交通事故での高次脳機能障害|後遺障害認定基準と慰謝料相場を解説
交通事故での高次脳機能障害は、思考や記憶、言語、注意などの脳機能に異常が見られる疾患です。
交通事故による頭部外傷が主な原因となり、記憶障害や失認症、注意障害など多様な症状が現れます。
後遺症として残った場合、要介護1級1号〜後遺障害14級9号のいずれかに認定される可能性があり、後遺障害慰謝料の相場は110万円〜2,800万円です。
今回は、高次脳機能障害の症状、治療、後遺障害の認定基準、慰謝料や示談金の増額などについて詳しく解説します。
交通事故での高次脳機能障害の症状・治療
交通事故での高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害とは、思考や記憶、言語、注意などの高次の脳機能に異常がみられる状態を指します。
最近では画像診断の発達によって、高次脳機能障害は、思考や判断、感情のコントロールをつかさどる大脳の広範な部位の障害であることが分かっています。
しかし、外見からわかりにくい疾患で、本人も知覚していないケースもみられます。
そのため、高次脳機能障害の判断には、家族など普段本人とよく接する人からの情報が必要な場合も少なくありません。
交通事故での高次脳機能障害の原因
高次脳機能障害の主な原因は、頭部外傷です。
交通事故の場合も頭部外傷によって前頭葉や側頭葉などの脳の一部が損傷したことが原因で、高次脳機能障害が生じることがあります。
高次脳機能障害を引き起こす頭部外傷に関する記事、後遺症として高次脳機能障害が残る症状に関する記事もありますので、あわせてご覧ください。
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交通事故での高次脳機能障害の症状(1)記憶障害
交通事故での高次脳機能障害の症状として、記憶障害を負うことがあります。
記憶障害とは、新しい出来事を覚えられず、記憶を思い出せないといった記憶機能に異常がみられる状態です。
交通事故前の記憶は覚えているものの交通事故後の物忘れが多くなるパターンや交通事故前の自分や社会に関する記憶がないパターンなどがみられます。
ひとつひとつ情報をメモにまとめたり、文字や口頭での説明だけでなく絵や写真、図なども活用することで対応していくことになります。
交通事故での高次脳機能障害の症状(2)失認症
交通事故での高次脳機能障害の症状として、失認症を負うことがあります。
失認症とは、視力や聴覚、触覚などの感覚能力が損なわれていないにもかかわらず、見聞きしたものが認識・理解できない状態です。
知人や見知ったものが認識できない、図や表示の意味を理解できない、文字が読めない、今まで使っていた道で迷うことがあるといった症状がみられます。
見聞きするものだけでなく、絵や写真、ジェスチャーなども利用して理解しやすくすることで対応していくことになります。
交通事故での高次脳機能障害の症状(3)注意障害
交通事故での高次脳機能障害の症状として、注意障害を負うことがあります。
注意障害とは、集中力が続かずひとつのことに集中できない、あるいはひとつのことに集中しすぎて複数のことを同時にできないといった状態です。
一度休んで気分転換をする、手順や仕事をシンプルにしてひとつひとつ取り組んでいくといった工夫をしていくことになります。
交通事故での高次脳機能障害の症状(4)遂行機能障害
交通事故での高次脳機能障害の症状として、遂行機能障害を負うことがあります。
遂行機能障害とは、何かしらの目標に対して計画を立てる、計画に沿って行動することが難しくなる状態のことです。
具体的には家事や仕事を計画的・効率的に行えない、トラブルに対処できない、優先順位をつけられないなどの症状がみられます。
仕事の内容を順序立てたり、単純化して少しずつこなせるように対処していくことになります。
交通事故での高次脳機能障害の症状(5)言語障害
交通事故での高次脳機能障害の症状として、言語障害を負うことがあります。
言語障害とは、言語を理解することや話を聞くこと、スムーズに話すことが難しくなる状態です。
具体的には、文字を読んでも意味が分からない、書きたい文字が書けない、他人の話を聞いても理解できない、ろれつがまわらずうまく話せない、意図した言葉とは違う言葉が出てしまうといった症状が出ます。
認知症と似たような症状ですが、高次脳機能障害の場合。頭の中ではしっかり判断する能力が維持されている場合も多いです。
交通事故での高次脳機能障害の症状(6)失行症
交通事故での高次脳機能障害の症状として、失行症を負うことがあります。
失行症とは、麻痺がないのに意図した動作や以前は出来ていた動作ができなくなる状態です。
具体的には日常生活上、何気なくやっていた服の脱ぎ着や歯磨きなどの身支度、指示された動作ができなくなるといった症状がみられます。
交通事故での高次脳機能障害の症状(7)半側空間無視
交通事故での高次脳機能障害の症状として、半側空間無視を負うことがあります。
半側空間無視とは、目の前の空間の半分、多くは左側を認識できなくなる状態です。
半側空間無視は、左側にあるものが見えなくなるわけではなく、あくまで認識することができなくなります。
左が見えない人は顔を左に向けて生活するよう注意できますが、半側空間無視になると見えてみても左側を意識すること自体ができず、注意をしていても左側の物にぶつかるなどの症状がみられます。
交通事故での高次脳機能障害の症状(8)社会行動障害
交通事故での高次脳機能障害の症状として、社会行動障害を負うことがあります。
社会行動障害は、自分の感情や行動をコントロールできなくなる状態です。
具体的には事故前と比べて怒りっぽく暴力的になる、元気がなくなる、金遣いが荒くなるなど後先を考えない、一つのことにこだわるようになるといった症状がみられます。
高次脳機能障害の治療
高次脳機能障害を治療する際は、リハビリテーションにより改善を目指すことになります。
高次脳機能障害は多様な症状がみられるため、まずどの脳機能に症状がでているか検査を行い、日常生活に支障をきたす症状を中心に訓練を行います。
訓練では症状に合わせて買い物や交通機関の利用での実践やメモをつけるといった日常生活での習慣づけなどを行います。
ただ、どのような症状であれ本人の努力や訓練だけでなく治療には家族や周囲の人などの理解と協力、医師、臨床心理士などを含めたチームでの対応が必要不可欠となります。
交通事故での高次脳機能障害の後遺症とは?
交通事故による高次脳機能障害の後遺障害
交通事故によって高次脳機能障害といった後遺症が残った場合、後遺障害等級に認定されることで認定等級に応じた後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害等級に認定されるには、後遺障害申請を行い、各等級の認定基準を満たすとして審査機関による審査を通過する必要があります。
交通事故によって高次脳機能障害が後遺症として残った場合、要介護1級1号〜後遺障害14級9号のいずれかに認定される可能性があります。
交通事故での高次脳機能障害で後遺障害認定を受けた場合、後遺障害慰謝料の相場は110万円〜2,800万円です。
高次脳機能障害の各等級の認定基準は、以下の通りです。
等級 | 認定基準 慰謝料額 |
---|---|
要介護1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 2,800万円 |
要介護2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 2,370万円 |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 1,990万円 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 1,400万円 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 1,000万円 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 690万円 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの 290万円 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの 110万円 |
要介護1級・2級|交通事故での高次脳機能障害
交通事故での高次脳機能障害で要介護1級1号あるいは2級1号に認定されるための「介護を要する状態」とは、意思疎通を図ることがむずかしく、食事・排泄といった生命維持活動に他者の介助が必要な状態をいいます。
具体的には生活全般において介助が必要であれば要介護1級1号、日常生活の一部の動作のみ介助が必要であれば要介護2級1号に認定されます。
3級3号〜9級10号|交通事故での高次脳機能障害
交通事故での高次脳機能障害で後遺障害3級3号〜9級10号に認定されるためには、以下の4つの能力に障害が残っている場合です。
- 意思疎通能力
- 問題解決能力
- 作業負荷に対する持続力・持久力
- 社会行動能力
後遺障害3級3号の認定基準
後遺障害3級3号の認定基準の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」とは、労務に服すにあたり必要となる4つの能力について、 1つを完全に喪失したか2つ以上の能力の大部分が失われた場合を指します。
後遺障害5級2号の認定基準
後遺障害5級2号の認定基準の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」とは、4つの能力のうち、1つ以上の能力の大部分が失われたか2つ以上の能力の半分程度が失われた場合を指します。
後遺障害7級4号の認定基準
後遺障害7級4号の認定基準の「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」とは、4つの能力のうち、1つ以上の能力の半分程度が失われたか2つ以上の能力の相当程度が失われた場合を指します。
後遺障害9級10号の認定基準
後遺障害9級10号の認定基準の「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限される」とは、4つの能力のうち、1つ以上の能力の相当程度が失われた場合を指します。
12級13号〜14級9号|交通事故での高次脳機能障害
たとえ、4つの能力について労務に影響するほど失われなかった場合でも後遺障害12級13号あるいは14級9号に認定されることがあります。
具体的には、CTやMRIなど画像診断などによって高次脳機能障害の存在が医学的に証明された場合は、12級13号に認定されます。
また、画像診断などによっても他覚的な後遺症の存在がなくても、受傷の状況、症状、治療の経過、各種神経学的なテストの結果、高次脳機能障害が残ったと説明可能な場合は14級9号に認定されます。
交通事故での高次脳機能障害で請求する後遺障害慰謝料
交通事故での高次脳機能障害で後遺障害認定を受けた場合、後遺障害慰謝料の相場は110万円〜2,800万円です。
各等級に応じた後遺障害慰謝料を請求できます。
しかし、後遺障害認定後、相手側の任意保険会社から届く示談書(免責証書)で提示される額は相場よりも低い傾向にあります。
それは、保険会社が慰謝料算定に使う基準が、弁護士や裁判所が使う基準とは異なるからです。
慰謝料算定の3基準
- 自賠責基準
加害者側の自賠責保険から支払われる慰謝料の算定基準。自賠責保険会社は最低限の補償をするので、最低限の金額となる。 - 任意保険基準
加害者側の任意保険会社が用いる慰謝料の算定基準。自賠責基準に少し上乗せした程度であることが多い。 - 弁護士基準(裁判基準)
弁護士や裁判所が用いる慰謝料の算定基準。過去の判例にもとづいた法的正当性の高い基準。
保険会社は、任意保険基準に基づいて慰謝料を算定するため、弁護士基準に基づく相場価格と比べて慰謝料額が低くなってしまいます。
適正な金額での慰謝料を受け取るためには、提示額から増額するよう保険会社と交渉する必要があります。
弁護士に依頼すれば、後遺障害申請だけでなく認定後の保険会社との交渉も任せることができます。
弁護士は、普段から交通事故案件を扱う保険会社の担当者にも臆することなく、説得力のある主張ができるため、慰謝料増額の可能性を高めることができます。
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高次脳機能障害の後遺症で請求できる示談金
高次脳機能障害の入通院慰謝料
交通事故による高次脳機能障害を治療した場合、入通院慰謝料を請求することができます。
入通院慰謝料とは、交通事故による入院・通院を余儀なくされるほどのケガで受けた精神的苦痛に対する賠償金です。
入通院慰謝料は、算定表に基づき、入通院期間に応じて金額が決定します。
治療期間が長ければその分、慰謝料額も高額になります。
また、同じ治療期間でも、入院をせず通院だけで治療したケースよりも入院もして治療をしたケースの方が慰謝料額も高額になります。
高次脳機能障害で請求できる示談金の内訳
交通事故で高次脳機能障害を負った場合、後遺障害慰謝料や入通院慰謝料以外に請求できる損害があります。
示談金として請求できる各損害は、以下の通りです。
- 治療費:治療のために必要となった投薬代・手術代・入院費用など
- 休業損害:治療のために仕事を休んだことで生じる減収に対する補償
- その他:治療のために必要であった交通費、付添費用など
- 逸失利益:後遺障害により減収することとなる将来の収入に対する補償
- 物的損害:自動車や自転車の修理代、代車費用など
相手側の保険会社から届く示談書には支払い予定の示談金の総額だけでなく、各損害の金額の内訳も記載されています。
示談書を弁護士に見せれば、各損害の算定根拠を明らかにしながら適正な金額がいくらか、提示額からどれくらい増額できるか、確認することができます。
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交通事故で高次脳機能障害を負ったら弁護士に相談してみましょう。
高次脳機能障害は慰謝料が高額になることも少なくない重い後遺症である一方で、症状の発見や症状の重さの判断が難しい疾患であります。
そのため、保険会社は高次脳機能障害が認められない、あるいは症状は軽いと主張して慰謝料をなるべく抑えようとします。
弁護士に依頼すれば、保険会社の主張に対しても法的根拠をもった合理的な反論ができるため、慰謝料の増額の可能性を高められます。
弁護士に依頼することのメリットは、以下の通りです。
- 加害者側の保険会社との連絡を一任できるので、治療や職場復帰に専念できる
- 後遺障害等級の認定に向けて必要な資料の収集や申請手続き、十分な対策を立ててもらえる
- 法的な根拠に基づく説得力のある主張ができるので、慰謝料・示談金の交渉を有利に進めてもらえる
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了