交通事故後に通院5回すると一時金が増えるって本当?条件・金額・注意点を解説
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交通事故に遭った後、治療のために通院している方の中には、「通院5回を目安にしたほうがいい」と聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
被害者側の保険会社の多くは、5回病院に通院した被害者の方に一時金を給付しています。
しかし、その仕組みや条件を知っておかなければ、保険金の請求で損をしたり、逆に不自然な通院を疑われたりすることもあります。
事故後の一時金を受け取るために大切なポイントをわかりやすくご紹介します。
目次

なぜ事故後の「通院5回」が一つの基準になるのか
事故後に「通院5回した方がいい」と言われがちな理由は、通院5回を機に保険会社から受け取れる一時金が増額することが多いためです。
「通院5回以上」で保険の一時金が受け取れる
被害者の方の「搭乗者傷害保険」や「人身傷害保険」では、「通院5回」を条件として一時金を支払っていることが多いです。
保険の種類 | 保険の内容 |
---|---|
搭乗者傷害保険 | 契約している車の事故によりケガをしたときの保険 定額払いの補償 |
人身傷害補償保険 | 車の関連する交通事故でケガをしたときの保険 実際の損害に応じた補償 |
※保険会社や契約内容によって、具体的な保険名や内容は異なる
一時金の名目は、「傷害一時金」「医療保険金」など様々です。
通院5日以上で支払われる一時金の比較
各保険会社では、通院回数によって搭乗者傷害保険・人身傷害保険等の支払い基準を設定しています。
以下はその一例です。
保険会社名 | 通院5日未満 | 通院5日以上 |
---|---|---|
東京海上日動※ (治療給付金・入通院給付金・傷害一時費用保険金) | 1万円 | 10万円 (むちうちの場合) |
三井住友海上 (傷害一時金特約) | 1万円 | 10万円 |
あいおいニッセイ損保 (医療保険金) | 1万円 | 10万円 (むちうちの場合) |
ソニー損保 (傷害一時金特約) | 1万円 | 10万円 |
損保ジャパン (医療保険金) | 1万円 | 10万円 (むちうちの場合) |
SBI損保 (医療保険金) | 1万円 | 10万円 |
アクサダイレクト (医療保険金) | 1万円 | 10万円 (むちうちの場合) |
JA共済 (傷害定額給付条項) | 1万円 | 10万円 |
※東京海上日動は搭乗者傷害保険・人身傷害保険それぞれに一時金の特約があるが、どちらかの特約しか付帯できない仕様になっている
一般的な保険の内容として、通院5回を機に一時金の支払い額が10万円となるため、「5回通院しておかないと損」と感じやすくなっているのです。
保険契約や内容によって一時金の有無や金額、支払いの条件は異なるので、必ず契約書や保険会社の案内を確認してください。
交通事故で一時金がもらえない場合とは?
一般的には、以下のような事故では一時金が支払われません。なお、具体的な条件は各保険会社によってさまざまです。
一時金が支払われない事故
- 運転者が無免許運転、酒気帯び運転でケガをした
- 地震、噴火、津波などによる事故
- 事故発生から180日目以降に入通院した
(※保険会社によって日数の規定は異なる)
整骨院への通院5回でも一時金はもらえる?
基本的には、整骨院への通院は通院に含まれません。
ほとんどの保険は、入通院先の条件として「病院もしくは診療所」「病院等または介護保険法に定める介護療養型医療施設もしくは介護医療院」と定めています。
そのため、病院にあたらない整骨院に通院しても、通院回数は加算されません。
なお、医師の承諾を得て整骨院へ通院していれば、相手方保険会社から受け取る「入通院慰謝料」の算定で考慮されます。
「通院5回」の慰謝料はどれくらい?【弁護士基準・自賠責基準】
通院5回することで、ご自身の保険会社からの一時金とは別に、事故相手の保険会社から入通院慰謝料を受け取ることができます。
慰謝料の仕組み|知っておきたい3つの算定基準
一時金と異なり、慰謝料は「どの基準で計算するか」によって金額が大きく変わります。この基準には次の3種類があります。
- 自賠責基準:国の定めた最低補償。保険会社が示談提示で使うことが多く、最も金額が低い。
- 任意保険基準:各保険会社の社内基準。内容は非公開で、金額は自賠責より少し高め。
- 弁護士基準(裁判基準):裁判例をもとにした基準。3つの中で最も高く、弁護士が交渉することで適用される。

自賠責基準|通院5回の場合の計算例
自賠責基準における入通院慰謝料は、日額4,300円(2020年4月1日以降の事故に適用)をもとに、以下の2つのうち、少ない日数を使って計算されます。
- 総治療期間(日数)
- 実際の通院日数 × 2
たとえば、30日間のうちに5日通院したなら、総治療期間30日>実通院日数5日×2のため、4,300円×10日=43,000円が自賠責基準の慰謝料となります。
弁護士基準(裁判基準)|期間別・通院5回の場合の計算例
弁護士基準では、「何回通院したか」よりも「どのくらいの期間にわたって通ったか」が重要です。
以下の通り、同じ5回の通院でも金額が大きく変わります。
通院頻度 | 通院期間 | 慰謝料※ |
---|---|---|
5日間連続で通院 | 5日 | 3万1667円 |
2週間で5回通院 | 14日 | 8万8667円 |
5週間で5回通院 | 35日 | 21万8333円 |
※裁判外で示談するときは、表の金額の8~9割程度で決着することが多い
つまり通院回数よりも、医学的に必要な治療期間をしっかり確保することがより高額な慰謝料を得る鍵になります。
「なんとか5回通院したい」と思った方へのアドバイス
通院5回という基準がある以上、「あと1回通えば一時金がもらえるかも…」と思ってしまうことは自然です。
しかし、医師の診断や必要性に基づかない通院は、保険会社から不審に思われる可能性があります。
通院を続ける前にチェック!3つの注意点
以下のような通院をすると、保険会社から水増し請求を疑われ、一時金の支払いが滞ったり、調査が入ることがあります。
避けた方がいい通院
- 体調が良くなったのに通院する
- 医師が「治療不要」と判断した後に通院する
- 複数の病院に何度もかかる
いずれにせよ、医師の判断に従うことが最も重要です。通院を増やす場合には、必ず医師に相談しましょう。
また、どうしても医師と治療の方針があわない場合は、保険会社に相談のうえで通院先を変えることを検討しましょう。
5回通院は「目的」ではなく「結果」として考えよう
「通院5回以上で一時金が増える」こと自体は事実ですが、それはあくまで必要な治療を受けた上での結果です。
本当に症状が残っているなら、医師に相談のうえで、通院5回目以降も通院を続けてください。
逆に、無症状なのに一時金だけを目的に通院すると、かえって不利になることもあります。
一時金や慰謝料は、「正当に治療が必要な場合」に支払われる制度です。不自然な通院は保険会社から疑問を持たれ、減額・支払い拒否のリスクもあります。
一番大事なのは、被害者の方の体の回復です。一時金のために無理をして、保険会社側からの信頼を損ねてしまっては本末転倒です。迷ったときは、医師や弁護士に相談しましょう。
あなたの症状は本当に通院5回だけで終わらせても大丈夫?
「5回通院したからこれで一時金がもらえる」と思って治療を切り上げようと考えていないでしょうか?
その判断が大きな損失につながるケースもあります。以下の3つのリスクに注意が必要です。
(1)途中で治療費を打ち切られるリスク
通院回数が少ないと、保険会社が治療費の支払いを打ち切ることがあります。
たとえば、1ヶ月で5回通院して自主的に通院をやめたあと、やはり痛みが残っていて再び通院したいと考えたとします。
しかし、通院の間隔が数週間~1ヶ月空くと、保険会社からは「通院をしなくても問題ない状態」と思われ、通院再開後の治療費については支払ってもらえないおそれがあります。
(2)慰謝料が大幅に減額されることもある
通院期間と比べて通院日数が極端に少ないと、事故相手の保険会社からの慰謝料提示が低額になるおそれがあります。
たとえば、保険会社の実務上、通院期間ではなく通院日数×3をベースに慰謝料が計算されることもあります。
仮に3ヶ月間通院した場合、本来は3ヶ月間という期間をベースに慰謝料が計算されます。しかし、3ヶ月間のうちで5日しか通院していないような場合、「5日×3=15日間」をベースに慰謝料が計算されてしまう、ということです。
この計算方法は必ずしも法的に正しいものとは言えませんが、保険会社と争うとなると通常より労力がかかってしまいます。
(3)後遺障害認定が難しくなる
症状が十分な治療後も残った場合、「後遺障害等級認定」を受けることで高額な賠償(後遺障害慰謝料・逸失利益)を請求できます。
しかし、通院回数が少ないと、CTやMRI画像の推移が確認できなかったり、そもそも十分な治療をしていないと思われてしまい、後遺障害が認定されないおそれがあります。
通院期間の判断は、医師・弁護士等の専門家と相談しながら進めるのが安全です。
通院回数は「治療の証拠」です
通院記録は、あなたのケガの程度や治療の経緯、後遺障害の存在を証明する際には大切な証拠となります。
本当に症状が改善していれば、無理に通院を続ける必要はありません。
しかし、「一時金をもらったからもういい」という自己判断だけで治療を止めるのは危険です。
5回を超えてなお通院したいと思う場合は、医師にその旨を伝え、引き続き定期的な通院をするように心がけましょう。
一時金や慰謝料を受け取るために必要な資料と手続き
一時金を受け取るために必要な書類
適切な補償を受けるためには、保険会社に以下の書類を提出する必要があります。
主な提出書類
- 保険金請求書
- 交通事故証明書
- 医師作成の診断書
(保険会社の所定フォーマットがあることが多い) - 診療報酬明細書
搭乗者傷害保険・人身傷害補償保険から一時金を受け取る場合は、これらの書類をご自身の保険会社に提出します。
書類のひな型は各保険会社に窓口に備え付けられているほか、郵送で送付依頼できることもあります。
また、ご自身の保険会社や弁護士に示談代行を依頼している場合は、書類取り付けも依頼するのが簡便でしょう。
正当な補償を得るために|交通事故後の3つの鉄則
通院回数や一時金にばかり気を取られていると、大きな損をすることもあります。
適正な慰謝料や保険金を受け取るためには、3つの鉄則に従って通院することが重要です。
- 医師の指示に従い、無理なく通院する
- 保険会社との早期示談には慎重に対応する
- 弁護士に相談すれば、金額も対応も大きく変わる
①医師の指示に従い、無理なく通院する
最優先すべきは、「医学的に必要な治療」を受けることです。
保険金の支払いにおいては、通院回数ではなく、正当な治療を受けている、ということが重要です。
ご自身の判断で通院をやめたり、必要以上に通院回数を増やすのはやめましょう。
②保険会社との早期示談には慎重に対応する
保険会社はできるだけ早く、少ない金額で示談をまとめたいと考えています。
一時金の支払いを受けると、もう十分もらったと錯覚しやすく、保険会社はこういったタイミングを狙って早期示談に誘導してくることもあります。
本来、事故相手の保険会社から受け取れる慰謝料は一時金より高額なことが多いです。
示談は治療が終わってから、示談内容に納得できるまで示談書には署名しないようにしましょう。
③ 弁護士に相談すれば、金額も対応も大きく変わる
事故相手の保険会社から受け取れる慰謝料を最大限に引き上げたいのであれば、弁護士への依頼が効果的です。
弁護士に依頼するメリット
- 弁護士基準(裁判基準)での慰謝料算定が可能
- 保険会社とのやりとりをすべて任せられる
- 不当な治療費の打ち切りにも法的に対応できる
- 慰謝料以外の損害(交通費・休業損害・後遺障害など)も適切に請求できる
多くの自動車保険には「弁護士費用特約」が付いています。
この特約があれば、相談料や弁護士費用を保険会社が負担してくれますので、まずは一度ご相談ください。
一時金と通院5回に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 結局通院5回にこだわる意味は?
被害者の方の契約内容により、通院5回が一時金の支払基準となっている場合が多いからです。
しかし、自身の自覚症状と医師の指示を考慮して、通院の必要性に応じて通院するのが一番です。
まずはご自身の保険内容を確認してください。
Q2. 通院5回して一時金を受け取ったら示談金は減る?
基本的には搭乗者傷害保険金・傷害一時金を受け取っても、最終的な示談金が減ることはありません(最二小判平成7年1月30日)。
なぜならこれらは示談金のように発生した損害を填補する性質のものではなく、お見舞金としての性質であるためです。
ただし、一時金以外の人身傷害保険からの保険金は、損害額から差し引かれます。
また、保険によっては「他の⾃動⾞保険契約によって既に⽀払われた保険⾦がある場合は、その額を差し引く」と明記している保険会社もありますので、ご注意ください。
Q3. 同じ日に複数の病院に通院したら2日通院したことになる?
同日の通院はまとめて「1日」とカウントされます。
また、別日に薬局に行ったり、整骨院へ通院したりしても通院回数にはカウントされません。
5回通院に意味はあるが、「必要な通院」であることが大前提
「通院5回」というのは、一時金の支払いに関する重要な基準です。
ただし、医師の診断や症状の有無に基づいた正当な通院である必要があります。
また、一時金の条件は保険ごとに異なるため、契約の確認を怠らず、無理な通院は避けましょう。
ご通院中はこのような一時金の支払いのほかにも、ご不安になる場面、疑問を覚える場面が多くあります。
5回目以降の通院はどうしたらいいのか、通院頻度はどのくらい必要なのか、病院を変えたい、慰謝料はいくらもらえるのか、治療費の対応はいつ打ち切られてしまうのか、そのようなお悩みを抱え、治療に集中できない被害者の方もいらっしゃいます。
そのような場合は、ぜひ弁護士に一度ご相談ください。
アトム法律事務所では、24時間365日、ご相談の予約受付を行っております。
まずは一度、お気軽にご相談ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了