交通事故の民事調停|示談・裁判との違いは?手続きの流れを弁護士が紹介

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交通事故の民事調停

交通事故には、示談だけでなく民事調停という解決方法もあります。

交通事故の民事調停とは、裁判所において調停委員が第三者として仲介し、話し合いで民事上の賠償問題を解決しようとする手続きです。調停は被害者と加害者の双方から申立てでき、示談と裁判の間のような手続きともいえるでしょう。

話し合いという点は示談も民事調停も共通していますが、当事者同士で話し合う示談に対して、調停には第三者が介入する点が異なります。

交通事故で民事調停を利用すると、第三者が間に入るため協議がまとまりやすくなるほか、どちらか一方にのみ有利といえる条件での解決を防ぐことも可能です。

この記事では、民事調停と示談や裁判といったほかの紛争解決方法との違いは何か、民事調停をどのように進めるのかについて、弁護士ができるだけわかりやすく紹介していきます。

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民事調停とは?基礎知識4つを弁護士が解説

民事調停の基本的な特徴としては、次の4つがあります。

民事調停の基本的な特徴

  1. 民事調停は「交通事故の紛争解決方法のひとつ」
  2. 民事調停は「裁判所を利用した当事者同士の話し合い」
  3. 民事調停の解決には「被害者と加害者の合意が必要」
  4. 民事調停は「主に示談交渉が決裂したケースで利用する」

これらの特徴について、それぞれ解説していきましょう。

(1)民事調停は「交通事故の紛争解決方法のひとつ」

交通事故における当事者間の民事上の問題は、加害者側から被害者に対する損害賠償金の支払いによって解決します。この損害賠償金額をめぐる紛争の解決方法には、以下のようにさまざまなものがあります。

交通事故における主な紛争解決方法

  • 示談
  • 民事調停
  • 裁判
    • 裁判上の和解
    • 裁判上の判決
  • ADR
    • ADR機関が提示したあっ旋案への合意
    • ADR機関の審査・裁定

民事調停は、このような交通事故のさまざまな紛争解決方法のひとつなのです。

(2)民事調停は「裁判所を利用した当事者同士の話し合い」

民事調停とは、第三者としての裁判所の仲介のもと行われる話し合いです。実際には、裁判官と調停委員が、交通事故の被害者と加害者の仲立ちをしてくれます。

裁判官と調停委員が交通事故の当事者の仲立ちをすることについて、日本調停協会連合会は以下のように説明しています。

裁判所の調停とは

  • 裁判と異なり,調停室のテーブルを囲んで,話し合いで問題やトラブルの解決を図ります。
  • 裁判官のほかに,一般市民から選ばれた調停委員2人以上が,仲立ちをします。
  • 調停委員は,弁護士のほか各種専門家や,社会で幅広く活躍した有識者です。
  • あなたは,法律的な制約にとらわれずに自由に主張を述べられます。
  • 相手との直接交渉をしなくてもよく,また同席を避けることもできます。
  • 裁判官と調停委員は,法律的な評価に基づき,実情に応じて助言し互いの歩みよりを促します。理にかない,双方が納得のいく解決を目指します。
裁判所の調停とは』(公益財団法人 日本調停協会連合会)より一部引用

(3)民事調停の解決には「被害者と加害者の合意が必要」

民事調停はあくまでも話し合いなので、調停委員が決定を下すわけでなく、最終的な解決には被害者と加害者双方の同意が必要になります。

被害者と加害者がともに損害賠償金の支払い内容について合意しなければ、民事調停は成立しません。

民事調停を申立てたとしても、調停案に合意できなければ、調停を成立させなくてもよいのです。逆に、相手方が調停案に合意せず、調停が成立しないこともあります。

(4)民事調停は「主に示談交渉が決裂したケースで利用する」

交通事故では、まず示談による解決を目指し、被害者側と加害者側が示談交渉をするケースがほとんどです。そして、示談交渉を一定期間行ったものの、双方の主張が折り合わず、交渉が決裂した段階で民事調停が検討されます。

これから加害者側と話し合いをする状況の場合、まずは示談交渉から始めることになることが大半です。関連記事『交通事故の示談とは?交渉の進め方と注意点』では示談について網羅的に解説しているので、目を通してみることをおすすめします。

すでに解説したように、交通事故における紛争解決方法にはさまざまなものがあります。民事調停を選択するかどうかは、他の紛争解決方法とメリット・デメリットを比較して決めるとよいでしょう。

次の章からは、民事調停と他の紛争解決方法との違いや、他の紛争解決方法と比較した場合の民事調停のメリット・デメリットを解説していきます。

民事調停と示談・裁判・ADRとの違い

民事調停と示談・裁判・ADRとの違いは、次の通りです。

民事調停と示談・裁判・ADRとの違い

  • 調停と示談との違いは「裁判所を利用するか」
  • 調停と裁判との違いは「当事者の合意が必要か」
  • 調停とADRとの違いは「仲介する機関がどこか」

民事調停とそれぞれの違い、民事調停と比較したメリット・デメリットについて解説していきましょう。

調停と示談との違いは「裁判所を利用するか」

示談とは、民事上の争いを当事者同士が話し合い、合意により問題を解決する裁判外の手続きであり、民法695条で規定されている法律上の和解契約の一種です。

和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。

民法695条

民事調停と示談は、どちらも当事者間の話し合いによる解決方法です。
民事調停と示談との違いは、裁判所を利用するかどうかという点になります。

民事調停では第三者として裁判所に話し合いの仲介をしてもらいますが、示談では話し合いを当事者だけで行うのです。

示談と比較した民事調停の主なメリットとデメリットは以下の通りです。

示談と比べた民事調停のメリット・デメリット

メリット示談では解決が困難なケースでも解決できる可能性がある
合意した内容に強制力がある
受け取れる慰謝料や損害賠償金が高くなる可能性がある
デメリット解決のために費用を要する
解決のために期間を要する

詳しい内容は以下のとおりです。

示談と比べた民事調停のメリット(1)示談では解決が困難なケースでも解決できる可能性がある

示談は当事者同士で話し合いをするため、ときにはお互い感情的になってしまい、解決が困難になってしまうことがあるでしょう。

一方、民事調停は裁判所の調停委員が第三者として当事者の仲介をしてくれます。

民事調停では、調停委員が当事者それぞれの言い分を交互に聴取してくれます。当事者同士が顔を合わせずにすむので、必要以上に感情的になることが少なくなるのです。

また、調停委員が当事者双方の意向を調整してくれるため、解決の道筋が見えてくることも少なくありません。

よって、示談では解決が困難なケースでも、民事調停では解決できる可能性が高くなると言えるでしょう。

示談と比べた民事調停のメリット(2)合意した内容に強制力がある

民事調停による合意には「裁判上の和解」と同じ効力があると定められており、裁判上の和解には、裁判所による判決と同じ効力があります。

調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する。

民事調停法16条

もし相手方が、民事調停で合意した損害賠償金の支払いを行わなかったときは、相手方の財産を差し押さえてお金に換え、強制的に支払いに充てさせる「強制執行」という手続きを行えるのです。

強制執行のためには「債務名義」という文書が必要なのですが、調停で合意した場合に作成される調停調書は債務名義の一種になります(民事執行法第22条7号)。

一方、示談には裁判上の和解と同一の効力は発生せず、強制力があるとはいえません。

示談成立時に作成する示談書を「公正証書」にしていれば話は別ですが、もし相手方が示談で決まった損害賠償金を支払わなかったとしても、すぐに強制執行を行うことはできないのです。
強制執行のためには、改めて裁判所に申立てをする必要があります。

このように、民事調停のメリットには「合意した内容には強制力がある」という点も含まれます。

示談と比べた民事調停のメリット(3)受け取れる慰謝料や損害賠償金が高くなる可能性がある

示談交渉から民事調停に切り替えることで、受け取れる損害賠償金が増える可能性があります。

その理由は、慰謝料や損害賠償金の計算基準には以下の3つがあり、民事調停では最も高額な裁判基準が採用される可能性が高いからです。

慰謝料や損害賠償金の3つの算定基準

自賠責基準自賠責保険から支払われる保険金・損害賠償金額の計算基準。
被害者に補償される最低限の金額。
任意保険基準任意保険会社が示談交渉時に提示する金額の計算基準。
自賠責基準と同等か、自賠責基準よりやや高額な程度。
裁判基準
(弁護士基準)
裁判で裁判所が認定する損害賠償金額の計算基準。
法律的に適切かつ妥当な金額。3つの基準の中で最も高額。
慰謝料金額相場の3基準比較

慰謝料の3つの基準や計算方法については、『交通事故の慰謝料の計算方法|正しい賠償金額がわかる!慰謝料の計算例も紹介』の記事もご確認ください。

示談交渉では、相手方の任意保険会社は任意保険基準で計算した慰謝料や損害賠償金を提示してくることが多いです。しかし、その金額は、裁判基準で計算し直すことで増額する可能性があります。

本来、裁判基準は、民事裁判を起こした際に受け取れる金額です。しかし、民事調停を利用した場合も、裁判基準で計算した金額に近い金額で解決できる可能性が高くなります。

裁判基準の金額の目安は、以下の慰謝料計算機を利用すれば簡単に確認可能です。

計算機では、ケガに対する慰謝料(入通院慰謝料)だけでなく、後遺障害に対する慰謝料(後遺障害慰謝料)や後遺障害逸失利益の金額も計算できます。
逸失利益について詳しくは『【逸失利益の計算】職業別の計算例や早見表・計算機つき|もらえない原因と対処法』の記事もご確認ください。

コラム

実は、示談交渉で裁判基準に近い金額を獲得する方法もあります。

示談交渉時に弁護士を立てれば、裁判基準に近い金額の獲得が期待できるのです。

示談交渉が行き詰まった場合、民事調停に持ち込むのも有効な手段のひとつですが、弁護士を立てて示談交渉を行うと、より早く解決できる可能性があります。

弁護士費用が不安という方も多いですが、被害者側が加入する弁護士費用特約を利用することができれば、保険会社が弁護士費用を原則300万円まで負担してくれます。
弁護士費用については、『交通事故の弁護士費用相場はいくら?弁護士費用特約を使って負担軽減』の記事もあわせてご覧ください。

アトム法律事務所弁護士法人では、人身事故の被害者の方を対象に、無料法律相談を実施しています。
示談交渉で裁判基準に近い金額の損害賠償金を獲得したい場合は、ぜひ1度ご相談ください。

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示談と比較した民事調停のデメリット(1)解決のために費用を要する

まず、示談と比較した民事調停のデメリットとしては、解決のために費用を要する点が挙げられます。

示談交渉なら、代理人として弁護士を立てた場合を除き、費用は発生しません。
一方、民事調停は申立てをするのに一定額の手数料の支払いが必要になります。

示談と比較した民事調停のデメリット(2)解決のために期間を要する

解決までの期間についても、示談交渉の方が短く済むことが多く、民事調停は解決のために期間を要することになります。

示談交渉は当事者同士の時間さえ合えば、いつでも行うことが可能です。一方、民事調停では、月に1回程度開催される期日においてしか話し合いをすることができません。よって、解決までに時間がかかってしまうことが多いのです。

調停と裁判との違いは「当事者の合意が必要か」

民事裁判(訴訟)とは、当事者間の法的な紛争について、裁判官が法廷で双方の言い分を聞き、証拠を調べた後に、判決を下して紛争の解決を図る手続きです。

民事調停と裁判は、裁判所を利用した解決方法である点は同じですが、当事者同士の合意が必要かどうかといった点で違いがあります。

民事調停では、裁判所が第三者として介入するものの、あくまで当事者同士の合意がなければ解決することはできません。
一方、裁判では、当事者の合意がなくとも、最終的には裁判所が判決という形で紛争に対する判断を下すことにより、決着を図ることができます。

ただし、裁判においても、当事者の話し合いにより解決する方法(裁判上の和解)があります。交通事故の裁判の流れやポイントについて詳しく知りたい方は、『交通事故の裁判の起こし方や流れ|費用・期間や裁判になるケースを解説』の記事をお読みください。

裁判と比較した民事調停の主なメリットとデメリットは以下の通りです。

裁判と比べた民事調停のメリット・デメリット

メリット費用が安く済む
手続きが比較的簡単で、被害者が自分で申立てることも可能
プライバシーが守られる
解決までの期間が短く済むケースが多い
一方的に不利な結果にはならない
デメリット相手方が欠席するケースが多い
争点が複雑なケースは解決しにくい
遅延損害金や弁護士費用を請求できない

詳しい内容は以下のとおりです。

裁判と比べた民事調停のメリット(1)費用が安く済む

民事調停の申立てに必要な手数料は、民事裁判(訴訟)の提起に必要な手数料の半額程度です。

具体的な手数料の金額は、請求額に応じて以下のような違いがあります。

民事調停と民事裁判の手数料の比較

請求額裁判調停
100万円1万円5千円
1000万円5万円2万5千円

ご自分の請求額の手数料が知りたい方は、裁判所の手数料額早見表から確認できます。

裁判と比べた民事調停のメリット(2)手続きが比較的簡単で、被害者が自分で申立てることも可能

裁判は、訴状に記載が必要な事項が多い、準備する書類が多いなど、手続きが複雑です。

また、立証責任を原告(裁判を起こした側)が負わされているので、勝訴判決を得るにはさまざまな証拠書類を被害者自身で準備する必要があります。

そのため、民事裁判(訴訟)を提起するには法的知識が必要であり、被害者が自力で行うのは非常に困難です。

一方、民事調停の申立てをするのに特別な法律知識は必要ありません。簡易裁判所の窓口に備え付けられた書面(ひな形)を利用して、自力で民事調停の申立てをすることも可能です。

よって、民事調停の方が民事裁判よりも手続きが比較的簡単と言えるでしょう。

裁判と比べた民事調停のメリット(3)プライバシーが守られる

民事裁判(訴訟)は、手続きの中に、法廷で第三者が自由に傍聴できる状況での審理が含まれます。
プライバシーを守りたい方は、やや躊躇されるかもしれません。

一方、民事調停は非公開の席で行われます。
事案によっては、紛争を解決するにあたり、プライバシーに関わる事情を話さなければならないこともあります。しかし、話した内容は調停委員のみが知ることとなり、第三者に知られる不安はありません。

プライバシーを守りたい方は、民事調停の方が裁判よりもメリットが大きいと言えるでしょう。

裁判と比べた民事調停のメリット(4)解決までの期間が短く済むケースが多い

交通事故の民事裁判(訴訟)にかかる平均期間は13.3カ月です。

一方、民事調停では争点に絞った話合いをするため、事案にもよりますが、多くは3か月以内に調停が成立するなどして紛争が解決し、終了します。

よって、民事調停の方が裁判よりも解決までの期間が短く済む場合が多いと言えるでしょう。

ただし、民事調停が不調に終わり、裁判を起こす必要があるケースでは、民事調停に費やした期間に裁判にかかる期間が上乗せされるので、結果的に解決まで長引いてしまうことがあります。

民事調停を申立てるにあたっては、話し合いによる解決の可能性があるかどうか見極めることが大切になるでしょう。

交通事故の裁判にかかる期間については、『交通事故の裁判にかかる期間はどのくらい?裁判期間が長引く訴訟類型』の記事でも解説していますので、あわせてお読みください。

裁判と比べた民事調停のメリット(5)一方的に不利な結果にはならない

裁判では、最終的に裁判所が判決という形で結論を出します。
その結論が、被害者にとって有利なものであるとは限りません。証拠や口頭弁論の内容によっては、被害者に一方的に不利な結論になる可能性もあるのです。

一方、民事調停では、当事者が話し合い、お互いが納得をした上で解決を図ります。
調停委員が当事者双方がある程度妥協できるような提案をしてくれることも多いですし、もしその提案に納得できないならば合意しないことも可能です。

よって、民事調停ならば被害者に一方的に不利な結論になることはないと言えるでしょう。

裁判と比べた民事調停のデメリット(1)相手方が欠席するケースが多い

民事調停と裁判は、いずれも申立て(提起)をすると相手方(被告)に指定された期日に出頭するよう通知する呼出状が送付されます。

裁判では、当事者(被告)が口頭弁論の期日に出頭しないと、相手方(原告)の請求を認めたとみなされ(民事訴訟法159条3項)、原告側の請求どおりの判決が出ます。
そのため、裁判では被告が期日を欠席するケースは少ないです。

一方、民事調停では、期日を欠席しても調停不成立として手続きが終了するだけで、申立人の請求が認められるわけではありません。
また、民事調停法上は、不出頭に対する制裁として5万円以下の過料(行政罰)が定められていますが、実際に処分を受けるケースはほとんど存在しません。

そのため、民事調停は相手方が欠席するケースが多く、申立てをしても解決のための話し合いができない可能性があるのがデメリットと言えるでしょう。

裁判と比べた民事調停のデメリット(2)争点が複雑なケースは解決しにくい

民事調停は、短期間で解決できるように争点を絞ってお互いの言い分を聞き、証拠調べも必要な範囲に限って行うことを前提とした手続きです。

そのため、争点が複雑で、医師など専門的な知識を有する人による判断が必要なケースや、証拠調べが数多く必要なケースの解決には、民事調停よりも裁判が適しています。

とくに、以下のようなケースは、民事調停での解決は困難である可能性が高いでしょう。

  • 後遺障害等級申請の認定結果に争いがあるようなケース
  • 事故発生状況の主張に食い違いが大きく、過失割合が争われているケース

裁判と比べた民事調停のデメリット(3)遅延損害金や弁護士費用を請求できない

交通事故では、裁判をすることで、遅延損害金や弁護士費用の請求が実務上可能になります。

一方、民事調停では、遅延損害金や弁護士費用の請求が実務上認められていません。

裁判ならば、遅延損害金として事故発生時から請求額の年率3%(2020年3月31日以前の事故なら5%)、弁護士費用として請求額の10%(請求額500万円なら50万円)程度の支払いを相手方に求めることができます。

請求額や、解決(支払い)までの期間によっては、民事調停は裁判より受け取れる金額が少なくなってしまう可能性があるのです。

なお、裁判を起こして遅延損害金を含めた損害賠償請求を行う場合の手続きや、遅延損害金の計算については、『交通事故の遅延損害金|支払いを受けられるケースや計算方法は?』で解説しています。

調停とADRとの違いは「仲介する機関がどこか」

ADRとは、裁判外紛争解決手続きのことです。

当事者間の話し合いによる解決方法である点や、第三者に話し合いの仲介をしてもらうという点は、民事調停とADRに共通しています。

両者の違いとして、ADRでは、裁判所以外の機関が第三者として当事者の話し合いを仲介することが挙げられます。
民事調停は、裁判所が第三者として当事者の話し合いを仲介します。民事調停とADRの違いは、仲介する機関なのです。

交通事故の代表的なADR機関としては、交通事故紛争処理センター日弁連交通事故相談センターがあります。

ADRと比較した民事調停の主なメリットとデメリットは以下の通りです。

ADRと比べた民事調停のメリット・デメリット

メリット損害賠償請求権の時効完成を阻止できる
利用の条件がない
合意した内容の強制力が強い
デメリット申立てに費用が必要である
介入する第三者の交通事故に関する専門性が担保されていない

詳しい内容は以下のとおりです。

ADRと比べた民事調停のメリット(1)損害賠償請求権の時効完成を阻止できる

交通事故の損害賠償請求権には時効(民法改正により人損は5年、物損は3年)があり、時効が完成してしまうと相手方に損害賠償を請求できなくなります。

そのため、時効の完成が近づいているときには、時効の完成を阻止する手続きをとる必要があります。

この点、裁判所に民事調停を申立てれば、調停の手続きが終了するまでの間、時効の完成を阻止することができます

次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。

(略)

三 (略)民事調停法(略)による調停

(以下略)

民法147条

一方、ADR機関へのあっ旋の申立てには、時効の完成を阻止する効力が与えられていません。

損害賠償請求権の消滅時効は、民法改正により、2020年4月1日で期間が変更されました。詳しくは、『交通事故被害者が知っておくべき2020年4月1日以降の変更点5選』でも解説しています。時効を阻止する方法についてもあわせて紹介しているので、ぜひご一読ください。

ADRと比べた民事調停のメリット(2)利用の条件がない

民事調停は、交通事故に関する当事者間の紛争であれば、とくに制限なく利用することが可能です。

一方、ADR(交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センター)では、一定の条件を満たしていないケースでは利用することができません。

たとえば、交通事故紛争処理センターは、相手方が任意保険に未加入だと原則として利用が不可能です。また、日弁連交通事故相談センターは、物損のみのケースでは、相手方が特定の任意保険会社に加入していないと利用することができません。
くわえて、両センターともに、相手方が自転車のケースではADR機関を利用できません。

上記のようなケースでは、民事調停で問題の解決を図った方がよいでしょう。

ADRと比べた民事調停のメリット(3)合意した内容の強制力が強い

先述のとおり、民事調停により合意した内容には強制力がある(強制執行ができる)という特徴があります。

一方、ADRを利用した示談内容には強制力がありません。
審査会の結論(裁定)に一定の拘束力が認められるケースもありますが、一定の条件(保険会社や特定の共済に加入しているなど)を満たす必要があります。

より確実に損害賠償金を回収したいのであれば、民事調停を選択した方がよい場合があるのです。

ADRと比べた民事調停のデメリット(1)申立てに費用が必要である

先ほどお伝えしたとおり、民事調停の申立てには、裁判よりは低額なものの、一定の手数料の支払いが必要になります。

一方、ADR機関への申立てには費用が発生しません。

より費用をかけずに交通事故の解決を図りたいのであれば、ADRを選択する方がメリットが大きいでしょう。

ADRと比べた民事調停のデメリット(2)介入する第三者の交通事故に関する専門性が担保されていない

民事調停で主に仲介を担当する調停委員は、各分野の専門的な知識を持つ人(弁護士、医師、大学教授など)の中から選ばれることになっています。

そのため、民事調停では交通事故の専門性を有する方が調停委員になるとは限りません。

一方、ADR機関では、交通事故に関する知識の研鑽を重ねた弁護士が、担当弁護士として当事者の仲介を担当します。よって、交通事故に関する専門性が担保されているのです。

なお、ADR機関の利用で介入する担当弁護士は、あくまで中立の立場をとります。
被害者が自分で依頼した弁護士とは違い、被害者に無条件で一方的に有利な判断をしてくれることは期待できない点には注意しておきましょう。

民事調停の手続き|申立てから解決までの流れ

ここまでは、民事調停と他の解決方法を比較し、メリット・デメリットをお伝えしてきました。

ここからは、民事調停の申立てを考えている方のために、民事調停手続きの流れをご説明していきます。

(1)簡易裁判所に申立て書類一式を提出する

民事調停の申立てをするにあたっては、管轄の裁判所に申立て書類一式を提出し、手数料の支払いをする必要があります。

管轄の裁判所は、原則として相手方の住所などを管轄する簡易裁判所になります(民事調停法第3条1項)。

ただし、人身事故のケースでは、申立人の住所を管轄する簡易裁判所に申立てを行うことも可能です(民事調停法33条の2)。
また、相手方の同意があるケースでは、同意を得た地方裁判所や簡易裁判所への申立ても可能です(民事調停法第3条1項)。

調停申立書の書き方

調停申立書に決まった書式はありませんが、最低限下記の事項の記載が必要です。

調停申立書に記載が必要な事項

  • 管轄の裁判所名
  • 作成年月日
  • 申立人と相手方の住所・氏名
  • 申立ての趣旨(請求金額など)
  • 紛争の要点(交通事故の発生日や発生場所、損害額など)

被害者自身で申立てをするケースでは、裁判所のホームページから書式や記載例をダウンロードして利用するのがおすすめです。

調停申立書以外の必要書類

申立ての際には、調停申立書のほか、下記の書類を添付する必要があります。

調停申立書以外の必要書類

  • 交通事故証明書(写し)
  • 診断書(写し)
  • 商業登記簿謄(抄)本または登記事項証明書(申立人または相手方が会社の場合)

また、予想される争点に応じて、下記の書類を申立ての段階で提出しておくと、その後の手続きがスムーズに進む可能性が高いです。

申立ての段階で提出した方がよい書類

争点提出書類
治療費診療報酬明細書
休業損害
逸失利益
源泉徴収票
確定申告書
過失割合実況見分調書

手数料の支払い方法

民事調停の手数料は、収入印紙を調停申立書に貼り、郵便切手を納付するという形で支払います。

郵便切手は、裁判所から相手方への呼出状の送付などに利用されます。

手数料の金額は請求額に応じて変わります。具体的な金額については本記事内「裁判と比較した調停のメリット」の章でお伝えしたとおりです。

また、郵便切手の金額や内訳は管轄の裁判所によって違いがあり、東京簡易裁判所では原則2600円となっています。

(2)裁判所の仲介で合意に向けて話し合う

裁判所が提出された申立て書類を確認し、とくに不備がなければ、調停期日が指定されます。
調停期日が決まれば、相手方にも期日への出頭を求める呼出状が送付されます。

調停期日では、裁判官1名、調停委員2名により構成される調停委員会が当事者の間に入り、合意に向けた話し合いが進行していきます。

原則として当事者が交互に調停室に入ることになるので、調停委員会(主に調停委員)に対して自分の主張を述べましょう。

お互いの言い分を聞いた調停委員会が、争点を整理し、必要な範囲で証拠調べを行います。

(3)当事者の主張を踏まえて調停案が提示される

当事者双方の主張が出揃い、必要となる証拠調べが終了した段階で、調停委員会から調停案が提示されます。

この調停案に拘束力はなく、納得がいかなければ調停案に同意する必要はありません。

調停委員から「同意した方がよい」と説得されるケースはありますが、最終的に同意するかどうかを決めるのは当事者なのです。

(4-1)当事者が合意できたら調停調書を作成する

調停案やそれを基にした解決内容について、当事者間で合意に至れば調停成立となります。

調停が成立すれば、合意内容を記載した「調停調書」という書類が作成されます。
先述のとおり、この調停調書は裁判上の和解と同一の効力を有し、支払いを怠った場合、この書類により強制執行という手続きが可能になります。

(4-2)合意の可能性がない場合は調停不成立となる

一方、調停委員会が、話し合いの折り合いがどうしてもつかない、相手方が出頭しないなどの理由で合意が成立する見込みがないと判断するケースもあります。

その場合、裁判所は調停不成立として手続きを終了させます。

ただし、まれにではありますが、裁判所が調停委員の意見を聴き、当事者双方のために事件の解決に向けた調停に代わる決定を職権で行うケースがあります。
この調停に代わる決定に対し、当事者が2週間以内に異議を申立てなければ、調停が成立した場合と同じ効力が発生します。

調停不成立のケースや、調停に代わる決定に対し異議が申立てられたケースは、裁判手続きに移行して紛争の解決を図ることになるでしょう。

交通事故の民事調停でよくある疑問

交通事故の民事調停にまつわるよくある疑問をまとめました。

Q.加害者側から調停を申立てされた…呼出状を無視したらどうなる?

民事調停は被害者と加害者の双方から申立てることができるので、場合によっては加害者側から調停を申立てられることもあるでしょう。

加害者側から調停を申し立てる背景には、示談交渉が進展していない、早く解決させたいといった事情が考えられます。

裁判所から届いた民事調停に関する呼出状を無視しても、調停不成立として手続きが終了するだけです。民事調停の呼出しを無視しても、加害者側の言い分が認められるわけではありません。

もっとも、加害者側からの民事調停を無視し続けると民事裁判を起こされる可能性が高まります。債務不存在確認訴訟といって、「債務が存在しないこと」を確認するための訴訟です。

民事裁判は、欠席すると裁判を提起した側の主張がそのまま認められてしまうことになります。

民事調停を無視するだけですぐさま不利益を被るわけではありませんが、今後を見据えて無視せず早めに対応した方がいいでしょう。

民事調停の対応に不安がある場合は、早めに弁護士にご相談ください。

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Q.調停に意味があるように思えない?

交通事故以外の民事問題では、調停前置主義といって「裁判の前に調停を経なければならない」ケースがあります。

一方、交通事故はいきなり裁判からはじめられます。もし、調停を行った結果が不調だと「調停しても意味がなかった。裁判からはじめれば余計な手間もかからなかった。」と感じてしまうかもしれません。

しかし、調停で解決する可能性は限りなく低いと思っていても、いざ調停を行ってみると意外に成立することもあります。

調停を行う意味があったかなかったかは、実際にやってみないとわからないのです。

もっとも、被害者だけの判断でやみくもに調停や裁判を選択するべきではないでしょう。
お悩みのケースにあわせて、示談・調停・裁判・ADRのなかからどの解決方法が最も適しているのか判断せねばなりません。

弁護士であれば、どの解決方法が最も適しているのか判断できます。ベストな方法を選択すれば、納得のいく結果につながりやすくなるでしょう。

示談交渉がうまく進んでおらず調停を考えている方や、このまま示談交渉を進めていいのか迷っている方は、弁護士に一度相談してみてください。

アトム法律事務所では、弁護士による無料相談を実施中です。無料相談の特徴を知りたい方は、「交通事故の無料相談」ページをご確認ください。

Q.調停では自分に弁護士をつけないと不利になる?

弁護士をつけずに被害者が一人で対応したからといって、必ず不利な調停になるとはいえません

しかし、調停では過失割合や賠償金の算定など、交通事故に関する専門的な話が行われます。
したがって、交通事故や法律の専門的な知識に基づいた主張でなければ、適切な反論ができません。

より納得できる結果にしたいなら、弁護士をつけるのがおすすめです。

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交通事故の民事調停に関するお困りごとは弁護士に相談

この記事のポイント

  • 交通事故では、示談以外にも民事調停や裁判、ADRといった解決方法がある
  • 民事調停は、示談と違い、裁判所が第三者として話し合いの仲介をしてくれる
  • 民事調停は、裁判と違い、当事者同士が納得した上で円満に解決できる
  • 民事調停は、ADRと違い、第三者機関ではなく裁判所が仲介をしてくれる

示談で交通事故に関する紛争の解決が難しい場合は、民事調停を検討することになるでしょう。

しかし、民事調停を行わずとも、弁護士を立てれば示談での解決が図れることも少なくありません。

示談交渉がスムーズに進まずお困りの方は、各法律事務所が実施している無料法律相談を利用し、弁護士からアドバイスを受けてみることをおすすめします。

アトム法律事務所では電話・LINEによる無料法律相談を実施しています。

ご自宅にいながら空いた時間で弁護士に相談できるので、ぜひお気軽にご利用ください。無料法律相談の予約は24時間365日受け付けています。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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