交通事故の葬儀費用はいくら請求できる?葬儀費用の範囲と請求のポイント
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交通事故の葬儀費用は社会通念上相当な範囲内で請求でき、150万円が弁護士基準での基準額です。
もっとも、事案によっては基準額を超える葬儀費用の請求が認められることもあります。
本記事では、交通事故で大切なご家族を亡くされた遺族の方が適切に対処できるよう、葬儀費用の出費について損害賠償請求できる法的な根拠、請求方法、補償を受けられる範囲などを丁寧にわかりやすく徹底解説します。
交通事故で損害賠償請求できる葬儀費用と金額
交通事故被害者が死亡した場合の葬儀費用は、法的に民法709条「不法行為による損害賠償請求」の権利に基づき、加害者側に損害賠償請求可能です。
最高裁判所昭和43年10月3日判決においても、被害者遺族が支出した葬式費用は、社会通念上特に不相当なものでないかぎり、加害者側の賠償すべき損害となるという判断をしています。
もっとも、葬儀にかかる費用は火葬場や葬式の会場使用料など葬儀そのものにかかる費用だけでなく、飲食接待費や返礼品代、寺院へのお布施、さらには仏壇や墓碑代などさまざまです。
いずれも遺族にとって必要な支出ですが、交通事故の損害賠償請求においては、葬儀にかかった費用が全額請求できるとは限らず、「葬儀関係費用」として認められるものと、認められないものがあります。
ここでは、葬儀費用の主な内訳と損害賠償で認められやすいかどうか、そして実際に事故の相手方から支払われる金額について説明します。
葬儀費用の内訳と交通事故の損害賠償で認められる範囲
葬儀でかかる費用について、それぞれ交通事故の損害賠償請求で認められるかどうかを、以下の表にまとめました。
| 費用項目 | 請求の認められやすさ |
|---|---|
| 葬儀一式費用 (祭壇設営、葬儀スタッフなど) | 認められやすい |
| 火葬費用、埋葬料、棺代、骨壺代など | 認められやすい |
| 通夜振る舞い、会場使用料 | 認められやすい |
| 僧侶へのお布施、読経料、戒名料、供養料 | 認められやすい |
| 葬儀に必要な実費 (遺影写真、花代、ドライアイス処置代など) | 認められやすい |
| 一般参列者の交通費・宿泊費 | 認められにくい |
| 引出物代、四十九日忌の後の法要費 | 認められにくい |
| 香典返し、弔問客接待費(精進落としなど) | 認められない |
| 墓代(墓地代や墓石代)、仏壇代、仏具購入費用 | 葬儀費用とは別に認められうる※ |
| 遺体搬送費用、遺体処置費用 | 葬儀費用とは別に認められうる |
※葬儀費用に含まれるとする判例もある
葬儀にかかった上記費用の領収書は、必ず保管しておきましょう。加害者側に損害賠償を請求するときの重要な証拠資料として必要になります。
僧侶へのお布施や戒名料等、一般的に領収書の発行されない費目については、支払額、支払日、支払先等を正確に記録しておくほか、口座からの対応する出金等による立証を検討する必要があります。
交通事故の葬儀費用は原則【150万円まで】支払われる
交通事故の葬儀費用(葬儀代、火葬料金などの合計)は、弁護士基準(裁判基準)であれば原則として150万円を限度に相手方から支払われます(赤い本の場合。青い本の場合は130万円~170万円程度)。
150万円という一定の金額が基準額として定められている理由には、主に以下の3つが挙げられます。
- 個別の葬式の金額や内容を詳細に判断するのは難しい
- 社会的地位や家族構成などによる格差を全面的に認めると、かえって不公平が生じるおそれがある
- 香典収入などで遺族も最終的な負担が抑えられる(大規模な葬儀を行えば、香典収入も大きい)
もしも葬儀費用が150万円未満の場合は、実際に支払った額が支払われます。
ただし、相手方の保険会社が提示する賠償金額は低く計算されることが多いです。
最終的に葬儀代がいくら支払われるかは、事故相手との交渉次第となります。交渉手続きに不安がある場合は、弁護士に依頼して任せることもできます。
交通事故の葬儀費用を請求する流れと対応
交通事故での葬儀費用は通常、四十九日法要を終えてから事故の相手方に請求をします。
葬儀費用を請求する流れや必要書類など、誰がどのように進めていくか確認していきましょう。
交通事故の葬儀費用を請求する流れ
交通事故で被害者の方が死亡された場合、まずは警察から電話で交通事故死の連絡が入ります。
その後の一般的な流れは以下のようになります。
ご遺体の引き渡し
被害者の方が事故現場で亡くなった場合:検死(死因や事件性の有無の確認)や司法解剖(事件性が疑われる場合)を実施後、遺体確認の上引き渡し(引き取り人・故人の身分証明書と印鑑を持参)。
病院で亡くなられた場合:病院またはご遺族の決めた葬儀社に引き渡し。
お通夜・葬儀・告別式
お通夜・葬儀・火葬などの準備をする(日程調整、葬儀会社の手配、市区町村役場での死亡届の提出や火葬許可証の取得など)。お通夜・葬儀・火葬・納骨などの手続きを順次行う。支払った費用の領収書を保管しておく。
四十九日法要
葬儀関連で発生した費用を請求するため事故相手の保険会社に領収書原本を郵送する。
損害賠償請求・示談交渉
損害賠償請求を行い、最終的な示談金の交渉をする。領収書原本を送っていれば、葬儀費用については先払いされることもある。示談金を誰の口座に振り込むかは書面で合意をとっておく。
示談締結
示談金について当事者双方が合意し、示談締結。示談締結から2週間程度で、葬儀費用を含めた示談金が支払われる。
葬儀費用を請求するときの必要書類の例
葬儀費用の請求のため必要な書類としては、以下のようなものがあります。
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 葬儀費用の領収書 | 実際に支払った金額の証拠 コピーを取って原本で提出する |
| 死亡診断書・死体検案書 | 死亡の事実および死因を証明する |
| 戸籍謄本 | 被害者と遺族の関係を証明するため |
| 委任状 | 遺族が代表者に手続きを委任していることを示すため |
実際に必要となる書類は、事故状況や保険会社によっても異なります。
ご遺族の誰が損害賠償を請求するのか
交通事故で被害者が亡くなった場合、葬儀費用やほかの損害賠償請求ができるのは原則として法定相続人です。
主に以下の方が対象になります。
- 配偶者(常に相続人となる)
- 子ども(実子・養子を含む)
- 両親(子どもがいない場合)
- 兄弟姉妹(子どもも両親もいない場合)
実際には相続人のなかで代表者を決定し、その方が事故相手方の保険会社に請求を行っていくことになります。
また、相続人全員の同意があれば、弁護士に手続きを任せることもできます。
なお、葬儀費用については、相続人が損害賠償請求をして、相続分に応じて分配されるか、葬儀費用を支払った人が全額請求するかのどちらかの方法になりますが、一般的には、後者の方法が多いです。
法定相続人以外(故人の勤務先の会社など)が喪主として負担した場合には、法定相続人以外でも葬儀費用を加害者側に損害賠償請求請求できます。
葬儀費用の示談交渉は弁護士に任せた方がいい?
葬儀費用を含めた示談交渉については、ご遺族の同意が得られるのであれば、弁護士に任せた方がより高額な示談金を、より簡単に得られることに繋がります。
特に死亡事故では、ご遺族の方は葬儀や相続の手続きが多く、保険会社への対応まで手が回りきらないことがほとんどです。
また、ご遺族の方が相手方の任意保険会社と示談交渉される場合には、保険会社からの提示額が低額な自賠責保険での算定基準額になっていることが多いです。
交渉の基準額の目安
| 費用項目 | 遺族が交渉 (自賠責基準) | 弁護士が交渉 (弁護士基準) |
|---|---|---|
| 葬儀費用 | 一律100万円※ | 実際に支出した額 原則最大150万円 |
| 死亡慰謝料 | 350万~1300万円 | 2000万~2800万円 |
| 支払いの上限額 | 最大3000万円 | 無制限 |
※自賠責保険の支払基準改正前の2020年(令和2年)3月31日以前は原則60万円で、限度額が100万円
各費目についてより詳しくお知りになりたい方は、関連記事『死亡事故の慰謝料・賠償金の相場や平均は?示談の流れや保険金も解説』もご覧ください。
葬儀費用の支払いを拒否されたら?判例も紹介
実際に示談交渉をしてみると、保険会社から葬儀費用についてあっさり支払いを拒否されることもあります。
そのような場合の具体的な対処法、実際に認められる見込みがあるかについて解説していきます。
保険会社から支払いを拒否されたときの対処法
保険会社が葬儀費用の支払いを拒否してきた場面では、以下のような対応策が有効です。
- 領収書や請求書など、実際にかかった経費の証拠を提出する
- 支出が必要かつ相当であることを、明細や事情説明書などで客観的に説明する
- 減額交渉には安易に応じず、納得できない場合は弁護士に相談する
特にご家族が亡くなられた後ですと、事故相手側と争う気になれず、相手方の主張をそのまま認めてしまう方もいらっしゃいます。
しかし、弁護士が介入すれば、相手方とのやりとりを任せるだけではなく、適正な損害算定をもとに法的に根拠のある請求が可能になります。
特に交渉が難航している場合には、第三者が間に入り冷静に話を進めることで、有利な結果に結びつくこともあります。
賠償が認められた葬儀費用の裁判例
前述したように、交通事故の葬儀費用として認められうるのは原則150万円までで、場合によっては遺体搬送費用、遺体処置費用、墓地代、仏壇代、仏具購入費なども別途認められます。
実際に裁判で認められた葬儀費用をみていきましょう。
150万円を超える葬儀費用が認められた裁判例
さいたま地判平27・12・18(平成27年(ワ)164号)
21歳の大学生が交通事故で死亡し、葬儀関係費用として支払った251万円の賠償を求めた事例。
裁判所の判断
「葬儀関係費用は…事故と相当因果関係のある損害としてはある程度定型化して評価」
さいたま地判平27・12・18(平成27年(ワ)164号)
- 実際の支出額251万円に対し200万円を認定。
- 21歳という「通常では想定し得ない年齢で突然死亡した」ことを考慮。
葬儀関係費用
200万円
ほかにも高額な葬儀費用が認められた例や、遺体搬送費用などが別途認められた例をいくつか紹介します。
| 費用項目 | 賠償が認められた例 |
|---|---|
| 複数回行われた葬儀費 | ・家族も重傷を負っていた(さいたま地判平26.8.8) ・季節柄遺体の運搬が困難で、単身赴任先と地元で葬儀を行った(大阪地判平28.10.26) |
| 盛大に行われた葬儀費 | ・事故態様から手厚く葬儀するのももっともだとして250万円を認めた(東京地判平20.8.26) ・200名を超える弔問があった(神戸地判平28.10.27) |
| 納棺・遺体搬送のための費用 | ・死亡地が広島、葬儀が松山と距離が離れていた(松山地判平8.7.25) |
| 遺族の交通費 | ・遺体の確認及びその引き取りのために必要な費用だった(神戸地判平12.11.16) ・長く帰国予定のなかった遺族が葬儀出席のため帰国した(東京地判平21.11.18) |
| 仏壇購入費・墓碑建立費 | ・仏壇や墓を持っていないことから、仏壇・仏具購入費16万円余、墓地の権利金等52万円余、墓所工事代金267万円を認めた(横浜地判平1.1.30) |
| 遺体処置費用 | ・遺体の損傷がひどく、葬儀をエンバーミングにより頭に似せたものを形成し頭部に被せて行った(京都地判平28.11.29) |
※一部のみ認められた費用も含む
なお、これらは特殊な事情を含むケースであるため、全ての場合でこのような葬儀費用の支払いが認められるわけではありません。
賠償が否定された葬儀費用の裁判例
墓地代、仏壇代、香典返しなどは社会的儀礼や遺族の資産形成とみなされ、賠償の対象外となることがあります。
墓地取得代金を損害として認めなかった裁判例
東京高判平22・10・28(平成22年(ネ)4323号)
31歳の会社員が交通事故で死亡し、墓地取得代金970万円の賠償を求めた事例。
裁判所の判断
「墓地取得代金も含めて葬儀関係費用として合計150万円の損害を認めるのが相当」
東京高判平22・10・28(平成22年(ネ)4323号)
- 墓地取得代金を別途の損害として認めず。
- 葬儀関係費用に墓地取得代金を含めて評価。
ほかにも裁判上認められなかった葬儀関連費用として以下の例があります。
| 費用項目 | 賠償が認められなかった例 |
|---|---|
| 複数回行われた葬儀費 | ・年末で遺体が運搬できなかった(神戸地判平12.11.16) |
| 盛大に行われた葬儀費 | ・葬儀費用760万円のうち、150万円を超える部分 (横浜地判平23.10.18) |
| 遺族の交通費 | ・警察の事情聴取、また親族の情愛に基づいた費用だった(神戸地判平12.11.16) |
裁判上の具体的な金額上限や基準があるというよりも、個別の事情や支出額の相当性を考慮し、「そのような事故であれば支払わざるを得ない」と言えるかどうかが判断の分かれ目です。
お金を受け取っていたら交通事故の示談金は減る?
交通事故で被害者の方が死亡された場合、被害者側家族の加入する保険から保険金が下りたり、ご遺族の方がお金を受け取れることがあります。
場合によっては、二重取りとならないよう、示談金から保険金相当額が控除されることがあります。
実際に控除(損益相殺が適用)されるかは、受け取ったお金が損害への補償という性質を持っているかをポイントに決定します。
示談金から差し引かれるお金
| お金の種類 | 示談金から差し引かれるか |
|---|---|
| 生命保険金 | 差し引かれない |
| お見舞金 | 差し引かれない |
| 香典 | 差し引かれない |
| 労災保険の遺族特別支給金 | 差し引かれない |
| 搭乗者傷害保険金 | 差し引かれない |
| 遺族年金 | 一部差し引かれる |
| 人身傷害補償保険金 | 差し引かれる |
交通事故による葬儀費用の請求は弁護士にご相談を
葬儀費用を含む損害賠償の請求は、法律や保険制度に基づいて進める必要があり、複雑で精神的にも大きな負担となることがあります。
葬儀を終えたあとの慌ただしい時期に、ご遺族がすべてを独力で進めるのは困難な場合もあります。
お手続きでお悩みの点や疑問点がございましたら、ぜひ弁護士にご相談ください。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
