交通事故で示談が進まないときどうする?原因と対処法まとめ
交通事故の示談が進まない場合、なかなか示談金を受け取れないだけでなく、「加害者側に損害賠償請求する権利」の時効が迫ってくるリスクもあります。
よって、示談が進まない理由や交渉の状況に合わせて速やかに対処しなければなりません。
この記事では、示談が進まない理由や状況別に対処法を解説しているので、目次から自身の状況にあったものを選んで読んでみてください。
目次
話し合いで揉めて示談が進まない場合の対処法
示談が進まない原因として多いのが、双方または一方が示談の内容に納得せず、合意に至れないということです。
示談交渉では損害賠償金額や過失割合について話し合われますが、被害者側と加害者側で主張内容に差があり、交渉が平行線となることは珍しくありません。
この場合、どのように対処すれば良いのか、以下のパターンに分けて解説していきます。
- 自身の保険会社に示談を任せている場合
- 弁護士に依頼して示談を任せている場合
- 被害者自身で示談交渉している場合
(1)自身の保険会社に示談を任せている場合
自身の保険会社の示談代行サービスを使っていて示談が進まない場合は、以下の対処法をとりましょう。
- 保険の担当者と改めて示談の方向性をすり合わせる
- 弁護士に示談交渉を依頼する
それぞれについて詳しく解説していきます。
保険の担当者と改めて示談の方向性をすり合わせる
示談が進まない場合は、示談交渉を行っている自身の保険担当者と、改めて以下の点をすり合わせてみましょう。
- 交渉での争点の中で、妥協してもいい点と妥協したくない点
- いつまでに示談を成立させたいか
示談交渉は、被害者側・加害者側双方の合意によって成立します。よって、互いに少しずつ譲歩の姿勢をとらなければなかなか話し合いは進みません。
示談交渉でどのような点が争いになっているのかを確認し、一部譲歩の姿勢をとることで、絶対に譲歩したくない点については加害者側が折れてくれる可能性もあります。
また、いつまでに示談を成立させたいか保険担当者に伝えて改めて戦略を練り直すことで、示談が進み始めることもあります。
よって、保険担当者に示談を任せている場合は、一度方向性のすり合わせをしてみることがおすすめです。
弁護士に示談交渉を依頼する
なるべく被害者側の主張を通したうえで示談の早期成立を目指したい、示談を早く進めつつも最大限の示談金を受け取りたいという場合は、示談交渉の依頼を弁護士に切替えることがおすすめです。
その理由は次の通りです。
- 示談代行サービスだと保険会社同士での交渉となるので、今後の付き合いやこれまでの関係性などを考慮して馴れ合いが生じるリスクがある。一方、弁護士を立てれば徹底的に交渉してもらえる。
- 弁護士という肩書上、相手方の態度が軟化することもある。
- 弁護士による示談交渉なら、本来裁判をしなければ得られない「弁護士基準(裁判基準)」の金額獲得も期待できる。
弁護士基準とは、交通事故慰謝料を計算するときの算定基準の1つです。他には自賠責基準・任意保険基準があります。
慰謝料計算の3基準
- 自賠責基準:交通事故被害者に補償される最低限の金額基準。国によって定められている。
- 任意保険基準:各任意保険会社が独自に設定している金額基準で、非公開。
- 弁護士基準:過去の判例をもとにした法的正当性の高い金額基準。裁判基準とも言われ、本来は裁判をしなければ獲得できない。
※加害者側が提示してくるのは自賠責基準や任意保険基準、自身の保険会社が相手方に主張するのは任意保険基準の金額。
弁護士基準の金額は一般的に、任意保険基準の2倍~3倍ほど高額であると言われます。
たとえばむちうちの後遺症が後遺障害等級14級に認定された場合にもらえる「後遺障害慰謝料」は、自賠責基準なら32万円ですが弁護士基準なら110万円です。
示談交渉では、弁護士を立てなければ弁護士基準の金額獲得は困難です。できる限り譲歩・妥協せずに示談を進め、なおかつ最大限の示談金額を得たい場合は、弁護士を立てることも検討してみてください。
弁護士基準ってどれくらい?
- 計算方法や金額表を紹介:交通事故の慰謝料は弁護士基準で請求
- 弁護士基準での慰謝料が簡単にわかる計算機:以下参照
(2)弁護士に依頼して示談を任せている場合
弁護士に依頼していて示談が進まない場合の対処法としては、以下のものがあります。
- 弁護士と改めて示談の方向性をすり合わせる
- 弁護士を変える
どのような場合にどちらの対処法をとればいいのか、見てきましょう。
弁護士と改めて示談の方向性をすり合わせる
弁護士の実績や対応、弁護士との関係性などにとくに問題がない場合は、改めて以下の点について、弁護士と話してみましょう。
- 現在の交渉状況について
- 進捗状況の報告頻度について
- 希望する示談成立時期について
- 交渉で譲歩してもいい点と絶対に譲りたくない点について
弁護士は示談交渉のプロですが、弁護士を立てても示談成立に時間がかかることはあります。
しかし、なぜ示談に時間がかかっているのかがわかれば、なかなか進まない示談に対するストレスも軽減されやすいでしょう。「その点の交渉はもう譲歩していいので話を先に進めてください」と頼むこともできます。
また、被害者からすると示談が進んでいないように見ても、実は平均的なペースで進んでいるという可能性もあります。
弁護士はプロなのだから自分が口をはさむのは良くないのではないか、などと思う必要はありません。進まない示談にストレスや不安があるなら気兼ねなく相談してみましょう。
関連記事
そもそも示談交渉にはどれくらいの期間がかかる?
交通事故の示談にかかる期間の目安は?早く終わらせたいときの対処法
弁護士を変更する
以下のような場合は、弁護士を変えることも検討してみましょう。
- 示談の進み具合について弁護士に相談したが手ごたえがなかった
- 弁護士の実績を見ると、刑事事件や相続問題など交通事故以外の分野が多い
一口に弁護士と言っても、得意な分野はさまざまです。
たとえ交通事故事案を受け付けている弁護士であっても、別の分野の方が得意・経験豊富ということは珍しくありません。
交通事故の示談交渉には、示談金の相場感覚や交渉スキルのみならず、医療や保険、各保険会社の実務に関する知識などが必要なので、交通事故事案の実務経験・実績が豊富であることは重要です。
弁護士を変更するか迷う場合は、セカンドオピニオンとして他の弁護士の話を聞いてみてから考えることもできます。
アトム法律事務所ではセカンドオピニオンとしての無料相談も受け付けているので、お気軽にご相談ください。
弁護士を変更する具体的な方法や注意点は、『交通事故の弁護士は変更できる!変更方法と注意点。やる気ないは解約理由になる?』の記事で詳しく解説しています。
(3)被害者自身で示談交渉している場合
保険会社や弁護士を介さず、被害者自身で示談交渉していて示談が進まない場合は、一度弁護士に相談をしてみましょう。
たとえ弁護士を立てるつもりがなくても、弁護士から交渉の方法や方向性についてアドバイスを聞くことができます。
そのうえで弁護士の必要性を感じれば、交渉途中からでも弁護士を立てることが可能です。
被害者自身が交渉に当たる場合、交渉相手である相手方保険会社は次のような戦略をとることがあります。
- 被害者側が根負けするまで譲歩の姿勢をとらない
- 被害者の交渉意欲喪失や委縮を狙い高圧的・強引な言動をとる
よって、今の状態のまま交渉を続けても、示談は進まず、被害者側の精神的負担が増えることも考えられます。
今の状況を打開し、新しい視点で戦略を立て直すためにも、まずは一度弁護士にご相談ください。
こちらも参考になる
やりとりが遅くて示談が進まない場合の対処法
交通事故の示談交渉は、対面ではなく電話やメール、FAXなどで行われることが多いです。
よって、話合い自体は揉めることなくスムーズに進んでいたとしても、加害者側や被害者側の対応ペースが遅ければ示談は進みません。
こうした場合はどうすれば良いか、以下の場合に分けて解説していきます。
- 加害者側の対応ペースが遅い場合
- 被害者側の対応ペースが遅い場合
(1)加害者側の対応ペースが遅い場合
示談交渉相手である加害者側の保険会社の対応が遅い場合、担当者が他の案件で手一杯になっていることが考えられます。
保険会社の担当者は、1人あたり100件近くの案件を担当していることもあり、とくに比較的軽微な事故だと判断されれば対応が後回しにされることがあるのです。
こうした場合は、以下のような対応が可能です。
- 相手方保険会社のお客様相談センターに相談する
- そんぽADRに相談する
そんぽADRとは、保険業法に基づいて国の指定を受けた紛争解決機関。中立的な立場で相談者と保険会社との問題解決を手助けしてくれる。 - 弁護士に相談する
もっとも手軽かつ迅速な対応が見込めるのは相手方保険会社のお客様相談センターに相談することです。
しかし、それでも状況が改善しない場合や、確実に状況を改善させたい場合は、そんぽADRや弁護士への相談をおすすめします。
とくに弁護士は、中立的な立場ではなく被害者側の立場に立って問題解決にあたります。
被害者側が弁護士を立てると、加害者側に「裁判を起こされるかもしれない」という心理的圧力もかけられるので、対応ペースが速くなることが期待できます。
(2)被害者側の対応ペースが遅い場合
示談交渉を依頼している自身の保険担当者や弁護士の対応が遅い場合は、直接問い合わせをしてみましょう。
本当は示談は順調に進んでいるのに、進捗報告の頻度が低いために示談が進んでいないように見えている可能性もあります。
できるだけ早く交渉を進めてもらいたい旨とともに、どれくらいの頻度での進捗報告を望むのかも合わせて伝えましょう。
加害者側が示談交渉に応じず示談が進まない場合の対処法
示談交渉は通常、加害者側からの申し入れで始まることが多いです。しかし、中にはなかなか示談の申し入れが来ず、被害者側から示談交渉を持ちかけても応じてもらえないこともあります。
このような場合の対処法を、以下の場合に分けてみていきましょう。
- 加害者が任意保険未加入の場合
- 任意保険加入済みの場合
(1)加害者が任意保険未加入の場合
加害者が任意保険未加入の場合、示談交渉の相手は基本的に加害者本人となります。
また、本来なら加害者側の任意保険会社が負担する被害者への示談金も、加害者本人が負担しなければなりません。
こうした事情から、加害者が任意保険未加入の場合、「交渉をするのが面倒くさい」「示談金を支払いたくない」という理由で示談交渉に応じないことがあるのです。
この場合は、加害者に対して示談交渉を求める文書を内容証明郵便にして送りましょう。
内容証明郵便とは
誰が、いつ、どのような内容の郵便を、誰に送ったのか郵便局が証明してくれる郵便。
内容証明郵便に法的強制力はありませんが、加害者に心理的圧力を加えることは可能です。
また、加害者が示談交渉に応じず裁判になった場合には、「被害者側はきちんと示談交渉の申し入れをした」という証明になります。
内容証明郵便は、請求書とコピー・封筒を用意して郵便局で規定の料金を支払えば送ることができます。
なお、加害者が任意保険未加入の場合は、示談金の未払いリスクもあります。
任意保険未加入の加害者と示談交渉する際の注意点は、『交通事故相手が無保険でお金がない!賠償請求の方法とリスク対策』の記事でご確認ください。
(2)加害者が任意保険に入っている場合
加害者が任意保険に入っている場合は、基本的に加害者側の任意保険の担当者が交渉にあたります。よって、基本的には相手方任意保険の担当者から示談交渉の申し入れがあるはずです。
それにもかかわらず示談交渉の申し入れが来ない場合、加害者が任意保険会社に交通事故を知らせていない可能性があります。
交通事故を起こして保険を使うと翌年からの保険料が上がってしまうので、それを避けるために任意保険会社に連絡をしない加害者もいるのです。
この場合は、以下のように対応しましょう。
- 弁護士に依頼して、23条照会により加害者の任意保険会社を確認する
- 加害者に任意保険会社への連絡を促す
23条照会とは、弁護士が企業や官公庁に対して必要事項を確認することです。
ただし、各保険会社に加害者の加入の有無を確認して回る作業になるため、ある程度保険会社の目星がついている必要があります。
事故相手が任意保険を使わないときの対処法は、『事故相手が保険を使わない|3つの賠償請求方法と内容証明のメリット』でも詳しく解説しています。
加害者に任意保険への連絡を促す場合は、逆上などトラブルに発展する可能性もあります。弁護士を挟んでおいた方が安心でしょう。
示談が進まないとどうなる?リスク回避法も紹介
示談金の受け取りが遅くなり金銭的に圧迫される
交通事故の示談金は、基本的に示談成立後に支払われます。示談が進まないと、例えば休業損害の回収が遅れ、長い間減収分を回収できない状態が続いてしまうことがあるのです。
通院に使った交通費なども蓄積すると金額が大きくなることがあり、回収が遅れると金銭的な圧迫につながりがちです。
しかし、一部を示談成立前に受け取ることも可能です。示談が進まず金銭的に困っている場合には、次の手続きも検討してみてください。
- 相手方自賠責保険会社への被害者請求
- 示談金のうち、自賠責保険分の金額のみ先に請求できる
- 被害者請求の手続きや金額:交通事故の被害者請求とは?
- 相手方任意保険会社への仮渡金請求
- ケガの程度に応じて5万円、20万円、40万円いずれかを請求できる
- 詳しい概要:内払い金・仮渡金を解説
- 自身の保険会社への保険金請求
- 事故形態や被害内容によって、人身傷害保険、搭乗者傷害保険、車両保険などが使える
- 詳しくはこちら:交通事故で使える保険の種類と請求の流れ
被害者請求をする場合は、加害者がどこの自賠責保険に入っているか知る必要があります。
交通事故証明書を見れば確認できるので、『交通事故証明書とは?もらい方と目的、後日取得の期限やコピーの可否』の記事を参考にして取り寄せてみましょう。
なお、自賠責保険は加入必須ですが、万一加害者が自賠責保険に入っていない場合は、政府保障事業の制度を利用できます。
損害賠償請求権の時効が迫ってくる
交通事故の示談が進まない場合、対応が遅れると損害賠償請求をする権利の時効が成立する可能性があります。
時効が成立すると、治療費や慰謝料、車の修理費といった損害賠償金を請求できなくなります。
時効までの期間や時効の起算点は損害賠償金の種類によって異なるので、ここで確認しておきましょう。
損害の例 | 時効期間 |
---|---|
物損関連の賠償金 | 事故発生日の翌日から3年 |
(怪我が完治した場合) 治療費・休業損害・入通院慰謝料 | 事故発生日の翌日から5年 |
(後遺障害が残った場合) 後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益 | 症状固定日*の翌日から5年 |
(死亡した場合) 死亡慰謝料・死亡逸失利益・葬儀費 | 死亡した日の翌日から5年 |
*これ以上治療しても症状が改善しないと判断されること。
※保険会社への保険金の請求は、上記の表に関わらず起算日から3年で時効となります。
時効に対する対処法としては、以下の2点があります。
- 弁護士を立てていないなら弁護士を立てる
- 時効の成立を延長させる
専門家である弁護士を立てると、加害者側の保険会社の態度が軟化して示談が進み始めることがあります。
また、どうしても時効までに示談が間に合いそうにない場合は、時効の成立を延長させることも可能です。
いずれにしても、詳しくは一度弁護士に問い合わせることがおすすめです。
交通事故の示談の期限や時効の延長方法については、『交通事故の示談は時効期限に注意!期限の長さや時効の延長方法を解説』の記事でくわしく説明しています。
示談開始後でも弁護士への相談・依頼は遅くない
示談成立前なら弁護士の介入で示談を進められる
示談開始後でも、まだ示談が成立していないなら弁護士への相談・依頼は遅くありません。
示談が成立していると、原則として再交渉はできないため弁護士が介入する余地がないこともあります。
しかし、示談成立前なら交渉途中からでも弁護士の介入は可能なのです。「今さら弁護士に相談や依頼をしても遅いのでは?」と考えるのではなく、示談が進まず困った時点で一度弁護士にご相談ください。
示談が進まなくなった時点で被害者側は不利な状態
示談が進まなくなった場合、加害者側は被害者が折れるまで動かない作戦をとることもあります。
損害賠償請求権の消滅時効も気にしなければならない被害者側は、示談が進まなくなった時点で不利な立場にあるのです。
こうした状態から巻き返しを図るには、示談が進まなくなった理由が何であれ、弁護士に相談することがベストです。
弁護士と契約して示談交渉を依頼することが理想的ですが、相談してアドバイスを受けるだけでも、状況打開につながる可能性があります。
被害者側が泣く泣く折れることで示談を進めるというのはあまりにも理不尽と言わざるを得ません。示談が進まずお困りの場合は、弁護士にご相談ください。
弁護士費用が自己負担0円になる方法
弁護士に依頼するには、基本的に弁護士費用がかかってきます。しかし、自身の保険の弁護士費用特約を使えば、保険会社が弁護士費用を負担してくれるので、自己負担なく弁護士を立てることが可能です。
ほとんどの弁護士費用特約は、法律相談料として10万円、弁護士費用として300万円を補償上限とすることが多くなっています。交通事故の弁護士費用でこの上限額を超えることはあまりないため、すべて弁護士費用特約でカバーできるケースがほとんどです。
アトム法律事務所の無料相談案内
アトム法律事務所では、依頼前にご利用いただける無料の法律相談窓口を設けています。弁護士費用特約の有無に関係なく、交通事故でケガをした方なら無料で利用可能です。
もっとも、ご自身の保険に弁護士費用特約が付いていない方の場合、アトム法律事務所では着手金が原則無料となります。示談金獲得前に支払う初期費用がなくなるので、すぐに大きなお金が用意できない方でも安心です。
成功報酬は生じますが、それを差引いても弁護士を立てた方が多くの示談金が手に入ることは多いので、まずはお気軽にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了