急性硬膜外血腫で後遺症は残る?後遺障害等級と慰謝料相場をつかむ

交通事故で頭部を打ち付けると、様々なケガのリスクがあります。こうした外傷によって引き起こされた急性硬膜外血腫について、後遺症はどんなものがあるのか、後遺障害認定は受けられるのか、慰謝料はいくらが妥当かを解説していく記事です。
急性硬膜外血腫による脳損傷による後遺障害は様々に考えられますが、この記事では、「高次脳機能障害」「遷延性意識障害」「外傷性てんかん」の3つに絞ってお伝えします。
急性硬膜外血腫の症状と後遺症
急性硬膜外血腫とは、交通事故で頭部を打ち付けたことで頭蓋骨を損傷してしまい、頭蓋骨と硬膜とのあいだに血が溜まる状態をいいます。

急性硬膜外血腫の症状
急性硬膜外血腫の症状は、意識障害、頭痛、嘔吐、意識障害、けいれん、顔面麻痺、半身麻痺、言語障害、視覚障害、歩行障害などであらわれます。
急性硬膜外血腫の特徴に「意識清明期」があげられます。意識清明期とは、自覚症状に乏しい時期のことです。頭蓋内に出血がたまるまでは症状を感じづらく、受傷から数時間、なかには24時間近く経ってから症状が出てくることもあります。
急性硬膜外血腫は、血腫量が軽度でなおかつ増大傾向がないときには様子を見ます。しかし、血腫が急激に増大した際には開頭手術も必要です。早期に治療しなければ生命に関わる病気なので、頭部外傷を起こした場合は、早急に医療機関を受診することが大切です。
急性硬膜外血腫の後遺症
急性硬膜外血腫の治療が成功しても、後遺症が残ってしまう可能性があります。
後遺症の程度は、血腫の大きさや位置、被害者の年齢や健康状態で様々です。 後遺症としては、意識障害や高次脳機能障害が残ることがあります。具体的な後遺症は以下のとおりです。
- 麻痺
- 言語障害
- 認知症
- 歩行障害
- 記憶障害
- 注意力障害
- 集中力障害
- 学習障害
- 性格の変化
急性硬膜外血腫の後遺障害等級
急性硬膜外血腫によって脳が損傷を受けると、様々な後遺障害が残る可能性があります。ここからは脳損傷の結果、高次脳機能障害、遷延性意識傷害、外傷性てんかんが残った場合の後遺障害等級を示します。
高次脳機能障害|意識障害、記憶障害、性格の変化など
高次脳機能障害では、認知・人格・行動面での変化がみられます。失語症、記憶障害、失行症、半側身体失認など様々な症状がみられます。そのため症状に応じて、後遺障害等級も様々です。
等級 | 認定基準 |
---|---|
1級1号※ | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2級1号※ | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
※要介護
高次脳機能障害の症状や、後遺障害等級認定される後遺症、慰謝料相場について知りたい方は以下の関連記事を参考にしてください。
遷延性意識障害|意識障害が残った場合
遷延性意識障害は非常に重い意識障害です。眼球は動かせても認識できなかったり、自力で移動ができなかったり、意思疎通ができなかったりします。こうした状態から生活面での介助が必須です。そのため後遺障害別表1級1号、2級1号という重大な後遺障害として認定を受けられる見込みです。
等級 | 症状 |
---|---|
1級1号※ | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2級1号※ | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
※要介護
遷延性意識障害は植物状態ともいわれ、ご本人の意思で身体を動かしたり、意思疎通を図ったりすることが困難な状態です。関連記事『交通事故で植物状態(遷延性意識障害)になった場合の後遺症と賠償金』も参考にして、賠償面でも適切な対応を取っていきましょう。
またご家族が重大な障害が残ってしまい、相手の保険会社の対応も含め何をすべきか分からないという方は、ひとまず弁護士に今後の流れを聞いてみることもおすすめします。
外傷性てんかん|急な転倒や発作
外傷性てんかんの後遺障害等級は、てんかんの起こる頻度や程度に応じて後遺障害5級2号、7級4号、9級10号、12級13号の認定を受けられる可能性があります。
等級 | 症状 |
---|---|
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの (1ヶ月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が転倒する発作等である) |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの (転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1か月に1回以上ある) |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの (数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されている) |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの (発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認める) |
急性硬膜外血腫による賠償金
急性硬膜外血腫による賠償金は、後遺障害部分と治療部分にわけて考えましょう。後遺症が重い場合、高額な賠償金が認められることがあります。
後遺障害への賠償金|後遺障害慰謝料、逸失利益、介護費用など
後遺障害が残った場合には、後遺障害慰謝料、逸失利益、介護費用を請求できます。
- 後遺障害慰謝料:後遺障害が残ったという精神的苦痛に対する金銭
- 逸失利益:後遺障害によって労働能力が低下して生涯収入が減ったことへの補てん
- 介護費用:おむつ代、介護サービス利用費、車椅子代、自宅のリフォーム代など
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級に応じて一定の相場が設けられています。
等級 | 弁護士 |
---|---|
1級※ | 2800万円 |
2級※ | 2370万円 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
※要介護
たとえば急性硬膜外血腫で高次脳機能障害が残り、後遺障害6級認定を受けた場合の後遺障害慰謝料相場は1180万円です。もっとも弁護士が算定した場合の金額なので、相手の任意保険会社から提示される金額はもっと低額にとどまると考えてください。
近親者固有の慰謝料
被害者が死亡したり、後遺障害1級・2級など重度の等級に認定された場合は、被害者の配偶者・子・父母にも近親者固有の慰謝料が支払われることがあります。
後遺障害部分の争点
逸失利益や介護費用は、相手方と揉めやすい部分です。たとえば逸失利益については、被害者の事故前年収、年齢、労働能力喪失率などを加味して計算します。
相手の任意保険会社は「その症状だと就労には影響がない」「その年齢まで存命しないだろう」などと言って逸失利益の支払いを渋ってくる可能性があるでしょう。
介護費用についても「そもそもその費用は必要ない」として却下してくる場合があります。
請求のすべてが通るとは限りませんが、相手からの心無い言葉に傷ついたり、不当に低い金額で示談を迫られたりと、被害者やご家族にとって不利な状況を避けるためにも弁護士に依頼してください。
逸失利益や介護費用の請求については、下記の関連記事で詳しく解説しています。
治療中の損害への賠償金|治療費や入通院慰謝料など
急性硬膜外血腫の治療にかかった治療費、仕事を休んで収入が減ったことへの休業損害、入通院治療を強いられた精神的苦痛に対する慰謝料などがあげられます。
- 治療費:手術費用や入院費、リハビリテーション費用など
- 休業損害:急性硬膜外血腫の治療により仕事を休んだことでの減収の補てん
- 入通院慰謝料:治療中に負った精神的苦痛を緩和するための金銭
入通院治療に関しては、入院や通院期間をベースに慰謝料を算定します。相手の保険会社が提案してくる金額はあくまで「相手の算定基準」に過ぎません。
弁護士であれば、裁判を起こした際に認められる金額で算定し請求します。示談段階でも裁判で認められる水準に近づけるように増額交渉可能です。
損害賠償金の内訳・内容を知りたい方は、詳しく解説した記事『交通事故の損害賠償請求とは?賠償金の費目範囲や相場・計算方法を解説』も参考にしてください。
入通院慰謝料の相場表
たとえば、弁護士が算定する入通院慰謝料の相場を表に示します。

この表では、入院月数と通院月数の重なった部分の数字が入通院慰謝料の相場です。たとえば入院2ヶ月、通院5ヶ月の入通院慰謝料相場は173万円です。一方で、入院なし、通院5ヶ月では105万円となります。
入院しているときや通院期間が長期にわたると、入通院慰謝料も高額になるでしょう。
ただし入通院慰謝料表については、弁護士が算定する時の基準額です。相手の保険会社はもっと低水準の提案を受けることになりますので、示談書にサインをする前に、弁護士に妥当性を確認してください。
入通院慰謝料の相場は自動計算ツールの「慰謝料計算機」の利用をおすすめします。個別の過失割合などは反映できませんが、おおよその相場を簡単に把握できる無料の計算機です。
急性硬膜外血腫の慰謝料請求に関する判例
急性硬膜外血腫によって脳が損傷すると、重篤な後遺障害が残ったり、死亡に至ったりすることもあります。ここからは交通事故で急性硬膜外血腫を負った被害者に対して、どういった金額の損害が裁判で認められてきたのかを解説します。
急性硬膜外血腫などによる高次脳機能障害の慰謝料事例
交通事故で急性硬膜外血腫の傷害を負い、高次脳機能障害となったときの判例としては以下のようなものがあります。
高次脳機能障害で後遺障害9級10号に認定された裁判例
東京高判令2・7・22(令和2年(ネ)1003号)
被告の大型貨物自動車が横断歩道を青信号に従って歩行中の原告に衝突し、原告が左側頭部急性硬膜外血腫などの傷害を負った事故。
裁判所の判断
「…高次脳機能障害の後遺障害の程度に照らすと,後遺障害慰謝料は,690万円を相当…」
東京高判令2・1・27(平成30年(ワ)231号)
- 失語症などを伴う高次脳機能障害について9級10号と認定
- 原告は早朝にドリルをしたり、朝早く出勤したりと努力により減収を防いでいた
- 後遺障害慰謝料として690万円、逸失利益として1539万3450円を認定
損害賠償額
2808万9966円
急性硬膜外血腫などによる遷延性意識障害の慰謝料事例
急性硬膜外血腫の傷害を負い、遷延性意識障害となったときの判例としては以下のようなものがあります。
遷延性意識障害で後遺障害1級1号に認定された裁判例
東京地判平27・9・25(平成25年(ワ)30115号)
信号機のない交差点で自転車同士が衝突し、原告は急性硬膜外血腫などの傷害を負い、遷延性意識障害となった。
裁判所の判断
「…後遺障害慰謝料は3000万円と認めるのが相当…」
東京地判平27・9・25(平成25年(ワ)30115号)
- 原告の麻痺、意識障害などについて1級1号が認定された
- 被告には交差点前で一時停止せず、前方注視しなかった過失がある
- 過失は原告:被告=5:95
- 原告の子について、固有の慰謝料各200万円を認定
- 被告が被害弁償しなかったことが不誠実として、傷害慰謝料の増額自事由とした
損害賠償額
4075万3718円
この事故では、被害者側も一時停止をしていなかったとして過失5%が認定されています。
交通事故の過失割合は、損害額算定に直結する重要な要素です。交通事故の過失割合を詳しく知りたい方や相手方と争っている方は、関連記事も参考にしてください。
急性硬膜外血腫や肺挫傷による死亡事故の慰謝料事例
急性硬膜外血腫などの傷害を負い、被害者が死亡した場合の判例としては以下のようなものがあります。
急性硬膜外血腫により死亡した裁判例
東京地判平27・5・20(平成26年(ワ)19136号)
信号機により交通整理の行われている交差点付近で、被告の右折車両と衝突した自転車に乗っていた原告が急性硬膜外血腫や肺挫傷などの傷害を負い、その後死亡した。
裁判所の判断
「死亡慰謝料…本件に顕れた一切の事情に照らし,2000万円を相当と認める…」
東京地判平27・5・20(平成26年(ワ)19136号)
- 被告は前方を注視する義務を怠った
- 原告の傷害慰謝料(44日間の入院)として90万円を認定した
- 近親者固有の慰謝料として妻200万円、子100万円を認定した
損害賠償額
3175万2260円
被害者は80歳代の高齢者ではありましたが、年金の支払金額を元に死亡逸失利益の算定が行われました。
自転車は身体を守る車体がないため、重大な事故につながる傾向があります。大事な家族を奪われたことに対して、適切な賠償を請求していかねばなりません。死亡事故のご遺族に向けた関連記事『死亡事故の慰謝料相場と賠償金の計算は?示談の流れと注意点』もあわせてお読みください。
急性硬膜外血腫の賠償金請求は弁護士に任せよう
弁護士であれば、被害者の「代理人」として相手方との交渉が可能です。
- 交渉や裁判の経験が豊富である
- 不当な要求に屈せず、被害者の利益の最大化を図る
- 弁護士に任せることで賠償金増額につながりやすい
急性硬膜外血腫というケガは、軽度で済めば後遺症は残りません。しかし程度によっては非常に重大な後遺症になるものです。適正な後遺障害等級の認定を受けたい、損のない賠償金をもらいたいという方は、一度弁護士に相談してみてください。
弁護士への無料法律相談窓口のご紹介はこちら
アトム法律事務所では頭部を怪我して硬膜外血腫を負った方を始め、交通事故でケガをした方やご家族に向けた無料の法律相談を受け付けています。まずは下記よりご相談の予約をお取りください。
アトム法律事務所の特徴
- 相談料は無料、着手金も原則無料
- 弁護士費用は後払い制、依頼時には原則費用負担ゼロ
- 全国の交通事故に対応
- 交通事故の損害賠償請求の実務経験が豊富
依頼後の弁護士費用について、アトム法律事務所の「交通事故の弁護士費用|相談無料・着手金無料」ページをご覧いただくか、法律相談にて弁護士に直接お問い合わせください。その際には、利用できる弁護士費用特約の有無を確認しておいていただくとスムーズです。
弁護士費用特約とは、保険会社が弁護士費用を代わりに支払ってくれるという特約です。多くの特約は法律相談料10万円、弁護士費用300万円を上限としているため、損害賠償請求額しだいでは弁護士費用のすべてをカバーできることもあります。
もっとも急性硬膜外血腫により重大なケガや死亡につながった場合には、損害賠償請求額が数千万円にのぼることもあるでしょう。その際は弁護士費用特約の上限額を超えた分について、被害者側で支払うことになります。
いずれにせよ、損害賠償請求額がいくらになるのかを弁護士に見積もってもらわないことには、弁護士費用の概算はわかりにくいものです。
- 損害賠償請求額を知りたい(ご相談のタイミングによって算定できないこともあります)
- 後遺障害についてもっとわかりやすく説明してほしい
- セカンドオピニオンとして意見を聞いてみたい
正式な依頼と無料相談は別なので、ご相談イコール即依頼と考えず、まずはお問い合わせください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了