過失割合10対0の事故で新車が損壊…買い替え費用や修理代はどうなる?
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交通事故で納車間もない新車が損壊した場合は、そのショックは非常に大きいでしょう。
過失割合10対0のもらい事故(信号待ちで停車中の追突事故やセンターラインオーバーによる正面衝突、交差点の赤信号無視など)で被害者側に一切事故の責任がない場合はなおさら、新車で返してほしい、修理でなく買い替えをしたいと思う人も多いかもしれません。
しかし、買い替え費用を請求できるかは車の損壊の程度によります。
買い替え費用が請求できる場合でも、過失割合が10対0だからといって新車価格をそのまま請求できるわけではありません。
本記事を通して詳しく確認していきましょう。
目次
10対0の事故で損壊した新車は買い替えられる?
「全損」なら買い替え費用を請求できる
過失割合10対0の事故で新車が損壊した場合、損壊の程度が「全損」にあたれば加害者側に買い替え費用を請求できます。
全損には「物理的全損」と「経済的全損」の2種類があります。
- 物理的全損とは、損壊・破損の程度が激しく物理的に修理不可能である状態
- 経済的全損とは、修理費が買い替え費用よりも高額になる状態
車が全損の状態なら、物理的に修理できない、あるいは買い替え費用のほうが安くなることから、加害者側に買い替え費用を請求できるのです。
車が全損でなくても買い替えること自体は可能ですが、加害者側からは基本的に修理費相当の金額しか補償されません。
全損車両の買替諸費用の裁判例
東京地方裁判所平成12年(レ)79号・平成13年4月19日判決
赤信号で停止中の普通貨物自動車が追突され「経済的全損」となった事案。
本件車両は修理費用が時価額を上回る「経済的全損」と認められ、中古車市場に同種同等車両がない場合の時価額算定方法と、全損車両の買替諸費用(重量税、各種手続費用等)が損害に含まれるかが争点となった。
裁判所の判断
「…車両買換えのための費用(買換諸費用)も、当該事故と相当因果関係を有する損害というべきである」
大阪地裁 平13.4.19
- 8年半経過車両の時価を減価償却で10万円と算定
- 買替諸費用の一部を損害として認定
- 自動車税と自賠責保険料は損害から除外
損害賠償額
18万6227円
(車両時価額10万円+買替諸費用5万6227円+弁護士費用3万円)
この判決は、事故で車両が全損となった場合、時価相当額だけでなく、適切な買替諸費用も請求できる可能性があることを示す重要な判例です。
中古車市場やレッドブックに同等車両がない場合には減価償却基準による時価額算定が認められます。また、買替えに必要な諸費用についても、車両取得に「付随して通常必要とされる費用」は損害として認められる一方、還付可能な費用(自動車税・自賠責保険料)は除外されます。
全損車両の補償交渉においては、こうした諸費用も含めて検討することが重要といえるでしょう。
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10対0でも新車価格が全額もらえるわけではない
過失割合が10対0の事故であっても、新車の買い替え費用が全額支払われるわけではありません。新車買い替え時に支払われる金額は「事故当時の車の時価-事故車の売却金額」で算出される買替差額となるからです。
事故車であっても、下取りに出せば一定の買取価格がつくことも多いです。
また、自動車はナンバープレートが交付され登録された時点で「中古車」として扱われるため、たとえ納車直後であっても、事故当時の車の時価は新車購入時の価格よりも低下していることが一般的です。
このため、たとえ過失割合10対0の事故で新車が全損となった場合でも、新車購入時の購入費用がそのまま支払われるわけではないため注意しましょう。
なお、過失割合が10対0の場合は損害賠償金が過失相殺されることなく支払われます。
新車に買い替える際に請求できる費目一覧
過失割合10対0の事故により新車を買い替えることになった場合は、上で紹介した買替差額以外に、買い替え諸費用も示談金として請求できます。
もっとも、買い替えのために必要となる諸費用全額を請求できるわけではなく、請求できるのは以下の項目になります。
- 廃車手続きの費用
- 登録手続きの費用
- 車庫証明取得費用
- 納車費用
- 1~4の代行手数料(ディーラー報酬部分)
- リサイクル料金
- 消費税相当額
- 自動車税環境性能割(自動車取得税)
- 事故車の保管料
以下、各諸費用の詳細について解説していきます。
1.廃車手続きの費用
自動車を一般道路で走行できない状態にするために行う手続きの費用であり、以下の2つの費用が含まれます。
解体費用
自動車を物理的に潰して屑鉄(スクラップ)にする費用であり、スクラップに要した費用から屑鉄売却代金を差し引いた金額を請求できます。
登録抹消費用
自動車登録を抹消する際に国に納める費用(法定費用)であり、自動車登録を抹消することで登録番号(いわゆる「ナンバー」)が無効となり、ナンバープレートを外すことができます。
2.登録手続きの費用
買い替えた自動車の登録手数料(法定費用)のことであり、この登録手続きによって自動車登録番号を取得し、ナンバープレートに記載されます。
3.車庫証明取得費用
車庫証明書(正式には「自動車保管場所証明書」)を取得するために、車庫の所在地を管轄する警察署に納める法定費用のことです。
車庫証明書の目的は、車を保管する場所をきちんと確保し、公道での違法駐車を防ぐことにあります。
4.納車費用
買い替えた自動車を指定の場所に移動させるための費用であり、具体的にはキャリアカー(車載専用車)の代金やガソリン代などが含まれます。
5.1~4の代行手数料(ディーラー報酬部分)
上記の1~4の手続きは、ディーラーや販売店、行政書士などに代行してもらうのが一般的であるため、代行してもらったことに対し支払う手数料(報酬)は相当額の範囲で請求することができます。
6.リサイクル料金
自動車リサイクル法に基づき、車両の引取り・解体・破砕などに備えてあらかじめ預託するリサイクル費用のことであり、車種によって金額は異なります。
7.消費税相当額
車両を買い替えする際には消費税が発生するので当然、消費税相当額も請求できます。
ただし、車両時価額算定の際に、既に消費税額を加算して時価額に反映済みのことも多く、その場合、別途買い替え諸費用としての消費税相当額は請求できません。
8.自動車税環境性能割(自動車取得税)
自動車を取得したときに都道府県に納める税金であり、自動車の車種や環境性能(燃費の良し悪し)に応じて税率に違いがあります(電気自動車なら税率0%(非課税))。
自動車税環境性能割は、令和元年10月にそれまでの自動車取得税に替わって導入されました。
9.事故車の保管料
事故後に車を修理工場や保管業者に預ける際に発生する保管スペース代金や管理費用であり、事故車両を修理するのか、買い替えをするのか検討する期間が必要であるため、請求できます。
ただし、検討に必要と考えられる相当な期間(2週間から20日程度が相場)に請求の対象は限られ、日額も相当な範囲(1,000円~3,000円が相場)に限られます。
一方、以下の3つの項目の買い替え諸費用は請求することができません。
- 自賠責保険料
- 自動車税
- 自動車重量税
ただし、事故車両の自動車重量税は、自動車検査証(車検証)の有効期間未経過分は請求できます。
なお、買い替えをした場合は、買替差額や買い替え諸費用以外に代車費用についても請求できますが、代車費用については必要性や相当性(車種のグレード)などが争点となり、請求が認められないケースや、必要になった費用の一部しか支払われないケースもあります。
10対0の事故で損壊した新車を修理する場合の賠償金
10対0なら修理代は基本的に全額請求できる
過失割合10対0の事故で損壊した新車を修理する場合、修理費は基本的に実費全額を加害者側に請求できます。
過失相殺は適用されないため、他の要因で損害賠償金が減額されない限り、基本的に修理費の全額を回収できるでしょう。
ただし、修理の際は事前に見積書を加害者側に提出し、修理内容の確認を取った上で修理しましょう。
加害者側に見積内容の確認を取らずに修理に出すと、後から加害者側が「その修理は今回の事故で必要になったものではない」「その修理は必ずしも必要なものとは言えない」などと主張してくることがあります。
修理費の一部を加害者側に支払ってもらえないリスクがあるので、事前に修理見積もりを提示しておくことは重要です。
ポイント
過失割合10対0のもらい事故では、一度もめると被害者側が不利になりがちです。
過失相殺がない分加害者側はシビアな態度で交渉してくる上、被害者側は自身の任意保険会社の示談代行サービスが利用できず、自分で相手側保険担当者との交渉の対応をする必要があるからです。
もらい事故の注意点は『もらい事故とは?被害に遭って泣き寝入りせず得する方法を紹介』の記事が参考になります。
新車の修理で請求できる費目一覧
過失割合10対0の事故で新車を修理する場合、修理費以外に以下の費目も請求できます。
- 代車費用
- 評価損
評価損とは、事故により車体の骨格部分を修理したことで事故歴車・修復歴車扱いとなり、自動車査定額が低下してしまう車の価値に対する補償です。
車体の骨格部分とは、具体的にはフレームやピラー、クロスメンバー、インサイドパネルといった部品です。
一般的に新車は売却した時の価格が購入価格に近く、価値が高いとされます。しかし、事故歴や修復歴がついてしまうと、「まだ何か損傷が残っているかもしれない」「縁起が悪い」などの理由で価値が低下します。
こうした損害を補償するのが評価損なのです。
評価損は修理費の10%〜30%程度が認められる基準の目安となります。
ただし、評価損は加害者側との示談交渉時にトラブルになりやすいポイントの1つといえます。
加害者側が評価損を認めない場合は、日本自動車査定協会作成の「事故減価額証明書」で立証する方法が考えられます。
新車を買い替えるか修理するか迷った時の判断ポイント
新車の買い替えを迷った時に確認すべき点
過失割合10対0で新車が損壊した場合、買い替え費用を請求できるのは基本的に車が全損したときです。
しかし、車が全損していなくても買い替えること自体はできます。加害者側からは車の修理費を受け取るものの、実際には修理ではなく買い替えをするということも可能なのです。
新車が損壊して買い替えを迷っている場合は、以下の2つを考慮して対処法を検討することが大切です。
- 修理後の車の安全性
- 車のローン残債
それぞれ詳しく解説します。
修理後の車の安全性
車の損壊状態が全損にはあたらなくても、修理後に十分な安全性が期待できない場合は買い替えを検討したほうが良いでしょう。
「十分な安全性」は車の使用状況によっても異なります。
例えば大人のみでたまに車に乗る程度の場合よりも、日常的に子供を乗せて運転する場合の方がより高い安全性が必要です。
こうした点も踏まえて、修理後の車の安全性を考えてみましょう。
車のローン残債
新車の場合は、まだ車のローンがたくさん残っていることが多いでしょう。
加害者側から修理費相当の金額しか支払われなかった場合、それをローンの返済にあててもまだ多くの支払いが残ると考えられます。
その状態で新たにローンを組み新車を購入すると二重ローンとなり、返済で苦しくなってしまう可能性があります。
ローンの残債とのバランスも考えて、新車の買い替えを検討しましょう。
新車の買い替えでも車両保険金はおりる
「全損ではないが修理ではなく買い替えをする」という場合でも、基本的に車両保険金はおります。
おりるのは修理する場合を想定した金額ですが、使用用途が決められているわけではないため買い替え費用として使っても問題ありません。
なお、全損の場合は全損時の補償を受けられるプランにしていれば、買い替え費用や廃車費用として所定の金額を受け取れます。
また、新車買替特約に加入していれば、全損に当たらない場合でも、一定の条件の下で新車の買い替え諸費用等の補償を受けられ、新車購入が可能となる場合もあります。
ただし、車両保険を利用すると保険等級が下がり、翌年以降の保険料が上がる可能性があります。
そのため、車両保険の利用は、翌年以降の保険料値上がりも踏まえて慎重に検討する必要があります。
車に関する賠償金についてよくある疑問にお答え
Q.新車の買い替えや修理中の代車費用は請求可能?
代車費用は、車の修理中に代車を借りた場合はもちろん、買い替えた新車の納期までの間に代車を借りた場合でも請求できます。
ただし、どのような代車でも認められるのではなく、必要な範囲内の代車でなければ代車費用は認められないでしょう。
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Q.新車なら評価損は請求できる?
評価損は、必ずしも請求が認められるとは限りません。請求の可否をめぐって加害者側と争いになることは十分に考えられます。
評価損が認められやすいのは、事故にあった車の市場価格がもともと高い場合です。中古車価格が高額なほど、事故歴による価値下落の影響が大きいからです。
そのため、以下のような場合は一般的に市場価値が高く、評価損が認められやすい傾向にあります。
評価損が認められやすいケース
- 高級車や人気車種だった
- 新車登録(初年度登録)から間もなかった(年式が新しい)
- 走行距離が少なかった
高級車かつ、新車登録から間もなく走行距離が少なかったことで評価損が認められた判例があります。
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Q.レッカー代はいつ加害者側から支払われる?
事故車をレッカーで運んでもらう際にかかるレッカー代が加害者側から支払われるのは、一般的に示談成立後です。
それより早く事故車のレッカー代を回収したい場合は、自身の車両保険に保険金請求すると良いでしょう。
なお、自身の自動車保険のロードサービスを使い、事故車を保険会社指定の修理工場に運んだ場合は、レッカー代が無料となることがあります。このようなケースではそもそも事故車のレッカー代は生じていないため、加害者側に損害賠償請求できません。
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事故車両のレッカー代は相手方に請求可能?損害として認められる?
Q.新車が傷ついた精神的苦痛で慰謝料請求はできる?
たとえ事故によって新車が損壊しても、それによる精神的苦痛を理由に慰謝料請求をすることは、原則としてできません。
交通事故の慰謝料は、基本的に人間の身体的損害によって生じた精神的苦痛を補償するものだからです。
「新車なのに事故によって価値が下がってしまった」という損害は評価損として賠償請求できることがあります。
また、物的損害を理由とした精神的苦痛についても、ペットの死亡や墓石の損壊、芸術作品の損壊などでは、例外的に慰謝料が認められたケースがあります。
過失割合10対0の事故で新車が損壊したら【まとめ】
過失割合10対0で新車が損壊した場合、全損状態なら買い替え費用を加害者側に請求できます。
全損でない場合は修理費を請求することになりますが、実際に修理するか新車に買い替えるかは被害者側で自由に決められます。
その他、代車費用や評価損については加害者側ともめやすいので、示談交渉前に対策しておく必要があるでしょう。
加害者側ともめてしまった場合、弁護士に相談するのも一つの手ですが、物損事故で弁護士を依頼するとなると費用倒れのリスクがあることも念頭に置いておく必要があります。
もっとも、弁護士費用特約があれば、自己負担なく弁護士に依頼できることが多く、費用倒れのリスクは基本的に回避できるので、弁護士に相談する前に弁護士費用特約が使えるか確認してみましょう。
また、身体的損害のある人身事故であれば、さらに慰謝料や休業損害などについてももめやすいため、一層の対策が必要です。
加害者側は相場よりも低い金額を提示してくることが多いので、妥当な金額の確認と示談交渉の対策のため、お悩みやご不安のある方は一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了