交通事故の通院交通費|請求できる条件や慰謝料との違い、他の交通費は?
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交通事故にあって怪我をしてしまい、病院に通院する際に気になるのが交通費です。1回1回は大したことのない金額に思えても、1ヶ月・半年と通院が続くと、大きな負担となってきます。
また、車を修理に出した場合や、怪我により今までと同じ方法での通勤・通学ができなくなった場合には、通勤や通学に余計な交通費がかかることもあるでしょう。
このような交通費は、必要性・相当性が認められれば、相手方に請求可能です。
では、具体的にどのような交通費が認められるのか、必要性・相当性が認められるのはどのような場合かについて、見ていきましょう。
目次

交通事故での通院交通費は請求できる|条件は?
交通事故にあったために必要になった通院交通費は、加害者側に請求可能です。しかし、以下の条件を満たしている必要があります。
- 交通事故と相当因果関係がある
意味:交通事故によって発生した損害といえること - 必要な範囲の支出である
意味:あくまで必要性の認められる範囲の交通費であるということ
例えば、交通事故以前から計画されていた出張の飛行機代などは「交通事故によって発生した損害」ではない、つまり相当因果関係がないので、通院交通費として請求できません。
また、公共交通機関やタクシーで通院できるところを、高級車や運転手をレンタルして通院していた場合も、その交通費の支払いは認められない可能性が高いです。
被害者は「損害拡大防止義務」により、いたずらに損害の額を大きくしてはならないとされているからです。
補足
整骨院への交通費は、上記の条件に加えて以下も満たしていれば、請求できる可能性が高いです。
- 病院の医師の許可を得たうえでの通院だった
- マッサージや電気療法のみの漫然治療ではなく、必要性・相当性が認められる施術を受けていた
これらの条件は、整骨院への通院で治療費・入通院慰謝料を得るためにも重要です。整骨院に通う際には、事前に『交通事故で整骨院に通院する際の注意点』を確認することをおすすめします。
通院交通費の請求可否・金額を交通手段別に解説
通院交通費の請求が認められる主な条件は先述の通りですが、交通手段によっても請求可否の判断基準が違う場合があります。
また、必ずしも実費の請求が認められるとは限らないので、この点も合わせて交通手段別に詳しく解説していきます。
電車やバス・新幹線で通院した時の交通費
電車・バスなどの公共交通機関を利用して通院した場合、支払ったその運賃ぶんの請求が認められます。
電車・バス以外であっても公共の交通機関であれば、モノレールなどの利用も認められます。
請求できる金額は、基本的に実費です。
例えば、電車で往復400円のところにある病院に60日間通院したとすれば、「400×60=24,000円」を請求できるのです。
もっとも、「必要がないのに通院した」と判断される場合は、通院にかかる交通費も支払われない場合があります。
正当な理由があれば新幹線代も請求できる
新幹線も電車やバスと同じ公共交通機関ですが、こちらは「ケガの関係上、移動時間をできるだけ短くしなければいけない」など、正当な理由がなければ交通費の請求はできません。
新幹線代が認められた判例としては、以下のものがあります。
- 股関節脱臼で長時間座っているのが困難だった
- 大腿骨の開放骨折で立ち続けたり、地下鉄ホームを歩いたりすることが困難であった
電車や鈍行でも特別困難な理由がなければ、新幹線運賃の支払いは認められにくいのです。
タクシーで通院した時の交通費
タクシー代に関しては、タクシーの利用が相当とされる場合に限って交通費として支払いが認められます。
よって、タクシー代を通院交通費として請求するためには、タクシー利用の必要性について、一般的・客観的に見て納得のいく理由があることが必要です。
具体的な例を挙げると、以下のとおりです。
- 実際にタクシー代の請求が認められた理由
- 自宅から駅まで徒歩で1時間以上かかった
- 足の怪我で移動、直立が難しい状態にあった
- 交通事故により視力や聴力を失い、移動が困難だった
- タクシー代の請求が認められにくい理由
手首の捻挫で、楽をしたいという理由で電車ではなくあえてタクシーを利用
なお、事情によってはタクシー代金全額ではなく、その一部が損害として認められることがあります。
実際に、顔に怪我を負ってしまい人前に出たくない・交通事故の恐怖から人前に出ることが怖くなってしまったなどの事情からタクシーで通院をした方たちに対し、実際にかかったタクシー代の〇割、という形で交通費が支払われたケースがあります。
タクシーの通院交通費の計算方法
タクシー代は電車やバスと異なり、必ずしも毎日同額ではありません。料金はその日の道路状況、タクシー会社、呼び出し代の有無によって異なってくるからです。
利用のたびに領収書を獲得していれば、実際の支払いと同額が振り込まれる可能性があります。
タクシーを利用した日のうち一部の領収書しかない場合は、何日ぶんかの領収書から平均のタクシー代を計算し、通院日数を乗じて交通費の総額を計算することがあります。
自動車で通院した時の交通費
自身や家族の自家用車で通院した場合、ガソリン代、高速料金代、駐車場代などを通院交通費として請求できます。
自家用車を利用する場合は、タクシーよりも交通費の支出を抑えようとしていると考えられるため、ガソリン代などが損害として認められやすくなっています。
ただしあまりにも遠回りなルートを通ったりしていると、相当な交通費として認められない可能性は残ります。
ガソリン代の計算方法
ガソリン代については、病院までの距離をもとに1kmあたり15円として計算する判例がほとんどです。
例えば、10.5km離れた病院に50日間通院した場合のガソリン代計算は以下の通りです。
10.5×15×2×50=15,750円
このとき、現実でのガソリンの代金や車の燃費、電気自動車かどうかなどは原則として考慮しないこととなっています。
なお、電気自動車については今後の普及具合によって、交通費の計算方法が見直される可能性があります。
高速料金代・駐車場代の計算方法
高速料金代・駐車場代の計算方法は、以下の通りです。
- 高速料金代=高速道路料金×通院日数
- 駐車場代=1回あたりの通院でかかる駐車場代×通院日数
ただし、いずれも必要ない通院または必要のない出費だったと認定された場合は、支払われません。
徒歩や自転車で通院した時の交通費
自転車・徒歩などの通院では実際に交通費がかかっていないため、交通費の支払いはなされません。
多くの病院は無料の駐輪場を設けていますが、実際に支払うことになれば駐輪場代も交通費として認められるでしょう。
なお、通院途中に必要な物品を買うために立ち寄ったスーパーの駐輪場代については、支払いを認めなかった例があります。
交通事故の通院交通費はいつどうやって請求する?
通院交通費明細書を保険会社に提出する
交通費の請求をする場合は、相手方の任意保険会社に対して「通院交通費明細書」を提出しましょう。
この書類は保険会社の窓口に置いてあるほか、各社ホームページでもダウンロードできます。
交通事故の通院交通費はいつ請求できる?
通院交通費明細書は、示談交渉中に診療報酬明細書・休業損害証明書など、その他の損害を証明する書類と共に提出するのが一般的です。
相手方保険会社は書類に記載されている金額を見て、交通費を含む最終的な示談金の金額を決定し、提示してきます。
提示された金額に納得がいけば示談成立、納得がいかなければ弁護士に依頼するなどして争っていくことになります。
示談より先に通院交通費をもらうことも可能
示談交渉の際、他の費目と一緒にまとめて交通費を請求するのも手段の1つですが、先に交通費だけ支払ってもらうこともできます。
通院交通費明細書は数回に分けて提出できるので、まだ通院が残っている段階でも、ある期間までの交通費を先んじて請求できるのです。
交通事故で通勤・通学の交通費が増えたら?
交通事故の被害により必要になる交通費は、通院交通費だけではありません。人によっては通勤・通学の手段が変わり、余分に交通費が必要になることもあります。
こうした場合の「通勤・通学交通費」は請求できるのか、交通手段別に解説します。
タクシーで通勤・通学することになった場合
交通事故の怪我を理由にタクシーで通勤・通学することになった場合、タクシーの利用が必要・相当と認められれば、交通費を加害者側に請求することが可能です。
例えば、交通事故で足を怪我して長時間立っていられなくなった場合は、電車通勤が難しいためタクシーの通勤が必要・相当であると判断される可能性があります。
たとえ必ずしもタクシーが必要不可欠とは言えない場合であっても、タクシーを利用することで職場復帰が早まった、仕事を休まずに済んだといった状況があるならば、それを考慮して通勤交通費としてタクシー代が認められる可能性があります。
新たに電車・バス通勤/通学にした場合
もともと徒歩や自転車で通勤・通学していたところ、交通事故後に電車やバス通勤・通学に変更した場合も交通費として認められる余地があります。
実際に、自転車通学をしていたが、交通事故後に恐怖心からバス通学に変更した学生について、卒業期間までのバス定期代が支払われた例があります。
高速道路を利用するようになった場合
もともと車で通勤していたが、長時間の運転が困難になったため、高速道路を利用し始めたという場合についても、通勤交通費として高速道路代が認められた事例があります。
ただし、長時間の運転が困難となったと言えるような、具体的な症状が残っていなければなりません。
首や腰の痛み、手足の震え、眼精疲労などがあれば、「長時間の運転が困難」と判断される可能性があります。
交通事故で生じたその他の交通費は支払われる?
続いて、その他の交通費として以下のものについても解説していきます。
- 通院の付き添い・お見舞いでかかる交通費・宿泊費
- 警察署で交通事故の取り調べを受けるための交通費
- 車が利用できなかった間のレンタカー代(代車代)
- 交通事故の示談終了後に生じる、将来の交通費
通院の付き添い・お見舞いでかかる交通費・宿泊費
まずは、通院に付き添った人やお見舞いに来た人の交通費を解説します。場合によっては宿泊費が生じることもあるので、この点についても確認していきましょう。
通院に付き添った人の交通費
「通院時に付添い人をつけるのが相当な状況」だと認められれば、付添い人の交通費も請求できる可能性があります。
例えば被害者に重い後遺障害が残るような重篤な怪我が生じていたり、幼年者で1人では通院できない状態だったりすれば、付添い人の必要性は認められるでしょう。
付添い人の交通費は、通常の交通費と同じように実費を計算します。
入院期間が年単位など治療が相当長期にわたるときには、月額いくらと定めて計算することもあります。
交通事故のお見舞いに来てくれた人の交通費
被害者をお見舞いにきた人の交通費についても必要・相当な範囲で認められます。
ここでの必要相当とは、被害者の症状の重さのほか、見舞い人との関係、心情、事故態様などが考慮されます。
より具体的には、被害者の家族であるとか、事故が重大で一刻も早く容態を確認したいなど、見舞いにくるのも当然であるということを推定できるような事情が必要です。
また、見舞いのための交通費については航空券代、新幹線代など高額の交通費も認められやすくなっています。
すぐにでも見舞いに行きたいという心情から最速の交通手段が選ばれるのは当然と言えるためです。
交通事故のお見舞い・付添の宿泊費
付添やお見舞いに宿泊を伴う場合は、必要に応じて相当な範囲、費用が補償されます。
例えば自宅から病院までが遠いため、近隣のホテルに泊まって連日付添をするような場合・遠方から見舞いにきて、翌日も見舞うため宿泊するような場合です。
さらに長期の宿泊が必要になることを見越して近隣にアパートを借りたりした場合の家賃なども、損害として認められた例があります。
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警察署で交通事故の取り調べを受けるための交通費
交通事故後、警察から呼び出しを受けて取り調べ(事情聴取)された場合の交通費についても、加害者側に支払ってもらうことが可能です。
取り調べには応じることが一般的に求められている、という観点から交通費の請求について認めない考えもありますが、実際には「交通事故にあわなければ警察署にも行く必要は無かった」として、警察署までの交通費支払いが認められている例が多くあります。
車が利用できなかった間のレンタカー代(代車代)
交通事故によって自家用車が使えない期間が生じた場合は、レンタカーを借りるでしょう。
この場合の費用は、被害車両が仕事や通勤など日常生活に必要不可欠であり、かつ実際にレンタカーを利用したのであれば請求可能です。
ただし、レンタカー代を請求するには、以下の条件を満たしている必要があります。
- レンタカーの利用が、車の買い替えや修理完了までの相当な期間内であること
- もともと利用していた自動車と同種同程度のグレードのレンタカーであること
国産の小型車に乗っていたのに、高級外車をレンタルしたという場合は、レンタカー代が認められない可能性があるので注意しましょう。
なお、このようなレンタカー代は交通費ではなく、物損として扱われることが多いです。
レンタカー代が交通費として認められた判例としては、一時帰宅する際に、車椅子やベッドなどを搭載できる車がなくレンタカーを借りた事案があります。
交通事故の示談終了後に生じる、将来の交通費
治療がある程度終了しても、その後定期観察のための通院が必要であったりする場合は、将来かかるであろう交通費が請求可能です。
ただし、将来の通院交通費が認められるのは、四肢の麻痺など相当に重い後遺障害が残っているときに限られます。
将来の通院交通費は、余命がどれくらいか、あと何度の通院が予定されているかといった要素をもとに算出します。
なお、本来少しずつ支払う金額をまとめて受け取ることを鑑み、中間利息が控除される点に注意してください。
その他、通院以外の交通費が認められたケース
通院・通勤・通学以外の交通費でも、交通事故による怪我や後遺障害を理由として必要となったものであれば、加害者側に請求できる可能性があります。
実際に請求が認められた交通費として挙げられる例は、以下の通りです。
- 子供の送迎にかかる交通費
- 交通事故とは関係のない歯医者への通院にかかる交通費
- 重要な行事への参加のためかかる交通費
- 仕事上必要な移動(被害者医師による往診)でかかる交通費
交通事故の示談で交通費&慰謝料を増額する方法
通院交通費と交通事故の慰謝料はどう違う?
ここまで解説したとおり、交通費とは、交通事故に遭わなければ生じなかった余分な交通費のことを指します。それに対して慰謝料は、交通事故で生じた精神的苦痛を補償するものです。
慰謝料と交通費の違い
補償の対象 | |
---|---|
慰謝料 | 交通事故にあったことで受けた精神的苦痛 |
交通費 | 交通事故にあわなければ支払わずに済んだはずの交通費 |
慰謝料が支払われる精神的苦痛が生じるシチュエーションとは、具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 入院した
- 通院した
- 後遺障害が残った
- 近親者が死亡した
このような状況となると、それぞれにつき入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料が支払われます。
一方で、交通費とは入通院に際して実際にかかる費用の補償ですから、精神的苦痛に対して支払われる慰謝料とは別物として扱われます。
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入通院日数が長ければ慰謝料も交通費も高くなる
交通事故の慰謝料のうち入通院慰謝料は、入通院日数に応じて金額が決まります。
一方、通院交通費は、1日あたりの往復交通費×通院日数で計算します。
よって、両者は共に入通院日数が長く・多くなるほど高額になる、と言えるでしょう。
ただし、入通院慰謝料については、治療期間が長く空くなど通院をサボることで、支払いが減額される場合があるので注意が必要です。
また、治療中にことさらに大きな苦痛を受けるなどの事情があれば、増額されることもあります。
一方で、交通費は実際に支払ったぶんだけ請求できるのが原則ですので、何らかの事情によって実際にかかった費用以上に増額させる方法はありません。
完治・症状固定以降の慰謝料・交通費は原則支払われない
注意しなければならないのは、入通院慰謝料も交通費も、「完治」「症状固定」以後のぶんは支払われない可能性が高いということです。
症状固定とは
それ以上一般的な治療を行っても、症状が良くも悪くもならない状態
完治または症状固定となると、それ以上通院の必要がなくなるため、交通費・入通院慰謝料・治療費も原則支払われなくなるのです。
症状固定の時期は原則として医師の判断が尊重されますが、相手方の保険会社から「完治したでしょうから治療はやめにしませんか」「そろそろ症状固定にしませんか」と言われるケースや、「痛みはなくなりましたか」「治療は終わりそうですか」と遠回しに聞かれるケースもあります。
まだ通院の必要があるのに保険会社に促されて治療を終えてしまうと、損害賠償金が不当に低額になってしまう可能性があります。
相手方保険会社に気を遣わず、医師のアドバイスを受けながら正直に自身の症状を話し、治療終了の時期を決めるようにしましょう。
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症状固定とは?時期や症状固定と言われたらすべき後遺障害認定と示談
交通費は原則実費、では慰謝料はいくら?【計算機】
実際に支払われる慰謝料に関しては、こちらの「慰謝料計算機」を利用してください。なお、慰謝料計算機の結果には通院交通費は含まれておりません。
この計算機でわかる慰謝料は、弁護士に依頼した場合に請求可能な金額であり、保険会社から提示される金額はもっと低いことがほとんどです。
弁護士なら相手方に対してこの計算機と同水準の慰謝料を請求できますし、被害者本人による主張よりも弁護士による主張の方が、相手方に聞き入れられやすい傾向にあります。
また、事故の個別的な事情に応じて、この計算機以上の金額を請求できる可能性もあります。
慰謝料の増額や弁護士による交渉の効果を知りたい方は、以下の関連記事をご確認ください。
交通事故の交通費・慰謝料のお悩みは弁護士にご相談ください
交通事故で怪我をした場合の交通費については、「被害者の付添人分の交通費も受け取れる」「通院以外の交通費も受け取れる」など、受け取れる範囲は案外広くなっています。
交通費の請求では、領収書など記録をとっておくことと、適切な交通手段を利用することが重要です。
ただ、その通りにしていても、相手方保険会社からは交通費を支払うという返事が得られないこともあります。
交通費や慰謝料の請求でお悩みの際は、ぜひ弁護士にご相談ください。

アトム法律事務所では24時間365日、いつでも法律相談の受付を行っております。
相手方保険会社から提示された交通費に納得のいかない方、ご家族が入院されている方、現在長く通院中の方など、いつでも広く相談を受け付けております。
皆様からのお電話を心よりお待ちしております。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了