好意同乗とは何か?同乗者への減額や過失相殺、事故の責任は問われる?
更新日:
交通事故の賠償問題については、相手の任意保険会社の担当者と交渉することがほとんどです。
そこで相手から「好意同乗なので、満額の慰謝料は出せません」「同乗者は運転手と同様に過失相殺されます」など、被害者に理解しづらい言い回しされ、賠償金の支払いを渋られるケースがあります。
しかし、同乗していたことだけを理由に事故の責任を負わされ、慰謝料が減額されることは不適切です。
この記事では、好意同乗とは何か、そして減額や過失相殺をせまられたときの相談先をお伝えするのでお役立てください。
同乗者が知っておくべき好意同乗の基本と過失相殺の有無
交通事故にあった場合、同乗者も損害賠償請求が可能です。
事故相手から「好意同乗なので減額」や「同乗者は運転者と連帯責任だから過失相殺する」などと言われても、難しい言葉でよく意味が分かりにくいでしょう。
まずは好意同乗の意味と、同乗者への過失相殺の有無を整理しておきます。
好意同乗とは他者を無償で同乗させること
好意同乗は無償同乗ともいい、他者を好意(親切)によって無償で乗せることです。「同乗中の事故は、運転手に請求できる賠償額が減額されることがある」という考え方を指す場合もあります。
この減額の考え方は「好意同乗責任減額」ともいわれるものです。「同乗者は運転者の好意により乗せてもらっていたのだから、無償で乗せてくれた運転者への請求額は少なくするべきだ」という考えが始まりといわれています。
しかし、車が一般に普及した現在では、同乗者が安全運転の妨害に関与した場合を除き、好意同乗者というだけで減額となることは基本的にありません。
同乗者は原則として過失相殺されない
他人の車両に単に同乗していただけでは過失相殺の対象にはなりません。
たとえば、友人の運転する車が事故を起こし、事故の過失割合が3:7だったとします。友人に3割の過失がついても、同乗者が同様に3割の過失を負わされることはありません。
もっとも、同乗者が事故発生や損害拡大に寄与したと認められると、過失相殺されて減額となる可能性があります。
どういった場合に同乗者の責任が問われるのかは、続いて詳しく解説するので読み進めてください。
運転者が家族などの場合は同乗者も過失相殺される
家計が同じである家族や兄弟などが運転して事故を起こした場合、同乗者は過失相殺されます。つまり、被害者である同乗者が受けとる賠償は、運転者の過失分、減額されるのです。
たとえば、家族の運転する自動車が交通事故を起こし、過失割合が2:8となったとしましょう。家族についた2割の過失が、同乗者にもつくということです。
事故相手に対して請求するほか、一部は運転者である家族の自賠責保険に請求するような流れが想定されます。
好意同乗を理由に同乗者の慰謝料は減額される?
基本的に、事故車両に単に同乗していただけでは慰謝料を減額されることはありません。また、同乗中の事故であっても請求できる慰謝料や賠償金の計算方法や費目は同じです。
しかし、同乗者にも「事故を引き起こした責任がある」と認められた場合には、慰謝料や損害賠償金は過失相殺によって20%~50%程度減額される可能性があります。
同乗者が事故の責任を負う3つのケース
同乗者が事故の責任を負う主なケースは次の通りです。
- 同乗者が事故発生に寄与した
- 同乗者が事故の損害拡大に寄与した
- 同乗者の車を他人に運転させて事故を起こした(運行供用者責任)
後の判例紹介にもありますが、たとえば、飲酒目的で車両で外出し、実際に飲酒を行ったことを知りながら同乗を続けて事故にあった場合、同乗者にも一定の責任が認められる可能性があります。
もっとも同乗者が負う責任の程度はケースバイケースで、交通事故発生の原因や経緯、同乗者の言動と損害の因果関係についてのくわしい検証が必要です。
なお、運行供用者責任に問われるのかを知りたい方は、『運行供用者責任とは?わかりやすく具体例つきで解説』の記事も併せてお読みください。
好意同乗で賠償金が減額される安全運転の妨害とは何か
運転者の安全運転を妨害し、事故の原因を作ったとして、次のような場合では同乗者への慰謝料が減額される可能性があります。
- 運転者が無免許であることや飲酒していること、非常に疲れていることなどを知りながら、運転をやめさせなかった
- 運転者に加速や信号無視を促した、運転者を驚かせたなど、安全運転の妨げをした場合
- 車の定員を超えていることを知りながら乗車した場合
例としては、上司が部下に長時間の運転をさせていた場合や、同乗者が早くトイレに行きたくて加速を促していた場合が挙げられます。
なお、直接的に加速を促していなくても、高速運転を楽しむ雰囲気づくりに関与していた場合、安全運転を妨害したと判断される可能性があるので注意しましょう。
車内の状況はドライブレコーダーの記録から確認できることもあります。ドライブレコーダーの証拠能力については『ドラレコは警察に提出すべき?過失割合への影響や証拠能力も解説』をご確認ください。
同乗者に刑罰が生じることも
同乗者が運転者の飲酒運転や無免許運転を止めなかった場合、以下の刑罰が生じることもあるので注意しましょう。
飲酒運転
- 運転者が酒気帯び状態
- 呼気検査でアルコール反応が出た状態を指す
- 同乗者の刑罰は3年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 運転者が酒酔い状態
- 呼気検査の結果にかかわらず、アルコールにより安全運転に支障をきたした状態を指す
- 同乗者の刑罰は2年以下の懲役または30万円以下の罰金
無免許運転
- 車を貸した人:3年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 同乗者:2年以下の懲役または30万円以下の罰金
運転者と同乗者で交わした同意書は有効?
運転者が同乗者に対して、万一の事故があった際の補償範囲や金額などの同意書を交わしている場合、その同意書の内容が通る可能性はあります。
しかし、信号無視や飲酒運転など悪質な運転をした場合や重傷を負ったときなど、同乗者の予想を超える過失や損害があったものとして、同意書が意味をなさない場合もあるでしょう。
好意同乗による過失相殺や減額は一部に過ぎず、同意書だけで賠償責任をすべて逃れられるものではありません。
好意同乗による慰謝料減額が争われた判例
好意同乗による慰謝料減額が認められなかったケースと、慰謝料減額がなされたケースの判例を紹介します。
判例から、好意同乗自体を理由として慰謝料は減額されないこと、同乗者として危険を承知していたり、危険に関与・増幅させた場合には慰謝料減額の可能性があるといえるでしょう。
事故発生につき特段の過失や寄与がないとした判例
被害者は、加害者からコンビニへの買い物に誘われて加害車両に同乗しました。タイヤの摩耗した車両は雨でぬれた路面を、時速80kmの速度で走行して道路脇の水銀灯に衝突させたのです。
裁判所は、被害者はタイヤの摩耗状態を知らなかったし、加害者に時速80kmもの速度を出すように指示していないとして、特段の過失や寄与はないとして減額を認めませんでした。(岡山地方裁判所平成11年11月29日判決)
無償同乗自体を理由として減額しないとした判例
4人で休憩を取りつつ交替で深夜のドライブをしていたときの事故でした。
裁判所は、被害者が事故発生の危険が増大する状況をつくったり、事故発生の危険が極めて高いといった客観的事情を知ってあえて同乗したなどの非難すべき事情がない以上、好意同乗の事実だけで損害賠償額を減額することはできないと判断したのです。(東京地方裁判所平成2年7月12日判決)
当初から飲酒目的かつ飲酒後も同乗を続けたとして減額した判例
乗用車が対向車線の普通貨物車に衝突し、同乗していた被害者が受傷しました。
裁判所は、被害者が運転手が無免許であったことや車検証の有効期限などを知らなかったことを指摘しつつ、飲酒目的で乗車したこと、飲酒後も飲酒運転を容認して同乗していたとして、損害の25%を減額したのです。(大阪地方裁判所平成21年3月24日判決)
危険が高い状況を招き、認識のうえ同乗したとして減額した判例
被害者は、加害者を居酒屋へ呼び出して別店舗へ移動して飲酒をしたうえで、さらに遊びに行くために加害者の運転する車両に同乗しました。加害者の居眠り運転により速度超過した状態で衝突事故を起こし、死亡したのです。
裁判所は、自ら交通事故発生の危険性が高い状況を招き、そのような状況にあると認識したうえで同乗し、シートベルト装着義務違反と併せて25%の減額を認めました。(東京地方裁判所平成19年3月30日判決)
弁護士に相談!好意同乗は単なる口実かもしれない
交通事故の被害者は、専門的な知識と豊富な交渉経験をもつ保険会社の担当者を相手に交渉を迫られ、様々な面で不利な立場になりがちです。
また、相手方が提示してくる慰謝料の金額は不十分なことが多く、そのことに被害者が気づきにくいことも問題でしょう。
交通事故の被害にあったら、同乗者であっても弁護士を立てるメリットが多数あります。
適正な慰謝料の獲得は交渉力にかかっている
相手方の任意保険会社は、自賠責基準や任意保険独自の基準で慰謝料を提案してきます。しかし、そうした基準はいずれも低水準で、「弁護士基準」という計算方法には及びません。
事案にもよりますが、同じ交通事故であっても弁護士基準で慰謝料を算定しなおすと、2~3倍も増額される可能性もあります。
相手方がすすんで弁護士基準の金額を提案してくれることはまずありません。弁護士に依頼して交渉を代理してもらい、増額を目指すことになるのです。
以下の自動計算機を使うと、弁護士基準の慰謝料相場が簡単にわかります。
同乗中の事故について誰にいくら請求すべきかを解説した関連記事『事故で同乗者が怪我|慰謝料請求相手と相場は?友達の車に乗っていて事故にあったら?』もあわせてご覧ください。
相手の保険会社の対応は結構めんどくさい
相手の保険会社からの連絡は電話やメールで入ることが多く、それら一つひとつに対応することは非常に面倒でしょう。
「この書類にサインしたら、何か不利なことになってしまわないか」と緊張したり、一生懸命治療しているのに「もう治ったのではないか」などと通院終了を促されたりする可能性もあります。
相手の保険会社との窓口を弁護士に一本化することで、こうしたストレスから解放され、治療や仕事に専念しやすくなるでしょう。
被害者にとって、弁護士に依頼することは多くのメリットがあるのです。
もっとよくわかる関連記事
交通事故の被害者向けに無料相談を実施中
アトム法律事務所では、交通事故でケガをした方を対象に無料法律相談をおこなっています。
同乗者であることを理由に相手の保険会社から慰謝料減額を迫られたり、過失相殺の対象とされていたりする場合は、まずは弁護士に相談してみませんか。
不当な減額であるのか、ある程度は減額されても仕方ないものなのか、弁護士の見解を聞いて方針を立てられます。
法律相談のご予約は24時間365日受け付けているので、お気軽にお問い合わせください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了