高次脳機能障害で後遺障害等級認定される後遺症とは?記憶障害や性格の変化は?
交通事故で頭部外傷を負い、意識障害や脳損傷を負ってしまうことがあります。そして、「高次脳機能障害」と診断を受けることになる場合があります。
厚生労働省による高次脳機能障害の診断基準は下記の通りです。下記の3つ全てを満たすとき、高次脳機能障害と診断されます。
- 脳挫傷や脳梗塞など、高次脳機能障害の原因といえるものがある
- 記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害が残り、生活に支障をきたしている
- CT、MRI、脳波などに脳損傷の検査所見がみられる
これらのすべてを満たすとき、高次脳機能障害と診断を受けるでしょう。この記事では、高次脳機能障害の症状にはどんなもので、どんな後遺障害等級に認定されるのかについて説明していきます。
高次脳機能障害とは何か、後遺障害認定や慰謝料請求など今後の対応を含めて網羅的に知りたい方は解説記事『事故後の記憶障害・性格が変わる・言語障害…高次脳機能障害の症状とは?』も参考にしてください。
目次
高次脳機能障害の症状は後遺症として残ることもある
高次脳機能障害は、記憶障害、社会行動障害、言語障害、失認症、注意障害、遂行機能障害、失行症など幅広い症状がみられます。具体例と共に、どんな症状なのかを説明します。
記憶障害(物忘れ・記憶喪失)
物忘れが増えた、交通事故前の記憶がないなどの記憶障害は、高次脳機能障害の症状のひとつです。記憶障害の症状と具体例を示します。
症状 | 具体例 |
---|---|
逆行性健忘症 | 事故以前の記憶がない |
前向性健忘症 | 同じことを何度も質問する、新しいことを覚えられない |
見当識の障害 | 日時や場所がわからなくなる |
出典健忘 | どのような状況で得た情報かを思い出せない |
作話 | 妄想や虚言が増える |
情動や人格障害(性格が変わる、急に怒る)
感情がコントロールできない、無感情になるなどの感情の調節ができなかったり、計画性や状況判断力が下がったりして、社会行動障害ともいわれます。
以下にその一例を示します。
- 長時間の無気力、言われないと何もしない
- 急に興奮して怒り出す
- 気分がすぐ変わる
- お金をあるだけ使う
周囲の人には大きなストレスとなる一方で、本人に自覚がない点も問題視されているのです。社会復帰において、生活の破綻や人間関係をこじれさせる原因にもなってしまいます。
言語障害(会話不成立、ろれつが回らない)
自分の意志を伝えたり、他人の言っていることを理解したりすることが難しくなる、話す・聞く・読む・書くなどに関連する障害です。
- 書きたい文字とは違う文字を書いてしまう
- 文字を読んでも意味を理解できない
- 他人の言葉を復唱できない
- 新しい言葉を作り出す
- 言っていることが支離滅裂になってしまう
人間関係を築くことに困難が生じてしまい、就労制限にも大きくかかわる障害といえます。
高次脳機能障害によるその他の後遺症
そのほかにも、失認症、注意障害、遂行機能障害、失行症の症状がみられ、後遺症として残ってしまう場合があります。
それぞれの症状について具体例とともにみていきましょう。
失認症
失認症は、ものごとへの認識や理解力が低下する障害です。
- よく歩きなれた道で迷子になる
- 自宅内でトイレの場所がわからず、迷ってしまう
- 知り合いの顔を見てもだれか分からない
- コップや鉛筆などの見慣れたものが何かを理解できない
- 特定の音を聞いても、何の音かがわからない
- よく知っているものに触れても、どんな物体かがわからない
また、空間における物の位置関係がわからなかったり、視野の半分にある物を無視する半側空間無視なども該当します。自身の身体の半分を無視して、麻痺が残っていることを認めなかったりもします。
注意障害
注意力を持続することが出来ず、同時に複数の刺激に注意をむけられない注意障害も、高次脳機能障害の症状のひとつです。
- 集中力がなくなる
- 気が散りやすい
- 作業のミスが多い
- ひとつの事をすると他はできない(マルチタスクをこなせない)
遂行機能障害
自分で目標を設定し、計画し、計画を実行に移すといった行動がとれなくなります。人が社会生活を営む上で基本的な機能であるぶん、日常生活を送ることに苦心してしまう症状です。
遂行機能障害の症状例を示します。
- 自分からは何もせず、他人の指示がないと作業できない
- 計画できず、行き当たりばったりに行動する
- 優先順位をつけて行動できない
- 計画からそれた際に修正できない
失行症
交通事故にあう前には当たり前にできていたことや、日常生活の何気ない動作ができなくなる障害を、失行症といいます。
具体例 | |
---|---|
運動失行 | 車と衝突しそうでも避けられない、自転車に乗れなくなる |
観念性失行 | ライターで煙草に火をつけられない(ライターと煙草の関係がわからない) |
着衣失行 | 服を着替えられない |
高次脳機能障害は後遺障害等級認定される?
高次脳機能障害で認定される後遺障害等級は、後遺障害1級1号(要介護)、2級1号(要介護)、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号です。また、労働制限がかからない程度であれば、12級13号、14級9号認定の可能性もあります。
等級 | 認定基準 |
---|---|
1級1号 (要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2級1号 (要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
それぞれの認定要件についてみていきましょう。
後遺障害1級1号(要介護)
介護を必要とする後遺障害1級1号では、生活の維持のため、必要な身の回りの動作に全面的な他者の介護を要するものです。身体機能は残存しているが高度の痴呆があるものと判断されています。
こんな人が認定される
- 排泄や食事などの生きていく上で必要な動作にも介助が必要
- 高度の痴呆症状がある
後遺障害2級1号(要介護)
判断能力の低下や情緒の不安定が著しいため、一人で外出できず、生活の範囲が自宅に限定されているものです。排泄や食事などの活動はできても、生命維持のためには家族からの声かけや監督を欠かせません。
こんな人が認定される
- 排泄や食事などの基本的な動作はできる
- 一人では外に出られず、周囲の目の届く範囲にいないと危ない
後遺障害3級3号
自宅周辺を一人で外出でき、生活範囲は自宅に限定されません。また、周囲の声かけや介助がなくても日常の動作をおこなえます。
しかし、記憶障害、注意障害、新しいことの学習能力、障害に対する自己認識、他者との円滑な人間関係維持に障害があり、一般的な就労能力がゼロもしくは難しい状態です。
こんな人が認定される
- 自宅周辺なら一人で外出でき、日常動作も独力でできる
- 社会行動障害が著しく働けない、もしくは働くことが非常に難しい
後遺障害5級2号
一般的な就労は、単純な繰り返し作業などに限定すれば可能です。
しかし、新しい作業の学習や環境変化が原因で問題が起こることもあり、一般人と比べて作業能力に著しい制限があります。職場の理解と援助無くしては働き続けることは難しいでしょう。
こんな人が認定される
- 繰り返し作業はできる
- 新しいことや環境の変化に適応しづらい
- 職場の理解や助けがないと就労は難しい
後遺障害7級4号
一般就労はできても、作業の手順が悪い、約束したことを忘れる、ミスが多いなどが見受けられます。こうした事情より、一般の人と同等の作業は見込めません。
こんな人が認定される
- 作業上のミスが目立ったり、物忘れをしたりする
- 一般の人と同等の仕事はできない
後遺障害9級10号
一般就労はできても、問題解決能力などに障害が残ってしまいます。作業効率や持続力などに問題が生じてしまうでしょう。
こんな人が認定される
- 一般就労はできても、作業効率や持続に難がある
- 問題が起こった時に解決する能力が低下している
後遺障害12級13号や14級9号
後遺障害12級13号や14級9号は、就労が制限されるほどの障害がみられない場合に認定される可能性があります。
後遺障害12級13号は、MRIやCTといった画像検査の結果で、他覚的な異常が認められる場合に認定される見込みです。一方の14級9号は、他覚的な異常は認められなくても、事故態様や治療の経緯、症状などから、高次脳機能障害に類すると医学的に説明できる場合に認定される可能性があります。
高次脳機能障害で後遺障害認定を申請する流れと症状固定時期
高次脳機能障害では、症状に応じて様々な後遺障害認定を受けられます。一方で、後遺障害認定を受けるためには申請手続きが必要です。
治療から後遺障害認定の申請手続きを経て、示談に至るまでの流れを説明します。重要な「症状固定」についても説明するのでお読みください。
治療とリハビリから症状固定まで
高次脳機能障害は、手術や薬剤投与などの治療よりも、主にリハビリテーションによって日常生活への適応を目指します。ただし骨折などの外傷を伴う場合は、先に外傷の治療を行い、その後に高次脳機能障害のリハビリテーションが始まるでしょう。
高次脳機能障害を完治させることは難しいとされています。しかし、早期にリハビリを開始することで症状の軽減や回復が見込めるため、気になる症状を詳しく伝えて、適切な治療とリハビリに取り組みましょう。
症状固定の診断
交通事故で高次脳機能障害については、後遺症が残ってしまう可能性が高いものです。
医師から「症状固定」の診断を受けた場合は、後遺症に関する後遺障害認定の手続きを行いましょう。症状固定とは、これ以上治療しても症状が改善しない状態のことをいい、高次脳機能障害では治療開始から症状固定の時期まで1年程度かかる場合もあります。
後遺障害等級認定の申請手続き
後遺障害認定の申請方法は、加害者側の任意保険会社に一任する方法「事前認定」と、被害者自らが加害者側の自賠責保険会社を経由して申請する「被害者請求」の2通りがあります。
どちらの申請方法でも、後遺障害等級認定を審査する機関は損害保険料率算出機構です。なお、高次脳機能障害は特定事案に分類され、専門家による自賠責保険(共済)審査会 高次脳機能障害専門部会で審査されるため、他のケガよりも審査に時間がかかります。
交通事故後の後遺症が、自賠責法で定められた「後遺障害等級」に該当すると認められることを、後遺障害認定といいます。後遺障害等級は1級から14級まであり、等級は「後遺障害慰謝料」や「逸失利益」の金額を左右します。
そのためまずは後遺障害認定を受けること、つぎに適切な等級で認定されることが大切です。
後遺障害申請の手続きや流れについて、もっと詳しく知りたい方は、関連記事『交通事故で後遺障害を申請する|認定までの手続きの流れ、必要書類を解説』を参考にしてください。
後遺障害等級認定後は示談交渉を開始
後遺障害等級認定の審査結果が通知され、その審査結果に納得がいったならば、相手の任意保険会社との示談交渉を始めましょう。
交通事故の場合、多くのケースで、加害者側の任意保険会社が損害賠償案(示談案)を作成して、被害者に提示してきます。
このとき相手の任意保険会社の起案はあくまで自社基準で損害を算定しており、増額の余地が残っていることが大半です。安易に示談せず、必ず弁護士に相談して妥当性を確かめてください。なぜなら、相手方の自賠責保険会社の基準も任意保険会社の基準も、弁護士が損害を算定する基準よりもずっと低額だからです。
せっかく後遺障害認定を受けられても、後遺障害等級に応じた賠償金額が低いと意味がありません。
交通事故の被害者に向けては、弁護士が無料相談を受け付けているケースも多いです。そういった機会を有効活用して、適正な慰謝料相場や増額見込みを聞いてみましょう。
なお、高次脳機能障害に対する後遺障害慰謝料は、後遺障害等級に応じておおよその相場があります。関連記事『高次脳機能障害の慰謝料と逸失利益|後遺障害等級別の賠償額と請求時の注意点』を読めば、高次脳機能障害に関する慰謝料相場や請求時の注意点がわかります。
【重要】後遺障害認定を受けるための3つのポイント
後遺障害認定を受けるためには、意識障害の有無と、事故から3ヶ月以内のMRI検査結果が重要です。それぞれのポイントについて、具体的に見ていきましょう。
意識障害について
高次脳機能障害は頭部外傷による意識障害が生じたあとに起こりやすいものと考えられています。以下のような症例がみられる場合、より慎重な検討が行われます。
- 半昏睡~昏睡で「目を開いたり、応答したりしない状況」が6時間以上継続した
- 健忘または軽度の意識障害が1週間以上継続した
こうした症状があった場合は、「後遺障害診断書」などの後遺障害認定の申請書類内にはっきりと記載してもらいましょう。
MRIなどの画像検査結果について
高次脳機能障害の後遺障害認定において、「事故による外傷後ほぼ3か月以内に完成する脳室拡大・びまん性脳委縮の画像所見」の有無が重要です。
そのため、受傷直後から3か月後にかけてMRI検査をおこない、後遺障害申請時の提出資料としましょう。レントゲン写真やCT画像では脳損傷を確認できないこともあるため、MRI検査がおすすめです。
なお、画像所見に限らず、医学的な観点から必要である検査と、後遺障害認定のために必要な検査は異なることもあります。そのため、医師の指示に従うことはもちろん、後遺障害認定のサポート実績が豊富な弁護士に相談して、必要な検査を確認しておくと良いでしょう。
家族による報告書
高次脳機能障害は、本人が障害に対して自覚が薄かったり、事故前の様子を知っている人でないと症状に気付けなかったりします。見過ごされやすい障害であることから、家族による報告書が重大な役割を持つのです。
高次脳機能障害は目に見えず、客観的な評価方法が確立していない場合もあって、家族の報告書が障害の内容検討の参考資料になりえます。
家族による報告書は後遺障害認定の申請をする段階で記入するため、日ごろから被害者の変化をメモして記録しておくとよいでしょう。
- 交通事故前後での被害者の変化
- 生活する上で生じている問題
- 被害者の就労状況
これらは、具体的なエピソードも含めて記録しておくことをおすすめします。
なお、被害者が学生ならば通学先に記載してもらう「学校生活の状況報告書」も重要な書類です。
後遺障害申請はやり直しができるとはいえ、認定結果が出るまでに時間もかかることから、より慎重かつ要領を得た申請が大切になります。弁護士に相談すれば、書類作成や検査のアドバイスも可能です。
高次脳機能障害と後遺障害に関するQ&A
交通事故で知的障害になることはある?
交通事故後の高次脳機能障害では、知的障害と似たような症状が残ってしまうことは十分あります。
ただし、一般的に発達期までに生じた知的機能の障害を知的障害ということ、高次脳機能障害の診断基準には脳損傷に起因していることが含まれている点があげられます。つまり、高次脳機能障害は発症原因が明らかなのです。
なお子供の頃の交通事故をきっかけに知的な発達に遅れが生じた場合には、知的障害に該当する場合もあります。
高次脳機能障害の後遺障害等級認定率は?
2016年度、自賠責保険(共済)審査会による審査を通して高次脳機能障害と認定された件数は2,951件で、そのうちの約25%は後遺障害9級と認定されました。
高次脳機能障害の認定状況
後遺障害等級 | 2016年度 |
---|---|
要介護1級 | 669件(22.7%) |
要介護2級 | 363件(12.3%) |
3級 | 297件(10.1%) |
5級 | 327件(11.1%) |
7級 | 554件(18.8%) |
9級 | 741件(25.1%) |
合計 | 2,951件 |
※自賠責保険における高次脳機能障害システムの充実について(報告書)参考
高次脳機能障害は見過ごされやすい障害で、なおかつ、後遺障害認定の申請をしても必ず認められるものではありません。
高次脳機能障害で後遺障害等級認定を受けたい方は、早めに弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
高次脳機能障害の後遺障害等級認定は弁護士に相談を!
交通事故によって高次脳機能障害をおってしまうと、日常生活や仕事に大きく影響を与えます。それは被害者本人だけでなく、生活を共にする家族や周囲の人間関係にも影響するものです。
交通事故による高次脳機能障害で後遺障害等級認定を考えている方は、適切な等級認定を受けるためにも弁護士への依頼を検討してみましょう。
弁護士に依頼すると、後遺障害認定に関して次のようなサポートを受けられます。
- 後遺障害認定に向けた提出書類の準備
- 後遺障害認定申請の提出書類の内容確認と修正
- 受けるべき検査のアドバイス
アトム法律事務所は、後遺障害等級認定の申請手続きの経験が豊富な弁護士が多数在籍しています。交通事故の被害者の方に向けた無料法律相談もおこなっているので、お気軽にお問い合わせください。
高次脳機能障害に関して、弁護士への相談や依頼を検討中であれば、以下の記事もお役立てください。弁護士に任せるメリットや裁判の事例がわかります。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了