交通事故の示談書の書き方と記載事項!テンプレート付きで注意点も解説
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交通事故の示談書とは、示談の合意内容を記した書類のことです。
交通事故の被害にあったとき、加害者が任意保険に加入している場合、任意保険会社の担当者が示談書の作成者になるのが通常でしょう。
一方で、当事者が両方とも任意保険に加入していない場合や軽微な物損事故であるため保険を使わない場合などは、当事者のどちらかが示談書を作成する必要があります。
このとき、被害者が自分で示談書を作成することも可能ですが、一から作成するのは手間もかかり簡単なことではありません。
「保険会社から送られてきた示談書にサインしてしまっていいかわからない」
「自分で示談書を作りたいがどう書けばいいかわからない」
この記事では、上記のような交通事故被害者の方に向けて、交通事故における示談書のテンプレートや、示談書の書き方・注意すべきポイントなどを解説しています。ぜひご一読ください。

交通事故の示談書とは?
交通事故の示談書の基礎知識
交通事故の示談書とは、不法行為である交通事故の被害者と加害者が損害賠償について取り決めた示談内容を記載した書類のことです。
示談とは、訴訟外での当事者同士での話し合いによって、損害賠償責任や金銭の支払義務の有無、損害賠償金額、支払方法などを合意する民事上の解決方法の一つです。
示談は、民法上の和解契約に分類され、当事者同士の示談を行う意思表示の合致により(口約束でも)成立しますが、合意後に「言った・言わない」で紛争になるリスクを防止するため、示談書という書類に当事者間で合意した示談内容を記載しておくことが一般的です。
作成した示談書は、事故の当事者が内容を確認して署名押印(捺印)したら、それぞれ1部ずつ保管します。
署名押印した示談書に支払額の間違いや記入の誤りがあっても、基本的に示談のやり直しや追加請求はできないので、署名押印する際は内容をよく確認した上で慎重に行いましょう。
示談書は、契約書としての法的効力を持ち、訴訟になった場合の有力な証拠書類となります。
関連記事
交通事故の示談とは?示談交渉の流れや示談をうまく進めるための注意点
交通事故の示談書テンプレート(ひな形)
交通事故の示談書の書き方に決まりはありませんが、次章で詳しく解説するとおり、記載すべき内容はあります。
記載すべき内容の漏れがないようにするには、交通事故の損害賠償問題に関する示談書のテンプレート(ひな形)を使用し、事案に即して適宜修正するのが効果的です。
交通事故の損害賠償問題に関する示談書のテンプレート(ひな形)は、以下のようなものとなります。

示談書のダウンロードはこちらから
示談書テンプレートは、以下からPDF形式でダウンロードしていただけます。傷害用・死亡用・物損用に分けて用意していますので、用途に合わせてお使いください。
また、見本もダウンロードしたい方は下記からご利用ください。
実際に示談書を取り交わす際は、各保険会社のテンプレートを用いることになるでしょう。その場合も、示談書に含まれる項目はおおむね同じです。
なお、保険会社のテンプレートを用いる場合、タイトルが「免責証書」「交通事故に関する承諾書」「合意書」「和解書」などになっていることもありますが、示談書の効力とほぼ違いはありません。
示談書の主な記載内容と書き方
示談書には決まった書式はなく、自由記載が基本です。もっとも、後のトラブルに発展しないように、きちんと記載しておくべき項目や内容があります。特に、示談書の記載事項の中でも、示談金額といった示談条件や清算条項が重要なポイントです。

示談書の記載事項について、書き方や意味合いを詳しくみていきましょう。
(1)事故の詳細
どの事故について示談したのか特定するため、以下のような事故の詳細を記載します。
- 事故発生日時
- 事故発生場所
- 事故内容(原因や発生状況)
事故の詳細は、交通事故証明書を参考にして簡潔に記載しましょう。
交通事故証明書は、「自動車安全運転センター」で発行してもらえます。
ただし、発行には事故の発生を警察に届け出ておくことが必要です。
交通事故証明書の入手方法については、『交通事故証明書とは?後日取得の期限やもらい方、コピーの可否を解説』の記事で紹介しています。
(2)事故当事者
事故当事者として、加害者と被害者の住所・氏名・車両登録番号などを記載します。
事故を起こした運転者と車両の所有者が異なる場合は、車両の所有者の記載も必要です。
被害者が歩行者や自転車の場合は、車両番号は不要となります。
なお、加害者側と被害者側のどちらを「甲」、どちらを「乙」にするかについては明確なルールはありません。多くの場合、加害者側が「甲」となります。
(3)示談条件
示談の条件として、以下のような情報を記載します。
- 示談金額:最終的に支払いを受ける金額
- 過失割合:事故の責任を当事者同士で分け合う割合
- 支払い方法:口座振込か現金か、一括払いか分割払いかなど
- 支払期限:目安としては、示談成立から30日程度
示談の条件のうち、示談金額・過失割合・支払い方法についてそれぞれ補足していきます。
示談金額
示談金額は、被害者が請求できる損害額から過失相殺分と既払い金(治療費や通院交通費など、すでに支払いを受けた金額のこと)を控除した金額です。
過失相殺とは、被害者についた過失割合に応じて、最終的に支払われる金額が減ることをいいます。
損害額の内訳(慰謝料や休業損害、逸失利益など損害項目ごとの金額)は、示談の過程で別紙にまとめられることが多いでしょう。
具体的な示談金の相場を確認したい場合は、関連記事『交通事故の示談金相場は?一覧表や増額のコツ』をご一読ください。
過失割合
過失割合とは、交通事故で発生した損害について、加害者と被害者にそれぞれどのくらいの過失(責任)があったかを示した割合のことです。
被害者側にも過失割合がついた場合、割合の程度に応じて最終的に支払われる金額が減額されます。
このように、過失割合は最終的な示談金額にも関わるため、示談書に記載することがあるのです。
過失割合の記載例
責任割合 甲〇% 乙〇%
過失割合について詳しく知りたい方は『交通事故の過失割合とは?パターン別に何%か調べる方法と決め方の手順』の記事をご覧ください。
支払い方法|分割払いの可能性も
示談金の支払い方法は、示談の相手方が保険会社の場合は基本的に一括払いとなるでしょう。
一方、示談の相手方が加害者本人の場合は、分割払いとなることがあります。
分割払いとするなら、以下のように、分割回数や1回の支払いで支払われる金額を記載するようにしましょう。
分割払いの記載例
甲は、乙に対し金〇〇万円を支払うこととし、これを令和〇〇年○○月末日から令和〇〇年○○月末日まで合計〇回に渡り、毎月末日に金〇万円ずつ、乙の銀行口座に送金する方法で支払う。
なお、示談金(保険金)は、振込の方法で支払われる場合が多いですが、その場合には、振込手数料をどちらが負担するか示談書に明記しておくと振込の際の紛争を防止できます。
(4)署名押印(署名捺印)
署名押印(署名捺印)は、示談書を作成したのが当事者本人であること、本人が内容に合意したことの証明となります。
示談書を作成するときは、当事者双方が末尾に署名押印(署名捺印)が必要です。あわせて、当事者の住所や示談書を作成した日付も記載しましょう。
(その他)違約条項
違約条項とは、示談金が期日までに支払われなかった場合に支払う必要がある違約金(遅延損害金)に関する条項のことです。
示談の相手が保険会社の場合は、示談金の支払いが遅れることは基本的にありません。
一方、示談の相手が加害者本人の場合は、違約条項は支払い逃れを避けるために重要になります。
違約条項の記載例
(分割払いの場合)
甲が上記支払いを一度たりとも怠った時は、甲は乙からの催告を要せずして期限の利益を失い、甲は乙に対し、直ちに第○条の損害金から既払金を控除した残金および残金に対する期限の利益を喪失した日の翌日から支払済みまで年○○パーセントの金員を支払わなければならない。
なお、文中の「期限の利益」とは、期日まで支払いを待ってもらえる利益のことです。
「期限の利益を喪失する」とは、分割払いをやめてすぐに一括で支払うことを指します。
(その他)留保条項
留保条項とは、示談を結んだあとに、思いがけず新たな損害が発覚することに備える条項のことです。
原則として、一度示談を締結すると撤回したり、追加の損害賠償を求めることもできません。
しかし、示談後に新たに後遺障害が発覚し、大きな手術が必要になったといった事情が生じた場合に、追加の金銭を一切支払ってもらえないのは不合理です。
上記のようなケースに備えて、「後から損害が発覚した場合は、別途協議する」旨の留保条項を記載しておくと、不測の事態に対応しやすくなります。
なお、前章で紹介したテンプレート中の留保条項は、示談を結ぶ段階で後遺障害認定されていない場合を想定しています。示談書を結ぶ段階で後遺障害認定されている場合は、以下のような文言に変更してください。
留保条項の記載例
(既に後遺障害認定されている場合)
将来乙に本件事故を原因とする後遺障害等級〇級を超える後遺障害が新たに認定された場合は、それに関する損害賠償請求権を留保し、別途協議する。
(その他)清算条項
清算条項とは、示談によって損害賠償問題がすべて解決されることを確認する条項です。
清算条項を記載することで、「加害者も被害者もお互い事故に関する金銭をこれ以上請求しない」ことを示すことになります。
清算条項の記載例
- 甲と乙は本件交通事故に関し、本示談書に定めるもののほかに、甲乙間に何の債権債務がないことを相互に確認する。
- 金●●円を受領したときは、その余の請求を放棄するとともに、甲に対し、今後裁判上・裁判外を問わず、何ら異議申立て、請求および訴えの提起等をいたしません。
(免責証書)
(その他)連帯保証条項
場合によっては、連帯保証条項も示談書に記載することがあります。
連帯保証条項とは、保証人が示談金の支払い義務を持つ人と連帯し、支払いの責任を持つことを示す条項のことをいいます。
連帯保証条項を記載すれば、被害者は加害者と連帯保証人のどちらにも示談金の全額を請求することが可能です。
加害者が未成年である場合や、加害者に明らかに支払い能力がないと思われる場合は、連帯保証条項の記載を検討してもよいでしょう。
連帯保証条項の記載例
丙(連帯保証人)は、本件交通事故に関する甲の乙に対する債務を連帯して保証するものとする。
交通事故の示談書に関するよくある質問
Q.物損事故と人身事故で示談書の内容は変わる?
示談書の記載内容は基本的に変わりませんが、示談金の内訳は変わります。
物損事故とは、人のケガがなく、物の損害だけが発生した交通事故のことをいいます。一方、人のケガが発生した交通事故のことを人身事故といいます。
物損事故での主な損害項目は、車の修理費用や代車費用などになり、慰謝料が原則発生しない点が人身事故との大きな違いとなります。
物損事故の示談について詳しく知りたい方は、関連記事『物損事故の示談の流れと示談金相場|交渉時の注意点も解説』をご覧ください。
Q.保険会社に示談書を返送してから支払いまでの期間はどれくらい?
送付されてきた示談書を保険会社に返送してから示談金の支払を受けられるまでには約1~2週間かかるのが通常です。
返送してから保険会社の担当者の手元に届くまでに約数日~1週間かかり、担当者が社内の支払い手続きに回してから実際に支払い手続きが取られるまでにも約数日~1週間かかるからです。
上記の期間が経過しても支払いがない場合には、保険会社に連絡してみるとよいでしょう。
Q.示談書を作成するタイミングはいつ?
損害が確定したタイミングで作成すべきです。
交通事故後の解決までの主な流れは、人身事故の場合下記のとおりです。
- 治療開始
- 治療終了(症状固定)
- 後遺障害等級認定申請(後遺症がある場合)
- 損害確定・示談交渉開始
- 示談成立
- 示談書作成・署名捺印
- 示談金の支払い
交通事故の示談の流れについて詳しく知りたい方は、関連記事『交通事故の示談とは?示談交渉の流れや示談をうまく進めるための注意点』をご覧ください。
Q.示談書に作成期限はある?
損害賠償請求権の時効完成前に作成すべきです。
交通事故の損害賠償請求権の時効は、5年と法律で定められています。
ただし、事故の損害のうち、物損に関する部分は3年です。
正確には時効完成後にも示談書を作成することも可能ですが、相手側から損害賠償請求権の時効消滅を主張されるリスクを避けるためには、損害賠償請求権の時効完成前に示談書を作成するのが確実です。
交通事故の示談の期限について詳しく知りたい方は、関連記事『交通事故の示談に期限はある?時効期間と時効の延長方法』をご覧ください。
Q.示談書を公正証書化するメリットは?
債務不履行後、直ちに強制執行できる点です。
公正証書とは、私人からの依頼により、公証人がその権限に基づいて作成する公文書のことです。
金銭の支払を目的とする債務についての公正証書に「債務者が金銭の支払をしないときは、直ちに強制執行に服する」旨の陳述(強制執行認諾文言)が記載されている場合、金銭債務の不履行(支払いの遅れ)があったときは、裁判手続を経ることなく、直ちに強制執行をすることができるのが特徴です。
そのため、公証役場に出向く手間と一定の作成費用は掛かってしまいますが、加害者側からの支払いに不安がある場合には、示談書を公正証書化するメリットがあるといえます。
Q.示談書作成後に無効を主張できるケースはある?
示談書は、権限ある当事者間で締結されている限り、原則として有効であり、無効を主張できるケースは限定的なケースのみです。
具体的には、下記のような限定的なケースのみ、無効を主張できます。
- 示談書の内容が公序良俗に違反している
- 無権限者によって示談書が締結された
- 錯誤、詐欺、強迫等によって示談書が締結された(この場合正確には取り消しが可能となる)
そのため、示談書に署名捺印して返送する前に、示談書の内容に間違いがないかをよく確認することが大切です。
示談書が届いたら弁護士への相談・依頼がおすすめ
交通事故の示談書を作成するときは、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
ここからは、示談書作成を弁護士に相談・依頼するメリットを見ていきましょう。
不備のない示談書を作成してもらえる
示談書の作成業務を弁護士に依頼すれば、法律の専門家の視点で不備のない示談書を作成してもらえます。
示談書には、清算条項、留保条項、違約条項など、法律に詳しくないと正しい書き方がわからなかったり、そもそも見落としてしまったりする内容が多いです。
ひとつ記載事項が抜けていたために、高額の賠償請求を逃す結果になるおそれがあります。
また、どのような文章が法的に適切なのかわからず、示談書の作成自体を負担に感じてしまうこともあるでしょう。
弁護士に示談書の作成を依頼することで、法的に抜けのない文書をスムーズに作成してもらえるため、安心して示談することができます。
とくに、被害者に過失のない交通事故では、被害者は任意保険会社の示談代行サービスを利用できず、被害者自身で示談書のやり取りをしなければいけないので、弁護士に相談・依頼するメリットが大きいといえるでしょう。
被害者に過失がない交通事故のケースについては、『交通事故で過失割合が10対0になる場合とは?』の記事でまとめています。
示談金や過失割合で損をしていないか確認してもらえる
加害者側は支払う金額を抑えるために、示談金を相場である弁護士基準よりも低くしたり、過失割合を被害者にとって不利な数値にしたりして提示してくることがあります。
加害者側から送られてきた示談書は、一見するときちんと計算されたもののように見えるでしょう。
弁護士なしでも、本記事や関連記事『損害賠償額計算書や示談書が届いたら示談前にチェック』などをお読みいただければ、示談書の内容は被害者自身でもある程度、確認可能です。
しかしながら、事故の状況、被害者の収入、仕事への影響、必要な治療日数など、あらゆる要素を被害者にとって不利になるように見積もっていることは少なくありません。
示談書を返送する前に弁護士に相談すれば、各項目の正しい計算方法や、適正な過失割合になっているのかなどを確認してもらえます。
また、弁護士が交渉すれば、加害者側は裁判を起こされる可能性を考慮して、示談条件を裁判所の基準をベースにする変更を認めてくれやすくなるでしょう。
実際のアトム法律事務所の弁護士による解決事例が気になるという方は「交通事故の解決事例」ページをご覧ください。
【ポイント】自己負担なしで弁護士依頼できる方法がある
弁護士費用が不安な方には、自動車保険や火災保険などのオプションである「弁護士費用特約」の利用をおすすめします。
弁護士費用特約とは、保険会社に弁護士費用を負担してもらえる特約のことです。多くの場合、弁護士費用の合計300万円まで、相談料の合計10万円までを保険会社に負担してもらえます。
弁護士費用が300万円を超えることは少ないため、自己負担なしで弁護士に依頼できるケースも非常に多いです。

弁護士費用特約を利用しても、基本的に翌年以降の保険料は上がりません。
被害者本人だけではなく、被害者の家族が契約している保険の弁護士費用特約も使える可能性があるため、まずは保険の契約状況を確認してみましょう。
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自宅から弁護士に無料相談!電話・LINE相談の窓口
示談書を作成するときは、被害者にとって不利な条件で合意せずに、納得のいく示談をするためにも、一度弁護士に相談しておくことをおすすめします。
アトム法律事務所は、電話・LINEによる弁護士への無料相談を実施しています。
ご自宅からスキマ時間で相談できるのがアトム法律事務所の強みです。
「示談金の増額見込みはある?」「示談書に被害者にとって不利な内容はない?」など、ちょっとした内容でも気軽にご相談ください。
もちろん、無料相談のみの利用も大丈夫です。強引に契約を迫るようなことはありません。
相談予約は24時間365日受付しております。まずはお気軽にお問い合わせください。


高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
