会社役員の交通事故慰謝料・休業損害は?請求可否の判断基準や計算方法を解説
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原則として、会社役員という立場は、交通事故の慰謝料に影響しません。一方で、会社役員という立場は、交通事故の休業損害・逸失利益に影響します。
また、会社役員が交通事故に遭った場合、役員の休業などで会社に生じた損害についても加害者側に賠償請求できることがあります。
この記事では、会社役員という立場が慰謝料の金額に影響しない理由、会社役員の休業損害・逸失利益、会社から加害者に請求できる賠償金について詳しく解説しています。ぜひ最後までチェックしてください。
会社役員の慰謝料・休業損害・逸失利益は?
慰謝料は他の職業と同じように請求できる
会社役員であることが慰謝料の金額に影響することは、基本的にありません。
交通事故の慰謝料額は被害者の職業や収入ではなく、治療期間・後遺障害等級・家庭内での立場に応じて決まるからです。
算定方法の概要 | |
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入通院慰謝料 | 治療期間に応じて慰謝料が決まる |
後遺障害慰謝料 | 後遺障害等級に応じて慰謝料が決まる |
死亡慰謝料 | 家庭内の立場に応じて慰謝料が決まる |
ただし、例外的に会社での立場が慰謝料額に影響するケースもあります。
たとえば以下の裁判例では、死亡した被害者が将来会社を継ぐ立場にあったことを考慮し、慰謝料が増額されています。
単身者(男・31歳・会社員)につき、一人息子で父親の経営する会社を継ぐべき立場にあったことなどから、本人分2200万円、父母各300万円、合計2800万円を認めた
事故日平17.12.23 金沢地判19.8.31 自保ジ1771・21
※独身で扶養家族がいない場合の死亡慰謝料相場は2,000万~2,500万円(弁護士基準)
あくまでも例外的なケースであり、慰謝料増額を主張する場合は加害者側と揉める可能性も高いです。よって、慰謝料増額について心当たりの事由がある場合は、一度弁護士までお問い合わせください。
なお、慰謝料の具体的な計算方法は『交通事故の慰謝料の計算方法|正しい賠償金額がわかる』で解説しています。
休業損害・逸失利益は報酬内訳に労働対価分があれば請求できる
役員報酬には利益配当分と労働対価分があります。報酬の内訳が利益配当分のみの場合は休業損害・逸失利益は原則として請求できません。
しかし、役員報酬に労働対価分が含まれていれば、労働対価分についてのみ休業損害・逸失利益の請求が可能です。
- 利益配当分:労働の有無にかかわらず支払われるため、交通事故による休業や後遺障害などの影響で減額されることは原則ない。よって、休業損害・逸失利益の対象外。
- 労働対価分:実際に働いた分に対して支払われるため、交通事故による休業や後遺障害の影響などで減額される。よって、その減額への補償として休業損害・逸失利益を請求できる。
たとえば社外監査役や非常勤取締役、名目的取締役などが受け取る役員報酬は、ほとんどを利益配当分が占めています。たとえ休業しても利益配当分が減ることはなく減収は生じないため、休業損害・逸失利益は認められない可能性が高いでしょう。
一方、たとえば小規模経営の会社役員や、家族経営の会社役員などが受け取る役員報酬はほとんどを労働対価分が占めています。仕事を休むことで実際に減収が生じるため、休業損害・逸失利益が認められる可能性が高いでしょう。
会社役員に休業損害が認められた裁判例
実際の裁判例(東京地判平28.11.17)では、印刷機器の販売等を行っている会社の代表取締役の役員報酬について、代表取締役が単独で業務を行っていたとしてその全額を労働対価分とみています。
(略)EはAの一人会社であり,原告やG(原告ら夫婦の長男の妻。以下「G」という。)が経理事務等を手伝うほかは,A単独で印刷機器の販売等を行っていたことが認められる。かかる事実に照らすと,Aの役員報酬は全て労務提供の対価というべきであり,その基礎収入は1080万円とするのが相当である。
東京地判平28.11.17
会社役員が請求できるその他の損害賠償金
慰謝料、休業損害、逸失利益を含めた交通事故の主な損害賠償金を挙げると、以下の通りです。
後遺障害のない人身事故
- 治療関係費
入院費、治療費、通院交通費など - 入通院慰謝料
入通院により生じた精神的苦痛に対する補償 - 休業損害
交通事故を理由に休業した日の収入に対する補償
※原則として労働対価分のみ
後遺障害のある人身事故
- 治療関係費
- 入通院慰謝料
- 休業損害
※原則として労働対価分のみ - 後遺障害慰謝料
後遺障害が残ったことで、今後も受け続ける精神的苦痛に対する補償 - 後遺障害逸失利益
交通事故により後遺障害が残ったことで得られなくなった、将来の収入に対する補償
※原則として労働対価分のみ
死亡事故
- 死亡慰謝料
死亡事故の被害者とその遺族の精神的苦痛に対する補償 - 死亡逸失利益
交通事故により被害者が死亡したことで得られなくなった、将来の収入に対する補償
※原則として労働対価分のみ - 治療関係費*
- 入通院慰謝料*
*亡くなるまでに入通院期間があった場合に請求可能
会社役員の休業損害・逸失利益はどう計算する?
計算の基本となる「労働対価分」の算定方法
休業損害も逸失利益も、事故前の被害者の収入をもとに計算します。
会社役員の場合は先述の通り、収入(役員報酬)全体ではなくそのうち労働対価分のみが対象となります。
役員報酬のうちどれくらいが利益配当分でどれくらいが労働対価分なのか明確に決まっていないことも多いので、まずは労働対価分の判断方法を見ておきましょう。
役員報酬のうち労働対価分がどれくらいなのかは、一般的に次の項目を参考に判断されます。
- 被害者である当該役員の年齢・地位
- 当該役員やほかの役員の役員報酬額・職務内容
- 従業員の給与や職務内容
- 会社の規模・収益
- 同族会社であるかどうか
上記のような項目を参考にして、被害者がどれくらい労務提供していたのかを判断します。そのうえで、役員報酬のうち何割が労働対価分といえるのかが決まるのです。
しかし、労働対価分の判断は、被害者自身や加害者側の任意保険会社では非常にむずしいため、弁護士に確認することをおすすめします。
労働対価分の金額をめぐっては加害者側と争いになりやすい
役員報酬のうち何割を労働対価分とするかについては、示談交渉で争点になりやすいです。相手方に労働対価分の割合を主張できる資料を根拠として提示しましょう。
根拠として提示できる資料は、以下の通りです。
- 株主総会議事録
- 法人事業概況説明書
- 決算報告書
- 月次損益計算書
該当役員の労務提供がどの程度なのか実態が把握できなかった場合には、厚生労働省が公開している賃金センサス(賃金構造基本統計調査)の男女別平均賃金を参考にします。
会社役員の休業損害の計算方法
会社役員の休業損害は、以下の計算式から算定されます。
会社役員の休業損害
- 労働対価(=役員報酬-利益配当分)から算出した日額×休業日数
会社役員の逸失利益の計算方法
基本的な逸失利益の計算式は、以下の通りです。
逸失利益の計算式
- 役員報酬のうち労働対価分から算出した1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
- 役員報酬のうち労働対価分から算出した1年あたりの基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対するライプニッツ係数
逸失利益の具体的な計算方法については、『【逸失利益の計算】職業別の計算方法を解説!早見表・計算機つき』で解説しています。
計算式に出てくる各要素についても解説しているので、ご確認ください。
大まかな金額については、以下の計算機からも確認可能です。
会社に生じた損害も賠償請求できることがある
会社役員が交通事故に遭うと、役員が稼働できなくなることで会社にも損害が出たり、会社側から役員に金銭的支援をしたりすることがあります。
このような場合、会社も交通事故の加害者に対して賠償請求できることがあるので、具体的にどのような賠償金を請求できるのか見ていきましょう。
会社役員の休業で会社に生じた損害
小規模企業などで会社役員もプレイヤーとして働いていた場合には、会社役員の休業によって業務に支障が生じ、次のような影響が出る可能性があります。
- 会社役員の休業による売上の減少
- 会社役員の休業を補うための外注費の発生
こうした損害は、会社から加害者側に請求可能です。
なお、小規模会社で会社役員が一般社員としての役割も兼ねていた場合には、個人事業主として休業損害が計算されることもあります。
個人事業主の休業損害については『交通事故の慰謝料・個人事業主編|休業損害の計算方法は?休業日数や経費の考え方』の記事で解説していますので、参考にしてください。
休業損害を会社役員として請求すべきか、個人事業主として請求すべきかわからない場合には、弁護士にご相談ください。
会社が支援した役員の治療費・生活費
会社役員の休業中、会社が治療費や生活費の支援として、役員報酬と同等の金額を支払うことがあります。
治療費などのお金は、本来なら加害者側が損害賠償金として被害者に支払うべきです。それを会社が代わりに支払っていたことになるため、この費用は会社から加害者側に請求できます。
会社が貸付けとして役員に支払った報酬
会社役員が交通事故で休業している間も、会社から役員報酬が満額支払われていた場合には、原則として休業損害や逸失利益は認められません。
しかし、会社役員が休業損害を回収するまでの貸し付けとして支払われたものなのであれば、会社から加害者側に休業損害を請求できる可能性があります。
会社役員が交通事故にあったら弁護士に相談すべき理由
会社役員特有の事情が絡む費目は加害者側ともめやすい
会社役員が交通事故被害に遭った場合、休業損害・逸失利益・会社に生じた損害の請求については被害者が会社役員である場合特有の事情が反映されます。
被害者が他の一般的な職業・肩書の場合とは違うイレギュラーな扱いが生じるため、示談交渉時に加害者側と揉めやすくなるのです。
たとえば休業損害・逸失利益について、加害者側は以下のような主張・提示をしてくることがあります。
- 会社役員なら労働対価分はないので損害は生じない、と一方的に判断して休業損害や逸失利益の請求を否定する
- 労働対価分の金額を低く算定したうえで休業損害・逸失利益の金額を提示する
- 休業中も支払われた利益配当分の金額が高額であるため、休業損害は必要ないと主張する
会社に生じた損害についても、「当該役員の休業によって生じた損害とは言い切れない」などとして補償を認めなかったり、わずかな金額しか認めなかったりする可能性があるのです。
このような加害者側の主張を覆すには、過去の裁判例や専門知識を用いて反論しなければなりません。しかし、先述の通り被害者が会社役員である場合特有のイレギュラーな事案であるため、通常の事案よりもさらにコアな専門知識が必要です。
よって、会社役員が交通事故被害に遭った場合は、弁護士への依頼を検討することをおすすめします。
慰謝料が高額になる可能性が高まる
被害者が会社役員の場合に限りませんが、示談交渉において加害者側は、慰謝料やその他の賠償金についても低く提示してくる傾向にあります。
とくに交渉の相手が加害者側の任意保険担当者である場合、任意保険会社内の方針として「被害者側が弁護士を立ててこない限り、わずかな増額にしか応じない」としていることが多いです。
これでは増額の余地を残したまま示談を成立させてしまうことになるため、十分な金額を得るためにも弁護士を立てることが重要です。
交通事故の慰謝料計算機を使うと、弁護士が増額交渉時に目安とする慰謝料や逸失利益の相場がわかります。目安額を早く知りたい方は、自動計算で便利な慰謝料計算機をぜひ、お使いください。
ただし、慰謝料計算機で計算される結果は個別の事情を細かく反映したものではないので、具体的な金額は弁護士にお問い合わせください。
アトム法律事務所では、すべての損害が確定した段階(ケガの完治後、あるいは後遺障害認定終了後など)であれば無料相談でも損害賠償金の算定が可能です。
自身の保険の「示談代行サービス」があれば弁護士は不要?
交通事故の示談交渉では、自身が加入している任意保険の「示談代行サービス」を使うこともできます。
示談交渉に慣れた保険担当者に交渉を任せられ、なおかつ費用がかからない点は魅力ですが、以下の点には注意してください。
- 交渉スキルや知識は弁護士の方が豊富な傾向にある
- 示談代行サービスでしてもらえるのは示談交渉のみだが、弁護士には示談交渉以外にも、さまざまな手続きやトラブル対処を任せられる
- 示談代行サービスを使い被害者側・加害者側の交渉人がともに保険会社となった場合、これまで・これからの互いの関係性を考慮し交渉が甘くなることがある
弁護士を立てるメリットや示談交渉に至るまでに生じやすいトラブルについては、以下の関連記事で解説しています。
また、弁護士費用は弁護士費用特約を使うことで自己負担なしにすることが可能です。弁護士費用特約がない場合でもアトム法律事務所なら着手金が原則無料なので、費用の負担を軽減させられます。
いずれにせよ、会社役員の休業損害・逸失利益や会社に生じた損害の算定は無料相談でも可能なので(※)、まずはお気軽に電話・LINEからご相談ください。
※すべての損害が出そろっている場合
関連記事
- 弁護士を立てるメリット:交通事故を弁護士に依頼するメリットと必要な理由|弁護士は何をしてくれる?
- 加害者側の保険会社との間で生じやすいトラブル:交通事故被害者と保険会社のかかわり
- 弁護士費用特約:交通事故の弁護士費用特約とは?メリット・使い方・使ってみた感想を紹介
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なお、後ほどアトム法律事務所の実績・口コミも紹介しているので、相談・依頼をご検討される際の参考にしてみてください。
アトム法律事務所の実績
アトム法律事務所には、交通事故事案に強い弁護士や示談交渉経験の豊富な弁護士が多数在籍しております。
示談交渉での示談金増額実績も豊富ですので、その一部を紹介します。
傷病名 | 右手骨折、右母指の機能障害 |
後遺障害等級 | 10級7号 |
獲得金額 | 609万円→891万円 |
傷病名 | 首の痛み、右手の痺れ、腰の痛み |
後遺障害等級 | 併合14級 |
獲得金額 | 200万円→361万円 |
傷病名 | 腰椎圧迫骨折、脊柱変形障害 |
後遺障害等級 | 11級7号 |
獲得金額 | 1256万円 |
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アトム法律事務所の口コミ評価
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まずは無料相談から、お気軽にご連絡ください。お待ちしております。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了