橈骨遠位端骨折の後遺症は?認定され得る後遺障害等級と請求できる慰謝料相場

この記事でわかること
交通事故で橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)を負い、後遺症に悩んでいる方へ。
後遺症による慰謝料請求や後遺障害認定について、どのように進めればよいかお悩みではないでしょうか。
橈骨遠位端骨折を負うと、手首の可動域制限、偽関節・変形、痛み等の後遺症が残りやすいです。後遺症については、等級が認定されれば、賠償金の増額につながります。
この記事では、橈骨遠位端骨折の基礎知識や症状、治療方法、後遺症の補償(例:慰謝料)などについて、交通事故に強い弁護士の視点から詳しくご紹介します。
交通事故で生じる橈骨遠位端骨折とは?
橈骨遠位端骨折とは?

橈骨遠位端骨折とは、橈骨(とうこつ)の遠位端(えんいたん)の骨折です。
「橈骨」とは、肘から手首の間にある2本の骨のうち、親指側にある太いほうの骨のことです。
「遠位端」とは、手首に近い側の端の部分を指します。
橈骨遠位端骨折は骨折の仕方で大きく、関節外骨折と関節内骨折(単純骨折型・粉砕骨折型)に分類されます。
橈骨遠位端骨折の症状・合併症状
橈骨遠位端骨折の症状としては、手首の腫れや痛み、変形が生じます。
手首は繊細な関節であるため、骨折を放置したりずれたまま治癒してしまうと、手首の動きが制限されたまま残ることがあります。
橈骨遠位端骨折の合併症状
橈骨遠位端骨折は、以下のような合併症状があらわれる可能性があります。
- 正中神経の損傷
- 親指の伸筋腱断裂
- プレート固定による屈筋腱断裂
- 尺骨突き上げ症候群
橈骨の短縮により、尺骨頭部の疼痛・轢音が生じる症状 - 複合性局所疼痛症候群(CRPS)
慢性的な痛み、浮腫、皮膚温の異常等の症状をともなう慢性疼痛症候群
橈骨遠位端骨折にともない、以下のような骨折をすることもあります。
- 尺骨茎状突起骨折(しゃっこつけいじょうこっせつ)
前腕の小指側にある細い骨(=尺骨)の、手首側の端(=遠位端)にある「突起」の骨折 - 手根骨骨折(しゅこんこっせつ)
手関節にある靭帯で結合された8つの骨(豆状骨・三角骨・月状骨・舟状骨・有鈎骨・有頭骨・小菱形骨・大菱形骨)のいずれかの骨折
橈骨遠位端骨折だけではなく、手首の骨折の後遺症全般を知りたい方は、関連記事『交通事故で手首骨折・手のひら骨折!後遺症は残る?後遺障害認定と慰謝料』の記事も参考にしてみてください。
橈骨遠位端骨折の検査
診断には、基本的には、レントゲン検査(正・側面の2方向撮影)が用いられます。骨折の状態によってはCT検査が行われることもあります。
TFCC損傷が疑われる場合など、より精密な検査が必要なときには、MRI検査の早期実施も必要となります。
橈骨遠位端骨折の治療法
一般的に、橈骨遠位端骨折による骨のずれ(転位)がほとんどない場合、ギプスによる固定を行います。
固定期間は骨折の程度や年齢等によって異なりますが、固定期間は大体4~6週間程度が多いです。
もっとも、固定中に骨のずれが生じることがあるので十分な観察が必要になります。
骨折のずれが大きい場合や関節内骨折の場合は、手術(観血的整復固定術等)が選択されることもあります。
なお、治療後も骨折の治療後も、手関節や手指の可動域制限、痛み、腫脹などの後遺症が残ることがあります。
【コラム】橈骨遠位端骨折の原因となる交通事故とは?
橈骨遠位端骨折は、転倒や強い衝撃を手で受け止めた際によく起こります。
交通事故でも、橈骨遠位端骨折をしやすいです。
特に、バイクや自転車で転倒したり、歩行中に自動車にはねられて手をついて倒れた場合などに起こりやすい骨折です。
また、ハンドルやダッシュボードに手首をぶつけたりして、腕の骨に大きな衝撃が加わる場合も、橈骨遠位端骨折を負うことがあります。
橈骨遠位端骨折の後遺症で認定される後遺障害等級
橈骨遠位端骨折の後遺症として、機能障害、偽関節、変形障害、神経障害などがあげられます。
後遺障害 | 内容 | 等級:後遺障害慰謝料 |
---|---|---|
機能障害 | 手首の動かしづらさ | 8級:830万円 10級:550万円 12級:290万円 |
偽関節 | 不完全な骨癒合 | 7級:1,000万円 8級:830万円 |
変形障害 | 変形して骨癒合 | 12級:290万円 |
神経障害 | 痛み・しびれ | 12級:290万円 14級:110万円 |
このような後遺症の症状が後遺障害等級に該当すると認定を受けることで、請求できる損害賠償金が増額するのです。
症状の内容や程度により、認定される後遺障害等級が異なるため、どのような症状がどのような等級に認定されるのかを紹介します。
機能障害|手が動きにくい
橈骨遠位端骨折により、手首が曲がらなくなる機能障害が残る場合があります。後遺障害等級は手首がどの程度曲がらなくなったのかで判断されるものです。
等級 | 認定基準 |
---|---|
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
3大関節とは「肩関節」、「肘関節」、「手関節」のこと
8級6号の「用を廃する」とは、障害の残った手関節が、健康な手関節の可動域の10%以下になった場合、または手首に人工関節を入れても可動域が半分以下に制限されている場合をいいます。
10級10号の「著しい障害」とは、障害の残った手関節が、健康な手関節の可動域の半分以下になった場合、または手首に人工関節を入れても可動域が半分を超える場合をいいます。
12級6号「機能に障害を残す」とは、障害の残った手関節が、健康な手関節の可動域の4分の3以下に制限されていることをいいます。
可動域制限の後遺障害認定について詳しくは、『交通事故で肩・手首・膝・足首などの可動域制限があるときの後遺障害慰謝料は?』をお読みください。
偽関節・変形障害|手首の骨が変形して治らない
橈骨遠位端骨折では、橈骨または尺骨の端が不完全にくっついて偽関節となった場合に7級9号又は8級8号、骨の端の大部分を欠損したときに、変形障害として12級8号認定される可能性があります。
等級 | 認定基準 |
---|---|
7級9号 | 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
8級8号 | 1上肢に偽関節を残すもの |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
後遺障害7級9号と8級8号の違いとしては、偽関節となったことで常に硬性補装具が必要になるかどうかです。常に硬性補装具が必要であれば7級9号に認定される可能性があります。
神経障害|痛み・しびれ
橈骨遠位端骨折で、骨折部位の周辺にある神経が損傷する場合があります。このとき痛みやしびれといった症状となってあらわれるでしょう。
神経障害は、後遺障害12級13号または後遺障害14級9号に認定される可能性があります。
等級 | 認定基準 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
橈骨遠位端骨折の後遺症としてしびれや痛みが残った場合、その症状が画像検査で医学的に証明できれば12級13号認定の可能性があります。
ただし、神経障害は「目に見えない後遺症」なので、画像検査で必ずしも明らかになるわけではありません。そういった場合には神経学的検査や事故の程度、治療の経過などから症状の存在を示すことで14級9号認定を目指すことになるでしょう。
そもそも後遺障害認定を受けることが難しい側面もあるので、神経症状でお悩みの方は早めに弁護士に相談してみてください。
【コラム】後遺障害等級認定を受ける方法は?

橈骨遠位端骨折で後遺症が残ってしまった場合は、後遺障害等級認定を受けることで、後遺症に関する賠償金を受け取ることができます。
いいかえればどんなにつらい後遺症が残っても「後遺障害」と認められなければ、後遺症に関する賠償金の獲得が困難となるのです。
後遺障害等級認定を受けるための流れは以下のようになります。
- 医師に後遺障害診断書を書いてもらう
- 後遺障害認定の申請書類を用意する
- 相手方の保険会社を通して審査機関に審査に必要な書類を提出する
- 審査がなされ、後遺障害等級認定の判断通知を受け取る
後遺障害認定を受けるには適切な通院が重要です。通院と後遺障害の関係については、関連記事『交通事故の通院と後遺障害の関係|認定されるには適切な通院が必要』をご確認ください。
ただし、後遺障害等級認定の申請をするための準備は、なかなか慣れていないと難しいでしょう。交通事故の解決実績が豊富な弁護士に依頼してサポートを受けることをおすすめします。
橈骨遠位端骨折の後遺症の賠償金
橈骨遠位端骨折の後遺症の慰謝料
交通事故により橈骨遠位端骨折を負い、後遺症が残った場合には、以下のような慰謝料を請求することが可能です。
- 入通院慰謝料
橈骨遠位端骨折を治療するために入院・通院したことで生じる精神的苦痛に対する慰謝料 - 後遺障害慰謝料
橈骨遠位端骨折により後遺障害が残ったことで生じる精神的苦痛に対する慰謝料
入通院慰謝料の相場|骨折治療にかかった期間で計算
交通事故の入通院慰謝料額は治療期間がベースになります。たとえば、橈骨遠位端骨折による慰謝料は、通院に4ヶ月かかったなら90万円、通院に6ヶ月かかったなら116万円です。
なお、この相場は弁護士基準によるものです。裁判で認められている相場です。
自賠責保険金の支払い基準(自賠責基準)の場合は、もっと少額になります。

任意保険会社の提示は、自賠責基準に近い金額が多いですが、弁護士基準による交渉の余地があることを覚えておきましょう。
下表に通院期間ごとの慰謝料相場を示します。
通院慰謝料の相場(月に10日通院の場合)
通院月数 | 弁護士基準 | 自賠責基準 |
---|---|---|
2ヶ月 | 52万円 | 17.2万円 |
3ヶ月 | 73万円 | 25.8万円 |
4ヶ月 | 90万円 | 34.4万円 |
5ヶ月 | 105万円 | 43万円 |
6ヶ月 | 116万円 | 51.6万円 |
なお、ここでは例として入院なしを想定していますが、入院していた場合には表よりも慰謝料は高くなる見込みです。
後遺障害慰謝料の相場|後遺障害等級しだいで金額が決まる
後遺障害慰謝料は、後遺症の症状が後遺障害に該当するという認定を受けることで請求することが可能となります。
後遺障害慰謝料の相場額は認定される後遺障害等級や支払い基準に応じて異なり、具体的な金額は以下の通りです。
後遺障害慰謝料の相場
等級 | 弁護士基準 | 自賠責基準 |
---|---|---|
7級 | 1,000万円 | 419万円 |
8級 | 830万円 | 331万円 |
10級 | 550万円 | 190万円 |
12級 | 290万円 | 94万円 |
14級 | 110万円 | 32万円 |
後遺障害慰謝料についても、相手の保険会社が提案してくる金額は、自賠責基準と同程度(または少し上乗せした程度)が多く、法的にみて、増額の余地があるものでしょう。
たとえば、相手の任意保険会社から「後遺障害8級に認定されているので、慰謝料として331万円です」「600万円をお支払いします。」などと提示されることも多いです。
このような金額について、なかには高額に感じる方もおられるかもしれません。
しかし、本来ならば、830万円請求できる権利があります(弁護士基準)。そのため、安易に示談に応じないようにしましょう。
【コラム】橈骨遠位端骨折の慰謝料が減額されるケースとは?
通院日数が少ない場合や、過失割合が高く見積もられている場合など、本来もらえる金額よりも慰謝料が減額されることがあります。
慰謝料が減額されるケースについては、『交通事故の慰謝料が減額されそう…減額される状況とポイントを紹介』の記事が参考になります。あわせてご覧ください。
橈骨遠位端骨折の後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残ったことで、生涯年収が減少してしまった損害のことです。
後遺障害等級が認定されれば、後遺障害逸失利益の請求もできるようになります。
後遺障害逸失利益の計算方法は、「基礎年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じるライプニッツ係数」です。

労働能力喪失率は、後遺障害等級ごとに相場があります。
後遺障害 | 内容 | 等級:喪失率 |
---|---|---|
機能障害 | 手首の動かしづらさ | 8級:45% 10級:27% 12級:14% |
偽関節 | 不完全な骨癒合 | 7級:56% 8級:45% |
変形障害 | 変形して骨癒合 | 12級:14% |
神経障害 | 痛み・しびれ | 12級:14% 14級:5% |
橈骨遠位端骨折の賠償例紹介
橈骨遠位端骨折12級
バイクで通勤中、左折する普通乗用車に巻き込まれ、胸椎圧迫骨折(第4・6胸椎)、右鎖骨遠位端骨折、右橈骨遠位端骨折を負った被害者への賠償が問題となった。
右手関節の機能障害や背部痛、易疲労性等の神経症状によるとみられるものが主である
名古屋地判令和4・10・18(令和1年(ワ)5288号)
- 後遺障害併合7級
- 脊柱の変形障害(8級相当)
- 右鎖骨の変形障害(12級5号)
- 右手関節の機能障害(12級6号)
- 後遺障害慰謝料:1,000万円(併合7級相当)
- 後遺障害逸失利益:1,339万円
慰謝料・逸失利益以外に請求できる賠償金
交通事故により橈骨遠位端骨折を負い、後遺症が残った場合には、慰謝料・逸失利益以外にも、以下のような損害に対して損害賠償請求が可能です。
- 治療関係費
投薬代、手術費用、入院代など治療のために必要な費用 - 休業損害
治療のために仕事を休んだことで生じる損害に対する補償 - 物的損害
自動車の修理代や代車費用など
どのような損害を請求できるのか、請求金額をどのように計算するのかといった点については、専門家である弁護士に相談すると良いでしょう。
アトムの解決事例(橈骨遠位端骨折)
橈骨遠位端骨折(1)568万円増額
ご相談の段階で後遺障害等級が既に認定済でしたが、慰謝料などの金額に増額の余地がありました。当初の提示額は803万円でしたが、弁護士による交渉で568万円増額し、1,371万円で示談成立となりました。
最終回収金額 | 1,371万円 |
提示額 | 803万円 |
傷病名 | 左橈骨遠位端骨折、左手関節機能障害 |
後遺障害等級 | 12級6号 |
被害者 | 40~50代、主婦・主夫 |
橈骨遠位端骨折(2)2倍増額
ご相談の段階で後遺障害等級が既に認定済でしたが、慰謝料などの金額に増額の余地がありました。当初の提示額は632万円でしたが、弁護士による交渉で約2倍増額し、1,300万円で示談成立となりました。
最終回収金額 | 1,300万円 |
提示額 | 632万円 |
傷病名 | 左大腿骨頚部骨折、左橈骨遠位端骨折 |
後遺障害等級 | 12級7号 |
被害者 | 40~50代、会社員 |
橈骨遠位端骨折・後遺症のお悩みは弁護士に相談を
橈骨遠位端骨折のまとめ
橈骨遠位端とは、前腕にある2本の骨のうち、親指側の骨である橈骨の手首に近い部分を指します。橈骨遠位端骨折は、この橈骨が手首の近くで折れてしまう骨折のことです。
橈骨遠位端骨折では、手首の可動域制限、痛み、しびれ、変形、偽関節などの後遺症が残るおそれがあります。
後遺症が残った場合、等級認定がおりれば、後遺障害慰謝料や逸失利益の請求ができるようになります。
後遺障害等級認定には、主治医の診断と弁護士の法的知識が欠かせません。
橈骨遠位端骨折をしてしまった方、これから等級認定を目指したい方などは、弁護士に相談してみましょう。
弁護士に相談するメリット
交通事故により橈骨遠位端骨折を負い、後遺症が残った場合に弁護士に相談すると、以下のようなメリットを得られるでしょう。
- 適切な後遺障害等級の認定を受けられるようサポートしてもらえる
- 相手方との連絡を弁護士が行ってくれる
- 相場の慰謝料や損害賠償金を得られる可能性が高まる
慰謝料や損害賠償金の金額は、相手の保険会社の金額から増額できる余地が多数あります。しかし、その増額は弁護士でないと難しいのが現実です。

保険会社は弁護士が出てくることで、「相手が裁判も考えているのかもしれない」と身構えます。そのため裁判の手前の段階である示談でも、裁判所が認める金額を受け入れやすいのです。
また、弁護士に示談交渉を任せると弁護士が連絡の窓口となり、相手と関わらなくてもよくなるため、治療に専念することかできます。
アトム法律事務所の無料相談を活用ください
橈骨遠位端骨折で後遺症が残ることになったため弁護士に相談したい場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。
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無料相談の利用後に、無理に契約を迫ることはありません。
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無料相談だけの利用はもちろん、他事務所の弁護士に相談した後のセカンドオピニオンとしての利用も大歓迎です。
法律相談の予約受付は24時間いつでも可能なため、お気軽にご連絡ください。

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了