死亡事故の被害者遺族が行う葬式から損害賠償請求の流れ。家族が事故にあったら?
交通事故で被害者が亡くなった場合、悲しみや加害者に対する怒りがある中で、ご遺族は被害者本人に代わってさまざまな対応をしなければなりません。
示談交渉など慣れない対応も多いうえ、死亡事故の場合はお葬式の流れも、病気などで亡くなった場合とは違うことがあります。
突然のことではかり知れないショックに襲われている中、初めての対応を多くこなすことは大変だと思います。本記事では、交通事故のご遺族がすべきことを詳しくわかりやすく解説していくので、参考にご覧ください。
目次
被害者遺族が行う交通事故からお葬式までの流れ
交通事故で被害者が亡くなった場合、お葬式までの流れは以下のとおりです。
- 事故の連絡
- 検死・司法解剖
- ご遺体の引き渡し
- 死亡届の提出
- お葬式
それぞれのフェーズについて詳しく解説します。
(1)事故の連絡
被害者が交通事故に巻き込まれて亡くなられた場合、身元を調べて、ご家族に事故の連絡がきます。
被害者が免許証や車検証、健康保険証などをお持ちの場合は速やかに連絡をもらえますが、お持ちでない場合は連絡が来るまで一定程度の時間を要するでしょう。
(2)検死・司法解剖
事故現場や救急車の中で医師に看取られずに亡くなった場合、警察による検死が必要です。
検死は事故直後におこなわれることもあれば、事故の翌日以降におこなわれることもあります。検視の結果、不審な点が見つかった場合は司法解剖も実施されます。
検死ではメスなどを使うこともありますが、外傷やレントゲン撮影などで死因が明らかになる場合は、目視のみとなることが多いです。
交通事故後に病院で医師に看取られて亡くなった場合、司法解剖は基本的におこなわれません。
また、事故によってはご遺体の損傷が考えられるので、エンバーミングも検討してください。交通事故との因果関係が認められれば、エンバーミングにかかる費用は加害者に請求可能です。
(3)ご遺体の引き渡し
ご遺体の引き渡しについては、検死や司法解剖が必要であったかどうかで流れが少し異なります。
- 検死・司法解剖が不要な場合
検死や司法解剖が不要な場合は、基本的にすぐにご遺体を引き取ることが可能です。医師による死亡診断書が作成されるので、死亡届の提出用と保険会社への損害賠償請求用に2通もらっておきましょう。 - 検死・司法解剖が必要な場合
検死や司法解剖が必要な場合は、ご遺体の引き渡しが事故から数日後になることがあります。引き渡しの前に警察から被害者の身体的特徴や所持品などについて質問され、遺体安置室でご遺体の確認をすることもあります。
検死や司法解剖がおこなわれた場合は死体検案書が交付されるので、受け取ってください。
(4)死亡届の提出
交通事故で被害者が亡くなった場合は、死亡の事実を知った日から7日以内に死亡届を提出してください。死亡届の提出は、戸籍法第86条で定められています。
死亡届の提出先は、被害者が死亡した場所、被害者の本籍地、届出人の所在地のいずれかの市区町村役場です。
死亡届の提出時には死亡診断書や死体検案書が必要なので、忘れず用意してください。
死亡届を提出すると、火葬に必要な「埋火葬許可証」という書類が発行されます。
なお、場合によっては葬儀社が代わりに死亡届を出してくれることもあります。
(5)お葬式
基本的に、お葬式は葬儀社などの指示に従って進めるようにしてください。
細かい進め方は、地域や宗派などによって違うこともあるので確認しておきましょう。
コラム|加害者の参列や香典は拒否できる?
加害者側が通夜・葬儀への参列や香典を申し出てきても、受け入れたくなければ拒否できます。
通夜・葬儀への参列や香典を受け入れると、ご遺族側は加害者に対して一定の許しを示していると判断されることもあります。
示談交渉や刑事裁判に悪影響が出る可能性もあるので、加害者側の申し出を受け入れるかどうかは慎重に判断してください。
加害者側の申し出を受け入れるべきか迷ったときは、弁護士に相談することもおすすめです。
今後の示談交渉や刑事裁判にどのような影響が出るのか、アドバイスをもらえます。
被害者遺族が行うお葬式後の手続きの流れ
被害者のお葬式が終わった後、被害者遺族が行う手続きの流れは以下のとおりです。
- 遺族年金・生命保険等の手続き
- 保険会社との示談による損害賠償請求
- 相続
それぞれのフェーズについて詳しく解説します。
(1)遺族年金・生命保険等の手続き
交通事故で亡くなった被害者が国民年金や厚生年金保険をかけていた場合、亡くなった被害者によって生計を維持されていたのであれば、条件を満たしていることで遺族年金を受け取ることができます。
また、交通事故で亡くなった被害者が生命保険に加入されていた場合、死亡保険の受取人となっていた方は、保険会社に対して死亡保険金を請求してください。
(2)保険会社との示談による損害賠償請求
交通事故で被害を受けた場合、加害者側が加入する任意保険会社と示談交渉して、治療費や慰謝料などの損害賠償金を請求していくことになります。遺族は亡くなられた被害者に代わって、保険会社が提示してきた損害賠償金の額を確認し、示談を受けるかどうか判断することになる流れが通常です。
ここで安易に示談に応じてしまうと、後から補償を受けるべき損害に気づいたり、慰謝料の金額が妥当でないことを知ったりしても、示談が成立した後に請求することは通常できません。
提示を受けた金額に納得できない場合はもちろん、遺族として納得のいく金額に思えたとしても一度、弁護士に相談してみてください。
死亡事故の場合、損害賠償金額が高額になりやすいため、知識がないと妥当な金額のように見えてしまうこともあるからです。弁護士からしてみれば、さらに損害賠償金を引き上げられる可能性があるかどうかを判断できます。
特に、交通死亡事故の場合、加害者本人の言い分が通りやすい分、被害者の過失割合は大きく見積もられやすい傾向にあります。交通死亡事故ではどのように過失割合が決められていくことになるのか、過失割合を適正にする方法などについて詳しくは『交通死亡事故の過失割合はどう決まる?被害者が亡くなっても過失はつく?』の記事をご覧ください。
なお、交通事故の損害賠償請求に関する具体的な方法については、この後に解説しますので引き続きご覧ください。
(3)相続
交通事故で亡くなった被害者が生前に保有していた財産は、遺産として相続人が相続します。
被害者が遺言状を作成していない限り、法定相続割合に基づいて遺産を分割するのが原則です。
なお、交通事故の損害賠償金に関しても相続対象に含まれるので、生前に保有していた財産と損害賠償金をトータルしたものについて話し合っておく必要があります。
亡くなった家族の代わりに被害者遺族が行う賠償請求の注意点
被害者遺族が損害賠償請求する場合に知っておきたい注意点について解説します。
損害賠償請求は被害者遺族から選ばれた相続人が行う
死亡事故の場合、被害者に代わってご遺族から選ばれる「相続人」が示談交渉を通して損害賠償請求を行います。
相続人の選出方法は以下のとおりです。
相続人の選出方法
- 被害者に配偶者がいる場合、配偶者は必ず相続人となる。
- そのうえで、以下のようにさらに相続人を選出する。
- 子供がいる場合は子供(養子も含む)。子供がいなければ孫。
- 子供も孫もいなければ、両親など直系尊属。養父母も含む。
- 直系尊属もいなければ兄弟姉妹。
なお、加害者側は死亡事故だからといって、交渉態度を緩めるとは限りません。
死亡事故の損害賠償金は高額になりがちだからこそ、厳しい態度で交渉に臨んでくることもあります。
死亡事故では示談交渉次第で賠償金が数百万〜1,000万円以上変わることもあります。
示談交渉は弁護士に任せることも可能なので、不安がある場合はぜひ検討してみてください。
被害者遺族が損害賠償請求する流れ
死亡事故の被害者遺族が賠償請求する流れは、次のとおりです。
- 葬儀が終わり、すべての損害が確定したら加害者側の任意保険会社から示談案の提示を受ける
- 示談案の内容について、主に電話やFAXなどで交渉
- 示談成立後、示談書が届くので署名・捺印して加害者側の任意保険会社に返送
- 2週間程度で賠償金が支払われる
示談開始のタイミングは、四十九日を過ぎた頃が一般的です。
少なくとも葬儀が終わるまでは、最終的にどのような損害がどれくらい生じたのか判断できないため、適正な賠償額を算定できません。
もし葬儀開始前に示談案が届いても、交渉を始めないようにしましょう。
示談金の一部を早く受け取る方法
交通事故では、賠償金を受け取れるのは基本的に示談成立後です。
しかし、死亡事故では示談成立前に葬儀があるなど、賠償金を受け取る前にまとまったお金が必要になりがちです。
早く賠償金を受け取りたい場合は、被害者請求や仮渡金の請求、内払い金の請求などを検討してみてください。
- 被害者請求
損害賠償金の一部を、示談成立前に加害者側の自賠責保険会社に請求する方法。 - 仮渡金の請求
被害に応じた金額を、賠償金の前払いのような形で加害者側の任意保険会社に請求する方法。死亡事故の場合は290万円。 - 内払い金の請求
休業損害などを、示談成立前に加害者側の任意保険会社に請求する方法。
それぞれで特徴や手続きの方法が違います。詳しくは以下の関連記事をご覧ください。
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損害賠償金を受け取った後の分配方法
死亡事故の場合、被害者本人に対して支払われる損害賠償金は、ご遺族の中で分割されてから受け取ることになります。
分割方法はご遺族の中で話し合った結果に従うか、法定相続分に従うことになります。
法定相続分に従う場合は先述の相続人の中で賠償金が分配されます。分配の割合は以下のとおりです。
- 相続人が配偶者と子の場合
配偶者:子=1:1 - 相続人が配偶者と直系尊属の場合
配偶者:直系尊属=2:1 - 相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合
配偶者:兄弟姉妹=3:1
たとえば、相続人が配偶者と直系尊属である被害者の父母だった場合、配偶者が被害者分の損害賠償金の3分の2を、父母がそれぞれ6分の1ずつを受け取ることになるのです。
死亡事故における相続人の選出方法や遺産分割については、『交通事故の慰謝料|遺産分割できる相続人は?相続分はどれくらい?』の記事で詳しく解説しているのでご確認ください。
被害者遺族が請求できる損害賠償金の内訳・相場
死亡事故で請求できる損害賠償金の内訳は、主に以下のとおりです。
- 死亡慰謝料
- 死亡逸失利益
- 葬儀費用
- 治療関係費・休業損害・入通院慰謝料
死亡事故による損害賠償金の計算は『死亡事故の慰謝料相場は?被害者の死亡で遺族が請求すべき損害賠償金』でも詳しく解説していますが、本記事では損害賠償金の内訳についてそれぞれ相場とあわせて簡単に解説していきます。
死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、交通事故で死亡した「被害者本人」と「被害者遺族」の精神的苦痛に対する補償のことです。死亡慰謝料は、被害者本人分だけでなくご遺族分も支払われるのです。
過去の判例に従った死亡慰謝料の相場は、ご遺族分の金額も含めて2,000万円~2,800万円です。
被害者の立場 | 金額 |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親・配偶者 | 2,500万円 |
その他の場合 | 2,000万円~2,500万円 |
飲酒運転・無免許運転・過度なスピード違反・信号無視・ひき逃げといった事情のある死亡事故であった場合、慰謝料の金額はさらに増額される可能性があります。
なお、死亡慰謝料の支払い対象となるご遺族は、基本的には配偶者・養父母含む両親・養子を含む子です。ただし、兄弟姉妹や内縁のパートナーも対象となることがあります。
実際の被害者との関係性などによっても判断は変わるので、気になる場合は一度弁護士に問い合わせることをおすめします。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、被害者が死亡することで得られなくなった将来的な収入に対する補償のことです。
死亡逸失利益については計算が複雑なので、以下の計算機からご確認ください。死亡慰謝料と合計した金額がわかります。
逸失利益の計算の仕組みについても知っておきたい方は、『【逸失利益の計算】職業別の計算方法を解説!早見表・計算機つき』の記事をご確認ください。
注意
示談交渉時に加害者側が提示してくる金額は、本来被害者が受け取るべき適正な相場より大幅に低いことが多いです。死亡慰謝料については提示額をみれば気づけることもあるかもしれませんが、特に死亡逸失利益については計算が複雑なので、判断が容易ではありません。
提示された金額を鵜呑みにせず、法律相談を通して弁護士に確認してもらいましょう。
葬儀費用
葬儀費用とは、通夜・葬儀などに関する費用のことです。
葬儀などに関して、一般的に加害者側に対して請求が認められる費目と認められにくい費目は、次のとおりです。
請求 | 費目 |
---|---|
認められる | 通夜・葬儀 火葬 祭壇 墓石 位牌 |
認められにくい | 香典返し 引き出物代 遺体運送料 初7日法要など通夜・葬儀以外の法要費用 |
通夜・葬儀、火葬、祭壇、墓石、位牌といった葬儀費用については、加害者側への請求が可能です。基本的に、葬儀費用は150万円程度を上限として実費請求できるとされます。
加害者側との交渉次第では150万円より低い金額しか補償されない可能性もありますが、金額の正当性を証明できれば、150万円以上の金額が補償されることもあるでしょう。
一方、葬儀費用でも、香典返し・引き出物代・遺体運送料などは加害者側に請求できない可能性が高いです。中には交渉により加害者側への請求が認められた事例のある費目もありますが、少なくともご遺族による示談交渉では請求は難しいとお考えくだい。
いずれにせよ、葬儀費用については実費での請求となるので、領収書は捨てずにすべて保管しておくようにしましょう。
治療関係費・休業損害・入通院慰謝料など
交通事故後、一定期間の治療を受けてから亡くなられた場合、治療関係費・休業損害・入通院慰謝料なども請求できます。
事故現場で亡くなられたり、病院に搬送直後に亡くなられたりした場合、これらの費目は請求できないのが通常です。
刑事裁判に関する被害者遺族の疑問にお答え
Q.遺族が刑事裁判に参加できる「被害者参加制度」とは?
死亡事故で加害者が起訴され、刑事裁判が行われる場合、ご遺族は「被害者参加制度」を利用して裁判に参加できます。
被害者参加制度を利用すると、検察官に意見を述べたり、証人や被告人に質問したりすることが可能です。
被害者参加制度を利用する場合は事前に申し出ておく必要があるので、利用するかどうかは早めに検討しておきましょう。
なお、被害者参加制度を利用しなくても、訴訟記録を確認したり、被害者側としての心情を述べたりすることは可能です。
Q.刑事裁判が行われる場合に注意すべきことは?
加害者が刑事裁判を受ける場合、加害者側から「刑事面の示談」を持ちかけられることがあります。刑事面での示談への対応は、慎重に判断するようにしてください。
刑事面での示談とは、加害者側が「被害者からの許し(宥恕)」を得るためのものです。刑事面での示談が成立していると、一定の和解はできているとして加害者に対する刑事処罰が軽減される可能性があります。
加害者の減刑を望まない場合は、刑事面での示談に応じないようにしましょう。
刑事面での示談と損害賠償金の示談は別物
刑事面での示談と、損害賠償金や過失割合について決める示談(民事面での示談)は別物です。
すでに民事面での示談が成立し、損害賠償金を受け取っていたとしても、必ずしも刑事面での示談に応じる必要はありません。
刑事面での示談と民事面での示談は切り離して考えるようにしてください。
家族が事故にあったら弁護士にご相談ください
ご家族が交通事故に遭い、亡くなった場合は、一度弁護士に相談することをおすすめします。
死亡事故はその他の人身事故と違い、事故後の流れや損害賠償請求、受け取った損害賠償金の分割など複雑な点が多いです。
また、大きなショックを受けたばかりのご遺族が、被害者本人に代わってさまざまな手続きをするのは非常に大変です。弁護士に相談しその後の手続きを一任すれば、心身の負担も軽減できますしご家族を送り出すことにも専念できるでしょう。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了