過失相殺とは?計算方法の具体例や判例でわかりやすく解説!

この記事でわかること
過失相殺(かしつそうさい)とは、交通事故の過失割合に応じて損害賠償金が減額されることです。
自身に過失がある場合は、受け取れる損害賠償金に過失相殺が適用されるだけでなく、加害者に対して損害賠償金を支払わなければならないこともあります。
この記事では、過失相殺とは何かや具体例を交えた過失相殺の計算方法、過失相殺が争われた裁判例、過失相殺による減額をカバーしたり減らしたりする方法などを解説します。
目次

過失相殺とは?わかりやすく解説
過失相殺とは、被害者にも過失割合がついた場合、民法第722条に基づき、過失割合の分だけ損害賠償金が減額されることです。
被害者にも過失がある場合、損害賠償金の全額を加害者が負担するのは公平ではありません。そうした不公平を解消するために、過失相殺が適用されます。
- 過失割合:交通事故が起きた責任割合が、加害者側と被害者側のそれぞれにどれくらいあるのか示したもの。「加害者:被害者=80:20」などの形で表される。
- 過失相殺:自身についた過失割合分、受け取れる賠償金が減額されること。
過失相殺の根拠となっている、民法第722条の条文は以下のとおりです。
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
民法第722条2項
過失相殺の計算を具体例で解説
過失相殺では、自身についた過失割合分、損害賠償金が減額されます。
これについて、過失割合が8対2の場合と10対0の場合における具体例を見ていきましょう。
過失割合8対2の過失相殺
過失割合8対2における過失相殺の具体例は、次のとおりです。
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 8 | 2 |
請求額 | 80万円 | 200万円 |
過失相殺後の金額 | 16万円 | 160万円 |
まず加害者は、過失が8割あるため請求できる金額は8割減額されます。
したがって、過失相殺後の金額は80万円×(10割-8割)=16万円です。
続いて被害者は、過失が2割あるため請求額が2割減額されます。
したがって、請求額は200万円×(10割-2割)=160万円です。
過失割合10対0の過失相殺
過失割合10対0の場合、過失0の側には過失相殺による減額は発生しません。具体例をもとに見ていきましょう。
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 10 | 0 |
請求額 | 80万円 | 200万円 |
過失相殺後の金額 | 0万円 | 200万円 |
まず加害者は、過失が10割あるため請求できる金額は10割減額されます。
したがって、過失相殺後の金額は80万円×(10割-10割)=0万円です。
つまり、過失が10割あると過失相殺により、損害賠償金を請求できないということです。
続いて被害者は、過失が0割なので過失相殺されません。
したがって、請求額は200万円×(10割-0割)=200万円です。
過失が0割なら過失相殺による減額は発生しないということです。
交通事故の過失相殺に関する注意点
交通事故の過失相殺では、以下の注意点があります。
- 一見過失がなさそうでも、過失割合がつくケースがある
- 過失相殺で加害者への支払いが発生することがある
- 子供でも過失相殺されることがある
それぞれについて見ていきましょう。
一見過失がなさそうでも、過失割合がつくケースがある
被害者側に過失がない場合、つまり過失割合が「被害者:加害者=10:0」の場合は、基本的に過失相殺は適用されません。
ただし、一見過失がなさそうでも、実は過失割合がついて過失相殺されてしまうケースもあります。具体例を挙げると次の通りです。
- 被害車両に同乗していた場合
- ペットが交通事故に遭った場合
- 非接触事故の場合
それぞれについて、詳しく解説します。
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交通事故で過失割合が10対0になる場合とは?過失割合を減らす方法も解説
被害車両に同乗していた場合
家族や友人・知人の車に乗せてもらっており、同乗者の立場で交通事故に遭った場合、過失割合は運転者につくのが基本です。
ただし、以下の場合には同乗者にも事故当事者の一人として過失割合がつく可能性があります。
- 運転者が飲酒した状態や無免許の状態であることを知りながら同乗した場合
- 安全運転を妨げるような行為をした場合
- 危険運転をあおった場合
同乗者に賠償責任が生じるケースは『事故で同乗者が怪我|慰謝料請求相手と相場は?友達の車に乗っていて事故にあったら?』の中でも詳しく解説しています。
ペットが交通事故に遭った場合
ペットが交通事故に遭った場合、ペット自身に過失割合はつきませんが、ペットの保護監督責任を持つ飼い主に過失割合がつき過失相殺が適用されることはあります。
なお、ペットの被害で飼い主が精神的苦痛を受けても物損事故として扱われるため、原則として慰謝料を請求することはできません。
例外的に慰謝料が認められた事例もありますが、基本的には裁判が必要になるでしょう。
物損事故・物損被害における慰謝料請求については、『物損事故で慰謝料がもらえた事例|原則もらえない理由と獲得を目指す方法』で解説しているのでご確認ください。
非接触事故の場合
前方にいた車や人との接触を避けようとして転倒したような非接触事故の場合でも、以下のような事実が認められれば被害者側に過失割合がつきます。
- もっと早く、安全に接触を避けることが可能だった
- 速度違反をしていた
非接触事故の過失割合については、以下の関連記事も参考にしてみてください。
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過失相殺で加害者への支払が発生することがある
被害者の過失相殺が小さくても、加害者の被った損害の方が高額な場合、被害者の方が多く損害賠償金を支払うことになります。
たとえば過失割合が加害者:被害者=80:20の場合で、加害者の損害賠償金が1000万円、被害者の損害賠償金が100万円だったとしましょう。
加害者から被害者に請求できる金額は200万円、被害者から加害者に請求できる金額は80万円となります。双方の金額を差引きすると、被害者の方が120万円多く支払うことになるのです。
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 80% | 20% |
損害額 | 1000万円 | 100万円 |
過失相殺後の金額 | 1000万円×20% =200万円 | 100万円×80% =80万円 |
受け取る金額 | 200万円ー80万円 =120万円 | 0円 |
加害者が高級車を運転していたというようなケースでは、被害者よりも加害者の請求額が上回る可能性があるでしょう。
子供が被害者でも過失相殺されることがある
被害者が子どもでも、子どもに「事理弁識能力」が備わっていると判断されると、子どもにも過失割合が認められ、過失相殺の対象となります。
事理弁識能力
危機を察知して回避する能力をいい、裁判では、5〜6歳以上の子どもであれば認められる傾向にある。
「事理弁識能力」がまだ備わっていない子供については、過失と認められる行為があっても過失相殺の対象とはなりません。
子供に事理弁識能力がない場合、保護者に過失がつくことも
子供に「事理弁識能力」がなくても、その子供と身分上・生活上一体をなしている保護者に過失が認められる場合には、その過失を考慮して過失相殺が適用されることがあります。
具体的には、親が目を離した隙に子供が道路に飛び出してしまったケースでは、保護者である親の過失を考慮して過失相殺がおこなわれるでしょう。
この他に、被害者が13歳未満の子供だった場合、判断能力が未熟であることを考慮して大人よりも過失割合が減らされることもあります。
子供に過失割合がつくような交通事故については、『こどもの飛び出し事故対策と過失割合は?示談で不利にならない方法』で詳しく解
過失相殺が適用される流れ
続いて、過失相殺の計算方法や過失相殺後の賠償金の支払いなどについて、流れで解説します。
以下の流れに沿って確認していきましょう。
- 示談交渉で過失割合について話し合い、決める
- 被害者・被害者双方に過失相殺を適用する
- 被害者・加害者双方の金額を差し引きする
(1)示談交渉で過失割合について話し合い、決める
まずは、示談交渉にて過失割合を決めます。
過失割合は警察などが決めるものではなく、事故当事者あるいはその代理人による話し合いで決定されます。
基本的には示談交渉の際、加害者側の任意保険会社が算定して提示してくることが多いですが、あえて被害者側の過失割合を多く見積もっている場合もあるので要注意です。
鵜呑みにしないよう、被害者側でも以下の流れで過失割合を算定し、正しい過失割合を確認しておきましょう。
- 書籍「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 別冊判例タイムズ38号」に載っている事故類型から当該事故に近いものを探し、基本の過失割合を確認する
- 信号無視や飛び出し、スピード違反など、事故の個別的な事情(修正要素)に応じて過失割合を加算・減算させて、最終的な過失割合を算定する
ただし、過失割合は事故の細かい状況まで踏まえて柔軟に算定されるものです。
弁護士に確認した方が早く的確な過失割合がわかるため、自力で算定するよりも弁護士に問い合わせることをおすすめします。
例えばアトム法律事務所では、無料相談の中で過失割合の確認ができる場合もあります。

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(2)被害者・加害者双方の賠償金を過失相殺する
過失割合が決まったら、被害者側についた過失割合の分だけ、被害者が受け取れる損害賠償金を減額します。
損害賠償金に過失相殺を適用する計算式は、次の通りです。
過失相殺後の損害賠償金
=過失相殺前の損害賠償金 × (100% - 自身の過失割合)
ここは、以下の例に沿って実際に過失相殺してみましょう。
具体例の条件
- 過失割合 加害者:被害者=90:10
- 被害者の賠償金 500万円
- 加害者の賠償金 100万円
上記の場合、被害者が加害者に請求する賠償金は500万円です。被害者側についた過失割合は1割なので、過失相殺した結果は次のようになります。
500万円 × (100%-10%)=450万円
一方、加害者が被害者に請求する賠償金は100万円です。加害者側についた過失割合は9割なので、過失相殺した結果は以下の通りです。
100万円 ×(100%-90%)=10万円
(3)被害者・加害者双方の金額を差し引きする
ここまでの計算で、被害者の受け取れる賠償金は450万円、被害者が加害者に支払う金額は10万円だとわかりました。
加害者が被害者に450万円、被害者が加害者に10万円支払うと、被害者の実質的な受取額は440万円となります。
加害者側への支払い額が生じた場合は、実質的な受取額は単純に過失相殺した金額よりも低くなるのです。
被害者 (過失1割) | |
---|---|
加害者に請求する金額 | 450万円 |
加害者に支払う金額 | 10万円 |
実質的に受け取れる金額 | 440万円 |
なお、実際には加害者側が450万円、被害者側が10万円を相手に支払うのではなく、あらかじめ両者の金額が相殺されることが多いです。
つまりこの場合なら、初めから両者の過失相殺後の賠償金額を相殺し、440万円が加害者から被害者へ支払われるのです。
交通事故の過失相殺に納得いかない場合の対処法
過失相殺は受け取れる損害賠償金に影響する非常に重要なものです。
納得いかない部分があるまま示談してしまうと、受け取れるはずの金額が受け取れなくなってしまいます。
過失相殺に納得いかない場合の対処法について解説していきます。
示談交渉で過失割合を下げる
過失相殺に納得いかない場合は、被害者側の過失割合を下げるよう交渉しましょう。
たとえば加害者側への請求額が500万円で、被害者側の過失が3割だった場合、過失相殺によって150万円も減額されてしまいます。
しかし、過失割合が2割に下がれば、100万円の減額で済むのです。
過失相殺を減らすための交渉では、以下の点がポイントです。
- 事故状況を示す証拠を用意しておく
- 場合によっては片側賠償を目指す
それぞれについて解説します。
こちらも参考になる:交通事故の過失割合に納得いかない・おかしい!変更方法とゴネ得への対処法
事故状況を示す証拠を用意しておく
加害者側と過失割合の交渉をする際は、正しい事故状況を証明できるものを用意しておくべきです。
過失割合は事故状況をもとに決めるため、事故状況についての認識が加害者側と被害者側で合わず争いになるケースが多いからです。
具体的には以下の証拠を集めておくと良いでしょう。
- 事故車のドライブレコーダー
- 目撃者の証言
- 事故現場付近の監視カメラの映像
- 実況見分調書
実況見分調書の入手方法は『実況見分の流れや注意点!聞かれる内容や過失割合への影響、現場検証との違い』の記事をご覧ください。
場合によっては片側賠償を目指す
過失割合の交渉時には「片側賠償」を目指すのも一つの手です。
片側賠償とは「90:0」「80:0」など、被害者・加害者双方の過失割合を足しても100にならないものを指します。
片側賠償は被害者側にも加害者側にもメリットがある折衷案ともいえるので、過失割合の交渉が行き詰まった際に提案すると、話がまとまる場合があります。
過失割合が90:0の場合
- 被害者が被った損害賠償金が500万円だとすると、過失相殺によって実際に受け取れる金額は450万円になる(500万円の10%減額)
- 加害者が被った損害賠償金が100万円だとしても、過失割合に応じて支払う金銭は生じない
どのような場合に片側賠償になるのか、片側賠償の過失相殺はどのように適用されるのかは、『交通事故の過失割合9対0とは?片側賠償のメリットや過失相殺の計算例を紹介』でさらに詳しく解説しています。
示談交渉で損害賠償金自体を上げる
過失割合を下げることが難しそうなら、損害賠償金自体を増額させることがおすすめです。
たとえば過失割合3割の場合、損害賠償金が300万円なら過失相殺後の金額は210万円です。しかし、損害賠償金が400万円になれば、過失相殺後の金額は280万円となり、受取額が上がります。
加害者側が提示してくる損害賠償額は元々低く計算されている傾向があります。
過去の判例に基づく法的正当性の高い方法で計算すれば、もっと高い金額を請求できることがあるので、損害賠償金の増額交渉も検討してみてください。
関連記事
交通事故の慰謝料は弁護士基準(裁判基準)で請求!相場と増額成功のカギ
【参考】加害者側が主張する過失相殺が覆された判例
ここからは、加害者側が主張する過失割合や過失相殺が、裁判で覆された判例を紹介します。
過失相殺の交渉での参考にしてみてください。
自動車と自転車との衝突事故
信号のない交差点で右折した自動車が左方から直進してきた自転車の右後方に衝突した交通事故の事例です(名古屋地裁平成29年8月22日判決 平成25年(ワ)第5106号 損害賠償請求事件)。
被告となった自動車の運転手は、自動車が優先道路から右折した際に発生した事故であるから、原告の自転車運転手に40%の過失が認められるとして過失相殺を主張しました。
しかし、裁判所は以下の点から過失割合は10対0、つまり自転車運転手に過失はないと判断しました。
自動車運転手の過失について
- 被告は右折する際、左右に注意する安全配慮義務を負っていたのに、これを怠った
- その結果、右方から進行してくる車両に驚き、漫然と左にハンドルを切ったため、自車を左前方にいた原告自転車に接触させた過失が認められる
自転車運転手の過失について
- 本件事故は交差点内ではなく、原告自転車が交差点を渡り切った辺りで起きている
- 右後方から被告自動車に衝突された
- 上記を踏まえると原告には過失相殺されるほどの落ち度は認められない
自動車と歩行者との死亡事故
直進自動車が、進路左前方を歩行中の歩行者に衝突した死亡事故の事例です(京都地裁平成21年8月10日判決 平成21年(ワ)第95号 損害賠償請求事件)。
被告となった自動車の運転手は、歩行者が路側帯がある道路にもかかわらず、車道を歩行していたことなどから、原告側に25%の過失が認められるとして過失相殺を主張しました。
しかし、裁判所は以下の点から過失割合は10対0、つまり歩行者に過失はないと判断しました。
自動車運転手の過失について
- 脇見をした著しい前方不注意という過失がある
歩行者の過失について
- 歩行者は路側帯の中ではなく、車道の中に約0.5m入った所を歩行していた
- しかし、事故現場付近の状況や事故態様、被告の過失の内容・程度、歩行者の年齢(当時81歳)などを考慮すれば、歩行者にかかる事実を過失相殺における被害者の過失と認めるのは相当でない
自動車と電動自転車との死亡事故
センターラインのない市道で、自動車が電動自転車と正面衝突した死亡事故の事例です(東京地裁八王子支部平成16年8月27日判決 平成15年(ワ)第1555号 交通事故による損害賠償請求事件)。
被告となった自動車の運転手は、自転車運転手は、道路交通法上、道路左側を通行すべきであったのに右側を通行していたなどの過失があり、大幅な過失相殺が認められるべきと主張しました。
しかし、裁判所は、自転車運転手に道路交通法違反の過失はあるとしつつも、以下の点から過失割合は10対0、つまり自転車運転手の過失は0だとと判断しました。
自動車運転手の過失について
- 被告車と接触する可能性があることを十分予測でき、かつその危険を回避可能であったにもかかわらず危険回避義務を怠った結果、本件事故を発生させたといえる
自転車運転手の過失について
- 事故の発生経緯を踏まえると、自転車運転手の過失を損害賠償額の算定において斟酌することは相当ではない

過失相殺による減額をカバーする方法
過失割合による減額は、カバーすることも可能です。過失相殺されたままだと慰謝料を十分受け取れなかったり、治療費や車の修理費の一部が自己負担になってしまったりします。
過失相殺をカバーする方法を確認していきましょう。
(1)人身傷害保険を利用する
人身傷害保険を利用すると、過失相殺による減額をカバーできます。
人身傷害保険は被害者が加入する自動車保険のひとつで、被保険者やその家族が交通事故で死傷した場合、設定金額を上限に実損害額を受け取れるものです。
人身傷害保険の保険金に対しては、過失相殺による減額はなされません。
そのため、人身傷害保険を利用すれば過失相殺による減額分をカバーできるのです。
人身傷害保険の利用によって保険の等級が下がることがない点もポイントです。
人身傷害保険について詳しくは、『人身傷害保険ってどんな保険なの?慰謝料も受け取れる保険について解説』の記事もご覧ください。
(2)被害者請求で自賠責保険からお金を受け取る
被害者側の過失割合が大きい場合は、「被害者請求」という方法により加害者側の自賠責保険会社に賠償請求すると、過失相殺による減額幅が抑えられることがあります。
被害者請求とは
交通事故の損害賠償金には「加害者側の任意保険の支払い分」と「加害者側の自賠責保険の支払い分」があり、多くの場合はすべてまとめて加害者側の任意保険会社から支払われます。
しかし、自賠責保険の支払い分を加害者側の自賠責保険会社に直接請求することも可能です。これを、被害者請求といいます。

被害者保護の考え方から、自賠責保険では過失相殺による減額が制限されています。
被害者請求で受け取れる賠償金については、過失が7割未満なら過失相殺はされず、7割以上でも過失相殺の減額幅が抑えられるのです。
表1|傷害分に対する過失相殺
傷害分とは治療関係費・入通院慰謝料・休業損害のこと。
被害者の 過失割合 | 過失相殺 |
---|---|
7割未満 | 過失相殺なし |
7割以上10割未満 | 2割減額 |
表2|後遺障害分・死亡分に対する過失相殺
後遺障害分とは後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益のこと。死亡分とは死亡慰謝料・死亡逸失利益・葬祭関係費のこと。
被害者の 過失割合 | 過失相殺 |
---|---|
7割未満 | 過失相殺なし |
7割以上8割未満 | 2割減額 |
8割以上9割未満 | 3割減額 |
9割以上10割未満 | 5割減額 |
たとえば、被害者の過失割合が6割の場合、以下の2パターンのうち(2)の方がかえって受取額が大きくなる場合があるのです。
- 加害者側の任意保険会社に、任意保険の支払い分も自賠責保険の支払い分も両方請求し、その合計額が6割減額される
- 被害者請求で自賠責保険の支払い分のみを請求し、過失相殺が適用されない
具体例
被害者の過失割合が6割、被った損害賠償金が130万円(自賠責分が120万円、任意保険分が10万円)の場合
- 加害者側の任意保険会社に130万円一括で請求した場合
130万円に6割の過失相殺が適用されるので、実際の受取額は52万円 - 加害者側の自賠責保険に120万円を被害者請求した場合
自賠責保険では過失割合7割未満だと過失相殺されないので、120万円受け取れる
実際に試算してみて被害者請求をした方が金額が大きくなる場合は、被害者請求をした方が良いでしょう。
被害者請求についてさらに詳しくは、関連記事『自賠責保険への被害者請求とは?やり方やデメリット、すべきケースを解説』も参考にしてみてください。
過失相殺に関する疑問にお答え
続いて、過失相殺についてよくある以下の疑問にお答えします。
- 自分の自動車保険を使うときも過失相殺される?
- 過失相殺と損益相殺の違いとは?
Q.自分の自動車保険を使うときも過失相殺される?
過失相殺は、自分の自動車保険から受け取る保険金に対しては適用されません。
たとえば人身傷害補償特約では、設定金額を上限とした実損害額が、過失相殺なしに支払われます。
車両保険や搭乗者傷害保険などにも、過失相殺は適用されません。
ただし、被害者側の過失が大きすぎる場合にはそもそも保険を利用できないことがあります。詳しくはご加入の保険の約款をご確認ください。
Q. 過失相殺と損益相殺の違いとは?
過失相殺と混同しがちな制度として「損益相殺」があります。
損益相殺は、損害賠償金が減額されるという点は過失相殺と共通していますが、損害の填補として既に受け取った金銭を減額するという減額の内容が異なります。
過失相殺で減額されるのは、損害の公平な分担が理由ですが、損益相殺で減額されるのは実際の損害額以上の金額を受け取らないようにする二重取りの禁止が理由です。
そのため、被害者側に過失がなく、過失相殺による減額がないケースでも、損益相殺による減額があるケースもあるので注意が必要です。
損益相殺の具体例としては、損害賠償金を受け取る前に、以下のような保険給付を受け取っていた場合が考えられます。
- 自賠責保険金
- 政府保障事業のてん補金
- 自分が加入している自動車保険から受け取った人身傷害保険金
- 治療費の健康保険負担分
- 労災保険給付 など
過失相殺に納得できないなら弁護士に相談しよう
過失相殺は受け取れる損害賠償金額に大きく影響する重要なものです。だからこそ、加害者側の任意保険会社も過失相殺についてはシビアに交渉してくるでしょう。
もしも過失相殺に関して少しでも疑問や不安があるのなら、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
ここからは、その理由について紹介します。
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弁護士なら法的知識に基づいた正しい過失割合を主張できる
弁護士に相談すると、法的根拠に基づいた過失割合を主張できるようになります。
過失割合は事故状況をもとに、過去の判例なども参考にしながら柔軟に算定するものなので、確固たる答えがあるわけではありません。
その中で実際の事故状況に沿った適切な過失割合を算定するためには、専門知識が必要です。
被害者ご自身が専門書や過去の判例などを調べて過失割合を算定しても、加害者側の任意保険会社は根拠に欠けるとして受け入れないでしょう。
よって、専門家である弁護士によって算定された過失割合を知ることは非常に重要なのです。
示談交渉まで依頼すればさらに効果的
より確実に過失相殺を適切なものにするためには、示談交渉まで弁護士に任せることがおすすめです。
いくら弁護士が算定した過失割合であっても、実際に交渉に当たるのが被害者ご自身である場合、加害者側の任意保険会社はなかなか聞き入れようとしません。
示談交渉では、主張に根拠があるかだけでなく、「誰が交渉しているのか」によって結果が変わることもあるのです。
実際、「弁護士が出てきたら被害者側の主張を受け入れる」という方針を取る保険会社もいます。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了