交通死亡事故の過失割合はどう決まる?被害者が亡くなっても過失はつく?

交通死亡事故の過失割合は、事故類型ごとに定められた「基本の過失割合」に事故固有の「修正要素」を加味して算定されます。多くの場合は加害者側の任意保険会社との示談交渉のなかで決まります。
被害者が亡くなったら必ず過失割合が0%になるわけではありません。事故が起きた状況に応じて被害者側にも一定の過失が認められることがあります。
死亡事故では、事故状況を説明できる被害者本人がいないため、加害者側の言い分をもとに事故状況が組み立てられやすいという構造的な問題があります。損害賠償額が大きい死亡事故では、過失割合が1割動くだけで受け取れる金額が数百万円変わることも珍しくありません。
この記事では、交通死亡事故の過失割合がどのように決まるのか、被害者側が不利になりやすい理由、そして提示された過失割合を適正にしていくための具体的な方法を解説します。
目次
交通死亡事故でも被害者に過失割合はつく
過失割合は事故が起きた責任の割合

過失割合とは、交通事故が生じた責任が被害者と加害者のどちらにどのくらいあったのかを、数値で示したものをいいます。
死亡事故かどうかにかかわらず、事故が発生した責任(過失)が双方にあった場合は、被害者が亡くなられていたとしても過失割合はつくことになります。民法でも、被害者に過失があれば損害賠償額に影響すると定められています。
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
民法 第722条2項
この条文にもとづき、被害者側の過失割合の分だけ損害賠償金が減額されることを「過失相殺」といいます。
交通事故で被害者が亡くなっているにもかかわらず、被害者に過失割合がつくこと自体に納得できない気持ちになるのは当然のことです。しかし賠償実務では、亡くなられたという結果と、事故が発生した責任の所在とは、別の問題として扱われます。
過失割合が1割違うと賠償金はいくら変わるか
死亡事故は、死亡慰謝料や死亡逸失利益といった金額の大きい費目が中心となるため、損害の総額が数千万円規模になることが多くあります。そのため過失割合が1割変わるだけでも、最終的に受け取れる金額が大きく変動します。
【参考】損害総額5,000万円の死亡事故における過失相殺後の金額
| 被害者側の過失割合 | 過失相殺後の金額 | 0%の場合との差 |
|---|---|---|
| 0% | 5,000万円 | ― |
| 10% | 4,500万円 | −500万円 |
| 20% | 4,000万円 | −1,000万円 |
| 30% | 3,500万円 | −1,500万円 |
| 50% | 2,500万円 | −2,500万円 |
※説明のための簡易な試算です。実際には加害者側に生じた損害との相殺や、既払金・自賠責保険金の控除などにより金額は変わります。
交通死亡事故の過失割合はどうやって決まる?
交通死亡事故の過失割合が、誰によってどのような手順で決まるのかを解説します。
過失割合を決めるのは警察ではなく当事者間の示談交渉
過失割合は、基本的に示談交渉(事故の賠償問題について和解するための話し合い)を通じて決まります。
交通死亡事故で賠償請求をする場合でも、すべてのケースが裁判になるわけではありません。多くの場合はまず示談交渉から始まり、そこで賠償金(≒示談金)を決める前提として過失割合も決められます。
なお、事故現場で実況見分を行うのは警察ですが、警察が事故の過失割合を決めるわけではありません。実況見分調書はあくまで過失割合を検討するための資料の一つという位置づけです。
交通死亡事故の過失割合の例(3対7の場合)

※参考:別冊判例タイムズ39【Ⅰ-33】
過失割合の決め方
交通死亡事故の過失割合は、以下の流れで決めることになります。
過失割合を決める流れ
- 基本の過失割合の確認
「追突事故」「交差点の出会い頭事故」など、事故のおおまかな事故類型ごとに決められている「基本の過失割合」を確認する - 個別の修正要素で調整
信号の色やスピード違反の有無・程度、安全不確認などその事故固有の要素(修正要素)に応じて、基本の過失割合を調整する
示談交渉でも裁判でも、この基準にあてはめて検討するのが一般的です。

過失割合を決めるさらに詳しい流れや、修正要素については関連記事もご参照ください。
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交通死亡事故の被害者は過失割合が不利になりやすい
最終的に過失割合がいくらになるかは加害者側との示談交渉で決められますが、交通死亡事故の場合、どうしても被害者の過失割合が不利になりやすい事情があります。
被害者の過失割合が不利になりやすい事情
- 被害者本人が事故の状況を説明できない
- 実況見分調書が加害者の説明をもとに作られやすい
- 保険会社が被害者の過失を大きく見積もることがある
それぞれ詳しく解説します。
被害者本人が事故の状況を説明できない
まず、死亡事故で被害者側の過失割合が不利になる理由の一つとして、加害者の説明に反論できる人がいないことが挙げられます。
被害者が存命の事故なら、双方から話を聞き、食い違う点を突き合わせながら事故状況を検討できます。
ところが死亡事故では、事故当時の状況を語れるのが加害者だけという状況になりやすく、加害者の主張がそのまま通ってしまうことがあります。
実況見分調書が加害者の説明をもとに作られやすい
死亡事故では、加害者に有利な内容の実況見分調書が作成されてしまうおそれもあります。
実況見分調書とは、事故直後の警察の捜査結果をまとめた書類で、過失割合を算定する際に用いられる資料の一つです。事故現場で当事者が「ここで相手に気づいた」「ここで衝突した」と指示説明した内容が、そのまま図面に落とし込まれます。
死亡事故では、指示説明ができるのが加害者だけです。「被害者が信号無視をした」「突然飛び出してきた」と説明されても、その場で否定できる人がいないまま、図面が完成することがあります。
保険会社が被害者の過失を大きく見積もることがある
保険会社は亡くなった被害者の過失が大きくなるよう見積もってくることがあります。
そもそも保険会社は、死亡事故であろうと、軽傷や物損のみの事故であろうと、保険会社が支払うことになる金額をできる限り抑えようとする傾向があります。
過失割合は最終的な損害賠償金の金額に影響するため、被害者の過失が大きくなるように保険会社は算定してくるでしょう。
加害者の主張が通りやすいという状況も相まって、保険会社が提示するままの過失割合をそのまま被害者遺族が受け入れてしまうリスクもあるのです。
交通死亡事故の過失割合を適正にする方法
交通死亡事故の過失割合が不利なままだと、被害者遺族が受け取れる損害賠償金が減ってしまいます。過失割合を適正にする以下の方法で、損害賠償金の減額リスクに備えておきましょう。
死亡事故の過失割合を適正にする方法
- 警察の捜査に被害者遺族として協力する
- ドラレコや防犯カメラ映像などが残っていないか確認する
- 事故の目撃者を探す
- 実況見分調書や供述調書を取り寄せる
- 示談交渉で弁護士を立てる
それぞれについて解説します。
(1)警察の捜査に被害者遺族として協力する
事故後に行われる警察による捜査(実況見分、聞き取り捜査)の結果は、過失割合の交渉時にも参考にされます。
事故時の状況を知るご遺族がいなかったとしても、以下の点を意識してできる限り捜査に協力しましょう。
- 加害者が警察に対し、明らかにおかしい証言をしていないか確認する
- 「被害者はこの道を通る際、常に安全確認を丁寧にしていた。ここで一時停止せずに進行したとは考えにくい。」などの意見を警察に伝える
警察の捜査結果は実況見分調書・供述調書にまとめられ、示談交渉だけでなく刑事裁判でも参考にされます。
加害者側に都合の良い内容にならないよう、被害者遺族として捜査に協力することがポイントです。
実況見分の流れについては『実況見分の流れや注意点』にてご確認いただけます。
86歳加害者の供述信用性が争点の死亡事故
東京地判平29・8・28(平成27年(ワ)21236号)
社会福祉法人理事(86歳)が運転する車が、信号機のない丁字路交差点を右折中に横断歩道を渡っていた女性(79歳)に衝突し死亡させた事故。加害者は「被害者が歩道から突然飛び出してきた」と主張し30%の過失相殺を求めたが、加害者が「認知症を伴うパーキンソン病」で供述の信用性が問題となった。
裁判所の判断
「…被告Y1の供述は信用することができない」
東京地判平29・8・28(平成27年(ワ)21236号)
- 加害者の供述における移動速度の計算が物理的に不合理
- 事故直後の実況見分と後の供述内容に矛盾
- 加害者の年齢(86歳)と認知症を伴うパーキンソン病による影響
- 検察審査会がY1の供述が不合理である等を理由として、不起訴処分を「不当」と議決
過失割合
被害者の過失0%
(2)ドラレコや防犯カメラ映像などが残っていないか確認する
被害者の車や周辺にいた車のドライブレコーダー、周囲の防犯カメラなどに事故時の状況が映っていないかも確認してみましょう。
もし映像として証拠が残っていれば、加害者側の説明が事実と異なっていても反論できます。
ただし、周囲の駐車場や店の防犯カメラは、見せてもらえないことがあります。弁護士を通して閲覧をお願いすると見せてもらえることもあるので、お困りの場合は弁護士にご相談ください。
ドラレコ映像にもとづく死亡事故の過失割合認定事例
東京地判令和5・3・27(令和3年(ワ)22655号)
77歳男性が犬を連れて夜間散歩中、反射材を身に着けてバイパス道路を横断していたところ、犬に引かれて体勢を崩し、時速50kmで走行してきた乗用車と衝突し死亡。被告運転者は、約15m手前で発見し急ブレーキをかけたが間に合わなかった。過失割合が争点となった。
裁判所の判断
「…ドライブレコーダーの映像によっても、衝突に至る前から、亡Aと思しき人物がセンターライン付近から横断している様子は確認できる」
東京地判令和5・3・27(令和3年(ワ)22655号)
- ドラレコ映像で被害者の「直前横断」を否定
- 被告の前方不注視による過失を客観的に立証
- 死亡慰謝料2000万円、賠償額は妻約1105万円、子3人各約368万円
過失割合
被害者の過失30%
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(3)事故の目撃者を探す
交通事故の目撃者が他にもいないか探してみましょう。通常、警察の捜査である程度の目撃者は集められているものですが、それでも捜査から漏れた他の目撃者がいる場合もあります。
事故の利害関係がない第三者である目撃者の証言は信用性が高いと判断されやすいです。
被害者遺族がみずから聞き込みをして目撃者を探すケースもありますが、非常に労力のかかる作業でしょう。場合によっては、目撃情報の提供を求める立て看板を警察に要請して設置してもらうこともできます。
無理のない範囲で、できることからはじめて目撃者を探しましょう。
目撃者証言にもとづく死亡事故の過失割合認定事例
横浜地判平19・6・19(平成17年(ワ)606号・平成18年(ワ)342号)
被害者・Aが原付で走行中、自転車で走行中のBと接触後、Cの運転する10トンダンプに轢過され死亡。C(ダンプ)は、Aの原付を全く認識せず、Bの自転車は後方確認を怠っていた。過失割合が争点となったが、当事者の主張が対立する中、利害関係のない第三者目撃者・Dが事故の瞬間を詳細に目撃しており、認定に寄与した。
裁判所の判断
「…過失が競合した一つの交通事故というべきものであり、三者間の関係に照らし、本件事故の原因となったすべての過失割合を認定することができる」
横浜地判平19・6・19(平成17年(ワ)606号・平成18年(ワ)342号)
- 目撃者は「事故及びその直前の状況を偶然に目撃したもの」であって、原告・被告・参加人らとは「何らの利害関係を有するものでない」
- 目撃者は「事故の具体的状況を目撃した」
- 目撃者は「事故直後に実施された実況見分に立ち会って、その目撃状況を指示説明し」「取調べにおいても、同様の供述をした」から、「認識記憶に大きな誤りがあるとは考え難い」
過失割合
被害者(原付)A:30%、 自転車B:10%、大型車運転者C:60%
(4)実況見分調書や供述調書を取り寄せる
警察の捜査が終わっている場合、実況見分調書や供述調書を取り寄せましょう。
加害者の言い分のみが反映された実況見分調書が作成されている可能性もありますが、内容を精査することで、事故状況についての新事実を発見したり、供述調書とあわせて確認することで加害者が主張する内容の矛盾点に気づけたりすることもあります。
実況見分調書の取り寄せ方法は、加害者の刑事処分の段階によって異なりますが、おおむね検察官か裁判所に申請することで取り寄せ可能です。
なお、供述調書の取り寄せに関しては、実況見分調書と比べるとハードルが高いと言わざるを得ません。もっとも、訴訟を提起して、供述調書が事故状況を証明するために必要不可欠な書類であると判断されれば、開示されることもあります。
弁護士がついていれば必要な証拠集めについても一任できるので、交通死亡事故の過失割合で争いになっている場合は、弁護士への依頼も検討しましょう。
実況見分調書にもとづく死亡事故の過失割合認定事例
横浜地判平24・4・26(平成21年(ワ)5052号)
被害者Aが原付で、信号機のない交差点を直進中、Bの運転する対向右折車と接触。その弾みで違法駐車のCのトラックに激突し、トラックの下に挟まれ気管損傷等で死亡した。右折車運転者Bは渋滞の隙間を慌てて通過しようとしていた。トラック運転者Cは缶コーヒー購入のため交差点の側端から5m以内に違法駐車していた。A・B・Cの三者の責任割合が争点となった。
裁判所の判断
「…実況見分調書、被告乙山供述及び被告丙川供述を総合すると、以下の事実が認められる。」
横浜地判平24・4・26(平成21年(ワ)5052号)
- Bは、被害者Aを発見したが、もはや衝突を回避することができなかった
- Aのバイクは、滑走してトラックに衝突した
- トラックは交差点の側端から5メートル以内に駐車していた
過失割合
被害者30%、被告乙山60%、被告丙川10%
(5)示談交渉で弁護士を立てる
対策をしたとしても、事故時の状況を知る被害者ご本人がいない以上、過失割合の交渉は不利になりがちです。
そうした状況でもしっかり交渉するには、交渉のプロである弁護士を立てることがおすすめです。
弁護士であれば、不利になりやすい状況でも実況見分調書の中身を分析・精査するなどし、事故状況に見合った過失割合に導ける可能性を高められます。
交通死亡事故の遺族がすべき賠償請求の対応については、関連記事でもくわしく解説しているので、あわせてお読みください。
アトムの解決事例(交通死亡事故)
こちらでは、過去にアトム法律事務所の弁護士が対応した交通死亡事故の事例をご紹介します。
横断歩道ひき逃げ死亡事故の賠償事例
横断歩道を渡っていた男性が直進の軽トラックに轢かれ亡くなったひき逃げ事件。
弁護活動の成果
過失割合に関する争点を有利に進め、粘り強い示談交渉により、3162万円の賠償金を獲得。
年齢、職業
80代以上、高齢者
過失割合8割でも3580万円獲得した事例
丁字路交差点で大型トラックと衝突し、自動車を運転していた男性が亡くなった死亡事故。加害車両が優先道路を走っていたため、被害男性の過失が8割とされる厳しい状況。
弁護活動の成果
人身傷害特約の活用と裁判での主張により、保険会社の支払い拒否を覆して和解に至りました。18か月の弁護活動で、最終的に3580万円を回収(過失相殺・既往症減額後の金額)。
年齢、職業
60~70代、パート
交通死亡事故の過失割合でお困りなら弁護士相談
交通死亡事故の過失割合のまとめ
交通死亡事故における過失割合は、過去の裁判例を参考に、事故状況を検討して決定されます。
被害者にも過失がある場合、損害賠償額が減額(=過失相殺)されるため、過失割合の決定は重要です。
特に死亡事故の場合は、被害者が死亡しているため、加害者側の主張が通りやすく、被害者側が不利になりがちです。
過失割合に納得がいかない場合は、有利な証拠を集め、反論することが有効です。
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ご家族が交通事故で亡くなられ、過失割合で争いになっている場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
死亡事故は、大切な家族を亡くした悲しみの中で事故後の対応や損害賠償請求をしていかねばなりません。
そのうえ、加害者側の保険会社から亡くなった被害者にも事故の原因(過失)があったような対応を取られると、心身の負担が大きいでしょう。手続きを弁護士に任せることで、その負担を軽くすることもできます。
アトム法律事務所では、弁護士による無料の電話相談・LINE相談を実施しています。ご状況を伺ったうえで、取り得る選択肢をご説明します。
ご相談を希望される場合は、以下の窓口よりお問い合わせください。最初は相談窓口スタッフが、事故状況や保険会社から言われている内容についてお伺いします。窓口へのお問い合わせは24時間365日受け付けています。お気軽にご連絡ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律税務グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
