物損事故で保険料はいくら上がる?保険の等級が下がらないケースも紹介

物損事故を起こしてしまったけれど、「保険を使うとどのくらい保険料が上がるの?」「等級は下がるの?」「保険を使わない方がいい場合もあるの?」といった疑問をお持ちではありませんか?
この記事では、物損事故を起こした際の自動車保険料への影響や、等級制度の仕組み、保険を使うべきかどうかを判断するための具体的なポイントをわかりやすく解説します。
目次
物損事故で保険料が上がるケースと上がらないケースの早見表
物損事故で保険を使うと、翌年からの保険料が上がることが多いです。ただし、すべてのケースで保険料が上がるわけではありません。
どのようなケースでどの程度保険料が上がるのか、反対に保険料が上がらないのはどのようなケースかについては、本記事内で詳しく解説しますが、まずは大まかに表にまとめました。
事故のタイプ | 保険料 | 備考 |
---|---|---|
自損事故(単独) | 上がる | 一般的に等級が下がる |
相手の車に接触 | 上がる | 賠償義務あり、保険を使えば等級ダウン |
もらい事故 | 上がらないことも | 過失がなければ等級据え置きになる可能性あり |
上記表のように、もらい事故、つまり被害者側に過失のないケースでは、保険を利用しても等級が下がらず、保険料が上がらない可能性があります。
物損事故で保険を使うと保険料はいくら上がる?
物損事故で自動車保険を使うと、保険料が上がることが多いです。
どの程度保険料が上がるのかは、自動車保険の「等級制度」に基づいて決定されます。
この等級制度をもとに、どのような仕組みで保険料が上がるのか、物損事故の場合どのようなケースでどの程度上がるのかを解説します。
保険を使うと等級が下がり保険料が上がる【等級制度を解説】
個人が加入している自動車保険の多くは「ノンフリート等級制度」を採用しています。これは事故の有無や内容により、1等級〜20等級までのランクを上下させ、それに応じて保険料を決定する仕組みです。
等級制度の仕組み
- 一般的に、新規加入時は6等級からスタート
→例えば6等級の「-13%」は、基準の保険料の13%割引ということ - 無事故で1年経過すれば1等級ずつアップ
→アップするほど、等級の数字が大きくなる=20級が最高等級 - 一定の事故を起こすと、等級がダウン+「事故あり」の適用になる
→6等級から3等級ダウンの場合、「事故あり3級」になる
等級ごとの保険料への影響は以下の通りです。
等級 | 無事故 | 事故あり |
---|---|---|
1 | +108% | +108% |
2 | +63% | +63% |
3 | +38% | +38% |
4 | +7% | +7% |
5 | -2% | -2% |
6 | -13% | -13% |
7 | -27% | -14% |
8 | -38% | -15% |
9 | -44% | -18% |
10 | -46% | -19% |
11 | -48% | -20% |
12 | -50% | -22% |
13 | -51% | -24% |
14 | -52% | -25% |
15 | -53% | -28% |
16 | -54% | -32% |
17 | -55% | -44% |
18 | -56% | -46% |
19 | -57% | -50% |
20 | -63% | -51% |
もともと12等級だった人が保険を使い、3等級ダウンとなると、「事故あり」の9等級になります。そのため、保険料は50%割引だったものが19%割引になります。
その後、保険を使わず1年たつごとに再び等級が上がっていきますが、3等級ダウンした場合、事故後3年間は「事故あり」の割引・割増が適用されます。
したがって、等級ダウン後には、以下のように等級が変わっていきます。
等級の変わり方
(例)もともと12等級だった人が3等級ダウンした場合
- 事故の1年後
3等級ダウンで「事故あり」の9級に(保険料:18%割引) - 事故の2年後
前年から1等級アップし、「事故あり」の10級に(保険料:19%割引) - 事故の3年後
前年から1等級アップし、「事故あり」の11級に(保険料:20%割引) - 事故の4年後
前年から1等級アップ+「事故なし」に変更で、「事故なし」の12級に(保険料:50%割引)
物損事故で自動車保険を使うと、等級はいくら下がる?
物損事故で使うことの多い車両保険では、等級が3等級ダウンとなります。
ただし、以下のようなケースでは、1等級ダウンにとどまるとされています。
- 火災や爆発
- 盗難
- 落書き・いたずら
- 暴力行為・破壊行為
- 台風、洪水といった自然災害による水没・浸水
- 飛来物や落下物との衝突 など
物損事故だと保険料はいくら上がる?具体例で解説
物損事故の場合、使う保険としては車両保険が考えられます。車両保険の利用では、3等級ダウンします。
この場合、保険を使い等級が下がることで、どの程度保険料が変わるのか、以下の例に沿って実際に計算してみましょう。
【例】
- もともとの等級は20等級(最高位)
- 物損事故で車両保険を使い、3等級ダウン→「事故あり」の17等級に
- 基準の保険料は10万円/年
例:保険の使用により、20等級から3級ダウンしたケース
保険料への影響 | 保険料 | |
---|---|---|
事故前 20等級 | -63% | 3万7,000円 |
1年後 事故あり17等級 | -44% | 5万6,000円 |
2年後 事故あり18等級 | -46% | 5万4,000円 |
3年後 事故あり19等級 | -50% | 5万円 |
4年後 20等級 | -63% | 3万7,000円 |
この場合、事故1年後~3年後までに支払う保険料の総額は16万円です。
一方、保険を使わなかった場合は等級がダウンせず20等級のままなので、同じ3年間でも支払う保険料は11万1,000円です。
つまりこのケースでは、保険を使ったことで事故後3年間の保険料が4万9,000円上がるということになります。
補足
今回の例では元の等級が20等級だったため、保険を使わない場合でもそれ以上等級に変化はなく、保険料も変わりません。
しかし、例えばもともとの等級が16級だった場合、保険を使わなければ翌年は17等級、さらに翌年は18等級といったように等級が上がり、保険料は年々少なくなっていきます。
すると、保険を使った場合と使わなかった場合の保険料の差は、より大きなものとなるでしょう。
物損事故でも保険の等級が下がらないケース
物損事故で自動車保険を使っても、すべてのケースで保険の等級が下がり、保険料が上がるわけではありません。「ノーカウント事故」であれば、保険の等級は下がらないのです。
ノーカウント事故は、例えば以下のようなケースが該当します。
- 過失割合が0%で車両保険無過失事故特約がある場合
- 個人賠償特約を使う場合
- 弁護士費用特約を使う場合
- 免責金額以下の少額損害で保険を使わない場合
ただし、上記の場合でも別の保険を併用すると、保険の等級が上がることがあるのでご注意ください。
それぞれについて解説します。
過失割合が0%で車両保険無過失事故特約がある場合
車両保険無過失事故特約とは、保険の等級を下げることなく車両保険を使える特約です。
本来車両保険を使うと3等級ダウンしますが、無過失事故特約が付いていれば、自身の過失割合が0%の場合に限り、等級は下がりません。
自身の過失が0の物損事故としては、適切に停車しているところを追突されたなどの「もらい事故」が挙げられます。
個人賠償特約を使う場合
個人賠償特約は、物損事故で加害者側に物損被害が生じ、賠償請求されたときに使える保険です。
物損事故では、被害者も加害者から賠償請求されることがあります。
実際には被害者からの請求額と相殺され、被害者側からの支払いは0になることも多いです。しかし、加害者側が高級車などで請求額が大きい場合は、被害者から加害者への支払いが発生する可能性があります。
こうした場合に個人賠償特約から支払いをしても、保険の等級は下がりません。
弁護士費用特約を使う場合
弁護士費用特約は、弁護士への相談料や依頼料などを保険で賄えるものです。
弁護士費用特約を使えば、自己負担なく弁護士に相談・依頼ができることも多いです。示談交渉への備えなどのため、弁護士への相談・依頼を検討してみましょう。
免責金額以下の少額損害で保険を使わない場合
自動車保険には免責金額というものが定められており、損害額が免責金額以下の場合は保険が使えません。この場合、そもそも自動車保険は使わないため、保険の等級や保険料に変動はありません。
物損事故で保険は使うべきか判断する方法
物損事故で保険を使うべきかどうかは、保険を使った場合にどれくらい保険料が上がるかと、保険を使わなかった場合にどれくらいの賠償金を負担することになるかを比較することで判断できます。
具体的にどのように考えればよいのか、解説します。
保険を使ったときと、使わなかった時の負担額を比較する
物損事故で保険を使うかどうかを決めるには、「自己負担額」と「将来的な保険料の増額(3年間)」を比較することが重要です。
以下のような流れで検討しましょう。
- 保険を使った場合の等級ダウンと増額見込を計算
- 修理費用や損害賠償額を確認(見積書など)
- 3年間にわたる負担額を合計し、保険を使わない場合と比較
具体的な計算例を紹介
それでは、本記事内「物損事故だと保険料はいくら上がる?具体例で解説」で挙げたモデルケースを例に、保険を使うべきか使わないべきかの判断方法を見ていきましょう。
【例】
- もともとの等級は20等級
- 物損事故で車両保険を使い、3等級ダウン→「事故あり」の17等級に
- 基準の保険料は10万円/年
まず、保険を使った場合に今後負担することになる保険料は、以下の通りです。
例:保険の使用により、20等級から3級ダウンしたケース(再掲)
保険料への影響 | 保険料 | |
---|---|---|
事故前 20等級 | -63% | 3万7,000円 |
1年後 事故あり17等級 | -44% | 5万6,000円 |
2年後 事故あり18等級 | -46% | 5万4,000円 |
3年後 事故あり19等級 | -50% | 5万円 |
4年後 20等級 | -63% | 3万7,000円 |
保険を使った場合、事故1年後~3年後までに支払う保険料の総額は16万円です。
保険を使わなかった場合は20等級が維持され、保険料は毎年3万7,000円なので、同期間での総額は11万1,000円となり、差額は4万9,000円です。
つまりこの場合、保険を使わなかった場合に自己負担する車の修理費などが4万9,000円未満なら、保険を使ったほうが得ということになります。
ただし、被害者側の過失が0のもらい事故で車両保険無過失事故特約を使う場合は、等級が下がらず保険料は変わらないので、保険を使っても損はありません。
よくある質問(Q&A)
Q.物損事故で過失がなくても保険料は上がりますか?
過失がゼロであり、車両保険無過失事故特約がある場合、保険料には影響しません。
ただし、保険を使えば実績として記録が残る場合もあるため、保険会社にあらかじめご確認ください。
Q.1回だけの物損事故でも保険料は大きく上がりますか?
保険を使った場合は、1回の事故でも3等級ダウン+事故あり3年の条件が適用され、3年間合計で数万円〜十数万円の負担増になることがあります。
まとめ|物損事故=保険料アップとは限らない!冷静な判断を
物損事故を起こしてしまった場合でも、すべてのケースで保険料が大きく上がるとは限りません。
- 事故内容や特約次第では等級が下がらない例もある
- 修理費と今後の保険料アップ額をよく比較して判断
- 迷ったら、保険会社や専門家(弁護士・保険アドバイザー)の相談も検討
安易に保険を使うと、後々の負担が大きくなることもあります。事故に関する状況を冷静に整理し、「自分にとってベストな選択」をすることが大切です。
困ったときは保険会社や専門家に相談することで、納得のいく対応が取れるでしょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了