交通事故|人身事故の賠償金相場と計算方法!物損事故との違いは何?
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この記事では、人身事故の被害者に向けて、損害賠償金の相場や内訳、より多額の損害賠償金を得るためのポイントについて解説しています。
人身事故の被害者の中には、以下のような状況にある方もいらっしゃいます。
- 加害者から物損事故として届け出るよう頼まれた
- 物損事故として届け出た後にケガが発覚した
- 人身事故と物損事故の賠償金の違いを知りたい
上記のようなお悩みを持つ方に向けて、人身事故と物損事故はどう違うのか、物損事故から人身事故への変更は可能なのかということについても解説しています。
目次

人身事故の賠償金の種類と金額は?
人身事故の損害賠償金|内訳と計算機
交通事故により死傷者生じた場合には、人身事故として扱われます。
被害者は人身事故において、以下の賠償金を加害者側に請求できます。
治療関係費 | 治療費、入院費、入院雑費、看護費、介護費、通院のための交通費など。 |
慰謝料 | 交通事故により被害者が受けた精神的苦痛に対する補償。 入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料がある。 |
休業損害 | 交通事故により休業したことで生じる減収に対する補償。 |
逸失利益 | 交通事故により減った生涯年収に対する補償。 後遺障害を負った、または、死亡した場合に請求可能。 |
物損の賠償金 | 車両の修理費、評価損、代車費用、休車費用など。 |
なお、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益は、人身事故により後遺症が残り、後遺障害等級が認定された場合のみ請求が可能です。
上記の損害賠償金のうち、慰謝料と逸失利益については以下の計算機から金額を確認できます。
ただし、この計算機でわかるのは示談交渉で弁護士を立てた場合の相場額であること、実際にはさまざまな要素を考慮して、金額が増減する可能性がある点にはご注意ください。
人身事故の賠償額を知るためのポイント4つ
これから人身事故の賠償金について解説していきますが、事前に以下の4つの点について、頭に入れておいてください。
- 慰謝料や休業損害には、複数の計算方法がある
- 人身事故の賠償金は、事情に応じて相場よりも増額されることがある
- 人身事故の賠償金は、過失割合によって減額されることがある
- 物損事故の賠償金には、治療関係費や慰謝料は含まれない
上記4つのポイントについては、この記事の中で詳しく解説していきます。
まずは、人身事故における賠償金の計算方法から確認していきましょう。
人身事故における賠償金の計算方法
人身事故の賠償金(1)慰謝料3つの計算方法と増額事由
まずは、人身事故の損害賠償金の中でも慰謝料の計算方法を解説していきます。
ただし、慰謝料には3つの計算基準があり、それぞれで計算方法が違うので、まずはその3つの基準について確認しておきましょう。
人身事故の賠償金計算には3つの計算基準がある
人身事故における損害賠償金を計算する計算基準には、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準という3つの基準があります。
自賠責基準 | 交通事故の被害者が最低限もらえる金額基準 |
任意保険基準 | 示談交渉で加害者側の任意保険会社が提示してくる金額基準 |
弁護士基準 | 示談交渉で被害者側弁護士が主張する金額基準 裁判基準とも呼ばれ、相場の金額が算出される |

実際に交通事故の被害者が受け取れる慰謝料・休業損害の金額は、示談交渉により任意保険基準~弁護士基準の間になります。
任意保険基準に近い金額になるか、弁護士基準に近い金額になるかは交渉次第です。
ただし、任意保険基準の計算方法は各社で異なり非公開となっています。
この後紹介する慰謝料の計算方法でも任意保険基準は割愛しますが、金額は自賠責基準と同じくらいか少し上乗せした程度であることが多いので、目安にしてみてください。
ここからは、人身事故の3つの慰謝料の計算方法を紹介していきます。
人身事故の慰謝料については、『人身事故の慰謝料を多くもらうための計算方法』の記事でも解説しているので、あわせてご覧ください。
(1)入通院により生じる慰謝料|入通院慰謝料
交通事故による入通院で受けた精神的苦痛に対して請求できるのが、「入通院慰謝料」です。
入通院慰謝料の金額は、自賠責基準であれば計算式で、弁護士基準であれば「入通院慰謝料算定表」という表を使って算定されます。
自賠責基準の場合
自賠責基準での入通院慰謝料計算
4,300円×対象日数
※2020年3月31日以前の事故については、4300円ではなく4,200円
対象日数は、次の2つのうち少ない方を適用
- 治療期間
※治療期間とは、一番最初に病院を受診した日~治療終了までの期間をさす - 実際に治療した日数×2
対象日数については、「7日加算」といって、実際の対象日数にさらに7日を加算して考える場合もあります。
自賠責保険の慰謝料の相場や計算方法について知りたい方は、関連記事を役立ててください。
自賠責保険の慰謝料がわかる記事
弁護士基準の場合
弁護士基準では、入通院慰謝料算定表を用いて入通院慰謝料を計算します。入通院慰謝料算定表には、軽傷用と重傷用の2種類があり、以下の通りです。
軽傷用の入通院慰謝料算定表
むちうちや打撲うなどの軽傷で使う

重傷用の入通院慰謝料算定表
軽傷に該当しない場合に使う

入通院慰謝料の増額事由
入通院慰謝料は、次の場合には増額される可能性があります。
- 仕事や子育てなどやむを得ない事情で入通院期間を短縮した
- 加害者の態度が不誠実
また、ギプスでの自宅待機期間があった場合には、その期間を入院日数として数える場合もあります。
詳しくは『通院のみなら交通事故慰謝料はいくら?』の記事をご覧ください。
なお、通院頻度が低いと減額されてしまう場合もあります。通院頻度は最低でも月1回以上として、可能であれば月10回以上、定期的に通院しましょう。
(2)後遺障害を負った場合の慰謝料|後遺障害慰謝料
交通事故で後遺障害を負った場合には、後遺障害委の症状による精神的苦痛に対して後遺障害慰謝料が請求可能です。
後遺障害慰謝料を受け取るためには、次の2つの条件を満たす必要があります。
- 交通事故により後遺症が残った
- その後遺症に対して後遺障害等級が認定された
後遺障害慰謝料の金額は後遺障害等級ごとに定められていて、以下の通りです。
等級 | 自賠責* | 弁護士 |
---|---|---|
1級・要介護 | 1,650(1,600) | 2,800 |
2級・要介護 | 1,203(1,163) | 2,370 |
1級 | 1,150(1,100) | 2,800 |
2級 | 998(958) | 2,370 |
3級 | 861(829) | 1,990 |
4級 | 737(712) | 1,670 |
5級 | 618(599) | 1,400 |
6級 | 512(498) | 1,180 |
7級 | 419(409) | 1,000 |
8級 | 331(324) | 830 |
9級 | 249(245) | 690 |
10級 | 190(187) | 550 |
11級 | 136(135) | 420 |
12級 | 94(93) | 290 |
13級 | 57(57) | 180 |
14級 | 32(32) | 110 |
単位:万円
*()内は2020年3月31以前に起きた事故に対する金額
症状別の慰謝料相場金額についてくわしく知りたい方は、『交通事故の慰謝料相場|症状別の相場金額』の記事において確認可能です。
また、各後遺障害等級の認定基準や後遺障害等級の認定方法については、『【後遺障害等級表】認定される後遺症・症状の一覧と等級認定の仕組み』の記事をご覧ください。
後遺障害慰謝料の増額事由
後遺障害慰謝料は、次のような場合には増額される可能性があります。
- 加害者の態度が不誠実
- 植物状態など、死にも比肩するような後遺障害が残った
(3)死亡した場合の慰謝料|死亡慰謝料
交通事故により被害者が死亡した場合は、死亡による精神的苦痛に対して死亡慰謝料を請求することが可能です。
死亡慰謝料には、被害者本人分だけではなく遺族分の金額も含まれます。遺族とは、基本的には親、配偶者、子です。養父母や養子も含みます。
ただし、兄弟姉妹や内縁の妻でも、親や配偶者、子と同じくらい被害者と近しい関係で、その悲しみも深いと判断されれば、死亡慰謝料の対象となる場合があります。
自賠責基準の計算方法
まず自賠責基準の死亡慰謝料金額を紹介します。
自賠責基準では、死亡した被害者本人に対して400万円(2020年3月31日以前の交通事故であれば350万円)が支払われます。それに加えて、遺族の人数に応じて次の金額が支払われるのです。
遺族 | 死亡慰謝料 |
---|---|
1人 | 550万円 |
2人 | 650万円 |
3人以上 | 750万円 |
被害者に被扶養者がいる場合には、さらに200万円が上乗せされます。
弁護士基準の計算方法
続いて、弁護士基準での死亡慰謝料です。弁護士基準の場合は、以下の金額に被害者本人分の金額も遺族分の金額も含まれています。
被害者の立場 | 金額 |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親・配偶者 | 2500万円 |
その他の場合 | 2000万円~2500万円 |
死亡慰謝料の増額事由
弁護士基準の場合、一家の支柱で扶養家族が4人以上いる場合には、上記の表の金額よりも死亡慰謝料が高額になる可能性があります。
また、次のような場合にも死亡慰謝料が増額される可能性があるでしょう。
- 加害者の態度が不誠実
- 被害者の死により遺族が精神疾患を患った
- 小さな子供が事故現場を目撃してしまった
死亡事故の慰謝料についてもっと詳しく知りたい方は『死亡事故の慰謝料相場と賠償金の計算は?示談の流れと注意点』の記事もあわせてお読みください。
人身事故の賠償金(2)治療関係費の計算方法
治療関係費は基本的に実費を加害者に請求可能です。
ただし、入院雑費・看護費・介護費については、弁護士基準による計算方法により算出された金額を請求します。
関連記事では、治療費の支払いに関する5つのポイントを説明しています。
治療費がどのように支払われるのかなど、具体的に知りたい方は、関連記事をお役立てください。
交通事故治療費の関連記事
入院雑費の計算方法
入院雑費とは、入院中に発生する日用品代や通信費用などをいいます。
実際に生じた費用を算出することが困難なため、以下のような計算式で算出されます。
日額1,500円×入院日数
看護費の計算方法
看護費とは、交通事故にあい、入院や通院に看護が必要になった場合に請求できる賠償金です。請求できる金額は、家族による入院看護で6,500円、通院看護で3,300円となります。
家族による看護 | 入院看護:6,500円/日 通院看護:3,300円/日 |
職業看護人による看護 | 実費 |
家族が仕事を休んで入院の付添看護をした場合、家族の1日当たりの給与が6,500円以下であれば6,500円が請求可能です。家族の給与が6,500円以上であれば、家族の1日当たりの給与と同じ金額を請求できます。
ただし後者の場合は、職業看護人を雇った場合の費用を上限とします。
なお、付添看護費は医師が看護が必要と認めた場合のみ請求可能です。
付き添い看護に関する費用について詳しく知りたい方は『交通事故の付添費|付き添いに認められる範囲と相場は?慰謝料との違いも解説』の記事をご覧ください。
介護費の計算方法
介護費とは、交通事故の被害者が重傷を負ったり重い後遺障害が残ったりして、介護が必要になった場合に請求できる賠償金です。介護費として請求できる金額は、日額8,000円となります。
家族による介護 | 8,000円/日 |
職業介護人による介護 | 実費 |
ただし、将来介護費の金額は、自宅の仕様や被害者の元々の健康状態など、多くの要素を考慮したうえで最終的に決められます。
また、請求の可否をめぐって加害者側と争いになることも珍しくありません。
介護費用について詳しくは、以下の関連記事をご覧ください。
介護費用の関連記事
人身事故の賠償金(3)休業損害・逸失利益の計算方法
休業損害の計算方法
交通事故により生じたケガの治療で仕事を休み、減収が生じた場合は、休業損害として損害賠償請求を行うことが可能です。
交通事故の休業損害は、次のように計算されます。
自賠責基準 | 6,100円×休業日数 ※2020年3月31日以前の交通事故については6,100円ではなく5,700円 |
弁護士基準 | 1日当たりの給与×休業日数 |
弁護士基準における1日当たりの給与の計算方法は、以下の通りです。
- 給与所得者:事故前3カ月間の給与÷事故前3カ月間の実労働日数
- 自営業者:事故前年の所得÷365日
- 主婦:賃金センサスにおける女性の全年齢平均給与額から算出した日額
このように、被害者の立場や職業によって休業損害の計算方法は異なります。休業損害の計算について、被害者の属性別に解説している関連記事『交通事故の休業損害|計算方法や休業日の数え方、いつもらえるかを解説』もあわせてお読みください。
逸失利益の計算方法
交通事故により後遺障害を負った、または、死亡した場合には、事故前のように働くことができなくなります。
それにより生涯収入が減ると考えられる場合は、逸失利益として損害賠償請求ができます。

逸失利益には、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益があります。
後遺障害逸失利益 | 交通事故で後遺障害が残ったことで減ってしまった生涯年収に対する補償。 後遺障害等級が認定された場合のみ請求可能。 |
死亡逸失利益 | 交通事故で死亡したことで減ってしまった生涯年収に対する補償。 |
後遺障害逸失利益の計算方法
後遺障害逸失利益の計算方法は次の通りです。
収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
労働能力喪失率は、後遺障害等級に応じて下表のように決まっています。
ただし、実際の仕事への影響を考慮して、表よりも高い労働能力喪失率が適用されることもあれば、低い労働能力喪失率が適用されることもあります。
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1 | 100% |
2 | 100% |
3 | 100% |
4 | 92% |
5 | 79% |
6 | 67% |
7 | 56% |
8 | 45% |
9 | 35% |
10 | 27% |
11 | 20% |
12 | 14% |
13 | 9% |
14 | 5% |
ライプニッツ係数とは、逸失利益を預金・運用することで将来的に生じる利子・利益をあらかじめ差し引くための数値です。
後遺障害逸失利益の場合は、基本的に症状固定時~67歳までの年数が労働能力喪失期間となります。
ただし、むちうちの場合は後遺障害12級で10年、14級で5年程度とされることが多いので、注意してください。
労働能力喪失期間 | ライプニッツ係数 |
---|---|
1年 | 0.97 |
5年 | 4.58 |
10年 | 8.53 |
20年 | 14.88 |
30年 | 19.60 |
※2020年4月1日以降の交通事故に適用されるもの
死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は、次のように計算されます。
死亡逸失利益=年収×(1‐生活費控除率)×死亡により就労できなくなった年数に対するライプニッツ係数
生活費控除率とは、被害者が生きていれば消費していたはずの生活費を死亡逸失利益から差し引くための数値で、具体的には以下の通りです。
一家の支柱 (扶養家族1人) | 40% |
一家の支柱 (扶養家族2人以上) | 30% |
女性 | 30% |
男性 | 50% |
ライプニッツ係数は、後遺障害逸失利益と同様のものを用います。死亡により就労できなくなった年数とは基本的に、死亡時~67歳までとされます。
人身事故の賠償金(4)物損に関する賠償金の金額
人身事故では、人の死傷とともに物の損傷が生じることが多いです。
物の損傷に関しては、以下のような損害について加害者側に請求できます。
- 自動車や自転車などの修理費用
- 代車費用、休車費用
- ペットの治療費用(ペットは法律上、物として扱われるため)
- 破損・損壊した積荷の弁償代
また、車が損傷した場合には、評価損を請求できることもあります。
評価損
交通事故により車に修理歴や欠陥が残り、車の価値が下がったことに対する補償。格落ち、事故落ち、査定落ちともいう。
車の修理費の10%~30%となることが多い。
人身事故の損害賠償金は過失割合が重要
過失割合分、賠償金が減額される
過失割合とは、交通事故の責任が、被害者と加害者それぞれにどれだけあるかを割合で示したものです。
被害者側にも過失割合がついた場合、その割合分、受け取れる損害賠償金額が減額されてしまいます。
例えば被害者側の過失割合が2割だった場合、受け取れる損害賠償金額が2割減額されてしまうのです。
過失割合は交通事故発生時の状況に応じて決められます。
被害車両である被追突車が停車していた場合の追突事故なら、基本的に被害者の過失割合は0とされます。一方、その他のケースでは、ほとんどの場合で被害者にもいくらかの過失割合がつきます。
例|追突・出会い頭・追い越し事故の過失割合
ここで、いくつかの事故パターンの過失割合を紹介します。
ただし、事故のパターンは多数あります。飛び出しやスピード違反の有無などの細かい事情に応じて過失割合は変わる可能性がありますので、正確な過失割合については弁護士に確認を取るべきでしょう。
追突事故
追突車:被追突車=100:0
※被追突車が停車していた場合

交差点の出会い頭での直進車同士の事故
左方車:右方車=40:60

追い越しによる事故
後続直進車:進路変更車=30:70

過失割合の決め方やその他の事故パターンごとの過失割合については、以下の関連記事をご覧ください。
関連記事
交通事故の過失割合とは?パターン別の過失割合と決め方の具体的な手順
人身事故と物損事故の賠償金に関する違い
慰謝料・治療費等は人身事故の場合のみ請求可能
交通事故の損害賠償金に含まれる慰謝料や治療費、休業損害、逸失利益は、基本的に人身事故の場合にのみ加害者側に請求できます。
交通事故の慰謝料は、被害者の身体が損傷することで生じた精神的苦痛に対する補償であるため、被害者の身体に被害がない物損事故の場合は請求できないのです。
同じ理由で、被害者の身体の損傷によって生じる治療関係費や逸失利益、休業損害も、物損事故の場合は請求できません。
物損事故の場合に加害者側に請求できるのは、基本的に車両の修理費、評価損、代車費用、休車費用などの物的損害のみとなります。
人身事故なら賠償金請求に有利な書類を作ってもらえる
人身事故の場合、交通事故後、警察によって供述調書・実況見分調書という書類が作成されます。
供述調書* | 警察が事故の当事者から聞き取った、事故当時の状況や認識をまとめた書類 |
実況見分調書 | 警察が事故当事者の立ち会いの下、事故現場を捜査した内容をまとめた書類 |
*供述調書は、物損事故でも酒気帯び運転や無免許運転など、道路交通法に違反する場合であれば作成される
示談交渉で過失割合について話し合うときは、交通事故発生時の状況をめぐって加害者側と意見が対立しやすいです。
加害者側と交通事故発生時の状況について意見が対立した場合、目撃者がいれば正しい状況を証言してもらえます。
しかし、目撃者がいない場合には被害者と加害者どちらの主張が正しいのか客観的に証明することが難しくなり、交渉が長引いたり、正しい主張が認められなかったりする可能性があります。
そんな時、警察が作成した供述調書や実況見分調書は有力な証拠となります。
そのため、たとえ軽傷でも警察に人身事故として届け出をして、書類を作成してもらうことは大切です。
人身事故の賠償金は2つの保険会社から払われる
人身事故の賠償金は、基本的に加害者側の自賠責保険会社と任意保険会社から支払われます。

自賠責保険は強制加入ですが、任意保険は強制加入ではありません。
加害者が任意保険に入っていなかった場合には、損害賠償金は加害者側の自賠責保険会社と加害者自身から支払われることになります。
万が一、加害者が任意保険未加入で損害賠償金を支払おうとしなくても、加害者側の自賠責保険会社から最低限の損害賠償金は受け取れるので安心です。
それに対して物損事故の損害賠償金は、加害者側の任意保険会社からしか支払われません。
そのため、もし加害者が任意保険に加入していなかったら、損害賠償金は全額加害者自身に支払ってもらうことになります。
物損事故の損害賠償金は人身事故のものよりも低額であることがほとんどですが、それでも加害者側から損害賠償金を回収できないリスクは高くなります。
賠償金以外の人身事故と物損事故の違い
人身事故と物損事故について、賠償金以外には以下のような違いが生じます。
- 物損事故では懲役刑や罰金といった刑事罰を科せられることはない
- 物損事故では違反点数による免許停止や免許取り消しなどの行政責任を科せられることはない
どちらも加害者側に関する事情であるため、賠償金以外に関しては、物損事故であることから被害者に不利益が生じることはないといえます。
人身事故の損害賠償金獲得までの流れ
人身事故発生から、損害賠償を得るまでの流れは以下の通りです。

(1)人身事故が起きたら警察に連絡し、届け出を行う
人身事故が起きたのであれば、警察への連絡を行いましょう。
自分以外に負傷者がいる場合には、可能であれば救護を行ってください。
警察が事故現場に到着したら、事故発生の状況に関して説明しその後の捜査や取り調べに協力してください。
人身事故の場合は、事故当日あるいは数日以内に実況見分が行われるでしょう。具体的な内容や注意点、所要時間については、『実況見分の流れや注意点!聞かれる内容や過失割合への影響、現場検証との違い』の記事で説明しています。
加害者の情報の確認や保険会社への連絡も必要
この他に、加害者の氏名、住所、連絡先、加入している任意保険会社などを確認してください。
氏名や住所などは免許証や保険証などの公的な書類から確認しましょう。
また、自身が任意保険に加入しているのであれば、任意保険会社に事故が起きた旨の連絡を行いましょう。
適切な対処法について教えてくれます。
(2)完治または症状固定となるまで治療
人身事故によるケガについては、整形外科で治療を受けてください。
整形外科にかかることなく整骨院や接骨院などで治療を受けても、適切な治療でないとして治療費や入通院慰謝料を請求できなくなる恐れがあるためです。
整骨院や接骨院に通いたい場合は、必ず事前に『交通事故の治療を整骨院で受けても慰謝料はもらえる|慰謝料の計算と注意点』を読んでみてください。
ケガの治療が終了した治癒または症状固定の診断を受けます。
治癒 | ケガが完治すること |
症状固定 | 交通事故によるケガに対してこれ以上治療を続けても、大幅な改善は見込めないと判断されること |
加害者側からの治療費や休業損害の支払いは、基本的に治癒または症状固定を以て終了します。症状固定の時期は加害者側の任意保険会社から打診されることもありますが、基本的には医師の判断を尊重しましょう。
症状固定については、関連記事『症状固定とは?時期や症状固定と言われたらすべき後遺障害認定と示談』にて確認可能です。
(3)後遺症が残ったのなら後遺障害等級認定の申請
症状固定の診断を受けた場合には、後遺障害等級認定の申請を行います。
審査の結果、後遺障害等級が認定されると、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を加害者側に請求が可能となるのです。
後遺障害等級認定の申請方法には、被害者請求と事前認定の2種類があります。それぞれメリットとデメリットがあるので、ご自身の状況に応じてより良い申請方法を選びましょう。
詳しくは、『交通事故の後遺障害とは?認定されたらどうなる?認定の仕組みと認定率の上げ方』にて解説しています。
(4)加害者側から示談案が届いたら交渉開始
示談交渉が始められる段階になったら、加害者側の任意保険会社から提示額を記載した示談案が届きます。
提示額は基本的に弁護士基準よりも低額なので、増額を求めたい場合は電話やFAXを通じて加害者側の任意保険会社と交渉することが必要です。
人身事故の示談については、『人身事故の示談』の記事で詳しく解説しています。
人身事故の示談金を増やすためのポイントも紹介しているので、ぜひあわせてご覧ください。
また、一度示談が成立すると原則として撤回できないため、示談交渉は慎重に行いましょう。
示談の撤回方法について知りたい方は『示談後、撤回や追加請求は可能?後遺障害があとから発覚したら?』の記事で確認可能です。
(5)示談書に署名・捺印後、賠償金振り込み
示談が成立したら、加害者側の任意保険会社から合意内容を記載した示談書が届きます。
内容に間違いがなければ、示談書に署名・捺印をして加害者側の任意保険会社に返送しましょう。
一度示談書に署名・捺印すると、基本的には再交渉や追加の損害賠償請求はできなくなるためご注意ください。
示談書の返送後、基本的に2週間程度で口座に損害賠償金が振り込まれます。
人身事故の損害賠償請求での疑問5選
(1)物損から人身へ切り替えることは可能?
すでに交通事故を物損事故として届け出てしまったという場合でも、あとから人身事故に切り替えることが可能です。
人身事故への切り替え方法は、次のようになります。
- 病院で診察を受け、診断書を受け取る
- 診断書を警察に提出する
物損から人身への切り替えに期限はありませんが、交通事故のあと時間がたってから切り替えを申請しても受け入れてもらえない可能性があります。そのため、交通事故後10日以内に病院で診察を受け、警察に診断書を提出することがおすすめです。
警察に診断書を提出する際には、次のことを求められる場合があります。
- 加害者も人身事故への切り替え手続きに同行すること
- 事故車両も警察署に持ってくること
- 事前に警察署に連絡し、アポイントメントをとっておくこと
物損から人身への切り替え手続きをしたい場合は、管轄の警察署のホームページで事前に持ち物などを確認しておきましょう。
なお、加害者の同行が必要なのに加害者に拒否されたという場合には、1人で警察署に行き、同行を拒否された旨を伝えてください。
警察だけでなく保険会社にも切替えを依頼
警察で物損事故から人身事故への切り替えを行ったのであれば、加害者側の保険会社に対して連絡を行ってください。
保険会社が人身事故として扱うこととなり、賠償金の内容や金額が変更となります。
警察において人身事故への切り替えができなかった場合には、保険会社に人身事故証明書入手不能理由書の提出を行いましょう。
提出を行うことで、人身事故として対応してもらえる可能性があります。人身事故証明書入手不能理由書についてさらに詳しくは『人身事故証明書入手不能理由書とは?理由の記入例と注意点【見本あり】』の記事をご覧ください。
(2)治療費の支払いを打ち切られたらどうする?
完治または症状固定と診断されていない時点で、加害者側の任意保険会社から治療費の打ち切りを伝えられることがあります。
たとえ加害者側の任意保険会社から治療費を打ち切られても、被害者側で費用を立て替えつつ治癒または症状固定まで治療を続け、あとから治療費を加害者側に請求することが重要です。
治療費打ち切りを理由に完治・症状固定前に治療をやめてしまうと、その分入通院慰謝料が減ったり、後遺障害等級が認定されにくくなったりしてしまいますので注意してください。
ただしこのようなケースでは、治療費に関して示談交渉でもめることが予想されます。
最悪の場合、治療費打ち切りから完治・症状固定までに負担した治療費を回収できない可能性もあるため、事前に弁護士に相談しておくことがおすすめです。
治療費打ち切りへの対応を知りたい方は、『交通事故の治療費打ち切りを阻止・延長する対応法!治療期間はいつまで?』でわかりやすく解説しています。
(3)示談交渉がまとまらないときはどうする?
交通事故の示談交渉では、話し合いが行き詰まってしまうこともあります。
このような場合は、弁護士に介入してもらいましょう。
弁護士が入ることで加害者側の任意保険会社の態度が軟化し、交渉が進みだすことも考えられるからです。
また、交渉がまとまらなかった場合には、調停や裁判などの手段をとることもあります。弁護士がついていれば、最善の手段を助言してもらうことができるので、示談がまとまらずお困りの場合は、ひとまず弁護士にご相談ください。
(4)誰が賠償請求する?
交通事故の賠償請求は、基本的に被害者本人が行います。
しかし、被害者が死亡している、未成年であるなど賠償請求できない事情がある場合には、本人以外が請求人となります。
また、示談交渉の際には弁護士を代理人として立てることも可能です。
被害者が死亡した場合
死亡事故で被害者が死亡した場合には、被害者の相続人が賠償請求を行います。相続人は、配偶者に加えてもう1人、次の順番で決められます。
- 被害者の子。子がいなければ孫。
- 子や孫がいなければ親。
- 親がいなければ兄弟姉妹。兄弟姉妹がいなければその子。
死亡事故で相続人が賠償金を受け取る際、相続税がかかることは基本的にありません。
しかし、示談成立後に被害者が亡くなった場合には、相続税がかかります。
慰謝料と相続税の関連記事
被害者が未成年である場合
未成年は単独で賠償請求や示談ができません。
そのため、法定代理人である親権者が、被害者に代わって賠償請求を行います。
その他被害者に賠償請求できない事情がある場合
被害者に知的障害がある、交通事故によって寝たきりになってしまったなど、賠償請求できない事情がある場合には、家庭裁判所が定める成年後見人が被害者に代わって賠償請求を行います。
(5)誰に対して損害賠償請求する?
損害賠償請求の相手は、基本的には加害者(正確には、加害者が加入する自賠責保険・任意保険)です。
ただし、それ以外の相手にも損害賠償請求できることがあるので、ケース別に損害賠償請求の相手を紹介しておきます。
- 他人の車に同乗していて人身事故に遭った場合
- 事故の相手方
- 同乗していた車の運転手(過失があれば)
- 加害者が勤務中だった場合
- 加害者
- 運行供用者(加害者の使用者、営業車の所有者)
- 加害者が他人の車を借りていた場合
- 加害者
- 運行供用者(車の所有者)
- 事故の相手方がタクシーや運転代行業者だった場合
- 加害者(相手車両の運転手)
- タクシー会社や運転代行会社が加入する保険
人身事故における損害賠償請求の相手がわからない場合は、以下の関連記事を参考にしてみてください。
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より多くの損害賠償金を獲得する方法
適切な後遺障害等級を獲得する
より多くの損害賠償金を獲得するためには、適切な後遺障害等級の認定を受けることが重要です。
後遺障害等級が認定されなければ、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求できなくなり、その分損害賠償金が減ってしまいます。
また、後遺障害慰謝料は、等級が1級違うだけでも金額が大幅に変わります。
そのため、適切な等級を獲得することが重要です。
適切な等級を獲得するためには、後遺障害等級認定の審査の仕組みを踏まえたうえでの対策が必要です。
また、もし後遺障害等級認定の結果に納得がいかない場合は、異議申し立てにより再審査をしてもらうことも可能です。
後遺障害等級認定の対策や異議申し立てについては、後遺障害等級認定のサポート経験がある弁護士に尋ねることをおすすめします。
異議申し立てに関して詳しく知りたい方は『後遺障害の異議申し立てを成功させる方法と流れ!失敗や納得できない結果への対策』の記事をご覧ください。
弁護士基準での損害賠償金額を主張する
より多くの損害賠償金を得るためには、弁護士基準に近い金額で示談を成立させることが重要です。
ただし、弁護士基準は加害者側の任意保険会社の提示額よりも高額であることから、弁護士が主張しないと受け入れられにくい傾向にあります。
示談交渉を被害者自身で行った場合、加害者側の任意保険会社の提示額をベースに金額を決めていくことになってしまうため、示談交渉は弁護士に依頼することをおすすめします。
示談交渉を弁護士に任せることで、被害者には多くのメリットがあります。
もっと詳しく知りたい方は関連記事『人身事故は弁護士に任せて時短と増額|弁護士選びと費用倒れの避け方』をお役立てください。
正しい過失割合を主張する
加害者側の任意保険会社から提示される過失割合は、必ずしも正しいとは限りません。
加害者側の任意保険会社は、加害者から聞き取った偏った情報のみをもとに過失割合を算出している場合があるからです。
過失割合を算出する際には、その事故ごとの個別的な事情を柔軟に反映させる必要があります。加害者側の任意保険会社でも正しい過失割合の算出が難しいこともあるのです。
過失割合に納得がいかないと感じた場合には、改めて弁護士に過失割合の算出を依頼することをおすすめします。
過失割合の関連記事
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弁護士費用特約について詳しくは、関連記事『交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介』がおすすめです。
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交通事故賠償金の増額事例|アトム法律事務所
150万円から364万円へ増額
傷病名 | 足指骨折 |
後遺障害の内容 | 足の小指を欠損 |
後遺障害等級 | 14級8号 |
加害者側の任意保険会社は、後遺障害逸失利益の計算で労働能力喪失期間を短く見積もっていました。正しい労働能力喪失期間を主張し受け入れられた結果、賠償金額が増額しました。
600万円から900万円へ増額
傷病名 | 左上腕骨外科頸骨折 |
後遺障害の内容 | 左肩の可動域制限 |
後遺障害等級 | 12級7号 |
示談交渉開始後、加害者側の任意保険会社からは800万円の提示がありました。しかし弁護士は、それでもまだ増額の余地があると判断し、さらなる増額交渉を行いました。その結果、900万円への増額に成功しました。
123万円から250万円へ増額
傷病名 | 左足関節捻挫、左腓骨神経麻痺 |
後遺障害の内容 | 左足の知覚鈍麻・しびれ |
後遺障害等級 | 14級9号 |
加害者側の任意保険会社が提示してきた賠償金額を弁護士が計算し直し、裁判でも認められるであろう正当な金額を主張した結果、増額に成功しました。
この他にも増額事例を知りたい場合は、アトムの弁護士が実際に解決した事例をまとめた「交通事故の解決事例」のページをご確認ください。
まとめ
交通事故にあいケガをした場合には、たとえ軽傷であっても人身事故として届け出をするべきです。
人身事故として届け出をすると、物損事故よりも請求できる賠償金の費目が多くなり、示談交渉における重要書類も作成してもらえます。その結果、受け取れる賠償金額が多くなるのです。
一度は物損事故として届け出をしてしまった場合でも、人身事故に切り替えることは可能です。
- 加害者に物損事故として届け出るよう頼まれて困っている
- 物損から人身への切り替えでわからないことがある
- 人身事故としての賠償金請求をサポートしてほしい
このような方は、ぜひ一度、アトム法律事務所にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了