交通事故の慰謝料に税金がかかるケース|いくらまで非課税?税金別に解説
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交通事故の慰謝料は原則非課税です。交通事故の加害者や被害者が加入している保険から受け取った保険金にも税金はかかりません。
例外として、給与と同質に支給された見舞金や、過剰に高額な慰謝料などには税金が生じる場合があります。
この記事では、交通事故の慰謝料に税金がかからない理由、例外的に税金がかかるケースなどを紹介します。
目次
交通事故の慰謝料・保険金に税金はかかる?
交通事故の慰謝料・保険金は原則的に非課税
交通事故で受け取る慰謝料や保険金には、原則として税金はかかりません。
慰謝料や保険金は、事故による精神的苦痛やその他の損害を補てんするものです。
事故によって生じたマイナスをゼロに戻すために支払われている慰謝料や保険金から税金を引いてしまうと、結局マイナスになってしまうため、税金はかからないのです。
所得税法第9条にも、「心身に加えられた損害」「突発的な事故により資産に加えられた損害」に対して支払われる保険金・損害賠償金は非課税であることが明記されています。
(非課税所得)
所得税法第9条
第九条 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
(略)
十八 保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第四項(定義)に規定する損害保険会社又は同条第九項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの
休業損害や逸失利益なども非課税
休業損害・逸失利益・治療費・車両の修理費といったその他の損害賠償金や、加害者などから受け取った見舞金も、所得税法第9条を根拠として、基本的に非課税となります。
休業損害や逸失利益は休業中や将来の収入を補償するものなので、所得税がかかるのでは?と考える人もいるでしょう。
しかし、所得税法施行令第30条において、「心身に加えられた損害のために働けず生じた損害」に対する賠償金は非課税とされています。
一部非課税とならない慰謝料・保険金などもある
先述の通り慰謝料・賠償金・保険金は基本的に非課税ですが、一部例外もあります。具体的には以下の通りです。
- 所得税がかかるケース
- 事故で壊れた売り物の弁償代などを受け取った
- 勤務先から給与と同質の見舞金を受け取った
- 贈与税がかかるケース
- 損害に対して高額すぎる慰謝料を受け取った
- 相続税がかかるケース
- 示談などで慰謝料・賠償金額などが決定した後に被害者が亡くなった
また、被害者の保険から受け取る人身傷害保険金や死亡保険金にも税金はかかります。
ただし、上記に該当すれば必ず税金がかかるわけではなく、一定の額までなら非課税です。
この点も含めて、詳しく確認していきましょう。
交通事故の慰謝料・保険金に所得税がかかるケース
(1)事故で壊れた売り物の弁償代などを受け取った
交通事故により事業用の商品が損壊した場合、加害者から商品の代金を賠償してもらえます。こうした売り物の弁償代には、所得税がかかります。
弁償代として壊れた商品の代金を受け取るのも、商品を販売して収入を得るのも、結果的には同じだと判断されるからです。
このことは、所得税法施行令第30条2号および同令第94条が根拠となっています。
(2)勤務先から給与と同質の見舞金を受け取った
被害者自身の勤務先から支払われた「給与と同様の性質を持つ見舞金」は、収入と同様に扱われるため課税対象となる場合があります。
給与収入と同じように、所得税がかかるでしょう。
所得税はいくらまで非課税?
たとえば1か所から給与を得ている給与所得者の場合、給与所得・退職所得以外の所得が20万円を超えるなら確定申告が必要です。
以下のような場合は確定申告を行って所得税の申告・納付をしましょう。
- 所得税の対象となる交通事故の賠償金・保険金が20万円を超える
- 所得税の対象となる交通事故の賠償金・保険金と、副業などで得た収入が合わせて20万円を超える
交通事故の慰謝料・保険金に贈与税がかかるケース
損害に対して高額すぎる慰謝料や見舞金を受け取った
加害者側から高額すぎる慰謝料や見舞金を受け取った場合、贈与税の対象となる可能性があります。
たとえば、交通事故で負ったケガが打撲やむちうちなど比較的軽いものであるにも関わらず、加害者がお詫びの名目で数百万円の慰謝料を支払ってきたといったケースが挙げられます。
このように、明らかにケガの態様と釣り合っていない過剰な慰謝料は、贈与税の課税対象となることがあるでしょう。
なお、加害者側から見舞金を受け取ると、贈与税がかかる可能性があるだけでなく、慰謝料が減ったり加害者が減刑されたりすることもあります。
見舞金を受け取るかは、『交通事故の見舞金の相場は?受け取って損しないためのポイント』の記事も参考にご検討ください。
また、慰謝料の相場は関連記事『交通事故の慰謝料|相場や計算方法など疑問の総まとめ』や以下の計算機で確認できます。
贈与税はいくらまで非課税?
贈与税は、1年に贈与された金額のうち110万円を超える部分に課されます。
よって「贈与と見なされる慰謝料額とその他の贈与額の合計が110万円を超える」場合には、贈与税の申告・納付が必要です。
交通事故の慰謝料・保険金に相続税がかかるケース
慰謝料などを受け取る前に被害者が亡くなり、遺族が債権を相続した
示談交渉の成立後や民事裁判の判決確定後、慰謝料などの支払いを受ける前に被害者が亡くなってしまった場合は、遺族が損害賠償請求権を相続することになります。
このような場合、受け取った慰謝料などには相続税がかかります。
なお、交通事故の直後に被害者が亡くなり、遺族が代わりに示談交渉や裁判をした場合は相続税はかかりません。
相続税がかかるのは、あくまでも慰謝料・賠償金の金額確定~受け取りまでの間に被害者が亡くなった場合です。
亡くなった被害者の慰謝料・損害賠償金を遺族間でどのように分配するかなどについては、『交通事故の慰謝料|遺産分割できる相続人は?相続分はどれくらい?』の記事で解説しているのでご確認ください。
相続税はいくらまで非課税?
相続税は、相続する金額の合計が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」以上の場合に課されます。
ただし、さまざまな控除を適用した結果、相続額が上記の金額以上であっても相続税が発生しないこともあります。
詳しく知りたい方は、税理士に確認すると良いでしょう。
状況によってかかる税金の種類が異なるケース
(1)自身の人身傷害保険で過失分の保険金を受け取った
「人身傷害保険」は、契約時に設定した金額を上限として、交通事故による損害賠償金と同等の金額を受け取れるものです。
人身傷害保険金には過失相殺は適用されません。
よって、加害者から支払われる損害賠償金が過失相殺で減額されても、人身傷害保険金で減額分をカバーすることも可能です。
ただし、人身傷害保険金の中で過失相殺による減額をカバーする部分は課税対象となります。
被害者の過失分が課税される例
- 過失割合が「被害者20:加害者80」
- 被害者の損害が1,000万円
- 過失相殺されるのは、1,000万円×20%=200万円
このとき、非課税となる金額と、課税される金額は以下のとおり。
- 非課税となる金額:加害者から取得する800万円
- 課税される金額:被害者の過失分である200万円
かかる税金は次の通りです。
- 保険料負担者と保険金受取人が同一人物:所得税
- 保険料負担者が保険金受取人でも死亡者でもない:贈与税
人身傷害保険については『人身傷害保険ってどんな保険なの?慰謝料も受け取れる保険について解説』で詳しく解説しているので、これから保険金請求を検討したい場合は参考にしてみてください。
(2)被害者側の保険から死亡保険金を受け取った
下記の保険は原則として非課税ですが、被害者が死亡し、死亡保険金として支払われる場合には課税対象となります。
- 人身傷害保険
- 搭乗者傷害保険
- 自損事故保険
- 医療保険
- 生命保険 など
なお、死亡保険金に課される税金は、所得税・相続税・贈与税のいずれかになります。
どの税金が課されるかは、被保険者、保険料の負担者、保険金受取人の関係により異なり、具体的には以下の通りです。
税金の種類 | 被保険者 | 保険料の負担者 | 保険金受取人 |
---|---|---|---|
所得税 | A | B | B |
相続税 | A | A | B |
贈与税 | A | B | C |
課される税金の例
- 所得税が課されるケース
- 被保険者は夫、保険料の負担者・保険金受取人は妻
- 相続税が課されるケース
- 被保険者・保険料の負担者は夫、保険金受取人は妻
- 贈与税が課されるケース
- 被保険者は夫、保険料の負担者は妻、保険金受取人は子ども
これから慰謝料請求する場合は弁護士にご相談ください
これから慰謝料請求に入る場合は、一度アトム法律事務所の無料電話・LINE相談をご利用ください。
すべての損害が確定した状態であれば慰謝料・賠償金額の算定が可能ですし、示談交渉に向けての注意点やアドバイスについてもご質問いただけます。
慰謝料相場や示談交渉に関するご相談と合わせて課税対象となる費目の有無も確認できるので、税金に関する不安も解消されるでしょう。
その後ご契約いただくと、示談交渉やその他さまざまな手続きの代理もいたします。
もちろん無料相談のみのご利用も可能であり、無理にご契約を迫ることはありません。交通事故に関してお困りごとがある場合は、お気軽にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了