内払い金・仮渡金を解説|交通事故の慰謝料を示談前に受け取る方法
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交通事故の被害に遭ったとき、加害者側の保険会社に内払い金請求をすれば慰謝料・賠償金の一部を早く貰えます。
ただし、慰謝料や賠償金を早く貰う方法は内払い金請求だけではありません。
実際の損害額や加害者の保険加入状況によってどの方法を取るべきか変わってくるので、内払い金請求を中心に、示談金の早期受け取り方法を複数紹介していきます。
目次
内払いとは、慰謝料・賠償金の一部前払い
内払いとは?特に休業損害は内払いが多い
内払いとは、交通事故の損害賠償金の一部が示談成立前に支払われることです。
交通事故の慰謝料や賠償金は、基本的には示談成立前に支払われます。
しかし、示談が成立するまでの間にも、被害者側は治療費を立て替えたり治療のための休業で収入が減ったりして金銭的に苦しくなることが多いです。
そうした場合には、加害者側の保険会社に内払い金を請求することで慰謝料・賠償金の一部を早く貰うことができるのです。
特に休業損害はすぐに補償されないと困ることが多いため、内払いで示談成立前に支払ってもらうことが多くなっています。
なお、治療費は内払い金として請求しなくても、加害者側の任意保険会社が病院に直接支払ってくれることも多いです。これを「任意一括対応」と言います。
治療費支払いの仕組みについては『交通事故被害者の治療費は誰が支払う?』で解説しているので合わせてご確認ください。
ここでは、内払いは加害者側の任意保険がおこなうものとします。
かつては加害者側の自賠責保険にも内払い制度がありましたが、こちらは平成20年10月1日に廃止に廃止されています。
示談成立後の慰謝料・賠償金支払いまでにはどれくらいかかる?
たとえば人身事故の場合、示談交渉には半年~1年程度かかることが多いです。
事故直後から数えれば、慰謝料・賠償金支払いまでさらに長い時間がかかることになります。
交通事故の慰謝料がいつ支払われるかについては、『交通事故の慰謝料はいつもらえる?誰が払う?支払い期間を早める方法』の記事も参考にしてみてください。
内払いしてもらえるかは加害者側の任意保険次第
内払いしてもらえるか、どの費目についてどれくらいの金額を内払いとして先に支払ってもらえるかは加害者側の任意保険会社の判断によります。
場合によっては内払いを拒否されてしまうこともあるのです。
たとえば先ほど休業損害は内払いで受け取るケースが多いとお伝えしましたが、専業主婦などで実際に減収が生じていない場合は、内払いが認められない可能性もあります。
無収入の専業主婦でも、休業損害はもらえます。詳しくは『専業・パート主婦(家事従事者)の休業損害!主婦手当の計算と請求方法』をご覧ください。
内払い金はいつもらえる?
内払い金は、請求手続きをしてから約1週間~1か月後に支払われます。
なお、内払い金は既に発生している損害に対してしか支払われません。よって、事故直後でまだ通院していない、休業もしていないといった段階では内払い金はもらえません。
たとえば休業損害なら、通院開始から1ヶ月経って初めて、その月分の金額を内払いとして請求できるのです。
内払い金の請求方法ともらえる金額
内払い金の請求方法|必要書類は費目や保険会社による
内払い金は、次の順番で請求しましょう。
- 加害者側の任意保険会社に、内払いは可能か聞く
- 可能だと分かったら、請求したい費目に応じた書類を提出する
内払い金の請求で必要になる書類は、請求する費目や保険会社により違うためご自身でご確認ください。
休業損害の場合は、勤務先に作成してもらった休業損害証明書などが必要になることが多いです。
慰謝料の内払いでは、とくに書類の提出は求められないこともあります。
内払い金の金額・請求回数の上限
内払い金の請求に回数制限はありません。ただし、もともと自賠責保険が実施していた内払い制度にならい、請求額に以下のような上限を設けている任意保険会社もあります。
- 傷害部分の費目(入通院慰謝料、治療関係費、休業損害など):120万円
- 後遺障害部分の費目(後遺障害慰謝料、逸失利益):74万~4,000万円
- 死亡部分の費目(死亡慰謝料、逸失利益など):~3,000万円
仮渡金請求でも慰謝料・賠償金の一部前払いが可能
仮渡金とはケガの程度に応じた金額の前払い
内払い金と同様、慰謝料・賠償金の前払いとして請求できるお金に「仮渡金」があります。
仮渡金はケガの程度に応じて請求できる金額が決まっており、請求先は加害者側の自賠責保険会社です。1度しか請求できない点も、内払い金との違いと言えます。
仮渡金で請求できる金額は次の通りです。
被害者の状態 | 貰える金額 |
---|---|
死亡 | 290万円 |
次の傷害のいずれかを受けた者 ・脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められる症状を有するもの ・上腕又は前腕の骨折で合併症を有するもの ・大腿又は下腿の骨折 ・内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの ・14日以上病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの | 40万円 |
上記を除き次の傷害のいずれかを受けた者 ・脊柱の骨折 ・上腕又は前腕の骨折 ・内臓の破裂 ・病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの ・14日以上病院に入院することを要する傷害 | 20万円 |
上記を除き11日以上医師の治療を要する傷害を受けた者 | 5万円 |
仮渡金はこのように事前に金額が定められているため、損害の算出等をする必要がなく、申請さえすれば比較的短期間のうちに金銭を受け取ることができます。
仮渡金の注意点
内払い金は請求時点ですでに生じている損害をもとに金額が算定されますが、仮渡金はケガの状態に応じてあらかじめ金額が決まっています。
よって、仮渡金として受け取った金額の方が、実際に受け取れる慰謝料・賠償金より高くなることがあります。この場合、慰謝料・賠償金との差額は返さなければなりません。
慰謝料や賠償金が低額になりそうだと分かっている場合は、この点も踏まえたうえで仮渡金制度を利用するべきでしょう。
仮渡金請求の方法
仮渡金は、少なくとも11日以上治療を受けた段階から請求できます。
以下の書類を加害者側の自賠責保険会社に提出しましょう。
仮渡金請求に必要となる主な書類
- 請求書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 医師の診断書
- 印鑑証明書
- 死体検案書(死亡事故の場合)
- 戸籍謄本(死亡事故の場合)
- 委任状(事故被害者と請求者が違う場合)
- 委任者の印鑑証明書(事故被害者と請求者が違う場合)
など
請求に必要な書類等は、どんな書類を取り寄せる必要があるのかといった説明書と併せて自賠責保険会社に用意されています。
自賠責保険の担当部署に電話をすれば、必要事項を連絡したうえで郵送で取り寄せることも可能です。
加害者側の自賠責保険会社から取り寄せた用紙でなくても、書式さえ合っているなら問題ありません。
自賠責保険への請求にあたって必要な書類の書き方は、関連記事『自賠責保険とは?請求の流れと必要書類の書き方』も参考にしてみてください。
どっちがいい?内払い金・仮渡金のメリットとデメリット
内払い金請求と仮渡金請求には、それぞれ次のようなメリット・デメリットがあります。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
内払い | あとから返金が必要になる可能性がない 請求に回数制限はない | 内払いを拒否されることもある |
仮渡 | 基準さえ満たしていれば基本的に請求できる 請求から支払いまでが内払いより早い | あとから返金が必要になる可能性がある 請求は1回しかできない |
上記のメリット・デメリットを踏まえると、内払い金請求と仮渡金請求のどちらをおこなうかは次のように考えると良いでしょう。
- 内払い金請求が適しているケース
- 休業損害など、定期的に請求したい費目がある場合
- あとからの返金リスクを考えずに受け取ったお金を使いたい場合
- 仮渡金より多くの金額を受け取りたい場合
※加害者側の任意保険会社による判断や実際の損害の程度次第では、仮渡金より低い金額しかもらえないこともある
- 仮渡金請求が適しているケース
- 加害者が任意保険未加入だったり、加害者側の任意保険会社から内払い金請求を拒否されたりした場合
- より早くまとまったお金が必要な場合
なお、加害者側の任意保険に対する内払い金請求・加害者側の自賠責保険に対する仮渡金請求は、併用しておこなっても構いません。
ただし、内払い金と仮渡金の両方を受け取ると、実際に受け取れる慰謝料・賠償金の合計を超えやすくなります。
あとから仮渡金の一部を返すことになるおそれもある点には注意しましょう。
返金リスクを減らすポイント
仮渡金・内払い金を併用した場合の仮渡金返金リスクは、示談交渉時に弁護士を立てることで下げられる場合があります。
示談交渉の際、加害者側の任意保険会社は独自の基準(任意保険基準)で計算した低額な金額を提示してきます。被害者自身で提示額の大幅増額を実現することは難しいため、そのままでは示談金額が低額になり、仮渡金と内払い金の合計を下回るリスクがあるでしょう。
しかし、弁護士を立てれば過去の判例に基づいた正当性の高い金額(弁護士基準/裁判基準)近くまで示談金を増額できる可能性が高いです。
よって、示談金が仮渡金・内払い金の合計を上回り、返金の必要がなくなることが期待できます。
アトム法律事務所では電話・LINE無料相談をおこなっています。そもそも仮渡金と内払い金を併用すべきか、他に良い方法はないかといった点も含めてぜひご相談ください。
- 弁護士基準をもっと知りたい:交通事故の慰謝料は弁護士基準で請求!慰謝料相場と増額成功のカギ
内払い・仮渡金以外で慰謝料を早期に受け取る方法
内払いや仮渡金以外であっても、賠償金を示談成立前に受け取れる方法があります。
内払いや仮渡金を受け取っても不十分である場合には、これらの方法を利用することも検討しましょう。
(1)被害者の人身傷害保険などを利用する
人身傷害保険とは、被保険者や同乗者が被保険者の車に搭乗中に、交通事故にあって負傷したり亡くなったりした場合に、保険会社から保険金が支払われる補償制度です。
実際の慰謝料・賠償金と同じ費目が支払われるため、実質的に慰謝料・賠償金の前払いと考えることもできるでしょう。過失割合による減額が生じない点もポイントです。
ただし、保険金額は自身の任意保険内の基準で計算されるため、示談交渉を経て決まる慰謝料・賠償金額よりも低額になることが大半です。
人身傷害保険金では足りない部分は示談交渉にて、加害者側に請求しましょう。
人身傷害保険について詳しく知りたい方は『人身傷害保険ってどんな保険なの?慰謝料も受け取れる保険について解説』の記事をご覧ください。
(2)加害者側の自賠責保険に被害者請求を行う
自賠責保険には、被害者請求という方法で慰謝料・賠償金の前払いを求めることもできます。
被害者請求は、実際の慰謝料・賠償金のうち自賠責保険分の金額を先に請求できるシステムです。
※加害者が任意保険未加入の場合、任意保険からの支払い分は加害者本人に請求する
通常、交通事故の慰謝料・賠償金は、上記図のように「加害者側の自賠責保険からの支払い分」と「加害者側の任意保険からの支払い分」に分けられます。
多くの場合は示談成立後、すべてまとめて加害者側の任意保険会社から支払われますが、自賠責保険からの支払い分だけ先に請求してしまうのが被害者請求なのです。
示談成立前にまとまったお金が必要な場合や加害者が任意保険未加入の場合に被害者請求を検討すると良いでしょう。
ただし、被害者請求でもらえる金額には上限があります。また、もらえる金額は「自賠責基準」と呼ばれる基準にのっとって計算されたものです。
自賠責保険から支払われる補償額を詳しく知りたい方は『自賠責保険から慰謝料はいくらもらえる?計算方法や支払い限度額』をご覧ください。
内払い、仮渡、被害者請求の違いを整理
内払い、仮渡、被害者請求の違いを請求先・請求できる金額の点でまとめると次の通りです。
- 内払い
- 請求先:加害者側の任意保険会社
- 金額:費目も金額も加害者側の任意保険会社次第
- 仮渡
- 請求先:加害者側の自賠責保険会社
- 金額:ケガの程度に応じた所定の金額
- 被害者請求
- 請求先:加害者側の自賠責保険会社
- 金額:自賠責保険の基準で計算した慰謝料・賠償金(上限あり)
どれもよく似ていて混乱してきた、どれを選べば良いのかわからないという場合は、弁護士にご相談ください。
アトム法律事務所では、電話・LINE無料相談を実施しています。
被害者請求の関連記事
(3)後遺症がある場合は先に傷害部分だけを示談する
交通事故により怪我を負った結果、後遺症が残ったという事案では、後遺障害等級認定の結果が確定してから示談を行うことになります。
その分示談金の受け取りは遅れてしまいます。また、等級認定を受けることで請求できるようになる後遺障害慰謝料・逸失利益は示談交渉時に揉めやすい項目なので、示談交渉が長引くこともあるでしょう。
よって、早く示談金を受け取るためには後遺障害等級認定の結果が出る前に、その時点ですでに損害額を計算できる費目について示談交渉するのも1つの手です。
具体的には怪我の治療費や入通院慰謝料、休業損害などが該当します。
ただし、相手方の任意保険会社が示談に応じてくれるのかは不明です。示談に応じる場合には足元を見て金額を下げてくる可能性があることに注意しましょう。
交通事故の慰謝料を早く受け取りたいなら弁護士に相談しよう
慰謝料を早く受け取りたいときに弁護士が必要な理由
この記事をご覧の方は交通事故の慰謝料についてなるべく早く受け取りたいというお悩みをお持ちだと思います。
本記事で解説した仮渡金の請求や被害者請求など、お金を早期に受け取るための方法を利用する場合、まずは弁護士に相談したほうがよいでしょう。
事故の状況によって、例えば被害者の過失割合が重い場合には仮渡金の返還が必要になるケースがあります。
先を見越した適切な対応を取る必要がありますから、まずはご自身のお悩みを弁護士に相談し、お金を早期に受け取るための正しい対応策を検討してください。
弁護士相談で慰謝料大幅アップの道も開ける
交通事故による損害額をある程度計算できる段階であれば、無料相談を通して慰謝料・賠償金の相場を確認することもできます。
加害者側は示談交渉の際に低い金額を提示してくることが多いので、事前に適切な相場額を知っておき増額交渉に臨むことは非常に重要です。
なお、相談後にご依頼まで進んだ場合は示談交渉で弁護士を立てられるため、増額交渉がスムーズに進み適切な金額が手に入る可能性が高まります。
被害者ご自身での交渉では加害者側の提示額を十分に増額させることは難しいので、示談交渉で弁護士を立てることもご検討ください。
自力での示談交渉は不可能?:交通事故の示談テクニック8つ!自分でできる交渉術と慰謝料増額の近道
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ただし、あくまでも概算となりますので厳密な相場額については無料相談にて問い合わせることをおすすめします。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了