高次脳機能障害で後遺障害等級認定される後遺症とは?症状固定の時期も解説

交通事故で頭部外傷を負い、意識障害や脳損傷を負ってしまうことがあります。そして、「高次脳機能障害」と診断を受けることになる場合があります。
厚生労働省による高次脳機能障害の診断基準は下記の通りです。下記の3つ全てを満たすとき、高次脳機能障害と診断されます。
- 脳挫傷や脳梗塞など、高次脳機能障害の原因といえるものがある
- 記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害が残り、生活に支障をきたしている
- CT、MRI、脳波などに脳損傷の異常検査所見がみられる
これらのすべてを満たすとき、高次脳機能障害と診断を受けるでしょう。本記事では、高次脳機能障害の症状にはどんなもので、どんな後遺障害等級に認定されるのかについて説明していきます。
高次脳機能障害とは何か、後遺障害認定や慰謝料請求など今後の対応を含めて網羅的に知りたい方は解説記事『交通事故で記憶障害に|記憶喪失・性格が変わる・言語障害も高次脳機能障害?』も参考にしてください。

目次
脳機能障害の後遺症とは?特徴と注意点
高次脳機能障害の後遺症とは、脳に損傷を受けた結果、認知機能や行動にさまざまな障害が生じる状態を指します(なお、脳損傷を伴わない精神障害は「非器質性精神障害」と呼ばれます)。
損傷部位により、記憶障害(側頭葉)、注意障害(前頭葉、頭頂葉)、遂行機能障害(前頭葉)、言語機能障害(左側頭葉や側頭葉)、空間認知機能障害(右側頭葉)など、現れる症状が異なります。
外見では分かりにくい一方で、記憶力や判断力、感情コントロールなどに大きな影響が出るため、本人も周囲も日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
高次脳機能障害の特徴
- 見た目では気づきにくい
外傷が目立たないため、周囲の理解を得づらい - 本人が自覚しにくい(病識欠如)
記憶障害や人格変化など、自分では認識できない場合がある - 周囲の観察・記録が重要
家族や同僚の気づきが後遺障害認定に影響することがある
交通事故による頭部外傷後に発症するケースが多く、注意深く観察しなければ見逃されやすいのが特徴です。
特に、高齢者の高次脳機能障害は、その症状が認知症と類似しているため、家族であっても見過ごしてしまうことがよくあります。
次に、高次脳機能障害で現れやすい具体的な症状について紹介します。交通事故後に少しでも該当する症状がみられる場合、高次脳機能障害の疑いがありますので、病院で診察を受けましょう。
高次脳機能障害の代表的な後遺症
高次脳機能障害の後遺症では、記憶障害、情動・人格障害、言語障害など幅広い症状がみられます。具体例と共に、どんな症状なのかを説明します。

記憶障害(物忘れ・記憶喪失)
物忘れが増えた、交通事故前の記憶がないなどの記憶障害は、高次脳機能障害の症状のひとつです。記憶障害の症状と具体例を示します。
| 症状 | 具体例 |
|---|---|
| 逆行性健忘症 | 事故以前の記憶がない |
| 前向性健忘症 | 同じことを何度も質問する、新しいことを覚えられない |
| 見当識の障害 | 日時や場所がわからなくなる |
| 出典健忘 | どのような状況で得た情報かを思い出せない |
| 作話 | 妄想や虚言が増える |
情動や人格障害(性格が変わる、急に怒る)
感情がコントロールできない、無感情になるなど感情の調節ができなかったり、計画性や状況判断力が下がったりする症状は、社会的行動障害といわれます。
以下にその一例を示します。
- 長時間の無気力、言われないと何もしない(意欲の低下)
- 急に興奮して怒り出す(易怒性)
- 気分がすぐ変わる
- お金をあるだけ買い物に使う
周囲の人には大きなストレスとなる一方で、本人に自覚がない点も問題視されています。社会復帰において、生活の破綻や人間関係をこじれさせる原因にもなってしまいます。
言語障害(失語症、会話不成立、ろれつが回らない)
言語障害は、自分の意志を伝えたり、他人の言っていることを理解したりすることが難しくなる、話す・聞く・読む・書くなどに関連する障害です。
- 書きたい文字とは違う文字を書いてしまう
- 文字を読んでも意味を理解できない
- 他人の言葉を復唱できない
- 新しい言葉を作り出す
- 言っていることが支離滅裂になってしまう
人間関係を築くことに困難が生じてしまい、就労制限にも大きくかかわる障害といえます。
高次脳機能障害によるその他の後遺症
そのほかにも、注意障害、遂行機能障害、失行症、失認症といった症状がみられ、後遺症として残ってしまう場合があります。
それぞれの症状について具体例とともにみていきましょう。
注意障害
注意力を持続できず、同時に複数の刺激に注意をむけられない注意障害も、高次脳機能障害の症状のひとつです。
- 集中力がなくなる
- 周りの環境にすぐ気を取られる
- ぼんやりして作業を頻繁にミスする
- 一つの事をすると他はできない(マルチタスクをこなせない)
遂行機能障害
自分で目標を設定し、計画し、計画を実行に移すといった行動がとれなくなります。人が社会生活を営む上で基本的な機能であるぶん、日常生活を送ることに苦心してしまう症状です。
遂行機能障害の症状例を示します。
- 自分で段取りが組めず、他人の指示がないと作業できない
- 計画できず、行き当たりばったりに行動する
- 物事の優先順位をつけて行動できない
- 計画からそれた際に修正できない
失行症
交通事故にあう前には当たり前にできていたことや、日常生活の何気ない動作ができなくなる障害を、失行症といいます。
| 具体例 | |
|---|---|
| 運動失行 | 車と衝突しそうでも避けられない、自転車に乗れなくなる |
| 観念性失行 | ライターで煙草に火をつけられない(ライターと煙草の関係がわからない) |
| 着衣失行 | 服を着替えられない |
失認症
失認症は、視力や聴力、感覚に問題がないにもかかわらず、ものごとへの認識や理解力が低下する障害です。
- よく歩きなれた道で迷子になる
- 自宅内でトイレの場所がわからず、迷ってしまう
- 知り合いの顔を見てもだれか分からない
- コップや鉛筆などの見慣れたものが何かを理解できない
- 特定の音を聞いても、何の音かがわからない
- よく知っているものに触れても、どんな物体かがわからない
また、空間における物の位置関係がわからなかったり、視野の半分にある物を無視する半側空間無視なども該当します。自身の身体の半分を無視して、麻痺が残っていることを認めなかったりもします。
高次脳機能障害が後遺障害等級認定を受ける基準
高次脳機能障害で認定されうる後遺障害等級は、後遺障害1級1号(要介護)、2級1号(要介護)、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号です。
また、労働制限がかからない程度であれば、12級13号や14級9号認定の可能性もあります。
後遺障害の認定基準(抜粋)
| 等級 | 認定基準 |
|---|---|
| 1級1号※ | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
| 2級1号※ | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
| 3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
| 5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
| 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
※要介護
それぞれの認定要件についてみていきましょう。
高次脳機能障害に対する後遺障害慰謝料は、後遺障害等級に応じておおよその相場があります。
関連記事『高次脳機能障害の等級別慰謝料と逸失利益|賠償金請求の注意点も解説』を読めば、高次脳機能障害の慰謝料相場の目安や、逸失利益の計算方法、請求時の注意点などがわかります。
後遺障害1、2級(要介護)の認定基準
後遺障害1級1号(要介護)
交通事故の自賠責保険における後遺障害等級認定は、原則として労災保険の等級認定基準が準用されています。
労災保険の認定基準では、下記のいずれかに該当する場合です。
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの
さらに、自賠責保険においても、高次脳機能障害認定システム確立検討委員会の報告書で各等級の認定基準を補足する考え方が示されています。
自賠責保険の認定基準では「身体機能は残存しているが、高度の痴呆があるために、生命維持に必要な身の回りの動作に全面的介護を要するもの」をいいます。
こんな人が認定される
- 食事・入浴・用便・更衣などの生きていく上で必要な動作にも介助が必要
- 高度の痴呆症状がある
後遺障害2級1号(要介護)
労災保険の認定基準では、下記のいずれかに該当する場合です。
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
- 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの
自賠責保険の認定基準では「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には、排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」をいいます。
こんな人が認定される
- 食事・入浴・用便・更衣などの基本的な動作はできる
- 1人では外に出られず、周囲の目の届く範囲にいないと危ない
後遺障害3、5、7、9級の認定基準
労災保険では、高次脳機能障害の3級から9級の認定基準は、高次脳機能障害による能力の低下の程度によって決められます。
具体的には、以下の4つの能力の低下の程度によって判断されるのです。
- 意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)
- 問題解決能力(理解力、判断力等)
- 作業負荷に対する持続力・持久力
- 社会行動能力(協調性)
能力の低下の程度については、「高次脳機能障害整理表」に基づき、以下の6段階で評価されます。
- A:わずかに喪失
- B:多少喪失
- C:相当程度喪失
- D:半分程度喪失
- E:大部分喪失
- F:全部喪失
労災事案ではない交通事故事案の場合であっても、上記の4つの能力の低下の程度についての記載項目がある労災書式「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」を記載してもらえれば、等級該当性は比較的容易に判断できます。
自賠責書式にしか記載してもらえない場合、「神経系統の障害に関する医学的所見」の「6.認知・情緒・行動障害」欄の記載から上記の4つの能力の低下の程度を判断します。
後遺障害3級3号
労災保険の認定基準では、生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないものをいい、以下のような能力の喪失がある場合が該当します。
- 4能力の内いずれか1つ以上の能力が全部失われている(Fが1つ以上)
- 4能力の内いずれか2つ以上の能力の大部分が失われている(Eが2つ以上)
自賠責保険の認定基準では、以下のような事実が認められる必要があります。
「自宅周辺を一人で外出でき、生活範囲は自宅に限定されない。また、周囲の声かけや介助がなくても日常の動作をおこなえる。
しかし、記憶障害、注意障害、新しいことの学習能力、障害に対する自己認識、他者との円滑な対人関係維持に障害があり、一般的な就労能力がゼロもしくは難しい状態である。」
こんな人が認定される
- 自宅周辺なら一人で外出でき、日常動作も独力でできる
- 社会行動障害が著しく働けない、もしくは働くことが非常に難しい
後遺障害5級2号
労災保険の認定基準では、以下のような能力の喪失がある場合が該当します。
- 4能力の内いずれか1つ以上の能力の大部分が失われている(Eが1つ以上)
- 4能力の内いずれか2つ以上の能力の半分程度が失われている(Dが2つ以上)
自賠責保険の認定基準では、以下のような事実が認められる必要があります。
「一般的な就労は、単純な繰り返し作業などに限定すれば可能である。
しかし、新しい作業の学習や環境変化が原因で問題が起こることもあり、一般人と比べて作業能力に著しい制限がある。職場の理解と援助無くしては働き続けることは難しい。」
こんな人が認定される
- 繰り返し作業はできる
- 新しいことや環境の変化に適応しづらい
- 職場の理解や助けがないと就労は難しい
後遺障害7級4号
労災保険の認定基準では、以下のような能力の喪失がある場合が該当します。
- 4能力の内いずれか1つ以上の能力の半分程度が失われている(Dが1つ以上)
- 4能力の内いずれか2つ以上の能力の相当程度が失われている(Cが2つ以上)
自賠責保険の認定基準では、以下のような事実が認められる必要があります。
「一般就労はできても、作業の手順が悪い、約束したことを忘れる、ミスが多い。こうした事情より、一般の人と同等の作業は見込めない。」
こんな人が認定される
- 作業上のミスが目立ったり、物忘れをしたりする
- 一般の人と同等の仕事はできない
後遺障害9級10号
労災保険の認定基準では、以下のような能力の喪失がある場合が該当します。
- 4能力の内いずれか1つ以上の能力の相当程度が失われている(Cが1つ以上)
自賠責保険の認定基準では、以下のような事実が認められる必要があります。
「一般就労はできても、問題解決能力などに障害が残っている。作業効率や持続力などに問題がある。」
こんな人が認定される
- 一般就労はできても、作業効率や持続に難がある
- 問題が起こった時に解決する能力が低下している
後遺障害12級の認定基準
労災保険の認定基準では、以下のような能力の喪失がある場合が該当します。
- 4能力の内いずれか1つ以上の能力が多少失われているもの(Bが1つ以上)
後遺障害12級13号は、高次脳機能障害とは言えない程度の能力の低下がある場合に認められる可能性があります。
具体的には、通常の就労に問題はないものの能力低下について自覚があり、検査画像上において脳挫傷痕が確認できるのであれば、後遺障害12級13号の認定を受けられることがあるでしょう。
脳挫傷痕については、MRIやCTといった画像検査の結果から示す必要があります。
高次脳機能障害による後遺障害の等級一覧
| 能力の低下の程度 | 4つの能力のうち1つ該当 | 4つの能力のうち2つ以上該当 |
|---|---|---|
| A:わずかに喪失 | 後遺障害12級13号※ | 後遺障害12級13号※ |
| B:多少喪失 | 後遺障害12級13号※ | 後遺障害12級13号※ |
| C:相当程度喪失 | 後遺障害9級10号 | 後遺障害7級4号 |
| D:半分程度喪失 | 後遺障害7級4号 | 後遺障害5級2号 |
| E:大部分喪失 | 後遺障害5級2号 | 後遺障害3級3号 |
| F:全部喪失 | 後遺障害3級3号 | 後遺障害3級3号 |
※高次脳機能障害ではなく神経症状として認定される可能性
後遺障害14級の認定基準
脳挫傷痕などが確認できずに自覚症状のみの場合でも、高次脳機能障害のため軽微な障害が残っているといえる場合には、後遺障害14級9号が認定される可能性があります。
具体的には、MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的ににみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められる場合には、後遺障害14級9号の認定を受けられることがあるでしょう。
症状固定になったら後遺障害申請をしよう|時期と流れを解説
高次脳機能障害を完治させることは難しいとされています。早期にリハビリを開始することで症状の軽減や回復は見込めますが、完治までには至らず「症状固定」と診断されることがあるでしょう。
この場合、後遺障害申請の手続きを開始します。後遺障害申請は、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求するために必要な手続きです。
高次脳機能障害の場合、いつ頃に症状固定になるのか、後遺障害申請の手続きはどう行えばよいのかを解説します。
症状固定とは?高次脳機能障害の症状固定時期
症状固定とは、医学的にこれ以上の治療効果が期待できないと医師に判断された状態を指します。

高次脳機能障害の場合は、症状固定と診断されるまで受傷後から1年~2年程度が目安となります。
高次脳機能障害では、急性期の症状は急速に回復し、その後は時間の経過とともにゆるやかに回復する傾向にあります。 そのため、経過観察が必要な場合が多く、すぐに症状固定とは判断しにくいのです。
特に、被害者が子ども(小児)の場合、成長・発達に伴う環境の変化(入園・就学)などにより、集団生活への適応困難(社会的行動障害)などが判明する場合もあるので、症状固定の時期について慎重に判断すべきという考え方があります。
なお、症状固定の時期は主治医が判断しますが、被害者自身でも現状の症状を主治医に伝え、相談しながら症状固定の時期を検討することがポイントです。
もし主治医から症状固定だと言われても、治療によって症状が改善してきている実感がある場合はその旨を主治医に相談しましょう。
適切なタイミングで症状固定の判断を受けることが、後遺障害認定を有利に進めるための第一歩になります。
不適切な時期に症状固定になるとどうなる?
本来まだ治療を続けるべきなのに症状固定となった場合、後遺障害申請をしても「もう少し治療を続ければ症状は改善するのではないか」として、後遺障害等級に認定されない可能性が高まります。
医師から症状固定だと言われ、受け入れてよいのか迷った場合には、一度弁護士にご相談ください。
後遺障害認定に精通した弁護士が、適切な症状固定時期についてアドバイスいたします。
高次脳機能障害で後遺障害申請をする流れ
症状固定から後遺障害認定を受けるまでの流れは、以下の通りです。
症状固定と診断される
症状固定は医師と相談して判断しましょう。
後遺障害診断書など必要書類を準備する
後遺障害診断書は、主治医に作成してもらいます。
加害者側の保険会社を介して、審査機関に必要書類を提出
加害者側の自賠責保険会社を仲介する「被害者請求」と、加害者側の任意保険会社を仲介する「事前認定」があります。
なお、重度の高次脳機能障害の場合には、近親者などが成年後見人の選任申立てを行い、後見人から後遺障害等級認定の申請手続きをしてもらわなければいけないケースもあります。
後遺障害等級の認定結果を待つ
高次脳機能障害の場合、審査には1年以上の時間がかかることもあります。
後遺障害等級の認定結果が届く
審査結果に納得いかない場合は、異議申し立ての手続きをして再審査を受けることも可能です。
後遺障害等級認定を審査する機関は損害保険料率算出機構です。
なお、高次脳機能障害は特定事案に分類され、高次脳機能障害の専門医を中心に構成された自賠責保険(共済)審査会高次脳機能障害専門部会で審査をされるため、他の後遺障害よりも審査に時間がかかることが多いです。
【補足】申請方法は2種類ある|被害者請求と事前認定
上記にもある通り、後遺障害認定の申請方法には、「被害者請求」と「事前認定」があります。
どちらを選ぶかによってメリット・デメリットや用意すべき書類の種類が変わります。

まず被害者請求とは、加害者側の自賠責保険会社を仲介して、後遺障害申請する方法です。
必要書類はすべて被害者側で集めます。手間はかかりますが、追加書類の添付や提出書類のブラッシュアップができ、基本的に書類審査である後遺障害認定においてはメリットが大きいといえます。

一方、事前認定は加害者側の任意保険会社を仲介する後遺障害申請の方法です。
被害者は後遺障害診断書を用意するだけでよく、残りの書類は加害者側の任意保険会社が用意してくれます。
手間はかかりませんが、被害者は提出書類のほとんどに関与できません。必要最低限の種類・質の書類提出にとどまる可能性が高いです。
後遺障害申請の手続きや流れについて、もっと詳しく知りたい方は、関連記事『交通事故で後遺障害を申請する|認定までの手続きの流れ、必要書類を解説』を参考にしてください。
高次脳機能障害の後遺障害等級認定率は?
2016年度、自賠責保険(共済)審査会による審査を通して高次脳機能障害と認定された件数は2,951件で、そのうちの約25%は後遺障害9級と認定されました。
高次脳機能障害の認定状況
| 後遺障害等級 | 2016年度 |
|---|---|
| 要介護1級 | 669件(22.7%) |
| 要介護2級 | 363件(12.3%) |
| 3級 | 297件(10.1%) |
| 5級 | 327件(11.1%) |
| 7級 | 554件(18.8%) |
| 9級 | 741件(25.1%) |
| 合計 | 2,951件 |
※自賠責保険における高次脳機能障害システムの充実について(報告書)参考
高次脳機能障害は見過ごされやすい障害で、なおかつ、後遺障害認定の申請をしても必ず認められるものではありません。
高次脳機能障害で後遺障害等級認定を受けたい方は、早めに弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
【重要】後遺障害認定を受けるための3つのポイント
脳外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定は、画像診断(MRI、CTなど)で脳の器質的病変を客観的に証明し、各種神経心理学的検査で認知機能の低下を評価した上で、提出された後遺障害診断書、日常生活状況報告書などの必要書類を考慮し、総合的に判断されます。
後遺障害認定を受けるため特に重要なのは、初診時の意識障害の有無と、事故から3ヶ月以内のMRI検査結果です。
さらに、高次脳機能障害は本人が自覚しにくい特徴があるため、家族による報告書も非常に重要な役割を持ちます。
それぞれのポイントについて、具体的に見ていきましょう。
(1)意識障害の有無|事故直後から6時間以上の昏睡が基準
高次脳機能障害は頭部外傷による意識障害が一定期間生じたあとに起こりやすいと考えられています。初診時に脳外傷の診断名の記載があり、以下のような症例がある場合、より慎重な検討が行われます。
- 半昏睡~昏睡で「開眼・応答しない状況」が6時間以上継続した
- 健忘または軽度の意識障害が1週間以上継続した
こうした症状があった場合は、後遺障害診断書など申請書類にはっきりと記載してもらうことが非常に重要です。
具体的には、以下のような事実を記載してもらいましょう。
- 意識障害の推移に関して外傷後健忘の有無や期間
- 意識障害の程度を表すJCSやGCSの数値
(2)事故から3か月以内のMRI検査|後遺障害認定で必要な画像所見
高次脳機能障害の後遺障害認定では、「事故による外傷後ほぼ3か月以内に完成する脳室拡大・びまん性脳萎縮の画像所見」が重視されます。
そのため、受傷直後から3か月後にかけて経時的にMRI検査を行い、後遺障害申請時の提出資料としましょう。レントゲン写真やCT検査では脳損傷を発見できないこともあるため、MRI検査が推奨されます。
なお、画像所見に限らず、医学的な観点から必要な検査と、後遺障害認定のために必要な検査は異なることもあります。
後遺障害認定に強い弁護士に相談して、後遺障害認定のために必要な検査を確認しておくと安心です。
(3)家族による詳細な報告書|目に見えない障害を伝える
高次脳機能障害は、本人に障害の自覚が薄い場合も多く、また外見からは分かりにくい障害です。
そのため、事故前後の様子を把握している家族の報告書が、認定のための重要な資料となりえます。
具体的には以下の内容を、可能であれば具体的なエピソードも交えて記録しておき、日常生活状況報告書という書式にまとめましょう。
- 交通事故前後での被害者の変化
- 生活する上で生じている問題
- 被害者の就労状況
なお、被害者が学生ならば通学先に記載してもらう「学校生活の状況報告書」も重要な書類です。
後遺障害申請はやり直しができるとはいえ、認定結果が出るまでに時間もかかることから、より慎重かつ要領を得た申請が大切になります。弁護士に相談すれば、書類作成や検査のアドバイスも可能です。
【コラム】交通事故で知的障害になる?高次脳機能障害との違い
交通事故が原因で、知的障害のような症状が出ることはあります。特に、頭部への強い衝撃によって高次脳機能障害を負った場合、記憶力や判断力、理解力の低下が見られることがあります。
しかし、交通事故による障害は、もともとの先天的な「知的障害」とは分類が異なります。事故後に認められる認知機能の低下は、「高次脳機能障害」として扱われるのが一般的です。
ただし、子供の頃の交通事故をきっかけに知的な発達に遅れが生じた場合には、知的障害に該当する場合もあります。
交通事故で起きる高次脳機能障害と、生まれつきの知的障害の発症原因や特徴を比較すると、次のとおりです。
| 比較項目 | 高次脳機能障害 | 知的障害 |
|---|---|---|
| 原因 | 交通事故などの外傷 | 先天性(生まれつき) |
| 発症時期 | 事故後 | 幼少期から |
| 特徴 | 事故前は正常 → 事故後に認知・行動に障害 | 生まれつきIQが低い、発達に遅れ |
交通事故で知的障害のような症状が出た場合でも、以下の点を意識して交通事故との因果関係を証明し、高次脳機能障害として後遺障害認定されるよう対策しましょう。
- 事故前に問題がなかった証拠を示す
(例:成績表、仕事の実績、家族の報告書など) - 事故後に新たな障害が発生したことを立証
(例:MRI検査結果、医師の意見書)
高次脳機能障害の後遺障害等級認定は弁護士に相談を!
交通事故によって高次脳機能障害をおってしまうと、日常生活や仕事に大きく影響を与えます。それは被害者本人だけでなく、生活を共にする家族や周囲の人間関係にも影響するものです。
上記の高次脳機能障害による影響への適切な補償を受けるためには、後遺障害等級認定を受けられるかはもちろんのこと、何級の認定を受けられるかというのも非常に重要です。
交通事故による高次脳機能障害で後遺障害等級認定を考えている方は、適切な等級認定を獲得するためにも弁護士への依頼を検討してみましょう。
弁護士に依頼すると、後遺障害認定に関して次のようなサポートを受けられます。
- 後遺障害認定に向けた提出書類の準備
- 後遺障害認定申請の提出書類の記載内容確認と修正
- 受けるべき検査の的確なアドバイス
アトム法律事務所は、後遺障害等級認定の申請手続きの経験が豊富な弁護士が多数在籍しています。
また、高次脳機能障害は、損害賠償金額が高額な傾向にあるため、示談交渉でもめやすいところ、高次脳機能障害で後遺障害等級認定された方も、提示された示談金額よりも増額できる可能性が高く、依頼すべき必要性が高いです。
アトム法律事務所では、交通事故被害者の方を対象に無料法律相談を実施しており、相談予約を電話やLINE、メールで24時間365日受付中です。高次脳機能障害についてお悩みや疑問点のある方は、お気軽にお問い合わせください。

高次脳機能障害に関して、弁護士への相談や依頼を検討中であれば、以下の記事もお役立てください。弁護士に任せるメリットや裁判の事例がわかります。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
