物損事故の示談の流れは?代車費用や評価損など示談金の内訳もわかる

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物損事故示談のポイント

新たに改正民法が施行されました。交通事故の損害賠償請求権に関するルールに変更があります。

物損事故の示談では、加害者側・被害者側の間で車の修理費や代車費用、評価損といった損害の補償額や過失割合について話し合います。原則として慰謝料や治療費は請求できません。

物損事故の示談はもめずに終わると思われがちですが、代車費用や評価損、過失割合はもめやすい項目です。

物損事故で請求できる損害賠償金の費目の内訳や相場、物損事故の示談ならではの注意点を確認しておきましょう。

物損事故の示談とは?人身事故の示談との違い

物損事故の示談は、人身事故の示談と違う部分があります。まずは、物損事故の示談がどのような点で人身事故の示談と違うのか見ていきましょう。

違い(1)示談の開始時期

物損事故の示談は、車の修理費や代車費用など事故による損害の金額がすべてわかってから始められます。

目安としては事故から1ヶ月程度となるでしょう。

一方、人身事故の場合は少なくとも治療が終わるまでは示談を始められません。

例えばむちうちの治療は平均で3ヶ月程度と言われているため、物損事故の示談は基本的に人身事故より早く始められるといえるでしょう。

示談交渉の準備・対策をする期間がそれだけ短いということでもあるので、弁護士への相談も視野に入れながら、示談金額・過失割合の算定や交渉テクニックの確認など、早めに準備に取り掛かかることが重要です。

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交通事故示談のテクニック7つ

物損事故の示談は時効にも要注意

交通事故の被害者には加害者に対して損害賠償請求する権利(損害賠償請求権)がありますが、この権利は時効が過ぎると消滅してしまいます。

よって、示談は損害賠償請求権の消滅時効までに成立させなければなりません。

物損事故の場合、時効が成立するのは事故翌日から3年後となっており、人身事故よりも短くなっています。

とくに滞りなく交渉が進めば、時効前に示談が成立することが多いです。

しかし、待っていてもなかなか示談交渉が始まらない、交渉が行き詰まって進まないという場合は、弁護士に相談するなどして時効がくる前に示談が成立するようにしてください。

違い(2)示談で話し合う内容

物損事故の示談では、主に「示談金の内訳・相場」について話し合います。

物損事故の示談金は車の修理費や代車費用などとなり、人身事故のように治療費や慰謝料は原則請求できません。

物損事故は人の死傷が生じていない事故を指すため、そもそも治療費は発生しません。また、慰謝料は人身被害に由来する精神的苦痛を補償するものであるため、原則として物損事故では請求できないのです。

物損事故の示談金には以下のような特徴があり、一般的には人身事故の示談よりも揉めにくいです。

  • 費目が少ない
  • 領収書などで金額を証明できるものが多く、人身事故の示談金より低額な傾向にある

しかし、それでも一部の費目については請求の金額が問題となったり、そもそも請求できるかどうかで争いになったりすることもあります。

物損事故の示談金の内訳やもめやすい費目については後ほど解説するので、続けてご確認ください。

過失割合も示談金額に影響する重要な要素

過失割合とは、交通事故が起きた責任が加害者側と被害者側それぞれにどれくらいあるかを割合で示したものです。

人身事故の示談同様、物損事故の示談でも過失割合について話し合われます。

過失割合は事故発生時の状況をもとに算定され、被害者側にも過失割合が付くとその割合分、受け取れる示談金が減額されます(過失相殺)。

たとえば、示談金が本来100万円だったとしても、被害者側に2割の過失割合が付いていると、実際に受け取れる金額は100万円から2割を引いた80万円になるのです。

物損事故の過失割合の一例は以下のとおりですが、実際には事故の細かい事情まで考慮して柔軟に算定されます。

過失割合の例

  • 追突事故
    追突車:被追突車=100:0
  • 交差点の出会いがしらでの直進車同士の事故
    左方車:右方車=40:60
  • 交差点での直進車と右折車の事故
    直進車:右折車=20:80
  • 道路外からの左折での進入車:直進車
    進入車:直進車=80:20

参考:「別冊判例タイムズ38」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)

加害者側は過失相殺を狙って被害者側の過失割合を多めに見積もっていることがあるので、提示された過失割合は鵜呑みにしないようにしましょう。

過失割合の詳しい決め方は『交通事故の過失割合とは?決め方と示談のコツ!事故パターン別の過失割合』をご覧ください。

物損事故の示談交渉の方法・流れ

物損事故に遭ったら、示談成立まで次の流れで対応していきます。

  1. 警察へ連絡など事故直後の処理
  2. 車の修理費の見積書などを加害者側に提出し、修理
  3. 加害者側から示談案が届き、交渉開始
  4. 示談書作成後、示談金が振り込まれる

それぞれのフェーズについて、さらに詳しく見ていきましょう。

(1)警察へ連絡など事故直後の処理

物損事故が起こったら、まずは警察に連絡を入れましょう。

警察に連絡を入れた後は、加害者との情報交換や警察での聞き取り捜査への協力などをおこなってください。

警察に連絡しないと道路交通法違反となり罰則が生じるだけでなく、加害者側への損害賠償請求・自身の保険への保険金請求で必要な書類が発行されません。

示談金や保険金の受け取りがスムーズに進まないおそれがあるので、まだ警察に届け出ていない場合は速やかに届出をしてください。

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(2)車の修理費の見積書などを加害者側に提出し、修理

物損事故によって車が壊れた場合は、まず修理費の見積りをとって、加害者側の保険会社に提出しましょう。

加害者側に見積もりを確認してもらう前に車を修理してしまうと、「この修理は必要なかった」「この傷は今回の事故によるものではない」などと言われて修理費の支払いを一部拒否される可能性があります。

よって、必ず見積書の内容を加害者側の保険会社に提出し、修理費・修理内容に問題ないことを確認したうえで、車の修理をしてください。

(3)加害者側から示談案が届き、交渉開始

車の修理費をはじめ、事故によって壊れた物とその物の修理費・弁償代などの確認がすべて取れたら、加害者側の保険会社から示談案が届きます。

示談案には示談金額、過失割合などが記載されているので、その内容をもとに、加害者側・被害者側が互いに合意できる内容になるよう交渉をしていきましょう。

交渉は対面で行われることは少ないです。通常、交渉は電話やメール、FAXなどを通して行われることが多いでしょう。

(4)示談書作成後、示談金が振り込まれる

示談が成立したら、加害者側の保険会社から、以下の内容を記載した示談書が届きます。

  • 当事者それぞれの氏名と住所
  • 事故車両の登録番号(ナンバープレート)
  • 事故の発生年月日
  • 事故の発生場所
  • 当事者それぞれの損害額と過失割合
  • 支払われる賠償金の金額、支払い方法、振込先
  • 清算条項(示談後の追加請求などを行わない約束)
  • 当事者それぞれの署名・捺印

内容に間違いがないかよく確認したうえで署名・捺印をして加害者側の保険会社に返送すると、2週間程度で示談金が振り込まれます。

なお、示談書に一度署名・捺印をすると、原則として示談内容の撤回・再交渉はできません。署名・捺印後に弁護士に相談したとしても、どうにもならないことも多いです。

よって、示談内容について少しでも疑問や心残りがあるのなら、署名・捺印する前に弁護士に相談することをおすすめします。

交通事故の示談書の書き方や注意して確認すべきポイントについては、『交通事故の示談書の書き方』の記事で紹介しているので、ぜひご一読ください。

加害者が無保険だと示談金支払に支障が出る可能性がある

加害者が任意保険に入っていれば、物損事故の示談金は加害者側の任意保険から支払われます。
よって、たとえ示談金が高額でも一括で滞りなく受け取ることが可能です。

しかし、加害者が任意保険に入っていない場合、示談金は加害者自身の負担によって支払われます。

加害者の資力によっては分割払いになるなどスムーズな支払いを受けられない可能性があるのです。

加害者が任意保険未加入だった場合は、確実に示談金を支払ってもらえるよう、示談書を公正証書にしたり、加害者に連帯保証人を立てさせたりすることが重要です。

物損事故で請求できる示談金の内訳と相場

物損事故で生じる損害は、自動車に関する損害と自動車以外の損害に大きく分けられます。

主な内訳は、以下の通りです。

物損事故の示談金

示談金の内訳
自動車の損害車の修理費/買い替え費
代車費用
車の修理中の交通費
評価損(格落ち)
休車損害
自動車以外の損害その他の物的損害の修理費や弁償代
慰謝料※
休業損害※

※ 物損事故で極めて例外的に認められる場合

それでは、内訳の各費目ごとに請求できる条件や相場を解説していきます。

物損事故の基本的な示談金の内訳・相場

車の修理費/買い替え費

物損事故で車が壊れたら、「車の修理費」や「買い替え費」を加害者側に請求できます。

車が修理できる場合は、買い替え費ではなく修理費を請求するのが原則です。
先述の通り、修理費については「この修理は事故によって必要になったものではないのではないか」などと疑われる可能性があるので、修理前に見積書を加害者側に確認してもらってください。

修理費が買い替え費よりも高額になったり、物理的に修理がむずかしかったりする場合は、買い替え費を請求しましょう。

修理費と買い替え費の違い

修理費修理できる場合は原則として修理費を請求する
基本的には実費を請求できる
買い替え費修理費より買い替え費の方が安い場合や、物理的に修理がむずかしい場合に請求する
買い替え費を限度額として請求できる

なお、買い替え費といっても、単純に買い替えにかかった金額を請求できるわけではありません。

壊れた車と同種・同程度・同価格の車を買い替え費の上限とし、「買い替え差額+買い替え諸費用」を請求するのが基本です。

車の買い替え費の内訳

  • 買い替え差額
    • 事故当時の車の時価-事故車の売却金
  • 買い替え諸費用
    • 登録費用
    • 車庫証明費用
    • 廃車費用
    • リサイクル費用
    • 自動車取得税
    • ディーラーに支払う手数料

つまり、事故車を売却しても回収しきれなかった赤字分と、新たに車を購入するにあたって必要になる諸費用が、買い替え費として支払われるということです。

代車費用

車の修理中に代車を借りた場合、「代車費用」を加害者側に請求できます。実際に代車を使用したことが前提条件です。

個別の事情で異なりますが、基本的には修理の場合で1~2週間程度、買い替えの場合で1ヶ月程度の代車費用が認められるでしょう。

代車の利用中も事故に遭う可能性はあります。代車を借りたレンタル業者などに任意保険の有無を事前に確認しておき、十分に注意して運転しましょう。

なお、代車のガソリン代は加害者側に請求できません。

事故にあわず自身の車を運転し続けてた場合でもガソリン代は生じるものなので、事故による損害とは認められないのです。

車の修理中の交通費

車の修理中、代車を借りずに別の公共交通機関を使って移動した場合、その分の「交通費」を加害者側に請求できます。

ただし、代車費用で認められる金額が上限となる点に注意してください。

評価損(格落ち)

車に修理歴や事故歴、修理しきれない傷跡などが残った場合、車の価値に対する賠償金として「評価損(格落ち)」を加害者側に請求できます。

2つの評価損

内容
技術上の評価損車の性能・機能・外観に修理できない損傷が残って価値が下がること
取引上の評価損たとえ車の性能や機能が修理で回復しても、事故歴・修理歴があることで取引上の価値が下がること

技術上の評価損に関しては一定程度認められる傾向にありますが、取引上の評価損に関しては原則的に認められにくくなっています。

評価損の相場は車の修理費の10%~50%とされることが多いですが、必ずしも認められるとは限りません。

また、全損の場合、評価損は請求できないので注意してください。

休車損害

車を修理に出すことで営業できなくなった場合、その損害を補償するものとして「休車損害」を加害者側に請求できます。

営業車やタクシーなど、営業のために不可欠な車を修理に出した場合に請求可能です。
休車損害は、以下の式で計算されます。

休車損害の計算式

(1日当たりの平均売上額-経費)×休業日数

ただし、他の車を代用して営業ができた場合、休車損害は請求できません。

その他の物的損害の修理費や弁償代

自動車以外にも、物損事故によって壊れた物がある場合は、その「修理費や弁償代」を加害者側に請求できます。

物損事故ではペットの被害も物損被害と考えられるので、ペットの治療費なども請求可能です。

例外的に請求できる場合がある費目|慰謝料・休業損害

慰謝料や休業損害は、物損事故の場合は原則として請求できません。
ただし、極めて例外的ではあるものの、慰謝料や休業損害を請求できる場合もあるので解説します。

物損事故で慰謝料が認められる例外

交通事故の損害賠償金として有名なものが「慰謝料」ですが、慰謝料は物損事故では原則として請求できません。

慰謝料は、「身体的被害によって生じる精神的苦痛」に支払われるものですが、物損事故では身体的被害は生じないからです。

ただし、以下のような例外的なケースでは、物損事故で慰謝料が認められた事例もあります。

  • ペットに重大な被害が生じた
  • 墓石が損壊した
  • 家屋がひどく損壊した
    など

物損事故で慰謝料が認められるケースについて詳しくは、関連記事『物損事故で慰謝料がもらえた事例|原則もらえない理由と獲得を目指す方法』を確認してみてください。

物損事故で休業損害が認められる例外

「ケガのために仕事ができなかった日の収入」を補償する休業損害も、ケガが生じていないはずの物損事故では原則として請求できません。

もっとも、実務上はケガをしていても物損事故のまま処理をすすめるケースもあり、ケガの存在が認められれば休業損害の請も可能ではあります。

しかし、請求がスムーズに進まない恐れもあるため、ケガによる休業が生じるのであれば物損事故を人身事故として届け出直した方がいいでしょう。

届け出直した時点で事故から時間が経ちすぎていると、事故とケガとの関連性があいまいになり、人身事故に切替えられない可能性があるので注意してください。

人身事故への切り替え手続きについては、関連記事『交通事故であとから痛みが出てきたらどうする?』が参考になります。

ケガしたのに物損事故にしている方へ

物損事故のまま処理をすすめているものの、実は交通事故でケガを負ったという方もいるでしょう。交通事故でケガしたのであれば当然、慰謝料や休業損害を請求できます。

早急に物損事故から人身事故へ切り替えましょう。

ケガをしたのに加害者側の保険会社が慰謝料や休業損害を提示してこない、提示していも低額だと感じる場合は弁護士にご相談ください。

アトム法律事務所では、慰謝料増額の可能性について弁護士による無料相談を実施中です。詳しくは「交通事故の無料相談」ページをご覧ください。

物損事故の示談でもめやすい項目(1)評価損

人身事故よりも比較的示談で揉めにくい物損事故ですが、それでももめやすい項目はあります。

その1つが評価損です。詳しく見ていきましょう。

評価損は必ずしも認められるとは限らない

評価損は、必ずしも請求が認められるとは限りません。請求の可否を巡って加害者側と争いになることは十分に考えられます。

評価損が認められやすいのは、事故にあった車の市場価格がもともと高い場合です。以下のような場合は一般的に市場価値が高く、評価損が認められやすいでしょう。

評価損が認められやすいケース

  • 高級車だった
  • 新車登録から間もなかった
  • 走行距離が少なかった

高級車かつ、新車登録から間もなく走行距離が少なかったことで評価損が認められた判例を紹介します。

評価損が認められた判例

日産・GTRプレミアムエディション(国産限定スポーツカー、初度登録後3ヵ月、走行距離945㎞、新車購入価格834万円余)につき、リアフェンダーを修理した後もトランク開口部とリアフェンダーの繋ぎ目のシーリング材の形状に差があるなど、事故前と同じ状態には戻らなかったとして、リアバンパーの損傷等の修理費の50%相当の70万7739円の評価損を認めた

東京地判平23.11.25 自保ジ1864・165

評価損の計算方法は4通りある

評価損には、確立された算定方法がありません。この点も、評価損が示談時にもめやすい費目とされる理由の1つでしょう。

評価損の算定で用いられることが多いのは、以下の方法です。

  1. 実際に要した修理費の1~3割程度を目安にする方法
  2. 車種・初年度登録から経過した年数・走行距離・事故による損傷部位・事故当時の価格などから総合的に判断する方法
  3. 事故前の売却予定額と、事故後の売却見込額の差額から判断する方法
  4. 日本自動車査定協会に査定してもらった「事故減価額証明書」から判断する方法

示談交渉では、上記1つ目の修理費を目安にする方法が一般的です。また、訴訟に発展した場合、裁判官は上記2つ目の総合的に判断する方法を用いるといわれています。

対策|評価損の請求では弁護士を立てた方が良い

評価損の証明には、日本自動車査定協会の審査員による「事故減価額証明書」を提示すると良いでしょう。

ただし、この証明書があるだけでは不十分です。協会の査定の根拠として、準備書面・査定基準・陳述書などでより詳しく評価損について説明する必要もあります。

また、一般的には示談で評価損を請求するのは困難であることが多いです。裁判を起こせば評価損が認められる可能性がありますが、示談でも弁護士を立てていれば評価損が獲得できることがあります。

裁判となると時間や労力がかかるため、一度弁護士に相談することをおすすめします。

物損事故の示談でもめやすい項目(2)代車費用

代車費用も、示談時にもめやすい項目だと言えます。なぜもめやすいのか、どう対策すればよいのか見ていきましょう。

代車の必要性・金額の相当性が問題になりやすい

代車費用は示談の際、必要性や金額の相当性が争いになりやすいです。それぞれに関して解説していきます。

代車の必要性について

代車の必要性については、例えば以下のようなケースでは「代車を借りる必要があったとは言えない」として代車費用が認められない可能性が高いです。

  • 週末しか車を使わないなど、車の使用頻度が低い場合
    (代車が必要になった日数分の費用しか請求できないこともある)
  • タクシーや電車などで対応でき、必ずしも代車が必要だといえない場合

また、代車が修理工場やディーラーから無償で提供されていた場合は代車費用は請求できません。

一方、業務で車を使用している場合、代車の必要性は認められやすいです。日常生活で車を使用している場合は、車を使用する頻度や必要性に応じて判断が分かれるでしょう。

代車の金額の相当性について

代車費用は、原則として必要なぶんしか認められません。

例えば修理に出した車よりもグレードの高い高級車を借りた場合、「代車がそこまで高級である必要はない」として代車費用の一部が補償されない可能性が高いです。

基本的には修理に出した車と同程度のグレードの代車を借りてください。

ただし、修理に出した車が高級車の場合は、同程度ではなく下のグレードの代車を借りるべきでしょう。

代車費用は交通手段を代替的に提供するための補償なので、代車まで高級車である必要はないと考えられるからです。

対策|代車の必要性の吟味と車両保険の利用がポイント

示談の際に代車費用で揉めることを避けるには、過度に高級な代車を借りないことがポイントです。

不安であれば修理費の見積もりを加害者側に提示する際に、どの程度の代車費用であれば良いのか確認しておくと良いでしょう。

なお、代車費用を立て替える際は車両保険(代車特約)を使っておくこともおすすめです。

車両保険を使っておけば、もし代車費用の一部が補償されなくても自己負担金が軽減されます。

ただし、保険の利用により翌年からの保険料が上がる場合もあるので、その点も踏まえて保険を使うかどうか検討してみましょう。

物損事故の示談で弁護士に相談すべきケース

物損事故の示談で弁護士に相談すべきケースとしては、以下の3つが挙げられます。

  • もらい事故など自分で示談交渉が必要な場合
  • 過失割合でもめている場合
  • 人身事故への切り替えが必要な場合

各ケースについて見ていきましょう。

(1)もらい事故など自分で示談交渉が必要な場合

交通事故の示談交渉は、自身の加入する任意保険の担当者に任せることができます。
これを「示談代行サービス」といいます。

しかし、追突事故などの「もらい事故」で被害者側の過失が0の場合は、示談代行サービスを利用できません。
保険会社が「過失割合0の被保険者の代理人」として示談交渉をすることは、非弁行為として弁護士法で禁止されているのです。

よって、被害者側の過失が0の場合には、被害者が自分で示談交渉に対応する必要があります。

しかし、多くの場合で交渉相手となる加害者側の任意保険会社は、示談交渉経験も専門知識も豊富であり、被害者側は不利であると言わざるを得ません。

加害者側の任意保険会社との示談交渉に不安がある場合や、交渉がうまく進まない場合は、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

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(2)過失割合でもめている場合

物損事故の示談金は領収書などで疑いなく金額を証明できる費目が多いです。よって、本記事で解説したとおり評価損や代車費用などで揉める場合もありますが、過失割合についてもめる可能性も高いです。

  • 示談金額
    物損事故の場合は、領収書などで金額が証明できる費目がほとんどなので、交渉の余地がないことが多い。
  • 過失割合
    明確な答えはなく、最終的に示談交渉次第となる。
    そのため、少しでも支払う示談金額を減らしたい加害者側にとっては重要な交渉ポイントとなる。

加害者側が提示してくる過失割合は、被害者側のものが多く見積もられていることがあります。

そのまま受け入れてしまうと不当に大幅に示談金が減額されてしまうので、必ず被害者側でも過失割合を算定し、適切な内容になるよう交渉しましょう。

過失割合は過去の判例や専門知識を踏まえて算定していく必要があるので、被害者自身で算定するのではなく、弁護士に相談してみることをおすすめします。

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(3)人身事故への切り替えが必要な場合

事故によってケガをしており、物損事故を人身事故に切替える場合も、弁護士に相談することがおすすめです。

人身事故の場合、物損事故で請求できる費目に加え、慰謝料・休業損害・逸失利益なども請求できます。

すると、以下の点から加害者側と示談交渉でもめやすくなるのです。

  • これらの費目は計算式を工夫することで低額にしやすいため、加害者側は低めの金額を提示してくる
  • これらの金額は示談金の中でも高額になりやすいため、加害者側の交渉態度がシビアになりやすい

被害者自身の交渉でも、示談金を多少増額させることはできます。しかし、増額の余地を残さないようにするには弁護士を立てることが重要です。

自力で最大限の増額は難しい?

自力で示談交渉をして示談金を最大限に増額させることは、以下の点から難しいと言わざるを得ません。

  • 示談交渉の経験や示談金に関する知識は、加害者側の保険会社の方が圧倒的に豊富
  • 加害者側の保険会社は社内の方針として、被害者が交渉にあたる場合と弁護士が出てきた場合とで許容額に差をつけていることがある

もらい事故でなければ、示談交渉を自身の保険担当者に任せることも可能です。しかし、その場合でも、以下の点から最大限の示談金増額は難しいでしょう。

  • 保険会社同士での交渉となるため、これまで・これからの関係性を考えて交渉が甘くなる場合がある
  • 保険担当者は交渉のプロではあるが、「弁護士」という資格を持っているわけではないので、弁護士が主張するような最大限の金額を主張しても相手方に認めてもらえない

こうした点から考えても、やはり最大限の示談金額を得るには交渉時に弁護士を立てることが重要です。

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まとめ

物損事故では、壊れた車や物の修理費・代車費用・評価損などを中心とする費目が請求できます。

人身事故に比べると、物損事故では領収書などで明確に確認できる費目が多い分、示談金額をめぐって加害者側と争いになることは少ないです。しかし、評価損や代車費用のような比較的もめやすい費目もありますし、示談金額に影響する過失割合についてはもめる可能性もあります。

また、事故でケガをしていて人身扱いに変更する場合は、高額かつもめやすい費目が示談金に加わるため、示談交渉が難航するリスクが出てきます。

過失割合でもめた場合や人身扱いに変更する場合などは特に、弁護士に相談・依頼してみることを検討しましょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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