物損事故だと思っていたが、事故後に怪我をしていたことが判明した場合は、人身事故として以下のような損害を請求することも可能となります。
- 治療関係費
治療のために必要となった投薬代、手術代、入院費用など - 休業損害
治療のために仕事を休んだことで生じる減収に対する補償 - 入通院慰謝料
治療のために入院や通院したこと生じる精神的苦痛に対する慰謝料 - 後遺障害慰謝料
後遺障害が残ったことで生じる精神的苦痛に対する慰謝料 - 逸失利益
後遺障害により生じる将来の減収に対する補償
交通事故によりむちうちとなった場合には、事故からしばらくして痛みを感じることもあるので注意が必要です。
そのため、物損事故であっても念のため事故発生後は病院で検査を受けるべきでしょう。
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10対0の物損事故の保険対応の流れと注意点
10対0の物損事故では示談代行サービスが利用できない
10対0の事故の場合、被害者側の保険会社(被害者側)が代わりに示談交渉を行ってくれるという示談代行サービスを利用することができません。
過失のない被保険者のために保険会社が示談交渉を代わりに行うことは、「非弁行為」となり法律で禁じられているためです。
そのため、加害者の保険会社とのやりとりは、基本的に被害者本人が行う必要があります。
物損事故の示談の流れ
10対0の物損事故においては、おおむね以下のような流れで示談が進みます。
- 相手保険会社から連絡が来る
- 修理会社へ車を持ち込むまたはレッカー搬送する
- 相手保険会社に修理見積書を提出する
- 相手保険会社に代車を手配してもらう
- 車の修理が完了する
- 相手保険会社に修理の領収書を提出する
- 示談金額が提示される
- 内容に納得できれば示談書にサインする
- 指定口座へ示談金が入金される
「8. 示談書にサイン」をすると、原則としてその後、追加で損害賠償請求することはできません。
示談金に納得できるまで、十分に確認しましょう。
10対0の物損事故で保険会社と交渉する際の注意点
示談金について納得がいかない場合には、以下の点に気を付けて保険会社に交渉しましょう。
- 修理費は相当な修理範囲、金額になっているか
- 代車代、レッカー代、評価損などが損害に含まれているか
- 費用の内訳や支払先が明記されているか
提案された金額に納得できない場合はすぐに署名せず、相手方に確認することが重要です。
示談交渉の際に有用となるテクニックを詳しく知りたい方は『交通事故の示談テクニック8つ!自分でできる交渉術と慰謝料増額の近道』の記事をご覧ください。
10対0の物損事故で弁護士に相談すべき理由
もしも示談金の内容が不安な場合や、示談金が妥当か判断が難しい時には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談・依頼することで以下のようなメリットを得ることが可能です。
- 提示されている示談金が相場の金額といえるのかがわかる
- 代車代やレッカー代を請求することができるのかどうかがわかる
- 示談交渉を弁護士に行ってもらえる
- 加害者側との連絡を弁護士に行ってもらえる
10対0の物損事故では、示談代行サービスが使えず、原則として被害者本人による示談交渉が必要となりますが、相場の金額で示談を行うには法律知識や示談交渉の経験が欠かせません。
弁護士に相談・依頼すると弁護士から示談交渉を行ってもらえるため、相場の金額で示談できる可能性が高まります。
また、示談交渉に必要な証拠の収集や加害者側との連絡も弁護士が行ってくれるため、被害者の負担を減らることもできるのです。
弁護士費用特約があるなら弁護士への依頼がお得
もしあなたやご家族の保険に弁護士費用特約がついていれば、多くの場合費用負担なしで弁護士に相談や遺体を行うことができます。
弁護士費用特約とは、保険会社が弁護士に相談・依頼する際に生じる費用を負担するという特約です。
負担額に上限があるものの、多くのケースで相談や依頼の費用が上限内に収まるため、費用負担を気にせずに相談や依頼を行うことができます。
まずはご自身の保険に弁護士費用特約がついているかどうか、確認してみましょう。

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交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介
まとめ|10対0でも示談は簡単ではない
10対0の物損事故では、相手側の責任が明確だからといって、必ずしもスムーズに示談が進むとは限りません。
修理費や代車費用、レッカー代といった費用が適切に反映されているか、自ら確認する姿勢が大切です。
ポイント
- 示談金相場は損害の程度で異なる
- 評価損は条件を満たさないと支払われない
- 慰謝料は原則として支払われない
- 自分自身で示談交渉する必要アリ
- 弁護士への依頼も可能
弁護士費用特約を利用できる場合は、弁護士への相談・依頼にかかる弁護士費用の負担を軽減できます。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了