交通事故で下肢(股関節・膝・足首)に後遺障害|可動域制限や人工骨頭の認定基準
更新日:

新たに改正民法が施行されました。交通事故の損害賠償請求権に関するルールに変更があります。
「交通事故で骨折したため足首が曲がりにくくなった」
「股関節に人工骨頭を入れたため以前のように歩けなくなった」
上記のような方は、交通事故の後遺障害認定を受けられる可能性があります。
後遺障害認定を受ければ、「後遺障害慰謝料」や将来的な減収の補償である「逸失利益」を相手方に新たに請求できるようになるのです。
後遺障害認定を受けるには、症状が一定の要件を満たしている必要があります。そこでこの記事では、股関節・膝・足首などの下肢の可動域制限について、後遺障害認定基準を詳しく紹介します。
あわせて、後遺障害認定を受けたら請求できるようになるお金も解説しているので、ぜひお役立てください。
お悩みによっては、以下の記事もお役立てください。
- 可動域制限ではなく足の切断・変形・短縮にお悩みの方
『交通事故による足の切断・短縮・変形の後遺障害』 - 足ではなく足指の可動域制限にお悩みの方
『交通事故による足指の障害について解説|欠損障害、機能障害』
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下肢の機能障害の後遺障害等級【症状別】
まずは、下肢(股関節・膝・足首)の機能障害の後遺障害の認定基準を解説していきます。
股関節・膝・足首がすべて動かない
下肢の3大関節(股関節・膝関節・足関節)がすべて動かなくなった場合、「下肢の用を全廃したもの」として後遺障害1級または5級に認定される可能性があるでしょう。
後遺障害認定基準
等級 | 認定の基準 |
---|---|
1級6号 | 両下肢の用を全廃したもの |
5級7号 | 一下肢の用を全廃したもの |
「下肢の用を全廃したもの」とは、股関節、膝関節、足首の関節の全てが強直したものを指します。強直とは、関節が完全に動かないか、動いても可動域が健康なものと比べて10%以下に制限されている状態のことです。
なお、上肢の3大関節だけではなく足指の関節が動かなくなったとしても、それを加味して等級が上がることは基本的にありません。
股関節・膝・足首のどれかが動かない/人工骨頭置換で可動域制限
下肢の3大関節(股関節・膝関節・足関節)のいずれかが動かなくなった場合、「関節の用を廃したもの」として後遺障害6級または8級に認定される可能性があります。
後遺障害認定基準
等級 | 認定の基準 |
---|---|
6級7号 | 一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの |
8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
「関節の用を廃したもの」とは、以下のいずれかに該当するもののことです。
- 関節が強直した
(関節が完全に動かないか、動いても可動域が健康なものと比べて10%以下) - 関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態
(他人に動かしてもらえば動くものの、自分の力では動かせない状態。自分の力で動かせる可動域が健康なものと比べて10%以下なら「近い状態にある」と評価される。) - 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節の可動域が健康なものと比べて2分の1以下に制限された
大腿骨の骨折や骨頭の壊死などにより人工関節・人工骨頭を挿入置換し、股関節の可動域が通常の半分以下に制限された場合も、「関節の用を廃したもの」に含まれます。
股関節・膝・足首の可動域が2分の1以下/人工骨頭置換
下肢の3大関節(股関節・膝関節・足関節)のいずれかの可動域が半分以下に制限された場合、「関節の機能に著しい障害を残すもの」として後遺障害10級に認定されるでしょう。
後遺障害認定基準
等級 | 認定の基準 |
---|---|
10級11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
「関節の機能に著しい障害を残すもの」は、以下のいずれかに該当するものを指します。
- 関節の可動域が健康な方と比較して2分の1以下に制限されている
- 人工関節・人工骨頭を挿入置換し、関節の可動域が健康な方と比較して2分の1以下に制限されているわけではない
人工関節・人工骨頭を挿入置換した場合は、可動域の制限が起きていなくても後遺障害10級に認定されます。
これは、関節に負荷をかける動きが制限されるため事故前と同様の生活が送れなかったり、将来的に人工関節・人工骨頭が摩耗して可動域制限や痛みが出てくる可能性があったりするからです。
股関節・膝・足首の可動域が4分の3以下
下肢の3大関節(股関節・膝関節・足関節)のいずれかの可動域が4分の3以下に制限された場合、「関節の機能に著しい障害を残すもの」として後遺障害12級に認定される可能性があります。
後遺障害認定基準
等級 | 認定の基準 |
---|---|
12級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの |
「関節の機能に障害を残すもの」とは、以下の状態のことです。
- 関節の可動域が健康な方と比較して4分の3以下に制限されている
「人工関節・人工骨頭の挿入置換の有無」「可動域制限が2分の1以下か4分の3以下か」のふたつの要素によって、「著しい機能障害」なのか単なる「機能障害」なのかが区別されているのです。
下肢の機能障害が残りそうなら気を付けること
下肢の可動域制限といった機能障害が残ったら、後遺障害認定を受けることになります。後遺障害認定を受けたら、後遺障害慰謝料や逸失利益を事故の相手方に請求できるようになるためです。
しかし、後遺障害認定は、申請したら必ず思いどおりの等級に認定されるものではありません。そこで、この章では下肢の機能障害が残りそうなら後遺障害認定を受けるために気を付けるべきことを解説していきます。
後遺障害認定について詳しく知りたい方は、関連記事『交通事故の後遺障害認定|認定の確率を上げるポイントと手続きを解説』もあわせてご覧ください。
(1)治療期間|6か月未満だと後遺障害認定されない?
下肢の機能障害が残りそうなら、治療開始から症状固定まで6か月以上の治療を行うとよいでしょう。
なお、症状固定とは「これ以上治療しても症状が改善しないと判断された状態」のことです。症状固定のタイミングは医師の判断が尊重されます。
治療期間が6か月に満たないと、「治療やリハビリを続けていれば後遺症が改善し、後遺障害認定基準を満たさない状態になったのでは?」と審査機関に疑われ、後遺障害に認定されないおそれがあります。
また、治療期間が6か月以上であっても、通院の間隔が1か月以上空いていると「被害者が治療に積極的ではなかったから後遺症が残ったのでは?」と疑われ、後遺障害認定を受けられない可能性があるでしょう。
股関節・膝・足首の可動域制限といった後遺症が残りそうなら、6か月以上にわたって定期的に治療を受けるのが非常に重要なのです。
保険会社から症状固定の催促をされたら?
交通事故による怪我の治療を続けていると、保険会社から「そろそろ症状固定としましょう」と催促されることがあります。
しかし、保険会社は被害者の治療状況をよく確認せず、治療費や慰謝料の支払い額を抑えるために形式的に症状固定の判断をしている可能性があるので注意が必要です。
先述のとおり、症状固定にあたっては医師の判断が尊重されます。
保険会社から症状固定の催促をされたら、まずは医師の判断を仰いでください。まだ治療が必要なようなら、その旨を保険会社に伝えて交渉しましょう。
交渉しても一方的に症状固定と決めつけられ、治療費の支払いを止められてしまったら、被害者自身で治療費を立て替えて治療を続けましょう。治療費は示談交渉で保険会社に請求できます。また、健康保険を使って3割負担とすることも可能です。
(2)可動域の測定方法|どのような動きを測る?
股関節・膝・足首の可動域制限が残ってしまった場合、可動域を正確に測定し、申請書類に記載することが大切になります。
可動域は基本的に以下の考え方で測定することになります。
- 障害のある腕と健康な腕の測定値を比べ、等級認定をする
両腕に障害がある場合は、平均値と比べ、等級認定をする - 原則として医師が腕を動かすといった「他動運動」による測定値を用いる
- 原則として各関節の主要な動き(主要運動)を測定し、等級認定をする
主要運動の測定値が認定基準にわずかに満たない場合、他の動き(参考運動)も評価する
股関節・膝・足首にわけて、可動域の測定方法を確認していきましょう。
股関節の可動域の測定方法
股関節の可動域を評価する際は、まず主要運動である「屈曲・伸展」「外転・内転」の動きを5度単位で測定します。
- 股関節の屈曲
仰向けに寝転んだ状態で、膝を抱えるように足を持ち上げる動き - 股関節の伸展
うつぶせに寝転んだ状態で、足を伸ばしたまま背中の方に持ち上げる動き - 股関節の外転
仰向けに寝転んだ状態で、足をまっすぐ伸ばしたまま横に開く動き - 股関節の内転
仰向けに寝転んだ状態で、反対の足を持ち上げたうえでその下をくぐらせるように足を内側に入れる動き
測定の結果、可動域制限の程度が認定基準を10度程度上回るような場合は、参考運動である「外旋・内旋」の動きも測定し、補助的に後遺障害認定の参考にされます。
- 股関節の外旋
仰向けに寝転んだ状態で、太ももが地面と垂直・ふくらはぎが地面と平行になるように足を持ち上げ、そのまま足先が外側に向くように回す動き - 股関節の内旋
外旋を測定するのと同じ姿勢で、足先が内側に向くように回す動き
膝関節の可動域の測定方法
膝関節の可動域を評価する際は、主要運動である「屈曲・伸展」の動きを5度単位で測定します。
- 膝関節の屈曲
仰向けに寝転んだ状態で、足をまっすぐ伸ばしてから膝を曲げる動き - 膝関節の伸展
仰向けに寝転んだ状態で、屈曲後に膝をもとの位置に戻す動き
膝関節については参考運動は設定されていません。
膝関節の可動域の評価にあたっては、「屈曲・伸展」のみを見ることになります。たとえ認定基準にわずかに届かないような場合であっても、他の運動の可動域を参考にすることはありません。
足首の関節の可動域の測定方法
足首の関節の可動域を評価する際は、主要運動である「屈曲・伸展」の動きを5度単位で測定します。
- 足首の関節の屈曲
仰向けに寝転んだ状態で、足首を地面と垂直になるように立てて足先を頭の方へ向けるように曲げる動き - 足首の関節の伸展
屈曲を測定するのと同じ状態で、足先を頭から離すように曲げる動き
足首の関節についても参考運動が設定されていません。
足首の関節の可動域は「屈曲・伸展」のみによって判断されます。認定の可否が微妙な場合であっても、他の運動の可動域を参考として評価することはないのです。
(3)画像検査|可動域の測定だけでは足りない!
股関節・膝・足首の可動域制限で後遺障害認定を受けたいときは、可動域の測定結果だけではなく、可動域制限が生じている原因がわかるレントゲン画像やMRI画像などの画像所見を添付しましょう。
股関節・膝・足首の可動域制限では、測定値が認定基準を満たしていても後遺障害認定されないことがあります。
なぜなら、可動域を測定する際に医師があまり力を入れなかったため、実際の可動域よりも測定値の方が低くなってしまうことがあるからです。
また、そもそも股関節・膝・足首の可動域制限が後遺障害等級に認定されるには、骨折や軟部組織といった器質的な要因によって症状が起こっていることを示す必要があります。
画像検査を添付することで、後遺障害認定を受けられる可能性がぐんと上がるでしょう。
(4)申請書類|医師にすべて任せるのはNG!
後遺障害認定の審査は、基本的に書面審査で行われます。よって、申請書類で認定基準を満たしていることを審査機関にアピールすることが大切になります。
後遺障害認定にあたり、とくに重視されるのは医師が作成する「後遺障害診断書」です。
「後遺障害診断書の内容については医師に任せておけばよいだろう」と考える方も少なくありませんが、医師に任せきりにしていると後遺障害認定に不利になるような内容を書かれてしまうこともあります。
たとえば、後遺障害診断書に「将来の見通しがわからない」といった意味合いで予後不明と書かれてしまうと、審査機関に「将来治る可能性もあるなら後遺障害には該当しない」と判断されてしまうことがあるのです。
医師は医療の専門家ではありますが、後遺障害認定の専門家ではありません。どのような内容が認定にあたって有利・不利に働くのかわからないことも少なくないのです。
後遺障害診断書を作成してもらったら、提出する前に無料相談を利用して弁護士の確認を受けることをおすすめします。交通事故事案に詳しい弁護士なら、過去の事例などをもとにアドバイスをしてくれるでしょう。
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後遺障害診断書の記入例については『後遺障害診断書のもらい方と完成後の要確認項目|書いてくれない時の対処法』の記事でも紹介しているので、参考にしてみてください。
下肢の後遺障害についてのQ&A
交通事故によって股関節・膝・足首を骨折した場合、可動域制限以外にも後遺症が残ることがあります。ここからは、股関節・膝・足首のさまざまな症状で後遺障害認定を受けられるかを解説していきます。
Q1.関節の可動域が制限されるのではなく異常に広がったら?
交通事故で関節を損傷すると、可動域が制限されるのではなく、正常より大きくなったり異常な方向に動くようになったりする「動揺関節」になることがあります。
下肢の股関節・膝・足首に動揺関節が残ったら、後遺障害8級、10級、12級のいずれかに認定される可能性があるでしょう。
後遺障害認定基準
等級 | 認定基準 |
---|---|
8級相当 | 常に硬性補装具を必要とするもの |
10級相当 | 時々硬性補装具を必要とするもの |
12級相当 | 重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないもの |
硬性補装具とは、布製ではなく金属製やプラスチック製のサポーターなどのことです。硬性補装具をどのくらい必要とするかによって認定される後遺障害等級が変わります。
Q2.膝の半月板を損傷して弾発膝になったら?
弾発膝(ばね膝)とは、膝を曲げるときに一定の角度で抵抗があり、その角度を過ぎると急にはねるように曲がってしまう症状のことを言います。
膝の半月板損傷などで弾発膝になったら、動揺関節の一種として後遺障害12級に認定される可能性があります。
実際に後遺障害認定を受けられるかは、個別具体的な事情によっても異なります。ご自身の症状で後遺障害認定を受けられるか確認したい方、どのような検査を受ければよいのか知りたい方は、交通事故事案を取り扱っている弁護士に相談するとよいでしょう。
Q3.下肢に痛みやしびれが残ったら?
交通事故により下肢を負傷すると、痛みやしびれが残ってしまうこともあります。膝の半月板や靭帯を損傷したときにとくに多い症状と言えるでしょう。
下肢に痛みやしびれといった神経症状が残ったら、後遺障害12級または14級に認定される可能性があります。
後遺障害認定基準
等級 | 認定基準 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号、14級9号に認定されるためのポイントはそれぞれ以下のとおりです。
- 12級13号
- 画像所見で神経症状の原因を証明できる
- MRIで痛みの原因となりうる半月板や靭帯の損傷を示すなど
- 14級9号
- 神経学的検査などで神経症状が生じていることが推認できる
- 下肢伸展挙上テスト、ラセーグテストを受けるなど
いずれの等級の認定を目指すにせよ適切な検査を受けることが必要ですが、医師は後遺障害認定に必要な検査を積極的に行ってくれないこともあります。治療に必要な検査と、後遺障害認定に必要な検査は異なるからです。
医師が必要な検査を行ってくれないなら、患者から「この検査を受けさせてください」と依頼しましょう。どのような検査が必要かわからない場合は無料相談を利用して弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
以下の関連記事では、後遺障害12級や後遺障害14級に認定される症状、認定された場合の後遺障害慰謝料の相場について解説していますので、併せてお読みください。
後遺障害12級・14級の関連記事
Q4.股関節唇損傷は後遺障害認定を受けられる?
股関節唇とは、骨盤と大腿骨がつながる部分で大腿骨を包み込んでいる軟骨のことであり、股関節を安定化させる役割を持っています。
交通事故の衝撃で股関節が大きく広がると、股関節唇を損傷し、可動域制限や痛みが生じることがあるでしょう。
股関節唇損傷で神経症状が生じた場合は、後遺障害12級、14級に認定される可能性があります。また、股関節唇損傷で可動域制限が生じた場合は、後遺障害8級、10級、12級に認定される可能性があるでしょう。
神経症状ないし可動域制限で12級以上への認定を目指す場合は、画像所見が非常に重要になります。MRIを受け、股関節唇損傷で症状が生じていることを示すようにしましょう。
Q5.複数の症状が残ったときの後遺障害等級はどうなる?
下肢だけではなく上肢や背骨にも後遺症が残ったり、下肢に複数の後遺症が残ったりする方もいらっしゃると思われます。
このような場合、ひとつひとつの後遺症について後遺障害認定を受け、複数の後遺障害等級に認定されたら等級を繰り上げる「併合」という扱いを受けることが多いでしょう。
併合による等級の繰り上げは以下の考え方によって決められます。
- 5級が2つ以上:最も重い等級を3級繰り上げる
- 8級が2つ以上:最も重い等級を2級繰り上げる
- 13級が2つ以上:最も重い等級を1級繰り上げる
- 14級が2つ以上:14級のまま
また、複数の後遺障害が派生関係にあると思われる場合は、症状を全体的に評価して「後遺障害〇級に準ずる」といった扱いを受けることもあります。
複数の後遺症が残ったときの扱いは個別具体的な事情によっても異なります。ご自身の症状が後遺障害何級になるのか知りたい方は、弁護士に相談してみるとよいでしょう。
下肢の後遺障害認定後に請求できる示談金
下肢の後遺障害認定を受けたら、相手方に後遺障害慰謝料や逸失利益などを請求できるようになります。また、将来に備えて車いすの買い替え費用、自宅のリフォーム費用なども請求可能です。
下肢の後遺障害認定後に請求できる示談金について、費目ごとに相場や計算方法を確認していきましょう。
(1)後遺障害慰謝料|精神的苦痛の補償
後遺障害慰謝料は後遺障害が残った精神的な苦痛への賠償金であり、等級ごとに相場が定められています。
なお、交通事故の慰謝料は用いる「算定基準」によっても変わってきます。
交通事故の慰謝料の算定基準
- 自賠責基準
自賠責保険が用いる基準。被害者に補償される最低限の金額となる。 - 任意保険基準
任意保険が用いる基準。各保険会社が独自に定めており、非公開。 - 弁護士基準
弁護士や裁判所が用いる基準。もっとも高額かつ法的に適切な金額となる。
上記を踏まえ、自賠責基準と弁護士基準の後遺障害慰謝料の相場を見ていきましょう。
任意保険基準はここでは割愛しますが、自賠責基準とほぼ同額か、自賠責基準に少し上乗せした程度と考えてください。
後遺障害慰謝料の相場
等級 | 自賠責 | 弁護士 |
---|---|---|
1級・要介護 | 1,650(1,600) | 2,800 |
2級・要介護 | 1,203(1,163) | 2,370 |
1級 | 1,150(1,100) | 2,800 |
2級 | 998(958) | 2,370 |
3級 | 861(829) | 1,990 |
4級 | 737(712) | 1,670 |
5級 | 618(599) | 1,400 |
6級 | 512(498) | 1,180 |
7級 | 419(409) | 1,000 |
8級 | 331(324) | 830 |
9級 | 249(245) | 690 |
10級 | 190(187) | 550 |
11級 | 136(135) | 420 |
12級 | 94(93) | 290 |
13級 | 57(57) | 180 |
14級 | 32(32) | 110 |
※単位:万円
※()内は2020年3月31日以前に発生した交通事故の場合
自賠責基準や任意保険基準と弁護士基準では、後遺障害慰謝料に大きな金額差が生まれることには注意が必要です。
相手方の任意保険会社は自賠責基準・任意保険基準で計算した金額を提示してくるでしょう。このとき、被害者自身で弁護士基準で計算した金額にするよう交渉しても、認められないことが多いです。
増額が認められない場合は、弁護士に依頼して示談交渉を代理してもらうことをおすすめします。法律の専門家である弁護士が交渉すれば、弁護士基準まで後遺障害慰謝料が引き上げられることが期待できます。
後遺障害慰謝料以外にも請求できる慰謝料がある
交通事故で後遺症が残るようなケガを負ったとき、相手方に請求できる慰謝料は後遺障害慰謝料だけではありません。
ケガをした精神的苦痛への賠償金である「入通院慰謝料」も、後遺障害慰謝料に加えて請求可能です。
入通院慰謝料は、治療期間や日数をもとに計算します。入通院慰謝料についてもどの基準を用いるかによって大きく金額が変わる点には注意しなければいけません。
交通事故でもらえる慰謝料についてさらに詳しく知りたい方は、『交通事故の慰謝料|相場や計算方法など疑問の総まとめ』の記事をご確認ください。
(2)逸失利益|減った将来的な収入の補償
逸失利益とは、後遺障害が残ったことで将来にわたって減ってしまう収入への賠償金です。
股関節・膝・足首に後遺障害が残ると、転職や配置転換を余儀なくされてしまうこともあるでしょう。このように後遺障害の影響で将来的な収入が減ってしまう場合、相手方に補償してもらうことができるのです。

逸失利益は、基本的に以下の式を用いて計算されます。
逸失利益の計算式
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
- 基礎収入
事故前の年収のこと。
専業主婦や学生など実収入がない場合は平均賃金を用いる。 - 労働能力喪失率
後遺障害によって失われた労働能力を示す数値。
後遺障害等級ごとにおおよその目安が決まっている。 - 労働能力喪失期間
労働能力が失われた期間のこと。基本的に「症状固定時~67歳」となる。 - ライプニッツ係数
逸失利益を預金・運用して生じる利息を差し引くための係数。
逸失利益の計算については、『逸失利益の計算をわかりやすく解説!金額早見表や計算ツールで目安金額もわかる』の記事で詳しく紹介しています。
より簡単に逸失利益の目安を知りたい方は、以下の計算機もご利用ください。慰謝料の自動計算機ですが、逸失利益についても同時に計算することが可能です。
下肢の後遺障害で逸失利益を請求するときの注意点
下肢の後遺障害で逸失利益を請求するときは、労働能力喪失率に注意する必要があります。
相手方の任意保険会社は、労働能力喪失率を低く見積もって逸失利益を計算したり、そもそも労働能力を喪失していないとして逸失利益の支払いを拒否したりする可能性があります。
たとえば、主にデスクワークを行う仕事に就いていた場合、「股関節の可動域制限が生じても仕事への影響は少ない」と主張され、相場よりも低い労働能力喪失率で計算した逸失利益を提示される可能性があるでしょう。
適切な逸失利益を受け取るためには、後遺障害が労働に及ぼす影響を示す必要があります。
下肢の後遺障害に関する逸失利益について相手方の任意保険会社ともめたときは、弁護士に相談してみるとよいでしょう。弁護士に相談すれば、法律知識や過去の判例をもとに、どのように主張を組み立てればよいのかアドバイスをしてもらえます。
(3)将来的な車いすや杖の購入費用
股関節・膝・足首に後遺障害を負ったとき、将来にわたって車いすや杖、補装具が欠かせなくなることも想定されます。
このような器具・装具費については、将来的に買い替える分も含めて実費で補償してもらうことが可能です。
ただし、将来的な器具・装具の買い替え費用を一括して受け取ると、そのお金を預けたり運用したりすることで中間利息が生じてしまうので、ライプニッツ係数を用いた控除が行われます。
将来的な器具・装具の買い替え費用は、基本的に平均余命まで買い替えることを前提にして算定することになるでしょう。交換年数については厚生労働省による「補装具の種目、受託報酬の額等に関する基準」を参考にしてください。
なお、車いすは屋内用・屋外用の2台を請求することも可能です。
(4)自宅や車の改造費用
股関節・膝・足首の後遺障害に対応するために自宅や車をリフォームする費用も、実費を相手方に請求できます。将来的な保守点検費用もあわせて請求できるでしょう。
請求できる内容の例としては、以下のようなものがあげられます。
- トイレや浴室のリフォーム費用
- スロープ、エレベーター、車いす用リフト、手すりの設置費用
- 介護用自動車の購入費用・買い替え費用
- 自動車の運転補助装置の購入費用
- 転居を余儀なくされた場合の転居費用および家賃差額の一部 など
請求にあたっては、症状に照らし合わせて必要性を示す必要があるでしょう。とくに、エレベーターの設置費用については「同居する家族の利便性も上がる」として減額を主張されることが多いです。
相手方の任意保険会社と請求をめぐってもめた場合は、弁護士にご相談ください。
(5)その他|治療費・休業損害など
ここまで紹介してきた費目の他にも、以下のような費目も示談金として請求可能です。
請求できる費目
- 治療関係費
診察費、手術費、入院雑費、通院交通費、付添看護費など - 休業損害
交通事故で仕事を休んだことによる減収の補償 - 物損分の費目
車の修理費など
交通事故の損害賠償について網羅的に解説した記事『交通事故の損害賠償請求とは?賠償金の費目・相場・計算方法を解説』では、各費目の相場や計算方法についても説明しています。あわせてお役立てください。
下肢の機能障害では弁護士への依頼が重要!
交通事故で股関節・膝・足首の関節に可動域制限が残ったら、弁護士への依頼も検討してみてください。ここからは、弁護士に依頼するメリットをお伝えしていきます。
本来より低い後遺障害等級になる可能性を減らせる
交通事故で後遺症が残ったとき、適切な後遺障害等級を得ることは非常に大切です。なぜなら、後遺障害等級がひとつ異なるだけで後遺障害慰謝料は数十万円~数百万円も変わってくるからです(弁護士基準の場合)。
しかし、症状が認定基準を満たしていることを申請書類で示せないと、本来なら認定されるはずの等級より低い等級に認定されたり、非該当になったりすることもあります。
この点、弁護士に依頼して後遺障害認定のサポートを受ければ、本来より低い等級に認定されるリスクを減らせるでしょう。
交通事故事案を取り扱っている弁護士であれば、詳しい認定基準や受けるべき検査、過去の認定事例などについて豊富な知識を持っています。
依頼者の方の症状に応じて、適切なアドバイスやサポートをしてくれるでしょう。
慰謝料を2倍~3倍に増額させることも期待できる
相手方の任意保険会社が提示してくる慰謝料額は、弁護士に依頼して示談交渉を代理してもらえば大幅に増額させられる可能性があります。
相手方の任意保険会社は、自賠責基準に少し上乗せした程度の金額を提示してくるでしょう。例として、片足の1関節に可動域制限が生じた場合の自賠責基準と弁護士基準の後遺障害慰謝料を比べてみます。
後遺障害慰謝料の比較(2020年4月1日以降に発生した事故の場合)
等級 | 自賠責 | 弁護士 | 金額差 |
---|---|---|---|
10級 | 190万円 | 550万円 | 約2.9倍 |
12級 | 94万円 | 290万円 | 約3.1倍 |
相手方の任意保険会社が提示してくる金額と、交通事故の被害者が本来受け取れるはずの弁護士基準の金額に、大きな金額差があることがお分かりいただけるのではないでしょうか。
なお、被害者自身で弁護士基準の慰謝料を請求しても、相手方の任意保険会社が認めることはほとんどありません。「裁判をしないと認めません」と拒まれてしまうか、微々たる増額で誤魔化されてしまうケースが非常に多いのです。
しかし、弁護士が示談交渉を代理すれば、相手方の任意保険会社も弁護士基準まで増額を認めざるを得なくなります。法律の専門家である弁護士の主張を無下にするわけにはいかないからです。
弁護士費用は実は心配しなくていいって本当?
弁護士への依頼を検討するときに懸念となるのが弁護士費用ですが、後遺障害認定を受けているなら、弁護士費用がかかってかえって損することはほとんどないと言えます。
なぜなら、示談金全体が高額になる分、相手方の任意保険会社が提示してくる金額と弁護士に依頼すれば獲得できる金額に差異が生じやすいからです。
相手方の任意保険会社から示談金の提示を受けている方は、各法律事務所が実施している無料相談を一度使ってみて、弁護士費用と増額幅の見積もりをとってみるとよいでしょう。
相手方の示談案に合意してしまうと基本的に撤回できなくなるため、示談成立前に相談してみることをおすすめします。
また、弁護士費用特約を使えば、加入している保険会社に一定金額まで弁護士費用を負担してもらうことも可能です。
被害者の自動車保険だけではなく、火災保険、クレジットカード、被害者家族の保険に付帯されている弁護士費用特約も利用できる可能性があります。まずは一度保険の契約状況を確認してみてください。

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了