過失割合10対0の事故で新車が損壊…買い替え費用は請求できる?
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交通事故に遭い新車が損壊した場合、そのショックは非常に大きいでしょう。過失割合10対0のもらい事故で被害者側に非がない場合はなおさら、新車で返してほしい、修理ではなく買い替えたいと思う人も多いかもしれません。
しかし、買い替え費用を請求できるかは車の損壊の程度によります。
買い替え費用が請求できる場合でも、過失割合が10対0だからといって新車価格をそのまま請求できるわけではありません。
この記事を通して詳しく確認していきましょう。
目次
10対0の事故で損壊した新車は買い替えられる?
「全損」なら買い替え費用を請求できる
過失割合10対0の事故で新車が損壊した場合、損壊の程度が「全損」にあたれば加害者側に買い替え費用を請求できます。
全損には「物理的全損」と「経済的全損」の2種類があります。
- 物理的全損とは、損壊の程度が激しく物理的に修理不可能である状態
- 経済的全損とは、修理費が買い替え費用よりも高額になる状態
車が全損の状態なら、物理的に修理できない、あるいは買い替え費用のほうが安くなることから、加害者側に買い替え費用を請求できるのです。
車が全損でなくても買い替えること自体は可能ですが、加害者側からは基本的に修理費相当の金額しか補償されません。
10対0でも新車価格が全額もらえるわけではない
過失割合10対0の場合、事故の損害賠償金は過失相殺されることなく支払われます。
しかし、新車の買い替え費用が全額支払われるわけではありません。新車の買い替え費用として支払われる金額は「事故当時の車の時価-事故車の売却金額」だからです。
たとえ過失割合10対0の事故で新車が全損しても、新車として購入した時の金額がそのまま支払われるわけではないため注意しましょう。
新車に買い替える際に請求できる費目一覧
過失割合10対0の事故により新車を買い替えることになった場合は、上で紹介した買い替え費用の他に以下の費目も請求できます。
- 登録費用
- 車庫証明費用
- 廃車費用
- リサイクル費用
- 自動車取得税
- ディーラーに支払う手数料
- 代車費用
代車費用については請求が認められないケースや、必要になった費用の一部しか支払われないケースもあります。
10対0の事故で損壊した新車を修理する場合の賠償金
10対0なら修理代は基本的に全額請求できる
過失割合10対0の事故で損壊した新車を修理する場合、修理費は基本的に実費を全額加害者側に請求できます。
過失相殺は適用されないため、他の要因で損害賠償金が減額されない限り、基本的に修理費の全額を回収できるでしょう。
ただし、修理の際には事前に見積書を加害者側に提出し、内容の確認を取ったうえで修理しましょう。
加害者側に見積内容の確認を取らずに修理に出すと、後から加害者側が「その修理は今回の事故で必要になったものではない」「その修理は必ずしも必要なものとは言えない」などと主張してくることがあります。
修理費の一部を加害者側に支払ってもらえないリスクがあるので、事前に見積書を提示しておくことは重要です。
ポイント
過失割合10対0のもらい事故では、一度もめると被害者側が不利になりがちです。
過失相殺がない分加害者側はシビアな態度で交渉してくるうえ、被害者側は自身の保険の示談代行サービスが使えないからです。
もらい事故の注意点は『もらい事故にあったらどうする?得する方法を知って泣き寝入りしない被害者に!』の記事が参考になります。
新車の修理で請求できる費目一覧
過失割合10対0の事故で新車を修理する場合、修理費以外に以下の費目も請求できます。
- 代車費用
- 評価損
評価損とは、事故により車を修理したことで事故歴・修理歴がつき下がってしまう、車の価値に対する補償です。
一般的に新車は売却した時の価格が購入価格に近く、価値が高いとされます。しかし、事故歴や修理歴がついてしまうと、「まだ何か損傷が残っているかもしれない」「縁起が悪い」などの理由で価値が下がります。
こうした損害を補償するのが評価損なのです。
ただし、評価損は加害者側との示談交渉時にもめやすいポイントの1つといえます。
新車を買い替えるか修理するか迷った時の判断ポイント
新車の買い替えを迷った時に確認すべき点
過失割合10対0で新車が損壊した場合、買い替え費用を請求できるのは基本的に車が全損したときです。
しかし、車が全損していなくても買い替えること自体はできます。加害者側からは車の修理費を受け取るものの、実際には修理ではなく買い替えをするということも可能なのです。
新車が損壊して買い換えようか迷っている場合は、以下の点を検討すると良いでしょう。
- 修理後の車の安全性
- 車のローンの残高
それぞれ詳しく解説します。
修理後の車の安全性
車の損壊状態が全損にはあたらなくても、修理後に十分な安全性が期待できない場合は買い替えを検討したほうが良いでしょう。
「十分な安全性」は車の使用状況によっても異なります。
例えば大人のみでたまに車に乗る程度の場合よりも、日常的に子供を乗せて運転する場合の方がより高い安全性が必要です。
こうした点も踏まえて、修理後の車の安全性を考えてみましょう。
車のローンの残高
新車の場合は、まだ車のローンがたくさん残っていることが多いでしょう。
加害者側から修理費相当の金額しか支払われなかった場合、それをローンの返済にあててもまだ多くの金額が残ると考えられます。
その状態で新たにローンを組んで新車を購入すると返済で苦しくなる可能性があります。
ローンの残高とのバランスも考えて、新車の買い替えを検討しましょう。
新車の買い替えでも車両保険金はおりる
「全損ではないが修理ではなく買い替えをする」という場合でも、基本的に車両保険金はおります。
おりるのは修理する場合を想定した金額ですが、使用用途が決められているわけではないため買い替え費用として使っても問題ありません。
なお、全損の場合は全損時の補償を受けられるプランにしていれば、買い替え費用や廃車費用として所定の金額を受け取れます。
車に関する賠償金についてよくある疑問にお答え
Q.新車の買い替えや修理中の代車費用は請求可能?
代車費用は、車の修理中に代車を借りた場合はもちろん、買い替えた新車の納期までの間に代車を借りた場合でも請求できます。
ただし、どのような代車でも認められるのではなく、必要な範囲内の代車でなければ代車費用は認められないでしょう。
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Q.新車なら評価損は請求できる?
評価損は、必ずしも請求が認められるとは限りません。請求の可否をめぐって加害者側と争いになることは十分に考えられます。
評価損が認められやすいのは、事故にあった車の市場価格がもともと高い場合です。以下のような場合は一般的に市場価値が高く、評価損が認められやすいでしょう。
- 高級車だった
- 新車登録から間もなかった
- 走行距離が少なかった
高級車かつ、新車登録から間もなく走行距離が少なかったことで評価損が認められた判例があります。
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Q.レッカー代はいつ加害者側から支払われる?
事故車をレッカーで運んでもらう際にかかるレッカー代が加害者側から支払われるのは、一般的に示談成立後です。
それより早く事故車のレッカー代を回収したい場合は、自身の車両保険に保険金請求すると良いでしょう。
なお、自身の自動車保険のロードサービスを使い、事故車を保険会社指定の修理工場に運んだ場合は、レッカー代が無料となることがあります。このようなケースではそもそも事故車のレッカー代は生じていないため、加害者側に損害賠償請求できません。
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Q.新車が傷ついた精神的苦痛で慰謝料は請求できる?
たとえ事故によって新車が損壊しても、それによる精神的苦痛を理由に慰謝料を請求することは、原則としてできません。
交通事故の慰謝料は、基本的に人間の身体的損害によって生じた精神的苦痛を補償するものだからです。
「新車なのに事故によって価値が下がってしまった」という損害は評価損として賠償請求できることがあります。
また、人間の身体的損害以外を理由とした精神的苦痛でも、ペットの死亡や墓石の損壊、芸術作品の損壊などでは慰謝料が認められたケースがあります。
過失割合10対0の事故で新車が損壊したら【まとめ】
過失割合10対0で新車が損壊した場合、全損状態なら買い替え費用を加害者側に請求できます。
全損でない場合は修理費を請求することになりますが、実際に修理するか新車に買い替えるかは被害者側で自由に決められます。
その他、代車費用や評価損については加害者側ともめやすいので、示談交渉前に対策しておく必要があるでしょう。
加害者側ともめてしまった場合、弁護士に相談するのも一つの手ですが、物損事故で弁護士を依頼するとなると費用倒れのリスクがあることも念頭に置いておく必要があります。
もっとも、弁護士費用特約があれば費用倒れのリスクは基本的に回避できるので、弁護士に相談する前に弁護士費用特約が使えるか確認してみましょう。
また、身体的損害のある人身事故であれば、さらに慰謝料や休業損害などについてももめやすいため、一層の対策が必要です。
加害者側は相場よりも低い金額を提示してくることが多いので、適切な金額の確認と示談交渉の対策のため、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了