人工関節に置換・人工骨頭を挿入した場合の後遺障害等級と慰謝料相場

交通事故被害者が、人工関節置換術や人工骨頭置換術(挿入術)といった治療法を受けたケースでは、後遺障害認定を受けることができます。
具体的な後遺障害等級としては、最低でも10級が認定され、関節可動域制限の程度や置換・挿入の数によっては、より上位の等級が認定される可能性もあります。
後遺障害等級認定を受けると、等級に応じた後遺障害慰謝料や逸失利益を請求できるようになります。
本記事では、人工関節に置換・人工骨頭を挿入した場合の後遺障害等級認定基準と慰謝料相場について解説していきますので、ぜひお役立てください。
お悩みによっては、以下の記事もお役立てください。
- 「足の変形・短縮」にお悩みの方:足の短縮・変形の後遺障害
- 「足指の可動域制限」にお悩みの方:足指を切断・曲がらなくなった
- 「足首のみ」の症状にお悩みの方:足首骨折の後遺症(後遺障害)
目次

人工関節・人工骨頭の基本的知識
人工関節・人工骨頭置換とは?
人工関節・人工骨頭置換とは、損傷部位を取り除き、金属やポリエチレンといった人工物に取り換える治療法の一つで、損傷部位の痛みや関節機能の支障を軽減させたり、損傷による変形で生じた脚長差が補正できたりします。
高齢者が関節の軟骨をすり減らして変形性関節症を発症したケース以外に、交通事故などによる外傷で関節部分を損傷したようなケースでも、人工関節置換術や人工骨頭置換術が行われることがあります。
交通事故で人工関節・人工骨頭置換が行われるケースとは?
交通事故では、下記関節で、下記のような傷病名の場合に人工関節・人工骨頭置換が実施される可能性があります。
- 股関節:股関節骨折、股関節脱臼、大腿骨骨折
- 膝関節:大腿骨骨折、膝蓋骨骨折、半月板損傷
- 足関節:腓骨骨折、脛骨骨折
- 肩関節:上腕骨骨折
- 肘関節:上腕骨骨折
- 手関節:尺骨骨折、橈骨骨折
大腿骨は、大腿骨頸部骨折や大腿骨転子部骨折後に大腿骨頭壊死をした場合は股関節、大腿骨顆部骨折した場合は膝関節と、骨折部位により人工関節・人工骨頭が置換・挿入される可能性がある関節に違いがあります。
同様に、上腕骨も上腕骨近位端粉砕骨折では肩関節に、上腕骨遠位端粉砕骨折では肘関節に人工関節や人工骨頭が挿入・置換される可能性があります。
交通事故では、特にダッシュボード損傷(膝や大腿部をダッシュボードに強打して受けた怪我)により股関節や膝関節に人工関節・人工骨頭が置換・挿入されるケースが多いです。
人工関節と人工骨頭の違いとは?
交通事故で一番人工関節・人工骨頭を置換・挿入することの多い股関節を例に説明します。下記の図をご覧ください。

股関節は、大腿骨の上部にある骨頭と呼ばれる丸い部分が、骨盤の寛骨臼と呼ばれるくぼみにはまり込んでいます。膝関節や足関節も同様に、丸い部分の骨がくぼみにはまり込むことで関節として機能しているのです。
いわば、関節はボールとカップが組み合わさって動いているといえるでしょう。
つまり、人工関節は、ボールとカップ両方を人工物に取り換えるのに対し、人工骨頭は、ボールのみを人工物に取り換えるという点に違いがあります。
人工関節・人工骨頭に置換した場合の後遺障害等級と慰謝料相場
続いて、人工関節に置換・人工骨頭を挿入した場合の後遺障害等級認定基準と後遺障害慰謝料の相場を確認していきましょう。
人工関節に置換・人工骨頭を挿入した場合、後遺障害等級に応じた後遺障害慰謝料を請求できます。
後遺障害慰謝料とは、交通事故で後遺障害が残った精神的苦痛に対する補償です。
人工関節に置換・人工骨頭を挿入した場合の後遺障害等級認定基準と慰謝料相場を見ていきましょう。
人工関節置換術・人工骨頭置換術を受けた場合
人工関節置換術や人工骨頭置換術を受けた場合、後遺障害10級(上肢10号、下肢11号)に該当します。
後遺障害慰謝料の相場は550万円です。
等級 | 認定の基準 |
---|---|
10級10号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
10級11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
関節可動域制限が生じた場合
人工関節に置換・人工骨頭を挿入した関節の可動域制限が生じた場合、後遺障害8級(上肢6号、下肢7号)に認定される可能性があります。
後遺障害慰謝料の相場は、830万円です。
等級 | 認定の基準 |
---|---|
8級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
「関節の用を廃したもの」とは、通常は以下のいずれかに該当するものをいいます。
- 関節が強直した
(関節が完全に動かないか、動いても可動域が受傷しなかった方(健側)と比べて10%以下) - 関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態
(他人に動かしてもらえば動くものの、自分の力では動かせない状態。自分の力で動かせる可動域が受傷しなかった方(健側)と比べて10%以下なら「近い状態にある」と評価される。)
しかし、人工関節に置換・人工骨頭を挿入した場合は、健康なもの(健側)と比べて2分の1以下に制限されている場合も「関節の用を廃したもの」と評価され、後遺障害8級が認定されます。
なお、一つの関節ではなく、二つの「関節の用を廃したもの」に該当する場合には、後遺障害6級が認定され、後遺障害慰謝料の相場は、1180万円です。
関節可動域の測定方法
関節可動域の測定は、原則として、日本整形外科学会及び日本リハビリテ-ション医学会によって決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に基づいて正確に行う必要があります。
交通事故で一番人工関節の置換や人工骨頭を挿入することが多い股関節を例に挙げると、まず主要運動である「屈曲・伸展」「外転・内転」の動きを5度単位で測定します。
- 股関節の屈曲
仰向けに寝転んだ状態で、膝を抱えるように足を持ち上げる動き - 股関節の伸展
うつぶせに寝転んだ状態で、足を伸ばしたまま背中の方に持ち上げる動き - 股関節の外転
仰向けに寝転んだ状態で、足をまっすぐ伸ばしたまま横に開く動き - 股関節の内転
仰向けに寝転んだ状態で、反対の足を持ち上げたうえでその下をくぐらせるように足を内側に入れる動き
測定の結果、可動域制限の程度(測定値)が認定基準を10度程度上回るような場合は、参考運動である「外旋・内旋」の動きも測定し、補助的に後遺障害認定の参考にされます。
- 股関節の外旋
仰向けに寝転んだ状態で、太ももが地面と垂直・ふくらはぎが地面と平行になるように足を持ち上げ、そのまま足先が外側に向くように回す動き - 股関節の内旋
外旋を測定するのと同じ姿勢で、足先が内側に向くように回す動き
神経障害が残った場合
人工関節を置換した部位や人工骨頭を挿入した部位に痛みやしびれといった神経症状が残った場合は、後遺障害12級または14級に認定される可能性があります。慰謝料相場は12級で290万円、14級で110万円です。
後遺障害認定基準
等級 | 認定基準 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号、14級9号に認定されるためのポイントはそれぞれ以下のとおりです。
- 12級13号
- 画像所見で神経症状の原因を証明できる
- MRIで痛みの原因となりうる半月板や靭帯の損傷を示すなどの他覚的所見がある
- 14級9号
- 神経学的検査などで神経症状が生じていることが推認できる
- 下肢伸展挙上テスト、ラセーグテストを受けるなど
いずれの等級の認定を目指すにせよ適切な検査を受けることが必要ですが、医師は後遺障害認定に必要な検査を積極的に行ってくれないこともあります。治療に必要な検査と、後遺障害認定に必要な検査は異なるからです。
医師が必要な検査を行ってくれないなら、患者から「この検査を受けさせてください」と依頼しましょう。どのような検査が必要かわからない場合は無料相談を利用して弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
可動域制限や痛みが無くても後遺障害等級が認定される理由
交通事故後に人工関節に置換したり、人工骨頭を挿入したりすると、受傷した部分の痛みや可動域制限が軽減されるケースが多いです。
可動域制限(機能障害)や神経症状(痛みやしびれ)など具体的な症状が現れていなくても、人工関節置換術や人工骨頭置換術を受けただけで後遺障害10級が認定されるのは下記のような理由があります。
以前と同じような行動・日常生活はできなくなる
人工関節に置換したり、人工骨頭を挿入したりすると、脱臼などを防ぐため正座など関節に過度の負荷が掛かる姿勢が禁止されたり、全速力での走行や激しい運動、長時間の歩行が禁止されたりするなど、日常生活に支障や制約が生じるのが大きな理由の一つです。
将来的に可動域制限や痛みが生じる可能性がある
労災必携にも「症状固定後においても人工関節及び人工骨頭の耐久性やルースニング(機械的又は感染)により症状が発現する恐れがあります」と明記されているとおり、置換術後すぐには可動域制限や痛みが出なくても、将来的に可動域制限や痛みが生じる可能性があることも後遺障害等級が認定される理由の一つです。
人工関節・人工骨頭置換の原因が別の後遺障害となるケースもある
人工関節に置換・人工骨頭を挿入した場合の後遺障害等級認定基準は上記のとおりですが、人工関節に置換・人工骨頭を挿入する原因となった外傷により、別の後遺障害が認定されるケースもあります。
たとえば、人工股関節に置換する原因となった股関節脱臼や股関節骨折によって、変形障害や動揺関節などの後遺障害が認定されるケースがあります。
上記の場合、併合という処理をされることでより上位の後遺障害等級が認定される可能性があります。
詳しく知りたい方は関連記事『後遺障害等級の認定ルール「併合・相当・加重」後遺症が複数残った時の慰謝料は?』をご覧ください。
人工関節・人工骨頭についてのよくある質問
人工関節・人工骨頭置換で後遺障害認定を受ける流れやポイントは?
交通事故発生から後遺障害認定までの流れは下記の図のとおりです。

上記の流れの中で、適切な後遺障害等級認定を受けるために、特に重要なポイントとして、以下の3点を確認していきましょう。
- 治療期間・頻度や症状固定のタイミング
- 患部の異常がわかる画像を添付する
- 申請書類の作成を医師に任せきりにしない
後遺障害認定の申請方法については、関連記事『交通事故の後遺障害とは?認定されたらどうなる?認定の仕組みと認定率の上げ方』にてご覧ください。
(1)治療期間・頻度や症状固定のタイミング
後遺障害等級の認定を受けるには、基本的に6ヶ月以上、なおかつ医師から「症状固定」の診断を受けるまで定期的に治療を受けている必要があります。
治療期間が6ヶ月未満だったり、医師から症状固定の診断を受ける前に治療をやめていたりすると、「もう少し治療を続ければ完治するのではないか」と審査機関に疑われてしまうからです。
また、治療期間が6か月以上であっても、通院の間隔が1か月以上空いていると「被害者が治療に積極的ではなかったから後遺症が残ったのでは?」と疑われ、後遺障害認定を受けられない可能性があります。
ただし、人工関節や人工骨頭を挿入した場合には、治療期間が6ヶ月経過していなくても後遺障害10級が認定されます。人工関節の置換や人工骨頭の挿入は、治療期間の長さに関係なく明らかだからです。
保険会社から症状固定の催促をされたら?
交通事故による怪我の治療を続けていると、保険会社から「そろそろ症状固定としましょう」と催促されることがあります。
症状固定とは、一般的には、治療による症状の改善が見込めなくなった時期のことをいいます。
しかし、保険会社は被害者の治療状況をよく確認せず、治療費や慰謝料の支払い額を抑えるために形式的に症状固定の判断をしている可能性があるので注意が必要です。
保険会社から症状固定の催促をされたら、まずは医師の判断を仰いでください。まだ治療が必要なようなら、その旨を保険会社に伝えて交渉しましょう。
交渉しても一方的に症状固定と決めつけられ、治療費の支払いを止められてしまったら、被害者自身で治療費を立て替えて治療を続けましょう。治療費は示談交渉で保険会社に請求できます。また、健康保険を使って3割負担とすることも可能です。
一方的に症状固定を言い渡され治療費の支払いが止められそうになった場合の対処法についてより詳しくは『交通事故の治療費打ち切りとは?延長交渉や治療の続け方』の記事もご確認ください。
(2)患部の異常がわかる画像を添付する
人工関節・人工骨頭を置換した関節の可動域制限が残っている場合には、レントゲン画像やMRI画像、CT画像などの画像所見を添付して、異常が生じていることを客観的かつ医学的に証明しましょう。
関節可動域制限が上記の後遺障害認定基準を満たしていたとしても、後遺障害8級が認定されないことがあります。
後遺障害8級が認定されるには、関節可動域制限が交通事故の怪我及び人工関節・人工骨頭置換によるものであること(因果関係)を立証する必要があるからです。
自賠責保険へ後遺障害認定の申請をする際に、画像検査を添付することで、後遺障害認定を受けられる可能性が上がるでしょう。
(3)申請書類の作成を医師に任せきりにしない
後遺障害認定の審査は、基本的に書面審査で行われます。よって、申請書類で認定基準を満たしていることを審査機関にアピールすることが大切です。
後遺障害認定にあたり、とくに重視されるのは医師が作成する「後遺障害診断書」です。
「後遺障害診断書の内容については医師に任せておけばよいだろう」と考える方も少なくありませんが、医師に任せきりにしていると後遺障害認定に不利になるような内容を書かれてしまうこともあります。
たとえば、後遺障害診断書に「将来の見通しがわからない」といった意味合いで予後不明と書かれてしまうと、審査機関に「将来治る可能性もあるなら後遺障害には該当しない」と判断されてしまうことがあるのです。
医師は医療の専門家ではありますが、後遺障害認定の専門家ではありません。どのような内容が認定にあたって有利・不利に働くのかわからないことも少なくないのです。
また、後遺障害認定の申請方法には、事前認定という方法と被害者請求という2つの種類がありますが、適切な後遺障害等級認定の可能性を高めるには、被害者請求による申請がおすすめです。
被害者請求は、被害者側で必要書類を集める必要があるというデメリットがある一方で、自身の事情を具体的に伝える陳述書など認定に有利となる資料を添付できるメリットがあるからです。
後遺障害診断書を作成してもらったら、今後の見通しも含めて、弁護士に相談することをおすすめします。交通事故事案に詳しい弁護士なら、過去の事例などをもとにアドバイスをしてくれるでしょう。

なお、後遺障害診断書の具体的な内容や、医師に後遺障害診断書をもらう時の注意点については『後遺障害診断書のもらい方と書き方は?自覚症状の伝え方と記載内容は要確認』の記事でも紹介しているので、参考にしてみてください。
身体障害者手帳の交付は受けられる?
人工関節や人工骨頭に置換しただけでは身体障害者手帳は交付されず、関節の可動域制限などの障害が残っている場合にのみ身体障害者手帳が交付されます。
交通事故で人工関節や人工骨頭に置換することの多い股関節と膝関節の場合を例に挙げると、股関節や膝関節の機能を全廃した場合には4級が、著しい障害が残った場合には5級が認定され、身体障害者手帳の交付を受けられます。
具体的には、下記の要件に該当するかどうかで判断されます。
4級 | ・関節可動域10度以下 ・徒手筋力テスト2以下 ・高度の動揺関節、関節変形(膝関節のみ) |
5級 | ・関節可動域30度以下 ・徒手筋力テスト3相当 ・中等度の動揺関節(膝関節のみ) |
動揺関節は、装具の必要性の程度に応じて判断されます。
人工関節置換・人工骨頭の手術に健康保険は使える?
人工関節置換術や人工骨頭置換術は保険適用の手術であり、手術費用や入院費用の支払いに健康保険を利用することができます。
交通事故の怪我の治療で健康保険を利用する場合は、「第三者行為による傷病届」という書類を健康保険に提出する必要があります。
詳しく知りたい方は、関連記事『交通事故で健康保険は使える!切り替え手続きやメリットも解説』をご覧ください。
人工関節置換・人工骨頭挿入で請求できる損害賠償金
人工関節に置換したり、人工骨頭を挿入したりした場合は、加害者側に請求できる損害賠償金として、慰謝料や逸失利益、治療費など以外に人工関節・人工骨頭の取替え費用を請求できることがあります。
詳しく見ていきましょう。
慰謝料|入通院慰謝料・後遺障害慰謝料
交通事故で後遺症が残るようなケガを負ったとき、相手方に請求できる慰謝料は後遺障害慰謝料だけではありません。
ケガをした精神的苦痛への賠償金である「入通院慰謝料」も、後遺障害慰謝料に加えて請求可能です。
入通院慰謝料は、治療期間や日数をもとに計算します。
慰謝料に関しては『交通事故の慰謝料|相場や計算方法など疑問の総まとめ』の記事で詳しく解説しています。
逸失利益|減った将来的な収入の補償
逸失利益とは、後遺障害が残ったことで将来にわたって減ってしまう収入への賠償金です。
労働能力に影響する後遺障害が残り、後遺障害等級の認定を受けると請求できます。

逸失利益は、基本的に以下の式を用いて計算されます。
逸失利益の計算式
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
- 基礎収入
事故前の年収のこと。
専業主婦や学生など実収入がない場合は平均賃金を用いる。 - 労働能力喪失率
後遺障害によって失われた労働能力を示す数値。
後遺障害等級に対応しておおよその目安が決まっている。 - 労働能力喪失期間
労働能力が失われた期間のこと。基本的に「症状固定時~67歳」となる。 - ライプニッツ係数
逸失利益を預金・運用して生じる利息を差し引くための係数。
逸失利益の計算については、『交通事故の逸失利益とは?計算方法を解説!早見表・計算機で相場も確認』の記事で詳しく紹介しています。
より簡単に逸失利益の目安を知りたい方は、以下の計算機もご利用ください。慰謝料の自動計算機ですが、逸失利益についても同時に計算することが可能です。
人工関節・人工骨頭置換の後遺障害で逸失利益を請求するときの注意点
人工関節・人工骨頭置換の後遺障害で逸失利益を請求するときには、労働能力喪失率に注意する必要があります。
先ほど紹介したとおり、労働能力喪失率は後遺障害等級に対応した目安の数値(10級の場合27%、8級の場合45%など)が定められています。
しかし、人工関節・人工骨頭置換による後遺障害の場合、相手方の任意保険会社は、労働能力喪失率を低く見積もって逸失利益を計算したり、そもそも労働能力を喪失していないとして逸失利益の支払いを拒否したりする可能性があります。
先ほどお伝えしたとおり、人工関節に置換・人工骨頭を挿入した場合は、可動域制限や痛みが無くても後遺障害等級が認定されることがあり、その場合には、「可動域制限や痛みが無いのだから、労働能力の喪失や低下はない」と主張されやすいからです。
また、主にデスクワークを行う仕事に就いていた場合、「股関節の可動域制限が生じても仕事への影響は少ない」と主張されて、相場よりも低い労働能力喪失率で計算した逸失利益を提示される可能性もあるでしょう。
そのため、適切な逸失利益を受け取るためには、後遺障害が労働に及ぼす影響を将来的なものも含めて具体的に示す必要があります。
逸失利益について相手方の任意保険会社ともめたときは、弁護士に相談してみるとよいでしょう。弁護士に相談すれば、法律知識や過去の判例をもとに、どのように主張を組み立てればよいのかアドバイスをしてもらえます。
人工関節・人工骨頭の取り替え費用
人工関節や人工骨頭には耐用年数があり、事故時の年齢によっては将来的に取り替えが必要になることがあります。
こうした取り替えにかかる費用も、示談交渉時点で加害者側に請求可能です。
ただし、将来的に必要となる取り換え費用を一括して受け取ると、そのお金を預けたり運用したりすることで中間利息が生じてしまうので、ライプニッツ係数を用いた控除が行われます。
将来的な人工関節・人工骨頭の取り替えにかかる費用は、基本的に平均余命まで取り替えることを前提にして算定することになるでしょう。
その他|治療費・休業損害など
ここまで紹介してきた費目の他にも、以下のような費目も損害賠償金や示談金として請求可能です。
請求できる費目
- 治療関係費
診察費、手術費、入院雑費、通院交通費、付添看護費など - 休業損害
交通事故で仕事を休んだことによる減収の補償 - 物損分の費目
車の修理費など
交通事故の損害賠償について網羅的に解説した記事『交通事故の損害賠償請求とは?賠償金の費目範囲や相場・計算方法を解説』では、各費目の相場や計算方法についても説明しています。あわせてお役立てください。
人工関節・人工骨頭置換の後遺障害では弁護士への依頼が重要!
交通事故により人工関節に置換したり、人工骨頭を挿入されたりした方は、弁護士への依頼も検討してみてください。ここからは、弁護士に依頼するメリットをお伝えしていきます。
本来より低い後遺障害等級になる可能性を減らせる
交通事故で後遺症が残ったとき、適切な後遺障害等級を得ることは非常に大切です。なぜなら、後遺障害等級がひとつ異なるだけで後遺障害慰謝料は数十万円~数百万円も変わってくるからです(弁護士基準の場合)。
しかし、症状が認定基準を満たしていることを申請書類で示せないと、本来なら認定されるはずの等級より低い等級に認定されたり、非該当になったりすることもあります。
この点、弁護士に依頼して被害者請求の方法で後遺障害認定の申請をすれば、本来より低い等級に認定されるリスクを減らせるでしょう。
また、既に本来認定されるべき等級より低い等級や非該当という後遺障害認定の結果に納得いかない人でも、弁護士に依頼して異議申立という手続きをとることにより、適正な等級に認定結果を変えることができる場合もあります。
交通事故事案を取り扱っている弁護士であれば、詳しい認定基準や受けるべき検査、過去の認定事例などについて豊富な知識を持っています。
依頼者の方の症状に応じて
- 主治医に後遺障害診断書に記載してほしい事項の追記や修正を依頼する
- 医学文献を添付した意見書を作成する
- 専門医に画像鑑定報告書の作成を依頼する
など、適切なアドバイスやサポートをしてくれるでしょう。
慰謝料を2倍~3倍に増額させることも期待できる
交通事故の示談交渉では、加害者側の任意保険会社はここで紹介した相場よりも低い金額を提示してくることが多いです。
ここまで紹介した金額は、「過去の判例に基づく法的正統性の高い基準(弁護士基準)」を適用したものですが、加害者側の任意保険会社は「自社独自の基準(任意保険基準)」や「国が定めた最低限の基準(自賠責基準)」に沿った金額を提示してくるのです。
ここで、弁護士基準と自賠責基準の後遺障害慰謝料相場を比較してみましょう。なお、任意保険基準は各社で異なり非公開ですが、自賠責基準に近いことが多いです。
等級 | 自賠責 | 弁護士 |
---|---|---|
1級・要介護 | 1,650万円 (1,600万円) | 2,800万円 |
2級・要介護 | 1,203万円 (1,163万円) | 2,370万円 |
1級 | 1,150万円 (1,100万円) | 2,800万円 |
2級 | 998万円 (958万円) | 2,370万円 |
3級 | 861万円 (829万円) | 1,990万円 |
4級 | 737万円 (712万円) | 1,670万円 |
5級 | 618万円 (599万円) | 1,400万円 |
6級 | 512万円 (498万円) | 1,180万円 |
7級 | 419万円 (409万円) | 1,000万円 |
8級 | 331万円 (324万円) | 830万円 |
9級 | 249万円 (245万円) | 690万円 |
10級 | 190万円 (187万円) | 550万円 |
11級 | 136万円 (135万円) | 420万円 |
12級 | 94万円 (93万円) | 290万円 |
13級 | 57万円 (57万円) | 180万円 |
14級 | 32万円 (32万円) | 110万円 |
()は2020年3月31日までに発生した事故の場合
被害者自身で弁護士基準の慰謝料請求をしても、相手方の任意保険会社が認めることはほとんどありません。「裁判をしないと認めません」と拒まれてしまうか、微々たる増額で誤魔化されてしまうケースが非常に多いのです。
しかし、弁護士が示談交渉を代理すれば、相手方の任意保険会社も弁護士基準まで増額を認めざるを得なくなります。法律の専門家である弁護士の主張を無下にするわけにはいかないからです。
弁護士費用は実は心配しなくていいって本当?
弁護士への依頼を検討するときに懸念となるのが弁護士費用ですが、後遺障害認定を受けているなら、弁護士費用がかかってかえって損することはほとんどないと言えます。
なぜなら、示談金全体が高額になる分、相手方の任意保険会社が提示してくる金額と弁護士に依頼すれば獲得できる金額に差異が生じやすいからです。
相手方の任意保険会社から示談金の提示を受けている方は、各法律事務所が実施している無料相談を一度使ってみて、弁護士費用と増額幅の見積もりをとってみるとよいでしょう。
相手方の示談案に合意してしまうと基本的に撤回できなくなるため、示談成立前に相談してみることをおすすめします。
また、弁護士費用特約を使えば、加入している保険会社に一定金額まで弁護士費用を負担してもらうことも可能です。
被害者の自動車保険だけではなく、火災保険、クレジットカード、被害者家族の保険に付帯されている弁護士費用特約も利用できる可能性があります。まずは一度保険の契約状況を確認してみてください。

弁護士費用特約の使い方は、関連記事『交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介』で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了