交通事故のびまん性軸索損傷とは?後遺障害認定や慰謝料も解説

交通事故でびまん性軸索損傷を負った場合、後遺障害として認定される可能性があります。
びまん性軸索損傷の後遺障害には、遷延性意識障害、高次脳機能障害などがあり、これらの後遺障害が生じると、慰謝料など被害者が受け取ることができる損害賠償金(示談金)は高額になるでしょう。
そのため、慰謝料を含めた損害賠償金について、適切な金額を得ることが大切となってくるのです。
びまん性軸索損傷により後遺障害が生じた場合の損害賠償請求については、弁護士に相談することをおすすめします。
びまん性軸索損傷の基礎知識

びまん性軸索損傷とは?
びまん性軸索損傷(Diffuse Axonal Injury、DAI)とは、脳への強い衝撃(外力)で発生する、脳内全体の神経細胞(ニューロン)から伸びる突起(軸索)が切れたり伸びたりする外傷性脳損傷の1つです。
外傷性脳損傷は、大きく分けて、脳挫傷などの局所性脳損傷とびまん性軸索損傷などのびまん性脳損傷の2つに分類されます。
「びまん」は「一面に広がる」という意味なので、びまん性軸索損傷は局所的でなく、広範囲に脳細胞の軸索が損傷している状態を指します。
びまん性軸索損傷の症状
びまん性軸索損傷では、神経細胞間の情報信号を伝えるための神経線維(軸索)が断裂するため、脳内において上手く情報を伝達できない状況が生じます。
そのため、外傷直後から意識障害が生じることが多いです。なお、外傷直後から意識障害が生じることが多いのは脳震盪の症状と共通していますが、急性期の意識障害の長さ(軽度のケースでも6時間以上の意識消失が生じ、重度のケースでは昏睡状態が24時間以上続き、脳幹損傷を伴う)を参考に、びまん性軸索損傷と脳震盪をスクリーニングします。
そして、意識が回復したとしても、認知障害(記憶力障害や注意障害、集中力低下、遂行機能障害)、行動障害、人格変化(感情コントロールができなくなるなど)、自律神経の乱れ、運動機能障害(四肢麻痺や片麻痺、筋肉の硬直)、失行(しっこう)などさまざまな症状が生じる可能性があり、重症度によっては日常生活に支障をきたすこともあります。
びまん性軸索損傷の後遺症
びまん性軸索損傷の後遺症として、遷延性意識障害(植物状態)や、精神症状(高次脳機能障害による記憶障害・失認症・言語障害)などを発症することがあります。
これらの後遺症が後遺障害として認められれば、後遺障害慰謝料・逸失利益の請求が可能です。
それぞれの後遺症について、詳しく解説します。
遷延性意識障害
遷延性意識障害とはいわゆる植物状態のことで、3ヶ月以上、特定の要件に該当する強い意識障害が続きます。
交通事故後に遷延性意識障害となった場合には、損害賠償請求を含め家族がさまざまなことを行う必要があります。詳細については、下記の関連記事をご参考にしてください。
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高次脳機能障害
高次脳機能障害とは、脳の記憶や思考、判断などの機能に障害が出る状態です。
具体的な症状としては、物忘れが激しくなったり妄想や嘘が多くなったりする記憶障害、物事を認識する能力が低下する失認症、言葉が出なくなったり聞いた言葉を理解できなくなったりする言語障害などが挙げられます。
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びまん性軸索損傷の原因
びまん性軸索損傷の原因は、頭部外傷です。
たとえば、交通事故で頭を強く打ち付けたりすると、頭蓋骨内の脳に急激な回転性の圧力が加わります。その結果脳が激しく振れ、脳組織の軸索が伸びて損傷してしまうのです。
なお、びまん性軸索損傷をすると、脳内において点状出血(毛細血管の破裂)が生じ、脳室内出血や外傷性くも膜下出血等を伴うことが多いです。さらに、交通事故での頭部外傷後は、びまん性軸索損傷だけでなく、頭蓋骨骨折や顔面骨折を伴うケースも多いです。
また、頭部を直接的に強打していなくても、頭が揺さぶられることでびまん性軸索損傷が生じることもあります。
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びまん性軸索損傷の治療法
現代の医学において、びまん性軸索損傷に対する直接的で有効な治療法はありません。
その他の頭部外傷で行われる治療と同じように、急性期には、集中治療室で呼吸や循環の安定、頭蓋内の脳圧をコントロールするなどの全身管理を行い、脳の回復を待つことになるでしょう。
その後は、早期からリハビリテーションを行うことが神経機能改善に効果的と言われています。
なお、近時は再生医療の研究が進んでおり、将来的には損傷した軸索を修復できる可能性もあります。
びまん性軸索損傷で後遺症が残った時にすべきこと
後遺障害認定を受ける|慰謝料請求のために必要
びまん性軸索損傷となり、完治せずに後遺症が残存した場合には、後遺障害認定を受けましょう。
後遺障害認定により「後遺障害等級」を獲得すると、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求できるようになります。
- 後遺障害慰謝料
交通事故により後遺障害が残ったことで生じる、精神的苦痛への補償 - 逸失利益
後遺障害による影響で減ってしまう、生涯収入への補償
認定申請のためには、医師に後遺障害診断書を作成してもらい、必要書類とともに調査機関である自賠責保険会社への書類の提出が必要です。
申請方法には、加害者側任意保険会社に申請を任せる事前認定と被害者本人が申請する被害者請求の2つがあります。両者を比較すると、事前認定には手続きが楽というメリットが、被害者請求には認定に有利な資料を被害者側で精査して提出できるというメリットがあります。
なお、高次脳機能障害の場合、通常必要となる書類に加えて、日常生活状況報告書という書類も作成・提出が必要です。
びまん性軸索損傷で後遺障害認定されるためのポイント
びまん性軸索損傷で後遺障害認定を受けるには、精度の高い画像検査を受けること、受傷初期から定期的に画像検査を受けることが重要です。
後遺障害認定では、後遺障害の存在・程度を客観的・医学的に立証する必要があります。
しかし、びまん性軸索損傷は、大脳皮質には衝撃による明確な異常が認められないことが多く、受傷が広範囲に及ぶため受傷部位の特定が困難であるという特徴があります。
そのため、一般的なCT検査で画像所見が見つかりにくいため、脳内部の軟部組織の微細な変化の描出に優れたMRI検査の拡散強調画像(DWI)やT2強調画像で、脳内の白質部分の微小出血(点状出血)が検出できないかなど異常の有無を発見すべきというのが注意点です。
また、慢性期(受傷後3ヶ月程度経過した時期)に脳萎縮(脳室拡大)が確認できるかも、後遺障害認定のポイントとなります。
受傷直後と脳萎縮が始まってからの画像とで変化を証明できるよう、受傷初期から定期的に画像検査を受けるようにしましょう。
ただし、こうした対策をしても適切な後遺障害認定を受けられるとは限りません。後遺障害認定にあたっては、過去の事例や専門知識に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
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びまん性軸索損傷で認定されうる後遺障害等級
びまん性軸索損傷による後遺障害で認定されうる後遺障害等級は以下のとおりです。
びまん性軸索損傷で認定されうる後遺障害等級
等級 | 認定基準 |
---|---|
1級1号※ | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2級1号 ※ | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
※別表1
1級1号の具体例
- 重篤な高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作(食事・入浴・用便・更衣等)に常時介護を要する
- 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要する
2級1号の具体例
- 重篤な高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作(食事・入浴・用便・更衣等)に随時介護を要する
- 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とする
- 日常生活動作は一応できるが、著しい判断力の低下や情動の不安定などにより、日常の生活範囲は自宅内に限定され、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とする
3級3号の具体例
記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの
5級2号の具体例
新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題があるため、一般人に比較して作業能力が著しく制限され、単純作業などに労務が限定されるもの
7級4号の具体例
作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの
9級10号の具体例
問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるため、社会通念上、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
12級13号の具体例
MRIなどによる脳損傷の他覚的所見が認められる
14級9号の具体例
MRIなどによる他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測できる
びまん性軸索損傷の慰謝料相場は?
びまん性軸索損傷の後遺障害慰謝料の相場
びまん性軸索損傷の後遺症が後遺障害として認定された場合に受け取れる後遺障害慰謝料相場の目安は等級別に以下のとおり定められています。
後遺障害慰謝料の相場
等級 | 慰謝料額 |
---|---|
1級(要介護) | 2,800万円 |
2級(要介護) | 2,370万円 |
3級 | 1,990万円 |
5級 | 1,400万円 |
7級 | 1,000万円 |
9級 | 690万円 |
12級 | 290万円 |
14級 | 110万円 |
たとえば、びまん性軸索損傷で遷延性意識障害が残り、後遺障害1級に認定された場合は、2,800万円の後遺障害慰謝料が認められるでしょう。
また、びまん性軸索損傷により高次脳機能障害が残り、後遺障害2級に認定された場合は、2,370万円程度の後遺障害慰謝料が認められます。
びまん性軸索の入通院慰謝料の相場
交通事故によりびまん性軸索損傷となった場合には、後遺障害慰謝料とは別に、治療のために入院や通院したことで生じる精神的苦痛に対する慰謝料についても請求することが可能です。
このような慰謝料を入通院慰謝料といいます。
入通院慰謝料は入院期間や通院期間から算出されます。具体的には以下の表のとおりです。

びまん性軸索損傷で請求できる慰謝料以外の費目
加害者側に対する請求を行う際には、慰謝料以外の損害項目についても請求を行いましょう。
交通事故において請求できる慰謝料以外の損害項目は、主に以下のようなものとなります。
交通事故の被害者が請求できる損害
- 治療関係費
治療のために必要となった投薬代・手術代・入院費用・通院交通費など - 休業損害
治療のために休業したため生じた減収に対する補償 - 逸失利益
後遺障害により生じる将来の減収(労働能力の喪失)に対する補償 - 物的損害
交通事故により生じた自動車や自転車の修理費用や代車費用など
びまん性軸索損傷で適切な慰謝料額を得るポイント
びまん性軸索損傷で適切な慰謝料額を得るには、加害者側に対してしっかり増額交渉していくことが重要です。
交通事故の慰謝料額は、加害者側との示談交渉で決められます。この際、加害者側はここで紹介した相場よりも低い慰謝料額を提示してきます。
この記事で紹介した慰謝料相場は「過去の判例に沿った基準(弁護士基準)」のものですが、加害者側は「国が定めた最低限の基準(自賠責基準)」や「自社独自の基準(任意保険基準)」などの支払基準を適用して慰謝料を算定するからです。

被害者が増額交渉をしても加害者側の任意保険会社がすんなり受け入れることは期待できません。
弁護士基準の金額は、本来裁判所で認められうるもの(そのため、裁判基準ともいいます。)であり、示談交渉時点で専門家ではない被害者が主張しても、説得力がないとされてしまうのです。
しかし、弁護士を立てれば示談交渉段階でも弁護士基準に近い慰謝料額の獲得が期待できます。
先述の通り、びまん性軸索損傷は後遺障害認定の対策も難しい傾向にあるので、認定対策も含めてまとめて弁護士に任せることがおすすめです。

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弁護士に相談するメリット
びまん性軸索損傷となった場合に適切な金額の慰謝料を得るためには、弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士に相談・依頼を行うことで、以下のようなメリットが得られます。
- 適切な後遺障害等級認定を得るためのサポート
- 示談交渉の代理
- 根拠のある増額交渉
弁護士は、損害賠償請求の手続きをサポートし、適切な慰謝料の獲得を支援します。
弁護士に相談するなら無料の法律相談から
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相談の際に費用が気になる方は、無料相談を行っている弁護士の相談を受けることをおすすめします。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了