好意同乗とは?慰謝料が減額されるケースと減額が争われた裁判例を解説
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好意同乗とは、運転者の好意により無償で車に同乗させてもらうことです。
かつては「無償で乗せてもらったのだから請求額は少なくすべき」という考え方で慰謝料が減額となったケースがありましたが、現在の裁判実務では、単に好意同乗していただけでは慰謝料は減額されません。
減額が認められるのは、運転者の危険な状態を承知して同乗していた場合や、同乗者自身が危険を増幅させた場合などに限られ、該当する場合は20〜50%程度の過失相殺がなされる傾向があります。
この記事では、好意同乗の意味、減額される3つの類型、裁判例、減額を求められたときの対応までを整理します。
目次
好意同乗とは?意味と現在の裁判実務上の扱い
同乗中の事故で相手の保険会社から「好意同乗なので慰謝料は減額します」と言われ、なぜ減額されるのか分からないまま示談を進めてしまうケースがあります。
まずは、好意同乗という言葉の意味と、現在の裁判実務での扱いを整理します。
好意同乗とは他者を無償で同乗させること
好意同乗は運転手の好意(親切)により、無償で車に同乗させてもらうことを言います。たとえば、運転手と知人関係にあり、自宅や駅まで送ってもらうような場合が典型です。
好意同乗自体を理由としては減額しない
「無償で乗せてもらった以上、運転者に対して全額の損害賠償を請求するのは公平でない」という考え方から、かつては好意同乗者からの請求額を減額する裁判例が数多く見られました。これを好意同乗責任減額と呼び、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用するものと整理されています。
しかし、自動車保険が普及して賠償金が保険でまかなわれる仕組みが整った現在の裁判実務では、単に好意同乗していたという事実だけでは原則として減額されません。減額が認められるのは、同乗者に一定の帰責事由がある場合に限られる傾向にあります。
好意同乗者にも自賠法上の「他人性」は認められる
好意同乗で事故にあった同乗者は、運転者に対して自動車損害賠償保障法(自賠責法)3条にもとづく損害賠償請求ができます。
同乗する自動車の運転者との関係では、無償で同乗していたとしても自賠法3条の「他人」にあたると最高裁が判断しているためです(最判昭和42年9月29日)。
ただし、同乗者自身が車両の所有者で運転を交代していたような場合は、運行供用者にあたり「他人」性が否定されることがあります。
好意同乗で慰謝料が減額される3つの類型
裁判例の傾向を踏まえると、好意同乗で慰謝料が減額される可能性があるのは、次の3つの類型に整理できます。該当する場合は、慰謝料を含む損害賠償金が20〜50%程度減額されることがあります。
同乗者が事故の責任を負う3つの類型は次の通りです。
好意同乗で慰謝料が減額される3類型
- 危険承知型(運転者の危険な状態を知って同乗)
- 危険関与・増幅型(同乗者が危険な状況を作り出した)
- 運行供用者型(同乗者が車の所有者・運行支配を有していた)
(1)危険承知型(運転者の危険な状態を知って同乗)
運転者が次のような危険な状態にあると知っていたにもかかわらず、運転をやめさせずに同乗を続けた場合は、減額される可能性があります。
- 飲酒運転と知りながら同乗した
- 無免許運転と知りながら同乗した
- 過労や眠気がある状態と知りながら同乗した
- 薬物の影響下にあると知りながら同乗した
中でも飲酒運転は事故のリスクが深刻で、警察庁の集計によると飲酒運転の死亡事故率は飲酒なしの約6.9倍とされています(警察庁「みんなで守る『飲酒運転を絶対にしない、させない』」)。運転者が飲酒していると気づいた時点で同乗を断ることが、自分自身を守る判断につながります。
(2)危険関与・増幅型(同乗者が危険な状況を作り出した)
同乗者自身の言動が事故発生の危険を増大させたと評価される場合も、減額の対象となります。代表的なのは次のようなケースです。
- 運転者にスピード違反や信号無視をあおった
- 運転者を驚かせる、わざと激昂させるなど運転に干渉した
- 定員超過を知って同乗した
- 窓枠から上半身を出すなど、危険な乗り方をしていた
- シートベルトを着用していなかった
- バイクの後部座席にヘルメットなしで同乗した
直接「もっとスピードを出せ」と言わなくても、車内で高速運転を煽る雰囲気を作っていたと判断されれば、危険を助長したとして減額されることがあります。
車内のやりとりはドライブレコーダーで記録されている場合もあるため、『ドラレコは警察に提出すべき?証拠能力や過失割合への影響も解説』もあわせてご確認ください。
(3)運行供用者型(同乗者が車の所有者・運行支配を有していた)
同乗者自身が車両の所有者で、運転を交代しながら走行していたケースなどでは、同乗者も自賠法3条の運行供用者にあたると評価され、運転者と共同で責任を負う場合があります。
この類型では、もはや「好意で乗せてもらった被害者」ではなく、共同運行供用者として一定の責任を負うため、損害賠償の場面で減額の対象となります。
運行供用者責任の詳細は『運行供用者責任とは?わかりやすく具体例つきで解説』の記事をご覧ください。
家族の車に同乗していた場合の被害者側の過失は?
好意同乗の議論とは別に、同乗者本人に落ち度がなくても、運転者との身分関係を理由に賠償額が減額されるケースがあります。これが「被害者側の過失」の問題です。
夫婦・親子など生計を同じくする家族のケース
夫が運転する車に同乗していた妻が、第三者との衝突事故でケガをした場合を考えます。妻自身に過失はなくても、運転者である夫の過失は、妻が第三者に請求する際に「被害者側の過失」として考慮され、その分だけ減額されるのが一般的です(民法722条2項類推、最判昭和51年3月25日)。
たとえば、過失割合が「夫(同乗車側)2:第三者8」の場合、妻が第三者に請求できるのは賠償額の8割にとどまり、残りの2割は夫が加入する自賠責保険等への被害者請求などで補うかたちになります。
身分関係や家計が別であれば被害者側の過失とならない場合も
同じ親族関係でも、生計や住居が別の場合、被害者側の過失として考慮されないケースもあります。
具体的に「被害者側」とされるかは、身分関係や生活実態を踏まえた個別判断となるため、家族の運転する車での同乗事故では、減額の主張をそのまま受け入れる前に弁護士に確認することをおすすめします。
同乗者と運転者で交わした同意書は有効?
「事故時の損害賠償を請求しない」とする同意書や誓約書を運転者と交わしていた場合、その合意の内容が一定程度尊重される可能性はあります。ただし、合意があれば全責任を免れるというものではありません。
たとえば、運転者の飲酒運転や信号無視のような悪質な運転に起因する事故や、同乗者が予想を超える重傷を負ったようなケースでは、同意書の効力が及ばないと判断され、通常どおりの賠償請求が認められるケースもあります。
書面のやりとりだけで賠償責任の有無を判断するのは難しく、個別事情によって結論が変わる領域です。
好意同乗による慰謝料減額が争われた裁判例
好意同乗による慰謝料減額が認められなかったケースと、慰謝料減額がなされたケースの裁判例を紹介します。
最近の裁判例からは、好意同乗自体を理由として慰謝料は減額されることはなく、同乗者として危険を承知していたり、危険に関与・増幅させた場合に限り慰謝料減額の可能性があるといえるでしょう。
事故発生につき特段の過失や寄与がないとした裁判例
被害者は、加害者からコンビニへの買い物に誘われて加害車両に同乗しました。タイヤの摩耗した車両は雨でぬれた路面を、時速80kmの速度で走行して道路脇の水銀灯に衝突させたのです。
裁判所は、被害者はタイヤの摩耗状態を知らなかったし、加害者に時速80kmもの速度を出すように指示していないとして、特段の過失や寄与はないとして好意同乗減額を否定しました(岡山地方裁判所平成11年11月29日)。
無償同乗自体を理由として減額しないとした裁判例
4人で休憩を取りつつ交替で深夜のドライブをしていたときの事故でした。
裁判所は、被害者が事故発生の危険が増大する状況をつくったり、事故発生の危険が極めて高いといった客観的事情を知ってあえて同乗したなどの非難すべき事情がない以上、好意同乗の事実だけで損害賠償額を減額することはできないと判断したのです(東京地方裁判所平成2年7月12日判決)。
当初から飲酒目的かつ飲酒後も同乗を続けたとして減額した裁判例
乗用車が対向車線の普通貨物車に衝突し、同乗していた被害者が受傷しました。
裁判所は、被害者が運転手が無免許であったことや車検証の有効期限などを知らなかったことを指摘しつつ、飲酒目的で乗車したこと、飲酒後も飲酒運転を容認して同乗していたとして、損害の25%を減額したのです(大阪地方裁判所平成21年3月24日判決)。
危険が高い状況を招き、認識のうえ同乗したとして減額した裁判例
被害者は、加害者を居酒屋へ呼び出して別店舗へ移動して一緒に飲酒をしたうえで、さらに遊びに行くために加害者の運転する車両に同乗しました。加害者の居眠り運転により速度超過した状態で衝突事故を起こし、死亡したのです。
裁判所は、自ら交通事故発生の危険性が高い状況を招き、そのような状況にあると認識したうえで同乗し、シートベルト装着義務違反と併せて25%の減額を認めました(東京地方裁判所平成19年3月30日判決)。
同乗者の慰謝料はどこに請求できるか
好意同乗者として事故にあった場合、相手方車両がいるかどうかや、過失割合の状況によって、請求先や使える保険が変わります。
同乗していた車が一方的に追突された場合
相手車両の追突など、同乗していた車の運転者に過失がない事故では、相手方の自賠責保険・任意保険(対人賠償責任保険)に対して同乗者として損害賠償を請求します。
この場合、相手方の100%の過失で起きた事故であり、同乗していた車側に控除すべき過失がそもそも存在しないため、過失相殺による減額は基本的にされません。
双方に過失がある場合(共同不法行為)
同乗していた車と相手車両のどちらにも過失がある事故では、両方の運転者(およびそれぞれの保険会社)に対して請求できます。
同乗者から見ると、両者は共同不法行為者として連帯責任を負うため、どちらかに全額を請求し、加害者間で過失割合に応じて求償する形になります。
同乗していた車側の自損事故・単独事故の場合
同乗していた車が単独で事故を起こした場合は、その運転者(および車両の保有者)に対して損害賠償を請求することになります。
請求は運転者が加入する自賠責保険と対人賠償責任保険に対して行うのが基本です。
人身傷害保険・搭乗者傷害保険も活用できる
同乗していた車の任意保険に「人身傷害保険」や「搭乗者傷害保険」が付帯されている場合、過失割合にかかわらず保険金が支払われる仕組みになっているため、自分側の過失分や賠償金が支払われるまでの間の補償として活用できます。
同乗者であっても補償対象に含まれているのが一般的ですので、契約内容を確認してみてください。
請求先の具体的な判断は、『事故で同乗者が怪我・むちうち|慰謝料請求先は?友達の車に乗っていて責任を負う?』もあわせてご覧ください。
好意同乗を理由に減額されないために弁護士に相談
交通事故被害者は、専門的な知識と豊富な交渉経験をもつ保険会社の担当者を相手に交渉を迫られ、様々な面で不利な立場になりがちです。
まず、好意同乗で事故が発生して同乗者が負傷した場合に、示談交渉において保険会社は損害額の減額事由に該当する(好意同乗減額すべき)という主張をしてくる可能性があります。
また、相手方が提示してくる慰謝料の金額は不十分なことが多く、そのことに被害者が気づきにくいことも問題でしょう。
そのため、保険会社の主張を鵜呑みにせず、まずは弁護士に相談するべきです。
交通事故の被害にあったら、同乗者であっても弁護士を立てるメリットが多数あります。
慰謝料は弁護士基準で計算するかどうかで大きく変わる
相手方の任意保険会社は、自賠責基準や任意保険独自の基準で慰謝料を提案してきます。しかし、そうした基準はいずれも低水準で、「弁護士基準」という計算方法には及びません。

事案にもよりますが、同じ交通事故であっても弁護士基準で慰謝料を算定しなおすと、2~3倍も増額される可能性もあります。
相手方がすすんで弁護士基準の金額を提案してくれることはまずありません。弁護士に依頼して交渉を代理してもらい、増額を目指すことになるのです。
以下の自動計算機を使うと、弁護士基準の慰謝料相場が簡単にわかります。
同乗中の事故について誰にいくら請求すべきかを解説した関連記事『事故で同乗者が怪我・むちうち|慰謝料請求先は?友達の車に乗っていて責任を負う?』もあわせてご覧ください。
保険会社対応のストレスから解放される
相手の保険会社からの連絡は電話やメールで入ることが多く、それら一つひとつに対応することは大きな負担になります。
「この書類にサインしたら、何か不利なことになってしまわないか」と緊張したり、一生懸命治療しているのに「もう治ったのではないか」などと通院終了を促されたりする可能性もあります。
相手の保険会社との窓口を弁護士に一本化することで、こうしたストレスから解放され、治療や仕事に専念しやすくなるでしょう。

被害者にとって、弁護士に依頼することは多くのメリットがあるのです。
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不当な減額であるのか、一定程度は減額されるのが妥当なのか、弁護士の見解を聞いた上で納得のいく方針を立てられます。
法律相談のご予約は24時間365日受付中ですので、お気軽にお問い合わせください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律税務グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

