交通事故の民事調停|示談・裁判との違いは?手続きの流れを弁護士が紹介
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交通事故には、示談だけでなく民事調停という解決方法もあります。
交通事故の民事調停とは、裁判所において調停委員が第三者として仲介し、話し合いで民事上の賠償問題を解決しようとする手続きです。調停は被害者と加害者の双方から申立てでき、示談と裁判の間のような手続きともいえるでしょう。
話し合いという点は示談も民事調停も共通していますが、当事者同士で話し合う示談に対して、調停には第三者が介入する点が異なります。
交通事故で民事調停を利用すると、第三者が間に入るため協議がまとまりやすくなるほか、示談よりも損害賠償額が高額になる可能性もあるでしょう。
この記事では、民事調停と示談や裁判といったほかの紛争解決方法との違いやメリットは何か、民事調停をどのように進めるのかについて、弁護士ができるだけわかりやすく紹介していきます。
民事調停とは?
民事調停は「裁判所を利用した当事者同士の話し合い」
民事調停とは、第三者としての裁判所の仲介のもと行われる話し合いです。実際には、裁判官と調停委員が、交通事故の被害者と加害者の仲立ちをしてくれます。
裁判所の調停とは
- 裁判と異なり,調停室のテーブルを囲んで,話し合いで問題やトラブルの解決を図ります。
- 裁判官のほかに,一般市民から選ばれた調停委員2人以上が,仲立ちをします。
- 調停委員は,弁護士のほか各種専門家や,社会で幅広く活躍した有識者です。
- あなたは,法律的な制約にとらわれずに自由に主張を述べられます。
- 相手との直接交渉をしなくてもよく,また同席を避けることもできます。
- 裁判官と調停委員は,法律的な評価に基づき,実情に応じて助言し互いの歩みよりを促します。理にかない,双方が納得のいく解決を目指します。
『裁判所の調停とは』(公益財団法人 日本調停協会連合会)より一部引用
民事調停はあくまでも話し合いなので、調停委員が決定を下すわけでなく、最終的な解決には被害者と加害者双方の同意が必要になります。
被害者と加害者がともに損害賠償金の支払い内容について合意しなければ、民事調停は成立しません。
民事調停を申立てたとしても、調停案に合意できなければ、調停を成立させなくてもよいのです。逆に、相手方が調停案に合意せず、調停が成立しないこともあります。
民事調停と他の解決手段(示談・ADR・裁判)との違い
交通事故における損害賠償金額をめぐる紛争の解決方法には、調停以外にも、「示談」「ADR」「裁判」といったものがあります。
これらの解決方法と民事調停の違いは以下の通りです。
交通事故の主な解決方法と民事調停との違い
- 示談:交通事故当事者間の話し合いにより解決を図る
民事調停と異なり裁判所を利用せず話合いを行う - ADR:ADRという仲裁機関を利用して話し合いによる解決を図る
民事調停と異なる機関を利用して話し合いを行う - 裁判:裁判所において判決により解決を図る
民事調停と異なり当事者間の合意なく解決ができる
民事調停は、このような交通事故のさまざまな紛争解決方法のひとつなのです。
民事調停を利用すべきケース
交通事故における損害賠償請求について、民事調停を利用すべきケースは以下の通りです。
- 相手方が示談交渉に応じない
- 相手方との示談交渉が決裂した
交通事故では、まず示談による解決を目指し、被害者側と加害者側が示談交渉をするケースがほとんどです。
そのため、まずは示談交渉による解決を行うよう働きかけることとなります。
民事調停による解決については、そもそも相手方が示談交渉に応じなかったり、示談交渉を行ったものの合意が取れず決裂した場合となるでしょう。
これから加害者側と話し合いをする状況の場合、まずは示談交渉から始めることになることが大半です。
関連記事『交通事故の示談とは?交渉の進め方と注意点、避けるべき行動』では示談について網羅的に解説しているので、目を通してみることをおすすめします。
民事調停を利用するメリット
民事調停を利用するメリットは、以下のようなものとなります。
- 示談より慰謝料や損害倍砲金が高くなりやすい
- 裁判よりも費用が安く済む
- 裁判より手続きが簡単
- 裁判よりも早期解決となりやすい
それぞれのメリットについて、具体的に紹介していきます。
民事調停なら示談より慰謝料や損害賠償金が高くなる可能性がある
示談交渉から民事調停に切り替えることで、受け取れる損害賠償金が増える可能性があります。
その理由は、慰謝料や損害賠償金の計算基準には以下の3つがあり、民事調停では最も高額な裁判基準が採用される可能性が高いからです。
自賠責基準 | 自賠責保険から支払われる保険金・損害賠償金額の計算基準。 被害者に補償される最低限の金額。 |
任意保険基準 | 任意保険会社が示談交渉時に提示する金額の計算基準。 自賠責基準と同等か、自賠責基準よりやや高額な程度。 |
裁判基準 (弁護士基準) | 裁判で裁判所が認定する損害賠償金額の計算基準。 法律的に適切かつ妥当な金額。3つの基準の中で最も高額。 |
慰謝料の3つの基準や計算方法については、『交通事故の慰謝料の計算方法|正しい賠償金額がわかる計算式や計算例を紹介』の記事もご確認ください。
示談交渉では、相手方の任意保険会社は任意保険基準で計算した慰謝料や損害賠償金を提示してくることが多いです。
しかし、その金額は、基本的に裁判基準で計算し直すことで増額します。
本来、裁判基準は、民事裁判を起こした際に受け取れる相場の金額です。
しかし、民事調停を利用した場合も、裁判基準で計算した金額に近い金額で解決できる可能性が高くなります。
裁判基準の金額の目安は、以下の慰謝料計算機を利用すれば簡単に確認可能です。
計算機では、ケガに対する慰謝料(入通院慰謝料)だけでなく、後遺障害に対する慰謝料(後遺障害慰謝料)や後遺障害逸失利益の金額も計算できます。
逸失利益の具体的な計算方法について詳しくは『【逸失利益の計算】職業別の計算方法を解説!早見表・計算機つき』の記事もご確認ください。
コラム
実は、示談交渉で裁判基準に近い金額を獲得する方法もあります。
示談交渉時に弁護士を立てれば、裁判基準に近い金額の獲得が期待できるのです。
示談交渉が行き詰まった場合、民事調停に持ち込むのも有効な手段のひとつですが、弁護士を立てて示談交渉を行うと、より早く解決できる可能性があります。
弁護士費用が不安という方も多いですが、被害者側が加入する弁護士費用特約を利用することができれば、保険会社が弁護士費用を原則300万円まで負担してくれます。
弁護士費用については、『交通事故の弁護士費用相場はいくら?弁護士費用特約を使って負担軽減』の記事もあわせてご覧ください。
アトム法律事務所弁護士法人では、人身事故の被害者の方を対象に、無料法律相談を実施しています。
示談交渉で裁判基準に近い金額の損害賠償金を獲得したい場合は、ぜひ1度ご相談ください。
民事調停の方が裁判より費用が安く済む
民事調停の申立てに必要な手数料は、民事裁判(訴訟)の提起に必要な手数料の半額程度です。
具体的な手数料の金額は、請求額に応じて以下のような違いがあります。
請求額 | 裁判 | 調停 |
---|---|---|
100万円 | 1万円 | 5千円 |
1000万円 | 5万円 | 2万5千円 |
ご自分の請求額の手数料が知りたい方は、裁判所の手数料額早見表から確認できます。
民事調停の方が裁判より手続きが簡単
裁判は、訴状に記載が必要な事項が多い、準備する書類が多いなど、手続きが複雑です。
また、立証責任は基本的に原告(裁判を起こした側)が負うので、勝訴判決を得るにはさまざまな証拠書類を被害者自身で準備する必要があります。
そのため、民事裁判(訴訟)を提起するには法的知識が必要であり、被害者が自力で行うのは非常に困難です。
一方、民事調停の申立てをするのに特別な法律知識は必要ありません。簡易裁判所の窓口に備え付けられた書面(ひな形)を利用して、自力で民事調停の申立てをすることも可能です。
よって、民事調停の方が民事裁判よりも手続きが比較的簡単と言えるでしょう。
関連記事:『交通事故の裁判の起こし方や流れ|費用・期間や裁判になるケースを解説』
民事調停の方が裁判よりも早期に解決することが多い
交通事故の民事裁判(訴訟)にかかる平均期間は13.3カ月です。
一方、民事調停では争点に絞った話合いをするため、事案にもよりますが、多くは3か月以内に調停が成立するなどして紛争が解決し、終了します。
よって、民事調停の方が裁判よりも解決までの期間が短く済む場合が多いと言えるでしょう。
ただし、民事調停が不調に終わり、裁判を起こす必要があるケースでは、民事調停に費やした期間に裁判にかかる期間が上乗せされるので、結果的に解決まで長引いてしまうことがあります。
民事調停を申立てるにあたっては、話し合いによる解決の可能性があるかどうか見極めることが大切になるでしょう。
交通事故の裁判にかかる期間については、『交通事故の裁判にかかる期間はどのくらい?裁判期間が長引く訴訟類型』の記事でも解説していますので、あわせてお読みください。
調停では相手方が欠席するケースが多い点に注意
民事調停と裁判は、いずれも申立て(提起)をすると相手方(被告)に指定された期日に出頭するよう通知する呼出状が送付されます。
裁判では、当事者(被告)が口頭弁論の期日に出頭しないと、相手方(原告)の請求を認めたとみなされ(民事訴訟法159条3項)、原告側の請求どおりの判決が出ます。
そのため、裁判では被告が期日を欠席するケースは少ないです。
一方、民事調停では、期日を欠席しても調停不成立として手続きが終了するだけで、申立人の請求が認められるわけではありません。
また、民事調停法上は、不出頭に対する制裁として5万円以下の過料(行政罰)が定められていますが、実際に処分を受けるケースはほとんど存在しないのです。
そのため、民事調停は相手方が欠席するケースが多く、申立てをしても解決のための話し合いができない可能性があるというデメリットに注意すべきでしょう。
民事調停の手続き|申立てから解決までの流れ
民事調停の申立てを考えている方のために、民事調停手続きの流れをご説明していきます。
(1)簡易裁判所に申立て書類一式を提出する
民事調停の申立てをするにあたっては、管轄の裁判所に申立て書類一式を提出し、手数料の支払いをする必要があります。
管轄の裁判所は、原則として相手方の住所などを管轄する簡易裁判所になります(民事調停法第3条1項)。
ただし、人身事故のケースでは、申立人の住所を管轄する簡易裁判所に申立てを行うことも可能です(民事調停法33条の2)。
また、相手方の同意があるケースでは、同意を得た地方裁判所や簡易裁判所へ申立てすることができます(民事調停法第3条1項)。
調停申立書の書き方
調停申立書に決まった書式はありませんが、最低限下記の事項の記載が必要です。
調停申立書に記載が必要な事項
- 管轄の裁判所名
- 作成年月日
- 申立人と相手方の住所・氏名
- 申立ての趣旨(請求金額など)
- 紛争の要点(交通事故の発生日や発生場所、損害額など)
被害者自身で申立てをするケースでは、裁判所のホームページから書式や記載例をダウンロードして利用するのがおすすめです。
調停申立書以外の必要書類
申立ての際には、調停申立書のほか、下記の書類を添付する必要があります。
調停申立書以外の必要書類
- 交通事故証明書(写し)
- 診断書(写し)
- 商業登記簿謄(抄)本または登記事項証明書(申立人または相手方が会社の場合)
また、予想される争点に応じて、下記の書類を申立ての段階で提出しておくと、その後の手続きがスムーズに進む可能性が高いです。
争点 | 提出書類 |
---|---|
治療費 | 診療報酬明細書 |
休業損害 逸失利益 | 源泉徴収票 確定申告書 |
過失割合 | 実況見分調書 |
手数料の支払い方法
民事調停の手数料は、収入印紙を調停申立書に貼り、郵便切手を納付するという形で支払います。
郵便切手は、裁判所から相手方への呼出状の送付などに利用されるのです。
手数料の金額は請求額に応じて変わります。
また、郵便切手の金額や内訳は管轄の裁判所によって違いがありますので、詳細については管轄の裁判所でご確認ください。
(2)裁判所の仲介で合意に向けて話し合う
裁判所が提出された申立て書類を確認し、とくに不備がなければ、調停期日が指定されます。
調停期日が決まれば、相手方にも期日への出頭を求める呼出状が送付されるのです。
調停期日では、裁判官1名、調停委員2名により構成される調停委員会が当事者の間に入り、合意に向けた話し合いが進行していきます。
原則として当事者が交互に調停室に入ることになるので、調停委員会(主に調停委員)に対して自分の主張を述べましょう。
お互いの言い分を聞いた調停委員会が、争点を整理し、必要な範囲で証拠調べを行います。
(3)当事者の主張を踏まえて調停案が提示される
当事者双方の主張が出揃い、必要となる証拠調べが終了した段階で、調停委員会から調停案が提示されます。
この調停案に拘束力はなく、納得がいかなければ調停案に同意する必要はありません。
調停委員から「同意した方がよい」と説得されるケースはありますが、最終的に同意するかどうかを決めるのは当事者なのです。
(4-1)当事者が合意できたら調停調書を作成する
調停案やそれを基にした解決内容について、当事者間で合意に至れば調停成立です。
調停が成立すれば、合意内容を記載した「調停調書」という書類が作成されます。
調停調書は裁判上の和解と同一の効力を有し、支払いを怠った場合、この書類により強制執行という手続きが可能です。
(4-2)合意の可能性がない場合は調停不成立となる
調停委員会が、話し合いの折り合いがどうしてもつかない、相手方が出頭しないなどの理由で合意が成立する見込みがないと判断するケースもあります。
その場合、裁判所は調停不成立として手続きを終了させるのです。
ただし、まれにではありますが、裁判所が調停委員の意見を聴き、当事者双方のために事件の解決に向けた調停に代わる決定を職権で行うケースがあります。
この調停に代わる決定に対し、当事者が2週間以内に異議を申立てなければ、調停が成立した場合と同じ効力が発生します。
調停不成立のケースや、調停に代わる決定に対し異議が申立てられたケースは、裁判手続きに移行して紛争の解決を図ることになるでしょう。
交通事故の民事調停でよくある疑問
交通事故の民事調停にまつわるよくある疑問をまとめました。
Q.加害者側から民事調停を申立てされた…呼出状を無視したらどうなる?
民事調停は被害者と加害者の双方から申立てることができるので、場合によっては加害者側から調停を申立てられることもあるでしょう。
加害者側から調停を申し立てる背景には、示談交渉が進展していない、早く解決させたいといった事情が考えられます。
裁判所から届いた民事調停に関する呼出状を無視しても、調停不成立として手続きが終了するだけです。民事調停の呼出しを無視しても、加害者側の言い分が認められるわけではありません。
もっとも、加害者側からの民事調停を無視し続けると民事裁判を起こされる可能性が高まります。債務不存在確認訴訟といって、「債務が存在しないこと」を確認するための訴訟です。
民事裁判は、欠席すると裁判を提起した側の主張がそのまま認められてしまうことになります。
民事調停を無視するだけですぐさま不利益を被るわけではありませんが、今後を見据えて無視せず早めに対応した方がいいでしょう。
民事調停の対応に不安がある場合は、早めに弁護士にご相談ください。
Q.民事調停せずに裁判した方が良い?
民事問題では、調停前置主義といって「裁判の前に調停を経なければならない」ケースがあります。
一方、交通事故はいきなり裁判からはじめられます。
もし、調停を行った結果が不調だと「調停しても意味がなかった。裁判からはじめれば余計な手間もかからなかった。」と感じてしまうかもしれません。
しかし、調停で解決する可能性は限りなく低いと思っていても、いざ調停を行ってみると意外に成立することもあります。
調停を行う意味があったかなかったかは、実際にやってみないとわからないのです。
もっとも、被害者だけの判断でやみくもに調停や裁判を選択するべきではないでしょう。
お悩みのケースにあわせて、示談・調停・裁判・ADRのなかからどの解決方法が最も適しているのか判断せねばなりません。
弁護士であれば、どの解決方法が最も適しているのか判断できます。ベストな方法を選択すれば、納得のいく結果につながりやすくなるでしょう。
示談交渉がうまく進んでおらず調停を考えている方や、このまま示談交渉を進めていいのか迷っている方は、弁護士に一度相談してみてください。
アトム法律事務所では、弁護士による無料相談を実施中です。無料相談の特徴を知りたい方は、「交通事故の無料相談」ページをご確認ください。
Q.民事調停では自分に弁護士をつけないと不利になる?
弁護士をつけずに被害者が一人で対応したからといって、必ず不利な調停になるとはいえません。
しかし、調停では過失割合や賠償金の算定など、交通事故に関する専門的な話が行われます。
交通事故や法律の専門的な知識に基づいた主張でなければ、適切な反論は困難でしょう。
より納得できる結果にしたいなら、弁護士をつけるのがおすすめです。
また、調停が不調に終わったため裁判手続きが必要となった場合に、弁護士に裁判手続きを任せることもできます。
交通事故の民事調停に関するお困りごとは弁護士に相談
示談で交通事故に関する紛争の解決が難しい場合は、民事調停を検討することになるでしょう。
しかし、民事調停を行わずとも、弁護士を立てれば示談での解決が図れることも少なくありません。
示談交渉がスムーズに進まずお困りの方は、各法律事務所が実施している無料法律相談を利用し、弁護士からアドバイスを受けてみることをおすすめします。
アトム法律事務所では電話・LINEによる無料法律相談を実施しています。
ご自宅にいながら空いた時間で弁護士に相談できるので、ぜひお気軽にご利用ください。無料法律相談の予約は24時間365日受け付けています。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了