交通事故の慰謝料|遺産分割できる相続人は?相続分はどれくらい?
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交通事故において被害者が亡くなられた場合、加害者に対して誰が、どのような請求をおこなうのか分からず、困惑してしまうことは珍しくありません。
交通事故で被害者が死亡した場合、損害賠償請求を行うのは「相続人」である遺族のみです。
また、本来なら被害者本人が受け取るはずの慰謝料・損害賠償金は、相続人や遺族のあいだで遺産分割されます。
当記事では、死亡事故による損害賠償請求権について、被害者遺族の方が請求しうる賠償金や遺産分割について解説していきます。
目次
死亡事故の慰謝料は相続人が請求・遺産分割
慰謝料の請求・遺産分割は「相続人」がおこなう
被害者に対して支払われる慰謝料・損害賠償金は、被害者に代わって相続人が請求・相続します。
基本的には法律で定められた割合「法定相続分」に従って遺産分割されるため、相続人間で分配について話し合う必要はありません。
ただし、相続人間で分配の割合を話し合って決めることも可能です。
相続については民法第八百九十六条で以下のように定められており、相続は交通事故被害者が死亡したときから開始されます。
民法第八百九十六条
民法第八百九十六条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
慰謝料・賠償金の全てを遺産分割するわけではない
死亡事故の慰謝料・賠償金のうち死亡慰謝料には、「被害者本人分」の金額と「遺族分」の金額があります。
被害者本人分の金額は本来の受取人である被害者がいないため、相続人間で遺産分割されます。
遺族分については受取人が遺族なので、遺産分割の対象にはなりません。該当する遺族がそのまま受け取ります。該当する遺族とは、基本的に被害者の配偶者・親・子です。
相続人の決め方
法定相続人の決め方は、簡単に言うと「配偶者がいる場合、配偶者は必ず相続人となる。そのうえで、他にも相続人となるべき人がいれば、その人も相続人になる」とされており、具体的には以下のような流れで決まります。
相続人の決め方
- 配偶者がいれば、配偶者は必ず相続人となる。
- 子がいれば、配偶者とともに子も相続人となる。子がいなければ孫。
- 子や孫がいなければ、両親など直系尊属にあたる遺族が、被害者の配偶者とともに相続人となる。
- 直系尊属にあたる人がいなければ、兄弟姉妹が被害者の配偶者とともに相続人となる。
つまり、配偶者を除く相続人の順位は以下になるということです。
相続人の順位
- 第一順位:子(子がすでに死亡していれば孫。これを代襲相続という。)
- 第二順位:両親などの直系尊属
- 第三順位:兄弟姉妹
※配偶者は常に相続人
こうした相続人の決め方は、民法第八百九十条および相続人の順位に基づいています。
(配偶者の相続権)民法第八百九十条
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
民法第八百九十条
※被相続人とは、被害者本人のこと
相続人は、遺産分割の前にまず加害者側に対して慰謝料や賠償金を請求しなければなりません。
死亡事故の慰謝料・賠償金は高額になりやすいため揉める傾向にあります。また、事故当時のことを把握している被害者本人が不在だという点で示談交渉で不利になる可能性もあります。
相続人の選出や慰謝料・賠償金に関して不安がある場合は、一度弁護士までご相談ください。
ここからは相続人の選定においてよくある、配偶者・両親・相続人の人数に関する3つの質問に答えていきます。
Q1. 内縁の配偶者や元配偶者は相続人になれない?
その通りです。
内縁の配偶者は、その他の法律(医療保険や年金など)では配偶者と認められることがほとんどで扶養にも入れますが、相続においては除かれています。
内縁の配偶者は、「親族」に該当しないためです。
あくまで配偶者とは法律上の配偶者であり、離婚した元配偶者であっても相続人になれません。
Q2. 養父母は実の父母と同じように直系尊属とされる?
はい。
直系尊属にあたる被害者の両親には、養父母も含まれます。
養父母は、養子縁組により法律上の「親」になれるからです。
ただし、養子縁組をしていない継母や継父は、相続人からは除かれます。
Q3. 被害者の子が複数人いるなど、同じ順位の人が複数人いる場合は?
同じ順位の人が複数いる場合は全員が相続人になれます。
たとえば被害者の子が2人いるのであれば2人は同順位になり、配偶者と被害者の2人の子、合わせて3人が相続人となるのです。
交通事故慰謝料(賠償金)を遺産分割する方法
(1)法定相続分通りに遺産分割する場合|具体例も紹介
相続できる慰謝料・損害賠償金の分配方法は民法九百条に規定されています。この法律の規定により認められる相続分を「法定相続分」といいます。
まずは条文の内容を簡単にかみ砕いて紹介しますので、そのあと実際の条文を見てみましょう。
具体的な法定相続分
死亡事故における被害者本人分の慰謝料・損害賠償金は、相続人によって以下のように分配される。
- 相続人が配偶者と子である場合
配偶者:子=1:1 - 相続人が配偶者と直系尊属(両親など)の場合
配偶者:直系尊属=2:1 - 相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合
配偶者:兄弟姉妹=3:1
子や直系尊属、兄弟姉妹が複数人いる場合、各自の相続分は均等となる。
母または父が異なる兄弟姉妹の相続分は、両親が同じ兄弟姉妹の相続分の半分とされる。
ただし、実際にはこうした民法に沿った形式での分配でなくても良いとされるケースもあります。
詳しくはのちほど解説するとして、ここでは実際の条文を確認しておきましょう。
(法定相続分)第九百条
民法第九百条
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
相続人による遺産分割の例
理解が進むよう、簡単な事例をいくつかあげて解説していきたいと思います。
配偶者、または、子供がいる人が死亡し、遺族が慰謝料や他の損害賠償金として合計3000万円を受け取ったケースです。
相続人 | 相続額 |
---|---|
配偶者のみ | 配偶者:3000万円 |
配偶者 子ども1人 | 配偶者:1500万円 子供:1500万円 |
配偶者 子ども3人 | 配偶者:1500万円 子供:500万円ずつ |
配偶者 父母 | 配偶者:2000万円 父母:500万円ずつ |
子供3人のみ | 子供:1000万円ずつ |
配偶者 兄弟1人 | 配偶者:2250万円 兄弟:750万円 |
(2)遺産分割協議や遺言に従い遺産分割する場合
慰謝料・損害賠償金の遺産分割において、上で解説した法定相続分は相続人同士の合意に劣後します。
つまり、相続人同士が合意のうえで遺産分割の分配を決めていた場合、民法にのっとった遺産分割をする必要はないのです。
さきほどご紹介した法定相続分が適用されるのは、遺産分割に関する合意や遺言がない場合です。
法定相続分によらず、話し合いによる相続人全員の合意(遺言書による合意も含む)があれば、特定の相続人に遺産をすべて相続させることもできます。
相続人同士の合意は遺産分割協議で確認
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産相続分について話し合うことをいいます。
遺産分割協議をする場合は、通常、話し合った内容を「遺産分割協議書」という書面におこします。
さきほど法定相続分は合意に劣後するとお話ししましたが、法定相続分以外で相続が発生することになった場合には、証明のために遺産分割協議書が必要になるでしょう。
遺産分割協議書があれば相続人全員の合意が前提にあるかと思われますので、その後の遺産分割はおこなわなくていいということになります。
交通事故慰謝料の遺産分割に関するよくある疑問
遺産分割した慰謝料や損害賠償金に相続税はかかる?
遺産分割した慰謝料や損害賠償金は、原則として相続税の対象にはなりません。所得税も非課税です。
もっとも、被害者が損害賠償請求をおこなった後に亡くなった場合には、相続税の対象となる可能性があります。
交通事故における税金関係に関して詳しく知りたい方は、『交通事故の慰謝料に税金がかかるケース|いくらまで非課税?税金別に解説』の記事をご覧ください。
遺産相続を放棄すると、慰謝料の遺産分割も受けられない?
亡くなった被害者の財産の相続を放棄すると、遺産分割によって受け取れるはずの交通事故慰謝料・損害賠償金も受け取れなくなります。
ただし、死亡慰謝料のうち遺族に対して支払われる分は、相続を放棄しても受け取れます。(死亡慰謝料の対象となる遺族に該当する場合)
相続を放棄すると被害者の財産を相続できなくなりますが、被害者に借金などマイナスの財産がある場合はその相続もせずに済みます。相続の放棄は慎重に検討しましょう。
相続を放棄する場合は家庭裁判所に申し出てください。
交通事故慰謝料の遺産分割の流れは?
交通事故慰謝料の遺産分割の流れは、次のとおりです。
- 相続人は誰か、遺言はないかを確認。
- 交通事故慰謝料・損害賠償金は法定相続分に従って分割するのか、遺言や遺産分割協議に従って分割するのか決める。
- 事故後、四十九日が過ぎたあたりで加害者側と示談交渉し、慰謝料・損害賠償金の支払いを受ける。その後、相続人間で遺産分割。
遺産分割の方法を決めるのは示談交渉後でも構いません。
しかし、遺産分割は交通事故慰謝料だけでなくその他の財産の分割にも関わってくるため、早めに決めたほうが良いでしょう。
死亡事故で遺産分割する慰謝料・賠償金の内訳
(1)死亡事故の基本的な慰謝料・損害賠償金
死亡事故において請求する慰謝料・損害賠償金は、基本的に以下のとおりです。
死亡慰謝料 | 死亡によって被害者本人および遺族が受ける精神的苦痛に対する補償 |
死亡逸失利益 | 交通事故がなければ将来得られていたはずの利益 被害者の収入や年齢などから計算する |
葬儀関係費用 | 葬儀代・墓石建立費用など 実際に支出した額と原則の額150万円の少ない方 |
死亡慰謝料の相場額は被害者の家庭での立場により異なり、具体的な金額は以下の通りです。
被害者の立場 | 金額 |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親・配偶者 | 2500万円 |
その他の場合 | 2000万円~2500万円 |
上記金額には、被害者本人分と遺族分のものが含まれています。
被害者本人分は相続人間で遺産分割されますが、遺族分は該当する遺族が受け取ります。
死亡慰謝料がもらえる遺族とは?
死亡慰謝料の支払対象になる遺族とは、基本的には被害者の親・配偶者・子を指します。
民法第七百十一条
民法第七百十一条
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
なお、被害者の父母には養父母も、子には養子も含まれます。
ただし、上記以外の者であっても、近親者に「準ずる者」と判断されれば、兄弟姉妹・祖父母・内縁の妻や夫でも慰謝料が認められる可能性があります。
実際の裁判例を見てみましょう。
【被害者の立場:独身の男性(「その他」に分類される者)】
損害賠償額算定基準(赤い本)令和2年版
単身者(男・31歳・スキューバーダイビングインストラクター)につき,本人分18004万円,母400万円,(922万円余の不要利益喪失のそんがいの他に),弟・妹・娘(離婚した妻が引き取り,毎月4万円の養育費を支払っている)各200万円,合計2800万円を認めた(事故日平14.11.22 大阪地判平19.1.30 交民40・1・116)
【被害者の立場:子供・幼児等(「その他」に分類される者)】
損害賠償額算定基準(赤い本)令和2年版
小学生(男・6歳)につき,本人分2200万円,父母各200万円,同居の祖母50万円,兄弟3名各30万円,非同居の祖父母各30万円,合計2800万円を認めた(事故日平17.11.11 名古屋地判平22.6.4 交民43・3・744)
被害者遺族が相続できる、死亡慰謝料などの賠償金については、弁護士に相談すると増額できることがあります。
加害者側が提示する額は適正額ではないことがほとんどなので、増額させたうえで受け取ることは非常に大切です。
遺産分割の対象となる死亡慰謝料について、増額をご希望の方は弁護士にご相談されることをおすすめします。
死亡慰謝料の金額については『死亡事故の慰謝料相場と賠償金の計算は?示談の流れと注意点』の記事が参考になります。あわせてお読みください。
(2)死亡までに入通院期間があった場合の慰謝料・損害賠償金
被害者が亡くなるまでに入通院期間があった場合は、以下の費目も請求可能です。
治療費 | 治療に要した実費 |
損害賠償請求関係費用 | 診断書などの文書料 保険金請求手続き費用 交通事故証明書代 など |
休業損害 | 治療のため仕事を休んだことで生じた減収 |
上記費目については、『交通事故|人身事故の賠償金相場と計算方法』の記事で解説しています。
慰謝料・損害賠償額を決める示談交渉の注意点
保険会社との示談では遺産分割の話はしない
遺産分割に先立ち、まずは受け取れる慰謝料・損害賠償額を決めるため、加害者側の任意保険会社と示談交渉をします。
ただし、ここで話し合われるのは賠償金額に関することのみであり、遺産分割についての話はしません。
つまり、遺族間でどのように遺産分割するのかについては、保険会社は基本的に関与しないということです。
遺産分割については、示談交渉とは別に、被害者遺族のみで話し合うことになります。
保険会社との示談成立が見えてきたら、早めに遺族間で遺産分割の協議をしておいたほうがいいでしょう。
遺産分割が整う前であっても、法定相続分の請求権を得ているとして示談交渉おこなうことは可能です。
しかし、相続の問題に巻き込まれたくない保険会社は遺産分割協議が終わるまで示談しないことが多いでしょう。
慰謝料の金額を確認してからサインを|増額の余地があるかも
交通事故で被害者が死亡した場合、被害者本人に対する慰謝料・損害賠償金と、近親者固有の慰謝料が請求できます。
具体的な金額は相手方との示談交渉で決められますが、保険会社から提示される示談金額は一般的に、相場よりも低く見積もられているかと思います。
保険会社は少しでも支払う金額を下げるため、相場の金額に比べると何分の一ほどの低額になっていることが大半なのです。
示談が成立した際に作成する示談書にサインをしてしまうと、原則として合意内容の撤回や再交渉はできません。
そのため、本当に適切な金額になっているか、もう増額の余地はないかしっかり確認したうえで、サインしてください。
保険会社との示談前に確認したいことを以下にまとめてみました。
保険会社(加害者側任意保険)との示談前に確認したいこと
- 近親者固有の慰謝料が示談案などにしっかり計上されているか
- 近親者固有の慰謝料を受け取ることのできる「遺族」を把握してもらっているか
- 死亡慰謝料の金額は低額になっていないか
交通事故における適正な慰謝料相場は、以下の計算機から確認できます。
ただし、実際には事故固有の事情を反映して、相場以上の金額が認められることもあります。
厳密な相場を知るには弁護士に問い合わせることがおすすめです。
過失割合の交渉では事故時の状況がわかる証拠が必要
交通事故の示談交渉では、過失割合についても話し合います。
過失割合とは「交通事故の責任が加害者側と被害者側それぞれにどれくらいあるか」を割合で示したもので、被害者側にも過失割合がつくと、その割合分、慰謝料・損害賠償金が減額されます。
過失割合は事故発生時の状況から算定されますが、死亡事故では事故現場にいなかった相続人が示談交渉に臨むことも多いです。
事故時の状況を知らない分、交渉で不利になる可能性があるのです。
よって、事故時の状況を示す証拠を入念に集める必要があります。しかし、証拠集めには時間や手間がかかります。
また、証拠をしっかり揃えたとしても、以下の点から被害者側が不利になる可能性は十分にあるでしょう。
- 交渉している相続人自身が事故時に現場にいたわけではない
- 交渉相手である加害者側の保険担当者のほうが交渉慣れしている
不適切な過失割合になり、慰謝料・賠償金が必要以上に減額されることを防ぐためには、示談交渉で弁護士を立てることがおすすめです。
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死亡事故の慰謝料額は弁護士による交渉で最大化できる
遺産分割の対象となる慰謝料や損害賠償の金額を適正なものとし、納得のいく結果とするためには、相手方と交渉することは非常に大切となります。
死亡事故の場合、示談交渉は相続人が対応しますが、弁護士に任せることも可能です。
弁護士に任せることで、以下のようなメリットが得られます。
- 相続人による交渉では獲得が難しい、過去の判例にのっとった正当な相場金額が得られる
- 相手方の保険会社とのやりとり・手続きの手間がなくなるので、時間的・精神的負担が減る
弁護士費用特約を利用すれば、多くのケースで弁護士費用を負担せずに弁護士への依頼が可能です。
詳しくは、『交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介』の記事をご覧ください。
また、弁護士費用特約がない場合でも、アトム法律事務所なら相談料・着手金が原則無料です。
成功報酬は必要ですが、それを差引いてもなお、弁護士を立てなかった場合より多くの金額が得られるケースも多いでしょう。
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無料相談の受付は、24時間365日対応しております。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了