休車損害とは?計算方法と必要書類を解説
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交通事故によってトラックやタクシーなどの営業用車両が使えなくなり、本来得られたはずの売上(利益)が失われたことによる損害を「休車損害」といいます。
休車損害は、一定の要件を満たし、計算方法や必要資料を正しく押さえれば、相手方に請求できる損害です。
この記事では、休車損害の意味や計算方法、必要資料に加え、実務で問題になりやすいポイントについて判例を交えて解説します。
目次
休車損害とは?認められる要件
交通事故によって営業用の車両が使えなくなった場合、修理費用だけでなく、その車が稼働していれば得られたはずの利益についても問題になります。
ここでは、休車損害の意味や休車損害が認められるための条件について解説します。
休車損害とは?休業損害との違い
休車損害とは、交通事故で営業用車両が使えなくなった期間に、本来得られたはずの売上(もうけ)が減ったことによる損害のことです。
法律上は、この「本来得られたはずの利益(逸失利益)」として扱われます。
トラックやタクシーなど、車両そのものが売上を生み出す業態では、車が使えない=収入が発生しないため、実務上とても重要な損害項目です。
ここで注意したいのが、「休業損害」との違いです。
名前が似ているため混同されやすいですが、両者は性質が異なります。
- 休車損害
車両が使えないことによる損害(物的損害) - 休業損害
人が怪我をして働けないことによる損害(人身損害)
そのため、営業用トラックなどが事故で修理中となり、その期間に仕事ができなかった場合は、車両が使えなかったことによる損害として「休車損害」が問題となります。
一方、交通事故による怪我の治療のために働けなかった場合は、人が働けなかったことによる損害として「休業損害」が問題となります。
休業損害については『交通事故の休業損害|計算方法や休業日の数え方・いつもらえるか弁護士解説』で詳しく解説しています。
休車損害が認められる3つの要件
休車損害は、営業車が事故に遭ったからといって必ず認められるわけではありません。
裁判例や実務上、一般的に次の3つの要件を満たす必要があります。
(1)営業用車両であること
トラックやタクシーなど、その車両を使って実際に売上を上げていたことが前提です。
緑ナンバー・黒ナンバーの車両であれば認められやすい一方、自家用車の場合は「営業に使っていた実態」を資料で示す必要があります。
(2)修理や買い替えが必要な相当期間であること
休車損害の対象となるのは、修理内容や車種から見て「相当」と認められる期間に限られます。
不必要に長い修理期間や、着手が遅れた期間は、保険会社から否定・短縮されることがあります。
(3)遊休車(代わりの車)が存在しないこと
事故により使用できなくなった車両に代わって、営業に使用できる遊休車(予備車・低稼働車両)が存在しないことが必要です。
実務上もっとも争点になりやすく、代わりとなる車がある場合は「その車を使えば営業できたはず」と判断され休車損害が否定されることがあります。
そのため、以下について日報・配車表・売上資料など説明することが重要になります。
- 事故当時、保有車両がすべて稼働していたこと
- 代車やレンタカーで代替できなかったこと
休車損害の計算方法と計算例
休車損害は、一定の計算方法に基づいて算定されます。
もっとも、売上をそのまま損害とみるのか、人件費や有給休暇をどう扱うのかなど、計算にあたって判断が分かれやすいポイントも少なくありません。
以下では、休車損害の基本的な計算方法を押さえたうえで、具体的な考え方やケース別の計算例を見ていきます。
休車損害の計算方法|基本的な計算式
休車損害は、次の基本的な計算式に基づいて算定されます。
休車損害額=(1日あたりの平均売上高-変動経費)×認定休車日数
- 1日あたりの平均売上高
事故前の一定期間(一般的には直近3か月〜1年程度)の売上実績をもとに算出します。 - 変動経費
車が稼働しなければ発生しない費用です。ガソリン代・高速道路料金・フェリー代などが該当し、これらは売上から差し引かれます。 - 認定休車日数
修理や買い替えに必要と認められる期間です。
以上の通り、休車損害は「売上まるごと」が補償されるわけではなく、車を使っていない間に発生しなかった経費分を除いた金額をもとに、損害額が算定されます。
もっとも、計算式における「認定休車日数」も、修理や買い替えに要した日数がそのまま認められるとは限りません。
修理内容や車種などを踏まえ「社会通念上相当な期間」を基準に判断されます。
- 修理工場の入庫日・出庫日が分かる資料
- 修理見積書や修理内容の説明資料
上記のような資料を提出し、その休車期間が合理的であることを説明できるかが重要になります。
休車損害の有給・人件費の扱い|変動経費と固定費の考え方
休車損害の計算で多くの方が悩むのが、ドライバーの給料(有給・人件費)はどう扱われるのかという点です。
結論から言うと、人件費や有給に相当する固定費は、売上から差し引かずに休車損害として請求するのが前提になります。
休車損害では、売上から差し引くのは車が動かなければ発生しない費用(変動経費)だけです。
- 変動経費(差し引くもの)
燃料費(ガソリン代・軽油代)、高速道路料金、フェリー代など
※修理費そのものは、休車損害とは別に「車両の修理費」として請求します。 - 固定費(差し引かないもの)
ドライバーの人件費、有給休暇分の給与、車両保険料、自動車税、車検代、駐車場代など
車が止まっていても、人件費や車両の維持費といった固定費は発生し続けます。
そのため、休車損害ではこれらの固定費は差し引かれず、ドライバーの給与や有給休暇分を賄う原資も含めて算定されます。
なお、個人事業主の場合でも、休車損害の算定の考え方自体は基本的に同じです。
【計算例】休車損害の算定例(法人・個人事業主)
ここでは上記の計算方法に実際の数値を当てはめた休車損害の計算例を見ていきます。
法人・雇用がある場合
前提条件
- 事故前3ヶ月の売上合計:300万円(月平均100万円)
- 稼働日数:月25日(3ヶ月で75日)
- 1日あたりの変動経費(ガソリン代等):5,000円
- 休車期間(修理期間):12日間
- ドライバーの月額給与(固定費):30万円
計算方法は以下のようになります。
- 1日あたりの売上高を出す
3,000,000円÷75日=40,000円 - 1日あたりの損害額(日額)を出す
40,000円(売上)-5,000円(変動経費)=35,000円 - 総額を計算する
35,000円×12日=420,000円
このケースでは、約42万円が休車損害として請求対象となる金額になります。
ドライバーの給与や有給休暇分の人件費、車両保険料などの固定費は、車両が止まっていても発生するため、売上から差し引かれません。
そのため、この42万円の中からドライバーの給与(この例では30万円)や各種固定費を支払うことになります。
休車損害は「営業車が稼働していれば得られた利益」を基準に算定されます。
個人事業主の場合
個人事業主(軽貨物ドライバー・一人親方など)の場合でも、休車損害は「売上-変動経費」を基準に計算します。
会社員と違い「給料」という形はありませんが、考え方は同じです。
前提条件
- 事故前3ヶ月の売上合計:180万円(月平均60万円)
- 稼働日数:月25日(3ヶ月で75日)
- 1日あたりの変動経費(ガソリン代等):3,000円
- 休車期間(修理期間):10日間
計算方法は以下のようになります。
- 1日あたりの売上高を出す
1,800,000円÷75日=24,000円 - 1日あたりの損害額(日額)を出す
24,000円(売上)-3,000円(変動経費)=21,000円 - 総額を計算する
21,000円×10日=210,000円
このケースでは、約21万円が休車損害として請求対象となる金額になります。
この中から、自分の生活費(実質的な人件費)や車両のローンなどを支払うことになります。
「個人事業主だから休車損害は認められにくい」ということはなく、売上実績や稼働状況を資料で示せれば、会社と同じ考え方で算定されるのが実務の基本です。
なお、怪我してる場合は休車損害ではなく休業損害を請求できます。
詳しくは『個人事業主の交通事故慰謝料・休業損害の計算方法は?休業日数や経費の考え方』をご覧ください。
休車損害にタクシー・トラック別の相場はあるか
休車損害には、「車種ごとにいくら」といった一律の相場はありません。
休車損害の金額は、事故前の売上実績や変動経費、稼働状況、修理に要した期間などを前提に、個別に算定されます。
同じトラックやタクシーであっても、営業形態や地域、稼働率が異なれば、日額も休車期間も変わります。
そのため、「相場と比べて高い・安い」というよりも、自社(自分)の実績に基づいて適切に計算・立証できているかが重要になります。
休車損害の請求に必要な書類
休車損害を請求するには、「車が使えなかったこと」や「売上が失われたこと」を客観的な資料で示すことが重要になります。
口頭での説明だけでは足りず、次のような書類の提出を求められることが一般的です。
売上を示す書類
- 確定申告書(直近のもの)
年間の売上実績を示す基本資料です。法人の場合は、決算報告書や損益計算書を提出します。 - 売上台帳・月別売上表
事故前の直近3ヶ月分や、前年同月の売上が分かる資料です。季節変動がある業種では、「通常どの程度の売上があったか」を示す材料になります。
稼働実態を示す書類
- 稼働実績表(日報・運転日誌・配車表など)
「事故がなければ実際に稼働していた」ことや、「遊休車がなく、他の車両で代替できなかった」ことを示すための重要な資料です。
タクシーの場合は、運転日報やメーター記録が、稼働実態を示す有力な資料になります。
休車期間を示す書類
- 修理見積書
- 修理完了報告書
- 入庫・出庫証明書
上記のような資料を組み合わせて、実際に車両が使用できなかった期間(休車期間)を客観的に示します。
そのため、修理工場の入庫日・出庫日が分かる資料が必要となります。
車両の内容を示す書類
- 車検証の写し
車両の用途(営業用かどうか)や積載量、車種を確認するために提出します。
休車損害の判例|認められるケース・否定されるケース
休車損害は、事故が起きたからといって当然に認められるものではなく、営業実態や遊休車の有無などを踏まえて、個別に判断されます。
ここでは、休車損害が認められた判例と、減額・否定された判例を紹介します。
休車損害が認められた判例
トラックの休車損害が認められた判例
神戸地判平25・5・23(平成24年(ワ)596号/平成24年(ワ)2079号)
高速道路上で停止していた普通乗用車に、運送会社所有の大型貨物トラックが衝突した事故。トラック修理期間中の休車損害が認められるか、特に遊休車が存在したか、実際に営業損害が発生していたかが争点となった。
裁判所の判断
「…遊休車は存在しなかったといえ…休車損害としては…50万5,940円を認めるのが相当である。」
神戸地判平25・5・23(平成24年(ワ)596号/平成24年(ワ)2079号)
- 原告会社に代替可能な車両、遊休車は存在しなかったとして休車損害を肯定。
- 修理期間全体について休車期間を認定。
- 日額算定として売上資料に基づく算定を採用。
休車損害
休車損害を肯定(減額なし)
休車損害が否定された判例
タクシーの休車損害が否定された判例
神戸地裁令和1・12・5(平成30年(ワ)172号)
営業用タクシーが交通事故により修理を要したとして、修理期間中の休車損害が請求された事案。タクシー会社に遊休車が存在したか、また当該車両について実際に営業損害が発生していたかが主な争点となった。
裁判所の判断
「遊休車の存在が認められ…休車損害は認めない。」
神戸地裁令和1・12・5(平成30年(ワ)172号)
- 遊休車が存在し、代替使用が可能であったと認定。
- 遊休車を活用できなかった特段の事情について具体的な立証がないと判断。
休車損害
休車損害を否定
休車損害についてよくある疑問
休車損害については、「この場合は請求できるのか」「どう扱われるのか」と迷いやすい点が多くあります。
ここでは、保険会社との交渉で問題になりやすいポイントを中心に整理します。
Q.休車損害と代車費用は両立しますか?
原則として、休車損害と代車費用は同時には認められません。
代車(レンタカー)を使って営業を継続できた場合は、売上減が生じないため休車損害は否定されやすく、その代わりに代車費用を請求する形になります。
ただし、営業用車両の代車が確保できない事情がある場合は、休車損害が問題となることがあります。
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Q.必要な書類がそろっていなくても、休車損害は認められますか?
必ず否定されるわけではありませんが、認められにくくなるのが実務の現実です。
休車損害では、売上実績や稼働状況を客観的資料で示すことが重視されるため、日報やメーター記録、売上台帳などが不足していると、認定額が減額されたり、請求自体が否定されることがあります。
その場合でも、確定申告書や入金記録、取引先資料などで代替的に立証できるかがポイントになります。
Q.事故後すぐに請求していなくても、休車損害を請求できますか?
事故後すぐでなくても、休車損害を請求できる可能性があります。
営業していた実態や修理期間、代替車がなかったことを、売上資料・日報・修理資料などで説明できるかがポイントです。
なお、休車損害を含む損害賠償請求には時効があるため、早めに確認しておくと安心です。
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Q.保険会社に「休車損害は出ない」「この金額しか無理」と言われた場合は?
保険会社の説明が必ずしも法的に正しいとは限りません。
休車損害は、計算方法や稼働実態、遊休車の有無などをどう整理・立証するかによって、判断が変わる分野です。
提示額に疑問がある場合は、その前提や根拠を一度整理して確認することが重要です。
まとめ|休車損害は要件を押さえて正しく請求しよう
休車損害は、一定の要件を満たすと相手方に請求できる損害です。
しかしトラックやタクシー、個人事業主の休車損害では、実際の損失よりも低い金額が保険会社から提示されることも少なくありません。
その場合でも、休車損害の計算方法が適切か、有給・人件費の扱いが整理されているか、必要書類が揃っているかによって、金額が見直される余地があります。
提示額への疑問や休車損害の請求でお困りの場合は、専門家に相談することもおすすめです。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
