股関節脱臼・股関節骨折の後遺障害等級は?人工関節や人工骨頭でも後遺障害になる?

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股関節の脱臼・骨折

股関節脱臼や股関節骨折では、後遺症が残ることがあります。また、人工関節・人工骨頭を挿入した場合は、それだけで後遺症とみなされます。

こうした場合、後遺障害等級の認定を受けることで後遺障害慰謝料や逸失利益を請求できるようになります。

股関節脱臼・股関節骨折ではどのような後遺症が残りうるのか、各症状の後遺障害等級と慰謝料相場はいくらなのかについて見ていきましょう。

あわせて、後遺障害認定を受けたら請求できるようになるお金も解説しているので、ぜひお役立てください。

お悩みによっては、以下の記事もお役立てください。

目次

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股関節脱臼・股関節骨折で生じうる後遺障害とは?

股関節脱臼・股関節骨折による後遺障害

股関節脱臼・股関節骨折では、可動域制限、変形障害、神経障害、動揺関節、正常分娩の障害が後遺障害として残る可能性があります。また、人工関節や人工骨頭を挿入した場合は、このような症状が残っていなくても後遺障害が残ったとみなされます。

股関節脱臼・股関節骨折による後遺障害の症状を見ていきましょう。

可動域制限

股関節脱臼・股関節骨折では、骨の変形や股関節の柔軟性の低下などにより、股関節の動く範囲が狭くなることがあります。

これを、可動域制限と言います。

変形障害

股関節骨折では、骨がずれて癒合してしまい、変形することがあります。これを、変形障害と言います。

神経障害

神経障害とは、痛みやしびれのことです。股関節脱臼・股関節骨折の治療が終わっても、神経が傷ついたり圧迫されたりして痛みやしびれが残ることがあります。

動揺関節

動揺関節とは、関節の安定性が損なわれ、可動域が異常に広がることを言います。股関節脱臼・股関節骨折でも動揺関節が後遺障害として残ることがあります。

人工関節・人工骨頭の挿入はそれだけで後遺障害になる

股関節脱臼・股関節骨折で人工関節や人工骨頭を挿入した場合は、可動域制限や神経障害など具体的な症状が現れていなくても、それだけで後遺障害が残ったと判断されます。

たとえ具体的な症状が出ていなくても、人工関節や人工骨頭を挿入すると、脱臼などを防ぐため一定の姿勢を取ったり激しい運動をしたりできなくなります。

以前と同じように行動・生活できなくなるため、人工関節や人工骨頭の挿入だけでも後遺障害とみなされるのです。

そもそも、人工関節・人工骨頭とは?

人工関節と人工骨頭はどちらも、関節をスムーズに動かせるように金属やポリエチレンといった人工物に取り換える治療のことです。

股関節を例に説明します。下記図をご覧ください。

大腿骨の骨頭

股関節は、大腿骨の上部にある骨頭と呼ばれる丸い部分が、骨盤の寛骨臼と呼ばれるくぼみにはまり込んでいます。膝関節や足関節も同様に、丸い部分の骨がくぼみにはまり込むことで関節として機能しているのです。

いわば、関節はボールとカップが組み合わさって動いているといえるでしょう。

人工関節は、ボールとカップ両方を人工物に取り換えることをいいます。一方、人工骨頭は、ボールのみを人工物に取り換えることをいうのです。

股関節脱臼・股関節骨折で認定される後遺障害等級と慰謝料相場

股関節脱臼・股関節骨折で後遺障害が残ったら、後遺障害等級に応じた後遺障害慰謝料を請求できます。

後遺障害慰謝料とは、交通事故で後遺障害が残った精神的苦痛に対する補償です。

股関節脱臼・股関節骨折の後遺障害別に、該当する等級と慰謝料相場を見ていきましょう。

人工関節・人工骨頭を挿入した場合

股関節脱臼・股関節骨折で人工関節や人工骨頭を挿入した場合、後遺障害10級11号に該当します。

後遺障害慰謝料の相場は550万円です。

等級認定の基準
10級11号一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
慰謝料相場:550万円

なお、人工関節・人工骨頭を挿入した関節の可動域が健康なものと比べて2分の1以下に制限された場合は、後遺障害8級7号に認定される可能性があります。

後遺障害慰謝料の相場は、830万円です。

等級認定の基準
8級7号一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
慰謝料相場:830万円

股関節に可動域制限が生じた場合

股関節脱臼や股関節骨折により可動域制限が生じた場合、後遺障害等級は「他の関節にも可動域制限が生じているか」「どの程度可動域制限が生じているか」によって変わります。

順番に見ていきましょう。

股関節以外に、膝関節と足首の関節にも可動域制限が生じている場合

両足の股関節・膝関節・足首関節に可動域制限が生じ、「用を全廃」と言える場合は、後遺障害1級6号に認定される可能性があります。慰謝料相場は2,800万円です。

片足の股関節・膝関節・足首関節に可動域が生じ、「用を全廃」と言える場合は、後遺障害5級7号に認定される可能性があります。慰謝料相場は1,400万円です。

等級認定の基準
1級6号両下肢の用を全廃したもの
慰謝料相場:2,800万円
5級7号一下肢の用を全廃したもの
慰謝料相場:1,400万円

「下肢の用を全廃したもの」とは、股関節、膝関節、足首の関節の全てが強直したものを指します。強直とは、関節が完全に動かないか、動いても可動域が健康なものと比べて10%以下に制限されている状態のことです。

なお、上肢の3大関節だけではなく足指の関節が動かなくなったとしても、それを加味して等級が上がることは基本的にありません。

股関節のみが完全に、またはほぼ動かない場合

股関節が動かなくなった場合、「関節の用を廃したもの」として後遺障害8級7号に認定される可能性があります。後遺障害慰謝料の相場は、830万円です。

後遺障害認定基準

等級認定の基準
8級7号一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
慰謝料相場:830万円

「関節の用を廃したもの」とは、以下のいずれかに該当するもののことです。

  • 関節が強直した
    (関節が完全に動かないか、動いても可動域が健康なものと比べて10%以下)
  • 関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態
    (他人に動かしてもらえば動くものの、自分の力では動かせない状態。自分の力で動かせる可動域が健康なものと比べて10%以下なら「近い状態にある」と評価される。)

先述の通り、人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節の可動域が健康なものと比べて2分の1以下に制限された場合も、後遺障害8級7号に該当します。

股関節の可動域が2分の1以下になった場合

股関節の可動域が半分以下に制限された場合、「関節の機能に著しい障害を残すもの」として後遺障害10級11号に認定されるでしょう。後遺障害慰謝料の相場は550万円です。

後遺障害認定基準

等級認定の基準
10級11号一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
慰謝料相場:550万円

股関節の可動域が4分の3以下になった場合

股関節の可動域が4分の3以下に制限された場合、「関節の機能に障害を残すもの」として後遺障害12級7号に認定される可能性があります。後遺障害慰謝料の相場は290万円です。

後遺障害認定基準

等級認定の基準
12級7号一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
慰謝料相場:290万円

股関節に変形障害が残った場合

股関節骨折によって骨盤に変形障害が残った場合は、後遺障害12級5号に認定される可能性があります。後遺障害慰謝料の相場は290万円です。

等級認定の基準
12級5号鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの慰謝料相場:290万円

著しい変形とは服を脱いだ状態で、骨が変形していることがわかる状態を指します。

なお、股関節骨折により骨盤が変形し、産道が狭くなった場合、正常分娩の障害として後遺障害11級10号に認定される可能性があります。慰謝料相場は290万円です。

等級認定の基準
12級5号鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの慰謝料相場:290万円

股関節に神経障害が残った場合

下肢に痛みやしびれといった神経症状が残ったら、後遺障害12級または14級に認定される可能性があります。慰謝料相場は12級で290万円、14級で110万円です。

後遺障害認定基準

等級認定基準
12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの
慰謝料相場:290万円
14級9号局部に神経症状を残すもの
慰謝料相場:110万円

12級13号、14級9号に認定されるためのポイントはそれぞれ以下のとおりです。

  • 12級13号
    • 画像所見で神経症状の原因を証明できる
    • MRIで痛みの原因となりうる半月板や靭帯の損傷を示すなど
  • 14級9号
    • 神経学的検査などで神経症状が生じていることが推認できる
    • 下肢伸展挙上テスト、ラセーグテストを受けるなど

いずれの等級の認定を目指すにせよ適切な検査を受けることが必要ですが、医師は後遺障害認定に必要な検査を積極的に行ってくれないこともあります。治療に必要な検査と、後遺障害認定に必要な検査は異なるからです。

医師が必要な検査を行ってくれないなら、患者から「この検査を受けさせてください」と依頼しましょう。どのような検査が必要かわからない場合は無料相談を利用して弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。

こちらの関連記事『後遺障害14級9号の認定基準と慰謝料|逸失利益は5年?認定されないときは?』は、後遺障害14級9号と12級13号に特化して解説しています。興味のある方は、ぜひあわせてお読みください。

股関節に動揺関節が残った場合

股関節に動揺関節が残ったら、後遺障害8級相当、10級相当、12級相当のいずれかに認定される可能性があるでしょう。慰謝料相場は8級相当で830万円、10級相当で550万円、12級相当で290万円です。

後遺障害認定基準

等級認定基準
8級相当常に硬性補装具を必要とするもの
慰謝料相場:830万円
10級相当時々硬性補装具を必要とするもの
慰謝料相場:550万円
12級相当重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないもの
慰謝料相場:290万円

硬性補装具とは、布製ではなく金属製やプラスチック製のサポーターなどのことです。硬性補装具をどのくらい必要とするかによって認定される後遺障害等級が変わります。

股関節脱臼・股関節骨折の後遺障害認定のポイント

続いて、股関節脱臼・股関節骨折で後遺障害等級の認定を受ける方法について解説していきます。

たとえ本来なら後遺障害等級に認定されるべき症状でも、対策が不十分だと適切な認定を受けられないことがあります。

特に重要なポイントとして、以下の4点を確認していきましょう。

  • 6ヶ月以上、定期的に受ける|人工関節・人工骨頭は例外
  • 可動域制限は正確に計測する
  • 患部の異常がわかる画像を添付する
  • 申請書類の作成を医師に任せきりにしない

後遺障害認定の申請方法については、関連記事『交通事故の後遺障害とは?認定されたらどうなる?認定の仕組みと認定率の上げ方』にてご覧ください。

(1)6ヶ月以上、定期的に治療を受ける|人工関節・人工骨頭は例外

後遺障害等級の認定を受けるには、基本的に6ヶ月以上、なおかつ医師から「症状固定」の診断を受けるまで定期的に治療を受けている必要があります。

治療期間が6ヶ月未満だったり、医師から症状固定の診断を受ける前に治療をやめていたりすると、「もう少し治療を続ければ完治するのではないか」と審査機関に疑われてしまうからです。

また、治療期間が6か月以上であっても、通院の間隔が1か月以上空いていると「被害者が治療に積極的ではなかったから後遺症が残ったのでは?」と疑われ、後遺障害認定を受けられない可能性があります。

ただし、人工関節や人工骨頭を挿入した場合は治療期間が6ヶ月未満でも問題ありません。人工関節や人工骨頭を挿入したことは、治療期間の長さに関係なく明らかだからです。

保険会社から症状固定の催促をされたら?

交通事故による怪我の治療を続けていると、保険会社から「そろそろ症状固定としましょう」と催促されることがあります。

しかし、保険会社は被害者の治療状況をよく確認せず、治療費や慰謝料の支払い額を抑えるために形式的に症状固定の判断をしている可能性があるので注意が必要です。

保険会社から症状固定の催促をされたら、まずは医師の判断を仰いでください。まだ治療が必要なようなら、その旨を保険会社に伝えて交渉しましょう。

交渉しても一方的に症状固定と決めつけられ、治療費の支払いを止められてしまったら、被害者自身で治療費を立て替えて治療を続けましょう。治療費は示談交渉で保険会社に請求できます。また、健康保険を使って3割負担とすることも可能です。

一方的に症状固定を言い渡され治療費の支払いが止められそうになった場合の対処法についてより詳しくは『交通事故の治療費打ち切りとは?延長交渉や治療の続け方』の記事もご確認ください。

(2)可動域制限は正確に計測する

股関節に可動域制限が生じている場合は、可動域の程度を正確に測りましょう。

股関節の可動域を評価する際は、まず主要運動である「屈曲・伸展」「外転・内転」の動きを5度単位で測定します。

  • 股関節の屈曲
    仰向けに寝転んだ状態で、膝を抱えるように足を持ち上げる動き
  • 股関節の伸展
    うつぶせに寝転んだ状態で、足を伸ばしたまま背中の方に持ち上げる動き
  • 股関節の外転
    仰向けに寝転んだ状態で、足をまっすぐ伸ばしたまま横に開く動き
  • 股関節の内転
    仰向けに寝転んだ状態で、反対の足を持ち上げたうえでその下をくぐらせるように足を内側に入れる動き

測定の結果、可動域制限の程度が認定基準を10度程度上回るような場合は、参考運動である「外旋・内旋」の動きも測定し、補助的に後遺障害認定の参考にされます。

  • 股関節の外旋
    仰向けに寝転んだ状態で、太ももが地面と垂直・ふくらはぎが地面と平行になるように足を持ち上げ、そのまま足先が外側に向くように回す動き
  • 股関節の内旋
    外旋を測定するのと同じ姿勢で、足先が内側に向くように回す動き

(3)患部の異常がわかる画像を添付する

股関節脱臼や股関節骨折により後遺障害が残っている場合は、レントゲン画像やMRI画像などの画像所見を添付して異常が生じていることを客観的かつ医学的に証明しましょう。

例えば股関節の可動域制限では、測定値が認定基準を満たしていても後遺障害認定されないことがあります。可動域を測定する際に医師があまり力を入れなかったため、実際の可動域よりも測定値の方が低くなってしまうことがあるからです。

また、そもそも股関節の可動域制限が後遺障害等級に認定されるには、骨折や軟部組織といった器質的な要因によって症状が起こっていることを示す必要があります。

画像検査を添付することで、後遺障害認定を受けられる可能性がぐんと上がるでしょう。

(4)申請書類の作成を医師に任せきりにしない

後遺障害認定の審査は、基本的に書面審査で行われます。よって、申請書類で認定基準を満たしていることを審査機関にアピールすることが大切です。

後遺障害認定にあたり、とくに重視されるのは医師が作成する「後遺障害診断書」です。

「後遺障害診断書の内容については医師に任せておけばよいだろう」と考える方も少なくありませんが、医師に任せきりにしていると後遺障害認定に不利になるような内容を書かれてしまうこともあります

たとえば、後遺障害診断書に「将来の見通しがわからない」といった意味合いで予後不明と書かれてしまうと、審査機関に「将来治る可能性もあるなら後遺障害には該当しない」と判断されてしまうことがあるのです。

医師は医療の専門家ではありますが、後遺障害認定の専門家ではありません。どのような内容が認定にあたって有利・不利に働くのかわからないことも少なくないのです。

後遺障害診断書を作成してもらったら、今後の見通しも含めて、弁護士に相談することをおすすめします。交通事故事案に詳しい弁護士なら、過去の事例などをもとにアドバイスをしてくれるでしょう。

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なお、後遺障害診断書の具体的な内容や、医師に後遺障害診断書をもらう時の注意点については『後遺障害診断書のもらい方と書き方は?自覚症状の伝え方と記載内容は要確認』の記事でも紹介しているので、参考にしてみてください。

股関節脱臼・股関節骨折で請求できる賠償金

股関節脱臼や股関節骨折の場合、加害者側に請求できる示談金には治療費や慰謝料に加え、車椅子や人工関節・人工骨頭の費用なども請求できることがあります。

詳しく見ていきましょう。

慰謝料|入通院慰謝料・後遺障害慰謝料

交通事故で後遺症が残るようなケガを負ったとき、相手方に請求できる慰謝料は後遺障害慰謝料だけではありません。

ケガをした精神的苦痛への賠償金である「入通院慰謝料」も、後遺障害慰謝料に加えて請求可能です。

入通院慰謝料は、治療期間や日数をもとに計算します。

慰謝料に関しては『交通事故の慰謝料|相場や計算方法など疑問の総まとめ』の記事で詳しく解説しています。

逸失利益|減った将来的な収入の補償

逸失利益とは、後遺障害が残ったことで将来にわたって減ってしまう収入への賠償金です。

労働能力に影響する後遺障害が残り、後遺障害等級の認定を受けると請求できます。

逸失利益は失われた将来的な収入の補償

逸失利益は、基本的に以下の式を用いて計算されます。

逸失利益の計算式

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

  • 基礎収入
    事故前の年収のこと。
    専業主婦や学生など実収入がない場合は平均賃金を用いる。
  • 労働能力喪失率
    後遺障害によって失われた労働能力を示す数値。
    後遺障害等級ごとにおおよその目安が決まっている。
  • 労働能力喪失期間
    労働能力が失われた期間のこと。基本的に「症状固定時~67歳」となる。
  • ライプニッツ係数
    逸失利益を預金・運用して生じる利息を差し引くための係数。

逸失利益の計算については、『【逸失利益の計算】職業別の計算方法を解説!早見表・計算機つき』の記事で詳しく紹介しています。

より簡単に逸失利益の目安を知りたい方は、以下の計算機もご利用ください。慰謝料の自動計算機ですが、逸失利益についても同時に計算することが可能です。

股関節の後遺障害で逸失利益を請求するときの注意点

股関節の後遺障害で逸失利益を請求するときは、労働能力喪失率に注意する必要があります。

相手方の任意保険会社は、労働能力喪失率を低く見積もって逸失利益を計算したり、そもそも労働能力を喪失していないとして逸失利益の支払いを拒否したりする可能性があります。

たとえば、主にデスクワークを行う仕事に就いていた場合、「股関節の可動域制限が生じても仕事への影響は少ない」と主張され、相場よりも低い労働能力喪失率で計算した逸失利益を提示される可能性があるでしょう。

適切な逸失利益を受け取るためには、後遺障害が労働に及ぼす影響を示す必要があります。

逸失利益について相手方の任意保険会社ともめたときは、弁護士に相談してみるとよいでしょう。弁護士に相談すれば、法律知識や過去の判例をもとに、どのように主張を組み立てればよいのかアドバイスをしてもらえます。

将来的な車いすや杖の購入費用

股関節に後遺障害を負ったとき、将来にわたって車いすや杖、補装具が欠かせなくなることも想定されます。

このような器具・装具費については、将来的に買い替える分も含めて実費で補償してもらうことが可能です。

ただし、将来的な器具・装具の買い替え費用を一括して受け取ると、そのお金を預けたり運用したりすることで中間利息が生じてしまうので、ライプニッツ係数を用いた控除が行われます。

将来的な器具・装具の買い替え費用は、基本的に平均余命まで買い替えることを前提にして算定することになるでしょう。交換年数については厚生労働省による「補装具の種目、受託報酬の額等に関する基準」を参考にしてください。

なお、車いすは屋内用・屋外用の2台を請求することも可能です。

人工関節・人工骨頭の取り替え費用

人工関節や人工骨頭には耐用年数があり、事故時の年齢によっては将来的に取り替えが必要になることがあります。

こうした取り替えにかかる費用も、示談交渉時点で加害者側に請求可能です。

請求できる費用は、上で紹介した車椅子や杖と同じように考えられます。

自宅や車の改造費用

股関節の後遺障害に対応するために自宅や車をリフォームする費用も、実費を相手方に請求できます。将来的な保守点検費用もあわせて請求できるでしょう。

請求できる内容の例としては、以下のようなものがあげられます。

  • トイレや浴室のリフォーム費用
  • スロープ、エレベーター、車いす用リフト、手すりの設置費用
  • 介護用自動車の購入費用・買い替え費用
  • 自動車の運転補助装置の購入費用
  • 転居を余儀なくされた場合の転居費用および家賃差額の一部 など

請求にあたっては、症状に照らし合わせて必要性を示す必要があるでしょう。とくに、エレベーターの設置費用については「同居する家族の利便性も上がる」として減額を主張されることが多いです。

相手方の任意保険会社と請求をめぐってもめた場合は、弁護士にご相談ください。

その他|治療費・休業損害など

ここまで紹介してきた費目の他にも、以下のような費目も示談金として請求可能です。

請求できる費目

  • 治療関係費
    診察費、手術費、入院雑費、通院交通費、付添看護費など
  • 休業損害
    交通事故で仕事を休んだことによる減収の補償
  • 物損分の費目
    車の修理費など

交通事故の損害賠償について網羅的に解説した記事『交通事故の損害賠償請求とは?賠償金の費目範囲や相場・計算方法を解説』では、各費目の相場や計算方法についても説明しています。あわせてお役立てください。

股関節脱臼・股関節骨折の後遺障害では弁護士への依頼が重要!

交通事故による股関節脱臼・股関節骨折で後遺障害が残ったら、弁護士への依頼も検討してみてください。ここからは、弁護士に依頼するメリットをお伝えしていきます。

本来より低い後遺障害等級になる可能性を減らせる

交通事故で後遺症が残ったとき、適切な後遺障害等級を得ることは非常に大切です。なぜなら、後遺障害等級がひとつ異なるだけで後遺障害慰謝料は数十万円~数百万円も変わってくるからです(弁護士基準の場合)。

しかし、症状が認定基準を満たしていることを申請書類で示せないと、本来なら認定されるはずの等級より低い等級に認定されたり、非該当になったりすることもあります。

この点、弁護士に依頼して後遺障害認定のサポートを受ければ、本来より低い等級に認定されるリスクを減らせるでしょう。

交通事故事案を取り扱っている弁護士であれば、詳しい認定基準や受けるべき検査、過去の認定事例などについて豊富な知識を持っています

依頼者の方の症状に応じて、適切なアドバイスやサポートをしてくれるでしょう。

慰謝料を2倍~3倍に増額させることも期待できる

交通事故の示談交渉では、加害者側の任意保険会社はここで紹介した相場よりも低い金額を提示してくることが多いです。

ここで紹介した金額は「過去の判例に基づく法的正統性の高い基準(弁護士基準)」に沿ったものですが、加害者側の任意保険会社は「自社独自の基準(任意保険基準)」や「国が定めた最低限の基準(自賠責基準)」に沿った金額を提示してくるのです。

ここで、弁護士基準と自賠責基準の後遺障害慰謝料相場を比較してみましょう。なお、任意保険基準は各社で異なり非公開ですが、自賠責基準に近いことが多いです。

等級 自賠責弁護士
1級・要介護1,650(1,600)2,800
2級・要介護1,203(1,163)2,370
1級1,150(1,100)2,800
2級998(958)2,370
3級861(829)1,990
4級737(712)1,670
5級618(599)1,400
6級512(498)1,180
7級419(409)1,000
8級331(324)830
9級249(245)690
10級190(187)550
11級136(135)420
12級94(93)290
13級57(57)180
14級32(32)110

()は2020年3月31日までに発生した事故の場合

被害者自身で弁護士基準の慰謝料を請求しても、相手方の任意保険会社が認めることはほとんどありません。「裁判をしないと認めません」と拒まれてしまうか、微々たる増額で誤魔化されてしまうケースが非常に多いのです。

しかし、弁護士が示談交渉を代理すれば、相手方の任意保険会社も弁護士基準まで増額を認めざるを得なくなります。法律の専門家である弁護士の主張を無下にするわけにはいかないからです。

弁護士費用は実は心配しなくていいって本当?

弁護士への依頼を検討するときに懸念となるのが弁護士費用ですが、後遺障害認定を受けているなら、弁護士費用がかかってかえって損することはほとんどないと言えます。

なぜなら、示談金全体が高額になる分、相手方の任意保険会社が提示してくる金額と弁護士に依頼すれば獲得できる金額に差異が生じやすいからです。

相手方の任意保険会社から示談金の提示を受けている方は、各法律事務所が実施している無料相談を一度使ってみて、弁護士費用と増額幅の見積もりをとってみるとよいでしょう。

相手方の示談案に合意してしまうと基本的に撤回できなくなるため、示談成立前に相談してみることをおすすめします。

また、弁護士費用特約を使えば、加入している保険会社に一定金額まで弁護士費用を負担してもらうことも可能です。

被害者の自動車保険だけではなく、火災保険、クレジットカード、被害者家族の保険に付帯されている弁護士費用特約も利用できる可能性があります。まずは一度保険の契約状況を確認してみてください。

弁護士費用特約とは保険会社が弁護士費用を負担してくれる特約

弁護士費用特約の使い方は、関連記事『交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介』で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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