交通事故の示談が長引く原因5つ&対処法
更新日:
交通事故の示談が長引いてなかなか成立しないときは、長引く理由に応じた対処をする必要があります。
この記事では、交通事故の示談が長引く原因を分析し、その対処法をそれぞれ解説しています。
また、示談が長引き過ぎると損害賠償請求ができなくなる可能性がある点や、示談が長引くからといって必ずしも訴訟を起こせばよいというわけではない点についても知っておくことが重要です。
特に、下記のような方々のお役に立てる記事となっていますので、ぜひご確認ください。
- 交通事故の示談が長引かないかご不安な方
- 実際に交通事故の示談が長引いていてお困りの方
- 交通事故の示談が長引いているときの対処法を知りたい方
- 示談交渉を弁護士に依頼するかでお悩みの方
目次
交通事故の示談が長引く原因と知っておくべきこと
交通事故の示談が長引く原因一覧
交通事故の示談が長引く一般的な理由は、以下の通りです。
それぞれについてこの記事内で、詳細と対処法を解説していきます。
ただし、その前に示談が長引くにあたって知っておいていただきたいことを紹介していきます。
示談が長引く理由と対処法について詳しく知りたい場合は、上記のリストの該当箇所を押していただくと、解説箇所に飛べるのでご確認ください。
示談はどれくらいで「長引く」と言う?平均的な期間は?
交通事故の示談が長引いているかを判断するためには、そもそも示談交渉には平均でどれくらいの期間がかかるのか、知っておかなければなりません。
示談交渉にかかる期間は個々の事案によって大きく異なりますが、目安として以下のようになっています。
物損事故 | 2~3ヶ月 |
人身事故(後遺障害なし) | 治療期間+3~6ヶ月 |
人身事故(後遺障害あり) | 等級認定までの期間+3~12ヶ月 |
死亡事故 | 法要終了後+3~12ヶ月 |
おおむね、上記の期間を過ぎているような場合はやや示談が長引いていると言える可能性があります。
交通事故の示談成立までの流れ
交通事故の示談成立までの流れは次の通りです。
示談成立までの流れ
- 事故直後の対応
- 治療開始
- 症状固定(または完治)
- 後遺障害認定を申請
- 後遺障害認定結果の通知
- 示談交渉開始(示談案の提示)
- 示談成立(不成立の場合は裁判・ADRなど)
当事者のどちらかから示談金額を提示し、その金額を元に双方が交渉を行っていきます。多くの場合、金額の提示は相手方の保険会社が行います。
相手方の保険会社からの金額提示が遅れ、そもそも示談開始が遅くなったり、示談交渉そのものが難航したりすると、示談成立までの期間が長引くのです。
交通事故の示談がどのように進むのか、示談の流れと要点を押さえておけば、あらかじめ避けられるトラブルもあるでしょう。
交通事故の示談のポイントや気になる疑問の答えをまとめた関連記事『交通事故の示談とは?交渉の進め方と注意点、避けるべき行動』も併せてお読みください。
たとえ示談が長引いても、時効までには締結の必要あり
交通事故の損害賠償においては、一定期間を過ぎると請求ができなくなるという時効が存在します。
損害ごとの時効の期間は、以下の通りです。
車の修理費・レンタカー代 | 事故発生日の翌日から3年 |
(怪我が完治した場合) 治療費・休業損害・入通院慰謝料 | 事故発生日の翌日から5年 |
(後遺障害が残った場合) 後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益 | 症状固定日*の翌日から5年 |
(死亡した場合) 死亡慰謝料・死亡逸失利益・葬儀費 | 死亡した日の翌日から5年 |
よって、上記の期間以内に示談を成立させるか、時効を更新・完成猶予させる手段をとらなければなりません。
示談が長引く可能性がある場合は、時効の更新・完成猶予について把握しておくことが重要です。詳しくは、関連記事『交通事故の示談に期限はある?時効期間と時効の延長方法』をご確認ください。
示談が長引く場合、訴訟をするべき?
示談がなかなか成立せず、交渉に疲れてしまった時に訴訟をすべきかという考えが浮かぶかと思います。
結論から言えば、早く示談を成立させたいという観点で訴訟を行うのは、あまりおすすめできません。
令和元年に裁判所から発表された統計資料によると、交通事故の損害賠償請求に関する訴訟の裁判(審理・第一審)にかかった期間は12.4カ月となっています。
平均審理期間(月) | 割合 |
6ヶ月以内 | 19.7% |
6ヶ月を超えて1年以内 | 41.3% |
1年を超えて2年以内 | 32.7% |
2年を超えて3年以内 | 5.3% |
3年を超えて5年以内 | 1.0% |
5年を超える | 0.04% |
これは裁判中に和解した事案も含むため、判決を絶対に出してもらうつもりなのであれば、さらに半年程度時間がかかります。
よって、あくまでかかる期間という点から見ると、示談が成立しないときに訴訟へと移行するのは、必ずしも良い手ではないかもしれません。
それでも主張を裏付ける十分な証拠があり、事実関係を徹底的に争いたい時などには、証拠を元に裁判官が客観的に判断してくれる訴訟の手段が適している場合もあります。
もしも訴訟を考えている場合、その準備段階として弁護士への相談を行うとより効率的な解決が望めるでしょう。
それでは、より具体的に示談が長引く原因と対処法を見ていきましょう。
示談が長引く理由1|相手方が無保険
交通事故の相手方が任意保険に未加入であったり、自賠責保険の期限が切れていたりすると、示談交渉が長引くことがあります。
相手方が無保険だと示談が長引く理由
通常の交通事故の示談では、相手方の加入している保険会社の担当者が交渉相手となります。
しかし、相手が無保険である場合は加害者個人と交渉をしなければならず、どうしても手続きの迅速さやミスのない書類の作成・用意などは望めなくなります。
さらに保険に未加入な方は、経済的に余裕がないために損害賠償金の支払いに消極的だったり、やりとりがルーズだったりする傾向があるのも事実です。
そのため、書面を送っても返ってこない・連絡を無視する・損害賠償金額についてなかなか合意してくれない、などの事態が発生し、示談が長引くことがあります。
相手方が無保険のときの対処法
- 内容証明郵便を送る
- 弁護士を通じて連絡する
- 分割払いなどの提案を受け入れる
- 示談書を公正証書で作成する
- 自己の保険を利用する
対処法としては、内容証明郵便で請求書を送ったり、弁護士に連絡を入れさせたりすることで、被害者側の本気度を示し、示談交渉に消極的な加害者の態度を改めさせるというものがあります。
また、加害者に十分な資力がない場合には、少しでも支払いが受けられるように分割払いの条件を受け入れたり、支払いが滞ったら強制執行が出来るように示談書を公正証書で作ることも有効です。
それでも相手に根本的に資産が無かったり連絡がとれなかったりして損害賠償金の受け取りが望めない場合には、ご自身の入っている保険から保険金を受けとることも考えましょう。
関連記事
示談が長引く理由2|治療が長引いている
治療期間が長引いていることで、そもそも示談交渉を始められず、それに伴い示談成立までの期間が長引くいうパターンもあります。
治療が長引いていると示談が長引く理由
示談交渉は交通事故によって負った損害の賠償額を求めるものですから、事故による損害全額が確定したときから始められます。
身体の怪我を伴う事故では、治療終了時に治療費や入通院慰謝料などの金額が決定します。
よって治療が長期間にわたっていると、なかなか治療費や入通院慰謝料といった費目の金額が確定せず、示談交渉を開始することができないので、示談成立までの期間が長引いてしまいます。
治療が長引いているときの対処法
- 治療は最後まで行う
- 治療期間中に弁護士に相談する
- 物損のみ先に示談する
治療を最後まで行ってきちんと完治(または症状固定)させることは非常に重要なので、早く示談を開始させるために治療を短縮することはしないでください。
よって、治療が長引いている場合の対処法としては、治療終了後に迅速かつ効率的に示談交渉を進めることが大切です。
事前に弁護士に相談しておけば、被害者自身で示談交渉を行うよりも早く示談が成立する可能性が高まります。
また、車の修理費など争いの起こりにくい物損部分のみ先に示談することも可能です。
ただし、物損部分と人身部分の示談交渉を別々に行う場合、過失割合も物損部分と人身部分で異なる場合があります。
物損部分で被害者側の過失割合が少なかったからといって、人身部分でもその過失割合が適用されるとは限らないので、その点の確認を怠らないようにしましょう。
過失割合は、受け取れる損害賠償額にも影響する非常に重要なポイントです。
過失割合がどういうものなのか、どのように決まり、どのように損害賠償額に影響するのかまだご存じない場合は、以下の関連記事をご確認ください。
示談が長引く理由3|後遺障害等級関連の争いがある
後遺障害等級とは、症状固定後も残った後遺症を14段階で区分したものです。
等級ごとの具体的な症状を知りたい方は関連記事『【後遺障害等級表】認定される後遺症・症状の一覧と等級認定の仕組み』の一覧表で確認できます。
後遺障害等級そのものや、後遺障害慰謝料や逸失利益の額で争いが起こると、示談が長引きがちになります。
後遺障害等級関連の争いがあると示談が長引く理由
後遺障害が残っている場合は、後遺障害等級の認定(または等級非該当の通知)がなされてから示談交渉に移ります。
一般に後遺障害の等級認定には2~6ヶ月ほどかかり、等級に納得がいかず異議申立てを行うと再認定までにさらに時間がかかります。
後遺障害に基づく損害はその後の人生に長く生じるものであるため、金額が高額になりますし、人生を通して最終的に生じる損害額は、示談交渉時点では不確定です。
よって保険会社も強い態度で争ってくる傾向にあり、示談交渉でもめやすいと言えます。
なお、後遺障害等級は後遺障害慰謝料の金額に大きく影響する重要なものです。これから認定を受ける場合は必ずポイントをおさえること、納得がいかない認定結果が出た場合は異議申し立てを検討することが大切です。
詳しくは、以下の関連記事をご覧ください。
後遺障害等級関連の争いがあるときの対処法
- 後遺障害等級の申請、示談交渉を弁護士に任せる
- 画像所見を集めておく
まず、一度の申請で適切な後遺障害等級が認定されれば、その分示談交渉を早く始められるので、後遺障害等級認定のサポート経験がある弁護士に申請手続きを一任してしまうことが有効です。
一般には申請手続きだけではなくその後の示談交渉の手続きも任せてしまい、よりスムーズな示談成立を目指される方が多くなっています。
これなら、たとえ後遺障害慰謝料の金額をめぐって交渉が難航しても、安心です。
適切な認定のためにも、治療時から検査をしっかり行い後遺障害の証拠となりうる画像所見などを集めておくことも重要です。
後遺障害等級認定をはじめ、交通事故事案について弁護士に相談する場合は、交通事故の解決実績が豊富な弁護士を選ぶことをオススメします。
弁護士依頼のメリットや、弁護士選びのポイントを詳しく知りたい方は『交通事故を弁護士に依頼するメリットと必要な理由|弁護士は何をしてくれる?』の記事をお役立てください。
示談が長引く理由4|示談条件の差が大きい
被害者と加害者とで、主張する損害額の認識が大きく異なっていると互いに合意に至りづらく、示談が長引きがちになります。
示談条件の差が大きいと示談が長引く理由
実際のところ、最初に相手方保険会社が提示してくる示談金額は非常に低額なことが多いです。
それに気づかず示談に合意してしまうと、示談が長引くことこそありませんが、受け取れる示談金は決して適切であるとは言えません。
一方で、提示された金額を適正な水準まで増額すべく交渉しようとすると、保険会社側からは「大幅に譲歩している」「この値段が限界」「特殊な事例なので過去の事例を持ってこられても困る」などと突っぱねられてしまい、交渉が進まなくなることもしばしばあります。
さらに保険会社の強硬な態度から、被害者側の示談の意欲が減退してしまい手続きがスムーズにいかなくなることも考えられます。
示談条件の差が大きいときの対処法
- 弁護士に示談交渉を依頼する
- そんぽADRセンターに相談する
最も簡単なのは、弁護士に示談交渉を任せてしまうことです。
被害者側が弁護士を立てると、加害者側の保険会社は「被害者はいざとなれば訴訟も辞さないつもりなんだ」と認識します。
保険会社側も、仮に裁判に至れば高額な示談金を支払わなければならないことは理解していますから、弁護士が交渉の場にいると被害者側の示談条件に寄った示談が成立しやすくなります。
また相手方保険会社の態度があまりに悪いと思えるような場合は、そんぽADRセンターに相談・報告をすることで態度の改善が期待できます。
示談が長引く理由5|過失割合(事故状況)に争いがある
最終的な示談金の金額に大きな影響を及ぼす要素である過失割合で争っているとき、示談交渉が長引きやすくなります。
過失割合に争いがあると示談が長引く理由
過失割合に争いがおこると示談が長引く理由は以下の2つです。
- 過失割合は最終的な示談金額に影響するから
- 確実に正しい過失割合を算定するのは困難だから
それぞれについて見ていきましょう。
過失割合は最終的な示談金額に影響するから
先に述べた通り、過失割合は最終的な示談金額に大きく影響します。
被害者側に過失割合が付くと、受け取れる賠償額はその割合分、減ってしまいます。
例えば、損害額が1000万円のところ被害者の過失割合が10%変化すると、賠償額には100万円の差が生じるのです。
そのため、特に損害額が高額になるような事案については、加害者側は有利な過失割合を強く主張してくることがあります。
被害者側にとっても過失割合は譲れない重要なポイントなので、一度もめると示談が長引きやすいのです。
確実に正しい過失割合を算定するのは困難だから
「確実に正しい過失割合」を出すのは、実は困難です。
過失割合は事故発生状況、すなわち「当時信号は何色だったか」「走行速度はどのくらいだったか」「カーブの仕方は適切だったか」などによって決定されます。
ドライブレコーダーの搭載があれば比較的事故状況の把握も容易ですが、それが無ければ交通事故証明書などの書類、車の損傷具合、現場のブレーキ痕などから推測しなければなりません。
よって、過失割合で争おうとすると片方は赤信号と言いもう片方は青信号と言う、どちらが正しいかを示す決定的な証拠はない、という風に議論が平行線になり、示談交渉が長引くことが多いのです。
過失割合に争いがあるときの対処法
- 弁護士に示談交渉を依頼する
- 調停、訴訟を利用する
- 過失割合以外の部分で増額してもらう
過失割合を争うにあたっては、刑事記録を含む様々な資料が必要となってきますので、それらにアクセスが容易な弁護士に依頼してしまうのが最も簡単です。
証拠が揃っており客観的にも被害者側の言い分が有利と思われるような場合は、調停委員会や裁判所など第三者を介した解決を図るのも有効です。
また、過失割合について相手方の主張をのむかわり、その他慰謝料などの費目を増額してもらう、ということも、示談をスムーズに進めるための戦略としてあります。
もちろん最終的な示談金額の増加が見込める対処法をとる必要があるので、弁護士などに相談することが重要です。
交通事故の示談が長引いてお困りなら弁護士へご相談を
被害者の方がお一人で交渉に挑まれるような場合、示談交渉はどうしても長引きがちです。
示談が長引くことで示談金の受け取りが遠ざかるだけでなく、保険会社とのやりとりに疲弊してしまったり、その疲れから金額面で妥協をしてしまったりと、被害者の方に不利にはたらくことも多くあります。
もしも示談が長引いていることでお悩み・ご不安があれば、ぜひ弁護士にご相談ください。
交通事故で怪我を負われた被害者の方のご相談は、無料で受け付けております。
ご相談は電話もしくはLINEのメッセージで、専門事務員が24時間365日ご予約を受け付けております。
示談の開始する前でも、開始したばかりでも、開始後長引いているようないずれの場合でもご相談いただけます。
皆様のご相談をお待ちしております。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了