交通事故で代車費用は請求できる?認められる要件・範囲・期間
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交通事故で車両を修理することになり、代車を借りようか検討していますか?
代車費用は、代車が必要な範囲内で相手方に請求可能です。
しかし、代車利用の必要性、金額の相当性など、代車費用の請求にはいくつかの要件があります。要件を満たさなければ、請求が認められなかったり、本来請求できる金額よりも低い金額しか認められない場合もあるでしょう。
そこで今回は、交通事故における代車費用請求について解説します。代車費用でもめないために、事前に知っておきたいポイントも紹介します。
交通事故で代車を借りたい!代車費用の請求要件
有償で代車を借りたすべてのケースで、代車費用が損害として認められ、支払ってもらえるとは限りません。
代車費用は「代車の必要性があること」「代車の使用期間に相当性があること」「代車のグレード(利用料)に相当性があること」のすべての要件を満たす場合、損害として認められることになります。
要件を一つずつみていきましょう。
要件(1)代車の必要性があること
交通事故によって車両が使えなくなったとしても、代車を使用する必要性がなければ、代車費用は請求できません。
代車の必要性は、以下のような点で判断されます。
- 事故車両以外に車を保有していない
- 代車がなければスーパーや商業施設などに行けず、日常生活を送ることがむずかしい
- 代車の代わりになる公共交通機関がない
生活必需品として車が欠かせないような場合、代車費用は損害賠償として認められやすいでしょう。一方、車を利用する目的がレジャーや趣味だけのような場合、代車費用は認められにくいです。
要件(2)代車の使用期間に相当性があること
代車の使用期間に相当性がなければ、代車費用は請求できません。
具体的には、壊れた車両の修理するために相当と考えられる期間、車を買い替えるために相当と考えられる期間となります。
もっとも、実際に要した期間ではなく、一般的に相当だとされる期間が対象になっているので注意してください。
たとえば、1週間で車両の修理が完了するのに、「この際だから新車に買い替えよう」と思って新車納入までに1ヶ月かかったとしましょう。この場合、新車に買い替えるのは被害者側の都合でしかないので、代車費用は1週間分のみが損害賠償金としての支払い対象となるでしょう。
要件(3)代車のグレード・利用料に相当性があること
代車のグレード(利用料)に相当性がなければ、代車費用は請求できません。代車は、交通手段を代替えするために必要だと判断された場合に認められるものだからです。
そのため、事故車両とグレードがかけ離れた高級車を代車として楽しむような使い方は認められていません。基本的に、事故車両と同等のグレードの代車なら代車費用が認められるでしょう。
とはいえ、事故車両が高級車であった場合、すべてのケースで高級車が代車として認められるかはむずかしいと言わざるを得ません。高級車が事故車両と同等グレードであっても、代車として認められるかは相手方との交渉次第になるでしょう。
【重要】過失割合に応じて代車費用は減額される
車の修理中に代車を借りた場合はもちろん、買い替えた新車の納期までの間に代車を借りた場合でも、代車費用は請求できます。
ただし、請求できる金額については、過失割合が影響するので注意してください。交通事故は、事故の相手方だけに100%の過失がつくケースばかりではなく、相手方と被害者の双方に過失がつく交通事故も多いからです。
被害者にも過失がつく交通事故であった場合、相手方の過失分しか代車費用を請求できません。
つまり、過失割合に応じて代車費用は減額されるので、全額請求できないことになるのです。
たとえば、代車費用が1日5,000円の代車を1週間借りたとしましょう。
代車費用の合計は35,000円となりますが、被害者に過失が10%ついた場合は31,500円しか相手方に請求できません。
残りの3,500円は被害者の自己負担となります。
なお、代車費用が請求できるのは、有償で代車を借りていることが前提です。
レンタカーを借りる場合は、レンタカー料を代車費用として請求できるでしょう。一方、自動車修理工場からは無償で車が借りられることもよくあるのですが、無償だと代車費用は発生しないので、損害賠償金として代車費用を請求できません。
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代車費用を請求する際の流れと注意点
代車費用を請求するための基本的な3つのステップを解説します。
最も重要なのは、自己判断で代車を手配するのではなく、必ず事前に相手方の任意保険会社とコミュニケーションを取りながら進めることです。この点を念頭に置いて、各ステップを確認していきましょう。
(1)相手方の任意保険会社へ連絡し許可をもらう
事故後、車の損傷状態がわかり、修理や買い替えの見通しが立ったら、まず最初に任意保険会社の担当者へ連絡し、「代車を使用したい」という意思を明確に伝えてください。この事前連絡と許可の取り付けが、後のトラブルを防ぐための最も重要なステップです。
連絡の際は、以下の点について必ず確認し、双方で認識を合わせておきましょう。
- 代車の必要性の説明
通勤や通学、家族の送迎、仕事での利用など、なぜ代車が日常生活に不可欠なのかを具体的に説明する。 - 利用期間の目安
修理工場に見積もりを依頼し、修理に要するおおよその期間を確認した上で、その日数を保険会社に伝える。 - グレードや料金の上限
保険会社として認めることができる代車のクラス(例:「被害車両と同等の国産大衆車まで」など)や、1日あたりのレンタル料金の上限額を具体的に確認する。
保険会社からの承諾は、可能であればメールなど記録に残る形で得ておくと万全でしょう。後の「言った・言わない」のトラブルを避けるためです。口頭で約束した合でも、担当者の名前と承諾を得た日時、承諾内容(期間・金額の上限など)を必ずメモに残しておきましょう。
(2)代車を手配する
任意保険会社から代車使用の許可を得たら、代車を手配します。
手配方法は、主に以下の2つのケースがあるでしょう。
- 保険会社が提携するレンタカー会社を利用するケース
保険会社が指定するレンタカー会社に連絡し、手続きを進めると、支払いを保険会社が直接行ってくれることも多く、手続きがスムーズ。 - 自分でレンタカー会社や修理工場に手配するケース
自分で手配する場合は、確認した条件(期間、グレード、料金)を厳守することが絶対条件となる。
許可された範囲を逸脱しない点に注意しましょう。
たとえば、修理が長引くなどの理由で許可された期間を超えそうな場合は、必ず期間満了前に保険会社に連絡し、延長の許可を得てください。自己判断で延長すると、超過分は自己負担となる可能性が非常に高くなります。
(3)領収書などを保険会社に提出して費用を請求する
代車を返却したら、レンタカー会社から「領収書」と「利用明細書(貸渡証)」を必ず受け取ってください。利用明細書には、利用期間や車種、1日あたりの料金などが詳しく記載されており、請求内容の正当性を証明するための重要な証拠となります。
自分で費用を立て替えた場合は、これらの書類を任意保険会社に送付し、費用の支払いを請求します。通常は、車の修理費用など、他の損害に関する書類とまとめて提出することになるでしょう。
保険会社に書類を提出する前は、必ず全ての書類のコピーや写真を撮り、手元に控えを保管してください。万が一、保険会社から請求内容の一部について支払いを拒否された場合は、その理由を明確にするよう求め、必要であれば弁護士に相談することをおすすめします。
代車費用でもめやすいケース
代車費用は示談の際、金額や請求可否をめぐって相手方と争いになりやすいです。特に、代車の必要性や、代車の金額の相当性についてもめやすいので、それぞれどのようにもめるのか具体的にみていきましょう。
代車の必要性がなかった
代車の必要性については、たとえば以下のようなケースにおいて「代車を借りる必要があったとは言えない」として代車費用が認められない可能性が高いです。
- 複数台の車を所有しており、利用することができた場合
- 週末しか車を使わないなど、車の使用頻度が低い場合
(代車が必要になった日数分の費用しか請求できないこともある) - タクシーや電車などで対応でき、必ずしも代車が必要だといえない場合
また、代車が修理工場やディーラーから無償で提供されていた場合、代車費用は請求できません。
一方、業務で車を使用している場合、代車の必要性は認められやすいです。日常生活で車を使用している場合は、車を使用する頻度や必要性に応じて判断が分かれるでしょう。
グレードの高い高級車を借りた
代車費用は、原則として必要な分しか認められません。
たとえば、修理に出した車よりもグレードの高い高級車を借りた場合、「代車がそこまで高級である必要はない」として代車費用の一部が補償されない可能性が高いです。
基本的には修理に出した車と同程度のグレードの代車を借りてください。
ただし、修理に出した車が高級車の場合は、同程度ではなく下のグレードの代車を借りるべきでしょう。
代車費用は交通手段を代替的に提供するための補償なので、代車まで高級車である必要はないと考えられるからです。
修理に時間がかかって代車期間が長くなった
任意保険会社は、あくまで「修理に本来必要であった相当な期間」についてのみ費用を支払うのが原則です。
たとえば、「部品の取り寄せに想定外の時間がかかった」「修理工場が混んでいて作業開始が遅れた」といった理由で修理が延長された場合、その超過期間分の代車費用は交渉の対象となり、全額が認められない可能性があります。
特に、「修理か買い替えか迷っていた」「被害者側の都合で修理に出すのが遅れた」といった期間は、代車費用として認められることはまずないでしょう。
過去の裁判例でも、代車期間は客観的に見て修理や買い替えに必要だった相当な日数に限定されるのが一般的です。もし修理が長引くことが判明したら、その時点ですぐに任意保険会社に連絡し、代車期間の延長について明確な承諾を得ることが、自己負担を避けるために不可欠です。
代車費用でもめないための対策
代車費用をめぐる無用なトラブルは、いくつかのポイントを事前に押さえておくだけで、リスクを減らすことができるでしょう。
ここでは、被害者がすぐに実践できる効果的な対策を紹介します。
事前に保険会社に代車利用の承諾を得ておく
「言った、言わない」という後の紛争を避けるため、事前に承諾を得ておくことは最も重要です。
交通事故の示談交渉では、「そんな約束はしていない」という不毛な争いに発展することがあります。口約束だけでは、約束の存在を証明するのは非常に困難です。
単に連絡するだけではなく、可能ならメールで記録が残る形でやり取りをする、電話で話した後に内容の齟齬がないようにメールを送っておくなどしましょう。メールがわからなければ、担当者の名前や承諾を得た日時、承諾内容を必ずメモに残すようにしてください。
過度に高級な代車を借りない
示談の際に代車費用でもめることを避けるには、過度に高級な代車を借りないことがポイントです。
不安であれば修理費の見積もりを相手方に提示する際に、どの程度の代車費用であれば良いのか確認しておくと良いでしょう。
自分の車両保険の利用も検討する
代車費用を立て替える際は、車両保険(代車特約)を使っておくこともおすすめです。
車両保険を使っておけば、もし代車費用の一部が補償されなくても自己負担金が軽減されます。
ただし、保険の利用により翌年からの保険料が上がる場合もあるので、その点も踏まえて保険を使うかどうか検討してみましょう。
まとめ
交通事故で代車を利用した場合、必要な範囲で代車費用の請求が認められます。
最後に、重要なポイントを改めて振り返ります。
- 3つの要件
代車費用は「必要性」「期間」「グレード」の3つの相当性が認められて初めて請求できる。 - 事前の承諾
トラブル回避のため、代車を借りる前には必ず相手方の任意保険会社の具体的な承諾を得ることが重要。 - 過失相殺
自身の過失割合に応じて、請求できる代車費用は減額されることを理解しておく。
ただし、代車費用をはじめ、交通事故で生じた損害賠償金の支払いに関しては、相手方と争いになることもあるでしょう。
物損事故の場合は費用倒れのリスクを念頭に置こう
物損事故で弁護士費用特約がない場合、弁護士に依頼することで、受け取れる賠償額よりも弁護士費用が高くつく「費用倒れ」になるリスクも懸念されます。
物損事故は、治療費や慰謝料などが含まれる人身事故に比べて賠償額が低額になりがちなため、弁護士費用を支払うと、最終的に手元に残る金額がマイナスになってしまうケースもあるからです。
特約がない状況で弁護士への依頼を検討する際は、事前に費用体系を明確に確認し、費用倒れにならないかを慎重に見極める必要があるでしょう。
費用倒れが起きてしまっては、弁護士に依頼する意味が薄くなってしまいます。
弁護士費用特約があれば積極的に弁護士依頼を検討
もし、代車費用請求について相手方と争いになったり、その他に不安な点や疑問点があれば、弁護士に相談するのがおすすめです。 弁護士は、個々の状況を踏まえて最適なアドバイスをしてくれるでしょう。
弁護士費用特約が利用できれば、基本的に費用倒れの心配はありません。弁護士費用特約が利用できるかまずは確認し、利用できる場合は積極的に弁護士に相談してみましょう。
なお、物損事故と違って、交通事故でお怪我をされている人身事故の場合は慰謝料増額の余地があります。慰謝料増額の可能性については、アトム法律事務所の無料相談を通して聞いてみてください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了