物損事故で慰謝料がもらえた事例|原則もらえない理由と獲得を目指す方法
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身体的被害のない物損事故では、原則として慰謝料はもらえません。交通事故の慰謝料は、身体的被害による精神的苦痛に対する賠償金です。そのため、物的被害しか発生していない物損事故では、慰謝料の対象にはなりません。
ただし、ペットの死亡・墓石・芸術品・家屋の損壊や、物損事故扱いのまま通院したケースなど、例外的に慰謝料が認められた裁判例は存在します。
この記事では、物損事故でも例外的に慰謝料がもらえた具体的な事例や、物損事故でも慰謝料獲得を目指したい場合にすべきことを解説していきます。
目次
物損事故では原則として慰謝料はもらえない
物損事故で慰謝料を請求できるかどうかは、多くの被害者が最初に抱く疑問です。まずは法律上の基本ルールを整理しておきましょう。

慰謝料がもらえるのは原則として人身事故のみ
身体的被害のない物損事故の場合、原則として慰謝料はもらえません。
交通事故の慰謝料は3種類ありますが、いずれも「身体的被害から生じる精神的苦痛」に対して支払われる金銭だからです。
身体的被害のない物損事故においては、これら3つのいずれにも該当しないため、基本的に慰謝料はもらえないのです。

交通事故の慰謝料が補償する精神的苦痛の具体的な内容は、『交通事故の精神的苦痛で請求できる慰謝料は?』で解説しています。
物損事故での精神的苦痛は修理費・弁償代で補償される
物損事故では、被害者の精神的苦痛は修理費や弁償代などの原状回復によって補償されると考えられています 。
しかし実際には、車をぶつけられたときの恐怖や加害者への怒りなど、物の修理では到底癒えない苦痛も生じます。
残念ながら、こうした感情的な苦痛に対する補償は、物損事故の枠組みでは原則認められていないのが現状です。
ペットの被害も物損として扱われる
交通事故においては、ペットの被害も物損被害として扱われます。そのため、交通事故によってペットが死傷した場合には、治療費やペットの購入費が支払われます。
飼い主がどれほど深い精神的苦痛を受けていても、飼い主自身が身体的被害を負っているわけではないため、慰謝料の請求は原則として認められません。
またペット自身への慰謝料も、慰謝料が「身体的被害を受けた人間の精神的苦痛」に対して支払われるものである以上、認められないのが現状です。
物損事故でも慰謝料がもらえた事例
先述の通り、身体的被害がない物損事故では、原則として慰謝料は請求できません。
しかし、物損事故でも、実際にはケガをしていたケースや家屋の損害、ペット・墓石・芸術品に関して慰謝料が認められた事例もあります。
それぞれのケースにおける実例や、慰謝料が認められた理由を見ていきましょう。
事例(1)物損事故でもケガをして治療・通院した
警察に物損事故として処理されていても、ケガをしていて治療・入通院したのであれば、人身事故と同じように慰謝料がもらえる可能性が高いです。
物損事故(物件事故)扱いのまま通院。慰謝料が認定された事例
神戸地判令6・3・27(令和3年(ワ)2173号)
運送業従事者の男性が駐車場からの右折進入車両に追突された。事故現場で「車の修理をきちんとしてくれたら良い」と話し、当初、物件事故として届け出た。しかし事故翌日から首や頭の痛み、右腕や右膝に力が入らない感覚を覚え、倉庫作業を中止して事務作業に変更。その後約1年間通院治療を受けた。
裁判所の判断
「…本件事故については、当初物件事故として届け出られた」
神戸地判令6・3・27(令和3年(ワ)2173号)
- 物件事故扱いだったが人身損害を認定
- 右膝捻挫、右肩捻挫、頸椎捻挫の受傷を認定
- 過失相殺・既払金控除後:83万6,424円を認容
慰謝料
110万円
ただし、警察が最初に「物損事故」として処理していると、保険会社が「物損事故扱いなので慰謝料は原則認められない」と対応するケースもあり得ます。示談交渉で確実かつスムーズに慰謝料を受け取りたい場合は、警察で事故を人身事故として届け出直すことが望ましい対応となります。
詳しくは『物損事故でも治療費は出る?念のために行った病院代が補償されるケースと対応方法』の記事もあわせてご覧ください。
事例(2)家屋が壊され生活場所の変更を余儀なくされた
加害者の車が被害者宅に衝突して家屋が損壊した場合、被害者は家が直るまでの間、別の場所での生活を余儀なくされます。
この場合、友人・知人・親族の家で気を遣いながら生活したり、住み慣れない場所で生活したりするストレスなどが考慮され、慰謝料が支払われるケースがあります。
大型トラックの家屋への衝突事故で慰謝料認定の裁判例
神戸地判平13・6・22(平成12年(ワ)268号)
深夜、運送会社の10トントラックが県道から飛び出し、県道沿いの木造2階建て住宅に衝突。家屋の1階北側部分約9.8坪が損壊し、住人(所有者とその妻、老齢の母)が修繕中、アパート生活を余儀なくされた。人身損害が無く、家屋の修繕だけでも、慰謝料を請求できるかが争点となった。
裁判所の判断
「…精神的苦痛に対する慰謝料は、各三〇万円が相当である。」
神戸地判平13・6・22(平成12年(ワ)268号)
- 家屋の損壊程度が大きく、住人らは住み慣れた家を離れて半年間もの間、アパート暮らしを余儀なくされた
- 住人の一人は老齢であり、心労や生活上の不便、不自由さは相当のものであったと考えられる
- 家屋の修復工事のため借財するなど、住人らは事故後の処理に奔走した
慰謝料
住人3人に対して各30万円
事例(3)家族同然のペットが重傷・死亡
ペットの被害は基本的には物損被害として扱われるため、慰謝料の対象にはなりません。
しかし、被害者にとって家族同然の存在であったペットに重い後遺障害が残ったり死亡したりして、被害者が特に大きな精神的苦痛を受けていることが認められれば、例外的に慰謝料が支払われる可能性はあります。
実際に慰謝料がもらえた判例は、次の通りです。
愛犬が交通事故で重傷を負った場合の慰謝料認定事例
名古屋高判平20・9・30(平成20年(ネ)483号)
大型貨物車が普通乗用車に追突し、乗用車の後部座席に犬用シートベルトなどの固定具を着けずに乗せていた飼い犬(購入価格6万5000円)が第2腰椎圧迫骨折により後肢麻痺となった。子供のいない夫婦が我が子のように愛情を注いで飼育していた愛犬の受傷について、慰謝料請求が争点となった。
裁判所の判断
「…愛玩動物…が不法行為により重い傷害を負ったことにより、死亡した場合に近い精神的苦痛を飼い主が受けたときには、…慰謝料を請求することができる」
名古屋高判平20・9・30(平成20年(ネ)483号)
- 子供のいない夫婦が我が子同然に愛情を注いで飼育していた状況を考慮
- 後肢麻痺により日常的な排泄介護が必要となり、膀胱炎・褥瘡(じょくそう)も併発
- 介護の内容、程度等から死亡した場合に近い精神的苦痛を受けているといえる
- 犬の固定措置を怠った過失により1割の過失相殺
慰謝料
飼い主夫婦それぞれ20万円
事例(4)墓石や芸術品など精神性の高い物が損壊
墓石や、被害者が制作したこの世に一つしかない芸術作品が壊れた場合は、壊れた物の性質上、慰謝料が支払われることがあります。
たとえば自作の芸術品が壊れ、慰謝料が認められた事例としては、以下のものがあります。
陶芸家の代表作を破損した事故で慰謝料認定の裁判例
東京地判平15・7・28(平成12年(ワ)27114号)
現代美術の陶芸家が自宅と隣家の間に保管していた陶芸作品「無題一九九一」の陶板46個が、普通乗用車のコンクリート塀への衝突事故で15枚以上破損。作品は県立美術館の委託で制作され、美術展にも出展された代表作だったが、10年間屋外で風雨にさらされた状態で保管されていた。陶板の破損について、慰謝料が認められるかが争点となった。
裁判所の判断
「…主観的精神的価値を認めることができるので、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は、本件事故による損害賠償の対象となる」
東京地判平15・7・28(平成12年(ワ)27114号)
- 当該作品は、被害者がプロの芸術家として認められた記念碑的作品と言える
- 制作期間・工程から考えて、被害者が多大な労力をかけて制作した思い入れのある作品と言える
- 加害者の一方的な過失による事故で損壊され、復元は不可能である
損害賠償額
100万円
墓石損壊事故で慰謝料が認定された事例
大阪地判平12・10・12(平成12年(ワ)1207号)
霊園でレンタカーが墓石に乗り上げ倒壊させ、埋設されていた骨壺が露出する事態が発生。墓石所有者が修復費約287万円に加え、精神的苦痛を理由に慰謝料20万円を請求。墓石損壊について、慰謝料が認められるかが争点となった。
裁判所の判断
「…侵害された物及び場所のそのような特殊性に鑑みれば、これを侵害されたことにより被った精神的苦痛に対する慰謝料も損害賠償の対象になる」
大阪地判平12・10・12(平成12年(ワ)1207号)
- 墓石は「先祖や故人が眠る場所として、通常その所有者にとって、強い敬愛追慕の念を抱く対象」として特殊性を認定
- 物損事故でも墓石の場合は慰謝料を認める
- 骨壺露出による精神的苦痛を具体的に評価
慰謝料
10万円
物損事故で請求できる損害賠償の種類
物損事故では原則として慰謝料の請求はできませんが、物損事故では多くの財産的損害を請求できます。請求漏れをなくすことが、結果的に十分な賠償を受け取るための鍵となります。
| 請求項目 | 内容と金額の目安 |
|---|---|
| 車の修理費用 | 事故で損傷した車を修理するための費用。実際の修理費用の見積額を請求するのが基本。修理不可能(全損)な場合は買い替え費を請求できる。 |
| 格落ち損(評価損) | 事故車扱いになることで車両価値が下がった分の損害。初年度登録からの年数・走行距離・損傷部位・購入価格などを総合考慮し、比較的新しい車や高級外車で認められやすい。 |
| 代車費用 | 修理期間中・車の買い替えに伴う納車までの代車料。2週間〜1か月程度が目安。同クラス車両のレンタル料が相場。高級外車は国産高級車のレンタル料に限定されることが一般的。 |
| 休車損害 | タクシーや社用車が修理で営業できない期間の損害。事故がなければ得られた利益からガソリン代等の経費を差し引いた金額。代車で営業可能な場合は請求不可。 |
| 損傷物の費用 | 設備・建物・荷物・ペットの治療費など、車以外の損壊物の修理費・弁償代。 |
物損事故で請求できる損害賠償金の項目については、『物損事故の示談の流れと示談金相場|交渉時の注意点』でさらに詳しく解説しています。
注意
物損事故の損害賠償請求では、加害者側の自賠責保険からは補償を受けられません。損害賠償金は全額、任意加入である任意保険会社から支払われます。
この場合、加害者が任意保険未加入なら賠償金は全額加害者から支払われることになり、以下のリスクが生じます。
- 賠償金を支払いたくない加害者が示談に応じない
- 加害者が賠償金を期日までに支払わない
こうしたトラブルの対策は『交通事故の相手が無保険でお金もない?泣き寝入りしないための賠償請求・対策法』で解説しています。
ケガで通院している場合は人身事故への切り替えが無難
事故直後はケガの自覚がなく物損事故として処理したものの、後から痛みが出て通院しているというケースは少なくありません。この場合、物損事故から人身事故へ切り替えるのが無難です。
人身事故の届出をしたほうがよい理由
- 慰謝料の請求可否について争わずに済む可能性が高まる
後から「物損扱いだったから慰謝料は払えない」と主張されるリスクを防ぐことができます。 - 過失割合の重要な証拠となる「実況見分」が行われる
実況見分調書は人身事故の届出をした場合にのみ作成され、過失割合の認定に役立ちます。
物損事故のままでも、加害者側の保険会社が被害者のケガを認めれば慰謝料請求は可能です。しかし、ケガを交通事故によるものと認めてもらえる保証はないため、人身事故に切り替えておいた方が良いでしょう。
なお、人身事故で請求できる費目は、『交通人身事故の賠償金・慰謝料の相場と計算方法!物損事故との違いは何?』で詳しく解説しています。
物損事故を人身事故に切り替える方法
物損事故を人身事故に切り替える際は、医療機関を受診して診断書を取得し、事故を管轄する警察署で人身事故への切り替え手続きを申し出ることで行うことができます。
ただし、事故から時間が経ちすぎていると、事故とケガの因果関係がわかりにくくなり、人身事故への切り替えが受理されない可能性があります。可能な限り10日以内に行いましょう。
切り替えを警察に拒否されなければ、おおよそ数週間で物損事故から人身事故への切り替えができます。
物損事故から人身事故への切り替えや警察に切り替えを拒否された場合の対処法については『物損から人身へ切り替え│デメリットは?変更期間や拒否の対処法も解説』の記事で詳しく解説しています。
通院した場合の入通院慰謝料の相場
通院した場合、期間や日数に応じて入通院慰謝料が認められます。算定には3つの基準があり、用いられる基準により金額が大きく異なります。
慰謝料の算定基準
- 自賠責基準
自賠責保険が慰謝料の金額を算定する際に利用する算定基準 - 任意保険基準
任意保険会社が慰謝料の金額を算定する際に利用する算定基準 - 弁護士基準(裁判基準)
裁判所が裁判において慰謝料の金額を算定する際に利用する算定基準
たとえば、むちうちで3か月通院した場合、自賠責基準では約25万8,000円ですが、弁護士基準では約53万円が目安となります(実通院日数30日を想定)。
具体的な金額は事案により異なるため、通院期間が長期化する場合や後遺症が残る場合は弁護士に相談されることをおすすめします。
物損事故で慰謝料請求をしたい場合のポイント
事例で見たように、身体的被害のない物損事故であっても慰謝料請求ができるケースは存在します。
しかし、あくまでも「物損事故では慰謝料は請求できない」というのが原則であるため、物損事故での慰謝料請求は簡単ではありません。
ここからは、身体的被害のない物損事故で慰謝料請求をしたい場合のポイントを順に解説します。
(1)事故状況の証拠を確保する
事故時の状況を示す証拠は、可能な限り確保しておきましょう。物損事故では警察による実況見分調書は作成されないので、被害者側で以下のような証拠を集めてください。
- 事故車に搭載されていたドライブレコーダーの映像
- 目撃者の証言
- 事故発生直後の車体や事故現場の写真
- 交通事故鑑定人による報告書
(2)判例と精神的苦痛の証拠を集める
物損事故として処理されたまま慰謝料請求する場合は、以下の準備が重要です。
- 事前に同様の事故で慰謝料が認められた判例
- 被害者が受けた精神的苦痛の大きさを示す証拠
物損事故として処理したまま入通院慰謝料などを請求する場合は、事故とケガとの関連性を示す証拠なども用意しておきましょう。たとえば事故時の状況を示す証拠と診断書、医師の意見書などを揃えることがおすすめです。
物損事故に関するよくある質問
Q.自転車との物損事故でも同じように損害賠償を請求できますか?
自転車との物損事故でも、自動車同士の事故と同様に修理費等の損害賠償を請求することができます。
ただし自転車には自賠責保険のような強制加入の保険制度がないため、加害者が個人賠償責任保険などに加入していないと、賠償金の回収が困難になるケースがあります。
一部の自治体では自転車保険の加入が義務化されており、加害者の加入状況を確認することが回収可能性の判断材料となります。
Q.過失割合に納得できない場合はどうすればよいでしょうか?
過失割合に納得できない場合は、事故状況を裏付ける証拠(ドライブレコーダー映像・実況見分調書・目撃証言など)を集めたうえで、相手方保険会社に再交渉を求めることができます。
それでも解決しない場合は、交通事故紛争処理センターの利用や、弁護士に依頼して訴訟・調停を行う選択肢があります。
Q.当て逃げ事故で加害者が見つからない場合、修理費などはどうなりますか?
当て逃げ事故の場合は、加害者が見つかるまで修理費や代車料などの費目を加害者に請求することができず、被害者自身で負担しなければなりません。
ご自身が加入している自動車保険の車両保険を使うことで負担を減らせる可能性があります。
ただし、車両保険の使用は等級ダウンによる翌年以降の保険料増額につながるため、修理費の金額と保険料への影響を比較して判断することが大切です。
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・当て逃げされた場合の対処法!被害届の出し方や慰謝料・示談についても解説
物損事故で慰謝料請求するなら弁護士に相談
物損事故の場合、慰謝料請求は原則として認められません。しかし、本記事で紹介したとおり、過去には例外的に慰謝料が認められた判例も存在します。
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弁護士費用特約が持つ3つの大きなメリット
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弁護士費用特約が持つ3つのメリット
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特約がない?家族の保険や火災保険も確認ください
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律税務グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
