交通事故の通院先の選び方|整形外科・整骨院を選ぶ4つのポイント
交通事故にあったときは、まず整形外科がある病院で診察を受けましょう。診断書を発行してもらったり、精密検査を受けて目に見えない異常が起こっていないか調べてもらったりする必要があるからです。
しかし、整形外科がある病院は全国に5,000件近く(参考:厚生労働省「令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」)存在するため、通院先をどう選べばいいか迷ってしまう方もいらっしゃるでしょう。また、現在の通院先に不満があって変えたい方や、退院を促されて次の通院先を探している方も、転院先選びに失敗しないか不安になっているのではないでしょうか。
「とりあえず口コミがいい病院なら大丈夫?」
「いろいろなケガに対応できそうな大病院にすべき?」
この記事では、通院先の選び方を迷っている方に向け、通院先の整形外科や整骨院の選び方をお伝えします。
目次
通院先の選び方|重要な4ポイント
(1)交通事故の取り扱い実績が豊富
まずは、交通事故の取り扱い実績が十分にある整形外科・整骨院かどうかチェックしてみるようにしましょう。
たとえば、交通事故で多いむちうちは、痛みやしびれといった自覚症状のみ発生し、客観的には症状がわかりづらいことも多いです。このような場合、医師や施術者が交通事故に詳しくないと、適切な治療・施術をしてもらえない可能性があります。
また、交通事故では健康保険ではなく事故相手の保険や自分の保険で治療費を支払う可能性が高いです。交通事故の手続きに慣れていない病院・整骨院だと、保険の扱いにあまり詳しくなく、手続きで手間取ってしまうこともあり得ます。
交通事故の治療実績が豊富かどうかは、各通院先のホームページを見て確認してみるとよいでしょう。
(2)家の近くにあって通いやすい
交通事故で負ったケガの治療・施術を受ける場合は、何度も通院することになる可能性が高いです。よって、家や職場の近くにあって通いやすい整形外科・整骨院を選ぶことが非常に重要になります。
通いにくい通院先を選んだ場合、通院が面倒になってしまい、通院を途中でやめてしまうかもしれません。通院を途中でやめると、治るはずのケガが治らないだけではなく、交通事故の慰謝料が減ってしまう可能性もあるのです。
また、「交通事故のケガで通院するなら、家から多少遠くても大病院を選んだ方がよいのでは?」と思われる方もいらっしゃると思います。しかし、大病院は緊急性の高い患者が優先されたり、患者数が多いため診察時間が短くなったりすることがあるため、一長一短といえるでしょう。
(3)コミュニケーションを取りやすい
交通事故の通院をつづけるにあたっては、医師・施術者や事務とコミュニケーションを取りやすいことも大切です。
コミュニケーションを取りづらいと感じる場合、自覚症状を的確に伝えられず、適切な治療・施術を受けられない可能性があります。また、交通事故の損害賠償請求に必要な書類を書いてもらう際も、医師や施術者とのすり合わせが重要になるでしょう。
また、窓口の事務職員とも保険の請求などでやり取りが必要になる場合があります。スムーズにコミュニケーションが取れるなら、請求手続きで不安になったり負担を感じたりすることが減り、ケガを治すことに専念できるでしょう。
(4)後遺障害認定に協力的
交通事故で後遺症が残った場合、「後遺障害認定」の審査を受けることになります。
後遺障害認定とは、後遺症が一定の等級に認定される手続きのことです。後遺障害に認定されれば、慰謝料などを追加で請求できるようになります。
後遺障害認定の手続きをする際は、医師に書いてもらう書類が非常に重要になります。しかし、中には「後遺症が残ったことを認めたくない」「交通事故の賠償問題に巻き込まれたくない」といった理由で後遺障害認定に非協力的な医師もいます。このような医師だと、適切な後遺障害認定を受けられない可能性もあるでしょう。
後遺障害認定に協力的かどうかは、治療開始時に医師に聞いてみたり、ホームページで交通事故に力を入れているか確認したりするとよいでしょう。
通院先の選び方|お悩みのケース別のポイント
事故の直後でどこに行けばいいかわからない
交通事故の直後は、まず整形外科のある病院を受診しましょう。
整骨院では診断書が発行されないため、警察に人身事故の届出ができません。また、整骨院ではCTやMRIといった精密検査を受けられないため、重大なケガが見過ごされてしまう場合もあります。
整形外科を受診するのは、事故の直後から遅くとも2、3日以内にするようにしましょう。すぐに受診しないと、ケガが交通事故で生じたものかわからなくなり、治療費や慰謝料の支払いを受けられない可能性があるからです。
事故の直後に痛みがない場合も、念のため整形外科を受診するようにしてください。交通事故の直後はアドレナリンが過剰分泌されており、痛みに気づけない場合も多いからです。
すぐに退院させられた
交通事故で負ったケガがある程度回復すると、病院から退院を促されることがあります。救急搬送された方は、命の危険に晒された状況を脱すれば退院を促され、同じ病院に引き続き通えなくなる場合も多いでしょう。
たとえ退院させられてしまったとしても、治療をやめるのは避けてください。前章で解説したポイントを参考に、新たな通院先を探し、治療を続けるようにしましょう。
なお、入院が必要なほどの重傷を負った場合、後遺症が残ってしまうことも少なくありません。後遺症が残ったときに備え、後遺障害認定に協力的な病院かどうかをある程度重視して通院先を選ぶとよいでしょう。
また、治療期間が空いてしまうと、保険会社から治療再開後の治療費・慰謝料の支払いを受けられない可能性があります。遅くとも30日以内には転院先を決め、治療を再開するようにしてください。
通いやすい病院に変えたい
交通事故の直後に搬送された病院が自宅から遠く、頻繁に通うのがつらい場合、通いやすい病院に変えることを検討してみましょう。
転院する場合は、まず今の通院先の医師に転院したい旨と理由を伝えたうえで、転院先を探すようにしてください。
また、保険会社にも忘れず転院予定であることを伝えましょう。
通いやすい病院を探す際は、家や職場から近いことだけではなく、夜や土日にも診療していて自身の生活リズムに合わせやすいかといった点も考慮することをおすすめします。
リハビリをしてくれない
交通事故で骨折や脳挫傷を負った場合、リハビリ療法が必要と思われるにも関わらず、医師の意向や設備の問題でリハビリを受けられないこともあります。そのような場合は、医師と保険会社に転院したい旨と理由を伝え、リハビリができる転院先を探すようにしましょう。
リハビリをする場合、長期間・高頻度での通院が必要となる場合も多いため、通いやすさをある程度重視して通院先を選ぶことがおすすめです。リハビリテーション科がある病院はもちろん、理学療法士が在籍している整形外科を検討してみてもよいでしょう。
また、脳挫傷で重篤な障害を負った場合は、NASVA療護センターといった専門的な療護施設で、個々の病状にあったリハビリを受けることも検討してみてください。
整形外科では改善が見られない
整形外科で治療を続けているものの、湿布や痛み止めばかり処方され、改善が見られないと感じている場合もあるでしょう。このような場合、整形外科を転院するだけではなく、整骨院に通うことも選択肢のひとつとなります。
ただし、整骨院に通う場合は、事前に医師の許可を得るようにしてください。医師の許可を得ずに整骨院に通った場合、その分の施術費用や慰謝料を支払ってもらえない可能性が高いです。また、整骨院に通う場合も、整形外科に月1度以上の頻度で並行して通うようにしましょう。
整骨院を選ぶ際は、交通事故の施術に力を入れているかを重視するとよいでしょう。似た症例の施術経験があって安心できるだけではなく、保険の請求をする際もスムーズに連携がとりやすいためです。
なお、国家資格を持つ施術者がいる整骨院と違い、カイロプラクティックや整体は国家資格の制度がありません。そのため、カイロプラクティックや整体に通院しても、その分の施術費用や慰謝料は支払ってもらえない場合がほとんどなので、注意してください。
医師や施術者と相性があわない
交通事故のケガで通院を続けているものの、医師や施術者と相性があわず、ストレスを感じている場合もあると思います。
医師や施術者とうまくコミュニケーションが取れない場合、自覚症状が伝わらず適切な治療や施術を受けられない場合もあります。回復の見込みや賠償問題にも関わりますので、通院先を変えることを検討してみてもよいでしょう。
繰り返しになりますが、転院する際は医師にその旨と理由をあらかじめ伝えるようにしてください。また、保険会社への連絡もあわせて行いましょう。勝手に転院すると、紹介状がないため適切な治療を受けられなかったり、治療費や施術費用・慰謝料に影響したりするリスクがあります。
交通事故の通院先選びはなぜ大切?
交通事故のケガは発見しづらいことも多いから
交通事故の通院先の選び方が大切な理由は、交通事故で生じるケガがすぐには発見しづらいことも多いからです。
たとえば、交通事故で多いむちうちは、自覚症状のみであったり、事故から時間が経ってから症状が現れたりすることも多いです。
交通事故の治療に慣れていない病院だと、目に見えない症状がないか確認するための検査をしてもらえなかったり、自覚症状を訴えても軽視されたりする場合があるでしょう。そのような場合、満足な治療を受けられず、治療が長引いたり後遺症が残ったりする可能性があります。
一方、交通事故の治療に慣れている病院ならば、ケガの状況に応じた必要な検査を判断し、適切な治療をすぐに開始してもらえるでしょう。
交通事故の損害賠償に影響してくるから
交通事故の治療の経過は、交通事故の損害賠償問題にも影響してきます。
たとえば、事故相手の保険会社から受け取れる慰謝料は、通院の期間や頻度をもとに計算されます。もし、「病院が家から遠くて通うのが億劫」「医師や施術者と相性があわずあまり通院したくない」といった理由で通院頻度が低くなってしまうと、慰謝料が本来受け取れるはずの金額よりも低くなってしまう可能性があるのです。
また、圧迫骨折といった一部の症状は、交通事故で生じたものなのか、日常生活で生じたものなのか判断しづらく、保険会社に慰謝料の支払いを拒否されることもあるでしょう。
適切に慰謝料を支払ってもらうためには、事故直後に検査を受けておくことが重要になります。交通事故の治療に慣れている病院なら、そのような事情も心得ており、早めに検査を実施してくれる可能性が高いでしょう。
後遺症が残ったときに医師との連携が重要になるから
交通事故で後遺症が残った場合、先述の「後遺障害認定」の申請をすることになります。この後遺障害認定の申請では、医師との連携が非常に重要になります。
交通事故における後遺障害認定の審査は、基本的に提出書類のみを見て行われます。提出書類の中でとくに重要なものが、医師が作成する「後遺障害診断書」です。
後遺障害診断書には、自覚症状や他覚症状、検査結果などを記入する欄があります。この欄に抽象的な記述や医学的な根拠のない記述をされてしまうと、本来なら認定されるべき等級に認定されない可能性があるのです。
後遺障害認定を受ける際は、医師の後遺障害への理解、コミュニケーションの取りやすさが重要になります。後遺症が残りそうな大きなケガや、後遺障害認定でもめやすいむちうちを負った場合は、通院先の選び方がとくに重要になってくるといえるでしょう。
まとめ
- 交通事故の通院先は、実績・通いやすさ・話しやすさ・後遺障害への理解を軸に選ぶ
- 交通事故ではまず整形外科を受診し、医師の許可を得てから整骨院での施術を受ける
- 通院先の選び方は、予後や損害賠償問題にも影響してくるため非常に重要
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了