非接触事故(誘因事故)とは?立ち去りへの対処法や過失割合、慰謝料を解説

非接触事故(誘因事故)とは、相手方とはぶつからずに発生した事故です。
「急に飛び出してきた自動車を急ブレーキで避けたら首を痛めた!」
「急に車線変更してきた自動車を避けてバイクで転んだ!」
上記のような、物理的な接触がない交通事故を非接触事故と呼びます。
非接触事故でも、相手方の運転と発生した損害に因果関係があれば、損害賠償を請求できます。
しかし、因果関係の立証が難しいことや、過失割合で非常にもめやすいことには注意しなければなりません。
この記事では、非接触事故にあったときの対応や過失割合について解説しています。
また、非接触事故で立ち去りにあった場合の対処法もお伝えしているので、ぜひご参考ください。
目次
非接触事故(誘因事故)とは?
非接触事故(誘因事故)とは?具体例で解説
非接触事故(誘因事故)とは、相手方の危険行為に誘発されて起きた、当事者同士の物理的な接触がない交通事故のことです。
非接触事故の例としては、以下のものがあげられます。
非接触事故の例
- 車の運転中、交差点の出会い頭で相手方とぶつかりそうになり、回避したものの縁石やガードレールにぶつかった
- 車の運転中、交差点で急に右折してきた車を避けた結果、何にもぶつからずに済んだが急ブレーキの衝撃で首を痛めた
- 歩行中、急に飛び出してきた自転車を避けようとして転倒した
- バイクの運転中、合図なく車線変更してきた車を避けるため急ブレーキをかけて転倒した
非接触事故でも賠償請求できる!費目一覧
加害者側と衝突したわけではない非接触事故でも、ケガをしたり車などの物が損傷したりすれば、加害者側に損害賠償請求ができます。
請求できる損害賠償金の内訳は、通常の交通事故と同じで以下のとおりです。

非接触事故の損害賠償金の内訳
- 事故でケガをしたことによる費目
- 入通院慰謝料(ケガをした精神的苦痛の補償)
- 休業損害(働けなかった場合の減収の補償)
- 治療関連費 など
- 事故で後遺障害を負ったことによる費目
- 後遺障害慰謝料(後遺障害を負った精神的苦痛の補償)
- 後遺障害逸失利益(後遺障害のため減る生涯収入の補償)
- 将来介護費 など
- 事故で亡くなったことによる費目
- 死亡慰謝料(亡くなった精神的苦痛の補償)
- 死亡逸失利益(亡くなったため失われた生涯収入の補償)
- 葬儀費用
- 事故で物が壊れたことによる費目
- 車両の修理費用・買い替え費用 など
加害者側の任意保険会社は、あえて低く計算した損害賠償金を提示してくることが多いです。
また、非接触事故の賠償請求では、通常の交通事故と同じように「過失割合」が決められます。
過失割合とは、加害者側と被害者側の責任を割合で示したもので、自身についた過失割合分、損害賠償金が減額されます。
加害者側から提示された損害賠償金額や過失割合に疑問があったり、納得いかないと感じたりする場合は、すぐに受け入れるのではなくいったん弁護士に相談することがおすすめです。
非接触事故の過失割合については、本記事内でも後ほど解説するので参考にしてみてください。
- 損害賠償金の相場についてはこちら:交通事故の損害賠償とは?請求できる賠償金の費目範囲や相場・計算方法を解説
非接触事故で加害者側に科される罰則
非接触事故でも、被害者に人身被害が生じれば、加害者は「過失運転致死傷罪」に問われ、「7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」に科される可能性があります。
ただし、被害者のケガが軽微なものであれば過失運転致死傷罪に問われないこともあるほか、加害者の前科の有無なども総合的に判断して罰則が決定されます。
また、加害者はほかにも、被害者に対して賠償金を支払う責任(民事責任)を負うことになります。さらに、行政責任として免許の違反点数が加算されることもあるでしょう。
交通事故の加害者が負う責任については、関連記事『道路交通法違反の一覧!人身事故の違反点数や反則金・罰則・免停を解説』で詳しく解説しています。
非接触事故(誘因事故)にあったときにとるべき行動
非接触事故にあった場合でも、基本的な対応は通常の交通事故と変わりません。
非接触事故にあった場合に取るべき行動について見ていきましょう。
(1)発生時:加害者を呼び止める
(2)発生直後:警察・救護への通報と現場保全
(3)事故後なるべく早く:病院で受診
(4)治療完了後:示談交渉・損害賠償請求
(1)発生時:加害者を呼び止める
非接触事故にあったら、まずは加害者を呼び止めましょう。
加害者の中には、「自分の行動が事故を誘発し、事故が起きた」と気づかない人や、「接触したわけではないから自分は関係ないだろう」と思ってそのまま立ち去ってしまう人もいます。
しかし、加害者がそのまま立ち去ると、その後の賠償請求ができない可能性があるので、クラクションを鳴らしたり声をあげたりして、加害者を呼び止めましょう。
呼び止めそびれた、呼び止めたが加害者が立ち去ってしまったという場合は、本記事内「非接触事故での立ち去りはひき逃げ!被害者がすべきこと」も合わせてご確認ください。
(2)発生直後:警察への通報と救護・現場保全
ケガ人がいたり現場をそのままにしておくことで二次被害の発生が懸念されたりする場合は、ケガ人救護・現場の安全確保をしてください。
また、非接触事故でも通常の事故と同じように、警察への連絡が必要です。たとえ軽いケガしかしていなくても、警察に連絡を入れましょう。
非接触事故にあい警察に連絡しないまま帰宅したという場合は、後日になっていても良いので警察に連絡を入れてください。
【警察への通報で伝えること】
- 事故の発生場所・日時
- 負傷者の人数・状態
- 損壊物の有無・状態 など
詳しくは関連記事『交通事故後は警察への報告義務あり|報告しないデメリットや伝える内容』で解説しています。
非接触事故であっても警察への連絡が必要な理由は次のとおりです。
- 警察に連絡しなければ、「交通事故証明書」が発行されない
→のちの賠償請求・保険金請求で支障が出る可能性がある - 道交法72条では、交通事故を起こしたらケガ人の救護、現場の安全確保、警察への通報を行うことと定められている(※非接触事故でも同じ)
→違反すると、罰金・拘禁刑の可能性がある
通報後は加害者側と連絡先などの交換をし、警察到着後には実況見分や聞き取り捜査に対応しましょう。
【加害者に確認しておくとよい情報】
- 加害者の氏名・住所・連絡先・勤務先
- 加入している保険会社
口頭で確認するだけでなく、名刺や保険証券なども確認しておくことがおすすめです。
詳しくは関連記事『交通事故被害者がすべき対応や慰謝料は?してはいけない行動まで解説』をご覧ください。
【実況見分・聞き取り捜査とは】
- 実況見分
実際に事故現場を見ながら、事故発生時の状況を確認する捜査。基本的に人身事故の場合のみ実施。 - 聞き取り捜査
事故時の状況などについて、事故当事者や目撃者などから聞き取る捜査。
実況見分捜査については、関連記事『実況見分とは?交通事故での流れや注意点!呼び出し対応や過失割合への影響』にて詳しく解説しています。
自分の保険会社への連絡も必要
非接触事故が起こったら、自分が加入している任意保険会社にも連絡しておきましょう。相手方の任意保険会社にも、相手方から連絡してもらってください。
多くの場合、保険の約款では「交通事故が発生したらすみやかに保険会社に連絡する」ことが定められています。あとから保険を使えない、保険金を減額されるといった事態を避けるためにも、事故からあまり時間をおかずに連絡しておきましょう。
自分の保険会社に連絡する際は、使える保険をあわせて確認することをおすすめします。
事故の相手方が立ち去ってしまったり、損害の賠償をなかなか認めなかったりする場合、被害者自身の保険を使って治療費などをまかなうことになるためです。
- 交通事故で使える主な保険はこちら:交通事故被害者が使える保険の種類と請求の流れ|自分の保険もチェック
(3)事故後なるべく早く:病院で受診
非接触事故の被害にあったら、たとえ痛みやしびれといった自覚症状がなくとも、念のためすみやかに病院で診察を受けてください。
事故の直後は脳が興奮状態にあるため、痛みやしびれに気づきにくい場合があります。また、むちうちはあとから痛みが生じてくることも多いです。
事故の発生から受診まで時間が空くと、「ケガは事故後の日常生活で生じたのでは?」と疑われてしまい、治療費などを支払ってもらえない可能性があります。非接触事故はただでさえ因果関係の立証が難しいので、すみやかな受診は重要です。
もしケガをしていたら、医師の指示にしたがって「完治」または「症状固定」と診断されるまで定期的な治療を続けましょう。
治療の結果、後遺症が残った場合は「後遺障害等級」の認定を受けることで示談金の費目が増えます。
- むちうちで通院する際の注意点は?:交通事故によるむちうちの症状・治療期間・後遺症|慰謝料相場も解説
- 整骨院通院はすぐに始めると慰謝料減額の対象になることも:交通事故の治療を整骨院で受けても慰謝料はもらえる
- 後遺障害認定については:後遺障害等級が認定されるには?|認定の仕組みと認定率の上げ方を解説
(4)治療完了後:示談交渉・損害賠償請求
医師から完治と診断されて治療を終えるか、後遺障害認定の結果が出たら、相手方に事故の損害賠償金を請求しましょう。
ただし、示談交渉では損害賠償金額や事故と損害の因果関係などについて、加害者側と揉める可能性が高いです。示談交渉が難航した場合はADRや裁判で解決を目指すことになるでしょう。

通常は、相手方の任意保険会社との示談交渉で損害賠償金や過失割合を話し合い、お互いに合意した金額を支払ってもらう形になります。
示談の進め方や損害賠償金の相場については、以下の関連記事や計算機からご確認ください。
非接触事故での立ち去りはひき逃げ!被害者がすべきこと
被害者側に人身被害や物損被害が生じているにも関わらず加害者側が立ち去ったら、たとえ非接触事故でもひき逃げ・当て逃げ扱いとなります。
非接触事故で加害者が立ち去った場合の対処の流れは、基本的には上で解説したものと同じです。ただし、加害者が立ち去った場合ならではの注意点もあるので、解説していきます。
加害者特定につながる証拠を押さえる
非接触事故で相手方が事故現場から立ち去ってしまったら、加害者を特定するための情報として、以下を確認しましょう。
- 相手方の車のナンバーや車の特徴
- 目撃者の証言
それぞれについて、詳しく解説します。
相手方の車のナンバーや車の特徴
非接触事故の加害者が立ち去ろうとした場合、車のナンバーを確認し、記録しておきましょう。ナンバーがわかれば、あとから調査して加害者を特定しやすくなります。
とっさのことでナンバーを確認しそびれた場合でも、ドライブレコーダーにナンバープレートが映っていたり、目撃者が覚えていたりするかもしれないので、確認してみてください。
また、車種や車の色なども加害者特定の手掛かりになる可能性があります。覚えていることは忘れないうちにすべて記録し、警察に伝えましょう。
合わせて、以下の証拠も残しておくことがおすすめです。
証拠となりうるもの
- 事故当時の現場の写真
- 事故で損傷した部分の写真
- 現場付近の防犯カメラ映像
(警察をとおして提供を依頼した方がよい) - 被害車両などのドライブレコーダー映像 など
目撃者の証言
非接触事故で立ち去りにあった場合、相手方を特定したり損害と事故の因果関係を証明したりするためにも、目撃者などの証拠の確保が重要です。
もし事故の目撃者がいたなら、証言を聞くだけではなく連絡先も交換し、のちの捜査や示談交渉などに協力してもらいたい旨を伝えておくことをおすすめします。
また、事故現場にいた第三者の車がドライブレコーダーを設置していたなら、映像を提供してもらえないか依頼してもよいでしょう。
警察に通報する|加害者が出頭する可能性も
非接触事故で加害者が立ち去ってしまった場合でも、警察への通報は道路交通法で定められた義務です。
警察に通報すれば、立ち去った加害者の捜査が行われる可能性もありますし、加害者が出頭してきて示談に向けた話し合いができる可能性もあります。
加害者が見つかるまでは自分の保険で損害に対処する
非接触事故で立ち去った相手方が見つからない間も、車の修理費や治療費などが必要になってきます。その場合は、被害者自身の保険で対応するとよいでしょう。
交通事故にあったとき使える被害者自身の保険は、主に以下のとおりです。
交通事故で使える被害者側の保険
- 自動車保険の人身傷害保険
治療費や休業損害といった補償を限度額の範囲内で受け取れる。 - 自動車保険の搭乗者傷害保険
あらかじめ設定された一定金額を受け取れる。
ただし、契約車両に乗っていてケガをした場合に限る。 - 自動車保険の無保険車傷害保険
事故の相手方が無保険や相手方が不明のときに使える。
ただし、被害者が後遺障害を負った場合や死亡した場合に限る。 - 自動車保険の車両保険
車両の修理費などを受け取れる。
利用すると保険料が上がる可能性もある点に注意。 - 労災保険
通勤中または勤務中の人身事故に限る。 - 健康保険 など
上記の各保険が非接触事故で使えるかどうかは、あらかじめ保険会社にご確認ください。
人身事故なら政府の保障事業も使える
非接触事故で相手方が不明であり、かつケガをしているなら、政府の保障事業も利用できる可能性があります。
政府の保障事業とは、相手方が無保険の場合や相手方が不明な場合に、被害者への救済措置として政府が損害を負担する制度です。政府の保障事業を使えば、自賠責保険から受けられる補償と同程度の補償を受けられます。
ただし、事故の相手方の行動と事故との因果関係を証明できない場合、政府の保障事業も利用できない可能性がある点には注意してください。
非接触事故で加害者が立ち去った場合の慰謝料や罰則は?
非接触事故で被害者がケガをしたにもかかわらず加害者が立ち去った場合、慰謝料を増額できることがあります。
また、加害者には、立ち去らずに現場で必要な対応をした場合とは違う罰則が科されることもあるので、詳しく見ていきましょう。
非接触事故の立ち去りでは慰謝料増額の可能性あり
被害者がケガをした非接触事故で加害者が立ち去った場合、その無責任さや悪質性などから、被害者は強い怒りやショック、不安を感じるでしょう。
こうした点から、通常の事故よりも被害者の精神的苦痛が大きいと判断されれば、「精神的苦痛に対する補償」という性質上、交通事故の慰謝料が増額される可能性があります。
ただし、非接触事故の場合は、以下の点から「立ち去りが慰謝料増額の理由になるとはいえない」とされることが多いのが実情です。
- 実際に接触しているわけではないことから、加害者が本当に事故に気付かず立ち去ってしまっただけということもある
- 気づかず立ち去ったケースでは、加害者側に無責任さや悪質性は認められない
実際、上記のような理由で慰謝料増額が認められなかった裁判例もあります。
慰謝料増額が認められなかった裁判例
京都地判平24・1・16(平成22年(ワ)4337号)
自動車を運転中の原告が、被告トラックが車線変更してきたため衝突の危険を感じ急ハンドルを切ったところ、ガードレールに衝突した。
裁判所の判断
「…同被告が現場に停止しなかったことを慰謝料の増額事由にすべきであるとはいえない。…」
京都地判平24・1・16(平成22年(ワ)4337号)
- 加害者は事故後その場から立ち去った
- 事故の発生に気づかなかったという供述が虚偽とは言えないとされた
- 過失割合は加害者8割、被害者2割
損害賠償額
107万円7782円
加害者の立ち去りを理由に慰謝料を増額させたい場合は、「加害者が事故に気付いていたこと」「そのうえで、悪意を持って立ち去ったこと」などを証明する必要があります。
また、上記を証明できたとしても、実際にどれくらい慰謝料が増額されるかは交渉次第です。
被害者自身での交渉では増額は難しいと言わざるを得ないので、一度弁護士に相談することをお勧めします。
非接触事故で立ち去った側が受ける罰則
非接触事故で立ち去り、事故がひき逃げ・当て逃げ扱いになった場合、加害者には以下の罰則が科される可能性があります。
- 過失運転致死傷罪:7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
- 救護義務違反:10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
- 報告義務違反:1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金
また、ひき逃げの場合は違反点数が39~57点加算され、それだけで免許取り消しになります。
当て逃げの場合の違反点数は7点で、免許停止になる点数です。累積点数によっては免許取り消しになることもあるでしょう。
「非接触事故は言いがかり」と言われたら?
非接触事故で最も多いトラブルは、事故相手から「そちらが転んだのは私のせいではない」と事故と損害の因果関係を否定されることです。
実際に因果関係が無いとされると、被害者には1円も損害賠償金が認められなくなってしまいます。
もし「非接触事故は言いがかりだ」と加害者側に言われたら、事故の発生を証明することと、事故と損害との因果関係を認めさせることが重要です。具体的にどうすればよいのか解説します。
【事故の発生を証明】客観的な証拠を集める
因果関係がない、という相手の主張を覆すには、「加害車両の運行が予測を裏切るような常軌を逸したものだったこと」「回避行動が合理的なものであったこと」「それにより損害を負ったこと」などを証明する必要があります。
- 加害車両の運行が予測を裏切るような常軌を逸したものだった
→突然センターラインを越えて突っ込んできた、合図なく突然右折した、など - 回避行動が合理的なものであった
→それ以上安全に回避できる方法はなかった、もっと大きな事故を防ぐため回避は不可欠だった、など - それにより損害を負った
→事故様態とケガなどに因果関係が認められる
実際の判例においても以下のような言及がなされています。
加害車両の運行が被害者たる歩行者の予測を裏切るような常軌を逸したものであつて、歩行者が、これによつて危難を避けるべき方法を見失い転倒して受傷するなど、衝突にも比すべき事態によつて傷害を受けた場合には、車両が歩行者に接触しなくても、車両の運行と歩行者の受傷との間に相当因果関係があると解すべきである。
最判昭和47年5月30日(裁判所のHPより)
よって、被害者としては以下のような証拠を集め、事故相手に反論していくことになります。
因果関係に関する資料
- 加害者の運行の異常性、回避行動の合理性を立証
- 交通事故証明書
- 実況見分調書
- 当事者の供述調書
- ドライブレコーダー映像
- 防犯カメラ映像
- 目撃者の証言
- 損害の合理性を立証
- 事故直後の診断書
- 合理性のある医療記録
- 医師の意見書
- 事故状況と合致する車の傷
もっとも、非接触事故において加害者の運行の危険性や被害者の回避措置の妥当性を証明するのは難しいものです。
通常の接触事故とは違うアプローチが必要になるので、交渉慣れした弁護士に相談してアドバイスを受けたり、交渉を任せたりすることをおすすめします。
【因果関係を認めさせる】被害者請求を行う
交通事故の損害賠償金は、加害者側の自賠責保険と任意保険から支払われます。
任意保険会社との示談交渉後、すべてまとめて任意保険から支払ってもらうケースが多いですが、非接触事故と損害との因果関係でもめる場合は、あえて別々に請求するのも1つの手です。
この場合、加害者側の自賠責保険会社への請求では「被害者請求」の手続きが必要です。
被害者請求をすると、以下の流れによって、非接触事故と損害との因果関係を明らかにしやすいでしょう。
【被害者請求で因果関係を認めさせる流れ】
- 加害者側の自賠責保険会社に被害者請求
- 自賠責保険会社の中で、損害の程度や事故との因果関係が調査される
- 調査結果に基づき、自賠責保険分の賠償金が支払われる
=非接触事故と損害の因果関係が認められたことになる→加害者側の任意保険会社も、因果関係を認めざるをえない
被害者請求をすると、加害者側の自賠責保険会社は事故様態や事故と損害の因果関係、損害内容などを調査します。そして、事故による損害が計算され支払いがなされます。
そのため、被害者請求をして賠償金が支払われれば、「調査の結果、加害者側の自賠責保険会社も非接触事故と損害の因果関係を認めた」ということになるのです。
そうなれば、加害者側の任意保険会社も損害賠償請求に応じざるをえなくなります。
自賠責保険会社からは最低限の金額しか支払われないので、残りは示談交渉を経て、加害者側の任意保険会社に請求しましょう。
また、一度自賠責保険会社より「因果関係なし」と認定されている場合でも、新しい証拠があれば異議申し立てという手続きにより、再度因果関係を認めるよう請求できます。
関連記事
交通事故の被害者請求|自賠責保険に請求するには?やり方とデメリット
非接触事故の過失割合の考え方と裁判例
交通事故では、事故が起きた責任が加害者側と被害者側にどれだけあるかを割合で示した「過失割合」が決められます。
自身についた過失割合分、受け取れる賠償金が減額される仕組みです。
非接触事故でも、被害者側に過失割合が付く可能性はあるので、詳しく見ていきましょう。
非接触事故における過失割合の決まり方
非接触事故の過失割合は、通常の接触事故における過失割合をベースに決定されます。過失割合の決まり方は、以下の通りです。
【過失割合の決まり方】
- 類似する事故類型の「基本の過失割合」を確認する
- 事故の細かい状況を確認し、基本の過失割合を調整する
- 最終的には、双方の交渉によって過失割合が確定する
それぞれの流れについて、詳しく解説します。
1. 類似する事故類型の「基本の過失割合」を確認する
交通事故では、主な事故類型ごとに「基本の過失割合」が決められています。例を挙げると、以下の通りです。
- 追突事故=追突車100:被追突車0
- 右直事故=右折車80:直進車20
こうした基本の過失割合をベースに、厳密な過失割合を検討していきます。
基本の過失割合は、「別冊判例タイムズ38」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)などの書籍に掲載されています。
関連記事『交通事故の過失割合とは?パターン別に何%か調べる方法と決め方の手順』からも基本の過失割合を確認できるので、ご覧ください。
2. 事故の細かい状況を確認し、基本の過失割合を調整する
基本の過失割合が分かったら、次に事故の細かい状況を確認していきます。
例えば一方が飛び出しをした、一方が速度違反をしていたなどの事情があれば、それに合わせて基本の過失割合を調整していきます。
こうした、基本の過失割合を調整するための要素を「修正要素」といいます。
主な修正要素については、関連記事『過失割合の修正要素はどのようなものがある?事故類型別に紹介』でも確認可能ですが、修正要素によりどの程度基本の過失割合が変動するかは、事故類型や交渉次第です。
修正要素の反映は厳密な過失割合を決めるために重要ですが、判断が難しい部分でもあるため、弁護士に問い合わせることをお勧めします。
3. 最終的には、双方の交渉によって過失割合が確定する
「基本の過失割合」と「修正要素」から算定する過失割合ですが、最終的にいくらになるかは示談交渉次第です。
過去の判例や専門書の記載、事故状況を示す証拠などを提示しながら、過失割合について話し合うことになるでしょう。
非接触事故の過失割合がもめやすい理由と対処法
過失割合は損害賠償額に影響するので、被害者側にとっても加害者側にとっても譲れない項目の1つです。
「被害者のハンドルミスも事故の一因だ」「被害者がもっと周囲の安全に気を配っていれば、事故は回避できた」などと主張し、被害者側の過失割合を多くしようとしてくる可能性もあります。
このような場合にどう対応したらよいのか、確認していきましょう。
被害者の回避措置は合理性があったと主張する
「被害者はもっと安全に加害者との衝突を回避できたはず」「衝突を回避するためとはいえ、そんなに大きくハンドルを切る必要はなかった」など、被害者の回避措置が合理的ではなかったと言われたら、被害者側の回避措置が合理的だったことを主張しましょう。
具体的には、以下の通りです。
- 回避措置は適切なものだった
【例】車間距離に余裕がなく、被害者の回避措置の遅れもなかった。 - 回避措置は必要なものだった
【例】被害者の前を走る加害者が不適切に急ブレーキを踏んだため、衝突を避けるには急ハンドルを切るしかなかった。 - 回避措置による損害発生はやむを得ないものだった
【例】加害者の行動は予期せぬものであり、咄嗟の判断でより安全性の高い回避行動をとることは不可能だった。
このような主張をするには、実況見分調書、ドライブレコーダーなどの証拠が必要です。
過失割合は妥協して示談金額を交渉する
非接触事故の場合、事故相手は「自分はぶつかっていない」という気持ちが強いため、きちんと証拠を揃えても過失割合の交渉に応じてもらえないこともあります。
その場合、「過失割合は〇:〇でいいので、最終的な示談金が〇万円以上になるようにしてほしい」という方向で示談交渉をすることも考えられます。
例えば、被害者の過失割合が2割だった場合、示談金額が80万円なら受取額は64万円です。しかし、示談金を100万円に増額できれば、受取額は80万円になるのです。
過失を認める以上大幅な増額は難しいですが、案外あっさりと受け入れてもらえることもあります。
【裁判例】非接触事故(誘因事故)の過失割合
ここからは、参考として過去の非接触事故の裁判例を紹介します。
非接触側のどのような行為が過失となっているのか、見ていきましょう。
バイクとタクシーの非接触事故
大阪地判平29・11・14(平成28年(ワ)4320号)
交差点で青信号を直進していた原告バイクが、対向車線から右折してきた被告タクシーとの接触を避けるため急ブレーキをかけハンドルを切って転倒し、打撲等の傷害を負った。
裁判所の判断
「…過失割合は,原告が25パーセント,被告Y1が75パーセントとするのが相当…」
大阪地判平29・11・14(平成28年(ワ)4320号)
- タクシーは対向車の進行妨害してはいけない注意義務を怠った
- バイクもタクシーの横をすり抜けるときは慎重なハンドル及びブレーキ操作をすべきだった
過失割合
バイク:タクシー=25:75
バイクとトラックの非接触事故
大阪地判平28・9・2(平成26年(ワ)9037号)
原告バイクが第一車線を直進していたところ、前方の被告中型トラックが第二車線から第一車線に進路変更してきたため、急ブレーキをかけて転倒し、打撲等の傷害を負った。
裁判所の判断
「…非接触事故であることなども考慮すると,過失相殺率を50パーセントと認めるのが相当…」
大阪地判平28・9・2(平成26年(ワ)9037号)
- トラックは進路変更にあたり後方の安全を確認すべき注意義務を怠った
- バイクはトラックを認識するのが遅く、前方不注視の過失は大きい
過失割合
バイク:トラック=50:50
自転車とトラックの非接触事故
東京地判平27・10・6(平成25年(ワ)22478号)
第一車線を走行していた原告自転車が、右から被告トラックに追い越される際に歩道側に転倒し、左肩腱板損傷などの傷害を負った。
裁判所の判断
「…原告に生じた損害について40%の過失相殺をするのが相当…」
東京地判平27・10・6(平成25年(ワ)22478号)
- トラックは追い越しの際に自転車を注視する注意義務を怠った
- 一方でトラックは追い越しにあたり右に進路変更して約1.2mの間隔を取っていた
- 自転車にも著しい不注意があったことが推認される
過失割合
自転車:トラック=40:60
非接触事故(誘因事故)についてよくある質問
続いて、非接触事故についてよくある質問にお答えしていきます。
Q. 非接触事故の相手と謝りあって別れてしまった。どうすべき?
すみやかに警察に連絡し、車のナンバーや車種、事故状況など覚えている情報を伝えましょう。
警察に届け出れば、交通事故証明書が発行されるため、自身の保険金請求がスムーズに進みやすくなります。
また、警察の捜査で加害者が判明したり、加害者が警察に連絡してきたりして、賠償請求できる可能性もあります。
Q. ケガや物損がなくても相手に賠償請求できる?
ケガも物的損害も発生していない場合、非接触事故として加害者側に損害賠償請求するのは難しいです。
「飛び出してきた自転車を避けたが不快な気分になった」「車とバイクがギリギリでぶつかりそうになり怖い思いをした」といった状況では、非接触事故として相手方が刑罰に問われたり、相手方に損害賠償を請求したりできる可能性はほとんどないと考えてください。
なお、交通事故の損害賠償金の中には、精神的苦痛を補償するものとして慰謝料があります。しかし、これは原則として身体に生じた損害による精神的苦痛に対して支払われるものなのでケガなしで請求できることはほぼありません。
- 弁護士費用の自己負担を減らす方法:交通事故の弁護士費用相場はいくら?弁護士費用特約を使って負担軽減
- 弁護士に相談・依頼するメリットはさまざま:交通事故を弁護士に依頼するメリット9選と必要な理由|弁護士は何をしてくれる?
Q. 非接触事故の相手が自転車でも賠償請求できる?
可能です。
ただし、相手が自転車の場合、無保険で示談交渉や損害賠償金の支払いに関してトラブルが起きる可能性があります。自動車同士の事故と同じようには後遺障害認定を受けられないことにも要注意です。
詳しくは、関連記事『車と自転車の事故|過失割合と慰謝料相場は?おかしいと思ったら要確認』をご覧ください。
非接触事故(誘因事故)の賠償請求・過失割合は弁護士に相談
非接触事故でも、相当因果関係があれば相手方に損害賠償を請求できます。
ただし、非接触事故では相手方が事故に気付かず立ち去ってしまうことも多いため注意が必要です。立ち去りにあった場合は、証拠の確保が重要になります。
また、非接触事故では通常の交通事故の基準をベースに過失割合を算定しますが、被害者側の回避措置の妥当性などについて争うことも多いでしょう。
損害賠償金や過失割合について相手方の任意保険会社ともめているなら、弁護士への無料相談もご検討ください。
非接触事故の過失割合は算定が非常に難しいです。法律知識をもとに総合的な判断を行う必要があるので、法律の専門家である弁護士がお力になれることでしょう。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

