追突事故の慰謝料はいくらが相場?示談金の計算方法と損しないポイント
「追突事故の示談金が保険会社から提示された。この金額は妥当?」
信号待ち中に後ろから衝突されたような追突事故では、「過失がないから十分な慰謝料や示談金を受け取れるだろう」と思う被害者の方もいらっしゃいます。
しかし、追突事故は被害者に過失がないからこそ示談金が低額になるリスクがあるのです。
この記事では、追突事故の示談金の相場や計算方法を紹介しています。提示された金額が妥当か知りたい方、今後どのくらいの金額を受け取れる見込みなのか知りたい方は、ぜひご参考ください。
また、示談に入る前・示談中に知っておきたい追突事故の示談金で損しないためのポイントもあわせて解説しています。
目次
追突事故の慰謝料・示談金はいくら?
追突事故の示談金相場がわかる「自動計算機」
示談金とは、交通事故の被害者側と加害者側が話し合い(示談)をして決めた損害賠償金のことです。
追突事故の示談金には、慰謝料や治療費など、さまざまな費目が含まれます。
治療費や車の修理費といった実費で請求できる費目は、診療報酬明細書や見積書などで金額がわかります。
一方、慰謝料などの計算式によって金額が決まる費目は、相場観がつかみづらいのではないでしょうか。
計算が必要な費目については、この記事内で詳しい計算方法を解説します。取り急ぎ大まかな相場を確認したい方は、以下の自動計算機をご利用ください。示談金のうち、とくに計算が難しい慰謝料と逸失利益の相場がわかります。
追突事故の示談金のおおよその相場を確認するため、以下の点に注意してご利用ください。
注意点
- 実際の示談金の相場はさまざまな要素を考慮して決められるので、厳密な金額は弁護士に確認することをおすすめします。
- 計算機で計算できるのは、示談交渉で弁護士を立てた場合に獲得が見込める相場額です。
- 示談交渉で加害者側は、計算結果よりも低い金額を提示すると想定されます。
なお、追突事故でも過失割合10対0になる事故でもらえる示談金・慰謝料の事例は、関連記事『10対0事故の示談金相場はいくら?むちうちの慰謝料や計算方法がわかる』でも確認できるので、あわせてご覧ください。
追突事故で示談金として請求できる内容
追突事故で請求できる示談金の内容は、事故で発生した損害の種類によって異なります。
順に確認していきましょう。
人身事故の示談金
追突事故によって被害者がケガをした場合、主に以下のような費目を請求できます。
傷害分の主な費目
- 治療費
- 器具・装具費
松葉づえや車いすなどの器具・装具の費用 - 入院雑費
入院中に必要な消耗品費・通信費などの補償 - 通院交通費
通院にかかった交通費
(関連記事:交通事故の通院交通費|請求できる条件や慰謝料との違い) - 付き添い看護費
家族や職業看護人が入通院に付き添った場合の補償
(関連記事:交通事故の付添費|付き添いに認められる範囲と相場は?) - 休業損害
交通事故により仕事を休んだため発生した減収の補償 - 入通院慰謝料
交通事故によって入通院をした精神的苦痛の補償
追突事故によって後遺症が残り、後遺障害等級に認定された場合は、以下のような費目もあわせて請求可能です。
後遺障害分の主な費目
- 後遺障害慰謝料
交通事故によって後遺障害が残った精神的苦痛の補償 - 後遺障害逸失利益
後遺障害の影響で減る将来的な収入の補償 - 将来介護費
将来にわたる介護で必要な費用の補償
(関連記事:交通事故で介護費用が請求できる2ケース)
死亡事故の示談金
追突事故で被害者が死亡した場合、示談金の内訳は主に以下のとおりになります。
死亡事故の主な費目
- 死亡慰謝料
死亡した被害者と遺族の精神的苦痛の補償 - 死亡逸失利益
死亡したため得られなくなった将来的な収入の補償 - 葬儀費用
なお、交通事故にあってから亡くなるまでの間に一定期間の入通院をしていれば、上で紹介した「傷害分の費目」も請求可能です。
物損事故の示談金
車などの物品のみに損害が生じ、人体には損害が生じなかった「物損事故」の場合、示談金として請求できる費目は主に以下のとおりです。
物損事故の主な費目
- 車の修理費用・買い替え費用
- 評価損
車に修復歴が残ったことで低下した市場価格の補償
(関連記事:評価損(格落ち)の請求方法は?評価損は保険会社に拒否されやすい?)
なお、物損事故では基本的に慰謝料を請求できません。
慰謝料は「精神的苦痛をなぐさめるために支払われるお金」になります。交通事故で補償される精神的苦痛は、基本的に「ケガをした」「亡くなった」といった人体に損害が生じたことによる苦痛のみです。
物が壊れたことによる精神的苦痛は、賠償を受けることでなくなると考えられているため、物損事故では基本的に慰謝料を請求できないのです。
物損事故の示談金について詳しく知りたい方は、『物損事故の示談の流れと示談金相場|交渉時の注意点』の記事をご参照ください。
追突事故の慰謝料・示談金の計算方法
(1)慰謝料|精神的な苦痛の補償
それでは、示談金の各費目の詳しい計算方法を確認していきましょう。
まずは、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の計算方法を紹介します。
前提知識として、交通事故の慰謝料には3種類の算定基準があり、どの基準を用いるかによって計算方法や金額が変わります。
自賠責基準 | 交通事故の被害者に補償される、最低限の金額を算定する基準 自動車損害賠償保障法によって定められている (関連記事:自賠責保険から慰謝料はいくらもらえる?) |
任意保険基準 | 加害者側の任意保険会社が用いる算定基準 各任意保険会社が独自で定めており、公開されていない |
弁護士基準 | 弁護士や裁判所が用いる算定基準 裁判基準とも呼ばれ、過去の判例をもとにしている (関連記事:交通事故の慰謝料は弁護士基準で請求) |
3つの基準の中でもっとも高額かつ法的に正当と言えるのは、過去の判例をもとにした弁護士基準の金額です。
一方、加害者側の任意保険会社は自賠責基準や任意保険基準で計算した慰謝料額を提示してくるでしょう。この金額は、弁護士基準の半分~3分の1程度であることが多く、増額交渉が必要になります。
以上の前提知識を踏まえ、各慰謝料の計算方法を見ていきましょう。
なお、任意保険基準は非公開なので割愛しますが、自賠責基準とほぼ同等~やや高額な程度であると考えてご覧ください。
入通院慰謝料の計算方法
自賠責基準
自賠責基準では、入通院慰謝料は以下のように計算します。
日額4,300円×対象日数
対象日数は、以下のうちいずれか少ない方を採用する。
- 治療期間(初診~完治または症状固定まで)
- 実際の治療日数×2
※2020年4月1日以降に発生した事故の場合
たとえば、治療期間90日、実際の治療日数30日の場合、対象日数はより短い「30日×2」が採用されるでしょう。そのため、自賠責基準の入通院慰謝料は4,300円×60日=25.8万円となります。
弁護士基準
一方、弁護士基準で入通院慰謝料を計算する時は、以下の算定表を用います。
むちうち・打ち身・擦り傷など、比較的軽傷の場合は「軽傷」の算定表を、それ以外は「重傷」の算定表をご覧ください。
入院月数・通院月数が交わる部分が、入通院慰謝料の相場です。
なお、「1月」は1か月ではなく30日を意味します。入院日数・通院日数を30日で割り切れず端数が生じる場合は、日割計算を行います。
たとえば、追突事故で治療期間90日のケガをした場合、軽傷なら53万円、重傷なら73万円が相場となります。弁護士基準の方が自賠責基準より高額になるため、追突事故の慰謝料は弁護士基準で計算した金額を請求するようにしましょう。
弁護士基準では、自賠責基準のように実通院日数は基本的に考慮されません。ただし、通院の頻度があまりに低いと、慰謝料が減額される可能性があるので注意しましょう。
後遺障害慰謝料の計算方法
後遺障害慰謝料の相場は、後遺障害等級に応じて以下のように設定されています。
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級・要介護 | 1,650万円 | 2,800万円 |
2級・要介護 | 1,203万円 | 2,370万円 |
1級 | 1,150万円 | 2,800万円 |
2級 | 998万円 | 2,370万円 |
3級 | 861万円 | 1,990万円 |
4級 | 737万円 | 1,670万円 |
5級 | 618万円 | 1,400万円 |
6級 | 512万円 | 1,180万円 |
7級 | 419万円 | 1,000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
※2020年4月1日以降に発生した事故の場合
同じ後遺障害等級であっても、自賠責基準と弁護士基準を比べると金額は大きく異なります。等級によっては、弁護士基準の方が数十万円~千数百万円も高額になるのです。
具体的な症状別に慰謝料の相場を把握したい方は、関連記事『交通事故の慰謝料相場|症状別の相場金額を網羅!』もあわせてお読みください。
死亡慰謝料の計算方法
死亡慰謝料には、被害者本人分と被害者の家族分があります。
自賠責基準では、被害者本人分の金額に、遺族の人数や扶養の有無に応じた家族分の金額を足し、死亡慰謝料が決まります。
一方、弁護士基準では、被害者本人分と遺族分の金額を合算した金額があらかじめ設定されているのです。
被害者 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
一家の支柱 | 400万円 | 2,800万円 |
母親・配偶者 | 400万円 | 2,500万円 |
独身の男女 | 400万円 | 2,000万円~2,500万円 |
子ども | 400万円 | 2,000万円~2,500万円 |
幼児 | 400万円 | 2,000万円~2,500万円 |
以下は該当する場合に加算 | ||
遺族1名 | 550万円 | – |
遺族2名 | 650万円 | – |
遺族3名 | 750万円 | – |
被扶養者あり | 200万円 | – |
※2020年4月1日以降に発生した事故の場合
自賠責基準の死亡慰謝料は、最高でも「遺族3名かつ被扶養者あり」のケースにおける1,350万円です。同様のケースの弁護士基準の死亡慰謝料とは、1,000万円以上の差が生じます。
なお、上記の表における「一家の支柱」とは、家計を支えていた人のことを指します。
たとえば、母子家庭において家計を支えていた母親が追突事故で亡くなった場合は、一家の支柱として認められ、弁護士基準の死亡慰謝料は2,800万円となります。
死亡慰謝料についてより詳細に知りたい方は、『死亡事故の慰謝料相場と賠償金の計算は?示談の流れと注意点』の記事をご覧ください。死亡事故で慰謝料以外に請求できる費目についても解説しています。
(2)休業損害|仕事を休んだことによる減収の補償
休業損害は、交通事故によるケガの影響で仕事を休んだ場合の減収の補償です。
なお、実際に働いて収入を得ていない方でも、場合によっては休業損害を請求できます。たとえば、専業主婦・専業主夫の方の場合、家事労働が賃金労働と同様に評価されるため、平均収入などをもとに休業損害を請求可能です。
休業損害は、基本的に以下の計算式を用いて算出します。
休業損害の計算式
基礎収入(日額)×休業日数
給与所得者の方を例に、基礎収入の求め方を見てみましょう。
自賠責基準※ | 弁護士基準 |
---|---|
日額6,100円 | 3か月間の給与合計 ÷3か月間の実労働日数 |
※2020年4月1日以降に発生した交通事故に適用。証明すれば上限19,000円まで認められる。
自賠責基準と弁護士基準では、基礎収入に大きく違いが出る可能性もあるため、注意しなければなりません。
職業別の基礎収入の考え方を理解しておけば、1日あたりいくらの休業損害となるかもわかってきます。給与所得者(サラリーマン)だけでなく、自営業の方、主婦の方、学生の方なども休業損害の対象となるので、以下の関連記事も参考にしてください。
弁護士が休業損害について解説
(3)逸失利益|将来的な減収の補償
逸失利益は、交通事故の影響で減ってしまう将来的な収入の補償のことです。
休業損害と同じく、逸失利益も実際の収入がなくても請求可能な場合があります。たとえば、家事労働を行っている専業主婦の方、将来的に働いて収入を得ると想定される学生の方などが当てはまります。
逸失利益は、後遺障害を負ったとき請求できる「後遺障害逸失利益」と、亡くなったとき請求できる「死亡逸失利益」の2種類があります。それぞれの計算方法を見てみましょう。
逸失利益の計算方法
- 後遺障害逸失利益
= 基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 - 死亡逸失利益
= 基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対するライプニッツ係数
計算式にはあまり聞き慣れない用語も多く含まれていますので、順に解説していきます。
基礎収入とは
基礎収入とは、事故にあう前年の収入のことです。
専業主婦や学生など、事故の時点で実収入を得ていなかった方の場合は、平均賃金をもとにすることもあります。
労働能力喪失率とは
労働能力喪失率とは、事故により労働能力が失われた割合のことで、後遺障害等級ごとに以下のとおり目安が決められています。
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
労働能力喪失期間・就労可能年数とは
労働能力喪失期間・就労可能年数とは、基本的には症状固定時や死亡時の年齢から67歳までの年齢差のことを指します。
ただし、以下の場合は就労年数の数え方が異なる可能性があります。
- 医師・税理士など一定の職業の場合、67歳を超えても労働が可能と考えられることが多い
- むちうちの場合、労働能力喪失期間は後遺障害12級なら10年程度、14級なら5年程度とされることが多い
- 被害者が学生や子どもなどまだ働いていない年齢の場合、労働能力喪失期間及びライプニッツ係数の算出方法がやや異なる
- 被害者が67歳間近または67歳を過ぎていた場合、平均余命の2分の1の年数を用いて計算する
ライプニッツ係数とは
ライプニッツ係数とは、逸失利益を預金・運用することで生じる利子分の金額を、あらかじめ差し引くための数値です。
逸失利益を受け取るなら、本来なら将来にかけて徐々に得ていたはずの金額を一括して受け取ることになります。その金額を預金・運用すれば、実際に得ていたはずの金額より多くの金額を得てしまうため、ライプニッツ係数を用いた控除が行われるのです。
労働能力喪失期間 | ライプニッツ係数 |
---|---|
1 | 0.9709 |
5 | 4.5797 |
10 | 8.5302 |
15 | 11.9379 |
20 | 14.8775 |
※2020年4月1日以降に発生した事故かつ症状固定時に18歳以上の場合
生活率控除率とは
生活費控除率とは、死亡逸失利益のうち、本来ならば亡くなった被害者本人が生活費として消費していたと思われる金額を差し引くための数値です。
生活費控除率は、以下の数値が目安となっています。
被害者の立場など | 生活費控除率 |
---|---|
一家の支柱かつ被扶養者1人 | 40% |
一家の支柱かつ被扶養者2人以上 | 30% |
男性(独身、幼児などを含む) | 50% |
女性(主婦、独身、幼児などを含む) | 30% |
ここまで説明してきたように、逸失利益の計算式は非常に複雑になります。
より簡単に逸失利益を計算したい方は、以下の計算機をご利用ください。
追突事故の慰謝料・示談金について知っておきたいポイント
(1)追突事故は被害者が損しやすいので注意!
追突事故で過失割合が10:0になった場合、過失がないからこそ被害者が損しやすい傾向にあります。その理由は以下の2つです。
- 被害者側は保険会社の「示談代行サービス」を利用できないため
- 加害者側は追突事故だと厳しい態度で交渉に臨んでくるため
それぞれの理由について、深掘りして解説していきます。
追突事故だと示談代行サービスを利用できない
交通事故の示談交渉では、被害者自身が加入する任意保険会社に示談交渉を代行してもらえる「示談代行サービス」を使えることが多いです。
しかし、追突事故のように被害者側の過失割合がない場合は、示談代行サービスを利用できません。よって、被害者自身で交渉にあたる必要があります。
一方で、加害者側は任意保険会社の担当者が示談交渉を行うことがほとんどです。つまり、被害者は知識・経験が豊富な保険会社の担当者と交渉を進めなければなりません。
そのため、「示談金に納得いかない」と思っても、被害者側の主張を十分に通せないことも非常に多いです。「これ以上の治療費や修理費は自己負担になります」「その金額は裁判を起こさないと認められません」などと反論されるケースは決して珍しくありません。
追突事故だと加害者側はより厳しい態度になる
追突事故で被害者側の過失割合がない場合、過失割合に応じて示談金を減額する「過失相殺」が適用されません。
そのため、加害者側は過失割合以外の要素で示談金を減額しようと、より厳しい態度で示談交渉に臨んでくることが多いです。
任意保険会社は営利企業であり、被害者側に支払う示談金は「支出」となります。よって、支払う示談金を少しでも抑えようと、最低限の補償のみ行うといったケースもあるのです。
このような状況で、被害者だけの力で十分な示談金を受け取ろうと交渉しても、なかなか納得できる結果にならないことも多いです。また、被害者が交通事故の損害賠償問題に疎いことが伝わると、さらに強気な態度で交渉を進められることもあります。
もし、示談金の増額が認められなかったり、加害者側の任意保険会社の交渉態度にストレスを感じていたりする場合は、交通事故に詳しい弁護士への相談・依頼を検討するとよいでしょう。
弁護士は法律のプロであり、過去の裁判例や法的に認められる請求の範囲も熟知しています。弁護士が出てくれば裁判への発展も現実的になるため、加害者側の任意保険会社は示談金の増額を認めることが多いです。
追突事故の被害者となった場合にはどう対応すべきか、過失割合の決まり方などの関連記事を読んでおくことをおすすめします。
追突事故の対応関連記事
(2)追突事故後の通院頻度や通院先も影響が大きい
追突事故でケガを負ったとき、どのような頻度でどの通院先で治療するかは慰謝料の金額に大きく影響します。
とくに気を付けるべき点は、以下の3つです。
- 通院頻度は月10回以上を目安とし、医師と相談しながら決める
- 整骨院への通院は医師の許可を得てからにする
それぞれのポイントを確認していきましょう。
通院頻度は月10回以上を目安とする
追突事故後は、医師から「完治」または「症状固定」と診断されるまで治療を続けます。
このとき、通院頻度があまりに低いと、慰謝料を減額されたり、治療費を打ち切られたりする可能性があるでしょう。
通院頻度が低いなら、加害者側の任意保険会社に「すでにケガは治っているのに通院期間を引き延ばしているのではないか」「通院期間が長くなったのは被害者が治療に消極的だったからではないか」と疑われてしまうからです。
また、医師の指示なしで毎日通院している場合も、「通院日数を多くして慰謝料を不正に多く受け取ろうとしているのではないか」と疑われ、慰謝料が減らされるおそれがあります。
事故後の通院頻度は、月に10回以上を目安に、医師と相談して決めましょう。
もし、ケガの完治が近づいて通院頻度が下がった場合も、最低でも月に1回以上は通院するようにしてください。
なお、通院頻度が適正な場合も、薬や湿布の処方してもらうだけといった「漫然治療」を受けている場合も、慰謝料が減額されるおそれがあるので注意が必要です。
整骨院への通院は医師の許可を得てからにする
交通事故では基本的に、整形外科などの病院に通ってください。
整骨院(接骨院)に通う場合は、以下の点をおさえるようにしましょう。
- 病院の医師から許可を得たうえで通う
- 保険会社にもあらかじめ連絡しておく
- 整骨院への通院と並行して、病院にも月に1回以上通う
整骨院での施術は、交通事故のケガを治すために必要なものと認められづらいです。そのため、整骨院に通院した分の治療費・入通院慰謝料は、認められなかったり減額されたりする可能性があります。
医師の許可を受けたうえで整骨院に通うなら、交通事故のケガを治すために必要なものと認められやすいです。整骨院に通うことをあらかじめ保険会社に連絡しておけば、治療費などが減らされる可能性をさらに低くできるでしょう。
整骨院を利用する際の注意点について詳しく知りたい方は『交通事故で整骨院に通院する際の注意点|整形外科との違いは?』の記事をご覧ください。
(3)治療費打ち切りは状況によっては延長交渉をする
追突事故で治療を受けるときは、加害者側の任意保険会社が病院に治療費を直接支払ってくれることが多いです。
しかし、まだ治療が終わっていないのに、治療費の打ち切りを打診されることがあります。
加害者側の任意保険会社は、被害者の治療状況に関係なく、形式的に治療費の打ち切りを判断している可能性があるので注意が必要です。たとえば、「むちうちなら平均3か月で治療が終了するはずだから、治療費の支払いを打ち切ろう」といった形です。
もし、治療を継続すべきであるにもかかわらず治療をやめてしまうと、以下のようなリスクが生じてしまいます。
- 治るはずのケガが治らない
- 通院期間が短くなる分、入通院慰謝料が少なくなる
- 後遺症が残っても、後遺障害等級が認められない
よって、治療費打ち切りの打診をされたら、安易に合意せず、まずは医師に治療を続けるべきか確認しましょう。
もし治療を続けるべきなら、医師に意見書を書いてもらい、治療費支払いの延長交渉をすることをおすすめします。
ただし、追突事故では加害者側の任意保険会社は厳しい態度になりやすいため、「これ以上は自己負担です」などとして強引に治療費を打ち切ってくることも考えられます。
治療費を打ち切られてしまったら、被害者側で一旦治療費を立て替えて治療を続けてください。立て替えた治療費は、示談交渉で加害者側の任意保険会社に請求できます。
なお、治療費を立て替える際は健康保険を使うことも可能です。交通事故における健康保険の使い方については、関連記事『交通事故で健康保険は使える!メリットや健保に切り替えてと言われた時の対処法』をご覧ください。
(4)後遺症が残ったら後遺障害認定を受ける
交通事故の治療を続け、医師から症状固定(これ以上治療しても症状が改善しない状態)の診断を受けたら、残った後遺症について後遺障害認定の申請をしましょう。
後遺障害認定とは、交通事故の後遺症が1級~14級まである後遺障害等級に認定されることを言います。
後遺障害認定を受ければ、加害者側に後遺障害慰謝料や逸失利益などを新たに請求できるようになるため、示談金の金額が大幅に上がります。
後遺障害認定を受けるの大まかな流れは次のとおりです。
- 症状固定の診断を受ける
- 後遺障害診断書を主治医に作成してもらう
- 審査機関に後遺障害診断書など必要書類を提出する
- 後遺障害等級認定の審査が行われる
- 後遺障害等級認定の結果が届く
なお、後遺障害認定は、申請すれば必ず受けられるものではありません。
申請にあたっては、後遺症の程度がわかる適切な資料を用意するといった対策が必要になります。対策が不十分の場合、認定されなかったり、本来認定されうる等級より低い等級になったりすることがあります。
後遺障害認定の申請をする場合は、交通事故事案を扱っている弁護士に相談し、十分な対策をするとよいでしょう。
(5)追突事故でむちうちになったら意識すべきこと
追突事故では、衝撃で頭部が大きく振れた結果、むちうちを発症する方も多いです。
むちうちを負った場合も、これまで紹介してきた「適切な通院頻度を守る」「治療費の打ち切りに注意する」「後遺症が残ったら後遺障害認定を受ける」といった点を意識するとよいでしょう。
とくに、後遺障害認定については注意する必要があります。むちうちは痛みやしびれといった自覚症状のみ生じることも多く、客観的に症状を示すのが難しいこともあるからです。
よって、むちうちになったら、後遺症が残る可能性も考慮し、以下の点に気を付けておくとよいでしょう。
- 治療中に気を付けるポイント
- 後遺障害認定を受けるには治療期間が6か月以上必要
(そのため、症状が続くなら治療費打ち切りを打診されても治療を続ける) - 自覚症状は具体的に生活への影響までもれなく伝える
(「この辺りがしびれる」といった抽象的な内容だと後遺障害認定で不利)
- 後遺障害認定を受けるには治療期間が6か月以上必要
- 後遺障害認定を受ける際に気を付けるポイント
- MRI、CT、レントゲンといった画像検査を受ける
(むちうちでより上位の等級に認定されるには画像検査による証明が必要) - ジャクソンテスト、スパーリングテストといった神経学的検査を受ける
(医師が実施してくれないなら被害者から依頼する)
- MRI、CT、レントゲンといった画像検査を受ける
なお、むちうちの場合は後遺障害12級13号または14級9号に認定される可能性があります。それぞれの認定基準や注意点については下記の関連記事をご覧ください。
追突事故の慰謝料・示談金についてよくある質問
Q1.追突事故の慰謝料・示談金を受け取るまでの流れは?
追突事故の発生から慰謝料・示談金を受け取るまでの流れは、以下のとおりです。
追突事故の流れ
- 追突事故が発生する
- ケガをしている場合、病院で治療を行う(完治したら示談交渉へ)
- 後遺症が残った場合、症状固定後に後遺障害認定の申請を行う
- 示談交渉を行う
- 示談が成立したら慰謝料・示談金を受け取り
- 示談が不成立ならADRや裁判で解決を目指す
なお、示談交渉は、以下の流れで進められます。
示談交渉の流れ
- 加害者側の任意保険会社から、示談金額や過失割合の提示を受ける
- 提示された内容について、交渉する
- 示談が成立したら、加害者側の任意保険会社から示談書が送られてくる
- 示談書に署名・捺印をして返送すると、2週間程度で示談金が振り込まれる
関連記事『交通事故の示談とは?交渉の進め方と注意点、避けるべき行動』では、示談をスムーズに進めるための注意点を紹介しています。あわせてご一読ください。
示談成立前にお金を受け取る方法もある
示談金は基本的に示談成立後に振り込まれます。よって、治療や示談交渉が長引いた場合、経済的な不安を抱えてしまう被害者の方も多いと思われます。
もし、示談成立前に一定の金額を受け取りたいなら、加害者側の自賠責保険会社に「被害者請求」を行うとよいでしょう。
交通事故の示談金は、通常は任意保険会社から一括して支払われますが、その内訳には「自賠責保険会社が支払う分」と「任意保険会社が支払う分」が含まれています。
自賠責保険会社に被害者請求を行えば、この自賠責保険分を先に受け取ることが可能です。自賠責保険分の慰謝料などの金額は法令で定められているため、示談で決める必要がないからです。
被害者請求の手続きの方法は、『交通事故の被害者請求とは?自賠責へ請求すべき?やり方やメリットもわかる』の記事で説明しています。
Q2.追突事故でも過失割合が10:0にならないことがある?
過失割合とは、交通事故が起きた責任が加害者側と被害者側それぞれにどれくらいあるのか、割合で示したものです。
追突事故の場合、基本的に被害者側の過失は0ですが、以下のような場合は被害者側にも過失割合がつく可能性があります。
- 被害車両の急ブレーキにより追突事故が起きた
- 被害車両が灯火義務を怠って停車したことで追突事故が起きた
- 被害車両が正しい場所・方法で駐停車していなかったために追突事故が起きた
被害者にも過失割合が付くと、その分、示談金が減らされてしまうので注意が必要です。
過失割合の決まり方や、追突事故の過失割合については、以下の関連記事をご覧ください。
納得いかない過失割合を提示されたら?
追突事故の過失割合は、基本的に示談交渉で決められます。
もし、加害者側の任意保険会社から納得いかない過失割合を提示されたら、事故状況を証明する資料を用意して反論しましょう。資料の例としては、以下のものがあげられます。
- ドライブレコーダーや現場周辺の防犯カメラ映像
- 警察が作成した実況見分調書
- 目撃者の証言
そもそも加害者側の提示する過失割合が不当なのか確認しておきたい、他にどのような証拠が有効なのか知りたいといった場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
Q3.友人や家族の運転する車に同乗中に追突されたら?
友人や家族の運転する車両に同乗していたとき、追突事故の被害者になってしまうケースもあるでしょう。
同乗者の立場であっても、慰謝料や治療費などの請求は通常どおり可能です。同乗者だからといって請求できる示談金が減ることはありません。
なお、被害車両の運転手にも過失がある場合は、損害賠償請求の相手は加害者と運転手である友人・家族になります。
運転手が友人であり、損害賠償を請求しづらいなら、事故の加害者に全額請求するとよいでしょう。加害者からの支払い後、加害者と友人の間で損害賠償に関する調整がされます。
運転手が家族の場合は、同じ家計となるため損害賠償を請求するメリットは少ないです。また、家族の加入する任意保険からは支払いを受けられません。
なお、以下のような場合では、同乗者の過失が問われたり賠償責任が生じたりする可能性があるので注意してください。
- 安全運転の妨害をした
- 事故車の所有者だった
- 好意同乗とみなされた
(好意により無償で自動車に同乗させることを言うが、一般的には好意同乗が原因の減額は行われない)
同乗者の慰謝料請求について詳しく知りたい方や、好意同乗による慰謝料減額をせまられている方は、以下の関連記事を参考にしてください。
追突事故の慰謝料・示談金については弁護士相談も検討しよう
弁護士への相談・依頼で叶う3つのこと
追突事故の示談金を請求する際は、弁護士への相談・依頼もご検討ください。
弁護士に相談・依頼をすると、次の3つのメリットが得られます。
- 慰謝料・示談金の増額
- 加害者側とのやりとりからの解放
- 専門的なアドバイス
すでに解説した通り、示談交渉で加害者側は低い示談金を提案してきます。十分な金額まで引き上げるためには、弁護士を立てることが重要です。
また、弁護士に示談交渉を任せれば、自分で加害者側とやりとりをする必要がなくなります。追突事故でありがちな、高圧的な言動をとられる、強引に交渉を進められるといったストレスから解放され、日常生活への復帰に集中できるようになるのです。
そして、依頼を受けた弁護士は、より良い示談を目指すパートナーとなります。示談だけではなく後遺障害などについても、法律家の視点からアドバイスを受けられます。より安心して示談成立を迎えられるようになるでしょう。
弁護士の検討に役立つ記事
- 示談金をいくら増額できる見込みがあるかわかる
『損害賠償額計算書や示談書が届いたら示談前にチェック|交通事故の示談金はいくら?』 - 弁護士に相談・依頼するメリットがわかる
『交通事故を弁護士に依頼するメリットと必要な理由|弁護士は何をしてくれる?』
追突事故こそ弁護士費用特約の使いどころ!
弁護士費用特約とは、弁護士に依頼したときにかかる弁護士費用を保険会社が負担してくれる特約のことです。通常、弁護士費用の合計300万円まで、相談料の合計10万円までを負担してもらえます。
被害者の過失なしとなりやすい追突事故こそ、弁護士費用特約の使いどころと言えます。
先述のとおり、被害者の過失がない事故では保険会社の示談代行サービスを使えず、被害者自身で示談交渉を進めなければなりません。そのうえに、被害者側にとって不利な条件を提示され、なかなか増額を認められないことが多いのです。
このような場合、弁護士費用特約を使って弁護士を味方につけることが効果的に働きます。
法律の国家資格と専門知識を持つ弁護士の主張なら、加害者側の任意保険会社もないがしろにはできません。また、弁護士が出てくると任意保険会社は裁判への発展をおそれ、被害者側の主張を受け入れる傾向があります。
なお、弁護士費用特約を使う場合も、保険会社に紹介された弁護士に依頼する必要はありません。むしろ、保険会社に紹介された弁護士は加害者側のサポートの方を得意としていることも多いため、被害者自身でも交通事故に強い弁護士を探すことをおすすめします。
追突事故のようなもらい事故で弁護士費用特約を使うべき理由は、関連記事『もらい事故こそ弁護士特約を使って慰謝料増額!特約のメリットや使い方』で詳しく解説しています。
示談成立後は撤回不可のため「合意前の確認相談」が大切
示談が一度成立すると、原則的に撤回することはできません。
あとから「本来ならもっと多くの慰謝料・示談金を受け取れていたはずなのに…」と知っても、示談金を再度請求しなおすことはできないのです。
交通事故の損害賠償問題のような法的な問題は、「知らない人が損をしてしまう」ことが時としてあります。加害者側の任意保険会社と合意する前に、法律の専門家である弁護士に相談し、示談金が妥当か確認しておきましょう。
アトム法律事務所は、電話・LINEによる弁護士への無料相談を実施しています。
事務所までお越しいただかなくても、自宅から弁護士に相談していただけるのがアトムの無料相談の特徴です。加害者側からの提示額が妥当か知りたい場合や、加害者側とのやりとりでトラブルが生じている場合に、ぜひ気軽にご利用ください。
もちろん、無料相談のみの利用でも問題ありません。依頼を強要するようなことはありませんのでご安心ください。
相談の予約は、24時間年中無休で受け付けています。
まずは電話やLINEで、お気軽にお問い合わせください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了